菅原清暁編著『農業法務のすべて』株式会社民事法研究会、令和3年4月26日、3,500円+税

農業法務のすべて

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その38

法改正が相次いでいるので、現在の農業関係法を整理する良い勉強になりました。チンパンジーが「勉強になった」とか、「知らなかった」とか思ったところを例によって抜粋してあります。農地法の改正内容や食品表示、ドローンの規制などは是非とも目を通しておきたいところですよ。

まず、執筆者について執筆者紹介より抜粋しておきます。編著者の菅原先生は、全農の顧問弁護士です。

「弁護士菅原清暁(すがわらきよあき)所属 松田綜合法律事務所パートナー弁護士、農業関連法務チームリーダー
略歴 2013年~2014年 プライスウォーターハウスクーパース株式会社(現PwCコンサルティング合同会社)法務部出向、2017年~2018年全国農業協同組合連合会法務・リスク管理統括部出向、2018年~現在全国農業協同組合連合会顧問弁護士
業務等 農業・食品関連企業に限らず、東証一部上場会社を含む多くの企業に法務アドバイスをするとともに企業の監査役として社内の視点から企業法務に取り組む。全国共済農業協同組合連合会、各農協の職員・組合員向けセミナー等の講師を多数担当
著書等 『IJA職員のための農業法人支援ハンドブック』(共著・経済法令研究会、2020年)、全国農業新聞連載記事「農家生活の法律相談」(2020年4月~)ほか

弁護士小玉和正(こだまかずまさ)所属 松田綜合法律事務所弁護士
略歴 千葉大学法学部・千葉大学法科大学院卒業

弁理士 野田薫央(のだくにひさ)所属 松田綜合法律事務所、同事務所知財部門のジーベック国際特許事務所
略歴 2011年~現在 日本弁理士会弁理士実務修習講師(意匠)、2013年日本弁理士会著作権委員会委員長、2015年~現在一般社団法人発明推進協会知財専門家」

以下に、チンパンジーが勉強になったところを抜粋しておきます。

「農地法上、「農地」とは耕作の目的に供される土地と定義され、「耕作」とは土地に労費を加え肥培管理を行って作物を栽培することと定義されています。このため、平成30年法律第23号による農地法改正前は、ハウス等の農業用施設の設置のためであったとしても、その底面をコンクリート張りにしてしまうと「農地」に該当しなくなってしまうため、これを行うには事前に農地法の転用許可を受けることが必要とされていました。しかし、平成30年農地法改正により43条および44条が新設され、農業用ハウス等の施設を農地に設置するにあたり底地を全面コンクリート張りにしても、あらかじめ農業委員会へ届け出ることにより、「農作物栽培高度化施設」と認定され、引き続き「農地」として扱えるようになりました。これにより、税制上も農地として扱われることから、固定資産税等税負担が増加する問題もなくなります。
なお、本制度の届出の対象となるのは、平成30年改正農地法の施行日(平成30年11月16日)以降、農地に農作物栽培高度化施設を設置する場合であり、改正法の施行日前に設置された農作物の栽培を行う施設については対象にならず、「農地」には該当しません。
また、農作物栽培高度化施設に認定されたにもかかわらず、長期間にわたって農作物の栽培を行わない場合には、農業委員会から勧告を受けることになります。」(第2章農地にかかわる法務、P12~13)

「改正された原料原産地表示制度では、国内で加工されたすべての加工食品が原料原産地表示の対象となります。その原材料のうち重量の比率が1位となるもの(対象原材料)に原料原産地名を表示する必要があります。なお、従来から原料原産地表示の対象であった22食品群については、重量割合上位1位の原材料が50%以上の場合には、弓は続き上記の従来のルールが適用され、これまで原料原産地名の表示義務がなかった重量割合上位1位で、かつ50%未満の原材料には新しい原料原材料表示の基本ルールが適用されることになります。
原料原産地表示の基本ルールを整理すると、次の①~④のとおりとなります。
① 対象原材料の産地について、現行の表示方法と同様に、国別に重量割合の高いものから順に国名を表示する「国別重量順表示」を原則とする。
② 対象原材料が加工食品の場合は中問加工原材料の「製造地」を表示する。
③ 原産国が3か国以上ある場合は、現行の表示方法と同様、重量割合の高いものから順に国名を表示し、3か国目以降を「その他」と表示することができる。
④ 「国別重量順表示」が難しい場合には、一定の条件の下で、「又は表示」や「大括り表示」の表示を認める。」(第4章農産品の販売にかかわる法務、P88)

「栄養成分表示
食品表示基準では、原則として、すべての一般用加工食品および業務用以外の添加物について栄養成分表示が義務づけられています。業務用加工食品、生鮮食品および業務用添加物については、任意表示とされています。
栄養成分表示について省略等できる場合
一般加工食品や添加物であっても、特別措置として、表示の省略が認められています。一般用加工食品については、次の①~⑦の場合に表示の省略が認められます(添加物については、①③⑤⑦を適用)。
① 容器包装の表示ができる面積がおおむね30c㎡以下であるもの
② 酒類
③ 栄養の供給源としての寄与が小さいと考えられる食品
④ 極めて短い期間で原材料(その配合割合を含む)が変更されるもの(日替わり弁当等、 レシピが3日以内に変更される場合、複数の部位が混在しているためその都度原材料が変わるものなど)
⑤ 消費税法9条1項で消費税を納める義務が免除されている事業者および小規模企業者(おおむね従業員が20人以下。商業・サービス業は5人以下)が販売するもの
⑥ 食品を製造し、または加工した場所で販売する場合
⑦ 不特定または多数の者に対して譲渡(販売を除く)する場合」((第4章農産品の販売にかかわる法務、P98)

「オープン懸賞
新聞、テレビ、雑誌、ウェブサイト等企画内容を広く告知し、商品・サービスの購入や来店を条件とせず、郵便はがき、ファクシミリ、ウェブサイト、電子メール等で申し込むことができ、抽選で金品などが提供される企画を、一般に「オープン懸賞」といいます。
このオープン懸賞で提供できる金品などの最高額は、従来1000万円とされていましたが、平成18年(2006年)4月に規制が撤廃され、現在では、提供できる金品などに具体的な上限額の定めはありません。
景品類の提供方法が、オープン懸賞に該当するのか、一般懸賞・総付懸賞に該当するのかは、とても重要なポイントです。この両者を判別するポイントとしては、次の①②の点があげられます。このようなポイントを押さえることにより、販売事業者は、オープン懸賞で、景品表示法上の規制を考慮せずに高額の景品類を提供することも可能になります。
① オープン懸賞は、商品の購入や来店などの商品・サービスの利用が条件となっていないものをいいます。商品やサービスの利用が条件となっている場合には、オープン懸賞には該当せず、一般懸賞などに該当することになります。
② オープン懸賞は、懸賞により景品類の提供などが行われる必要があります。このため、懸賞によらずに、対象者に漏れなく景品類が提供される場合は、オープン懸賞には該当せず、総付景品に該当することになります。」(第4章農産品の販売にかかわる法務、P109~110)

「労働安全衛生法は、一定の業種については、従業員に対する安全教育に加えて、現場監督者(職長)に対する安全衛生教育の実施も義務づけています(労働安全衛生法60条)。農作業自体は、この教育を実施すべき「一定の業種」には含まれていませんが、「食料品の製造業」は含まれているため、6次産業化に伴い食料品の製造を行っている場合には、その事業所については、現場監督者に対する安全衛生教育を実施する必要があります。また、農作業の事故発生率の高さを考えれば、農業分野においても、現場監督者に対して同水準の教育を実施することが望まれます。
現場監督者に対する教育事項と教育時間については、労働安全衛生法60条、労働安全衛生規則40条1項・2項に具体的に定められています(〔図表33〕参照(省略))。(第5章農業における安全管理、P130)

「ヒヤリ・ハットの重要性は、“災害防止のゴッドファーザー”と呼ばれたアメリカのハーバード・ウィリアム・ハインリッヒの調査によって指摘されました。彼は、5000件以上の労働災害を統計学的に調べ、1件の重大な事故の背景には、29件の軽微な事故があり、300件の「ヒヤリ・ハット事例」があることを突き止めました。この「1:29: 300」をハインリッヒの法則といい、「ヒヤリ・ハット」を分析し、事前の対策と危険の認識を深めていくことで、重大な事故を未然に防止することができるというものです(〔図表35〕参照(省略))。
ところで、「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりする感覚は、必ずしもすべての従業員が同様の感覚をもっているものではありません。たとえば、「水田の畦道(傾斜60度、斜面長さ1.6m)の草刈りをするため、背負い型の刈払機(のこ刃)で草刈り作業を行う」という事例を例にとると、過去に同様の場面でケガをしそうになった経験(自分のヒヤリ・ハット)や同様の場面でケガをした人がいるという話(他人のヒヤリ・ハット)を聞いたことがある従業員は、この作業に潜む危険を予知して「ヒヤリ」と感じ、十分な防具を装着したうえで、慎重に業務を進めるでしょう。しかし、そのような経験が全くない従業員は、この作業に潜む危険を全く予知することができず、何も気にすることなく、業務を進めるでしょう。
このように、全く同じ作業をする場合であっても、その従業員の経験や知識の量によって、ヒヤリ・ハットの感覚は大きく異なります。そこで、安全管理対策としては、すべての従業員が、同一の作業について、同一の危険を予知し、同一の事故防止策を講じることができるようにするために、従業員が感じたヒヤリ・ハット事例を集めて、農業法人の全従業員(あるいは集落営農において農作業に参加した人たち)で共有し、「ヒヤリ」「ハッ」とする感覚を全員の共通の感覚とすることがポイントになります。これが、まさに危険予知能力の育成につながるわけです。」(第5章農業における安全管理、P133~135)

「他方で、農作物の生育に影響を与えることのない屋内外や畜舎などに発生する害虫(ハエ・ゴキブリ・シロアリなど)を駆除するための殺虫剤は農薬には該当しません。
特定農薬
これから説明する農薬取締法の解説の中で何度も「特定農薬」という言葉が登場します。
特定農薬とは明らかに農作物や人畜などに対する危険性が少ないと認められた農薬で、農薬の過剰規制を防ぐために設けられた概念です。特定農薬に指定されると、農薬の登録義務や販売に関する表示義務が免除されます。現在、エチレン、次亜塩素酸水(塩酸または塩化カリウム水溶液を電気分解して得られるものに限られます)、重曹、食酢および天敵(使用場所と採取場所が同一のものに限られます)が、特定農薬として指定されています(農薬取締法第2条第1項の規定に基づく特定農薬(平成15年農林水産省・環境省告示第I号))。
農薬の登録制度
日本国内において農薬を製造・加工、または日本国内に農薬を輸入しようとする場合、当該製造者や輸入者は、特定農薬を除き、当該農薬について農林水産大臣の登録を受けなければならないのが原則です(農薬取締法3条)。
農薬の登録には一定の審査をクリアすることが必要になります(図表38(省略)および農林水産省「3.農薬の登録制度とは」〈URL省略〉参照)。具体的には、農林水産大臣の指示の下、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)が行う当該農薬の薬効、薬害、毒性および残留性、使用範囲、使用方法および使用上の注意等に関する審査をクリアすることが必要になります。審査の結果、申請された農薬が、効果および安全性の面で問題ないと判断されると、農林水産大臣により当該農薬の登録が行われます。農薬の登録に際しては、当該農薬の使用基準(「使用できる作物」や「使用できる時期」、「使用してよい量」など)が設定され、登録票が申請者に交付されます。」(第6章農薬にかかわる法務、P141)

「一般的なドローンは、航空法が規制の対象としている「無人航空機」に該当することから(航空法2条22項)、航空法の規制を遵守しなければなりません。この事例のドローンによる農薬散布は、航空法が原則禁止にしている「無人航空機から物件を投下」すること(同法132条の2第1項10号)に該当します。したがって、まず国土交通大臣の承認が必要になります。
また、散布の対象になっている農薬が可燃性物質や毒物の場合、この事例のドローンによる農薬散布は、航空法が原則禁止にしている危険物の輸送(同法132条の2第1項9号)にも該当する可能性があります。したがって、このような観点からも国土交通大臣の承認が必要になります。
さらに、航空法は、  ドローンを操縦する場合の人および物との距離関係をも規制しています。この相談事例にあるような、農薬を散布する農地の近くに他人の住居がある場合、当該住居との間に直線距離で30m以上の距離を保つ必要があります(同法132条の2第1項7号)。この距離を確保できない場合にも国土交通大臣の承認が必要になります。
上記で説明した航空法のほかにも、農林水産省がドローンによる農薬散布を安全かつ適切に行う際に参考として示している、無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン(以下、「ガイドライン」といいます)もあわせて留意する必要があります(国土交通省航空局「無人航空機(ドローン、ラジコン機等)の安全な飛行のためのガイドライン」、同「無人航空機(ドローン、ラジコン等)の飛行に関するQ&A」農林水産省消費・安全局植物防疫課「無人航空機による農薬等の空中散布に関するQ&A]、農林水産省「無人航空機(無人ヘリコプター等)による農薬等の空中散布に関する情報」〈URL省略〉もあわせて参照)。
航空法によるドローン規制の概要
航空法は制定当初、あくまでも「航空機」つまり「人が乗って航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器をいう」(同法2条1項)に対する規制を念頭においていたことから、航空法には制定当初、ドローンを規制するような規定は存在しませんでした。
しかし、平成27年4月22日に首相官邸にドローンが侵入した事件を契機に、わが国でもドローンに関する規制の重要性が意識されるようになり、同年9月4日に航空法が改正され、ドローンが航空法によって規制されることになりました。
そこで、航空法はドローンを規制するため、新たに「無人航空機」という類型(同法2条22項)を設けて、ドローンによる一定の空域での飛行や特定の方法による飛行を制限しています。
このような航空法のルールに違反すると50万円以下の罰金(以下で説明する飲酒等時の飛行は1年以下の懲役または30万円以下の罰金)が課されることがあるので注意が必要になります。」(第6章農薬にかかわる法務、P144~145)

「労働基準法においては、使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合において少なくとも1時間の休憩時間を労働時間途中に、原則として一斉に与えなければなりません(同法34条1項・2項)。また、使用者は、休憩時間を自由に利用させなければならないとされています(同条3項)。
しかし、農業においては休憩に関する規定が適用されず、労働時間数にかかわらず、労働者に休憩時間を与えずに働かせても差し支えないものとされています。これは、農業は休憩時間を設けなくてもいつでも自由に休憩がとれるため、わざわざ法律で規制する必要がないと考えられたためです。
なお、実情としては、農業は体力を消耗する労働であるため、昼1時間のほかに、午前と午後にそれぞれ休憩時間を設けるなど、他産業並み、もしくはそれ以上の休憩時間を就業規則等で付与しているケースが多いようです。
休日に関する規定
通常、使用者は、労働者に対して、毎週1日以上または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないとされています(労働基準法35条)。
しかし、農業においては労働基準法35条が適用されず、労働者に対して毎週少なくとも1回の休日を与えなくても差し支えありません。これは、農業は農閑期に十分休養をとることができる等の理由から、休日の原則を厳格な罰則をもって適用することは適当でないと考えられたためです。
(中略)
次に、労働時間に関する規定が適用されなくなるのか否かを判断するうえで重要なポイントについて説明します。
農業従事者に該当しない場合がある
労働時間等に関する規定が除外される農業従事者とは、「土地の耕作若し くは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他の農林の事業」(労働基準法別表第1の6)に従事する者とされており,当該事業が具体 的な自然条件に依存し、労働時間規制がなじまないかどうかという労働基準法41条の適用除外の趣旨から判断されると解されています。
このため、たとえば、農業を主とした事業であっても、農業加工業務や農作物の仕入販売業務などについては、その実態次第では、農業従事者には該当せず、労働時間等に関するすべての規定が適用される可能性があります。この場合、当該労働者については、農業従事者と異なり、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払う必要性があります。
事業場(場所)ごとに判断される
労働基準法の適用は、会社単位ではなく事業場単位で考えられます。このため、労働者が農業従事者に該当するか否かの判断も、事業場ごとに判断されることになります。
たとえば、同一事業場で、農産物の生産・加工・販売を行っている場合、事業場の状況次第では、農産物の販売を行っている事業場については「食品販売業を営む事業場」、農作物の加工等の業務を行う事業場については「食料品製造業を営む事業場」と判断される場合があります。これらのようなケースでは、その事業場で働いている労働者は農業従事者に該当しないと判断されるため、原則どおり、労働時間等に関する規定が適用されます。
主たる業務が農業である
ある事業場で働いている労働者が農業従事者といえるか否かは、その事業場において行われている「主たる業務」が何かにより判断されます。
「主たる」とは、労働者数や売上高等から総合的に判断されます。たとえば、当該事業場において、農作物の生産業務を行っている従業員よりも、販売業務を行っている従業員のほうが多い場合には、当該事業場の業種は農業ではなく商業として判断され、当該事業場に働いている従業員全員に労働基準法のすべての規定が適用される可能性があります。」(第7章農業における労務管理、P153~154)

「地域団体商標制度も地理的表示保護制度も「地域名+商品名」等を登録して保護することができます。両制度の登録要件を満たす場合は、両方で登録するか、いずれか一方での登録も可能です。
両制度の主な違いとして、地域団体商標は、一定の周知性や先願商標と類似しないこと等が登録の条件になりますが、地理的表示は、産品の特性と生産地域との結びつきや、確立した特性(おおむね25年以上の生産実績)等が登録の条件になります。また、商標権の侵害に対しては商標権者自身が権利を行使しますが、地理的表示の不正使用に対しては、国が取締りを行います。
地域団体商標制度と地理的表示保護制度の違いの詳細は、〔図表63〕(特許庁「地域団体商標と地理的表示(GI)の活用Q&A」より一部改変(省略))のとおりです。(第10章知的財産の保護にかかわる法務、P223~224)

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