1.日 時  令和4921日(水) 1330分~1650

2.場 所  エッサム神田ホール2号館 6階(2-602)会議室(受け付けは13時より)

〒101-0047東京都千代田区内神田3-24-5

 JR神田駅 東口・北口・西口 徒歩2分 TEL 03-3254-8787 FAX 03-3254-8808
 
アクセス(2号館ですのでご注意ください)

 ●実参加とズーム(オンライン)・録画方式の併用

3.参加者  主にJA役職員

4.日 程  

時 間         内 容
1330(司会) 東京農業大学 名誉教授 白石 正彦
1330分~1335(開会挨拶) 新世紀JA研究会代表  JA菊池(熊本県)  代表理事組合長  三角 修
1335分~1340「解 題」 新世紀JA研究会 常任幹事 福間 莞爾
1340分~1410「食料安全保障の強化に向けたJAグル-プの取り組み」 JA全中 農政部長 生部 誠治 氏
1410分~1420質疑
1420分~1450「海外原料価格高騰をめぐる情勢とJA全農の対応」 JA 全農経営企画部次長 遠藤 康行 氏
1450分~15質疑
15時~1510休憩
1510分~1550「肥料価格高騰の今こそ目指せ~健康な土づくり」 東京農業大学 名誉教授 全国土の会 会長                後藤 逸男 氏
1550分~16質疑
16時~1630「ペレット堆肥複合肥料によるコストダウンを目指して」 JA菊池 代表理事組合長 三角 修 氏
1630分~1640質疑
1640分~1650総合質疑
1650閉会

5.セミナーの運営  

新型コロナウイルス対策のため、セミナーは実参加およびズーム(オンライン)・録画方式により行います。

ZOOMの編集動画

「食料安全保障の強化に向けたJAグル-プの取り組み」 JA全中 農政部長 生部誠治氏

講演要旨

1.生産資材高騰対策等の実現に向けたJAグループの取り組み

 わが国農業の生産基盤の弱体化が大きな課題となるなか、肥料や飼料、燃料など営農に欠かせない資材の価格が高騰し、生産現場は危機的な状況となっている。コロナ、ウクライナ侵攻、急激な円安の進行等がその要因であるが、生産コストの上昇は、農畜産物価格に適切に転嫁されていない。

JA全中では、本年7月に①肥料高騰対策、②飼料高騰対策、③地方創成臨時交付金を柱とする緊急要請をとりまとめ、緊急全国集会の開催、金子農林水産大臣(当時)、与党への要請など、農政運動を強力に展開してきた。この結果、7月には、肥料価格高騰対策事業(788億円)が予備費を活用し措置されたほか、9月下旬には同じく予備費を活用し、飼料高騰緊急対策、地方創成臨時交付金の積み増し等が行われる見通しとなっている。JAグループでは、環境調和型農業の推進、国内資源の有効活用等の取り組みを通じ、持続可能な農業の実現を目指していく。

2.食料安全保障予算の確保及び食料・農業・農村基本法の見直しに向けたJAグループの取り組み

 わが国の食料安全保障のリスクが顕在化するなか、JA全中では、「食料安全保障の強化」を最重点課題として、政府・与党へ働きかけ、自民党は、令和4年5月に「思い切った食料安全保障予算の新たな確保」、「基本法の検証・見直しによる数十年先を見据えた農林水産政策の確立」を盛り込んだ「食料安全保障の強化に向けた提言(中間とりまとめ)」を決定した。この内容は、6月に政府が取りまとめた骨太方針等にも大きく反映されている。

 農水省は、要求額26,808億円とする令和5年度概算要求を行ったが、焦点となる食料安全保障予算は、今後の予算編成過程で検討することとされた。政府は、10月中に経済対策を取りまとめることとしており、JA全中は、食料安全保障予算の思い切った増額に向け、取り組む予定である。

 基本法について、岸田総理は9月9日の「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」で、見直しに向けた検討を開始する考えを表明した。1年程度かけて政府・与党で議論が行われる見通しであるが、食料安全保障の強化の観点から、JA全中では、政府・与党への働きかけをすすめる。

 また、JA全中では、「国民が必要として消費する食料はできるだけその国で生産する」という「国消国産」をキーメッセージに、食料安全保障の重要性を消費者に訴える国民理解醸成の運動をJAグループの総力を挙げて展開する。

「海外原料価格高騰をめぐる情勢とJA全農の対応」 JA 全農経営企画部次長 遠藤康行氏

講演要旨

 現在、コロナ禍からの世界的な景気回復基調により穀物や原油の需要が急増する一方、緊迫するウクライナ情勢により海外原料の需給ひっ迫が懸念され、さらには為替相場も日米金利差による円安の急激な進展など、厳しい状況が続いています。

 肥料原料では、塩化加里はロシア・ベラルーシが主要産出国であり、その他の原料でも中国の輸出制限などにより需給ひっ迫が懸念され供給不安が高まっているため、海外原料価格が高騰しています。

 飼料原料とくにトウモロコシについては、令和2年下期以降、国際情勢により価格が高騰しました。その後、米国産地の豊作予想でいったんは沈静化したものの、その後米国産地で高温乾燥による生育懸念が起きたことや、米国農務省が需給は引き締まると見通しを発表するなど、予断を許さない状況です。

 燃料では、原油相場はウクライナ危機により上昇しましたが、その後は欧州の景気減速懸念やOPECの需要見通し引き下げなどにより、危機前の水準前後(90㌦/BL)まで下落しました。今後の見通しについては、国際情勢により上げ下げ両方の要員があるものの、当面は大きな値下がりはなく、高値での推移が見込まれます。

 こうした情勢の中で、本会の海外原料の安定調達への取組は次のとおりです。

肥料原料は、既存の調達先に加え、調達先の多元化により安定調達に取り組んでいます。尿素はマレーシアの長期契約先から安定調達を継続します。リン安は中国による輸出規制を受け、モロッコからの調達に切り替えました。塩化加里はカナダの既存契約先に増産を要請し、さらに一部は中東からの調達も含めて対応しています。こうした取組により、令和4肥春肥需要の安定確保を確実にすすめてまいります。

飼料原料は、全農グレイングループの船積み能力拡張と産地多元化等により、安定調達をはかります。米国では輸出エレベーターの船積み能力を拡張したほか、内陸の穀物集荷施設の買収を進めるなど、世界最大の穀物輸出国である米国でのトウモロコシ調達力を強化しています。ブラジルでは、他の穀物業者との合弁で穀物集荷・輸出会社を設立し、米国に次ぐ穀物輸出国であるブラジルからのトウモロコシ調達体制を確立しました。さらにカナダでも他社との合弁で穀物集荷会社や輸出施設を設立し、大麦・小麦などの調達体制を確立しています。

燃料については、本会が輸入する石油製品はロシアからの輸入はなく、従来通り調達できる見通しです。

また、本会は海外からの安定調達に加え、国内資源の有効活用やコスト低減にも取り組んでいます。

肥料分野においては、堆肥入り混合肥料の活用により化学肥料使用量を削減するとともに、土壌診断をベースに土づくりと適正施肥に取り組むなど、堆肥の活用により施肥コストの抑制と環境調和型施肥体系への転換をめざします。

畜産分野では、飼料原料の国産化への取り組みとして子実トウモロコシの栽培拡大をはかります。またICT機器を活用し、牛飼養管理や牛の分娩兆候監視の作業効率化をめざします。さらに鶏糞低減飼料によるコスト減をはかります。

燃料分野では、施設園芸のコスト削減方法の組合員への周知や、農水省による施設園芸セーフティネット構築事業への申請促進に取り組みました。

また本会では、農産物の適正価格実現と消費拡大への取組として、実需者・消費者の理解醸成と、消費に合わせた商品開発と栽培品目の提案および輸出対策を実施しています。

米穀事業では計画的生産などに取り組むことで需給環境の改善をはかり、そのうえで生産・流通コストの増嵩をふまえ、エビデンスにもとづく価格反映を実需者に働きかけます。園芸事業では実需者への直接販売を拡大しており、その中で生産コスト上昇分の販売価格への反映に取り組むとともに、青果卸売業界団体に対して、営農継続可能な適正価格の形成と国産青果物の消費拡大について要請しました。また価格下落傾向にある青果物を中心に、本会ツイッターでレシピを提案するなど消費喚起を実施しています。畜産事業では鶏卵や食肉分野で年間契約を中心に価格交渉を進めています。このほかAコープ店舗やJAタウンなどを通じて、国産農畜産物の消費拡大にも取り組んでいます。

 さらに、パックご飯の普及による国産米のさらなる消費拡大や、「ニッポンエール」ブランドによる商品開発により、消費者への認知度向上に取り組んでいます。また日清製粉グループや農研機構と連携し、実需者ニーズに応じた国産小麦の開発を進め、作付けを提案しています。輸出については産地リレーの品目拡大に取り組み、海外の販売店の棚を長期に確保と、外食等での日本産食材の活用促進を通じて、生産者への貢献を目指します。

                (以上)

「肥料価格高騰の今こそ目指せ~健康な土づくり」
 東京農業大学 名誉教授 全国土の会 会長 後藤 逸男 氏

講演要旨

1.土壌肥沃度の二極化が進む日本の農耕地土壌

(1)地力の低下が進む水田土壌

 本来、水田土壌は畑土壌より肥沃であるが、その肥沃度を維持するには適切な施肥と堆肥などの有機物施用が重要である。禾本科植物である水稲では窒素・リン酸・カリより大量のケイ酸を吸収するので、三要素の他にケイ酸質肥料の施用が必要である。しかし、米価の低迷とそれに伴う稲作農家の兼業化などの影響で、けい酸質肥料や堆肥の施用量は減少の一途を辿っている。けい酸質肥料としては高炉スラグを粉砕したケイカルが一般的で30%程度のアルカリ分を含み土壌酸性改良資材としての役割も果たすが、その施用量減少の影響で水田土壌の土壌診断基準である5.5~6.0の下限値を下回る事例が増えている。

 従来から「水田には塩安・塩加、畑には硫安・硫加」が土づくりの基本とされてきた。湛水条件で水稲を栽培する水田では作土の還元化が進むと硫化水素が発生して水稲根の生育を阻害して著しい収量減をもたらす。このような現象を秋落ちという。その防止対策として、水田には硫酸イオンを含まない塩化アンモニウム(塩安)や塩化カリウム(塩加)の施用が慣行化したわけであるが、最近では各地で水稲の硫黄欠乏症が見られるようになった。なお、土壌中には鉄が含まれているので、発生した硫化水素がFe2+と反応して硫化鉄となり無害化される。しかし、長年に渡って水稲栽培を続けると作土からFe2+が下層に溶脱して、硫化水素の無害化ができなくなる。このような水田が老朽化水田で、まさ土を母材とする水田や砂質水田など鉄含有量の少ない水田で生じやすい。その対策として転炉スラグなどの含鉄資材が施用されてきたが、最近ではその施用量も減少している。

(2)土壌の「メタボ化」が進む畑土壌

 一方、畑では土壌中への可給態リン酸や交換性カリ、塩基バランスの崩れなど水田土壌とは逆の現象が生じている。特に、ハウス内で野菜や花卉を栽培する施設園芸土壌では、可給態リン酸過剰が顕著だ。その原因は、水稲作より収益性が高いため土壌改良資材や肥料に経費をかけやすいことから、家畜糞堆肥の過剰施用、特に黒ボク土の畑では意識的に窒素・カリよりリン酸含有量の多い化成肥料や配合肥料を施用するためである。また、土壌に施用されたリン酸は窒素やカリより下層に移動しにくく作土内に蓄積しやすいこと、作物へのリン酸吸収量が窒素・カリに比べて少ないこと、土壌養分の過剰が作物の生理障害に及ぼす影響が窒素・カリとリン酸では異なることも原因している。例えば、窒素多肥栽培では、生育生長から繁殖生長への切り替えが進まず青立ちやつるぼけが起こったり、細胞の軟弱化により病虫害を受けたりしやすくなる。カリ過剰ではカリウムとマグネシウムの拮抗作用によるマグネシウム欠病症が生じやすい。また、アンモニア態窒素過剰で植物へのカルシウム吸収が抑制されると細胞が軟弱化して、トマト尻ぐされ症などに罹りやすくなることが知られている。一方、リン酸過剰が作物の鉄欠乏をもたらすことは知られていたが、窒素やカリのように明瞭な過剰障害が出にくいため、農家のリン酸過剰に対する問題意識が薄かったことも原因のひとつである。しかし、最近では施設スイートピーの葉身白化症状やワケギの葉先の黄化・褐変障害がリン酸過剰による直接的な生理障害であることが報告されている。さらには、土壌のリン酸過剰がアブラナ科野菜根こぶ病・ウリ科ホモプシス根腐病・フザリウム病害などの発病を助長することも明らかとなり、土壌のリン酸過剰が大きく問題視されるようになった。

 露地畑では、交換性カリの過剰に伴う弊害も各地で見られるようになった。例えば、埼玉県のブロッコリー畑では、牛糞堆肥の過剰施用によるカリ過剰が、ブロッコリー花蕾黒変症を引き起こすことが明らかにされている。このような畑・施設土壌の養分過剰やアンバランス化は、いわば土壌の「メタボ化」といえる。

 

2.目指すは「健康な土づくり」

 これまでの「土づくり」といえば、堆肥や石灰・リン酸などの土づくり資材を施すことと思われがちであった。しかし、長年にわたってそのような土づくりを行ってきた園芸産地では、可給態リン酸や交換性カリの蓄積、窒素過多に伴う土壌酸性化など「土のメタボ化」が起こっている。また、連作の他に「土のメタボ化」を原因とする土壌病害が全国で発生している。土をよくするどころか「土こわし」を行ってきたといって過言ではない。

 一方、水田で本来の「土づくり」が行われなくなった背景には、米あまりや米価下落などがある。最近では食用米に変わって飼料米の作付面積が増えていて、とくに全稲体を収穫するホールクロップサイレージ(WCS)では、食用米作付水田以上に養分収奪が増加して、これまで以上に「地力」の低下が懸念される。

 今こそ、これまでの「土づくり」から、土を健康にするための「健康な土づくり」にシフトすべきである。そのためには土の健康状態を把握することが不可欠であり、そのツールが土壌診断だ。

3.農家のための土壌診断

 このところの肥料価格の高騰がわが国の農業界に大きな影を投げかけている。今年5月末に発表されたJA全農の2022年の秋肥価格では、尿素や塩化カリのような「健康な土づくり」に欠かせない化学肥料単肥が2倍近くに高騰している。一方、リン酸肥料は25%に留まったが、このような肥料価格高騰は今回に限ったことではない。2008年には、中国の輸出規制によりリン鉱石の国際価格が前年比4.7倍に上昇し、「リン酸ショック」と呼ばれた。その際には肥料価格が上昇しても肥料の入手は可能であった。しかし、今回は価格上昇だけではなく肥料そのものが手に入りにくい。特に、輸入化学肥料に大きく依存している養液栽培農家には深刻な状況だ。

 たびたび繰り返される肥料価格高騰に対して、農林水産省や農業団体では土壌診断による適正施肥と家畜糞堆肥の肥料利用を二大対策として打ち出してきた。また、前回には土壌診断を行った農家に対する補助金制度も導入された。その際には、筆者らが開発した簡易土壌診断キットが馬鹿売れした。調べてみると水田農家での利用が多かったようであるが、その土壌診断キットは土壌養分が過剰な施設園芸土壌を対象として開発したもので、水田土壌の分析には不向きであった。今回は、土壌診断分析に要した費用の補助も組み込まれているが、土壌診断室の多くにおいて無料での分析が行われている現状にある。土壌診断が肥料高騰対策として不可欠であることは記すまでもないが、肥料や資材を売らんがための土壌診断ではなく、「農家のための土壌診断」であるべきだ。

 わが国で土壌診断が本格的に稼働し始めたのは1970年代で、官民あげての「土づくり運動」であった。その後、1981年には農林水産省が中心となり「土壌・作物体分析機器実用化事業(略称SPAD)」が推進された。その中で土壌・作物体総合分析装置や葉色計、貫入式土壌硬度計など土壌診断のための各種機器が開発され、全国の土壌診断室などに配備された。農林水産省が2006年に行った調査によると、全国に914ヶ所の土壌診断室があり、その50.4%が普及センター(392ヶ所)と公立研究機関(69ヶ所)であった。その後の調査は行われていないようで詳細は不明だが、現状での土壌診断分析はその多くが農業団体や肥料メーカー・肥料商など、資材や肥料の販売に関わる機関の土壌診断室で行われている。しかも、分析手数料が無料であることが多い。土壌診断分析には、高価な分析機器や試薬を使う、それに人件費も必要だ。それにもかかわらずなぜ、無料でできるのか不思議だ。また、土壌診断分析結果には必ずといってよいほど、処方箋が記載されている。農家の多くは、無料の土壌診断を受け、分析結果も見ないで処方箋通りの資材や肥料を注文してしまう。それでは農家のための土壌診断とはいえない。人の健康に対する処方箋は医師しか書けないが、土壌診断の処方箋は農家でも書ける。人と土の健康はそこが異なる。

 土壌診断を肥料価格高騰対策として活用するには、農家自身が土壌診断結果を判読し、それに基づいた土壌改良・施肥設計を行う。そのためには、土と施肥の基礎知識をしっかりと身につけることが不可欠だ。

「ペレット堆肥複合肥料によるコストダウンを目指して」 
JA菊池 代表理事組合長三角修氏