吉村真由美著『流されて生きる生き物たちの生存戦略-驚きの渓流生態系』20 22年12月8日、築地書館

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その73

吉村真由美著『流されて生きる生き物たちの生存戦略-驚きの渓流生態系』20 22年12月8日、築地書館、2,640円

水の中でけなげに生きるもの達を科学者の目で、描いている。予想以上に生物が潜んでいることに驚かされた。気軽に川に入るのがためらわれるかなぁ。

また、福島第一原発事故の影響で、淡水の水産物の出荷制限が長かった理由も明快に解説してある。海の魚は、休内に受動的に塩分が入ってくるのを阻止し、また入ってきた塩分を排除する機能が備わっている一方、淡水の魚には、体内から塩分が流亡するのを防ぎ、淡水からわずかであっても塩分を取りこもうとする機能が備わっているからセシウムを吸収しやすいと説明しています。

著者の略歴は、次の通りです。

「吉村真由美(よしむらまゆみ)

大阪府生まれ。奈良女子大学大学院理学研究科修了、大阪府立大学大学院農学生命科学研究科中途退学、博士(理学)。運輸省にて航空関係の業務に携わったのち、農林水産省入省。森林総合研究所四国支所研究員、国立研究開発法人森林総合研究所企両部研究評価室長を経て、現在は国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所関西支所チーム長。渓流性水生昆虫の生理生態学、森林構造と生物群集との関係解明、放射性セシウム汚染による水生生物への影響、生態系サービスや生物多様性保全に関わる研究などを行っている。」(奥付より)

いつものように、幾つか抜粋しておきます。

「河川法では、河川は一級河川・二級河川・準川河川に分類されます。

 一級河川とは、国土を保全する上でまたは国民の経済を豊かにする上で特に重要と判断された水系のことで国土交通省令により、国土交通大臣が水系ごとに名称・区問を指定しています。全国で109水系が指定されています。一級河川は、国土交通大臣の直轄によって管川を行う河川と、政令によって区間を指定して当該都道府県知事に管理の一部を委任する河川に分けられます。

 二級河川とは、公共の利害重要な関係性のある河川のことであり、一級河川の水系以外の水系の中から、都道府県知事が指定して管理を行っています、。

 一級河川や二級河川以外の河川で、公共性の見地から重要と考えて市町村長が指定するものを、準用河川といいます。河川法で指定されていない小川などを、市町村長が準用河川に指定して管理することもあります。

 どこにも管理されていない場介は、河川法の適用を受けない普通河川として扱われます。国有林内を流れる渓流の管轄は林野庁になりますが(町村有林の渓流は町など)、一般的に、渓流は普通河川になります。」(第1章水の環境と河川、81頁)

「渓流の中で幼虫時代を過ごす多くの水生昆虫は、成虫になると陸上に上がります。一部のカゲロウのように、成虫の期間が数時間しかない昆虫もいますが、一部のカワゲラのように一カ月以上の成虫寿命があるものもいます。成虫の問は、餌場・水場・繁殖の場として渓畔林を利川していますが、一部の水生昆虫は山の上の方まで飛んでいくようです。ヘビトンボのように幼虫の問は渓流内に生息し、終齢幼虫になると陸上に上がってきて、土の中で蛹になるものもいます。」(第2章 流水をいなして生きる生き物たち、107頁)

「渓流につくられる人きな人工構築物として頭に浮かぶのは、砂防ダムでしょう。砂防ダムには、砂防法にもとづいて国士交通省が管轄する砂防堰堤と、森林法にもとづいて林野庁が管轄する治山堰堤(治山ダム)があります。でも、構築物の形はほぽ同じです。管轄の目的が違うだけです。治山堰堤は、河川の勾配を綏くして、保安林を健全に生育させるためにつくられます。一万、砂防堰堤は、森林からもたらされる土砂を貯め、土砂で川底が削られるのを防ぎ、水の流れを遅くするためにつくられます。どちらも土砂が貯まることで、川底が上がって山くずれを帽子でき、川幅が広くなって水の流れを遅くできます。」(第3章 流水に適応する、143頁)

「福島第一原発事故により、日本でも淡水域の放射能汚染が起こりました。海水の塩分濃度が高いため、海水に生息している魚には、休内に受動的に塩分が入ってくるのを阻止し、また入ってきた塩分を排除する機能が備わっています。一方、淡水に含まれている塩分はかなり少ないため、淡水に生息している魚には、体内から塩分が流亡するのを防ぎ、淡水からわずかであっても塩分を取りこもうとする機能が備わっています。そのため、放射性セシウムが存在すると、海水の魚の場合は、人ってくる放射性セシウムを排除し、体内に入ってしまった放射性セシウムもできる限り早く排除しようとします。淡水の魚の場合は、放射性セシウムを受動的に取りこみやすく、いったん休内に入った放射性セシウムの流亡を防ごうとします。つまり、汚染の影響は淡水に生息している魚で長く続くことになります。」(第5章 渓流域における落葉の重要性、190頁)

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