三橋貴明著『亡国の農協改革-日本の食料安保の解体を許すな』2015年9月、飛鳥新社、1,527円、302頁

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その77

三橋貴明著『亡国の農協改革-日本の食料安保の解体を許すな』2015年9月、飛鳥新社、1,527円、302頁

2015年出版と言えば、あの平成27年の農協法大改悪の年である。タイミング悪く、読む機会がなかったが今回読んでみて、痛快でしたよ。JAに集う人達の大半が拍手喝采するであろうことを、代わりに執筆していただいた感じがしました。

また、日本農業をダメにしたのは、安部農政だと思っていましたが、同様に指摘する箇所が何カ所かあって意を強くしました。

さらに、農業と農協についてお勉強していない規制改革会議を「断じてアメリカの商工会議所の手下などではない。単なる飼い犬だ。手下であれば、まだしもリーダーに異議を申し立てるケースもあるだろう。しかし、飼い犬の場合は、飼い主の言葉に「キャン、キャン」と賛同の意を吠えるだけ。」と、チト下品なまでにこき下ろしたときは、思わず笑いましたよ。規制改革会議や農協改革に嫌気がさしている方々の精神安定剤代わりに一読をお勧めします(笑)。

三橋氏の紹介は、次の通り。

「経世論研究所所長。1969年生まれ。東京都立大学(現・首都大学東京)経済学部卒業。2007年「本当はヤバい!韓国経済」(彩図社)がベストセラーとなって以後、立て続けに話題作を生み出し続けている。データに基づいた経済理論が高い評価を得ており、デフレ脱却のための公共投資推進、反増税、反TPPのリーダー的論客として注目されている。」(奥付より)

いつものように、エッセンスを抜粋しておきます。

「50年後の歴史の教科書には、「2015年に始まった安倍詈三内閣による農協改革が、日本の地域社会と安全保障を崩壊させ、日本国家滅亡への歩みを、後戻りできない形で進ませることになった」と記されるだろう。恐らくは「日本国」のものではない、別の「何かの国」の歴史の教科書に。」(表紙裏より)

「全農の非協同組合化である。もちろん、株式会社化したとしても、当初は株式譲渡制限が付くだろう。とはいえ、規制は次第に緩和されていき、最終的には外資系を含む「誰でも」全農株式会社の株を購人することが可能となる。安倍政権が農協改革と同時並行的に推進する電力サービスにおける発送電分離では、発電部門への新規参入について「外資規制」が存在していないことは先に触れた。全農が株式会社化され、外資制限なしで資本参加(株式購人)が可能になった時、カーギルは果たしてどうするのだろうか?

 ここまで読み進めた上で、安倍政権の農協改革が「亡国には繋がらない」と断言できる人がいたならば、その人は「思考停止状態」といわれても仕方ないのではないか。」(第2章 日本の食料安保の急所、96頁)

「アメリカのノーベル経済学者ジョセフ・E・スティグリッツは、著書『世界の99%を貧困にする経済』において、「アメリカの政治制度は上層の人々に過剰な力を与えてしまっており、彼らはその力で所得再配分の範囲を限定しただけでなく、ゲームのルールを自分たちに都合よく作りあげ、公共セクターから大きな“贈り物”をしぼり取ったからだ。経済学者はこのような活動を“レント・シーキング”と呼ぶ。富を創出する見返りとして収入を得るのではなく、自分たちの努力とは関係なく産み出される富に対して、より大きな分け前にあずかろうとする活動のことだ」と、レント・シーキングについて説明している。

 発送電分離にせよ、農協改革にせよ、需要が増えているわけではない分野に「政府を動かして」新規参入し、既存の所得のパイから一部を奪っていくのは、レント・シーキング以外の何ものでもない。同様のレント・シーキングは、労働規制緩和、混合診療拡大など、他分野でも大々的に推進されている。安倍総理人臣のいう「岩石盤規制の排除」とやらは、基本的にレント・シーキングであり、国民の豊かで安全な生活、すなわち経世済民を破壊する。国民全般ではなく、一部の「ビジネスで儲けたい誰か」のために、各種の「改革」が実施されているというのが現実の日本なのである。しかも、民間議員たちが国会議貝の頭越しに推進しているわけだから、悪質極まりない。」(第3章 農業・農協への「既得権批判」がさらけ出す無知、112~113頁)

「日本の農業所得に占める財政負担の割合は15・6%である。それに対して、アメリカは全体で26・4%、穀物農家に対しては50%前後。欧州に至ってはフランスが90・2%、イギリスが95・2%、スイスが94・5%と、信じがたいほどの高水準になっている。

 お分かりだろうか。欧州の農家が稼ぐ所得の90%超が、税金から支払われているのだ。ほとんど「公務員」と同じである。なぜ、欧州の農業所得に占める財政負担の割合が、90%を超えているのか。理由は筒単で、そうしなければ外国との競争に敗れ、自国の食料安全保障が崩壊してしまうためだ。日本同様に人件費が高く、米豪のように「広大な農地」に恵まれているわけでもない欧州諸国が、農業分野で外国と真っ向から競争すると、生産性の違いから敗北する可能性が濃厚なのである。」(第3章 農業・農協への「既得権批判」がさらけ出す無知、114~115頁)

「地域に欠かせないインフラの一つとなっている農協を、安倍政権の農協改革は最終的には「株式会社化」に追い込むことになる。その結果、地元の農協が、小売りやガソリンスタンドといった赤字事業から撤退すると、地域社会は持続不可能になってしまう。

 これはよく論じられているような、少子化で自治体の数が減っていくという行政の問題ではなく、真の意味での日本の「地域消滅」が、農協改革から始まるという話なのだ。鉄道が消え、医療が消え、郵便局が消え、そして最後の砦たる農協が消えたとき、その地城は日本から消滅することになる。

 地域が一つ、また一つと消えていき、人口が東京圜へと集中していく。日本の神様は意地悪だ。束京圈の人口が絶頂に達した段階で、首都直下型地震が発生することになるだろう。 それでも、東京圏以外に住む人々は首都を救おうとするだろう。とはいえ「地域消滅」が進行している中、もはや日本の各地方は首都を救う経済力を持たず、我が国は再び「亡国」への道を突き進むことになる。繰り返すが、日本の真の意味における「地域消滅」は、安倍政権の農協改革から始まるのだ。」((第3章 農業・農協への「既得権批判」がさらけ出す無知、134頁)

「現実の安倍政権は、瑞穂の国どころか、ウォール街に象徴される一部の投資家、企業家の利益ばかりを追求する「改革」を推進している。派遣労働者の拡大、外国人労働者の受け入れ、社会保障支出の削減、混合診療の解禁、発送電分離、TPP、地域間格差を認める地域創生策、そして農協改革。一体全体、どこが「瑞穂の国」の資本主義なのか。全ての政策が、外国人を含む一部の投資家や企業家といった富裕層を富ませ、国内において、「国民の所得格差」「地域間格差」「企業問格差」と、三つの格差を拡大していくばかりである。2012年に安倍総理人臣が表明した「瑞穂の国」の資本主義構想は、要するにウソだったことになる。

 というわけで、筆者は安倍総理の存命中に資産家になることに成功した場合、総理の故郷(本籍地)山口県油谷町の「棚川」を全て買占め、醜いソーラーパネルで埋め尽くしてやるつもりだ。何しろ、棚田でチマチマと稲作を営むよりも、中国製のソーラーパネルを敷き詰め、FITというレント・シーキングを活用し、電気を強制的に電力会社に買い取らせた方が「儲かる」。総理も書いている通り、棚田におけるコメの栽培は生産性が低く、コメの生産のみでは儲かるはずがないのである。生産性のみを市視するのであれば、棚田など全て破壊し、ソーラーパネルで太陽光発電事業を営んだ方がよほど合理的だ。

次ページは総理の故郷である油谷の棚田と漁火の光景である。まさに、息をのむほど美しい。この美しい、幻想的な棚田が全て「利益」を目的にした醜いソーラーパネルで覆いつくされたとき、安倍総理大臣はいかなる感想を述べるだろうか。」(第4章 協同組合と農協の真実、164~165頁)

「日本の総合農協の経営が盤石であり、利益最大化を目的としない全農などの連合会の組織形態が揺らがないことで、日本国民は「安価で良質な農産物を、安定的に供給される」という恩恵を受けている。すなわち、日本の食料安全保障が辛うじて維持されているのは、総合農協としての単位農協や各連合会のおかげなのだ。

 日本の食料安全保障の根幹である農協を、なぜ今の段階で解体し、株式会社化しなければならないのか。レント・シーカーたちの「利益」を増やす以外に、何か理山があるのだろうか。是非とも教えて頂きたい、安倍者三内閣総理大臣。一人の日本国民として、三橋貴明は心の底から知りたい。」(第4章 協同組合と農協の真実、215頁)

「規制改革会議の意見書を読み、「日本の規制改革会議は、アメリカ商工会議所の手下なのか!」と、慎りを感じた読者は少なくないと思うが、大いなる勘違いだ。日本の規制改革会議は、断じてアメリカの商工会議所の手下などではない。単なる飼い犬だ。手下であれば、まだしもリーダーに異議を申し立てるケースもあるだろう。しかし、飼い犬の場合は、飼い主の言葉に「キャン、キャン」と賛同の意を吠えるだけ。冗談でも何でもなく、日本の規制改革会議はアメリカ商工会議所の飼い犬なのだ。飼い犬は、決して飼い主に逆らわない。

 というわけで、アメリカ商工会議所の飼い犬が、准組合員の農協サービスの利用について代弁(アメリカ商工会議所の意見を代弁、という意味)した途端、日本の各地域の単位農協はパニックに陥ってしまった。何しろ、現在の単位農協の経営は、以下の二本柱により支えられているのである。

・農林中金やJA共済の金融事業(信用事業+共済事業)

・准組合員の農協サービスの利用

 そもそも、日本の単位農協が経済事業に特化した場合、まず赤字になる。というよりも、農協が経済事業を営み、黒字になったとしたら、それは別の誰かが確実に損をしているのだ。別の誰かとは、もちろん一般の消費者たる日本国民である。

 農協が経済事業のみで黒字を出したいならば、JA越前たけふの子会社であるコープ武生が、親会社に人件費や減価償却費を押し付けたような「会計トリック」を使わない限り、販売単価を引き上げる以外にあまり方法がない。」(第5章 亡国の農協改革、232~233頁)

「日本の食料安全保障に責任を持つべき農林水産省が、なぜ農協改革やTPPを率先して推進し、食料「自給力」について無意味な指標を平気で出すまでに落ちぶれてしまったのか。現在の農林水産省は、良く言って「頭が悪い」、悪く言えば「グローバル資本の手下」と化しているように見える。頭が悪かろうが、グローバル資本の手下だろうが、日本国民の食料安全保障を危うくさせていることに変わりはないのだが。

 実は、農林水産省が日本の食料安全保障を脆弱化させる農協改革に邁進しているのは、官僚の人事制度が変わったためなのである。2014年5月に約600人の省庁幹部人事を一元管理する「内閣人事局」が発足し、首相官邸の意向を幹部人事に反映する仕組みに変わったのだ。

 農水省に限らず、官僚の人生の目標は「出世」である。中央官庁であれば、事務次官という事務方トップに就任することこそが、全ての官僚の目標だ。」(第5章 亡国の農協改革、297頁)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA