『官邸の暴走』


「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その20
古賀茂明著、角川新書、2021年6月、1,100円
出版されたばかりの本である。コロナ禍における現在進行形の政治の不可解な点、オリンピックを何故強行するのかなど、興味深い話が盛りだくさん。ただし、読んでいてやはりそうなのかという失望感と日本の将来に対する危機感を煽り立てられ、気分が悪くなります(笑)。著者は経済官僚上がりのジャーナリスト。テレ朝のコメンテーター経験者。官邸の官僚達と総理近辺の人間関係と意思決定過程が面白い。類推半分だろうが、事実に近いと思わせる。
著者の経歴は、「1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部を卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。大臣官房会計課法令審査委員、OECDプリンシパル・アドミニストレーター、産業再生機構執行役員、経済産業政策課長、中小企業庁経営支援部長などを歴任。2008年、国家公務員制度改革推進本部事務局審議官に就任し、急進的改革案を提起。09年末に経済産業省大臣官房付とされるも、10年秋に公務員改革の後退を批判、11年4月には日本初の東京電力破綻処理策を提案。同年9月に退職後は、テレビ朝日「報道ステーション」コメンテーターや政党のアドバイザーなどを務めたのち、各誌コラム・著書・メルマガで提言を続けている。主著に『日本中枢の崩壊」(講談社文庫)、『官僚の責任」(PHP新書)、『国家の暴走』(角川新書)、『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)など。」(表紙裏より)
本の内容は、「安倍政権において「政治主導」の名のもと官邸のもつ権力は異常に強力化した。その結果「付度」にみられる様々な問題を弓は起こし、菅政権ではコロナ禍をはじめとするさまざまな国難に対処できないという事態につながった。官邸では何が起きていたのか、そしていま早急に行うべき具体策とは何なのか。改革の壁である「官邸官僚」の課題を改めて検証し、日本の危機脱出への大胆な改革案を提言する。」(表紙裏「本書の内容」より)
例によって、気になるところを抜粋しておきます。
「官邸官僚には、三つのグループがある。一つは、総理と個人的な絆を持ち、総理から直接、内閣総理大臣秘書官や内閣総理大臣補佐官などのポストに任命された人たちだ。安倍政権では、「総理の分身」と呼ばれた今井尚也総理秘書官(政務)兼総理補佐官、長谷川榮一総理補佐官兼内閣広報官など経済産業省出身者で占められた。今井氏も長谷川氏も、経産省に約30年勤めた私の元同僚で、仕事でかなりよく付き合った仲だ。一方、和泉洋人総理補佐官は、官房長官を務めていた菅氏の右腕で、国土交通省出身である。二つ目のグループは、官僚トップとなる杉田和博官房副長官(事務)兼内閣人事局長、北村滋国家安全保障局長ら、危機管理と公安を担う警察庁出身者たちだ。三つ目のグループは、各省庁からの推薦を経て、総理秘書官、官房長官秘書官などのポストに就く人たちである。
彼ら官邸官僚は本来、政権のサポートをするという役割なのだが、様々な官僚人事に関与したり、各省庁のトップである事務次官や幹部に事実上命令したりと、倣岸不遜と言えるほどの権力を持つに至り、国民からもその存在が注目されるようになった。
官邸官僚の台頭は第2次安倍政権で顕著となり、菅政権でもそれが引き継がれたかと思ったが、その実態はかなり変質しているようにも見える。
安倍氏と菅氏という二人のリーダー、そして「安倍政権四つの負のレガシー」を築き上げ、その後、それを基盤に菅政権を支えようとする官邸官僚たちのキャラクターを、それぞれ端的に表現するなら、安倍氏は「能力の低いペテン師兼パフォーマー」であり、菅氏は「頑固で攻撃的、『改革する自分』に酔う裏方番頭」、官邸官僚は「自己実現のために権力を顕示し暴走する、凄さ・狡さ・怖さ・愚かさを併せ持つ、孤立した存在」である。
このような安倍氏・菅氏・官邸官僚のトリオは、「長い物には巻かれろ」気質で付度する一般官僚たちと、サラリーマン気質でジャーナリズム精神のないマスコミを支配していった。二つ目のレガシーである「マスコミ支配」は、むしろ記者たちが自ら加担して成立したようにも見える。」(序章、P8~9)
「この会見は、安倍氏と官邸官僚らの「国民は馬鹿だ」という一貫した哲学に支えられた戦略だった。赤ちゃんと子どもを連れた日本人のお母さんのパネルを見せれば、国民は馬鹿だから、集団的自衛権に賛成するはずだと考えたのだ。同時に、馬鹿なマスコミも馬鹿な国民に迎合する、という冷徹な読みもあったのだろう。
その前年の9月にブエノスアイレスで行われたIOC総会での、安倍総理の演説と質疑も、全く同じ構図だった。ここでも安倍氏は堂々と大嘘をついた。「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています(The situation is under control)。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」、「汚染水は福島第一原発の0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされています」と、東日本大震災の原発事故について述べた件だ。
こんな大嘘をついても、オリンピックが決まれば、国民は単純だから歓喜し、原発事故のことなんてすべて忘れる。その熱気に水を差すことをためらうマスコミは、汚染水よりもオリンピック騒ぎを大きく報道するはずだ、という安倍氏の読みは、残念ながら見事に当たった。五輪誘致決定直後から、それまで隠蔽されていた汚染水問題が次々と明るみに出たが、マスコミは五輪招致報道を優先し、「大嘘発言」はほとんど追及されなかった。
こうした国民を馬鹿にする基本姿勢は、安倍氏や官邸に一貫していたのである。」(第2章人事権を活用し「戦争のできる国」へと遊進した安倍政権、P60~61)
「菅氏のイメージとして「裏方番頭」と述べたのは、裏方に徹している間は安倍政権を支える屋台骨と見られていたのに、総理という主役になり、 国会といお檜舞台で大見得を切る場面になったとたん、演技能力ゼロのとんでもない大根役者だったことが露呈したからだ。もちろん、朴納な語り口を評価する向きもあるが、菅氏にとって不幸だったのは、コロナ禍という緊急事態に登板したことだ。緊急時に重要なのは、政策立案時の決断力や政策の実行力と並び、痛みを伴う政策について国民に真撃に語りかけ、人々の心をつかんでその協力を得ることである。休業要請や外出自粛などには、国民の協力が何よりも大事だ。しかし菅氏がしゃべると、何を話しても小学生が教科書を棒読みしているようで、人々に心が伝わらない。それどころか、聞いていて反感さえ招くようなパフォーマンスしかできないことが、連日の国会中継で明らかになった。こんな人に一国のリーダー、とりわけコロナ禍の総理という大役を任せることはできないという声が一気に高まったのである。」(第5章 力不足で思考停止の菅政権、P177)
「学校法人「加計学園」による獣医学部新設を巡り、首相だった安倍氏の関与が取り沙汰された。安倍氏は親友の加計学園理事長と一緒に、ゴルフやバーベキ-やレストランに出向き、秘書官ら官僚たちも同席した。それを国会で追及されたとき、安倍氏は、「獣医学部新設の計画は知らなかった」と言ったのだ。
加計学園は国家戦略特区の規制緩和で学部の新設を目指していた。安倍総理は国家戦略特区の責任大臣でもあったのだが、その理事長を「利害関係者とは知らなかった」と強弁した。官僚たちは皆驚いたはずだ。利害関係者とのゴルフが割り勘であってもダメだというのは、この世界では常識だが、そのルールを平気で破ったにもかかわらず、「知らなかったから問題ない」と開き直った安倍氏には何のおとがめもなかった。官僚たちは「ああ、それでいいんだ」と気が緩む。今回、官僚たちが「利害関係者だという認識はなかった」という言い訳をしているのは、まさに安倍総理の言い訳をお手本にしている。」(第6章 菅政権の迷走ーパンケーキを毒見する、P207~208)
「これらの改革を官僚や政治家に任せておいたのでは、おそらくほとんど動かないか、極めて不十分な形でしか進まない。官僚も政治家も、何が起きても、自分たちが困るのは最後の最後だと思っている。政治家には選挙はあるものの、経済が礎織したから国会がなくなるということはない。官僚はさらに選挙すらない。国家が滅亡しない限り失業はない、と安心している。
しかも彼らは、庶民の生活を知らない。コロナ禍で、食べるものも食べられない人がたくさんいると聞いても、それは少しはいるんだろうなと思う程度だ。生理用品が買えないと聞いても、そうか、それは大変だな、で終わりなのだ。政治家は、選挙が近い時期は間題を放置したら選挙で負けると思うので、何でもありのバラマキを行うが、選挙が終わればがらりと変わる。21年11月までに行われる衆議院選挙と22年の参院選が終わると、それから約3年は選挙なしの可能性があるため、そこから先しばらくは、バラマキなどの甘い話は全くなくなるかもしれない。
不公正を正す改革は、国民にわかりにくいものも多い。そういう意味では、最も進めるのが難しい。これをそう進めるのかについて、今すぐ真剣に考えることが必要だ。」(第8章 真の先進国になるための改革、P325~326)
「21年春にはリバウンド必至という状況の中で、Go Toキャンペーンの再開について本気で考えていた菅総理は、二階幹事長や公明党や観光業界、運賃収入が激減したJRのことなどで、頭がいっぱいだった。その後も、ワクチン接種が進み、東京五輪さえ開催できれば、国民の支持が取り戻せると思い込んで、第四波の爆発もものともせず、各地で起きている医療崩壊も目に入らないかのように五輪開催に向けてまい進している。
一方で、時短や休業の要請を受けて苦境に陥っている飲食店を含めた多くの企業に対しての補償については、拡充を検討すると言いながら、抜本的対策は一向に出てこない。仕事を失ったり収入が激減し、住む家がなく、食べるものも買えないという人々にも手を差しのべようとしない。
唯一の希望は、選挙が近いので、人気取りのためにバラマキをやるに違いないという悲しい期待だけである。」(第8章 真の先進国になるための改革、P329)
「仮に安倍氏が総裁選に出れば、麻生氏は安倍氏支持に回る可能性が高い。そうなれば、河野氏出馬のハードルはぐつと上がってしまう。つまり、客観情勢を見て行くと、安倍氏が立候補したら、総裁選最有力候補となる可能性が非常に高いということだ。
恐ろしい話だが、自民党総裁は、国民ではなく、自民党が決めるという厳然たる事実を踏まえれば、その結果として、安倍氏が総理になる可能性も高いということを認めざるを得ない。
2度あることは3度ある。安倍総理が復活し、「I am back!」と意気揚々と国会で演説する日が来るのだろうか。
そして、その時には、今井尚哉総理秘書官も復活する。
さらには、菅氏が官房長官復帰ということまで想像が膨らむ。笑って済ませられる話ではなくなってきた。安倍・菅・今井トリオの大復活だ。」(あとがき、P333)
古賀の本なんか読んでるの⁉️
( ̄▽ ̄;)
雑読雑感で、何でも手当たり次第に読んでます(笑)