ピーター・M・センゲ著『学習する組織-システム思考で未来を創造する-』2011年6月、英治出版株式会社、3,850円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その54

ピーター・M・センゲ著『学習する組織-システム思考で未来を創造する-』2011年6月、英治出版株式会社、3,850円
以前から時間を見つけて読まなくてはいけないと思いながら、読まないまま気づくと10年が過ぎていた。やっと読み終えたが、難しい本。最後に気候変動対策との関連まで出て来ると、戸惑う。
ピーター・M・セング(Peter M. Senge)の略歴は、次の通り。
「マサチューセッツ工科大字〔MIT)経営大字院上級講師、組織学習協会(SoL)創設者。MITスローン・ビジネススクールの博士課程を修了。旧来の階層的なマネジメント・パラダイムの限界を指摘し。白律的で柔軟に変化しつづける「学習する組織」の理崘を提唱。20世紀のビジネス戦略に最も大きな影響を与えた1人と評される。その活動は理論構築にとどまらず、ビジネス・教育・医療・政府の世界中のりーダーたちとさまざまな分野で協働し、学習コミュニティづくりを通じて組織・社会の課題解決に取り組んでいる。」(奥付より)
いつものように、チンパンジーが気に留めた部分の抜粋。
「私たちがシステムの構造」と言うときには、それが個人の外側にある構造だけを意味するのではないと理解することが非常に重要である。人間のシステムにおける構造の特徴はとらえにくいのだ。なぜなら私たちがその構造の一部だからである。つまり、多くの場合、私たちが、自分がその役割の一部を担っている構造を変える力をもっているということだ。
しかし、たいていの場合、私たちはその力に気づかない。実のところ、私たちはふつう、構造が大きな役割を果たしていることをまったく理解していない。それどころか、気がつくと、ある方法で行動せざるを得ないと感じているのだ。」(第3章 システムの呪縛か、私たち自身の考え方の呪縛か?)
「社員はついこの間まで、「小さく均質な人たちの輪-同じ仕事グループや同じ場所にいる人たちの中で働くことが多かったものですが、今やその輪には、世界中の人々が当たり前に含まれています。より大きな輪には、いろいろな意味で自分たちとは異なるる人たちが含まれているのです。多くの組織の多様性への取り組みには、多様性のビジネス上のメリットを確立することや、人的資源に関するガイドラインや方針を整備すること、多様な人々を雇うことなどがあります。このような素地ができあがると、包含的な職場環境の構築に向けた真の挑戦は、社員一人ひとりに移行します。チームでいっしょに働くのに誰を選ぶのか、私たち全貝が何を選択するのか、そしてこれらの選択が、仕事を成し遂げるうえで必要なものと本当に調和しているかどうかに目を向けなくてはなりません。」(第14章 戦略)
「日本の品質管理の取り組みが軌道に乗った経緯は、学習インフラの重要性を示す説得力のある事例である。1950年代から60年代初めにかけて、W・エドワーズ・デミングやジョセフ・ジュランなどの専門家が、経営上層部に基本原理(指針となる考え方)を教示した。その後、多くの社員が統計的プロセス管理などの基本的なツールで訓練を受けた。だが数年後、トヨタなどの一部の企業は、現場で働く人たちにこれらのツールの訓練を行う必要があること、そして何より重要なことであるが、現場で働く人たちが自らの什事のプロセスを分析し、改善する権限をもつように、彼らの仕事の責任を再定義する必要があることに気づいたのである。このように仕事の責任を移行させなければ、品質管理はいつまでたっても-働いている人自身ではなく-専門家の責任であり、仕事と学習は一本化しなかっただろう。」(第14章 戦略)
「インテルのデイブ・マーシングや、かつてフォードにいたロジャー・サイヤンのような現場のリーダーは、革新的な慣行を日々の仕事に組み入れるためには欠かせない。つまり、システム思考のツールの有効性を検証したり、メンタル・モデルに対処したりすることや、会話を深めたり、社貝の現実に結びつく共有ビジョンを打ち立てたりすること、さらには学習と仕事が一体化する職場環境を創り出すことにおいて欠かぜない存在である。有能な現場のリーダーがいなければ、新しいアイディアは-どんなに魅力的なものであろうと-行動につながらないし、上層部による変革の取り組みの背景にある意図は容易にくじかれるだろう。」(第15章 リーダーの新しい仕事)
「極端な場合、巧みな設計というのはほとんど目に見えないものかもしれない。このことはおよそ2500年前に、老子が雄弁に指摘している。
邪悪な指導者は、人々に罵られる。
善い指導者は、人々に尊敬される。
偉大な指導者は、人々に「これを成し遂げたのはわれわれだ」と言わしめる。」(第15章 リーダーの新しい仕事)
「私はかつて、米海兵隊の大佐に「なぜ、サーバント・リーダーシップは海兵隊で幅広く受け入れられたのですか?」と尋ねた。すると彼はこう答えた。「命の危険にさらされた場合、人は間違いなく、自分たちが信頼し、心底自分かちを満ち足りた気持ちにさせてくれると感じる指揮官にしか従いません。これは戦闘で繰り返し示されていることです」」(第15章 リーダーの新しい仕事)
「哲学者のエリック・ホッファーは、洞察力に富んだ分析を記した著作「大衆運動」(高根正昭訳、紀伊国屋書店、1969年、復刊版2003年)の中で、こう問うている。「献身的な人間と狂信的な人間とを最終的に区別するのは何か」。彼の出した結論は、「必然性」である。狂信的な人間は、自分が正しいと碓信している。ホッファーの定義によれば、「答えがある」と確信して行動する場合は、どのような理由であれ、私たちは必ず狂信的な人間となる。私たちの中に閉じられている部分があり、そこでは白黒はっきりした世界を見ている。一方、真の献身性は、つねに何らかの疑問や不確実性と共存する。その意味では、献身性は、強制ではなく、まさしく選択なのである。」(第15章 リーダーの新しい仕事)