官僚と国家-菅義偉「暗黒政権」の正体-

チンパンジー

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その22

古賀茂明・佐高信著、2021年4月、株式会社平凡社、902円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その20で紹介した『官邸の暴走』の著者古賀茂明と佐高信の対談記録である。二人の略歴は、次の通り。この手の政権批判の本ばかり読むと気分が滅入るが、これが現実なのだろう。略歴の後に、例によって印象に残った部分を抜粋しておきます。

古賀茂明(こがしげあき)  1955年長崎県生まれ。東京大学法学部卒業。政治経済評論家。元経済産業省官僚。産業再生機構執行役員、経済産業政策課長、内閣審議官など改革派官僚として活躍。2011年経産省退職後も組織に属さずに独自の視点で言論活動を展開。著書に『日本中枢の崩壊』『日本を壊した霞が関の弱い人たち』など多数。

佐高信(さたかまこと)  1945年山形県生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。評論家。高校教師、経済誌編集長を経て執筆活動に入る。著書に『総理大臣菅義偉の大罪』『田中角栄伝説』『石原莞爾その虚飾』『池田大作と宮本顕治』、共著に『安倍「壊憲」を撃つ』『自民党という病』など多数。

「政治家、官僚、国民は、グー、チョキ、パーの関係にあるといわれる。政治家は有権者の国民に弱く、国民は支配する官僚に弱い。そして官僚は人事権を持つ政治家に弱いというのだが、 このチェ ック・アンド・バランスが正常に働けばである。
私は官僚の力が弱くなると公(パブリック)が失われると思っている。公正さ、公平さがなくなってしまうのである。
私は国鉄の分割・民営化や郵政の民営化に反対だった。国鉄、現在のJRは公共交通を担っている。民営化とはすなわち会社化だが、民営化されて、たとえば過疎地の赤字路線は廃止された。公共の足が失われたのである。
北海道のある町の町長は、「国鉄は赤字だ赤字だと騒ぎたてるが、では、消防署が赤字だと言うか、警察が赤字だと非難するか」と怒ったという。
国鉄の民営化は中曽根康弘、郵政のそれは小泉純一郎が推進した。しかし、経済記者として日本の会社の実態をつぶさに見てきた私は、民営化という名の会社化バンザイとはとても言えない。」(はじめに、P10~11)

「菅義偉について私が一番頭にくるのは、私は隣の山形県の出身だから、菅が秋田出身ということをやたらと出すことなんですょ。首相就任のときには新聞各紙も菅と秋田をめぐるつまらないご祝儀記事を掲載していた。私からすると、菅こそが新自由主義に乗っかって、地方を疲弊させている人間じゃないかと。おまえにだけは、秋田出身と言われたくないという感情があるんです。」(第2章 政治家の劣化と官僚の弱体化、そしてメディアの翼賛化、P90)

「集団的自衛権みたいな難物を実現するときに、安倍さんはやれとは言うけれど、それらすべてを差配してまとめなくてはいけなかったのは菅さんですよ。その際に学者の立場で発言してさんざん邪魔した奴がいる、と。そんな奴を学術会議に入れるのかということを、菅さんは言っていたと思います。」(第4章 官僚主導から政治独裁へ、P154)

「菅氏は自ら無派閥であると喧伝し、従来の派閥政治と決別するかのようなイメージづくりに努めていました。しかし、実際には、自分を二階派のトップとして総理の座に押し上げてくれた恩人の二階俊博自民党幹事長に頭が上がらず、 コロナが蔓延し医療崩壊を引き起こすまでGo Toトラベル事業の停止ができませんでした。観光業界のドンである二階氏の利権に配慮したことは明らかです。」(おわりに、P185)

「民主主義では、国民が政治を動かすはずです。ところが、日本では、「自由で公正な」 選挙を何回やっても自民支配はびくともしません。国民はいつしか、それに憤りを感じるよりも慣れてしまう。あるいは、政治不信を強め、政治から遠ざかる層が増えている感もあります。その裏には、 マスコミが正しい情報を流さないので、国民が正しい判断をできないという事情があります。もちろん、今も心ある記者たちがいるのですが、そうした記者たちはパージされ、あるいは記事の内容に制約が課されています。「有識者」も同じ。学者も学術会議の例を挙げるまでもなく、世論を変える役割を果たそうとしてもつぶされる。結局は、今の政治が惰性で続き、打開の道は見えないという気がしてきます。
この負のループをどこで断ち切るのか。そして、最初に立ち上がるのは、官僚なのか、政治家なのか、 マスコミなのか。あるいは、国民なのか。もちろん、いつかは国民が気づくときが来るはずですが、その時は、少数ではなく、非常に多くの人々の生活が困難に直面してからになるのかもしれません。そうなってからでは、すでに手遅れ。そんな予感がします。」(おわりに、P189~190)

「労働者の賃金が減少したというニュースがコロナのせいだから仕方ないと非常に小さな扱いで終わりました。しかし、安倍政権成立以来、このトレンドは続いています。国民は正しい事実を知らされていません。一方で、株価が30年半ぶりの高値を付けたことを新聞テレビは速報で大々的に流しました。 コロナの先を見据えて景気は上昇を始めたと理解した人も多いでしょう。さらに、先進諸国から大きく遅れたものの、ワクチン接種が始まり、時間さえ経てばコロナは終息するという楽観論も聞かれます。またしても、国民は編されてしまうのでしょうか。
コロナ終息は誰もが待ち望むことですが、 一方で、 コロナ終息で菅政権は息を吹き返す可能性が高い。ポストコロナは諸外国と違い、日本にとっては、明るいものではなく、再びの暗黒時代。そうならないためには、やはり、私たち国民が立ち上がるしかない。これからもそのことを、強く訴え続けていきたいと思います。」(おわりに、P190~191)

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