チンパンジー

管理人の独り言です。

チンパンジーの雑読雑感は、「最近の投稿」で御覧下さい。毎月2~3本投稿しています。

全中の機能発揮に期待する

 法改正された全中の法的性格は旧法に基づく全中とは全く異なっている。旧法の全中は農協組織全体の指導育成機関という位置づけにあり、単協だけでなく、事業連をも会員として指導の対象とし、経営および業務の監査権をもつことによって、連合会との横並びではなく一段と上位に位置し、対外的には農協組織全体を代表するものであった。一般社団法に基づく全中は、監査権限と農協法に基づく指導権限を喪失し、JAと連合会は、一社全中の会員となった。

 全中のホームページによれば、代表機能(組合員・JAの共通の意思の結集・実現)、総合調整機能(地域・事業の枠を越えてJAグループの総合力を発揮)、経営相談機能(創意工夫ある取り組みに積極的に挑戦するJAの組織・事業・経営を支援)の三つの機能を発揮する旨記載してある。監査権を除けば事実としての指導力を発揮することによって、農協の自主的活動の中枢的存在の地位を維持強化できるかどうか。また、行政目的に即応し補完してきた機能を、農政運動組織との関連の中でどう消化すべきなのか。

 全中は、系統農協の結集軸としての中枢機能を引続き維持して行こうとしているように見えるが、会員JA・連合会が全中を見る場合の全中の法的理念と実態との現在のギャップをどのように埋めていくべきか。

 全中の指導機能と行政補完機能を明確に定義しなおすことにより、引き続き中枢機能を維持し得るのか、会議体中心の組織に転化していくかの大きな転換点にある。別稿でも指摘したが、全中の一般社団法人化により、経営指導権限がJAバンク(農林中金)へ一元化された。ウォームハートの全中・県中からクールヘッドのJAバンクによる合理性優先の指導へと変化していくものと考える。JA自らが考え、意思決定しないと組合員の意思を反映しにくい合理化策となる危険が増している。

 2015(平成27)年の農協法改正附則で2021(令和3)年3月31日までに准組合員の事業利用規制等の法改正を行うこととされており(注)、「市場主義」「新自由主義」から「協同組合主義」へと転換する運動提起が求められている。引続き反JA勢力に対抗できるJAグループの中枢的存在の地位を維持して欲しいと思う。課題は山積みだ。本年開催される予定のJA全国大会や開催未定の総合審議会における議論に期待したい。
(注)改正農協法附則の正確な記述は、次の通り。
平成27年9月4日法律第63号改正農協法附則第51条(自主的な取組の促進及び検討)第3項
 政府は、准組合員(新農協法第16条第1項ただし書に規定する准組合員をいう。以下この項において同じ。)の組合の事業の利用に関する規制の在り方について、施行日から5年を経過する日までの間、正組合員(新農協法第12条第1項第1号の規定による組合員又は同条第2項第1号の規定による会員をいう。)及び准組合員の組合の事業の利用の状況並びに改革の実施状況についての調査を行い、検討を加えて、結論を得るものとする。

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その1

飯田康道『JA解体-1000万組合員の命運』(2015年10月、東洋経済新報社)を読んで

(太田原高昭『新明日の農協-歴史と現場から一』(2016年12月、農山漁村文化協会)を道しるべに)

1.「2014~2015年の農協改革はTPP・EPA批判の急先鋒であるJA全中の統制力をそぐことで、政治的な影響力を小さくする狙いがあったと指摘する声は政府・自民党内に根強い。2014年末に実施された衆院選では、全国農政連が、政府側の農協改革に反対する内容の書類を配布し、衆院選候補者への推薦と引き換えに署名するよう要求した。こうした政治活動は、改革を進めようとする政府側の怒りを買った。」(68頁)

「JA全中と都道府県中央会を別の扱いとし、JA全中の監査権限と准組合員の利用規制をトレードオフとして攻める-。政府はこれらの戦略によって、JAグループの内部分裂を招くことに成功したのだった。ある政府関係者は、後日「都道府県中央会の新たな形態を農協法上の連合会として、JA全中と差をつけなければ、おそらくここまで思惑通りには進まなかった」と振り返っている。」(147頁)

→(感想)農協法の改正は、国会に上程された法改正理由とは全く異なる動機で改正され、JA全中が「解体」されたことに驚く。また、監査権限と農協法に基づく組織ではなくなったことを「解体」と呼ぶのであれば、尚更のことJAグループの結集軸としての新全中の機能発揮が求められるところだ。
 世間の耳目を奪っておきながら、最後は権力者との密室での取引に終わるというパターンは、インナーとの密室協議に見られるように選挙における票の取りまとめと引き換えに要求の一部を実規するということであり、まさにプレッシャーグループそのものの終わり方を示した。政府与党との合意が目標になり、消費者や国民は無視されたように感じたのではないか。
 ガット・ウルグアイラウンドに前後して行われた農政活動の転換は、米市場開放反対運動で原型を作り上げ、政府与党との合意から国民的合意を求めて地道に運動を展開するという姿勢に転換し、消費者団体や国際団体の支持を獲得することに成功したのではなかったのか。

 国際協同組合同盟(ICA) は日本へ調査団を派遣し、ICA理事会へ「協同組合を株式会社にする以外に道がないという提案は真実ではない。~中略~どんな言葉が政府から語られようと、日本政府が立ち上げたこのプロセスは、脱協同組合にほかならない。」とする旨の報告書を報告した。

 規制改革会議の意見は、非連続の改革と表現されるように、従来の考え方や継続性を無視し、従来の法律や制度を根底から変革するという乱暴な考え方である。元安倍政権が口にする戦後レジームからの脱却の農業版であった。農協改革という名の後ろに、民間営利セクターの利益が隠されている。規制改革の背後には、経済界の思惑があり、JAが長い時間をかけて形成してきた金融資産と農村市場を狙っている。以前の郵政改革では、郵貯と簡保を郵便事業から分離し株式会社化した結果、全国2万2,000の郵便局がアメリカの保険資本アフラックの窓口になったのではなかったのか。郵貯と簡保の金融資産の次に海外資本を含む営利セクターが狙うのは、信用・共済あわせて140兆円のJAマネーであることは想像しやすい。(この辺の衝撃的な事実関係の概要はこちら

 G.D.H.コールは「急速に変化している世界においては、協同組合運動は自己満足しているいとまは決してなく、また腕をこまねいているいとまも決してない」と表現した。国内農業を犠牲にしてはばからない政策に対抗して、JAグループの主張を堂々と継続することが自主・自立の協同組合の政策活動の基本であろう。組合員がこれらの主張に確信をもつためにも、地域住民をはじめとする国民の理解を求め続け、教育と広報を継続強化する必要がある。本ホームページもその契機の一助になれば幸いである。

2.「JA全中はこれまで農業の衰退に歯止めをかける有効な手を打つことができなかった。永田町や霞が関とばかり向き合い、本来の在り方、組合員のために存在し、その意見に対して常に耳を傾け、施策や組織運営の基礎とするという在り方を忘れてしまっていた。」(214頁)

「農業の衰退に歯止めをかけられなかったという点では、農水省や自民党もJA全中と同様に、責任と政策が問われるのは言うまでもない。~(中略)~結局は何らかの補助金により農家の行動を統制しようという発想に基づいており、その意味では従来と変わりないものの、まずは成果を中止することとしたい。」(215頁)

→(感想)地域農協を論じながら、農業問題については日本全体の農業問題を論じ、地域農業について検討していない。また、補助金について世界の農業政策との比較もなしに、補助政策が悪だと決めてかかっているように感じられる。中小企業政策の主要な政策は、補助金なしでは成立しないことをどのように考えるのか。

 本ホームページの投稿「キリンのささやき」で認識を確実に自分のものにしないと、この手の「新自由主義」信奉者の思う方向へ農業政策が引き込まれてしまう。もう半分以上、農水省は官邸主導で引きずり込まれているのではないか。

 農水省の予算はガット・ウルグアイラウンド以降激減し、全予算に占める割合は12%から2.2%(2019年度度一般会計歳出概算)まで下降している。農産物生産と集荷・流通等で機能発揮しているJAを解体し、民間営利セクターへ開放するという道を選択するならば、国民の食糧に責任をもつ官庁としての存在理由を失うことになり、農水省は経済産業省の一部局になって消滅する道を辿ることになる。先進国で第一次産業を主要省庁としない国があるのだろうか。模範とすべきEU欧州委員会の部局においても農業・農村開発総局は重要な省庁として存在しているが。

 現在の日本型直接支払制度は、EUの制度とは異なる不徹底なものである。日本農業は、価格政策をガット・ウルグアイラウンドで放棄させらられ、効果的な直接支払制度という所得政策もなしに、国際化の中に放り出され、食糧自給率は37%(2018年度カロリーベース)まで低下してきた。

 JAは、信用事業と共済事業を兼営することで営農面の不振をカバーし、地域農業を支えてきた。欧米の農協は専門農協が主体であるが、直接支払制度を始め農業保護政策に支えられている。日本では農業保護政策の後退により、専門農協が衰退してきたという歴史的事実がある。信用・共済事業なしに地域農業の振興とJAの存在は難しいという歴史を直視すべきである。食糧自給率が低下し、TPP加盟によって農業保護政策をさらに後退させる状況で、JAから信用・共済事業を分離し、農業専門の協同組合になれということは専門農協をめざせという論理であり、まさにJA解体への論理である。専門農協は経営悪化により、総合JAとの合併が加速したという歴史に学ぶべきである。系統組織の特徴は、JA段階では総合JA、連合会・中央会では事業が単営という点にあるが、長い歴史を経て現在のような形態となった。連合会・中央会の事業単営は事業の専門性・効率性の要求に見合うもので、歴史的に形成されてきた。民間非営利の協同組合経営を尊重して欲しいものだ。

3.「参考文献 荒幡克己『減反廃止-農政大転換の誤解と襄実』日本経済新聞出版社2015、石田信隆『「農協改革」をどう考えるか-JAの存在意義と果たすべき役割』 家の光協会2014、石田正昭『JAの歴史と私たちの役割』家の光協会2014、大泉一貫編著『農協の未来-新しい時代の役割と可能性』勁草書房2014、大下英治『内閣官房長官秘録』イースト新書2014、神門善久『日本農業への正しい絶望法』新潮新書2012、近正宏光『コメの嘘と真実-新規就農者が見た、とんでもない世界!』角川SSC新書、嶋崎秀樹『農業維新-「アパート型農場」で変わる企業の農業参入と地域活性』竹書房新書2014、立花隆『農協』朝日文庫1984、本間正義『農業問題-TPP後、農政はこう変わる』ちくま新書2014、山下一仁『農協解体 宝島社2014、このほか、農林水産省の各種資料・統計、JA全中『JAファクトプック2015』および各種資料、各地域農協、農林中金、JA共済連、大手銀行、大手保険会社のディスクロージャー誌、『朝日新聞』、『読売新聞』、『毎日新聞』、日本経済新聞』、『産経新聞』、『日本農業新聞』、『週刊東洋経済』、『週刊ダイヤモンド』の各紙誌を参考にした。」(223頁)

→(感想)立花隆の本を除けば、基本的には執筆の2~3年間に発行されたものを根拠に意見を述べていることになる。また、論者が偏っている方を中心に勉強されている感じが強い。共同通信社記者という有名マスコミの有能な記者が歴史の教訓に学ぶことなく、ここまで論じることに驚く。

 協同組合の市場経済における役割は、個々の存在だけでは市場から脱落せざるを得ない中小企業や自営業、消費者という小さな経済主体が、結びついてより大きな経済単位を形成し、大企業と対等な取引を行うことによって自らを守る「経済的弱者の自己防衛組織」である。農業生産法人をはじめとする大規模農業者だけを守ることは、協同組合たるJAとしては当然に取れない。また、耕作放棄地の問題解決にも地域農業を守ることにもならない。この辺りは、本ホームページの現場からの投稿である「レッサーパンダの二本立ち」に寄せられた2件のコメントを参照して欲しい。JAにあるのは地域農業であり、日本国全体の日本農業ではない。

 新自由主義にはこのような協同の思想はなく、経済的弱者は市場から脱落(市場から退場せよという言い方が多いかも)すればよいし、弱者が組織化して強者と対抗するのは市場原理のかく乱であると考える。中小企業は大企業の重要な下請であり、経済の二重構造を維持する程度に必要最低限の補助政策は支持している。日本の農業問題で言えば、市場のグローバル化の中で小規模農業を否定し、農業の企業化による規模拡大が間題解決の道だとする。小規模農家を守ろうとするJAも過去の遺物として排除しようという論理になるだろう。

 米市場開放反対運動時のマスコミの様子を思い起こすと、朝日新聞をはじめとする全国紙は、「消費者の立場」を標榜して農業を守る立場に反対した。TV番組も一斉に国産米の高価格を問題にし、カリフォルニア米の安さとおいしさを宣伝した。貿易赤字に悩むアメリカに対し、日本は貿易黒字の修正を迫られていた。経済界(マスコミのスポンサー)は、農産物輸入の拡大により貿易赤字を減らせば、これまで通り輸出拡大を継続できると考えていた。全国紙とは反対に、北海道、東北、北陸、九州など農業地帯の地方紙は、「米と農業を守る」姿勢を前面に出していた。

 協同組合と政治の関係を律するのは国際協同組合原則の第4原則「自治と自立」である。この原則はかつて「政治的・宗教的中立の原則」と呼ばれ、第2次世界大戦後の一時期、社会主義国と発展途上国の協同組合に配慮してこの原則を削除し、協同組合に対する信頼を低下させたことから再び復活した原則である。JAにおいては、この原則に対する態度は極めてあいまいであり、行政との一体化を通して政権与党を支持することを当然視してきた。都市側に農村やJAへの不信感が増幅してきた理由の一つがこの農村部の保守基盤にあるのではないか。

 2009年の衆議院選挙で民主党が政権をとったが自滅し、自民・公明連合政権の下で、TPP交渉参加、農協改革という反農業政策が進んだ。この間、安定兼業の増大、集落の混住化、後継者の高学歴化などの諸要因が農村市民社会(宇佐美繁の言葉)を登場させた。市民社会の特徴は価値観の多様化であり、JAの政治選択も政権与党支持から政治的中立に向かわざるをえない。政治的中立のスタンスを守ることが、現実政治のダイナミクスのなかで政治的利益を得ることにつながる。2016年の参院選挙は自公政権が勝利したが、東北6県のうち5県、新潟、長野、山梨、3人区の北海道では2人、の野党候補者が当選した。農政連が特定政党を推薦せず自主投票した結果であろう。JAはすでに政治過程に関わっているのである。

 先の農協法改正による中央会制度の廃止や准組合員の事業利用規制のあり方についての検討は、協同組合が行政や政治とどのように向き合っていくべきかを改めて掘り下げる機会となった。これまでJAは、限りなく行政や政治へ接近してきたのであるが、「政府の強烈な抱擁は協同組合運動にとってはしばしば死の接吻と化す」(A.F.レイドロー「西暦2000年における協同組合」)という名言が想起される。

(太田原高昭『新明日の農協-歴史と現場から一』(2016年12月、農山漁村文化協会)を道しるべに書きました。ここに記して感謝いたします。)

激動の時代-動かず見守るのか、動いて情報を集めるのか

1.激動する世界情勢

 EUは混乱の幕開け。英国がEUを離脱(ブレグジットBREXIT)し、国際社会に於ける立ち位置が低下。仏は黄色いベストデモが激しさを増し、燃料税削減、富に対する連帯税導入、最賃引き上げ、マクロン大統領の辞任を要求。独はメルケル首相の求心力が低下の懸念があるものの、メルケル・マクロンのいわゆるメルクロン体制の強さを維持か。伊ではポピュリズム政権。
 米はトランプ再選の可能性が高いと観測されていたものの、コロナ対応の批判もあってバイデン氏が選出されたが、米中貿易摩擦は継続か。日本に対しては、防衛予算の拡大、自動車の対米輸出、農産品の市場開放等について厳しい要求を継続するものとみられる。
 中国は、コロナウィルスの発生源とされるが、5G開発で世界を一歩リードしており、華為(ファーウェイ)、韓国の三星(サムスン)とともに宇宙を介したグローバル通信技術の覇者となって知的財産権問題も継続。香港台湾問題も解決せず。膨らんだ米ドル建て短期資金借入が米中貿易摩擦の継続により、対ドル為替で人民元安となり、デフォルトリスクの可能性。
 中東はイラン情勢やシリア情勢を中心とした中東情勢の緊張が高まるなかにあって、米は同盟国イスラエルとの連携の下、イラン包囲網を強化する動き。ロシア、トルコ、イスラエルを巻き込む形で中東リスクが発生する可能性。北朝鮮は、北京を射程に収める核爆弾を保有しており、習近平国家主席の北朝鮮説得工作が失敗すれば、究極では米中共同戦略によって、北朝鮮の金正恩政権から、金正南氏の子息を北朝鮮に送り、正式に北朝鮮の非核化を進めることで米国と合意との観測も(愛知淑徳大学ビジネス学部ビジネス研究科教授真田幸光氏)。韓国は文大統領(北朝鮮出身)が民族統一を主張。
 日本は、人手不足に対応する省力化投資・自動化投資、国土強靭化政策の拡大による公共投資の拡大の中で、短期基準金利は下げ。
 コロナウィルスの収束も見えず、政治不信は拡大。行き過ぎた信用創造により実体経済を上回る資金が市中に放出されバブル経済化。実体経済に対し余剰となっている資金が投機性資金となり、株式市場に大量に流れ込み、景気先行きに対する期待感などを中心に株価を押し上げ。不信感、不安感が発生すると、投機していた株が売られ、株価を下げながら借金返済を迫られることになる。
 新型コロナウイルスが財政出動を伴う対策によって収束したのち、政府は東北大震災後の時のように新型コロナ特別税等の増税も検討されよう。

2.総合JAを巡る動き

 2019年5月末で農協改革集中推進期間は終了したが、マイナス金利政策は継続。地銀再編、フィンテックとの競合激化、メガバンクを中心とするリストラが。全中の一般社団法人化により、経営指導権限がJAバンク(農林中金)へ一元化。ウォームハートの全中・県中からクールヘッドのJAバンクによる合理性優先の指導へと変化。JA自らが考え、意思決定しないと組合員の意思を反映しにくい合理化策となる危険。農林中金の奨励金引き下げは、0.05%×令和1~4年度で0.2%、貯金残高1,000憶円のJAで2憶円のインパクト。令和4年度には2/3のJAが赤字になるとの観測も。経済事業の赤字は、信用事業収支に悪影響を与えるリスク要因。事業取扱高管理から事業総利益管理へ、さらに事業利益管理へ転換することが必須。
 全中の全国監査機構監査から会計士監査へ移行したみのり監査法人は、令和3年にも金融庁検査を受検すると見られており、不振JA等にあっては無限定適正意見を貰えない可能性。その場合はJAの信用事業譲渡(代理店制度)等の問題が一挙に現実化・表面化する可能性。2015(平成27)年の農協法改正附則で2021(令和3)年3月31日までに准組合員の事業利用規制等の法改正を行うこととされており(注)、公権力が民間団体のあり方にここまで踏み込むことを許す現在のあり方が「市場主義」「新自由主義」か。
(注)改正農協法附則の正確な記述は、次の通り。
平成27年9月4日法律第63号改正農協法附則第51条(自主的な取組の促進及び検討)第3項
 政府は、准組合員(新農協法第16条第1項ただし書に規定する准組合員をいう。以下この項において同じ。)の組合の事業の利用に関する規制の在り方について、施行日から5年を経過する日までの間、正組合員(新農協法第12条第1項第1号の規定による組合員又は同条第2項第1号の規定による会員をいう。)及び准組合員の組合の事業の利用の状況並びに改革の実施状況についての調査を行い、検討を加えて、結論を得るものとする。

3.農林中金を巡る会社化の動き

 G-SIBs(注1)に指定されるとの観測もあり、その場合は農林中央金庫法を改正のうえ、自己資本増強を行う必要(バーゼル規制+TLAC(注2))規制により自己資本比率21.5%以上)。

(注1)G-SIBs Global Systemically Important Bankの略、グローバルなシステム上重要な銀行。日米欧などの金融当局で構成するFSB(金融安定理事会)が世界的な金融システムの安定に欠かせないと認定した銀行。リスク・アセットで一定水準の追加的な資本の積み立てを求めるなど、TLACの対象となる金融機関。FSBは2011年からG=SIBsの認定を行っている。日本では、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの3メガバンクが指定。農林中央金庫は、日本における重要銀行指定(D-SIBs)。

(注2)TLAC Total Loss-Absorbing Capacityの略で、総損失吸収力。FSBが制定した新たな資本規制の基準。破綻した場合に金融市場への影響が大きい巨大銀行に対して、経営難に陥った際に税金(公的資金)で救済しなくてすむように資本や社債の積み増しを求める規制。TLACに対応するために銀行がTLAC(債破綻時の損失を吸収できるよう予め発行する債券)を発行することが必須。

(注3)FSB 金融安定理事会(Financial Stability Board)は2009年(平成21年)4月に設立。金融安定理事会では、金融システムの脆弱性への対応や金融システムの安定を担う当局間の協調の促進に向けた活動などが行われている。2019年(令和元年)末時点で、主要25か国・地域の中央銀行、金融監督当局、財務省、主要な基準策定主体、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)等の代表が参加。事務局はBIS。

(注4)BIS Bank for International Settlements、国際決済銀行。1930年に設立された中央銀行をメンバーとする組織で、本部はスイスのバーゼル。ドイツの第1次大戦賠償支払に関する事務を取り扱っていたことが行名の由来。中央銀行間の協力促進のための場を提供しているほか、中央銀行からの預金の受入れ等の銀行業務を行っている。2019年(令和元年)6月末時点で、日本を含め60か国・地域の中央銀行が加盟。日銀は、1994年(平成6年)9月以降、理事会メンバー。

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