経済法令研究会編『JAコンプライアンスコース』2024年3月24日、323頁

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その146

経済法令研究会編『JAコンプライアンスコース』2024年3月24日、323頁

これは、経済法令研究会が行っているJAコンプライアンス3級の認証試験用のテキストです。久しぶりに手に取り、通読しました。共済事業監督指針の改定に合わせて、不必要な共済契約の問答も入っていました。

 面白かったのは、経済事業の部分です。独占禁止法の問答が多かったが、無農薬栽培の問答を抜粋しておきます。信用事業・共済事業のみならず、経済事業の問題も難しいですね。

「(問題)
農薬を使用しないで栽培した野菜を「無農薬栽培野菜」と表示して販売したが、検査の結果、農薬が付着していたことが判明した。
(問題点)
「無農薬」、「無化学肥料」等、消費者が誤解する表示方法は禁止されています。
(解説)
農薬を使用しないで栽培されたものでも、周辺からの農薬の飛来や、農薬散布に用いたタンクをよく洗浄せずに灌水用に使用したこと、直前にくん蒸を行った倉庫に保管したことなど、他の原因で農薬が結果として付着する場合があります。
 近年、消費者の「食の安全・安心」に対する関心の高まりのなかで、農産物の「農薬不使用」「化学肥料不使用等」の表示が一切の残留農薬等を含まないといった誤ったイメージを抱きやすいなどの問題があったことから、特別栽培農産物の表示に関するガイドラインが改正されました。
 農林水産省では、平成4年に、消費者がこれら農産物を購入される際の目安となるよう、生産や表示についてこれら農産物の生産、流通、販売に携わる人たちが守るべき一定の基準を定めるガイドラインを制定しました(「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」)。
このガイドラインは平成15年5月の改正で、環境保全型農業の一層の推進の観点から、たい肥等による土づくりを行うとともに化学合成農薬および化学肥料の双方を5割以上節減したもののみを対象とすることとされましたが、有機農産物JAS規格の生産基準と特別栽培農産物の生産基準との整合性の観点、環境に配慮した技術体系により栽培された農産物である旨の情報が消費者にわかりやすく提供できるようにする観点から平成19年3月にも重要な改正が行われています。
 ガイドラインでいう「特別栽培農産物」(うち米については、とう精されたものを含み、「特別栽培米」という)というのは、その農産物が生産された地域の慣行レベルに比べ、①節減対象農薬の使用回数が50%以下で、かつ②化学肥料の窒素成分が50%以下の要件を満たす栽培方法で生産された農産物をいいます。ここで「節減対象農薬」というのは、化学合成農薬のうち有機農産物のJAS規格において使用可能な農薬を除いたものをいいます。この場合のガイドラインに基づく表示では、「無農薬」、「無化学肥料」といった表示は、消費者が一切の残留農薬等を含まないといった間違ったイメージを抱きやすく、誤認を招くため禁止されており、「減農薬」、「減化学肥料」といった表示は、削減の比較基準、割合および対象(残留農薬なのか使用回数なのか)が不明で、消費者にとって曖昧でわかりにくい表示なので、これらの表示は禁止されています。
 なお、栽培期間中農薬をまったく使用しなかった場合には「農薬:栽培期間中不使用」と、節減対象農薬を使用しなかった場合(節減対象農薬以外の使用可能な農薬のみを使用した場合)には、「節減対象農薬:栽培期間中不使用」と表示することとなります。平成19年改正前は、節減の対象とされていない性フェロモン剤等誘引剤や「その原材料に照らし農作物等、人畜及び水産動植物に害を及ぼすおそれがないことが明らかなものとして農林水産大臣及び環境大臣が指定する農薬」(天敵、食酢、重層)についても、使用した場合には使用した旨の表示をすることとされていましたが、平成19年の改正で表示は任意となりました。
 なお、実際に使用した農薬の一般名、用途、使用回数はセット表示欄に一括表示することになります。なお、セット表示欄での表示が困難な場合にはその他の方法で情報提供することができますが、その場合には情報の入手方法(ホームページのアドレス等)を一括表示欄に記載しなければなりません。また、化学肥料については、窒素成分のみが表示の対象となっています。
 なお、食品表示法4条の規定に基づく「食品、添加物等の規格基準」に基づき、基準値を超える残留農薬等が検出されたものについては、販売等が禁止されています。
留意点:このガイドラインは、法令に基づいて遵守義務を課すものではなく、これら農産物の生産流通販売に携わる人たちが生産や表示のルールに従って自主的に確認・管理し関係者の自発的な行動によって守られるものであり、生産者・消費者双方のニーズに応じて制定されたという趣旨を踏まえ、当該ガイドライン表示の規定に従った表示を行うことが望ましいとされているものです。
 なお、景品表示法5条1項1号では、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる」表示を禁止しています。
〈参照法令等〉
特別栽培農産物に係る表示ガイドライン(制定:平成4年10月4食流3889号、最終改正:平成19年3月18消安14413号)、景品表示法5条、食品表示法4・5条、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示370号)、全農景表法違反事件(措置命令、平成22年12月8日)ほか」(経済事業のケーススタディ ⑥無農薬栽培、247~249頁)

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