『JA突破力の男-貯保を動かす』書評第2弾掲載される!

萬代氏 写真

農業協同組合新聞2021年4月10日号第10面書評欄に「JA突破力の男 貯保を動かす」(宍道太郎著)について、前JAえひめ南組合長黒田義人氏の書評が掲載されました。

「万世のため天下に雄を公告する」。そのような評伝が出版された。萬代宜雄。まことに不思議な符合だ、これは本書主人公の名そのものではないか。「名は体を表す」、言い得て妙なり。読みながら、この傑物の営み跡がそれを証しているような気がしてきた。

萬代宜雄は、島根県JAいずもの第2代組合長、新世紀JA研究会初代会長、県一農協JAしまねの初代組合長として重要課題に挑戦し続け、これを突破し新地平を開拓した人だ。農協界第一級のリーダーである。戦中に生まれ、何と16歳にして家業たる農業を継がねばならなかった。尋常の苦労ではなかったであろう。

しかし彼は試練を乗り越えた。共同養豚を成功裏に終え、個別耕畜複合経営への発展拡大を成就したのだ。 協調連帯と、個としての営為の反復継続が萬代の思想と行動を習慣づけ、固有の人格形成に結実していったのであろう。

萬代の偉大さは、若いころから読書尚友(書物を読んで昔の賢人を友とすること)を旨とし、自己啓発に邁進したことである。封建的因習の対岸にある自主自立ということが口頭の浮草ではなく身についている。「和して同ぜず」が人格の中に根付いているのだ。助け合いの精神も然りである。

こういう基礎の上に、人の心を知り、配慮する心の修練が積み上がったのであろう。「徳は孤ならず」、萬代はその人となりから発する力で友の輪を広げ、地元において農外の事業経営者や政治家としても偉大な実績を残している。この過程で自主自立の精神に磨きをかけ、その経済的基盤確立も成し遂げたという。これらのことが萬代を強い実行力の人たらしめているのである。傑物は一日にしてならずなのだ。

人はやりたいことと、やらねばならないことが一致したとき、膨大なエネルギーの塊となる。萬代はその術を心得ている。真摯に、それゆえに執拗に世のため人のため、時代の警鐘を乱打する。多数の共鳴体が振動し、覚醒の人士が動き出す。その方向性を共にする力、すなわち合ベクトルが壁を突き破ったのである。

かくて県一農協は成就した。オルガナイザー萬代は、全国でも新世紀JA研究会を立ち上げ、研究と農政活動の知行合一体を組織した。用意周到に積極的要請活動を行い、JAバンク支援基金の掛け金凍結、貯金保険制度の掛け金引き下げなど数々のJA支援施策を実現させている。

言葉ではさらりと言えるが、 これは大変な出来事なのだ。抜山蓋世(ばっさんがいせい・山を引き抜くほどの強大な力と世を覆いつくすほどの気力があること)の尽力と讃えたい。 これらのことが全国JAの支出圧縮にどれだけ大きく寄与したか、寄与し続けるかにつて、どれだけの関係者がご存じだろうか。第一義的には農業分野投資の余力保持に寄与することだが、全中の一般社団法人化、公認会計士監査義務化のダメージコントロールにもつながってくる。

本書の著者は自主自立のJA運動を訴え続ける至誠の農協人である。著者は明日のJA運動の糧にしたく、一気に書き下ろしたと言うが、周到に取材した労作である。この一文をお読み下さった全てのみなさまの購読をお薦めする。

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