前JA秋田ふるさと組合長 小田嶋 契(おだしま ちぎり)さんの投稿ページです。
農業経営のヒント
秋田県農業問題解決研究会小田嶋 契
小泉進次郎・小田嶋契 対談
稲作農業、次の一手
野菜生産の現状と課題
櫂のない船
稲作農業の現状と課題
「稲作農業の現状と課題」の補足
「稲作農業の現状と課題」には、講演等を通じて多くの方々からご意見などがありました。それらご意見をもとに補足させていただきます。
農協で仕事をして実感したことは、米が普通の農産物と同じ弾性値となってきていることでした。つまり、米は普通の農産物であるということです。米が国民にとって大事な農産物だとは思いますが、必需品とは言い難くなってきており、米だけを特別扱いすることに違和感を持ちました。
米の流通上の特徴の一つは産地、銘柄などが無数に存在しそのまま商品になっていることです。生鮮食料品としての性格を持つ一方、工業原料としての側面も持ち合わせています。今後、精米の需要よりもご飯としての需要を中心と位置づけ、川上から川下まで流通の仕組みを変えていく必要があると考えております。
長年、米の消費は減少の一途を辿り、価格においても下落の傾向にあります。
このような環境下において、生産者は販売リスクを認識したうえで、自分の手間ヒマをコスト換算しても、1円でも単価の高い販売先、方法を選択する傾向にあります。直接販売が増えてきたのも、費用を上乗せして販売することにより見かけの販売額が大きくなり、費用削減を自ら行うことで収益確保の努力の成果が見えやすいからだと考えられます。これは生産者のみならず農協も同じだと思っております。
ポートフォリオの視点は、かつて自らが専業農家であり、農協の販売を担当する常勤役員として共同計算を扱った経験から発想したものです。日本の米全体を俯瞰して考えたものではありません。米全体で考えると統制経済的な考え方になり、個の経営を優先する生産者からの共感は得られないのではと思いました。
現行の流通制度の最も大きな問題点は流通における調整弁が無いことだと考えられます。ただ、国が価格政策のために調整弁を作る事は無いとも考えております。食糧不足の時であれば別ですが、米を自主的に作っている現在の環境下で国が価格に関与することはあり得ないのではないでしょうか。価格と切り離して、食糧安全保障の観点から物理的な需給に関した制度になるのではないでしょうか。
そういう観点から、需給調整は民間が主体的に行うべきものと思いますが、川上に近いところから生産者への配分による調整することは不可能と考えられます。
米の価格は農業者の所得に直結してきました。そしてその感覚は農家の記憶からは簡単には無くならないでしょう。経営安定のために販売物の単価を維持できればそれに越したことはないのでしょうが、商品として流通する以上は価格下落のリスクはゼロにはなりません。農家の経営リスク対策は販売物の価格維持ではなく収入保険等の経営安定対策などの制度で行うのが本来でしょう。価格政策が当たり前だと思っている点が解決すべき一番の課題であり、生産現場、農協組織が食管時代の感覚から抜けきることが重要と考えます。
計画生産といっても、予想以上に需要が減少したり、供給が増えたり何が起こるか分かりません。事前契約は予約相対契約でありながら、値崩れ防止の観点ではなく高単価を目論んでいるように思えます。米に関しても、野菜の予約相対取引の考え方が必要と考えます。
需要を読む事や価格を考える事は、最低でもいくらだと荷物が動くか、いくらだと作れるかも一緒に考える事であり、どこまで高く売れるかを優先して生産販売計画を作っているうちは、需要に応じた生産は不可能だと思います。高価格維持を優先していては新たな稲作農業の展望は開けず対策も作れないでしょう。
佛田氏のコメントを読んで
「3.見直しの着眼点
米の産地間競争は抗うことのできない流れになっている。
これまでの流れを見直すためには、価格、需要と生産、消費の減少に対する考えを整理するところから始めなければならない。
価格の上昇は消費の減少と生産量の増加につながり、消費の減少は価格の下落と生産量の減少につながる。このサイクルが繰り返され生産量、消費と価格が縮小してきた。また、需要は自然減だけでなく、昨年以来続いている新型コロナの影響による減少のように想定できない需要の変化もある。
生産者・消費者ともに望ましいことは安定した価格である。安定した価格を形成するためには、需要に応じた生産することが前提であることは否定しない。しかし、産地間競争に伴って多様化している生産・販売環境下において、生産量を配分するといった統制経済的手法が有効で現実的なものであるかは考えなければならない課題である。
むしろ、高齢化した稲作農家が大量にリタイヤする危険性を抱えている生産現場においては、確かな需要を見極めたうえで、安定した生産基盤を作っていく事を優先する必要がある。そして、産地として生き残るためには、いかに需要が減少しても、自分たちの作る米が減少分に含まれないような販路を構築することと、価格低下に対するリスクヘッジの手法を講じることが重要である。」
佛田氏→販売の努力は、整備促進七原則の上に立脚した事業モデルであり、具体的にご指摘の改革を進めるにあたってどのように考え方の整理をすればよいのか。専業農家や農業法人、兼業農家は、もとより、農協経営者に至るまで、腹落ちできるモデルの明示が必要かと考えますが、いかがでしょうか。
※「整促7原則」(予約注文・無条件委託・全利用・計画取引・共同計算・実費主義・現金決済)農協運動を検証する】今後の展望を切り開く 戦後70年 農協を顧みる 2015年10月6日総合JA研究会主宰福間莞爾氏の記事
小田嶋→前述の通り、生産者の様々な取り組みにより流通形態が多様化してきています。組合員の階層分化等に伴い、農協事業に対する組合員のニーズも多様化してきております。
農協の経済事業は整備促進七原則に立脚した事業モデルでありますが、組合員の多様化に適応するため各農協で工夫し独自の進化が見られます。生産者にとって、生産物販売、生産資材調達の唯一のルートであった農協も、今は選択肢の一つとなっております。しかしながら、地域における農協の存在感は大きく、地域農業にとって今も大きな存在であり、重い役割を担っております。
ご指摘の通り農協の役職員が生産者と緊密な意見交換を行い地域の実情に合わせた事業モデルを構築することが重要と考えております。
「(1)現状認識
需要に応じて作付けすべき環境下にあっても、売り先が決まっていないのに作付けしている産地や生産者がいる。その一方で、産地・生産者は玄米を仕入れて玄米のまま販売しているような取引先は実需とは言えないが、そのことに気がつかず自分たちに需要があると実力を過信している産地や生産者も存在している。
需要を確かなものとするために事前契約を進めてはいるが、売り手・買い手双方にリスクがあるため、量については内数の内数で契約されており、価格も明確に決めることができていない。」
佛田氏→需要に対する過信はその通りだと思いますが、過信こそがご指摘にある相対の価格形成の根拠になるのではないか考えますが、いかがでしょうか。
さらに、現物の価格市場を形成することにより、適切な価格形成が可能ではないかという見方もありますが、どのように考えるべきでしょうか。現物市場の価格形成は、先物市場の価格形成の根拠となりえるということだと思います。現在の相対価格形成では、先物市場が成立しにくい環境にあるとの見方もありますが、いかがでしょうか。
小田嶋→「過信こそがご指摘にある相対の価格形成の根拠」ではなく出来秋の価格形成に影響を与えるものと考えております。この部分が先物市場の活用などによって早期に価格が決まるようであれば相対価格の根拠になるのではないかと思います。政府備蓄米、事前契約などは取引きの形態としては先物取引と似ておりますが、事前契約において価格の決定までは至っておりません。事前契約で価格まで決まるようになり、米の先物市場が活発になれば、現物の価格市場が形成されるのではないかと思います。
現在の相対価格形成には出来秋の概算金が大きく影響しております。
ご指摘の「現在の相対価格形成では、先物市場が成立しにくい環境にあるとの見方もあります」というご指摘については「概算金制度のもとでは、先物市場が成立しにくい環境」と考えております。
「(2)リスクに関して
生産販売環境が不安定で先を見通すことが困難な状況下において、経営を維持していくためには様々なリスクを想定しなければならない。
流通経路の多様化によって販売経路別、場所別によって多数のリスクが存在し、生産現場においても近年の天候を顧みると、異常気象を前提とした栽培を考えなければならない。
まず、必要なことは自らが抱えるリスクを洗い出し認識することである。
リスクをすべて排除することは不可能であるが、様々なリスクを想定したうえで目標とする収益を可能とするように効率的な組み合わせ(ポートフォリオ)を構築する必要がある。米の販売は1年1作のものを18か月かけて販売するため、資産運用と似た性格を持っている。そのため、損益のブレを小さくするためには、複数の販売先、銘柄などに分割することでリスクを低減する効果が期待できる。その際には、収益の増加・減少傾向が一致しないものを組み合わせることが重要である。もっとも回避すべきは販売先や銘柄などの一点集中主義である。(図‐6、表‐1)
この考え方は複合経営においても必要と考える。(図‐7、8)」
佛田氏→小倉武一氏が唱えた選択的規模拡大論と金沢夏樹氏が提唱した複合経営論は、国会論戦で選択的規模拡大論に軍配が上がり、構造改善事業を進めるうえで一つの役割を果たした側面はあるものの、一方で、第二次構造改善事業の失敗を招いた手法とも理解でき、結果として、個々の専業経営は、面積の拡大が進んだ水稲大規模経営を除いて、複合経営へ舵を切らざるえなかったとも考えられます。
言い換えれば、水田兼業農家の離農によって、大規模稲作経営が生まれ、水稲探索の規模の拡大が比較的高価格で推移した米価による収益と規模の拡大を成立させていったということです。しかし、規模の経済は、第二次構造改善事業の失敗の理由とされた選択的規模拡大時の価格の下落がトリガーとなっています。
すなわち、ポートフォリオの最適化が構造の変化に先手を打てることが重要かと考えますが、いかがでしょうか。また、その場合、どのようなコメ政策であるべきか、不足払いの品目支持的政策では、すでに限界にきているのではないかと考えますが、いかがでしょうか。
小田嶋→旧基本法の下での構造改善の反省を踏まえて食料・農業・農村基本法において構造政策が作られたものと認識しております。私自身は、旧基本法においては、望ましい農業構造の確立についての視点が無かったこと、価格政策の問題点が構造改善の問題に波及したことなどが失敗の理由ではないかと思料しております。
ご指摘の通り、効率的かつ安定的な経営を目指すためには、常にポートフォリオの最適化を図り、構造の変化に先手をうてることであると私も考えます。
米だけを特別扱いすることを止めることが第一歩であり、価格安定政策から経営安定政策による経営安定を図ることが重要であると考えます。
「4.再び生産現場に戻って思うこと
生産者の高齢化や需給の混乱など不安定な要素は数え切れない。米作りに魅力を見出し作り続けてきた我々生産者は稲作農業の衰退や農地の荒廃を傍観できるのか。主産地として水田をフル活用し、安定した生産基盤を作ることを目指し計画を策定していかなければならない。
現在は、美味しければ多少高くても売れる、不味いものでも安ければ売れるという時代ではなくなっている。相手のいない米価闘争や不毛な産地間競争を続けても何も生み出すことはない。米以外の農産物や他の商品は、販路をきちんと作り、その販売量に応じて生産している。しかし、現在米を巡る環境は、販路を持たないで生産するだけ生産して、売れなかったから何とかしてくれ、という声に振り回されている状態にある。生産量を配分することは、販路のある人の生産を抑制するような行為であり、このことが続けば、伸びる人も伸びることができなくなる。
以上のことから、米の抱える諸課題は、米だけを特別扱いしていることによるものと思料する。」
佛田氏→販路開拓の努力が評価されない、または、そのような活動が行いにくい現在のシステムをどう変えるのか。農協間競争、都道府県間競争は、コメの販売のみならず、補助金などの予算獲得競争を行っているにすぎず、その調整は、農協経営者、系統団体経営者が、秩序の再整理をすべきかと考えますがいかがでしょうか。もちろん、ポスト整備促進七原則の経営モデルを示すことにほかならないと考えますが、いかがでしょうか。
小田嶋→この件にかんしては前述のコメントの中に記述させていただいております。
佛田氏→雑多でたわいもないコメントをお読みいただきありがとうございました。
小田嶋→貴重なご意見を頂きありがとうございました。
“レッサーパンダの二本立ち” に対して2件のコメントがあります。
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現在、70歳(田口農場合同会社、代表)。47歳の時サラリーマンを辞めて百姓に身を投じた。現在20ha程に「あきたこまち」を作付けし全量自分で販売している。個人などに3分の1・卸業者に3分の2の割合である、今後個人販売にシフトしていきたい。
自国の食料は100%自国で賄う政策に早急に変えるべきであると思う(食糧安保)、この政策を実現させるにはまさに政治の出番である。そうすることができれば、農村に人々が集まり生活基盤が作られ、地域の活性化が図られる。若者も集い(最初は半農半Xでもいい)、少子・高齢化も解決できると思う、ぜひ実現したいものであるし、一生涯かけても実現したい。
経営感覚を持った担い手が育ち、農業者の所得が増大したとしても、耕作放棄地が増えて地域の農地が荒れたら何の意味も無いと思います。
農業が発展する事は地域の発展とイコールにならないといけないと思います。
地域の農業を支える人たちの多様性を認める事からすべては始まります。