西村聡・山岡美由紀・三ツ星通代著『改訂版「多様な働き方」を実現する役割等級人事制度』令和4年10月1日改訂初版、300頁、日本法令、2,750円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その75

西村聡・山岡美由紀・三ツ星通代著『改訂版「多様な働き方」を実現する役割等級人事制度』令和4年10月1日改訂初版、300頁、日本法令、2,750円

労働生産性の向上に結び付かない人事制度は、あり得ないという点は深く共感できました。最後に、職務分析、職務設計、職務評価、連動した賃金のあり方の具体例が掲載されています。

 JA本体は、既に能力主義人事制度が導入し定着していることから、子会社関係の人事制度の見直しの際に、参考になるものと思いましたよ。

著者の方々の略歴は、次の通りです。

「西村聡(にしむら さとし)

 大学卒業後、大日本スクリーン製造株式会社で管理・企画業務を担当。その後。公益財団法人関西生産性本部に入局し。主任経営コンサルタントとして活動。平成22年6月に独立し、株式会社メディンを設立、代表経営コンサルタント。一般社団法人日本職務分析・評価研究センター代表理事。経済学修士。近畿大学非常勤講師、株式会社日本マンパワーマネジメントコンサルタント、NPO法人企業年金・賃金研究センター上席講師。

 日本経営診断学会、日本労務学会、経営行動科学学会、日本経営工学会、日本経営システム学会正会員、日本労働ペンクラブ会員。

 主として。ビジネスプロセスの構築および変革から経営革新につながる人事制度改革、生産現場革新、業務改革の指導をする。現場を重視した実践的な指導で製造業、小売業から学校、病院まで数多くの業種の現場に立つ。

 平成21年日本経営診断学会第42回全国大会にて診断事例研究報告「成果主義人事制度が従業員意識に与える影響に関する一考察」で優秀賞を受賞。

 著書・論文:「役割等級人事制度導入一構築マニュアル」「賃金コンサルタント養成講座」「人事コンサルタント養成講座」「役割等級人事制度のための賃金設計実務講義」「経営戦略を実現するための目標管理と人事考課制度」「「多様な働き方」を実現する役割等級人事制度」「職種ごとの事例でわかる役割等級人事制度による病院の経営改革」「職務給の法的論点人事コンサルタントによる導入実務をふまえた弁孟士による法律実務Q&A」(以上、日本法令)「賃金の本質と人事革新』(三修社)」「生産革新が組織活性化につながる条件を考える」(日本IE協会)「経営戦略を実現するための人事制度とは」(日本医療企画「医療経営フェイズ3」)雑誌「労働と経済」(労働開発研究会)「ビジネスガイド」(日本法令)にて連載執筆など多数。

山岡美由紀(やまおか みゆき)

 大学在学中に社会保険労務士試験に合格し、社会保険労務士事務所勤務を経て、独立開業。

 日本マンパワー人事コンサルタント養成講座にて役割等級人事制度を学び、人事制度改革、生産現場改革の指導実習を経て、人事コンサルタントとして活動している。

 人事制度改革に活かすため、一般社団法人日本労務研究会の認定診断員として、モラールサーベイ(NRCS)を行う。

三ツ星通代(みつぽし みちよ)

 企業での総務勤務を経て、社会保険労務士みつぽし事務所を開業。特定社会保険労務士、人事コンサルタント。自身の就労経験から企業を支える人の大切さを実感し、従業員が自ら考え自ら行動できる[骨太の組織]を作ることを目指している。

 また。西村聡氏から役割等級人事制度の指導を受け、実践を通じて研鑚を積むとともに、教貝の働き方改革にも注力している。」(著者略歴より)

幾つか抜粋しておきます。

「コロナ前から所得格差の解消を目指した日本型同一労働同一賃金が叫ばれてきたものの、一部派遣社員の平均所得がやや向上しただけで終わっており、非正規雇用労働者、定年再雇用者の処遇格差がどう是正されるかについては今後の判決を待たないと未だに方向性が見えない状況です。むしろ、逆行しているのではないかと思えるほど、資格身分を温存し、年次管理、年功賃金が支給される公務員、そして正社員による王国がさらに強固なものとして築かれているようにすら思えます。

 そこに近年、「ジョブ型」「メンバーシップ型」という二元論的概念が世の中を大混乱させています。そもそも、解雇規制の緩和の議論の中で出現した概念ですが、この中で、欧米の雇用制度(ジョブ型)への批判として、アメリカの制度における解雇を強調したり、また日本の中小企業を見下したような評論家的な論調にうんざりします。

 日本では過去から職務等級制度を導入、運用している企業が少なからず存在し、日本的に職務重視の人事制度を終身雇用の中で実現しています。また、多くの中小企業は、新卒採用が難しく、これまでのキャリアを活かそうとする中途採用者が多く、職務給に適しています。そして、職務等級制度を導入したというだけで解雇が問題になったことはありません。ここが日本であるかぎり、この国の今の判例や労働慣行の上に成り立つ制度でしかなく、全ては日本型にしかなり得ません。そのうえ、組織における職務構造や賃金形態の問題、そして「無限定だから解雇できない」という雇用慣行の問題を混在させた議論は混乱を招くだけです。

一方で、メンバーシップ型を良しとする識者の中には、「解雇が難しいことをメリットとして、日本的、段階的な人材育成方法を活すべし」と説く方がいますが、そもそも戦略に連動した職責を明確にできていない以上、保有能力と職務が連動していないため、どんなに高い能力を養成していても結果を出すことは不可能です。これが職能資格制度やバブル経済崩壊以降に導入された職能給と役割給のハイブリッド型制度が機能しなかった重大な要因であることを未だに気づいていないようです。

 これによく似た議論として、「ジョブ型は成果主義だ」「いや、成果主義でない」という議論についても、理解に苦しみます。これは、成果主義へのヒステリックな反応としか思えないのです。どのような制度であっても仕事とは、戦略的に導かれた職責を果たすことであり、結果を求められているのです。結果とそれを実現する過程(行動)をあわせて成果というのであって、職能資格制度であっても職務遂行能力の保有度だけでなく、業績(成績)評価をしているのはそのためです。しかし、労働生産性が1996年以降、ほぽ向上していないことを考えれば、その結果はすでに証明されています(もっと以前から職務と人事管理に対する考え方が根本的に間違っていたとしかいいようがありません)。

 もう言葉遊びは止めて、日本の労働生産性を上げるために、これまでの日本の雇用管理システムで足りないものは何かを早く気づくべきです。

 ただここで、ジョブ型人事あるいは職務記述書を導入すれば、組織が目指すべき成果が出るという論法はあまりに安直です。職務分析や職務設計についてはほぽ述べることなく、相変わらず容易な職務記述書の作成方法や神学論争的な人材マネジメント論に終始しており、これでは2000年前後に吹き荒れた欧米型人事制度を成果主義として猛反発した議論と同じで、過ちを繰り返すだけです。」(改訂にあたって、1~2頁)

「この事例の会社では、中長期経営計画を策定することなく、経営者の経験と勘を頼りに出店を行い、店舗運営については経験が浅い若い店長に任されていました。その結果、無計画な出店を行い、これによって過大な借金をつくり、さらには、業績不振店の対策不足など、ますます業績を悪化させていました。ということで、まずは中長期経営計画を策定すると同時に、経営者が独断で行っていた立地(物件)探索業務を他の責任者でもできるよう手順を明らかにすることや、出店計画の精度の向上、不振店対策を課題設定しました。ようするに網掛け部分は、基準を策定し計画との差異を管理できるようにしたり、曖昧になっていた業務や差異が出た場合の対策(方法や手順)を明らかにしたりするなど、新たな業務と役割行動を付け加えたことを表しています。」(第2章 多様な働き方を実現するための役割等級人事制度の構築理論、58頁)

「あるべき姿のプロセス展開表が完成すれば、等級別、職種別に役割行動を整理するだけで「役割基準書」ができることはすでに述べたとおりです。この等級数は、プロセス展開表策定過程での議論や役割基準書の内容を見ながら、あらかじめ想定していた役割等級評価基準(初級・中級・上級)に基づいて分類されます。

 しかしながら、想定していた等級数では収まらない役割行動あるいは役割(基準書)ができた場合には、想定していた役割等級評価基準を見直し、等級数を増やすことになります。

 また、あらかじめ役割等級評価基準を作成せず、役割編成後の役割基準書の内容を考慮しながら、役割等級評価基準を作成していくのも1つの方法です。

 いずれにしても、異なる職級(職務の中の技術段階)をもつ役割(製造職、営業職、開発職、事務職など)は、役割群別(現業職、事務・技術職)に評価基準が異なり、これに連動して等級数も異なります。職能資格制度のように。全職種一律の資格等級数でないことに注意が必要です。ましてや、会社の規模(社員数)で等級数を決めることなどは、論外です。」(第2章 多様な働き方を実現するための役割等級人事制度の構築理論、58頁)

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