足立光・西口一希著『アフターコロナのマーケティング戦略-最重要ポイント40』

2020年12月8日、ダイヤモンド社、1,650円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その46

足立光・西口一希著『アフターコロナのマーケティング戦略-最重要ポイント40』

2020年12月8日、ダイヤモンド社、1,650円

タイトルに惹かれて思わず、ポチっと注文してしまいました。コロナに限らずマーケティングの基本を思い起こさせる本でしたよ。

著者は、現在のマーケティング界では有名な方々で蒼々たる実績を上げた方々です。次に略歴を引用しておきます。

「足立光(あだち・ひかる)
株式会廿ファミリーママートエグゼクティブ・ディレクター、チーフー・マーケティング・オフィサー(CMO)、P&Gジャパン株式会社、シュワルツコフヘンケル株式会社社長・会長、株式会社ワールド゙執行役員、日本マクドナルド株式会社上級執行役員・マーケティング本部長、株式会社ナイアンティックシニアディレクタープロダクトマーケティング(APAC)等を経て、2020年10月より現職。日本マクドナルド時代は、同社のV字回復の立役者のひとりとして活躍。
株式会社l-neの社外取締役、M-Force株式会社のパートナー、スマートニュース株式会社や生活協同組合コープさっぼろ等のマーケティング・アドバイザーも兼任。
著書に「圧倒的な成果を生み出す[劇薬]の仕事術」(ダイヤモンド社)、『「300億円赤字」だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密」(WAVE出版)。共著に『世界的優良企業の実例に学ぶ「あなたの知らない」マーケティング大原則』〔朝日新聞出版〕。共訳書に『P&Gウェイ』『マーケティング・ゲーム』(ともに東洋経済新報社)など。 オンラインサロン「無双塾」主宰。

西口一希(にしぐち・かずき)
株式会社Strategy Partners代表取締役、M-Force株式会社共同創業者
1990年P&Cジャパン株式会社に入社し。ブランドマネージャー、マーケティング・ディレクターを歴任し、パンパース、パンテーン、プリングルズ、ヴィダルサスーン等を担当。2006年ロート製薬株式会社に入社、執行役員マーケティング本部長としてスキンケア商品の肌ラボを日本一の化粧水に育成、男性用ボディケアブランドのデ・オウを開発、発売1年で全身洗浄料市場でNo.1に育成。スキンケア、医薬品。目薬など60以上のブランドを担当。2015年ロクシタンジャポン株式会社代表取締役。2016年にロクシタングループ過去最高利益達成に貢献し、アジア人初のグ囗-バルエグゼクティプコミッティメンバーに選出、その後ロクシタン社外取締役戦略顧問。2017年にスマートニュース株式会社へ日本および米国のマーケティング担当執行役員として参画、累計ダウンロード数5,000万、月間使用者数2,000万人、企業評価金額が10億ドル(約1,000億円)を超えるユニコーン化への成長に貢献。2019年9月スマートニュースを退社。株式会社StrategyPartnersの代表取締役として事業戦略・マーケティング戦略のコンサルタント業務および投資活動に従事。戦略調査を軸とするM-Force株式会社を共同創業。
著書に『たった一人の分析から事業は成長する実践顧客起点マーケティング』(翔泳社)。」(奥付より)

いつものように、チンパンジーが注目する箇所を何カ所か引用しておきます。

「これまでの経験から言えるのは、顧客の言うことをただ愚直に聞いて対応するだけでは、新しいものは生み出せないということです。顧客自身が気づいてない、言語化できない潜在的な不満やニーズ、深屑心理の声を探り、そこから具体的的な製品やサービスにつながるアイデア、独自性のある便益を考えていったほうが、イノベーションにつながります。

顧客の声を聞く、というのは無条件によい結果をもたらすものではない。顧客が声にすることができるのは、これまでに経験したことや見たことがあるものであって、まったく新しい製品やサービスに関しては実際に見て体験するまで判断できないからだ。」(第2章顧客理解における誤解、P60)

「WHO、WHAT、HOWをどの順で議論すべきか
マーケティングという言葉は多用されますが、その定義や理解は非常にパラパラであり、口卜本だけでなく世界的に一定ではありません。

できあがった商品を売るための手段手法(HOW)としてのマーケティングもあれば、ドラッカーが定義する「顧客創造」としてのマーケティング、つまり、特定の顧客(WHO)が価値を感じるプロダクトやサービス(WHAT)の開発と組み合わせの洞察から、その実現方法(HOW)を導き、継続的にビジネスを構築する広義のマーケティングもあります。ドラッカーの著書では、マーケティングは営業を不要にするとも定義されています。

スティーブ・ジョブズや、古くはホンダの本田宗一郎さん、ソニーの井深大さんや盛田昭夫さんは、後者を実践されたと言えるのではないかと思います。

どちらが正しいかを論じるつもりはありませんが、いろいろな企業でコンサルティングやアドバイザーをしていて感じるのは、マーケティングは販促活動(HOW)だと位置づけている経営者やCMO(最高マーケティング責任者)が多いことです。製品やサービス、ターゲット顧客や営業体制が固まってから、最後に、売る手段としてのマーケティングを考えればいいと思ってしまうのです。これは経営者だけではなく、マーケティングを担当している人たちでさえ、そう思ってしまっている方が多いです。

しかしながら、コロナの影響で顧客の心理状況が変化している可能性が高い今、一番考えなくてはならないのが、これまでのWHOとWHATの組み合わせ(=顧客戦略)をどうするのか、です。

今後も維持していきたい顧客は誰か、今後獲得したい顧客は誰か。その人たちに今の製品やサービスの提案内容や便益は合っているのか。

WHOとWHΛTの組み合わせを変えるのか、変えないのか。

また、組み合わせはいくつあり、それぞれのビジネスの規模感はどのくらいかなど、考えるべきことはたくさんあります。」(第2章顧客理解における誤解、P70~71)

「社会貢献活動の効果は内向き?
 社会貢献活動が早期に影響を与えるのは、社内においてです。流行に乗ったり、企業イメージの向上目的ではなく、経営の信念として社会貢献や地域貢献を一生懸命にやっていくことは、社内の人や関係者に「白分たちの会社はよい会社だ」と思ってもらうのに非常に有効です。

実際に、社会貢献活動を続けていくうちに、社内の雰囲気が一変した会社を知っています。その会社は以前、社内でうちはいい会社だと誇りを持っている人は誰もいなかったといいます。表向きには、ブランドや製品力が強みだと口にするのですが、実際に顧客に聞いてみると、その会社の製品を買っているのは、接待や旅行、値引きという答えで、会社内では不正が蔓延し、企業イメージを落とすような行為も行われていました。

そこで、こうした状況を変える1つの手段として、この企業では社会貢献活動に力を入れることにしました。当時はまだ目新しかったこともあり、対外的に新たな差別化として訴求する一方で、社内向けにも情報発信を続けました。3年くらい継続すると、他社と違って社会貢献活動を行う会社だという一定の評価が形成され、礼会によいことをしたい、そうできると信じている会社だという意識が社内にも浸透していったのです。

社会貢献活動を価値観として掲げることには異論はないし、この例のように中長期的には社貝のモラル向上などに貢献する叮能性はあります。しかし少なくとも、売上など、わかりやすい短期の対価を求めて、取り組むべきことではありません。」(第3章プランディングの誤解、P108~109)

「論理ではモノは売れない
人がものを買う理由は、楽しい、欲しい、おいしそう、自分にとって便利だ、など本能に基づく欲望がベースにあります。そして、これはコロナ禍が起ころうが起こるまいが、何千年も変わっていません。ましてや、リスクや恐怖への反応から生じた新習慣は長続きしないのです。

今回、コロナ禍で初めてテイクアウトやデリバリーサービスを利用した人は、確かに便利でそれなりに使えると思ったでしょう。ですが同時に、そこそこ高いし、店で食べるのと比べて、そこまでおいしくないことも知ってしまったはずです。もちろん、高級食材を使うなどして、それなりにおいしかったとしても、やはり店で食べたほうが断然安くてうまい。だから、店舗での営業が再開されれば、ある程度は元に戻るでしょう。人の欲望というものは、変わらないのです。

お取り寄せや産地直送で、困っている農家から野菜を買うなどの経験も、コロナの初期に数回は行ったとしても、今でも継続的に買いつづけている人はかなり減ったでしょう。なぜなら、このような社会的事情による「応援購買」は、欲ではなく論理だからです。欲ではなく、頭で考えていることは、なかなか長続きしません。

人間は欲や感情で動く存在です。人の心に何かしらの影響を及ぼして、結果的に行動を変えるには、理屈を説くのではなく、人間の根源的な欲求、人間を突き動かす部分にアプローチすることが不叮欠です。」(第3章プランディングの誤解、P110~111)

「ある製品やサービスについて発信するというのは、マーケティングや広告・宣伝部門「だけ」の仕事だと考えるのは、いまや間違いです。今は、1人1人がソーシャルアカウントを持てる時代です。仮に1人のSNSの友人が100人だとすると、この自分の友だち100人に「この製品・サービスが素晴らしい!」と影響を与えることができれば、社員100人の会社なら1万人にリーチできる計算になります。マーケティングや広告宣伝部に所属していなくても、社員はインフルエッサーとして重要なリソースなのです。

かつて、あるアプリの利川者拡大という課題に取り組んでいた際、1回使った人のうち7割が使いつづけているということに目をつけ、プロジェクトメンバー10人で毎日SNSで投稿したり、食事会に行ってアプリを紹介してダウンロードしてもらう、といった草の根的なやり方を採川したことがあります。これでアプリを体験した7割の人が残ってくれるならば、下手に機能開発や宣伝に資金を投人するよりも、はるかに安くて実効性がある手だと言えるでしょう。

ところで、インフルエンサーの紹介では買わなかった人でも、レコメッデーション機能で紹介されたものを買う経験はしたことがあるかもしれません。アマゾンの星印や食ベログのスコアをみんなが参考にするのは、いろいろな人がいいと言っているのは何かしらの安心する理由になるからです。

ただし、そうした星やスコアが操作的であることも知れわたってきているので、実は一番信帆できるのは身内や親しい友人が勧めてくれる製品やサービスです。その意味では、有名インフルエンサーよりも、身内の人たちや友人のレコメンデーションのほうが圧倒的に強い影響力がある、と言えそうです。」(第4章プロモーションの誤解、P136~137)

「私からの1点目は、とにかく顧客起点で考えてほしいということ。そして、自分とお客様を仕掛ける側と仕掛けられる側に分けないこと。分けて考えると、すぐにどうやって顧客に買わせるかというHOWを考えはじめてしまいます。そうではなく、重要なお客様が誰か(WHO)、そのお客様にとって本当に何が重要な価値や便益か、お客様に何を提供したら喜んでもらえるか(WHAT)を考えないといけません。

そのうえで2点目として、お客様が価値を感じるものを提供したときに、利益が得られる仕組みがつくれるかを考えてほしい。マーケティング予算を使って何かの結果を得たということではなく、最終的に会社全体のコストを見たときに、本当に利益をもたらして、来年も再来年も会社にとって利益をもたらせるか。ここを考えることで、マーケターの視野が広がり、経営視点を学ぶことができます。自分が担当するマーケティングの手法手段=HOWの仕事も超えられるのです。

視点を移動させて初めて「お客様が喜ぶ、会社も喜ぶ、社会も喜ぶ」という近江商人の「三方よし」が成立します。そういうマーケターを目指してほしいと思います。」(アフタートーク コロナ後ここそ、差別化ではなく独自化を目指そう、P244~245)

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