<新世紀JA研究会>第33回全国現地セミナー(JA常陸現地セミナー)
2026年7月9、10日 開催結果
 全国のJAの役員、幹部職員の情報交換と相互研鑽・政策提言等を目的とする新世紀JA研究会と茨城県JA常陸は7月9、10日、JA常陸で第33回全国現地セミナーを開いた。JA常陸は合併後、場所別・地区別損益の黒字化を軸とした経営改革を断行。地区別責任制を導入し、それぞれ地区の特性を生かした事業を展開している。またオーガニック学校給食の支援、有機米・有機野菜の生産に取り組む。併せて耕作放棄地を活用した枝物生産を軌道に乗せ、CSR(社会的責任)を果たすとともに農業・JAのイメージアップを図っている。
セミナーでは、JA常陸の秋山豊組合長が「JA常陸の10年の歩み」で講演。同地域貢献部担当の小林美雪常務が「地域貢献への挑戦」、それに同奥久慈枝物部会の石川幸太郎会長が「枝物部会による耕作放棄地の解消について」、㈱JA常陸アグリサポートの鈴木秀行社長が「学校給食のオーガニックへの取り組みについて」それぞれ報告し、意見交換した。各報告の要旨は次の通り。

<秋山豊組合長>
▪地区責任制で経営改革
JA常陸は平成26(2014)年、茨城県北部の5JAが広域合併して誕生した。組合員約5万人(うち正組合員2万9000人)で北関東では最大規模のJAだが、中山間地域が3分の2を占め、管内北部は4つの谷で分断され、決して農業に恵まれた地域ではなく、JAは経営的にも多くの課題を抱えていた。
平成30年、組合長に就任して最初の仕事は前年に起きた不祥事のお詫び会見だったが、その後も不祥事が続き、業務改善命令が出された。このため就任後、まず経営改革(構造改革)と、経営管理(ガバナンスの確立)に取り組んだ。
構造改革では場所別・地区別損益の黒字化、支店・直売所の統合、要員・管理費の圧縮、人件費の引き上げ等を図った。不祥事の多発は賃金の安さにあると考え、初任給を2万円、ベースアップ2,000円を2年間、夏冬3か月の賞与を3.5か月に引き上げた。「頑張れば賃金が上がる」と、職員のモチベーションを高めることができた。それ以後不祥事はなくなった。
またガバナンス面では、地区責任制を基本とした経営管理を確立した。事業担当常務が地区担当を兼務し、基幹支店長・営農センター長と共に地区の経営に責任を負う。また人事は地区を基本とした。ただし5%の地区間交流が条件。この結果、3年かけて5地区すべてを黒字化できた。
令和7年度の農産物販売高は約110億円。内訳は直売所が29億円、畜産(肉牛・繫殖牛)30億円、米が31億円、青果9億円、花き・枝物が5億円。いま青果の中では栗、観光果樹園、焼き芋や干し芋用のサツマイモ(紅はるか)が売れている。近年、サツマイモについて、全国的にもとぐされ病が蔓延している。コストはかかるが、堆肥による土づくりなど対策を講じている。長くサツマイモ産地を維持するには有機栽培しかないと考えている。サツマイモ栽培や有機農業について准組合員の関心も高い。こうした組合員にも生産に加えたい。

<小林美雪常務>
▪地域貢献活動で活力
地区の活性化を目的に5地区ごとにテーマを設定し、令和7年、有機栽培による持続可能な農業を推進する「地域貢献部」を新設した。5地区の主な活動を挙げると、ひたちなか地区では有機カンショ(約15㌶)、有機水稲(63㌶)の試験ほ場を設け、有機米として地元小中学校の給食に提供している。
栗産地の笠間地区では栗の自動収穫機械の開発、有機栽培での耕種的防除方法や有機JASに関する資料を作成するなど、多角的な情報発信を展開している。
大宮地区では、学校給食で100%オーガニック化を目指す大宮市と連携して、有機大豆加工品の開発にも取り組んでいる。また、スマート農業に挑戦。アイガモロボットを導入し、有機稲作農家へ貸し出すなどの試験を行っている。
県北中山間地域の大田地区では、県北の市町で企画する「いばらきグリーン・ツーリズム」と連携し、県北市町村や農協観光などとタイアップした農家民泊事業をサポートしている。高萩地区では耕作放棄地の解消として新規作物に花ハスを導入。15㌃で栽培し、今年度から出荷を始める。
このほか、空いた支店の周りに地域と有機農業をつなぐ体験ほ場を設置、さまざまな野菜の有機栽培の体験農場として、有機農業をPRしている。JAの住宅ローンの利用者(准組合員)向けの体験ほ場としても活用している。また今後は、行政との連携をより強化するとともに学校給食を中心とした有機農業の推進を図る。また試験栽培の農家同士のコミュニケーションをはかるため、今年度下期に「有機農業研究会」の設立を予定している。

<JA常陸奥久慈枝物部会・石川幸太郎会長>

▪荒廃地を〝逆手〟に枝物生産
 平成17(2005)年、9名で枝物部会を設立した。56歳のときで、JAを退職するまでに少しずつ植えていたが、当初は誰も見向きもしなかった。それが21年目の今(令和7年度)では部会員153名、栽培面積約80㌶で250種類以上を栽培し、2億5000万円を売り上げる。
 ゼロからスタートして産地化できた要因には5つのキーワードがある。ひとつは周辺に耕作放棄地があったことだ。農家は田畑に永年作物の樹木を植えることには抵抗があるが、耕作放棄地や、特に荒廃農地になるとそれは薄くなる。耕作放棄地があったから枝物産地ができたと考えている。はじめは大きな枝、人の背丈ほどの雑草との闘いだった。この時は地区の人にも手伝ってもらった。部会の栽培面積のうち49㌶(62%)がこうした元耕作放棄地で、他に普通畑が28%、その他が10%となっている。
 2つ目は、定年帰農者が中心になったこと。当初、振り向いてもくれなかった地区の人も、耕作放棄地に桃や柳、桜を植えるとお金になり、「年金+α」の収入が得られることをみて関心が高まった。現在、部会員は67%が60歳以上で、販売額の72%を占める。最近は若手の就農者も部会に入ってくるようになった。
3つ目は関係者の協力。花き市場、JA常陸、行政機関が、栽培・促成処理・出荷等でサポートした。現在25社との取引がある。4つ目はJA、行政の支援と各種の補助事業を積極的に活用したこと。枝物の促成および貯蔵施設等を建設、さらにスマホで簡単に受発注できるシステムを導入した。
そして最後にマスメディアを積極的に活用したことだ。マスコミの関心を引くため「耕作放棄地の解消」を前面に出してPRした。また「花桃を日本一に」のキャッチフレーズに規格の統一、全量の注文販売を徹底した。さらに「高校生生け花バトル」(全国大会・県大会等)への支援、福島県の浪江町復興支援(ヒメリョウブの植え付け)など地域・社会貢献活動を展開してきた。
60歳以上の部会員を対象にしたアンケートによると、96%が「枝物栽培に取り組んでよかった」と回答した。女性や若い部会員も増えている。われわれの世代がリタイアする時に備え5年後ビジョンを確立し、経営の継承できる仕組みづくりを考える必要がある。

<㈱JA常陸アグリサポート>
▪有機農業で農家の範に
鈴木秀行社長
平成14(2002)年、農業支援サービスを目的とする会社として設立した。農作業の受託895㌶、自社農場経営260㌶、育苗センター14か所、ライスセンター19か所で、水稲(慣行栽培149㌶、有機栽培8.5㌶)、ソバ(60㌶)、麦(54㌶)、カンショ(12㌶)、ネギ(2.5㌶)等を栽培している。ほかに有機栽培の大豆、ニンジン、その他野菜などを作っている。従業員は54名。
4年前から常陸大宮市、JA常陸と連携し、有機農業に取り組んだ。市とJAが有機農業を推進する理由は、①学校給食のオーガニック化、②有機農業で培った技術を慣行農業に活かす、③農業生産における自然環境への負荷軽減、④中山間地域における特色ある農業の展開、にある。JAアグリサポートは、これに先駆けて取り組むことで農家の範となることをめざす。
特に「子どもたちに最高の給食を届けたい」という思いは、保護者のオーガニックに対する意識を高め、家庭でも有機農農産物を取り入れる環境づくりにつながっている。また付加価値を高めた有機農業を推進し、中山間地域の農家所得を向上させ、地域におけるの農業の担い手の確保に努める。常陸大宮市では令和7年産米から学校給食100%有機米を達成した。
このように短期間で有機農業を軌道に乗せたポイントは、行政とJAが一体となって取り組み、生産農地、販売先の確保、技術取得や有機JAS認証を取得できたことが大きい。有機農産物は個々の自治体や農家が一定量を安定して確保することは難しい。学校給食のオーガニック化を広めるためにも県全体を広域産地として有機米を生産できる体制を打ち立てる必要がある。   
              ◇◇◇◇

セミナーでは最後に「どんな環境でも生き残れる農業・農協を創ろう!!」の大会アピールを確認した。なお2日目の10日にはサツマイモ「紅はるか」の有機栽培試験ほ場、枝物促成施設、有機栽培水田、JA直売所「かわプラザ」などを視察した。

<大会アピール>
「どんな環境でも生き残れる農業・農協を創ろう!!」
 自然、経済そして国際政治の環境変化が激しい中で、JA間の横の連携を強化し、如何なる環境変化にも対応し、日本の農業・農協を存続させることをここに宣言する。
                 平成8年7月9日 新世紀JA研究会JA常陸大会