キリン

東京大学 鈴木宣弘教授の投稿ページです。

一般財団法人「食料安全保障推進財団」設立のお知らせとご相談
理事長・鈴木宣弘

一般財団法人「食料安全保障推進財団」(以下「財団」)は食料危機から国民を守るための国内生産と消費をつなぐ強力な架け橋をめざして設立されました。

4ショック(コロナ禍、中国の爆買い、ウクライナ紛争、異常気象)に襲われている今、国民の食料やその生産資材の調達への不安は深刻の度合いを強め、私達は、間違いなく食料安全保障の危機に直面しています。今こそ、国内資源循環により、史上最低に落ち込んだ食料自給率を引上げ、安全・安心な食料を量的・質的に国民に確保するための生産から消費までの国民ネットワークの強化が急務となっています。
 しかし、国産の増産こそが急務な今、逆に、コメ、生乳、てん菜などの減産要請に加え、転作への交付金カットが行われ、さらに乳牛を淘汰したらお金を出すといった要請も行われています。しかも、肥料、飼料、燃料などの生産資材コストの急騰下で、国産の農産物価格は低迷したまま、農家は悲鳴を上げています。輸入小麦が高騰していても国産小麦が在庫の山だとの情報もあります。

今こそ、政府だけでなく、加工・流通・小売業界も消費者も、生産者への想いを行動に移していく必要があります。社会全体が支え合わなくては、有事は乗り切れません。国民全体で食料生産を支える機運の共有と具体的行動が不可欠な今、そのための情報提供・理解醸成・意見交換と行動計画策定のためのセミナーの全国展開が急務です。

特に、未組織の一般市民向けのセミナーを全国展開したいのですが、一般市民がセミナーを開催するのには資金問題が開催のネックとなります。そこで、上記の趣旨に賛同いただける個人・組織・企業の皆さんからの財団に資金集積を行い、それを活用して、全国各地でのセミナー開催を支援して実施していきたいと考えております。

特に、地域の食料生産振興の要である農協は、その核となり、生産者と地域住民を結び付け、地域の食と命を守る共同体としての使命を果たすことが期待されています。かねてより各地の農協におじゃまし、農家の皆さんにお話しさせていただいたときに、こういう話を地域住民・消費者の方々に聞いてもらって、わかってもらいたい、との声をお聞きしています。そして、そのために、市民セミナーの開催を農協としても支援したいが、農協という組織規程上の縛りがあるから直接支援できないという嘆きも聞いていました。

こうした状況も踏まえ、生産者の安全・安心な食料生産とそれを支えて地域と日本の食を守る活動に賛同下さる、個人・組織・企業の皆様に広く会員登録をしていただき、その会費を原資に市民セミナーなどを開催し、生産者と消費者の想いをつなぐ「架け橋」をつくろうと考えました。また、財団は下記のような調査研究事業も受託します。会費以外に寄付金も受け付けております。

事業内容 (会員が優先される)

  1. セミナー開催
  2. 全国各地でのセミナー開催企画に支援する。
  3. 財団が主催する無料セミナーを全国各地で開催する。

2. 受託研究 (テーマ事例)

  • 都道府県ごとにおける現段階の貿易自由化による農産物品目別の生産減少額の推定
  • 都道府県ごとの市町村別の10年後の人口とその年齢構成の推計
  • 各都道府県民の農業の多面的機能に対する評価額・支払い意思額の推定
  • 協同組合の共同販売・共同購入が生産者・消費者双方に与えるメリットの「可視化」
  • 食料生産から消費までの安全性トレースの「見える化」システムの開発
  • その他

会費

 個人 1口 1,000円×口数
 任意団体 1口 1万円×口数
 法人 1口 5万円×口数 (できれば2口以上)

寄付 随時

会員登録

氏名(組織名)、住所、会員種別・会費額、(寄付額)、連絡先電話・メール をshokuryouanpo@gmail.com あてにご連絡の上、下記口座にご入金下さい。必要な方には、請求書、領収書を送付いたします。

振込口座

 三菱UFJ銀行 春日町支店 店番号 062 口座番号 普通 1123157

一般財団法人 食料安全保障推進財団 ザイダンホウジン ショクリョウアンゼンホショウスイシンザイダン

問い合わせ先

鈴木宣弘 080-1711-5687

またはメールshokuryouanpo@gmail.com

日本は独立国たりえるか

ウクライナ危機が勃発し、小麦をはじめとする穀物価格、原油価格、化学肥料の原料価格などの高騰が増幅され、最近、顕著になってきた食料やその生産資材の調達への不安に拍車をかけている。

最近顕著になってきたのは、中国などの新興国の食料需要の想定以上の伸びである。コロナ禍からの中国経済回復による需要増だけではとても説明できない。例えば、中国はすでに大豆を1億300万トン輸入しているが、日本が大豆消費量の94%を輸入しているとはいえ、中国の「端数」の300万トンだ。

中国がもう少し買うと言えば、輸出国は日本に大豆を売ってくれなくなるかもしれない。今や、中国などのほうが高い価格で大量に買う力がある。現に、輸入大豆価格と国産価格とは接近してきている。コンテナ船も日本経由を敬遠しつつあり、日本に運んでもらうための海上運賃が高騰している。化学肥料原料のリン酸、カリウムが100%輸入依存で、その調達も困難になりつつある。

一方、「異常」気象が「通常」気象になり、世界的に供給が不安定さを増しており、需給ひっ迫要因が高まって価格が上がりやすくなっている。原油高がその代替品となる穀物のバイオ燃料需要も押し上げ、暴騰を増幅する。国際紛争などの不測の事態は、一気に事態を悪化させるが、ウクライナ危機で今まさにそれが起こってしまった。

お金を出しても買えない事態が現実化している中で、お金で買えることを前提にした「経済安全保障」を議論している場合ではない。貿易自由化を進めて食料は輸入に頼るのが「経済安全保障」かのような議論には、根幹となる長期的・総合的視点が欠落している。国内の食料生産を維持することは、短期的には輸入農産物より高コストであっても、「お金を出しても食料が買えない」不測の事態のコストを考慮すれば、実は、国内生産を維持するほうが長期的なコストは低いのである。

「食料を自給できない人たちは奴隷である」とホセ・マルティ(キューバの著作家、革命家。1853 – 1895年)は述べ、高村光太郎は「食うものだけは自給したい。個人でも、国家でも、これなくして真の独立はない」と言った。

はたして、2020年度の食料自給率が37.17%(カロリーベース)と、1965年の統計開始以降の最低を更新した日本は独立国といえるのかが今こそ問われている。不測の事態に国民を守れるかどうかが独立国の使命である。

子供たちを守る

戦後の米国による「占領政策」で日本人の胃袋にコメでなくパンを押し込むための学校給食などを通じた「子どもにはパンを」という日本の学者やメディアも総動員した洗脳政策は「世界でこんな短期間に伝統的食文化を変えた国民はいない」と評価されるほどのすさまじさと大成功だった。

そして、パン食を学校給食でねじ込もうとしたあのときから60年以上を経た今、こんどは、ゲノム編集トマトについても子供たちをターゲットにした「啓蒙普及」が開始されている。我々の税金も投入されて開発されたゲノム編集作物が子供たちから浸透され、その利益は最終的に米国企業に還元される。

戦後の米国の「占領政策」は子供たちをターゲットに進められ、今も、ゲノム編集の浸透という新たな形で、「総仕上げ」とも言える段階に来ている。世界一洗脳されやすい国民ではいけない。ここから逆に示唆されることは、私たちも、学校給食から日本の本来の姿を取り戻し、それを守ることである。すなわち、地元の安全・安心な農産物を学校給食など通じてしっかり提供する活動・政策を強化することで、まず子供たちの健康を守ることが不可欠だということである。

(番外編)自由貿易協定について
衆議院 2021年4月14日外務委員会 田村貴昭(日本共産党)議員の参考人として明確に主張!

衆議院 2021年4月14日外務委員会 田村貴昭(日本共産党)の質疑に、鈴木先生が正論を堂々と主張されています。短時間ですが、是非ともご視聴ください。我々JAグループの想いを代弁されていますよ!

第8回 崩れる量と質の食料安全保障
~ジャガイモよ、おまえもか~

量と質の両面の安全保障の崩壊がとどまることを知らないことが最近の米国産ジャガイモをめぐる動きに如実に表れている。

2020年に、①ポテトチップ加工用生鮮ジャガイモの通年輸入解禁、②生食用ジャガイモの全面輸入解禁に向けた協議開始(=早晩解禁と同義)、③動物実験で発がん性や神経毒性が指摘されている農薬(殺菌剤)ジフェノコナゾールを、生鮮ジャガイモの防カビ剤として食品添加物に分類変更(日本では収穫後の農薬散布はできないが、米国からの輸送のために防カビ剤の散布が必要なため食品添加物に指定することで散布を可能にした)、④その残留基準値を0.2ppmから4ppmへと20倍に緩和、2017~21年に、⑤遺伝子組み換えジャガイモの4種類を立て続けの認可(外食には表示がないのでGMジャガイモかどうか消費者は判別できない)、2021年に、⑥日米貿易協定に基づく冷凍フライドポテトの関税撤廃、と続く「至れり尽くせり」の措置のメッセージは明確である。

ジャガイモについては、長い米国との攻防の歴史があり、ここまでよく踏みとどまってきたとの感もある。「歴代の植物防疫課長で頑張った方は左遷されたのも見てきた」(農水省OB) 。「ジャガイモもついに」だが、ジャガイモがここまで持ちこたえてこれたのは、我が身を犠牲にしても守ろうとした人達のおかげでもある。

米国からの要求リストは従来から示されており、それに対して拒否するという選択肢は残念ながら日本にないように見える。今年はどれを応えるか、来年は……と、差し出していく順番を考えているかのように、ズルズルと応じていく。なし崩し的に要求に応えていくだけの外交では国民が持たない。

第7回 農協への独禁法厳格適用の不当性
~6/1答申を受けて考える~

6月1日の答申もひどい

2021年3月の規制改革推進会議のWG(ワーキング・グループ)で、生乳取引に関して、畜安法を改定して自由な流通を促進したのに、①系統シェアが低下していないのは問題、②農水省が契約違反事例を示したのはおかしい(どんな生乳でも引き受けるのがビジネス常識)、③農協シェアが大きすぎるのでホクレンなどを分割すべきである、など、理解不能な指摘がなされた。

これを受けての6月1日の答申では、農協に独禁法違反行為をしないよう「表明」させ、農水省に農協の独禁法順守の指導を命じ、特に、酪農分野における独禁法違反の取締りの強化を図る、とされた。こんなことを命令する権限が規制改革推進会議にあるのか。

また、「生乳の流通において、制度的な独占は解除されたが、依然として、指定生乳生産者団体による実質的な独占が継続されている。」という奇妙な指摘がなされているが、これは、つまり、改革が間違っていたと認めていることになる。

さらに、農水省が作成した「指定事業者が生乳取引を拒否できるルール違反の事例集」が酪農家の自由な取引を萎縮させた(との声がある)と批判し、6月1日の答申では、その見直しを求めているが、当然の契約違反事例を説明したのが問題だと言うのは理解できない。

共販は違法でないが、共販推進のためのルールは違法?

農協の共販は農家と買手との対等な競争関係を築くものとして独禁法の適用除外になっている(22条)。それは認めた上で、共販を推進するための内規としての出荷ルールは違反だ、というのが厳格適用の論拠として述べられている。

すでに、最近、解釈変更で独禁法の適用を強化して農協を摘発し、実質的に「適用除外」をなし崩しにするという「卑劣な」手法が強化されつつある。たとえば、2017年3月29日、高知県JA土佐あきに対して、公正取引委員会は、ナスの販売について、組合員に対して系統以外に出荷することを制限する条件をつけて販売を受託していたという拘束条件付取引に該当するとして排除措置命令を下した。ナスの部会は元々農家の自主的な組織で、共同出荷施設を維持し、共同販売を促進するために、自らで作っていた規約に対して、農協が系統利用を強制したとの判断がなされた。

共販が有効に機能するには、共販に結集するための誘因となる自主的なルール(ある程度の縛り)は不可欠である。それなのに、それを違反だというなら、共販を「公正かつ自由な競争秩序の維持促進に積極的な貢献をする」と認めながら、「ただ乗り」を助長し、共販を壊す、という論理矛盾になっていないか。22条の根幹を揺るがす不当な「言いがかり」である。

米国でも農協共販は反トラスト法(独禁法)の適用除外になっているが、不当価格引き上げ(Undue Price Enhancement)などにより経済厚生上の損失が生じている場合は違法とされる。この考え方は基本的に日本でも同じであり、つまり、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合」には適用除外とはならない。

つまり、共販のルールが明確に合意されていれば、ルール上の問題ではなく、「不当な価格引き上げが行われているかどうか」が独禁法違反か否かのポイントになる。この点を経済学的手法も用いて検証すれば、むしろ、農家は買い叩かれており、問題とすべきは、売手側ではなく、小売などの買手側の「優越的地位の濫用」だというのは自明ではないか。

このように、近年、農協の独禁法適用除外をなし崩しにする政治的ともいえる厳格適用が行われたり、独禁法の精神と矛盾する農協法・畜安法の改定が行われたことこそが問題であり、さらに農家・農協の活動を萎縮させるような命令をすることは許されない。

農協組織としての対応

系統組織や酪農家は規制改革会議の発信や独禁法の厳格適用を恐れてはいけない。萎縮効果を狙った動きに過剰に反応したら、思う壺にはまる。世界的にも認められている共販の権利は堂々と主張し続けるべきである。

また、組織による不当な圧力がある(独禁法違反である)というような指摘でつけこんでくるのを防ぐには、組織と組合員との契約関係をより明確化し、契約に基づく約束であることを明記することも重要である。

一方で、農家の願い・要望に組織がどれだけ応えられるか、組合員の不満をないがしろにせず、真摯に柔軟に改善していける組織機能の強化も不可欠であろう。たとえば、自身の自慢の牛乳をできるだけ狭い地域ブランドで販売したいといった酪農家の想いに系統流通がどこまで対応できるか、といった課題にも業界を挙げて真剣に向き合う必要があろう。

第6回 規制改革推進会議にレッドカード
~常軌を逸した生乳取引をめぐる議論~

先日、規制改革推進会議のWG(ワーキング・グループ)で、生乳取引に関して、耳を疑うような暴論が展開された。規制改革推進会議には「一発退場」を促したい。

規制改革は失敗と分かったのに処方箋が一層の規制改革?

まず、規制改革は見事に失敗したことが、新規に認定された業者の「集乳停止事件」で明白になったのに、そのことを認めず、反省もせずに、逆に、「原因は規制改革が足りないからだ」と主張している。規制改革そのものが失敗の原因なのに、処方箋は、もっと規制改革を徹底することだと主張するのは完全な論理破綻である。

実は、こうした論理破綻は繰り返されている。2008年の食料危機やコロナ禍においても、貿易自由化を進めたために輸出規制が頻発して危機が増幅される構造ができてしまったのに、「価格高騰が起こるのは貿易自由化が足りないせいだ」というショック・ドクトリンが展開されている。原因は貿易自由化なのに解決策は貿易自由化だ、とは論理破綻も甚だしい。途上国の貧困緩和の名目で貿易自由化と規制緩和を要求して、その結果、貧困が増幅されると、「貧困が緩和しないのは規制緩和が足りないせいだ。もっと徹底した規制撤廃が必要だ」と主張するのも同様である。

契約違反も受け入れろ?

次に、年間契約に基づいた取引で、「年度途中の出荷先の変更(契約違反)があっても、取引を拒否してはいけない。それがビジネスの常識だ。」というのはどういう理屈であろうか。どんなビジネスも契約に基づいて行われる。契約違反があれば取引は停止される。それをどうして農協だけは拒否してはいけないのだろうか。そのようなことを指示される筋合いはないと思われる。そもそも、「二股出荷」のことを議論しなくてはならなくなるような畜安法の改定が間違っていたということでもある。

とりわけ、生乳の場合、腐敗しやすい生乳が小さな単位で集乳・販売されていたのでは、極めて非効率で、酪農家も流通もメーカーも小売も混乱し、消費者に安全な牛乳・乳製品を必要なときに必要な量だけ供給することは困難になる。つまり、需給調整ができなくなる。だからこそ、まとまった集送乳・販売ができるような農協による共同出荷システムが不可欠である。だから、二股出荷(契約年度途中の取引先変更も含む)を容認するのは難しい。

したがって、欧米諸国では通常、酪農協の内規などで全量出荷義務が明記されていて、二股出荷は許されていない。他の出荷先を選択する場合には酪農協を脱会しなければならず、脱会せずに二股出荷をしている場合には総会で脱会を求められる。

そもそも、欧米において、農協の組合員に全量出荷を義務付けるのはごく普通のことである(農中総研の平澤明彦部長)。たとえば、アメリカにおいて農協は1つの事業体として捉えられ、農協と組合員との契約関係は内部関係とされているので、反トラスト法が適用されることはない(農中総研の明田作客員研究員)。アメリカの柑橘類の専門農協であるサンキストは、独禁法の適用除外となっていて、組合員は柑橘生産の全量をサンキストを通して出荷する専属利用契約を結んでいる。品質や出荷時期などについても、組合員の総意の下で厳しいルールが定められていて、違反者は除名処分を受ける。このような内規に同意できなければ、組合員にならず独自に販売すればよいが、もちろんその場合はサンキストのブランドを名乗ることはできない。これらのルールは、ブランドを守り、組合員の利益を維持するための当然の対応と見なされていて、独禁法上の問題ではないと理解されているのである(東京大学の矢坂雅充准教授)。

農協分割論の異常

「農協のシェアが大きいから分割しろ」という議論まで出たが、それなら、百歩譲って、その前に、この規制改革推進会議のWGの座長さん(日本製鉄)の業界は、上位3社で71%(日本製鉄36.3%、JFEHD22.9%、神戸製鋼所11.5%)を占めるのだから、そちらを分割してもらうのが先ではないだろうか。

そもそも、農家の所得を時給換算すると平均で961円しかない。農協共販があっても農産物が買い叩かれているということだ。世界的には小売の市場支配力に対抗して農家収入を確保するために農協共販を強化すべきという議論が起こっているときに、日本だけが、逆に、農協共販弱体化を推進し、もっと買い叩けるようにしようとしている。

世界の常識である「農協共販の独占禁止法の適用除外」を日本だけが問題視し、それを否定するような畜安法や農協法の改定を行って、農協共販つぶしに躍起になっている。農家が不当に儲けているというならわかるが、後継者がいなくて困っている人が多いというのに、もっと買い叩くことしか考えられないとは、なんと情けないことだろうか。「今だけ、金だけ、自分だけ」から脱却しないと日本の将来は本当に危うい。

第5回 コメは過剰でなくて足りていない
~消費者を助ければ生産者も助かる~

コメの深刻さはさらに増している~実はコメは足りていない

発想の転換が必要ではないだろうか。コメは余っているのでなく、実は足りていない側面がある。コロナ禍でコメ需要が年間22万トンも減って、コメ余りがひどいから、コメを大幅に減産しなくてはいけないというのは間違いである。コメは余っているのではなく、コロナ禍による収入減で、「1日1食」に切り詰めるような、コメや食料を食べたくても十分に食べられない人達が増えているということだ。そもそも、日本には、年間所得127万円未満の世帯の割合、相対的貧困率が15.4%で、米国に次いで先進国最悪水準である。

1万円を下回りかねない低米価

潜在需要はあるのに、顕在化できない。そして、コメ在庫が膨れ上がり、生産者米価の下落が加速している。主食用の大幅な減産要請の中で、次に少しでも価格的に有利な備蓄用米の枠を確保するため、JA組織も安値でも入札せざるを得ない苦渋の選択を迫られた。こうした状況下で、コメ農家に支払われるJAの概算金は1俵1万円を切る水準が見えてきている。1万円を下回りかねない低米価が目前に見えてきているのに、政策は手詰まり状態で、事態は放置されている。どんなに頑張ってもコメの生産コストは1万円以上かかる。このままでは、中小の家族経営どころか、専業的な大規模稲作経営も潰れかねない。

消費者を助ければ、生産者も助けられる

消費者を助ければ、生産者も助けられる。それこそが政府の役割である。米国などでは政府が農産物を買い入れて、コロナ禍で生活が苦しくなった人々や子供たちに配給して人道支援している。米国では、トランプ大統領(当時)が2020年4月17日、コロ禍で打撃を受ける国内農家を支援するため、「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)」などに基づき、190億ドル規模の緊急支援策を発表した。このうち160億ドルを農家への直接給付に、30億ドルを食肉・乳製品・野菜などの買上げに充てた。補助額は原則1農家当たり最大25万ドルとした。農務省は毎月、生鮮食品、乳製品、肉製品をそれぞれ約1億ドルずつ購入し、これらの調達、包装、配給では食品流通大手シスコなどと提携し、買上げた大量の農畜産物をフードバンクや教会、支援団体に提供した。

そもそも、米国の農業予算の柱一つは消費者支援、低所得層への食料支援策なのである。米国の農業予算は年間1000億ドル近いが、驚くことに予算の8割近くは「栄養(Nutrition)」、その8割はSupplemental Nutrition Assistance Program (SNAP)と呼ばれる低所得者層への補助的栄養支援プログラムに使われている。なぜ、消費者の食料購入支援の政策が、農業政策の中に分類され、しかも64%も占める位置づけになっているのか。この政策の重要なポイントはそこにある。

つまり、これは、米国における最大の農業支援政策でもあるのだ。消費者の食料品の購買力を高めることによって、農産物需要が拡大され、農家の販売価格も維持できるのである。経済学的に見れば、農産物価格を低くして農家に所得補填するか、農産物価格を高く維持して消費者に購入できるように支援するか、基本的には同様の効果がある。米国は農家への所得補填の仕組みも驚異的な充実ぶりだが、消費者サイドからの支援策も充実しているのである。まさに、両面からの「至れり尽くせり」である。

人道支援もできないのか?

なぜ、日本政府は「政府はコメを備蓄用以上買わないと決めたのだから断固できない」と意固地に拒否して、フードバンクや子ども食堂などを通じた人道支援のための政府買い入れさえしないのか。メンツのために、苦しむ国民と農家を放置し、自助と言い続け、国民の命を守る人道支援さえ拒否する政治・行政に存在意義があるのかが厳しく問われている。

いや、備蓄米のフードバンクなどへの供給はしているという。しかし、その量は1つのフードバンクにつき年間60kg、規模の大きいフードバンクでは1団体が提供するコメの1日分にも満たないという。およそ140団体が受け取っており、全体で100万トン規模の備蓄米のうち、提供量は最大でも10トンに満たないとみられる(ロイター通信、2月9日)。

これでは焼け石に水である。ちょうど、日本農業新聞に筆者の指摘が掲載された日の国会で、農水大臣が備蓄米の活用を拡大すると表明したが、抜本的な対策とは言えない。制度上の制約というなら備蓄制度の枠組みでなく人道支援の枠組みをつくればよい。法律・制度は国民を救うためにあるはずなのに、この国は制度に縛られて国民を苦しめてしまう。東日本大震災のときの復興予算さえ、要件が厳しすぎて現場に届かなかった。財政当局はわざと要件を厳しくして予算が未消化で戻ってくるように仕組んでいるとさえ聞いたが、それでは人間失格であろう。

世界を守れば日本が守られる

しかも、日本では家畜の飼料も9割近くが海外依存でまったく足りていない。コロナ禍で不安が高まったが、海外からの物流が止まったら、肉も卵も生産できない。飼料米の増産も不可欠なのである。さらに、海外ではコメや食料を十分に食べられない人たちが10億人近くもいて、さらに増えている。

つまり、日本がコメを減産している場合ではない。しっかり生産できるように政府が支援し、日本国民と世界市民に日本のコメや食料を届け、人々の命を守るのが日本と世界の安全保障に貢献する道であろう。某国から言いなりに何兆円もの武器を買い増しするだけが安全保障ではない。食料がなくてオスプレイをかじることはできない。農は国の本なり。食料こそが命を守る、真の安全保障の要である。消費者を守れば生産者が守られる。生産者を守れば消費者が守られる。世界を守れば日本が守られる

第4回 飢餓の危機は日本人にも他人事ではない

先日、NHKスペシャルが2050年頃に日本人が飢餓に直面する危険性に警鐘を鳴らした。画期的である。だが、その危険性はもっと早くに迫っているかもしれない。

日本人が飢餓に直面する危険性は2050年よりもっと早く顕在化

この画像は、2021年2月7日にNHKが報じた2050年頃に起きるかもしれない渋谷のスクランブル交差点での食料を求める暴動の様子である。しかし、もっと早くにこのような事態が発生する危機が進行している。

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表1は、現状の趨勢が続くと、最悪の場合、2035年の日本の実質的な食料自給率が、酪農で12%、コメで11%、青果物や畜産では1~4%に低下する可能性を示唆している。

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このような状態で、コロナ禍や2008年のような旱ばつなどが同時に起こって、輸出規制や物流の寸断が生じて、生産された食料だけでなく、その基になる種、畜産の飼料も海外から運べなくなったら、日本人は食べるものがなくなってしまう。つまり、2035年時点で、日本は飢餓に直面する薄氷の上にいることになる。

生産減の加速と種・飼料の海外依存の怖さ

国は規模拡大支援政策を追求し、畜産でもメガ・ギガといった超大規模経営はそれなりに増えたが、それ以外の廃業が増え、全体の平均規模は拡大しても、やめた農家の減産をカバーしきれず、総生産の減少と地域の限界集落化が止まらない段階に入っている。

それに加えて、飼料の海外依存度を考慮すると、牛肉、豚肉、鶏卵の自給率は現状でも、順に、11%、6%、12%、このままだと、2035年には4%、1%、2%と、信じがたい水準に陥る。酪農は、自給率が8割近い粗飼料の給餌割合が相対的に高いので、自給率は現状で25%、2035年に12%と、他の畜産に比べればマシな水準だが、それでもこの低さである。さらに付け加えると、鶏のヒナはほぼ100%海外依存なので、それを考慮すると、実は鶏卵の自給率はすでに0%に近いという深刻な事態なのである。

現状は80%の国産率の野菜も、90%という種の海外依存度を考慮すると、自給率は現状でも8%、2035年には3%と、信じがたい低水準に陥る可能性がある。コメも含めて、「種は命の源」のはずが、「種は企業の儲けの源」として種の海外依存度の上昇につながる一連の制度変更(種子法廃止→農業競争力強化支援法→種苗法改定→農産物検査法改定)が行われているので、野菜で生じた種の海外依存度の高まりがコメや果樹でも起こる可能性がある。

コメは大幅な供給減少にもかかわらず、それを上回る需要減でまだ余るかと思われるが、最悪の場合、野菜と同様に、仮に種採りの90%が海外圃場で行われるようになったら、物流が止まってしまえば、コメの自給率も11%にしかならない。果樹では、同様の計算で、3%にしかならない。つまり、日本の地域の崩壊と国民の飢餓の危機は、2050年よりも、もっと前に顕在化する可能性がある。

 さらに言えば、コメについては、表1の推定よりも、もっと危機が早まりつつある。現在、1俵1万円水準の低米価が目の前に見えてきているのに、政策は手詰まり感のままで放置され、このままでは専業的な大規模稲作経営も潰れ、事態はさらに深刻化の度合いを増すと思われる。

どう対処したらいいのか

種も、飼料などの生産に必要な資材も、身近で安全なものを生産者と消費者が一緒に確認しつつ確保して、生産された安全・安心な生産物を地域の消費者が適正な価格でしっかり引き受ける地域循環経済への転換が待ったなしになってきている。

環境に廃棄されている未利用資源(家畜糞尿,食品加工残さ,生ゴミ,作物残さ,草資源等)を肥料や飼料や燃料として利用する割合を高めることも含め、輸入飼料や化学肥料を減らし、身近な地域の種を守り育て、日本の農業・畜産が各地で資源循環的に営まれることこそが国民の命を守り、環境を守り、地球全体の持続性を確保できる方向性であろう。

第1回 日本農業をめぐる疑問に答える簡潔Q&A
(2020年11月投稿)

Q1.日本の農業は後継者不足が問題となっていますが、その原因は何でしょうか?

農家の時給(1時間当たり所得)は平均で961円です。これでは後継者の確保は困難と言わざるを得ません。

表1 1時間当たり所得の比較(円)

農畜産業法定最低賃金30人以上企業女子非常勤(10人以上企業)
19804895321,608492
19906545152,293712
20006046572,472889
20106657301,983979
20179618481,9811,074

出所: 荏開津典生・鈴木宣弘『農業経済学 第5版』(岩波書店、2020年)

Q2.なぜ、そんなに所得が低いのでしょうか?

①自動車などの輸出のために農と食を差し出す貿易自由化が進められた結果です。

表2 残存輸入数量制限品目(農林水産物)と食料自給率の推移

輸入数量制限品目食料自給率備考
19628176 
19677366ガット・ケネディ・ラウンド決着
19705860 
19882250日米農産物交渉決着(牛肉・かんきつ、12 品目)
19901748 
2001540ドーハ・ラウンド開始
2019538 
注) 1995年以降の5品目は、資源管理上の必要から輸入割当が認められている水産品。

②農業を生贄にしやすくするために、農業は過保護だというウソがメディアを通じて国民に刷り込まれました。

③土地の狭い日本の農産物は海外よりは割高で、消費者は輸入品に飛びつきました。

④コストが海外より高いのに小売の力が強く、農産物価格は農家の所得を十分に満たせない水準に買いたたかれてきました。

Q3.農家の高齢化や後継者不足がこのまま進むとどのような問題がありますか?

①国民への食料供給が確保できなくなります。食料自給率がさらに下がり、今後頻発しかねない食料危機時の各国の輸出規制に対応できません。

②輸入に対して農薬・添加物などの安全基準の緩い日本市場が健康リスクの高い食品の標的となり、日本人の健康が蝕まれます。

つまり、量的にも質的にも食料の安全保障が崩壊していきます。

③地域コミュニティが崩壊し、「3密」の都市化が進み、コロナなどの感染症がさらに広がりやすくなります。

Q4.上記の問題に対して国はどのような対策をしていますか?

大規模化する企業的経営を「担い手」と位置付け、支援を集中する政策を強化しました。

Q5.その対策の効果はいかがですか?

メガ・ギガファームはそれなりに伸びましたが、それ以外の廃業が増え、全体の平均規模は拡大しても、やめた農家の減産をカバーしきれず、生産の減少と地域の限界集落化が止まらない段階に入っています。

Q6.このような問題を解決するための方法として、どのようなことが考えられますか?

①多様な農業経営が共存して地域が発展できるように、欧米のように、再生産に必要な価格・所得水準が確保できるような差額補填、支持価格による政府の買入れの仕組みが必要ではないでしょうか。

②集落営農の基幹的働き手さえも高齢化で5~10年後の存続が危ぶまれるような地域が増えている中、農協は地域の食と農を守る「最後の砦」として、覚悟をもって農協自らが地域の農業生産に参画していくべきではないでしょうか。

③日本の消費者は命の源の食料を量的にも質的にも確保するために、目先の「安さ」に飛びつくリスクを自覚して、安全・安心な食料を提供してくれる国内の生産者との連携を強化すべきではないでしょうか。

Q7.他国との政策の違いを教えて下さい。

①欧州諸国では、農業所得の90~100%が政府からの直接支払いの国もあります。日本は30%前後で、オセアニアを除く先進国では最低水準です。

②米国・カナダ・EUは最低価格を支えるために穀物や乳製品を政府が買い入れる仕組みを維持しています。支持価格による政府買い入れを廃止したのは日本だけです。

③「日本=過保護で衰退、欧米=競争で発展」は逆なのです。国民に刷り込まれたウソです。命、環境、地域、国土・国境を守る産業は、安全保障の要であり、国民全体で支えるのが世界の常識です。それを非常識とする日本が非常識だということに気付きましょう。

(注: この資料はテレビ番組の収録のために準備した資料の改定版です。)

第2回 問題を許諾料にすり替えてはいけない
(2020年12月投稿)

この間の種苗法改定の議論で、「登録品種の自家採種に許諾が必要になるが、許諾料の負担は小さいから影響はない」という議論が行われている。これは事の本質を見誤った議論である。自家増殖が育成者権者から許諾(許可)されることを前提にした議論は根本が間違っている。問題は許諾料の水準云々でなく、自家増殖を許諾してもらえず、毎年、買わないといけなくなることである。

公的機関の種だから引き続き許諾してもらえる、と自明のように議論してはいけない。「種子法廃止→農業競争力強化支援法8条4項→種苗法改定」は、「公共の種をやめさせる→それを企業がもらって→もらった種の権利を強化してもらって買わせる」ことだから、公共の種が企業に移り、許諾してもらえなくなって種を毎年買わなくてはいけなくなる流れは今後進む。許諾ありきの議論に意味はない。

第3回 種苗法改定に続く農産物検査法改定による「囲い込み」の懸念とJAの役割
(2021年1月投稿)

すでに成立した種苗法改定と間近に迫っている農産物検査法の改定が、企業主導の農産物流通の「囲い込み」を促進する懸念が生じている中、JAとしてどう対応するか、検討が急がれる。

種苗法改定の意味

種苗法の改定で、次の流れが完成した。国・県によるコメなどの種子の提供事業をやめさせ(種子法廃止)、その公共種子(今後の開発成果も含む)の知見を海外も含む民間企業に譲渡せよと命じ(農業競争力強化支援法)、次に、農家の自家増殖を制限し、企業が払下げ的に取得した種を毎年購入せざるを得ない流れができた(種苗法改定)。

農産物検査法改定の経緯

さらに、これに、産地品種銘柄を廃止し、コメの検査を緩和して企業主導のコメ流通を容易にする農産物検査法の改定も加わろうとしている。産地品種銘柄とは、都道府県が指定して、検査体制を確保し、コメの産地・品種・産年が表示できるようにする仕組みである。認定機関による検査米でないと、産地・品種・産年の3点セットが表示できない。この米穀検査の仕組みを緩和する方向性が出されている。

その経緯は以下のとおりである。

・2019年3月 「農産物規格・検査に関する懇談会」が農業競争力強化支援法を踏まえ、規制緩和が必要とする論点整理

・2020年4月 規制改革推進会議の第9回農林水産ワーキンググループに(株)ヤマザキライスから意見書(表を参照)が提出され、それを反映した「農産物検査規格の見直し」を盛り込んだ規制改革実施計画を提言

・同年7月 閣議決定され、「農産物検査規格・米穀の取引に関する検討会」が立ち上がり、ここで結論が出される。閣議決定は(株)ヤマザキライスの要望をほぼそのまま盛り込んだ内容。以上、安田節子(2020)参照。

出所: 安田節子「種苗法改定でコメはどうなる?」2020年10月29日
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/18930

その評価と影響

農産物検査法におけるコメ等級の見直しは、消費者サイドも求めてきた点である。「カメムシ斑点米(着色粒)に厳しい等級があり、着色粒が1000粒に1粒(0.1%)までなら一等米だが、それ以上になると二等米、三等米になってしまう。そうするとコメの価格が下がるため、農家は一等米をめざしてカメムシ防除に励むことになり、ネオニコチノイド系農薬が大量に使われる。」(安田節子さん) この見直しは評価できる。

一方、産地品種銘柄の廃止を含め、自主検査を認めたり、未検査米に対する表示の規制を廃止したり、という形の検査制度全体の緩和は、様々なコメの流通をしやすくする側面はある。しかし、品質の保証に不安が生じるだけでなく、輸入米の増加(安田節子さん)や民間企業によるコメ生産・流通の「囲い込み」の促進につながる懸念(印鑰智哉氏)も指摘されている。

種苗法改定による育種企業の権限強化と農家の自家増殖制限、それに、コメ検査の緩和は、企業が主導して、種の供給からコメ販売までの生産・流通過程をコントロールしやすい環境を提供する。種を握った種子・農薬企業が種と農薬をセットで買わせ、できた生産物も全量買い取り、販売ルートは確保するという形で、農家を囲い込んでいくことが懸念される(印鑰氏の模式図参照)。

出所: 印鑰智哉『種苗法改正その後』(2020年)

JAはどう対応すべきか

この枠組みの中に、JA、特に単協レベルのJAがどうかかわっていくは、悩ましい側面もある。積極的に、企業と農家との中間にJAが入ることによって、農家の不利益にならないような取引契約になるよう踏ん張れる側面もあるが、種も肥料も農薬も指定された契約になると、「優越的地位の乱用」を許し、いつの間にか、みなが取り込まれて、気が付いたら「収奪」されてしまう危険もある。

本来、農協は共販によって取引交渉力の強い買手と対峙して農家(ひいては消費者)の利益を守るためにあるが、各JAが企業主導の生産・流通に組み込まれてしまうと、そうした農協の役割が地域レベルでも、全国レベルでも、削がれてしまうリスクがある。そういう点でも、企業による「囲い込み」に対するJA組織の立ち位置については、農家と地域全体の利益を守る協同組合としての役割が損なわれることがないようにしなくてはならない。

地域の力の結集

すべての企業がそうだというわけではけっしてないが、この「囲い込み」に飲み込まれてしまうことは、農家・農協のみならず、地域の食料生産・流通・消費が企業の「支配下」におかれることを意味する。農家は買いたたかれ、消費者は高く買わされ、地域の伝統的な種が衰退し、種の多様性も伝統的食文化も壊され、災害にも弱くなる。我が国では表示もなしで野放しにされたゲノム編集も進行する可能性が高く、食の安全もさらに脅かされる。

食料は命の源であり、その源は種である。我々は、地域で育んできた大事な種を守り、改良し、育て、その産物を活用し、地域の安全・安心な食と食文化を守るために結束するときである。地域の多様な種を守り、活用し、循環させ、食文化の維持と食料の安全保障につなげるために、シードバンク、参加型認証システム、有機給食などの種の保存・利用活動を支え、育種家・種採り農家・栽培農家・消費者が共に繁栄できる地域の構成員の連帯と公共的支援の枠組みの具体化が急がれる。生産から消費までのトレーサビリティを確立すれば、表示義務がなくともゲノム編集食品などの不安な食品を地域社会から排除できる(「ゲノム編集ではない」という任意表示は可能であることが活路になる)。

協同組合、共助組織、市民運動組織と自治体の政治・行政などが核となって、各地の生産者、労働者、医療関係者、教育関係者、関連産業、消費者などを一体的に結集して、地域を喰いものにしようとする人たちは排除し、安全・安心な食と暮らしを守る地域住民ネットワークを強化するために、今こそ、それぞれの立場からの一歩が期待される。

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