今川直人著『二十一世紀農業改革と農協の農業振興対策』令和4年7月28日、内外出版、214頁1,320円 

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その61

今川直人著『二十一世紀農業改革と農協の農業振興対策』令和4年7月28日、内外出版、214頁1,320円

実に丁寧にここ40年程の農業政策を丁寧にフォローしている。その当時の農業政策の変遷を辿るには最適な本である。その当時、JA全中の農政課長や総務部長を歴任した人ならではの著作である。

ただし、強いて言えば、農協改革についての氏の主張がもっとあっても良いかなと思わされた。

今川氏のプロフィールを次に引用しておきます。

「1944年福島県郡山市生まれ。1966年東京大学農学部卒業。IA全農・原料甘しよ・政府米、自主流通米に携わる。亅A全中・農協法改正、農林予算、農業税制、農産物貿易対策、広報などを担当。(独法)農業者年金基金理事、ベトナム農業省農協政策アドヴァイザー、アジア人材育成(有)校長、チ・ドウック(知徳社)副社長など歴任。2015年より福島県郡山市農業振興アドヴァイザー。

著書 『JAの挑戦一農協は生まれ変わる』毎日新聞・冨民協会、『JAの起業戦略-ニュートレンドを読む』家の光協会、『農協の営農指導』ベトナム農業省ほか」

いつものように、チンパンジーが印象に残ったところを抜粋しておきます。

「経営基盤強化促進法の母体法に集落が制度として登場

 昭和五五(一九八〇)年に農用地利用増進法が制定され、農用地利用増進事業を拡充するとともに、集落の取り決めにより、農用地利用集積の促進、作付地の巣団化等を行う農用地利用改善団体の制度が創設された。

 山梨大学の渡辺靖仁教授によれば、これが集落組織が敗戦後初めて法認されたものであるとのことである(JA共済総研「共済総合研究」二〇二〇・九)。

 集落組織は、農村の混住化、高齢化、過疎化などにより活力を失ってきた。

 なお、一九八九(平成元)年の農用地利用増進法改正で耕作放棄対策が制度化(農業委員会による指導、市町村長による勧告、農地保有合理化法人の買い入れ)され、農業経営基盤強化促進法に受け継がれている。現在は担い手への利用集積のほか、集落による共同管理、飼料増産などに向けた施策が取られている。

農業経営基盤強化法(次項)では「集落営農」が登場する。」(第3章 農地集積政策の歴史~「農業経営基盤強化促進法」前史、27頁)

「国土と人口から日本の農業は将来にわたって集約的農業の一択である。集約的な農業には倣うべき(現に学んでいる)国々がある。

 オランダはカロリーベース自給率が低く金額ベース自給率が高い国である。穀物は輸入し集約的な農業に徹していて、金額ペースの方が高い。カロリーベース自給率は七〇%程度なのに金額ベースでは一八〇%である。農業所得がGDPを押し上げている。

スイスの農業は財政負担が農業所得を上回る政府丸抱えの農業で、カロリー、金額ベースともに五〇%を維持している。国土・自然景観維持のため有機農業を奨励している。農業を保護するというより国が「頼むから農業をやってください」と言っているのである。

近年、政府が推進している農産物輸出拡大とスマート農業はオランダが、また二〇二一年に策定した「緑の食料システム戦略」(二〇五〇年に一〇〇万ヘクタールを有機農業。農薬半減)はスイスやオーストリアをモデルとしている。

 これらの政策とカロリーベースから金額ベースへの転換は発想がつながっているように思われる。」(第2章 食料・農業・農村基本計画、53頁)

「最近、学者グループの共同研究による、農業所得に占める補助金割合が注目を集めている。

 二〇〇六年の時点では農業所得に対して公的助成が占める割合はスイスが九五%、フランスが九〇%、イギリスが九五%であるのに対して日本は一六%であった。

 その後、米価が下がるなどして、相対的に目本の農家所得が減り、若干補助金の割合は上がったがそれでも三〇%程度である。総じてヨーロッパが九〇%、アメリカが四〇%であるから、先進国の中で農業所得に占める公的助成の割合は日本が断然低い。第1篇第一章別記「ガット・ウルグアイ・ラウンド農業交渉合意内容」で、黄色の政策を合計したAMS(助成合計量)の削減が交渉中に実現できたのも当然である。削りようがなかった。

 農産物への関税もEUや他の先進国と比較して非常に低い。上記の実態が、農水省が「農業経営所得安定対策」に取り組んできた背景の一つである。

 なぜ、農業関係者が二のことを消費者に向かって明らかにしないのか。一つには消費者負担が大きいためPSE(生産者支持評価額)が大きい、すなわち、日本の農産物が高いことをわざわざ強調することはないからである。

 もう一つは、なぜ消費者が「高い」国内産を買うのかである。国産の品質(味)と安全性への信頼からである。信頼が維持されている間に競争力強化に努めなければならない。」(第4章 国際規範が各国の政策を決める時代、80~81頁)

「日本はスーパー、コンビニに専門小売店を加えた三業態で五七%(農水省試算)であるが、アメリカはスーパーのみで六四・九%である。

 一方、青果物の仕入れ先はグロワー・シッパー(産地出荷業者)が大規模小売店の仕入れの七一%(小規模小売店では四四%)を占めている。スーパーとホールセールクラブ(会員制倉庫型大規模店舗)は主にグロワー・シッパーから青果物を仕入れていることになる。また、青果物卸売も七七%をグロワー・シッパーから仕入れている。」(第4章 農協改革を支援する諸制度、167頁)

「『大規模経営の一挙的消滅』すなわち法人を含む大規模経営でも、担い手不足などにより経営継承が困難という新たな状況が「新たな」と言えないほどに顕在化してきている。谷口信和氏は農協の農業経営を『最後の担い手から最後の守り手へ』と言って使命の重要性を表している。

(中略)

 余儀なくと言いながら耕作放棄地の防止・解消のような公的機能を進んで担うのも農協である。

 谷口氏ご指摘のとおり、農協による農業経営は地域農業の『担い手』から、担い手育成、農地の維持など機能を果たす『守り手』に性格を変えてきている。

国民食料の安定供給を使命とする公正無私の民間セクターとして、農業経営への取り組みをさらに強めていくことが求められている。」(第10章 日本農業の切り札は農協による農業経営~プロダクト・イン、211~212頁)

今川直人著『二十一世紀農業改革と農協の農業振興対策』令和4年7月28日、内外出版、214頁1,320円 ” に対して2件のコメントがあります。

  1. 今川直人 より:

     肯定的書評を寄せていただき感謝しております。
     本情報に書評を掲載いただいたこともあって、その後「JA経営実務」の自著を語るページへの寄稿を依頼されました(2022年12月号)。訴求点を要約しましたが、第Ⅰ編に次の趣旨を盛り込みました。
    「経営規模は1980年代に1ha,2010 年代に2ha,そして2010年3ha に達し 
    た。近年の拡大が著しいが、今後さらに加速される。2030年に農地は420万ha,経営体数は70万余、6ha、10haが指呼の間…」
     6haと明示して、本文を補強させていただいた次第です。(著者)

    1. 管理人 より:

      おめでとう御座います。読者の高評価を祈念いたします。

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