松永K三蔵著『バリ山行』2024年7月25日、講談社、161頁、1,760円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その143

松永K三蔵著『バリ山行』2024年7月25日、講談社、161頁、1,760円

これも今年の芥川受賞作。昔、山に登っていたこともあって面白く読むことができました。
タイトルの「バリ」の意味は、バリ島とかそういう意味ではなく、「バリエーションルートの略」だとのこと。読み進めていくうちにそういう解説が出てきましたよ。

著者略歴は、次の通り。
「松永K三蔵(まつなが・けI・さんぞう)
1980年生まれ。関西学院大学卒。兵庫県西宮市在住、日々六甲山麓を歩く。2021年「カメオ」で第六四回群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー。同作は「群像」2021年7月号掲載。」(奥付より)

バリの意味を解説している部分を抜粋しておきます。
「会社も人生も山あり谷あり、バリの達人と危険な道行き。圧倒的な生の実感を求め、山と人生とを重ねて瞑走する純文山岳小説。第171回芥川賞受賞。
会社の付き合いを極力避けてきた波多は同僚に誘われるまま六甲山登山に参加。やがて社内登山グループは正式に登山部となり、波多も親睦を図る気楽な活動をするようになっていたが、職場で変人扱いされ孤立している職人気質のベテラン妻鹿があえてルートから外れる危険で難易度の高い「バリ山行」をしていることを知る……。「山は遊びですよ。遊びで死んだら意味ないじゃないですか!本物の危機は山じゃないですよ。街ですよ! 生活ですよ。妻鹿さんはそれから逃げてるだけじゃないですか!」」(帯より)

「山行記録のタイトルのほとんどに「バリ山行」と書かれている。「バリ山行 再度山から西へ」、「バリ山行 水晶谷から杣谷川」、「バリ山行 蛇谷北山南側アタ″ク」。距離は長くても十数キロ。それほど長い山行をしているわけではない。しかし全て単独。大阪や奈良、兵庫県中部の山も混じってはいたが、ほとんどは六甲山だった。ルートと一緒にアップされている何枚かの画像には眺望は僅かで、鬱蒼と繁茂する薮や樹木、白く乾き散乱する朽木、岩が堆積する略間の洞沢、そんな荒涼とした風景ばかりが写っていた。薄灰色、枯草色、。暗緑色。いずれも色彩に乏しく、何かの残滓のように雑然としていた。
 バリつて何ですか? あの時に訊けなかった問いが、私の中で甦った。
 「バリつていうのは、バリエーションルートの略ですよ」
 珍しく現場に出ていた槇さんは昼前に事務所に戻って来て、デオドラントシートで丹念に首筋を拭い、それをまた丁寧に折り畳んで丸い顎の下にあてだ。
 バリエーションルート。バリルート。そんな言い方もするという。通常の登山道でない道を行く。破線ルートと呼ばれる熟練者向きの難易度の高いルートや廃道。そういう道や、そこを行くことを指すという。」

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