特定社会保険労務士 H&A’sコンサルタント 浅野公司さんの投稿ページです。

急がれる「非正規職員人事賃金制度」の整備
[多様な人材の活躍を活かし価値創造につなげる職務等級制度]
~ダイバーシティ経営の推進、一人ひとりに寄り添う人事~

農業法人の労務対策と就業規則の作成
~雇用労働者の労務管理と就業規則の作成実務~

第1章 農業法人の労務対策に関する基礎知識 
Ⅰ 農業法人の経営者に求められるリーダーシップと実務能力
Ⅱ 農業労働の特性と労働管理の視点 

第2章 労働者の雇用管理に関する基礎知識(採用から退職まで)
Ⅰ はじめに
Ⅱ 農労働者の募集・採用と労働社会保険手続き
Ⅲ 労働契約の締結
Ⅳ 労働契約の終了
第3章 労働法令の基礎知識 
Ⅰ 労働法とは
Ⅱ 労働時間の基礎知識
Ⅲ 休日・休暇の基礎知識 
Ⅳ 賃金・賞与・退職金の基礎知識 
Ⅴ 安全衛生・災害補償等と労災保険の基礎知識 
Ⅵ 多様な労働者に関する基礎知識 
Ⅶ 男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の基礎知識 
Ⅷ 労働施策総合推進法の基礎知識 
Ⅸ 個別労働紛争解決制度と公益通報保護法の基礎知識 

第4章 就業規則の基礎知識と作成(例) 
Ⅰ 就業規則の基礎知識 
Ⅱ 参考資料「就業規則の作成[本則](例)」 
参考資料「就業規則[本則](例)」

第5回

第4章 就業規則に関する基礎知識と作成(例)

1 就業規則の意義

就業規則は、使用者と労働者間の契約内容をまとめたものであり、その職場で働くにあたっての統一的なルールを明確にしたものである。

労基法は、就業規則の作成と届出について「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」としている。なお、就業規則の作成・届出義務に違反した場合は30万円以下の罰金に処せられる。また、就業規則の制定・変更権限は使用者にある。下掲の「機能・役割」にみるように就業規則の作成意義は大きいので、作成義務の有無にかかわらず、労働者を1人でも雇用する農業法人は就業規則を作成することが望まれる。(注)労働基準監督署。

□就業規則の機能・役割

○労働条件の統一化、画一的処理が可能
○労働条件の明確化により、労使の権利義務の不確実による争いの防止
○職場の秩序維持 ○労働条件の争いが発生した場合の解決の基準

2 意見聴取・周知

➀ 労働者代表への提示と意見聴取

就業規則の作成・変更に際して「労働者の過半数で組織する労働法人がある場合においてはその労働法人、労働者の過半数で組織する労働法人がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴く」ことを使用者に義務付けている(90条)。判例は「労働基準法第90条は、使用者は就業規則の作成変更について法人の意見を聴くことを命じているが、勿論法人の意見に拘束されることを予想するのではない」(昭24.10.20京都市交通局事件、京都地裁判決)としており、「意見を聴く」とは必ずしも同意を得なければならないということではない。反対の意見書の提出を受けたとしても、意見を聴いたことになり、適法に届け出ることができる。

② 労働者への周知手続

労基法106条は「使用者は、この法律及びこの法律に基づいて発する命令の要旨並びに就業規則を、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によって、労働者に周知しなければならない」と周知義務について規定している。この周知手続を遵守していない場合は「就業規則の効力は発生しない」とした判例(平10.10フジ興産事件最高裁二小判決、平10.9.7関西定温運輸事件、大阪地裁)がある。なお、周知義務違反には30万円以下の罰金(120条)が科される。法令で規定する周知方法は次のとおりである(106条、施行規則52条の2)。

ア)常時各作業場の見やすい場所に掲示又は備え付ける方法
イ)労働者に書面を交付する方法
ウ)磁気テープ、磁気ディスクその他これに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者がその記録の内容を常時確認できる機器を設置する方法

3 就業規則の記載事項

➀ 労基法の規定

就業規則の記載事項は「就業規則に必ず記載すべき絶対的必要記載事項」「定めをする場合は記載することが必要な相対的必要記載事項」、そして使用者が必要により定める「法定外(任意)記載事項」で構成されている。

なお、就業規則で規定する内容が複雑化していることから、1998(平成10)年改正で就業規則の記載事項すべてを別規則に定めることができるとされたので、就業規則本則で大綱、要旨と委任規定を設け、細則等については別規則で定めることができる。ただし「別規則は就業規則の一部となるもの」であり、別規則についても、作成、届出、周知等の諸手続きが必要である。

② 就業規則の記載事項

労基法が規定する絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項および法定外(任意)記載事項(例)は、次のとおりである。

□就業規則の記載事項

ア 絶対的必要記載事項
ア)始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
イ)賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
ウ)退職に関する事項(退職の事由とその手続、解雇の事由等)
イ 相対的明示事項
ア)退職手当に関する事項(適用者の範囲、退職手当の決定、計算、支払の方法・時期)
イ)賞与等・最低賃金額について定める場合には、これに関する事項
ウ)食費・作業用品等を負担させる場合には、これに関する事項
エ)安全・衛生に関する事項について定める場合には、これに関する事項
オ)職業訓練に関する事項について定める場合には、これに関する事項
カ)災害補償・業務外の傷病扶助について定める場合には、これに関する事項
キ)表彰・制裁について定める場合には、これに関する事項
ク)上記のほか、当該事業場の全労働者に適用される事項について定める場合には、これに関する事項
ウ 法定外(任意)事項
ア)企業の経営理念、就業規則の制定趣旨、根本精神を宣言した規定
イ)就業規則の解釈、適用に関する規定
ウ)指揮命令事項、就業上の規律、秩序維持、慶弔等福利厚生に関する事項など

4 労働条件を低下させる就業規則の変更

使用者が、就業規則を一方的に変更する場合、労働者の有利な内容に変更することは変更に反対する者もなく問題ないところである。しかし「労働条件を低下させ労働者の不利益になるように変更した場合における変更の有効性」や「労働者に不利益に変更した就業規則どおりに各人の労働契約は変更されることになるか」という点について、最高裁は「就業規則の変更を一定の範囲で認める不利益変更の法理」を確立している。

労働契約法は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りではない」(9条)、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働法人等との交渉状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」(10条)と、判例法理を踏まえた効力について規定している。

Ⅱ 参考資料「就業規則の作成(例)」

「労働者が安心して働ける明るい職場を作る」ことは、事業規模や業種を問わず、すべての事業場にとって重要である。

前述したように、就業規則の作成・届出義務が「常時10人以上の労働者を使用する使用者」とされていることから「義務が無いから作成しない」とする小規模企業経営者が多いが、労働条件等を巡るトラブルの多発が報告されている。

作成義務の有無に拘わらず就業規則を作成し、労働時間や賃金をはじめとした労働条件や待遇の基準と使用者が求める服務規律などをはっきりと定め、労使間のトラブルが生じないようにしておくことが大切である。作成にあたっては、社会保険労務士などに丸投げしないで、法人の役員自らが労働法令の知識を習得し就業規則の作成に関わることが実効性ある労務管理を遂行するうえで有益である。

以下、掲載した「就業規則(例)」は、筆者が、「やまぐち農業経営支援センター専門家」として派遣依頼を受けた農事組合法人の暫定案として作成したものである。なお、紙幅の都合等により、「就業規則(本則例)」のみとし、「ハラスメント防止規定」「賃金規程」「退職金規程」「育児介護等休業規程」「慶弔見舞金贈与規程」については省略した。

就業規則には「労基法で規定する必要記載事項」を盛込むことが必要であるが、労働条件は法人によって異なり、また記載方法等は作成者に委ねられているので、それらの前提条件等を踏まえたうえで、参考資料としてお読みいただきたい。

また、厚生労働省が「モデル就業規則」と「就業規則作成支援ツール」を公開しているので活用されたい。支援ツールは、モデル就業規則の条文に追記・変更を施しながら、オリジナルの就業規則作成が可能となるもので、厚労省は「就業規則の作成・改訂時には注意事項もありますので、就業規則についてのページをよく読んだ上でご活用ください」としている。

(厚生労働省:「モデル就業規則」「スタートアップ労働条件_就業規則作成支援ツール」で検索。)

参 考 資 料

「就 業 規 則[本則]」(例)

(注)「本則」という言葉は、他の規程と区分する目的で便宜上付したものである。

◇掲載した「就業規則(作成例)」は、筆者が農事組合法人の一例として作成したものです。 ◇適宜下線を付していますが、前提要件等を踏まえてお読みください。 ◇労使協定(例)を除く賃金規程等他の関連規程は、紙幅の都合で掲載を省略しました。  

農事組合法人〇〇〇

農事組合法人〇〇〇

施行 令和 年 月 日

就 業 規 則[本則](例)

〇経営理念

『地域の農業は地域で守る』 ・農事組合法人〇〇〇は、地域内の農業法人・集落営農組織と一緒になって、地域の自然を生かし、「農を中心とした潤いと活力ある住みよい地域社会づくり」に努めます。 ・農事組合法人〇〇〇、********************************************************。

第1章 総則

(目的)
第1条 この就業規則(以下「規則」という。)は、労働基準法(以下「労基法」という。)第89条に基づき、農事組合法人〇〇〇(以下「法人」という。)の正職員の就業に関する事項を定めるものである。

(職員の定義、種類)
第2条 職員とは、法人と労働契約を締結した者をいう。
2 職員の種類は、次のとおりとする。
① 正職員 次号以外の者で、本就業規則第2章第1節に定める採用に関する手続を経て、期間の定めのない契約により雇用する者。
② パートタイマー等 正職員より労働時間、又は労働日数が少ない契約により雇用する者、又は期間の定めのある者。

(適用範囲)
第3条 本就業規則は、前条第2項第1号に定める正職員に適用する。
2 前条第2項第2号に定めるパートタイマー等有期雇用職員については、その都度締結する「雇入れ通知書」による。

(規則の遵守)
第4条 法人は、この規則に定める労働条件により、職員に就業させる義務を負う。また、職員は、この規則を遵守しなければならない。

第2章 人 事

第1節 採用
(採用)
第5条 法人は、採用を希望する者の中から、書類選考、採用面接等の選考試験に合格し、所定の手続きを経た者を正職員として採用する。

(選考のための提出書類)
第6条 正職員として採用を希望する者は、次の各号に掲げる書類を提出しなければならない。ただし、法人が不要と認めた場合は、その一部の提出を省略することができる。
2 履歴書(自筆可能な者については自筆。提出日前3か月以内に撮影した写真貼付) 
3 その他法人の指定する書類

(採用の取消)
第7条 採用(採用内定者を含む。以下本条において同じ。)された者が、次の各号のいずれかに該当する場合は、その者の採用を取消すことができる。ただし、この規定は経歴詐称に関する懲戒解雇規定の適用を排除するものではない。
2 採用の前提となる条件(卒業、免許の取得等)が達成されなかったとき。
3 採用日までに健康状態が採用選考時より低下し、勤務に堪えられないと法人が判断したとき。
4 履歴書等の提出書類の記載事項に偽りがあったとき。
5 採用選考時後に犯罪、反社会的行為その他社会的な信用を失墜する行為を行ったとき、又は採用選考時に告知すべき事実を秘匿していたことが判明したとき。
6 採用選考時には予想できなかった法人の経営環境の悪化、事業運営の見直し等が行われたとき。
7 その他上記に準ずる又はやむを得ない事由があるとき。

(採用時の提出書類と身元保証)
第8条 法人は、新たに採用された者(採用内定者を含む。)に対し、法人の指定した日までに次の書類を提出させる。ただし、法人は、その一部の書類の提出を求めないことがある。
① 誓約書
② 身元保証書
③ 住民票記載事項証明書
④ 源泉徴収票
⑤ 雇用保険被保険者証
⑥ 年金手帳(基礎年金番号の分かるもの)
⑦ 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。)
⑧ 資格証明書の写し(ただし、資格証明書を有する場合に限る。)
⑨ その他法人の指示する書類
2 身元保証人は、経済的に独立した者で、法人が適当と認めた者2名とする。
3 身元保証の期間は、5年間とする。なお、法人が特に必要と認めた場合、その身元保証の期間の更新を求めることがある。

(試用期間)
第9条 新たに採用した者については、採用した日から6か月間を試用期間とする。
2 前項について、法人が特に認めたときは、この期間を短縮し、若しくは設けず、又は6か月を限度に延長することがある。
3 試用期間中に職員として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、採用後14日を経過した者については、労働基準法に定める解雇手続きによって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。

(各種届出義務)
第10条 職員は、次の事項に異動が生じた場合は、速やかに法人に届け出なければならない。
① 氏名
② 現住所、通勤経路・通勤手段
③ 扶養家族
④ 学歴、資格・免許
⑤ その他法人が必要と認めた事項
2 届出に遅滞があったことによる不利益は、原則として、職員が負うものとする。
3 届出に故意による遅滞、又は虚偽の記載があり、不正に給付を得たときは、法人はこれを返還させ、また懲戒処分の対象とすることがある。

第2節 出 張、異 動

(出張命令)
第11条 法人は、業務上必要がある場合に、職員に対し出張を命じることがある。
2 職員は、前項の命令に対し、正当な理由がない限り拒否することはできない。

(人事異動)
第12条 法人は、職員に対し、業務上の必要性により転勤、又は職種の変更を命じることがある。
2 職員は、前項の命令に対し、正当な理由がない限り拒否することはできない。

(出向)
第13条 法人は、職員に対し、業務上の必要性がある場合、他の法人等に出向を命じることがある。
2 出向元から復帰する際は、原則として原職に復帰するものとする。
3 職員は、第1項の命令に対し、正当な理由がない限り拒否することはできない。

第3節 休 職

(休職)
第14条 法人は、職員が次の各号の一つに該当するときは、休職を命ずることがある。なお、休職事由が業務外の傷病を原因とする場合には、その傷病が休職期間中の療養で、通常業務が遂行できるまでに回復する見込みが高いものに限る。
① 業務外の傷病により、欠勤が連続して30日以上、又は2か月以内に通算30日以上の欠勤があり、その傷病が治癒しないとき
② 業務命令により他法人等に出向したとき
③ その他法人が休職させる必要あると認めたとき
2 法人は、私傷病を原因とする休職の判断のために必要な場合は、職員に対し、法人が指定する医師との面談、法人が指定する医師の診断書の提出、又は家族等の関係者に情報提供を求めることができる。職員はこれに応じなければならない。
3 休職期間の算定においては、私傷病休職期間中に、新たな私傷病により就労不能が発生した場合は、これを従前の私傷病による就労不能とみなす。

(休職期間)
第15条 休職期間は、休職事由を考慮のうえ、次の期間を限度として法人が定める。
① 前条第1号の事由による場合
勤続1年未満の者      なし
勤続1年以上5年未満の者  3か月
勤続5年以上の者      6か月
② 第2号による場合       出向期間
③ 第3号による場合       法人が認めた期間
2 前項の休職期間は、法人が延長の必要性を特に認めた時は、その期間延長することがある。

(休職期間中の取り扱い)
第16条 休職期間中の給与は無給とする。
2 休職期間は、原則として勤続年数に参入しない。ただし、第14条第1項2号の休職事由による場合、又は法人の都合により休職させる場合は、勤続年数に参入する。
3 休職期間中の社会保険料の個人負担分については法人の指定した方法で指定した期日までに収めなければならない。
4 傷病による休職期間は、治療に専念するものとする。(これに反する場合は、休職期間を短縮することがある。)
5 私傷病よる休職期間は、本人、又は家族は1か月に1回は現況を報告するものとする。

(休職期間満了時の手続き)
第17条 休職期間満了までに休職事由が消滅しない場合は、休職期間満了をもって当然退職とする。ただし、法人の都合により休職させる場合は、この限りではない。
2 職員は、休職事由が消滅したとして復職を申し出る場合には、復職願を提出しなければならない。ただし、休職事由が私傷病を原因とするものである場合、休職事由が消滅したことを証明する医師の診断書を添えなければならない。
3 前項による診断書の提出に際して、法人が診断書を作成した医師に対する面談を求めた場合、職員は、これに協力しなければならない。
4 第2項の診断書が提出された場合でも、法人は法人の指定する医師の診断書の提出を命ずることがある。
5 復職後の職務は、原則として休職前と同一とする。ただし、従前の職場への復帰が困難、又は不適当と法人が認めた場合は、職務を変更することがある。この職務変更を命ぜられた者は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。
6 復職の可否は、種々の事情を総合判断して、法人が判断する。

(復職の取り消し)
第18条 職員が復職後6か月以内に同一ないし類似の事由により欠勤ないし通常の労務提供をできない状況に至ったときは、復職を取り消し、直ちに休職させる。
2 前項の場合の休職期間は、復職前の休職期間の残期間とする。

第4節 退職及び普通解雇

(当然退職)
第19条 職員が次の各号の一つに該当するときは、その日を退職の日としその翌日に職員としての身分を失う。
① 死亡したとき
② 休職期間が満了した時点で復職できないとき(法人の都合による休職の場合は除く。)
③ 法人に連絡がなく30日を経過し、法人が所在を知らないとき
④ 定年に達したとき

(定年退職)
第20条 職員の定年は、満65歳とし、定年に達した年の3月末をもって退職とする。

(自己都合退職)
第21条 職員が自己の都合により退職しようとする場合は、30日以上前に退職願を提出し、引き継ぎその他の業務に支障をきたさないようにしなければならない。
2 前項により、退職願を提出した者は、法人の承認がおりるまで従前の業務に従事しなければならない。

(普通解雇)
第22条 職員が次の各号の一つに該当するときは普通解雇とする。この場合は、少なくとも30日前に予告するものとする。ただし、予告の日数については、平均賃金を支払った日数分、短縮することができる。なお、労基法第20条第1項ただし書きの定める解雇予告除外事由がある場合は、解雇予告手当を支給しない。
① 身体又は精神の障害等により業務に耐えられないと認められたとき
② 能力不足又は勤務成績不良で就業に適しないと認められたとき
③ 勤務態度が不良で注意しても改善しないとき
④ 協調性を欠き、他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼすとき
⑤ 事業の縮小その他やむを得ない業務の都合によるとき
⑥ その他前各号に準ずる事由があるとき

第3章 勤 務

第1節 労働時間・休憩・休日

(所定労働時間及び休憩時間)
第23条 所定労働時間は、1日8時間、1週40時間以内とし、始業、終業時刻、及び休憩時間は、次のとおりとする。
① 始業時刻 午前8時15分
② 終業時刻 午後5時15分
③ 休憩時間 正午から午後1時
2 法人は、業務の必要性がある場合は、第1項の始業、終業時刻、及び休憩時間を繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合は、前日までに職員に通知するものとする。

(1か月単位の変形労働時間制)
第24条 前条の規定にかかわらず、職員の所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制により、1か月を平均して1週間あたり40時間以内とすることができる。また、業務の必要性がある場合は、始業、終業時刻、及び休憩時間を繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合は、前日までに各職員に通知するものとする。

1年単位の変形労働時間制
第25条 第23条及び第28条の規定にかかわらず、法人は、労働基準法第32条の4に基づき、職員代表と次の事項を定めた1年単位の変形労働時間制に関する労使協定を締結した場合は、当該協定の適用を受ける職員の所定労働時間及び休日については、1年単位の変形労働時間制労使協定に定めるところによる。この場合の1年間とは、毎年4月1日を起算日とした1年とする
   ① 対象となる職員の範囲
   ② 対象期間・起算日
   ③ 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの所定労働時間
   ④ 特定期間
   ⑤ 有効期間
2 前項の場合、締結した労使協定を就業規則に添付して就業規則の一部とする。
3 第1項の場合の始業・終業時刻については、前項で本就業規則に添付した労使協定に定めるところによる。
4 第3項に定めるほか、就業規則に定めのない項目は、本就業規則に添付した労使協定の定めるところによる。

(休憩)
第26条 休憩時間は、自由に利用することができる。
2 法人は、業務上の必要性がある場合は、前項の休憩時間を繰り上げ、又は繰り下げることがある。

(休憩時間中の外出)
第27条 職員は休憩時間中に事業場より外出しようとする場合は、事前に法人へ届け出るものとする。

(休日)
第28条 法人の休日は、次のとおりとする。  
① 土曜日
② 日曜日
③ 年末年始(12月27日から1月4日)
④ 盆休暇(8月13日から8月16日)
⑤ その他法人が休日と定めた日
2 前項の休日のうち、法定休日を上回る休日は所定休日とする。

(時間外及び休日労働) 
第29条 法人は、業務上の必要性がある場合、所定労働時間外、及び所定休日に労働を命じることがある。
2 やむを得ず時間外労働及び休日労働の必要性が生じた場合、職員は事前に法人に申し出て、許可を得なければならない。
3 妊娠中の女性、産後1年を経過しない女性職員(以下「妊産婦」という。)であって請求した者及び18歳未満の者については、第1項による時間外労働又は休日若しくは深夜(午後10時から午前5時まで)労働に従事させない。
4 災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合には、第1項及び3項までの制限を超えて、所定労働時間外又は休日に労働させることがある。ただし、この場合であっても、請求のあった妊産婦については、所定労働時間外労働又は休日労働に従事させない。

(休日の振替)
第30条 法人は、業務上の必要性がある場合は、あらかじめ所定休日を他の労働日に振り替えることがある。

(代休)
第31条 所定休日について、休日労働した職員に対し、法人の業務上の判断により、代休を付与することができる。
2 前項の代休が付与された場合、法定休日労働については、労基法所定の割増賃金のみを支払う。また、時間外労働に該当する場合については、労働基準法所定の割増賃金のみを支払う。

(事業場外労働みなし)
第32条 法人は、職員に対し、業務上の必要性がある場合、事業場外での労働を命ずることがある。
2 職員が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間、労働したものとみなす。

(遅刻・早退・欠勤)
第33条 職員は、交通遅延、私傷病その他やむを得ない理由により、遅刻・早退・欠勤となる場合には、あらかじめ法人に届け出をし、承認を得なければならない。
2 遅刻並びに欠勤につき事前に承認を得ることが難しい場合には、事後速やかに届け出をし、承認を得るものとする。

(医師の診断)
第34条 私傷病を理由に欠勤する場合、法人は、職員に対して、医師の診断書の提出を求めることがある。当該診断書が提出された場合であっても、必要があれば職員に対し、法人の指定する医師の診断を求めることがある。

第2節 休暇、休業

(年次有給休暇)
第35条 法人は職員に対し、採用の日より6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合、6か月を超えた日に10日の年次有給休暇を与える。その後1年間継続勤務するごとに、当該1年間において所定労働日の8割以上出勤した職員に対しては、下の表のとおり勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。

勤続期間6か月1年 6か月2年 6か月3年 6か月4年 6か月5年 6か月6年 6か月以上
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

2 職員は、年次有給休暇を請求する場合は、原則として1日前までに申し出をするものとし、希望する時季とその日数を、所定の様式により届け出なければならない。
3 法人は、職員が具体的な時季を指定して請求した場合には、指定された時季に年次有給休暇を与える。ただし、請求された時季が業務の正常な運営を妨げるときは、他の時季に変更することがある。
4 第1項の出勤率の算定に当たっては、下記の期間については出勤したものとして取り扱う。
① 年次有給休暇を取得した期間
② 産前産後の休業期間
③ 育児・介護休業法に基づく育児休業及び介護休業した期間
④ 業務上の負傷又は疾病により療養のために休業した期間
5 付与日から1年以内に取得しなかった年次有給休暇は、付与日から2年以内に限り繰り越して取得することができる。
6 前項について、繰り越された年次有給休暇とその後付与された年次有給休暇のいずれも取得できる場合には、繰り越された年次有給休暇から取得させる。
7 年次有給休暇を取得した場合は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う。
8 法人は、毎月の賃金計算締切日における年次有給休暇の残日数を、当該賃金の支払明細書に記載して各職員に通知する。

(法人による年次有給休暇の時季指定)
第36条 当年度において年次有給休暇付与日数が10日以上の職員については、当該職員の取得希望時季を踏まえ、5日について、付与した日から1年以内に時季を指定して取得させるものとする。この際、第35条3項の職員の請求による取得日数と第39条の計画付与日数は、5日から控除する。なお、半日単位の取得については2回を1日とし、1回の端数はカウントしない。

(年次有給休暇の半日単位での付与)
第37条 職員は法人が事前に承認した場合、半日単位で年次有給休暇を取得することができる。
2 半日単位の年次有給休暇の取得単位は、1日を午前、午後に分割した単位で取得するものとする。

(年次有給休暇の時間単位での付与)
第38条 前条の年次有給休暇の日数のうち、1年について5日の範囲で次により時間単位の年次有給休暇(以下「時間単位年休」。)を付与する。
2 時間単位年休付与の対象者は、すべての職員とする。
3 時間単位年休は1時間単位で付与する。
4 本条の時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。

(計画年休)
第39条 労使協定を締結した場合は、第35条3項の規定にかかわらず、職員が保有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
2 職員は、その保有する年次有給休暇のうち前項の労使協定に係わる部分については、その協定の定めるところにより取得しなければならない。

(特別休暇、取得手続)
第40条 職員は、次の各号に該当する場合、特別休暇を取得することができる。
① 本人が結婚したとき(入籍日より半年以内の取得に限る) … 7日
② 配偶者が出産したとき … 1日
③ 配偶者、子又は父母が死亡したとき … 3日
④ 兄弟姉妹、祖父母、配偶者の父母又は兄弟姉妹が死亡したとき … 1日
2 前項の休暇日数には、第27条の休日を含む。
3 職員は、第1項の特別休暇を取得しようとする場合は、法人に対し、事前に書面に申請し、その承認を得なければならない。ただし、やむを得ず事前に申請することができない場合は、事後速やかに申請し、承認を得ることとする。
4 第1項の特別休暇は、これを有給とする。

(育児、介護休業等)
第41条職員の育児、介護休業等の取扱いについては、「育児介護等休業規程」で定めるところによる。

第3章 女性職員の労働時間・休憩・休暇

(妊産婦である女性職員の労働時間の取り扱い)
第42条 法人は、妊娠中の女性職員及び産後1年を経過しない女性職員が請求した場合は、時間外労働、休日労働及び深夜労働をさせないものとする。
2 法人は、妊娠中の女性職員及び産後1年を経過しない女性職員が請求した場合は、法人が採用する変形労働時間制の定めにかかわらず、1週について40時間、1日について8時間を超えて労働させないものとする。

(産前・産後の休暇)
第43条 女性職員に対しては、本人の請求により、産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の休暇を与える。
2 産後は8週間の休暇を与え、産後8週間を経過しない女性職員を就業させない。ただし、産後6週間を経過した女性職員が就業を請求した場合においては、その者について医師が支障ないと認めた業務に就かせることがある。
3 法人は、妊娠中の女性職員が請求した場合は、他の軽易な業務に転換させる。その場合において、転換された業務に応じて賃金を変更することがある。
4 休暇中の給与は、無給とする。

(生理休暇)
第44条 女性職員が生理日の就業が著しく苦難な場合は、女性職員の請求により必要日数の生理休暇を与える。
2 前項の休暇は、これを無給とする。

(育児時間)
第45条 生後1年未満の子を育てる女性職員が請求した場合は、休憩時間のほか、1日2回、各々30分の育児時間を与える。
2 前項の育児時間は、これを無給とする。

(母性健康管理措置)
第46条 妊娠中及び出産後1年以内の女性職員から、所定労働時間内に、母子保健法に基づく保健指導、又は健康診査を受けるため申出があったときは、次の範囲で時間内通院を認める。
① 産前の場合
(ア)妊娠23週まで      4週間に1回
(イ)妊娠24週から35週まで 2週間に1回
(ウ) 妊娠36週以降     1週間に1回
ただし、医師、又は助産師(以下「医師等」という。)がこれと異なる指示をしたときは、その指示により必要な時間とする。
② 産後(1年以内)の場合
医師等の指示により必要な時間
2 妊娠中及び出産後1年以内の女性職員から、保健指導、又は健康診査に基づき勤務時間等について医師等の指導を受けた旨の申出があった場合は、次の措置を講ずる。
① 妊娠中の通勤緩和措置として、通勤時の混雑を避けるよう指導された場合は、原則として、1時間の勤務時間の短縮、又は1時間以内の時差出勤を認める。
② 妊娠中の休憩時間について指導された場合は、適宜休憩時間の延長や休憩の回数を増やす。
③ 妊娠中及び出産後の女性職員が、その症状等に関して指導された場合は、医師等の指導事項を遵守するために作業の軽減や勤務時間の短縮、休業等の措置をとる。
3 本条で規定する通院時間については、無給とする。

第4章 賃金及び退職金

(賃金)
第47条 職員の賃金に関する事項については、別に定める「賃金規程」に定めるところによる。

(退職金)
第48条 職員の退職金に関する事項については、別に定める「退職金規程」に定めるところによる。

第5章 服務規律 

(服務の原則)
第49条 職員は、法人の指揮命令に従い業務の効率化に努め、自らの職務についての責任を自覚し誠実かつ、職務に専念して、法人の諸規定を遵守し、お互いの人格を尊重して職場秩序を維持しなければならない。

(服務規律)
第50条 職員は、次に掲げる事項を常に守り、服務に精励しなければならない。
2 就業に関する事項
① 法人の指揮命令に従うこと。
② 残業をする場合は法人の許可、又は指示を得ること。
③ 関係各位に対し、業務に必要な報告、連絡、相談をすること。
④ 自己の職務の権限を超えて専断的なことを行ってはならない。
⑤ 勤務時間中は、職務に専念し、みだりに職場を離れたり、又は他の職員の業務を妨げる行為をしてはならない。
⑥ 勤務時間中に、私的な電話やメールをしてはならない。
⑦ 部下の管理監督、業務上の指導、又は必要な指示注意を怠らないこと。
⑧ 始業時刻と同時に業務を開始し、終業後は速やかに退所しなければならない。また、労働時間管理を受ける職員は、 始業、終業の際は法人が作成した出勤簿に出勤及び退勤の記録をしなければならない。
⑨ 遅刻、早退又は欠勤をしてはならない。ただし、やむを得ない事由による場合は、あらかじめ法人の承認を受けなければならない。遅刻又は欠勤について、緊急やむを得ず、事前に承認を受けることが出来ない場合には、事後速やかに法人にその旨を届け出て承認を得なければならない。
⑩ 職務上の地位を利用して不当に自己、又は第三者の利益を図ってはならない。
⑪ 職場の整理整頓に努め、常に清潔を保つようにしなければならない。
⑫ 酒気を帯びて勤務してはならない。
⑬ 髪型、服装、化粧は、職場、職務にふさわしい清潔な身だしなみに努めなければならない。
⑭ 法人の許可なく、業務に関係のない私物を事業所内に持ち込んではならない。
⑮ 勤務時間中、又は事業所内において法人の許可がある場合を除き、私用の業務を行い、又は他の職員に私用の業務を依頼してはならない。
⑯ 他の職員を教唆し、人をののしり、又は暴行を加えてはならない。また、上司、職員間において礼儀正しく粗暴、卑劣な言動をしてはならない。
⑰ 勤務時間中、又は事業所内において喧嘩、賭博その他これに類似する行為をしてはならない。
⑱ 事業所内外において痴漢行為ととられるような行為及びストーカー的な行為をしてはならない。
⑲ 所定の場所以外で喫煙をしてはならない。
⑳ 職員個人間の金銭の貸借、物品の販売等は原則として行ってはならない。
㉑ 業務外においても過労、病気、及び薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で車輌等を運転しないこと。 
㉒ 不正若しくは不正のおそれがある場合には、法人からの要請に応じ、調査に協力すること。
㉓ 業務の都合により、担当業務の変更、又は他の部署への応援を命じられた場合は、正当な理由なくこれを拒まないこと。
㉔ 法人の他の職員、派遣労働者、退職者、又は取引先、関係先の職員等が、不正を行い、又はまさに行おうとしている場合は、速やかに法人に相談し、又は通報しなければならない。
㉕ 反社会的勢力の威力を利用し、又は利益を供与してはならない。

3 法人の財産の管理に関する事項
① 事業所内において法人の許可なく政治活動、宗教活動及び演説、集会、文書等の配布、回覧、掲示並びにこれらに類する行為をしてはならない。
② 法人の許可なく、業務以外の目的で法人の施設、車輌、機械、事務機器、備品等を使用し、又は外部に持ち出してはならない。
③ 法人の施設、車輌、機械、事務機器、備品等は紛失や壊わすことのないように、丁寧、大切に取り扱わなければならない。
④ 消耗品は常に節約に心がけなければならない。
4 職員の地位、及び身分に関する事項
① 常に品位を保ち、法人の名誉を害し、信用を傷つけるような行為をしてはならない。
② 兼業をする場合は、法人に事前に届け出なければならない。(公の職務に立候補する場合も同様とする。)ただし、業務に著しい影響を及ぼすおそれがある場合は、兼業を禁止する場合がある。
③ ボランティアなどの公益的行為であっても、法人の勤務に支障を及ぼすおそれがあると認められるときは、法人の事前の許可を得なければならない。
④ 法人の許可なく、通勤に私有車等を利用してはならない。
⑤ 法人が秘密として管理している情報のほか、法人の事業活動に影響を及ぼし得る情報で公然と知られていないもの(以下「企業秘密」。)は、在職中又は退職後にあっても、業務外の目的で使用し、又は他に開示し、若しくは漏えいしてはならない。
⑥ 業務に関する事項について、法人の許可なく特許その他の出願・著作・講演等をしてはならない。
5 その他① 前各号のほか、これに準ずる事項により、企業秩序を乱し、又は乱すおそれを生じさせてはならない。

(ハラスメントの禁止)
第51条 セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント事項については、別に定める「ハラスメント防止規程」に定めるものとする。

(所持品の確認)
第52条 法人は必要と認めるときは、職員に対して、所持品の確認を求めることがある。職員は、この確認を正当な理由なく拒否してはならない。

(秘密保持)
第53条 職員は、在職中、又は退職後において企業秘密、職務上知り得た個人情報(特定個人情報を含む。)を正当な理由なく開示し、漏洩してはならない。
2 職員が退職する場合は、在職中に知り得た企業秘密に関する資料等をすべて法人に返還しなければならない。

(情報関連機器の管理)
第54条 職員は、情報関連機器の使用に関し、次の事項を守らなければならない。
① 事業所内外を問わず、業務に使用する情報関連機器においてファイル交換ソフト、その他情報管理上問題が発生する可能性があるソフトウェアをインストールしないこと
② 法人の企画案、ノウハウ、データ、ID、パスワード等を第三者に開示、漏洩しないこと
③ 機密と指定された情報等を記録する媒体物につき、法人の許可なくコピー、複製、撮影等をしないこと。
④ 情報関連機器からアクセスすることができる機密情報について、許可なくコピー、プリントアウト、その他複製及び他の情報関連機器やネットワークにデータ送信等をしないこと。
2 情報関連機器を紛失、又は破損した場合は直ちに、情報漏えいの防止対策を行うとともに法人に報告しなければならない。

(消去命令)
第55条 職員がしたネット上の掲示版・SNS等の書き込み等について、法人が当該書き込みの内容が法人の信用を失墜、又は業務に支障を及ぼすおそれがあると認められるときは、消去を命じることができる。

(貸与パソコンの私用禁止・モニタリング)
第56条 法人が貸与した情報関連機器は、業務遂行に必要な範囲で使用するものとし、私的に使用してはならない。
2 法人が必要と認める場合は、職員に貸与した情報関連機器の内外、及びクラウド上に保存されたデータ等を閲覧・監視することができる。

(携帯電話の利用)
第57条 職員は、就業時間中に、個人の携帯電話を私的に使用しないようにしなければならない。
2 法人から携帯電話を貸与された職員は、その携帯電話を私的に使用してはならないものとする。

第6章 安全衛生

(安全衛生の義務)
第58条 職員は、安全衛生に関する法令、及び法人の指示を守り、法人と協力して労働災害の防止に努めなければならない。
2 職員は、安全衛生の確保のため、特に下記の事項を遵守しなければならない。
① 機械設備、工具等の就業前点検を徹底すること。また、異常を認めたときは、速やかに法人に報告し、指示に従うこと。
② 安全装置を取り外したり、その効力を失わせるようなことはしないこと。
③ 防護具の着用が必要な作業については、必ず着用すること。
④ 喫煙は、所定の場所以外では行わないこと。
⑤ 立入禁止、又は通行禁止区域には立ち入らないこと。
⑥ 常に整理整頓に努め、通路、避難口、又は消火設備のあるところに物品を置かないこと。
⑦ 火災等非常災害の発生を発見したときは、直ちに臨機の措置をとり、法人に報告し、その指示に従うこと。
3 職員は法人が実施する安全衛生教育を受けなければならない。

(各種健康診断の受診)
第59条 職員は、雇い入れの際及び1年に1回(深夜業等、特定有害業務に従事する者は6か月ごとに1回)、法人の指定する医師による定期健康診断を受けなければならない。ただし、自己の選択した医師による定期健康診断の結果を提出したときはこの限りではない
2 職員は、前項に規定する定期健康診断の結果に異常の所見がある場合には、法人の指定する医師による再検査を受診し、その結果を法人に報告しなければならない。

(法定外健康診断受診義務)
第60条 法人は、就業に影響のある心身の故障、傷病の疑いのある場合には、職員に対し、指定する医師の健診を命じることがある。

(主治医の面談等)
第61条 法人が主治医の面談が必要なとき、又は前条の健康診断の再検査が必要なときは、職員はその実現に協力するものとする。

(面接指導等)
第62条 法人は、次の各号の該当する職員からの申し出によりその者に対し、医師による面接指導を行う。
① 週40時間を超える労働が1か月80時間を超え、疲労の蓄積、又は健康上の不安を有していると認められる者
② 前号のほか事業場で定める基準にあたる者
2 第1項の面接指導実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た職員の秘密を漏らしてはならない。
3 法人は、必要と認める場合は第1項に該当しない場合でも、法人の指定する医師又は保健師の保健指導を受けるよう命令することがある。

(配置転換等の措置)
第63条 法人は、本章に規定する健康診断、再検査その他の健診に基づく医師の意見及び職員の実情等からその必要があると認めるときは、法人の実情を考慮し当該職員の就業場所の変更、作業の転換、労働時間も短縮、深夜業の回数制限等の措置を講ずる場合がある。
2 職員は前項の措置に従わなければならない。

(自己保健義務)
第64条 職員は、勤務に支障のないよう、健康の維持、増進及び傷病予防に努め、健康に支障を感じた場合、必要な事項について医師その他の健康管理者の指示・指導等を受けなければならない。
2 職員は、健康状態に支障を感じた場合は、速やかに法人に申し出るとともに、医師の診察を受けその回復に努めなければならない。

(病者等に対する就業禁止等)
第65条 法人は、次の各号のいずれかに該当する職員については、就業を禁止する。
① 病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者
② 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく憎悪するおそれのある疾病にかかった者
③ 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定める疾病にかかった者
④ 前各号の他、感染症法等の法令に定める疾病にかかった者
2 前項の規定にかかわらず、法人は、当該職員の心身の状況が業務に適しないと判断した場合、その就業を禁止することがある。
3 第1項及び第2項の就業の禁止の間は無給とする。

(報告義務)
第66条 職員は、職員本人、並びに同居の家族、又は同居する者が伝染性の疾病にかかった場合、又はその疑いがある場合は、直ちに法人に報告しなければならない。

第7章 懲 戒

(懲戒の種類及び程度)
第67条 法人は、職員が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
① 譴責……始末書を提出させて将来を戒める。
② 減給……始末書を提出させて将来を戒めるとともに、賃金を減ずる。
この場合、減給の額は1事案について平均賃金の1日分の半額とし、複数事案に対しては減給総額が当該賃金の支払期間における賃金総額の10分の1を超えないものとする。
③ 出勤停止……始末書を提出させて将来を戒めるとともに、14労働日以内の期間を定めて出勤を停止し、その期間の賃金は支払わない。
④ 降格・降給……始末書を提出させて将来を戒めるとともに、職位を解任もしくは引下げる。また、これに伴い、基本給の減額改定を行うことがある。
⑤ 諭旨解雇……懲戒解雇相当の事由がある場合で本人に反省が認められるときは、解雇事由に関し本人に説諭して解雇することがある。諭旨解雇となる者には、その状況を勘案して退職金の一部を支給しないことがある。
⑥ 懲戒解雇……予告期間を設けることなく即時解雇する。ただし、労働基準法第20条第1項但し書の定める解雇予告除外事由がある場合には、解雇予告手当を支給しない。懲戒解雇となる者には、その状況を勘案し、退職金の全部または一部を支給しない。

譴責、減給、出勤停止及び降格の事由)
第68条 職員が次の各号の1つに該当するときは、その情状に応じ、譴責、減給、出勤停止または降格に処する。
① 正当な理由なく、繰り返し遅刻、早退をしたとき。
② 正当な理由なく、無断外出、又は無断欠勤をしたとき。
③ 著しく態度が悪く、又は正当な理由なく上司に反抗したとき。
④ 各種届出義務に違反したとき。
⑤ 出勤簿等の記録、休暇等の申請に虚偽があったとき。
⑥ 他の職員等が不正を行い、又はまさに行おうとしている場合に、速やかに法人に報告しなかったとき。
⑦ 正当な理由なく、法人の指揮命令に従わないとき。
⑧ 正当な理由なく、法人が命じる時間外労働、休日労働、出張、研修命令を拒んだとき。
⑨ 安全又は衛生に関する規定に違反し、指示に従わなかったとき。
⑩ 正当な理由なく、法人が行う調査に従わなかったとき。
⑪ 正当な理由なく、法人の健康診断命令に従わなかったとき。
⑫ 法人又は他の職員の業務を妨げる行為をしたとき。
⑬ 法人の許可なく、事業以外の目的で、法人の敷地、建物、機械、車両、什器、備品等を、使用、占有、汚損し、又は使用不能等にしたとき。
⑭ 法人の許可なく、勤務時間中、又は事業所内において法人の業務と関係のない業務を行い、若しくは職務を懈怠し、他の職員にこれを行わせたとき。
⑮ 髪型、服装、化粧等、職場、職務にふさわしい清潔な身だしなみで就業しなかったとき。
⑯ 本条に別に掲げるもの以外の行為により、職場の秩序、風紀を乱したとき。
⑰ 酒気を帯びて勤務したとき。
⑱ 自己の職務の権限を超えて専断的なことを行ったとき。
⑲ 「ハラスメント防止規程」に違反したとき。
⑳ 経理を不正処理したとき。
㉑ 業務の遂行を怠り、又は業務に必要な報告等を偽り、又は怠り、法人に損害、影響を与えたとき。
㉒ 過失により、法人の物品を損壊し、又はコンピュータをウィルス感染させ、法人に損害を与えたとき。
㉓ 過失により、法人の金品を紛失し、若しくは盗難に遭ったとき。
㉔ 過失により、物品の出火、爆発を引き起こしたとき。
㉕ 業務中に、飲酒、薬物、疾患、過労等の影響により、正常な運転ができないおそれがある状態で車輌等を運転したとき。
㉖ 業務上車両を使用する場合及び業務外で法人所有車両を使用する場合において、交通法規に違反し、若しくは交通事故を起こしたとき。
㉗ 法人の許可なく、法人内において政治活動、宗教活動及び演説、集会、文書等の配布、回覧、掲示並びにこれらに類する行為を行ったとき。
㉘ 職員個人間の金銭の貸借、物品の販売等を行い、職場の風紀を乱したとき。
㉙ 情報関連機器を紛失、又は破損した場合において、直ちに情報漏えいの防止対策を行なわず、又は法人に報告せず、法人に損害を与えたとき。
㉚ 法人の許可なく、業務に関する事項について、特許その他の出願、著作、講演等を行ったとき。
㉛ 部下の管理監督、業務上の指導、又は必要な指示注意を怠ったとき。
㉜ 法人の名誉を害し、又は信用を傷つけるような行為をしたとき。
㉝ 兼業により、就業に支障を及ぼしたとき。
㉞ 企業外非行行為により法人の名誉、信用を著しく損ない、又は法人に重大な損害を及ぼし、又は法人の秩序が大きく乱されたとき。
㉟ 私生活上、重大な交通違反をし、職員としての対面を汚したとき。
㊱ 前各号に掲げる不都合な行為に関し、共謀、又は教唆したとき。
㊲ その他業務上の指示、又は法人の諸規程に違反したとき。
㊳ その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき。

(諭旨解雇及び懲戒解雇の事由)
第69条  職員が次の各号の1つに該当するときは、その情状に応じ、諭旨解雇または懲戒解雇に処する。ただし、改悛の情が顕著に認められること、過去の勤務成績が良好であったこと等を勘案し、前条の処分にとどめることがある。
① 正当な理由なく、法人が命じる転勤、配置転換、職種変更、昇職、降職等の人事命令を拒んだとき。
② 暴行、脅迫、名誉毀損その他これに類似する行為により職場内の秩序若しくは風紀を乱したとき。
③ 「ハラスメント防止規程」に著しく違反したしたとき。
④ 勤務時間中、又は事業所内において賭博その他これに類似する行為をしたとき。
⑤ 反社会的勢力の威力を利用し、又は利益を供与し、法人の信用を毀損、又は企業秩序を乱したとき。
⑥ 公務員等に贈賄行為を行った場合。
⑦ 法人の金銭、又は物品を窃取、詐取、横領、又はこれに類する行為をしたとき(他に、これらを行わせた場合を含む)。
⑧ 虚偽の届出をするなどして諸給与を不正に受給した場合、又は故意に諸給与を不正に支給したとき。
⑨ 職務に関し、不当に自己、又は第三者の利益を図ったとき。
⑩ 経理を不正処理し、利益を得、又は法人に重大な損害、影響を与えたとき。
⑪ 故意に、法人の物品を損壊し、又はコンピュータをウィルス感染させ、法人に重大な損害を与えたとき。
⑫ 故意又は過失により、法人の金品を紛失し、若しくは盗難に遭った場合で、法人に重大な損害を及ぼしたとき。
⑬ 故意又は過失により、物品の出火、爆発を引き起こした場合で、法人に重大な損害を及ぼしたとき。
⑭ 業務中に、飲酒、薬物、疾患、過労等の影響により、正常な運転ができないおそれがある状態で車輌等を運転し、事故を起こしたとき。
⑮ 業務上の報告等を偽り、又は怠り法人に対して重大な損害、影響を及ぼしたとき。
⑯ 業務上車両を使用する場合、又は業務外で法人所有車両を使用する場合において、重大な交通法規に違反し、若しくは重大な交通事故を起こしたとき。
⑰ 法人の重要な営業秘密、又は企業秘密を外部に漏らしたとき、あるいは漏らそうとしたとき、又は法人及び他法人の重要な秘密を不正に入手したとき。
⑱ 法人の名誉を害し、又は信用を著しく傷つけるような行為を行い、法人に重大な損害を及ぼしたとき。
⑲ 学歴や職歴他、重大な経歴等を偽り、採用、又は継続雇用の可否を判断するのに必要な申告に偽りがあり、法人の判断を誤らしめたとき。
⑳ 法人に許可なく、競業法人に雇い入れられる等の兼業したとき。
㉑ 企業外非行行為により、法人の名誉、信用を著しく損ない、法人に重大な損害を及ぼしたとき、又は企業秩序が著しく乱されたとき。
㉒ 私生活上、危険運転等重大な交通違反により交通事故をおこし、職員としての対面を著しく汚したとき。
㉓ 前各号に掲げる不都合な行為に関し、共謀又は教唆したとき。
㉔ 前条各号に該当する行為を反復し、悔悛の情が認められないとき、又は行為態様が悪質、若しくは損害、影響が重大であるとき。
㉕ その他業務上の指示、又は法人の諸規程に著しい違反したとき。
㉖ その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき。

(懲戒前調査)
第70条 法人は懲戒被疑行為が生じた場合は、職員及び関係者のロッカー、デスクの引き出し、法人が貸与する情報関連機器の調査をすることがある。
2 職員及び関係者は前項の調査に協力しなければならない。

(懲戒前出勤拒否の措置)
第71条 職員の行為が懲戒解雇事由に該当し又はそのおそれがある場合、調査又は審議決定するまでの間、出勤を拒否することがある。
2 前項の場合、出勤拒否の期間の休業手当は、平均賃金の100分の60とする。

(弁明の機会)
第72条 懲戒解雇になるおそれがある職員については、原則として事前に弁明の機会を与える。

(懲戒の減軽)
第73条 情状酌量の余地があり、又は非違行為が発覚する前に法人に対し自主的に申し出る等改悛の情が認められる場合は、懲戒を減軽し、又は免除することがある。

(教唆及び幇助)
第74条 職員が、他人を教唆し又は幇助して第68条又は第69条に掲げる行為をさせたときは、行為者に準じて懲戒に処すものとする。

(懲戒の加重・併科)
第75条 次の各号の事由に該当する場合には、その懲戒を加重する。
① 非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき、又は非違行為の結果が極めて重大であるとき。
② 非違行為を行った職員が管理、又は監督の地位にあるなど役職者であるとき。
③ 非違行為による法人に及ぼす影響が特に大きいとき。
④ 過去に類似の非違行為を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがあるとき。
⑤ 同時に二つ以上の懲戒事由該当行為を行っていたとき。
2 法人が必要と認めた場合は、第67条の懲戒について、これを併科することがある。

第8章 災害補償

(災害補償及び通勤災害)
第76条 法人は、職員が業務上の事由、又は通勤により負傷し、疾病にかかり、又は死亡した場合は、当該職員に対し、労基法及び労働者災害補償保険法に定めるところにより災害補償を行う。

(裁判員等のための休暇)
第77条 職員が裁判員若しくは補充裁判員となった場合又は裁判員候補者となった場合には、次のとおり休暇を与える。
① 裁判員又は補充裁判員となった場合    必要な日数
② 裁判員候補者となった場合        必要な時間
2 裁判員等のための休暇の期間は、これを無給とする

第9章 公益通報者保護

(公益通報者の保護)
第78条 法人は、職員から組織的又は個人的な法令違反行為等に関する相談又は通報があった場合には、関係法令等に定めるところにより処理を行う。

第10章 表彰及び慶弔

(表彰)
第79条 職員が次の各号の一つに該当する場合は、代表理事の決裁を経て、これを表彰することができる。
① 業務に誠実で他の模範となる場合、または業務能率が著しく優れているとき
② 業務上有益な工夫・考察・改良または発明をしたとき
③ 災害を未然に防止し、または非常の際に特に功労のあったとき
④ その他特に表彰の必要を認めたとき
2 前項の表彰は、次の方法によってこれを行う。
① 表彰状及び商品又は賞金の授与
② 特別昇給または昇格
③ 特別有給休暇

(慶弔見舞金)
第80条 職員の慶弔、罹病、罹災の際はそれぞれ慶弔見舞金を支給する。
2 前項の慶弔金等の具体的内容については、別に定める「慶弔見舞金贈与規程」による。

第11章 雑則

(規則の運用)
第81条 この規則で定めなき事項は、代表理事がこれを決定する。

(改  廃)
第82条 この規程の改廃は、理事会の議決をもって行う。

附  則
本規則は、令和 年 月 日から施行する。

(別紙)

  1年単位の変形労働時間制に関する労使協定書(例)

 農事組合法人〇〇〇(以下「法人」。)と労働者代表○○○○は(以下「職員代表」。)は、就業規則第25条(1年単位の変形労働時間制)に関し、次のとおり協定する。

(原則)
第1条 令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日までの1年間の所定労働時間は、就業規則第25条の規定に基づき、本協定で定める1年単位の変形労働時間制によるものとし、1年間を平均し、1週40時間以内とする。

(適用対象)
第2条 本協定による変形労働時間制は、次のいずれかに該当する職員を除き、全従業員に適用する。
① 18歳未満の年少者
② 妊娠中または産後1年を経過しない女性職員のうち、本制度の適用免除を申し出た者
2 次の者については、本人の申し出により、業務の都合等事情を考慮したうえ、特別の配慮をする。
① 育児を行う者
② 介護休業規程により介護を行なう者
③ 職業訓練または教育を受ける者
④ その他特別の配慮を要する者

(就業時間、休憩)
第3条 第1条の期間中の所定労働時間、始業、終業の時刻及び休憩時間は、次の通りとする。

区 分所定労働時間始業時刻終業時刻休憩時間
4月~11月9時間午前8時午後6時正午から午後1時
12月~2月6時間30分午前9時午後4時30分同上
3月7時間午前9時午後5時同上

(休 日)
第4条 変形期間における休日は、別紙「年間カレンダー」のとおりとし、毎年2月末日までに職員に通知する。

(特定期間)
第5条 特定期間は、〇月から〇月とする。

(時間外・休日労働)
第6条 法人は業務の都合上やむを得ない事情がある場合には、所定労働時間を超え、または休日に労働を命ずることがある。
② 前項による労働については、賃金規程第〇条及び第〇条に基づき割増賃金を支払う。

(割増賃金)
第7条 変形期間の途中で採用された者、出向等で転入した者、退職する者等については、その者の実際に労働した期間を平均して1週あたり40時間を超えた労働時間分について、労働基準法第32条の4の2の規定に基づく割増賃金を支払う。

(有効期間)
第8条 本協定の有効期間は、令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日までとする。

令和  年  月  日

農事組合法人〇〇〇代表理事           印

農事組合法人〇〇〇職員代表           印

(注)この「労使協定例」は、厚労省モデル様式を参考にして作成したものです。

第4回

第3章 労働法令の基礎知識

Ⅰ 労働法とは

1 憲法と労働法

労働法は、憲法14条(法の下の平等)、19条・20条・21条(思想、信教、表現の自由)、22条(職業選択の自由)、25条(文化的生活の享受)、27条(勤労の権利)、27条2項(労働条件)、28条(労働基本権)などを受け、個々の法律として制定された諸種の法律を総称した言葉である。

労働に関する法律は多岐にわたっているがその中で重要なものとして、労働時間・休日など労働条件の最低基準を定める「労働基準法(労基法)」、賃金の最低基準を決める「最低賃金法(最賃法)」、職場での男女差別等を禁止する「男女雇用機会均等法」、労働法人の権利などを定める「労働組合法(労組法)」、職場の安全や衛生基準などを定める「労働安全衛生法(安衛法)」、労働者が業務中に怪我をしたり業務が原因で病気になったりしたとき等の補償を定める「労働者災害補償保険法(労災保険法)」などがある。また、育児・介護と労働を調和させるため「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」、働き方の多様化に対応した労働者派遣法、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」などもある。

□労働法の体系(省略)

2 労働法の特徴

➀ 労働法は民法に優先

市民社会は「契約自由の原則」で成立している。しかし、使用者と労働者に契約の自由を認めたらどうなるだろうか。「使用者と労働者は実質的には対等ではない」から、民法の原則がそのまま適用されると大変なことになってしまう。

例えば、労働契約の解約について、民法は「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」(627条)としており、然るべき理由があれば使用者はいつでも解雇することが可能であるが、それでは労働者の生活が成り立たない。そこで、労基法は「30日前の予告」または「30日分の平均賃金の支払い」を使用者に義務付けている。「労働法は民法に優先して適用」される。

② 労働法は労働者保護法

労働法、とりわけ労基法は、労働者の保護を目的とする法律である。労基法の条文は、「使用者は○○してはならない」という内容になっている。これは、労働者は「被雇用者の地位で経済的、社会的に弱い立場にある」ため、法律で労働条件の最低基準を規定したためである。また、労組法は、労働者が労働法人を結成して「集団の力で対抗する」ことを認めている。労働法は「弱者たる労働者の地位を使用者と同列に引き上げる」ためのキーの役割を果たすものといえる

③ 労働法を構成する法律(抄)

 労働法を構成する主要な法律は、制定目的・役割の視点から次のように分類される。

□労働法を構成する法律(抄)

ア)労働条件の基準に関する法律(労働条件の最低基準を定めた労働者保護を目的とする法律)
○労働基準法(略称:労基法) ・労働条件の最低基準を定めたもの
○最低賃金法(略称:最賃法) ・賃金の最低基準を定めたもの
○賃金の支払の確保等に関する法律(略称:賃確法) ・賃金の保全措置を定めたもの
○短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用 管理の改善等に関する法律(略称:パートタイム・有期雇用労働法) ・短時間・有期雇用労働者について、その適正な労働条件の確保、雇用管理の改善、通常の労働者への転換の推進、職業能力の開発及び向上等に関する措置等を定めたもの(
○育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(略称:育児・介護休業法) ・子供の養育・家族介護のための休業制度や短時間勤務制度などを定めたもの
イ)雇用の確保・安定のための法律(労働力需給、労働力不足解消や失業防止策等を規定する法律)
○労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(略称:労働者派遣法) ・労働者派遣事業の運営と派遣労働者の適正な労働条件や環境整備事項について定めたもの
○高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(略称:高年法) ・定年年齢や継続雇用制度などについて定めたもの
○障害者の雇用の促進等に関する法律(略称:障害者雇用促進法) ・障害者の雇用義務、職業の安全を図る措置を定めたもの
ウ)労働関係に関する法律(労働者と使用者間の紛争の解決方法などを規定する法律)
○労働組合法(略称:労組法) ・労働法人の権利などを定めた労働者の集団に適用される事項を定めたもの ○労働関係調整法(略称:労調法) ・労働関係の公正な調整を図り労働争議を予防し又は解決するための手続きを定めたもの
○個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(略称:個別労働紛争解決促進法) ・個々の労働者と事業主との紛争の解決に関する事項を定めたもの
エ)その他労働関係一般に関する法律
〇労働者災害補償保険法(労災保険法). ・通勤、業務災害に関する保険給付などについて定めたもの
○労働安全衛生法(略称:安衛法) ・労働災害防止対策など、労働者の安全と健康確保の基準を定めたもの
○雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(略称:男女雇用機会均等法) ・男女の均等な雇用機会および待遇の確保を図ることを定めたもの
○労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(略称:労働施策総合推進法) ・「雇用対策法」が、2018年6月、題名を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」に改められ、更に2019年5月、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」により、パワーハラスメント防止対策規定を盛込む等の改正が行われたことから「パワハラ防止法」とも呼ばれている。

(注)「分類基準」は筆者によるもの。

④ 労働基準法と労働契約法

ア 労基法

ⅰ 労基法は最低の基準を定めた強行規定

1947(昭和22)年4月に成立した労基法は、憲法第25条1項の生存権、27条2項の勤労条件の基準を具体化したもので、「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」(1条)としている。法律条文には「任意規定」と「強行規定」の性格をもつものがある。任意規定は、法律条文に定められている基準より不利な特約を締結してもそれを有効とするものであるが、強行規定は、その条文の基準を下まわる特約は無効とする。なお、法律の基準を上まわる労働条件は、当事者の「契約自由」である。

ⅱ  監督組織と労働者の申告権

労基法の実効性を確保するため、厚生労働省に労働基準局、各都道府県の行政区域ごとに都道府県労働局、各都道府県労働局の管内に労働基準監督署が設置されており、労働基準監督官が労働基準関係法令に係る行政事務を行っている。

労働基準監督官に対しては、法律で「臨検」と呼ばれる強力な権限が賦与されており、労働法令違反に対しては刑事訴訟法に基づく司法警察員の職務を担っている。また、監督機関の臨検だけでは本法の目的が達せられない場合もあることから、労基法は「事業場に、労働基準法令に違反する事実がある場合には、労働者は、その事実を行政官庁または労働基準監督官に申告することができる」(104条)とする労働者の申告権を認めている。この場合、「使用者は、申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」とされている(同)。

ⅲ 労働基準監督官による臨検と是正勧告等

労基法101条は「労働基準監督官が、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる」と規定し、労働基準監督官に、事業場、寄宿舎その他の附属建設物への立入調査権、帳簿および書類、証拠物件などの提出要求権、事業主や労働者に対する尋問権、報告命令権、出頭命令権、事業所の附属寄宿舎に関する即時処分権などの権限を与えている。この「臨検」の結果、使用者に交付される文書として「是正勧告書」と「指導票」がある。

「是正勧告書」は、労働基準監督官が法違反に該当すると判断した事項を記入して、是正するよう勧告するための文書をいい、「指導票」は、法違反ではないが改善を図らせる必要のある事項があった場合、改善すべき旨記入して当該事業所に対して交付する文書である。なお、是正勧告書は、「命令書」ではなく、事業主側の是正が義務付けられるものではないが、そのまま放置して勧告に応じない場合には、労働基準監督官が司法警察権を行使し、法違反として司法処理に移行するケースもある。

□臨検の種類

ア)定期監督 監督署の年度計画と行政課題にもとづき、定期的に行われる
イ)災害調査 重大災害が発生したときに行われる
ウ)災害時調査 事業主から提出された「労働者死傷病報告」にもとづき、随時行われる
エ)申告調査 労基法104条1項、安衛法97条1項による労働者申告を契機とした査察
オ)再監督 重大な法違反の事案について、改善状況を再臨検して確認を行うもの

ⅳ 労基法の構成

労基法は全13章で構成され、「労働者の保護」を目的とし、「使用者が守るべき最低限のルール」を定める旨を謳っている。

□労働基準法の構成

第1章総則(第1条~第12条) ・労働条件の原則、定義規定(差別禁止、「労働者」「賃金」などの基本的用語について規定)
第2章 労働契約(第13条~第23条) ・労働基準法違反の契約の効力、労働条件の明示義務、解雇予告と解雇予告手当の支払い
第3章 賃金(第24条~第28条) ・賃金の支払いについての原則
第4章 労働時間・休憩・休日及び年次有給休暇(第32条~第41条) ・週40時間、1日8時間の原則、変形労働時間制、三六協定、有給休暇について規定
第5章 安全及び衛生(第42条) ・「労働安全衛生法」に委任
第6章 年少者(第56条~第64条) ・未成年者の採用、満18歳未満の男女の労働時間
第6章の2 女性(第64条の2~第68条) ・産前産後の休暇、育児時間、生理日の休暇など
第7章 技能者の養成(第69条~第73条) ・技能習得を目的とする労働者に家事その他、技能習得に関係ない労働を禁ずるなど、徒弟の弊害排除や職業訓練に関する規定(職業能力開発促進法)
第8章 災害補償(第75条~第88条) ・業務上の傷病・死亡などの労働災害による保障に関する規定(労働者災害補償保険法)
第9章 就業規則(第89条~第93条) ・就業規則の作成手続き、労働協約との関係
第10章 寄宿舎(第94条~第96条) ・事業付属寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならない等の規定と安全衛生
第11章 監督機関(第97条~第105条) ・監督組織、労働基準監督官の権限や義務の規定
第12章 雑則(第105条の2~第116条) ・労働者名簿や賃金台帳等に関する規定、就業規則の周知義務の規定、権利の消滅、時効など
第13章 刑罰(第117条~第121条) ・労働基準法の各条項の遵守がなされるよう、違反に対する罰則とその内容

イ 労働契約法

ⅰ 労働契約法の意義

労働契約法は、労働契約を解釈・適用するうえでの原則や解釈基準(ルール)を定めた法律で「労働法の土台」を支える重要な役割を担う法律と位置付けられている。厚生労働省は「これにより、紛争が防止され、労働者の保護を図りながら、個別の労働関係が安定することが期待されます」としている。

ⅱ 労働契約法と労働基準法の関係

労働契約法と労働基準法は、下掲図のような関係にある。労基法には罰則が規定されており、国が使用者を取り締まる(=労働者保護する)ための法律であるのに対して、労働契約法は、使用者と労働者の関係を民事的に規律するための法律である。

□労働基準法と労働契約法(省略)

Ⅱ 労働時間の基礎知識

1 労働時間の基本

➀ 労働時間の意義

労働時間とは、労働者が「使用者の指揮監督下に入って労働契約に基づき労働を提供する時間」である。したがって、これに該当しない時間は、いかに仕事をしていても、法律上の労働時間ではない。

例えば、労働者自らの意思で始業時刻前に出勤して、担当する仕事をした場合は、上司から命じられたものではなく上司の指揮監督下にある労働ではないので、その時間は「法律上の労働時間」とはいえない。本人にとっては、“ただ働き”ということになるかもしれないが、法律的にはそのように解釈される。

② 法定労働時間

労基法は「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」(32条)と労働時間に関する基本的なルールを規定しており、これを「法定労働時間」という。この1週40時間、1日8時間は「休憩時間を除く実労働時間」をいい、「1週間と1日の2つのシバリ」がなされている。

また、1週間とは、月曜日から日曜日までとか、火曜日から月曜日までなどと、就業規則その他で定めがあればその定めによるが、特別な定めがない場合は「日曜日から土曜日までの暦週」、1日は「原則として午前0時から午後12時までの暦日24時間」をいう。なお、「特例措置適用事業所(下記業種で常時10人未満の労働者を使用する事業場)は、2001(平成13)年4月に週所定労働時間が44時間に短縮され、今日に至っている。

□特例措置適用事業

ア)商業(卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業)
イ)映画・演劇業(映画の映写、演劇、その他の映画・演劇業)
ウ)保健衛生業(病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業)
エ)接客娯楽業(旅館、飲食業、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽

③ 所定労働時間

企業は、就業規則で「各事業所における1週と1日の労働時間」を具体的に定めているが、これを「所定労働時間」と呼んでいる。各事業所が定める所定労働時間は法定労働時間を上回ることはできないので、所定労働時間は法定労働時間と同じか、法定労働時間より短い時間となる。

④ 拘束時間と休憩時間

拘束時間とは「始業から終業までの休憩を含む時間」である。拘束時間には法律概念がなく、したがって長さに関する制限もないので、いくら休憩を長くとって拘束時間を長くしても、法的には差し支えない。もちろん拘束時間が長いと、心身ともに緊張状態が継続されるので、労働者の福祉および労働意欲向上の視点から好ましくないことは言うまでもない。実働時間は「拘束時間から休憩を除いた時間」である。休憩時間は、労働者が労働時間の途中において、休息のために完全に労働から解放されることを保障されている時間である。

□労働時間の態様(省略)

⑤ 指揮・命令下の労働

労働者が「使用者の明示または黙示の指揮・命令ないし指揮命令下に置かれている時間」は、具体的労働に従事していなくても労働時間となるある時間が「労働時間なのかそうでないのか」といったことが問題になる場合は、「使用者の指揮命令の下にある時間」という定義に該当するか否かによって判断され、就業規則などの規定内容で決まるものではない。

したがって、例えば「わが法人の朝礼は始業時刻前に行う。従業員は参加しなければならない」と朝礼の出席が強制され、参加しないと不利益があるような場合は「使用者の指揮監督下にある労働時間」ということになる。

「労働基準法第32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」

□指揮・命令下説(客観説) (平12.3.9三菱重工長崎造船所事件、最高裁第1小)

□参考「労働時の具体例 [行政解釈・判例(抄)]

[準備・後片付け・移動など] ・始業前・終業後の作業服・保護具等の着替えや着脱に要する時間は労働時間に該当するが、休憩時間中の作業場から控え室までの往復の歩行や保護具等の着脱、作業終了後の入浴や着替え等に要する時間は労働時間に該当しない。(三菱重工長崎造船所事件.最一小判.平12.3.9) ・自宅(職場)と訪問先との間の移動時間は、労働時間に該当せず通勤時間となる(平21.2.16日本インシュアランスサービス事件、東京地判)。
[研修・小集団活動など] ・研修については、行政解釈で「使用者が実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取り扱いによる出席の強制が無く自由参加のものであれば、時間外労働にはならない」(昭26.1.20.基収285号、平11.3.31.基発168号)とされているが、参加しないと業務に支障を来たしたり、人事考課の対象となっているのであれば業務性が高まるものと考えられている。 ・出席が義務づけられている場合、法定の安全教育(労働安全衛生法第59条、第60条、昭47.9.18基発602号)や法令に基づくもの(消防法第8条など)は使用者の責任で行われるものであり、労働時間と考えられている。
[仮眠時間] ・仮眠時間が労働時間に該当するか否かについて、「仮眠時間中、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務づけられているのであり、その必要の発生が皆無に等しいなど実質的に義務づけられていないと認める事情もないから、仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとは言えず、労働時間である」とされた(平14.2.28大星ビル管理事件、最一小判)。  
[帰宅後の呼び出しへの対応] ・終業後、緊急の用務のため呼び出し再出勤させた場合は、残業扱いとしなければならない。このように中断があっても、1日につき通算して8時間を超える時間は時間外労働とされる。その時間が午前零時をまわり翌日にかかっても、前日の継続勤務として扱われるので、午前零時以降の時間も割増賃金の対象となる。(昭28.3.20基発136号)。
[徹夜残業(翌日の始業時まで残業したら)] ・「徹夜残業して翌日の始業時刻に達したときは、始業時刻までを残業とし、その始業時刻以後は翌日の正規労働時間とされる」(昭28.3.20基発136号)ので、前日の残業は翌日の始業時刻をもって終わる。

(資料:厚労省・大阪府HP)

2 時間外労働と36協定

➀ 法定時間外労働と所定時間外労働

労基法32条は「1週40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならない」と法定労働時間について規定しており、これを超えて労働させることを「法定時間外労働」という。

一方、各企業が就業規則等で定める所定労働時間を超える労働を「所定時間外労働」といい、これは法律上の時間外労働ではない。したがって、就業規則で所定労働時間を「7時間30分(拘束8時間)」としている事業場の場合、実労働時間が法定労働時間(8時間)に達するまでの30分は「時間外労働」とはならない。この30分の労働を「法内残業」と呼んでいる。

また「週単位」では、週法定労働時間が40時間の事業場で「実労働時間が40時間を超える場合」はその超過時間が「法定時間外労働」となる。

② 時間外労働の上限規制

「働き過ぎを防ぎながら、ワーク・ライフ・バランスと多様で柔軟な働き方を実現します」という目的の下、2018(平成30)年6月に労基法が改正され、36協定で定める時間外労働に罰則付きの上限が設けられた。大企業は2019(平成31)年4月、中小企業は2020(令和2)年4月に施行された。

今回の改正で、「原則として、月45時間・年360時間」という「時間外労働(休日労働は含まず)」の上限が法律で規定され、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができないとされた。また、原則である月45時間を超えることができるのは年間6カ月までとされ、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも「年720時間以内、月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均では80時間以内(休日労働を含み、2か月平均、3カ月平均、4カ月平均、5カ月平均、6カ月平均が全て1月当たり80時間以内)」が時間外労働の上限となった。なお、法違反の有無は「法定外労働時間」の超過時間で判断される。

③ 時間外・休日労働を適法に行うための要件(「36協定」の締結と届出)

労働時間・休日については、1日8時間、1週40時間および週1回の休日が原則であるが、労基法36条は「労使協定をし、行政官庁(労働基準監督署長)に届け出た場合」においては「その協定に定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働することができる」として、時間外労働と休日労働を行う場合の手続きを規定している。

この規定による「時間外・休日労働協定」のことを、法律の条項をとって「36(サブロク)協定」と呼んでいる。36協定で、「時間外労働を行う業務の種類」や「1日、1カ月、1年当たりの時間外労働の上限」などを決めなければならない。

④ 「36協定」未締結の残業命令は違法

36協定の締結と届出は、時間外・休日労働を適法に行うための手続きであり、これによって、使用者は労働者に時間外労働または休日労働をさせても「使用者は刑事上の免責を得る」こととなる。しかし、36協定の締結がされていない場合の残業命令は違法となり、労働者はこれに従う義務はない。使用者が、36協定を締結・届出しないで時間外労働や休日労働をさせた場合は、36条1項による免責効果が生じない結果として、労働時間、休日の原則を定めた32条・35条の違反が生じ、「6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」としている(119条)。

⑤ 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

厚労省は、2017(平成29)年1月20日、「労働時間の適正な把握のための使用者向けの新たなガイドライン」を策定した。使用者は労働時間を適切に管理する責務を有しているが「労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの)の不適正な運用に伴い、割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題が生じている」など、使用者が労働時間を適切に管理していない現状も見られることから「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにすることにより、労働時間の適切な管理の促進を図るもの」としている。重要な項目につき、以下、厚労省リーフレットから抜粋・整理した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」を掲載する。

□労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

その1 始業・終業時刻の確認・記録 使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。 ・使用者には労働時間を適正に把握する責務があります。 ・労働時間の適正な把握を行うためには、単に1日何時間働いたかを把握するのではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これを基に何時間働いたかを把握・確定する必要があります。
その2 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法 使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。 (ア)使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。 ・「自ら現認する」とは、使用者自ら、あるいは労働時間管理を行う者が、直接始業時刻や終業時刻を確認することです。なお、確認した始業時刻や終業時刻については、該当労働者からも確認することが望ましいものです。 (イ)タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。  ・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基本情報とし、必要に応じて、例えば使用者の残業命令書及びこれに対する報告書など、使用者が労働者の労働時間を算出するために有している記録とを突き合わせることにより確認し、記録して下さい。また、タイムカード等の客観的な記録に基づくことを原則としつつ、自己申告制も併用して労働時間を把握している場合には、その3に準じた措置をとる必要があります。
その3 自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置 その2の方法によることなく、自己申告制により行わざるを得ない場合、以下の措置を講ずること。
(ア)自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
(イ)実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
(ウ)自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
(エ)自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。 (オ)自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
その4 賃金台帳の適正な調製 使用者は、労働基準法第108条及び同法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第120条に基づき、30万円以下の罰金に処されること。
その5 労働時間の記録に関する書類の保存 もちろんのこと、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となる事業場の措置がないか、また、労働者等が慣習的に労働時間を過小に申告していないかについても確認する必要があります。 ・労働基準法第109条においては、「その他労働関係に関する重要な書類」について保存義務を課していますが、始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類もこれに該当し、3年間保存しなければならないことを明らかにしたものです。具体的には、使用者が自ら始業・終業時刻を記録したもの、タイムカード等の記録、残業命令書及びその報告書、労働者が自ら労働時間を記録した報告書などが該当します。なお、保存期間である3年間の起算点は、それらの書類ごとに最後の記載がなされた日となります

(資料:厚労省「労働時間の把握労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)

3 変形労働時間制

➀ 労働時間基本ルールの例外(変形労働時間制)

労基法は「1日について8時間」「1週間について40時間」という労働時間の基本ルールを規定する一方で、一定の条件の下、変形労働時間制を認めている。変形労働時間制は、一定の単位期間について、週当たりの平均労働時間が週法定労働時間の枠内に収まっていれば、1週または1日の法定労働時間の規制を解除することを認める制度である。変形労働時間制の種類は、変形期間に応じて「1カ月単位の変形労働時間制」「フレックスタイム制」「1年単位の変形労働時間制」「1週間単位の非定型的変形労働時間制」がある(32条の2~33条)。

② 1カ月単位の変形労働時間制

例えば「月初めや月末が決まって忙しい」という事業所の場合、「1週間40時間」「1日8時間」という法定労働時間の枠組みを機械的に当てはめると、月初めまたは月末には決まって法定労働時間を超えて働くことが必要となる。労基法は「労働協定または就業規則その他これに準ずるものにより、1カ月以内の一定期間を平均して、1週間当たり労働時間が週の法定労働時間(40時間)を超えない定めをした場合、特定された週において1週の法定労働時間、また特定された日の法定労働時間(8時間)を超えて労働させることができる」(第32条の2)という1カ月単位の変形労働時間制度を設けている。

変形労働時間制を採用し、変形期間内の各週・各日の所定労働時間を「1ヶ月の所定労働時間の合計が法定労働時間の総枠を超えないような勤務体制」にすれば、特定の週に所定労働時間を50時間と、また特定日の所定労働時間を10時間としても時間外労働とはならない。

③ 1年単位の変形労働時間制

ア 1年単位の変形労働時間制とは

1年以内の期間を単位とする変形労働時間制は、1年以内の期間を単位として、その間の時季的な業務量の繁閑に応じて「業務繁忙期には所定労働時間を多く設定し」「業務閑散期には所定労働時間を少なく設定する」ことにより所定労働時間を合理的に配分し、結果として年間単位における休日増による労働時間短縮を図る目的で導入された制度である

1年単位の変形労働時間制は、繁忙期には、1日単位で8時間を超えて労働させても、あるいは、1週単位で40時間を超えて労働させても残業代が発生せず、その代わり、閑散期には、その超える分を差し引いて労働させるというものである。つまり、繁忙期と閑散期の労働時間を貸借し、帳尻を合わせるというイメージである。

1年単位の変形労働時間制が策定された趣旨は、季節などによって業務量の繁閑の差が大きい業種において、労働時間の貸借をすることにより、労働時間の効率的な配分を可能とし、労働者の総労働時間の短縮を図るというものである。この趣旨のもとで、昭和62年の改正法により3カ月単位の変形労働時間制が誕生した。しかし、3カ月という短期間では効率的な分配が困難であることから、平成5年の改正法で、 最長期間が1年に延長されたという経過がある。その後、平成10年の改正法を経て、現在の形になった。

厚生労働省の通達では、1年単位の変形労働時間制は、予め繁閑を見込んだうえで労働時間を分配していることから、恒常的な残業はないことを前提としている。したがって、法人が定めた所定労働時間を超える残業が常に発生しているような場合は、制度の趣旨に反しているということになる。

□平成6.1.4基発第1号(抄)

あらかじめ業務の繁閑を見込んで、それに合わせて労働時間を配分するものであるので、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度であること。

労基法は「一定事項について労使協定を締結することにより、1カ月を超え1年以内の一定期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲で、特定された週において40時間、特定された日において8時間を超えて労働させることができる」(32条の4)と規定している。

イ 1年単位の変形労働時間制採用の要件

労基法で規定している要件は、「労使協定の締結」「労使協定に必要な事項が定められていること」「労使協定の届出」の3点である(第32条の4)。労使協定には、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日を規定することになるが「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日」は就業規則の絶対的必要記載事項なので具体的に記載しなければならない。

ウ モデル労使協定を用いた所定労働時間等の設定例(コメの栽培)

1年単位変形労働時間制を理解するため、水稲栽培を行う法人の「所定労働時間等の設定例」について考えてみたい。法人の繁忙期は、苗づくり、耕起、田植、防除、刈り取り、乾燥、出荷を行う4月から11月、12月から翌年の2月までは閑散期、3月は通常期として設定する。法人の経営者は「繁忙期はできるだけ多く出勤し長時間労働してもらい、その分、閑散期はできるだけ多く休日を取得し短時間労働で構わない」という考えで「繁閑に応じた各月の所定労働時間」を具体的に設定することになる。

法人の「繁閑期等」の内容とそれに基づいて作成した「モデル労使協定を用いた所定労働時間等の規定(例)」は以下の通りである。

□表1 「繁閑期等」の設定

123456789101112
閑散期閑散期通常期繁忙期繁忙期繁忙期繁忙期通常期繁忙期繁忙期繁忙期閑散期

□表2 「モデル労使協定による所定労働時間等の規定(例)」

(就業時間、休憩)

第〇条 第〇条の期間中の所定労働時間、始業、終業の時刻及び休憩時間は、次の通りとする。

区 分所定労働時間始業時刻終業時刻休憩時間
4月~11月9時間午前8時午後6時正午から午後1時
12月~2月6時間30分午前9時午後4時30分同上
3月7時間午前9時午後5時同上

ところで、1年単位変形労働時間制の採用に際しては「対象期間の総労働日数」「1日及び1週間の労働時間」「対象期間の総労働時間」などのチェックが必要となるが、静岡労働局のホームページで、分かり易く又エクセルシート版による勝手の良い関連資料が公開されているので紹介しておきたい。その一部である「1年単位の変形労働時間制によるチェックカレンダー(記入例)」を、次ページに参考資料として掲載する。

□参考資料「1年単位の変形労働時間制によるチェックカレンダー」(省略)

(出典:静岡県労働局HP)

4 みなし労働時間制(事業場外労働と裁量労働)

➀ みなし労働時間制とは

外回りの営業職や専門的な知識・技能を要する業務など、就業形態の多様化に伴い、画一的な労働時間制度になじまないタイプの労働者が増加している。そこで、労基法は「これらのような業務に係わる労働時間について通常の労時間の算定は困難である」ことから、労働時間の算定について特例的な取り扱い方法を認めている。みなし労働時間制には「事業場外労働」と「裁量労働」の2つの形態がある(裁量労働については説明省略。)

② 事業場外労働

事業場外で業務に従事しているため、使用者の直接の指揮・監督下を離れ、正確な労働時間を計算できない場合、原則として「所定労働時間労働したもの」とみなす制度である。労基法は「労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」(38条の2第1項)と規定している。

なお、次の場合は「使用者の具体的な指揮監督が及んでいるものと考えられる」(昭63.1.1基発1号)としてみなし労働時間制は適用されない。

□行政解釈(昭63.1.1基発1号)

ア)何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合。 イ)事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル(携帯電話)等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合。 ウ)事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示通りに業務に従事し、その後事業場に戻る場合。                  

5 深夜労働

➀ 深夜労働とは

深夜労働とは「午後10時から翌日の午前5時までの時間帯の労働」である。深夜労働は時間外労働とは異なり36協定は必要ないが、深夜労働が所定労働時間内の労働である場合でも2割5分以上の割増賃金の支払いが義務付けられている(37条4項)。俗に「深夜割増”5割”」といわれるが、これは時間外労働が深夜に及び、時間外労働としての2割5分に深夜(午後10時から翌日の午前5時まで)割増2割5分が加算され(労基法施行規則19条)合計5割になるということである。

② 深夜労働の制限

深夜労働は、労基法により女性および年少者については禁止されていたが、1999(平成11)年4月から、女性の禁止措置が廃止され男性と同一の取扱いになった。ただし、満18歳未満の年少者は交替制によって労働する場合等を除き、禁止されている。また、妊産婦が請求した場合、育児および介護のための深夜業の制限として小学校就学前の子を養育する労働者または要介護状態の対象家族を介護する労働者が請求した場合も一定の労働者を除き禁止されている。

③ 管理監督者の深夜労働と割増賃金

 労基法上の管理監督者については「労働時間・休憩・休日に関する規定は適用されない」(41条)が、割増賃金の支払義務を定めた37条は「深夜に労働させた場合に割増賃金を支払うべき」ことを規定している。

6 休憩

➀ 休憩時間の意義

休憩時間は「労働者が労働時間の途中で休みのために労働から解放されることを保障されている時間」である。継続した労働による肉体的・精神的疲労を労働の中断によって回復させることによる作業能率の向上や労働者の健康な生活の確保などを目的とし、「労働者にとって生活の場でもある職場における社会的・文化的な生活の保障」という意義を有している。

② 休憩時間付与の原則

労基法は「労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分」「8時間を超える場合は少なくとも1時間」の休憩を、労働時間の途中に与えることを使用者に義務付けている(34条)。なお、休憩時間を分割して与えることは禁じられていない。休憩時間は、労働者が権利として労働から離れることができる時間、使用者の指揮命令のない自由が保障されている時間であり、いつ使用者から就労の指示があるかもしれない状態で待機している手待ち時間、事務所などで休憩時間中の来客・電話当番に従事している時間などは該当しない。

通達は「休憩時間とは単に作業に従事しない手待時間を含まず労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間の意であって、その他の拘束時間は労働時間として取扱うこと」(昭22.9.13基発17号)としている。

③ 一斉休憩の例外

労基法は「休憩時間は、一斉に与えなければならない」としている(34条2項)。これは、休憩の効果を上げるための措置であるが、次のような例外が認められている。

ア 業種による一斉休憩付与の例外

次の事業は「一斉休憩付与の例外」とされているので、就業規則等で交替による休憩を定めることができる(40条1項、施行規則31条)。

イ 労使協定による一斉休憩付与の例外

「一斉に休憩を与えない労働者の範囲と労働者に対する休憩の与え方」について書面による労使協定を締結した場合は、休憩を一斉に付与しなくてもよいとされている(34条2項)。

 ④ 自由利用の原則

労基法は、休憩時間とは「権利として労働から離れることを保障した時間」であり「自由に利用させることが必要」としている(34条3項)。ただし「自由利用」といっても、休憩時間は「始業から終業までのいわゆる拘束時間中の時間」であるから「休憩時間の利用について事業場の規律保持上必要な制限を加えることは、休憩の目的を害わない限り差し支えない」(昭22.9.13基発17号)。また、休憩時間中の外出を所属長の許可制とすることは「事業場内において自由に休息し得る場合には必ずしも違法にはならない」(昭23.10.30基発1575号)。

⑤ 農業法人の休憩時間の設定

屋外作業主体の農業は、「休憩時間を設けなくても何時でも自由に休憩がとれる」ということから「わざわざ法律で規制する必要がないだろう」という理由で労基法の適用除外となっているが、農業法人における付与実態は、他産業並みの休憩時間を付与しており、また、農業は体力を消耗する労働が主体であるため、昼休み(1時間)に加え、午前と午後にそれぞれ15分程度の休憩時間を設けているケースもある。 (出典:全国農業経営支援社労務士ネットワーク研修会資料)

□農業法人の休憩時間の付与(例)(省略)                         

7 労働時間、休憩、休日の適用除外

➀ 適用除外される者

労基法上の労働時間・休憩・休日の法規制は「主として製造業における生産労働者を念頭においたもの」であり、事業や業務によって特別な取扱いを必要とする場合があり、次の者には適用されない(41条1号~3号)。

ア)農林、水産等の事業の労働者(林業を除く)(1号)
イ)監督若しくは管理の地位にある者(2号)
ウ)機密の事務を取り扱う者(2号)
エ)監視または断続的労働者(ただし行政官庁の許可を要件とする)(3号)

Ⅲ 休日・休暇の基礎知識

1 休日

➀ 休日の原則と決め方

休日とは、労働契約において「労働義務のない日」として定められている日である。

労基法は「毎週少くとも1回の休日を与えなければならない」(35条1項)という原則に加え、「4週間を通じ4日以上の変形休日制とする場合は、必ずしも毎週1回与えなくてもよい」(同条2項)という変形休日制を認めている。また、休日は就業規則に規定しければならない(89条1号)。この場合、休日を何曜日とか何月何日などと特定することまで法律は義務付けていないが「特定することが望ましい」としている(昭23.5.5基発682号)。

② 法定休日と所定休日

労基法35条で義務付けられた休日を「法定休日」という。法定休日は日曜日に限定されないので、各事業所の就業実態に応じて自由に設定することができる。また、各企業が任意で設けている「土曜日」「創立記念日」「年末年始休日」などの休日を「所定休日」と呼んでいる。週休2日制を採用する企業は「法定休日1日、所定休日1日、合計で週2日の休み」となるが、法定休日であれ、所定休日であれ「労働者にとって労働義務がない」という点においては両者に違いはない。

③ 祝日は休日か

 祝日は「国民の祝日に関する法律(昭和23年7月20日法律第178号)」定められており、政府・地方自治体等行政機関や金融機関などは休日としている。しかし、「民間企業が祝日を休日としなければならないという法律上の義務づけはなく」(昭41.7.14基発739号)各企業の自由裁量で定めることができるが、国が法律をもって祝日を制定した趣意にかんがみ、その他企業においても休日とすることが望ましいとされている。なお、行政機関と銀行の休日については、それぞれ法令で規定されている。

④ 休日の振替と代休

仕事の都合で「休日」に仕事をし、通常の労働日に休むことがある。「代休」や「振替休日」といわれるものであるが、その違いは次のとおりである。

ア 休日の振替とは

休日の振替は「休日を労働日と振り替える」というものである。具体例で説明すると、日曜日の休日に労働し、休日を通常の労働日の月曜日に振り替えた場合は「日曜日が労働日となり月曜日が休日に振り替わる」ことになる(昭23.4.19基収1397号、昭63.3.14基発150号)。これにより4週4日の休日が確保される限り、従来の休日に労働させても休日労働とはならず、36協定の締結・届出と割増賃金の支払いも不要である(昭22.11.27基発401号)。ただし、休日振替の結果、労働時間が週40時間を超えた場合は、その超過部分は時間外労働となる。

イ 休日の振替を行う要件

休日の振替を適法に行うためには、就業規則に規定すれば、振替に労働者の同意がなくても実施できる(昭27.7.31基収3786号)。

□休日を振替えるための要件

ア)労働契約、就業規則、労働協約等で、休日を振り替えることがある旨の規定があること。 イ)規定には、振替を行う場合の具体的事由、振替日の指定方法などが定めてあることが望ましい。      

ウ 休日労働と代休

代休は「休日に労働させて休養させなかったので、代わりに休養を与える」というもので、通達は「休日労働した後にその代償として労働日の労働義務を免除するもの」としている(昭23.4.19基収397号、昭63.3.14基発150号)。代休と振替休日を混同する事例が見受けられるが、代休は、事前の振替えを行うことなく、例えば「休日である甲日に労働させ、その代わりに乙日に休ませるもの」であるため「休日である甲日の労働は休日労働と評価」され、その結果「休日労働規制が適用」され「割増賃金の支払い」が必要となる(37条)。

エ 割増賃金の支払義務がある休日労働

割増賃金の支払義務が生じるのは「法定休日(毎週1回の休日または4週4日の休日)に労働させた場合である。この法定休日については「どの曜日の休日をもって労基法所定の法定休日とするというような形で法定休日を特定しなければならないという制約はない」ので、他に1日の休日が確保されている限り、他の所定休日に労働させても「労働者に対して毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないという労基法35条の義務は履行した」ことになる(昭23.4.19基収1397号、昭63.3.14基発150号)。

「就業規則で週休2日制(土曜・日曜)を採用し、かつ法定休日を特定していない」事業所を例にとれば、土曜、日曜のいずれか1日が休日として確保されていれば、その週は「労基法上の休日労働はなかった」と考えればよい。

オ 代休日における賃金の支払い

代休日は「労働義務があるにもかかわらず、いわば恩恵的にその義務を免除し休養させる日」であり「法定休日に、36協定により労働させた場合でも、代休を与える義務はない」(昭23.4.5基収1004号)。したがって、就業規則で「代休した日の賃金については無給とする」と規定している場合は「割増分(35%)」のみを支払い、一方「代休日を有給とする」と規定する事業所は「通常の賃金の135%」を支払うことになる。

2 休暇

➀ 休暇とは

休暇とは、労働義務のある労働日について「労働義務の免除の申し出により労働者が得た休暇日」である。「休暇日は労働日」であり、休暇の予定日を取り消して労働した場合でも、所定外労働に該当しないので割増賃金の対象にならない。休暇には、法律で取得する権利が保障されている「法定休暇」と、企業が独自に定めた「所定休暇」がある。法定休暇には、労基法で規定する年次有給休暇、産前産後休暇、育児・介護休業法で定める育児・介護休暇、看護休暇などがある。所定休暇は企業によって異なるが、慶弔休暇、リフレッシュ休暇、夏季休暇などがある。

② 年次有給休暇

ア 年次有給休暇の意義

年次有給休暇とは、休日のほかに「一定日数の労働日の労働義務を、その日の賃金を保障しながら免除するもの」で、労働者の心身の休養を図るほか能率向上にも資する制度である。年休は労働者の精神的、肉体的疲労を回復し、労働力の維持培養を図るために有給で取得できる休暇である(39条)。

イ 年次有給休暇の付与要件

年次有給休暇は「雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務」と「全労働日の8割以上出勤」という2つの要件を充足する場合、労働者に付与される請求権である(39条1項・2項)。したがって、10年勤続の労働者でも、私傷病による入院等により長期間欠勤となり出勤日数が全労働日の8割未満となった場合、その翌年の有給休暇の請求権は発生しない。

ウ 継続勤務について

通達は「勤続勤務とは労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいい勤務の実態に即し実質的に判断すべきとして、次に掲げる場合を含む」としている(昭63.3.14基発150号)。

□継続勤務の態様と勤続年数

ア)定年退職者の再雇用 引き続き嘱託社員等として再雇用した場合は継続勤務とされる。ただし退職と再雇用の間に相当の期間があり、客観的に労働関係が断続している場合は継続勤務とされない。
イ)パートタイマーやアルバイトの労働契約の更新 労働契約の更新が行われ、その契約期間が6カ月以上になった場合で、引き続き雇用されている場合には継続勤務とされる。
ウ)パートタイマーやアルバイトの正職員登用 労働契約を更新した以外に、正社員として登用した場合にも継続勤務と判断される。

  (資料:労働局HP)

エ 全労働日について

「全労働日」とは「労働者が労働契約上労働義務を課せられている日」であり、労基法および通達は次のとおりである。

ア)「全労働日」に含まれない日 ⅰ 使用者の責めに帰すべき事由による休業の日 ⅱ 正当な同盟罷業その他正当な労働争議により労務の提供が全くなされなかった日
イ)「出勤した日」とみなすもの ⅰ 業務上の療養のための休業期間 ⅱ 産前産後の休業期間 ⅲ 育児・介護休業法による育児・介護休業期間 ⅳ 年次有給休暇を取得した日

オ 年次有給休暇の付与日数

ⅰ 一般の労働者

「採用された日から6カ月間継続勤務」と「全労働日の8割以上出勤」の2つの要件を満たした場合、その後の1年間に10労働日の年休請求権が生じる。その後は、継続勤務期間が2年6カ月までは継続年数1年につき1労働日、3年6カ月目からは1年につき2労働日が加算される。ただし、付与日数は20日が限度である(39条2項)。

ⅱ 所定労働日数が少ない労働者

短時間労働者など所定労働日数の少ない労働者にも年休の付与が義務付けられている。付与日数は、通常の労働者の所定労働日数との比率に応じた日数とされ、比例付与の対象労働者は次のとおりである(39条3項、施行規則24条の3)。

□比例付与の年次有給休暇日数

週所定 労働日数1年間の 所定労働日数雇入れの日から起算した継続勤務期間
6カ月1年6カ月2年6カ月3年6カ月4年6カ月5年6カ月6年6カ月
4日169~216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121~168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73~120日3日4日4日5日6日6日7日
1日43~72日1日2日2日2日3日3日3日

カ 年次有給休暇の請求と与え方

継続勤務と出勤率の2つの要件を満たせば「法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまって初めて生ずるものではない」(昭48.3.2国鉄郡山事件、最高裁小法廷判決、同旨判決白石営林署事件)と判示されており、具体的な請求をしなくても既に請求権は生じており、「請求」という文言は既に生じた請求権に基づく「休暇の時季の指定にほかならない」(同判決)という見解が示されている。したがって、年次有給休暇は使用者の承認がなくても取得は可能とされる。

ただし、労働者が具体的に年次有給休暇を取得する時季を指定した(「時季指定権の行使」を行った)ときに、事業の正常な運営が妨げられる場合には、使用者は、時季を変更する権利を持つ。これを「時季変更権」という。「事業の正常な運営を妨げる場合」とは「事業の規模、内容、労働者の担当業務の内容、業務の繁閑、代行者の配置の難易、他の労働者の休暇との調整等を総合的に考慮して判断すべきである」とされている。ただし、使用者は、繁忙期といえども、可能な範囲で労働者が請求する時季に有給休暇を取ることができるように、代替要員の確保や勤務シフトの変更を行うなど、状況に応じた配慮をすることが求められる。年次有給休暇の利用目的を考慮して時季変更権を行使することは認められていない。使用者は、年休を取得した労働者に対し「賃金の減額その他不利益な取扱いをしてはならない」(136条)。

キ 年次有給休暇の計画的付与

労使協定で年休を与える時季に関する定めをしたときは、年休の日数のうち「5日を超える部分(5日までは労働者の個人的事由による取得のため確保する必要がある。5日を超える部分には、前年度繰越し分の日数も含む)」については、その定めにより計画的に付与することができる(39条5項)。計画的付与の方法としては、事業場全体の休業による一斉付与、班別の交替制付与、年休付与計画表による個人別付与などがある。労使協定で、次の事項を定めることとされている。

ク 年次有給休暇の消滅

労働者が解雇または退職した場合などで、労働関係が消滅したときは、たとえ全部または一部の残日数があったとしても、年休は消滅する。発生年度における未消化年休の消滅については、行政解釈において「法第115条のこの法律の請求権の時効は2年という規定が適用」(昭22.12.15基発501号)される。したがって、時効完成前の未消化年休日数は、翌年に繰越すことが可能である。

ケ 退職者の年次有給休暇

  例えば、1カ月後に退職を控えた労働者が「退職日までは残った有給休暇をすべて使い、出勤しない」と申し出た場合「時季変更権を退職する労働者に行使する余地はない」ので、法律的には認めなくてはならない。

コ 年次有給休暇の時季指定義務

ⅰ 年次有給休暇の時季指定義務とは

同僚への気兼ねや請求することへのためらい等の理由から年次有給休暇の取得率が低迷しており「正社員の約16%が年次有給休暇を1日も取得しておらず、また、年次有給休暇をほとんど取得していない労働者については長時間労働者の比率が高い実態にある」(基発0907第1号、H30.9.7)ことから、労基法が改正され、2019(平成31)年4月から「年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させること」が全ての企業に義務付けられた(39条7項、8項)。使用者は、労働者ごとに、「年次有給休暇を付与した日(基準日)」から1年以内に、5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければならない。

ⅱ 時季指定の方法

使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取し、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければならないとされている。なお、労働者が実際に取得した年次有給休暇については、前年度からの繰越分であるか、当年度に付与された休暇であるかについては問わないとされている。また、時間単位の取得は時季指定の対象外だが、半日単位の年次有給休暇を取得した場合は「取得1回につき0.5日」として使用者が時季を指定すべき年5日から控除することができる。

ⅲ 時季指定を要しない場合

労働者が自ら請求・取得した年次有給休暇の日数や、労使協定で計画的に取得日を定めて与えた年次有給休暇(計画年休)については、その日数分を時季指定義務が課される年5日から控除することができる。また、既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者については、使用者による時季指定の必要はなく、また、することもできない。

ⅳ 年次有給休暇管理簿

使用者は、労働者ごとに「年次有給休暇管理簿(時季、日数及び基準日を記載した書類)」を作成し、当該年休を与えた期間中及び当該期間の満了後、3年間保存しなければならない。なお、年次有給休暇管理簿は、労働者名簿または賃金台帳とあわせて調製し、必要なときにいつでも出力できる仕組みとした上で、システム管理することも認められている。

ⅴ 罰則 

事業主が、労働者に「年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合」には、労基法120条により、30万円以下の罰金が科されることがある。

ⅵ その他

   ⅰ)法定の年次有給休暇とは別に設けている特別休暇の取得日数は、控除できない。

ⅱ)在籍出向の場合は、労基法上の規定がないので、出向元、出向先、出向労働者三者間の取り決めによる。

ⅲ)年度の途中に育児休業から復帰した労働者についても、年5日の年次有給休暇の時季指定義務がある。

③ 生理休暇

ア 生理休暇とは

使用者は「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」(68条)。生理休暇を取得するためには、下記の3つの要件のすべてを満たすことが必要である。

ア)生理中であること イ)生理のために、就業が著しく困難であること(医師の証明は不要) ウ)請求すること  

イ 生理休暇中の賃金

生理休暇中の賃金は無給でもかまわない。休暇中の賃金を有給にするか無給にするかどうかは当事者に委ねられている。また、就業規則等で生理日を有給休暇として取得する日数を限定することはできるが、生理休暇自体の日数を限定することは違法である。

④ 産前産後の休暇

ア 産前産後の休暇とは

産前産後の休暇は、母体の保護、次世代を担う労働力の保護という観点から設けられている制度である。産前産後休暇は働く女性すべてに認められる権利で、既婚者だけでなく未婚者についても認められる。

イ 産前産後休暇の対象となる出産

産前産後の休暇の対象となる出産は「妊娠85日(4ヵ月)以後の分娩をいい、出産のみならず死産も含む」(昭23.12.23基発1885号)。また、予定日より出産が早まった場合には、結果として、早まった分だけ産前休暇が短くなり、遅れた場合は、遅れた分だけ産前休暇が長くなる。なお「分娩」とは、通常の出産の時期に生まれる正期産のほか、早産・流産・人工中絶などもすべて「出産」に該当し産休の付与を必要とするが、流産や人工中絶の場合は産後休暇のみとなり、例えば、切迫流産でしばらく入院した後に流産した場合、事前の入院期間は産休ではなく、病気欠勤として取り扱われる(昭26.4.2婦発113号)。

ウ 産前休暇と産後休暇

産前の休暇は本人の請求により与えられるのに対し、産後の休暇は本人が就業を希望しても与えなければならない強制休暇である。「産前休暇」と「産後休暇」は性質が異なっており、就業規則等に「産前産後あわせて14週間を産前産後休暇とする」といった規定はできない。

エ 産前産後休暇中の賃金と社会保険料

  労基法は休暇中の賃金を保障していないので、産前産後の休暇中の賃金の支払いは、企業によって異なっている。なお、健康保険給付として、被保険者には出産育児一時金と一定の要件に該当すれば出産手当金が支給される。また、2014(平成26)年4月分以降の産前産後休業期間中の社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)が事業主負担分を含め免除とされた。

オ 産休を理由とする不利益取扱いの禁止

労基法が労働者に保障した権利の行使を抑制するような取扱いをすることは、公序に反して無効という判断がなされている(平1.12.14日本シェーリング事件、最高裁小法廷判決)。

3 公民権行使の保障

労働者が労働時間中に「選挙権その他公民としての権利を行使」し、または「公の職務を執行する」ために必要な時間を請求した場合は、使用者はその請求を拒むことはできない(7条)。ただし、権利の行使または職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することは可能であるが、就業時間内の行使ができないような定めは違法である。なお、有給にするか無給にするかは当事者間の自由に委ねられている(昭22.11.27基発399号)。

➀ 公民としての権利の行使

公民とは、国家または公共団体の公務に参加する資格のある国民をいい、公民としての権利とは、公民に認められる国家または公共団体の公務に参加する権利をいう。ただし「個人としての訴権の行使」は該当しない。公民としての権利例は次のとおりである。

□公民の権利<具体例> (昭63年基発150号)

ア)法令に根拠を有する公職の選挙権及び被選挙権
イ)最高裁判所裁判官の国民審査(憲法79条)
ウ)1つの地方公共団体のみに適用される特別法の制定の住民投票(憲法95条)
エ)憲法改正の国民投票(憲法96条)など                  

② 公の職務の執行

公の職務とは、法令に根拠を有するものに限られるが、法令に基づく公の職務のすべてをいうものではない。「非常勤の消防団員の職務」は該当しない。通達で明示された公の職務の具体例は次のとおりである。なお、2009(平成21)年5月21日から「裁判員制度」が実施されたが、労働者が「裁判員としての職務を行う場合」は公の職務に該当するので「裁判員」に選ばれた労働者が労働時間中にその職務を行うために必要な時間を請求した場合、使用者はこれを拒むことはできない。

□公の職務の執行(昭63.3.14基発150)

ア)国又は地方公共団体の公務に民意を反映してその適正を図る職務(例:衆議院議員その他の議員、労働委員会の委員、陪審員、検察審査員)
イ)国又は地方公共団体の公務の公正妥当な執行を図る職務(例:民事訴訟による証人としての出廷、労働委員会の証人等の職務)
ウ)地方公共団体の公務の適正な執行を監視するための職務(例:公職選挙法第38条第1 項の選挙立会人等の職務                

Ⅳ 賃金・賞与・退職金の基礎知識

1 賃金

➀ 賃金とは 

労基法は、賃金の意義について「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」(11条)と定義している。ここにいう「労働の対償として支払うもの」とは「使用者が支払うべき義務を負っているもので、貨幣賃金のほか物又は利益が含まれる。基本給、手当、賞与などがその代表であるが、退職金もその支払条件が就業規則等であらかじめ明確にされていれば賃金となる」(昭22.9.13発基17号)。

② 賃金の決定

賃金の決定に当たっては「労働条件の原則」(1条)と「労使対等決定」(2条)のほか、次の3点に留意しなければならない。

ア 均等待遇(労基法3条)

  国籍、信条又は社会的身分を理由とする賃金の差別的取扱いをしないこと。

イ 男女同一賃金(労基法4条)

女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしないこと。

ウ 最低賃金(最賃法4条)

最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないこと。

③ 賃金の支払原則

労基法は賃金の支払いについて、①通貨払い、②直接払い、③全額払い、④毎月1回以上払い、⑤一定期日払い、という5つの原則を規定している(24条)。

ア 通貨払いの原則

賃金は「通貨」で支払わなければならない。通貨とは、現金(法定通貨である貨幣、紙幣、銀行券)をいい、通貨払いには次の例外が認められている。

ア)労働協約に別段の定めのある場合:労働法人がある場合、労働協約で別段の定めをすることにより現物給付(現金以外の物品)が認められている。
イ)使用者が労働者の同意を得た場合:労働者の指定する預貯金口座に振込むことができる。口座振込みを希望しない場合は、現金払いとなる。

イ 直接払いの原則

賃金は「直接」労働者本人に支払わなければならない。労働者の委任を受けた任意代理人や、未成年労働者の賃金を親権者または後見人、賃金債権の譲受人へ支払うことは禁止されている。ただし、労働者本人が病気などのため配偶者や子など本人の「使者」に対する支払いが例外として認められている。なお、口座振込みの場合の振込先は「本人名義の預貯金口座」でなければならない。

□賃金の預貯金口座への支払いに関する指導

ア)個々の労働者より、書面による申出または同意を取り付けること イ)労使協定を締結すること ウ)賃金明細書などの計算書を賃金支給日に発行すること エ)賃金支給日の午前10時ころまでには払出し・払戻しが可能な状態になっていること オ)金融機関は一行・一社に限定せず、労働者の便宜を図ること

ウ 全額払いの原則

賃金は、その「全額」を支払わなければならない。全額とは、就業規則等の定めによって労働者が受ける権利のある賃金の全額をいう。欠勤による減額規定がある場合やスト期間中の賃金がある場合は「ノーワーク・ノーペイの原則」により減額しても違反とはならない。なお、全額払いの原則の例外として、次の2つが認められている(24条1項但し書後段)。

ア)法令に別段の定めがある場合:所得税法の定める源泉徴収、健康保険法その他の社会保険各法の定める保険料の控除などが、賃金の一部控除を認めた法令である。
イ)労使の書面協定がある場合:労働法人、または労働者の過半数を代表する者との書面による協定(賃金控除協定)があるときは、一部控除ができる。

エ 毎月1回以上払いの原則

賃金は「毎月1回以上」の支払いが必要である(24条2項)。毎月とは、暦によるもので、毎月1日から月末までの間に1回以上、制度として支払うことを求めるものであり「労働した月にその賃金を支払わなければならない」ということではない。また「賃金締切日を月末にしなければならない」といった趣旨ではないので、例えば「20日締めの翌月25日払い」というように規定することができる。ただし、次の賃金の支払いについては例外とされている。

ア)臨時に支払われる賃金:「臨時的突発的事由に基づいて支払われるもの、及び結婚手当等支給条件はあらかじめ確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ、非常にまれに発生するものをいい、就業規則の定めによって支給される私傷病手当、病気欠勤又は病気休職中の月給者に支給される加療見舞金、退職金等がこれに該当する。 イ)賞与 ウ)1カ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当 エ)1カ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当 オ)1カ月を超える期間にわたる事由によって算出される奨励加給又は能率手当

オ 一定期日払いの原則

賃金は「一定期日」に支払わなければならない(24条2項)。一定期日とは「毎月20日」「月末」のように特定し、周期的に到来することが必要であるので「毎月20日から25日までの間」や「毎月第4土曜日」のように支払日が特定されないものは認められない。

なお、一定期日払いの例外として「非常時払い」と「金品の返還」があるので、労働者から請求があれば使用者はこれに応じる必要がある。非常時払いで支払わなければならない賃金は、その支払日までの労働に対する賃金である。したがって、給与締切前に非常時払いの請求があった場合には、前回の締日の翌日から非常時払いの日までの日割り計算で支払えばよい。


ア)非常時払い(25条):非常時の事由は次のとおりである(労基法施行規則9条) ・労働者が出産する場合 ・労働者が疾病した場合 ・労働者が災害を被った場合 ・労働者が結婚する場合 ・労働者が死亡した場合 ・労働者がやむを得ない事由で帰郷する場合 ・労働者の収入によって生計を維持する者が出産、疾病、災害を被った場合 ・労働者の収入によって生計を維持する者が結婚する場合 ・労働者の収入によって生計を維持する者が死亡した場合 ・労働者の収入によって生計を維持する者がやむを得ない事由で帰郷する場合 イ)金品の返還(23条):労働者の死亡又は退職の場合で権利者の請求があった場合は、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない(賃金又は金品に関して争いがある場合は、異議のない部分を支払い又は返還しなければならない)。

④ 平均賃金

ア 平均賃金とは

労基法上、解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇、災害補償、減給などの場合に平均賃金の算定が必要となる。この平均賃金の算定について、労基法は「算定すべき事由が生じた日以前3カ月の賃金総額を、総暦日数で除した1日当たりの賃金」(12条1項)と規定している。この際、賃金締切日がある場合は、原則として、直前の賃金締切日から起算する。

イ 平均賃金の計算

前述したように、平均賃金は「算定を必要とする事由が生じた日以前3カ月の賃金総額」を「その期間の総暦日数」で除して求めるが、次に示す「期間」と「賃金」がある場合は控除することとされている(12条)。

ア)算定期間中の「総日数」と「賃金総額」の両方から控除するもの
・業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間(通勤災害によるものを除く)
・労基法第65条の規定に基づく産前・産後の休業期間 ・使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
・育児休業又は介護休業した期間 ・試みの使用期間 ・労働争議による正当罷業若しくは怠業又は正当な作業所閉鎖による休業期間
イ)算定期間中の「賃金総額」から控除するもの  
・臨時に支払われた賃金(例:私傷病手当、加療見舞金、退職手当等)
・3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(例:年2回の賞与)
・通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属さないもの(法令又は労働協約の定め以外に基づいて支払われる実物給与)

⑤ 割増賃金

ア 割増賃金とは

長時間労働、休日労働または深夜業などの過重な労働に従事した労働者への補償を行うため、労基法は「労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金」の支払いを義務付けている(37条1項)。

イ 割増賃金の支払対象となる労働と割増率

ⅰ 時間外労働

1カ月60時間未満の時間外労働の割増率は2割5分以上であるが「1カ月60時間を超える時間外労働」については、2010(平成22)年4月1日から、法定割増率が50%に引き上げられた。なお、改正法施行時、中小企業については適用上げが猶予されていたが、「働き方改革関連法案」の成立に伴う労基法改正により、中小企業の猶予期間が2023(令和5)年3月末をもって終了となった。これに伴い、2023(令和5)年4月から、中小企業においても、1カ月に60時間を超える時間外労働を行わせた場合、50%以上の割増賃金を支払う義務が課せられる。この1カ月60時間を超える時間外労働については、労使協定により、割増賃金(2割5分)の支払いに代えて「有給休暇(代替休暇)付与」も認められている。

ⅱ 休日労働

休日労働の割増率は、3割5分以上である。休日労働については時間外労働という概念がないので、休日に実働8時間を超えて労働しても時間外労働ではなく休日労働であるが、深夜業の規制は適用される。

ⅲ 深夜労働

「午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合」においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した深夜労働の割増賃金の支払いが必要となる。なお、41条各号の労働者(管理監督者等)であっても、深夜労働の割増賃金の適用は排除されない。

③ 割増賃金の計算

労基法37条5項で規定する次の手当は、割増賃金の計算基礎となる賃金基礎額に算入しなくてもよいとされている。

□算入しなくてよい手当等

ア)家族手当
イ)通勤手当
ウ)住宅手当
エ)その他厚生労働省令で定める賃金(施行規則第21条)
・別居手当
・子女教育手当
・臨時に支払われた賃金
・一カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

④ 定額残業制を採用する場合の計算

「定額残業制」を採用する場合は、「定額残業手当の額が、実際に行われた時間外労働時間数等に基づき法定の計算により計算された割増賃金額を下回らない限り違法ではない」とされている。ただし「定額支払額が労基法の規定による算定額を下回る場合」は、法定最低基準に満たない不足額の追加支給が必要である。

2 正職員の給与制度と賃金水準

➀ 正職員の給与制度

雇用労働者の賃金を時間給制にするか、また日給月給制あるいは月給制にするかという賃金の支払形態の選択は、従業員の働きをどのような時間単位で測ったら適当なのかという考え方によって異なる。農業においては、繁忙期と閑散期で業務量に大きな差があること等の理由から、正職員についても時給や日給で支給するケースが多いとの実態が報告されているが、優秀な人材の採用・定着のためには、年間を通して安定した生活を保証する意味で「月給制」とすることが求められる。

転職希望者の転職希望理由で一番多いのは、全産業(農業を含む)、全年齢層を通じて「収入が少ない」というものであるが、農業就業者について見てみると「収入が少ない」ことを理由とする割合が総数で10%程度高くなっている。これからの雇用型農業には、雇用労働者が安心して働き続けることを可能とする賃金水準の支払いは重要な課題である。

(参考)年齢別にみた転職希望者の転職希望理由(男性、全産業・農業、平成19年/単位:%)

  総数15~29歳30~39歳40~49歳50~59歳60歳以上
全産業実人数(千人)3、957.81、328.71、249.4690.2505.9183.6
合計100.0100.0100.0100.0100.0100.0
一時的についた仕事だから10.520.86.14.24.17.1
収入が少ない32.329.133.235.336.127.3
事業不振や先行き不安10.58.213.913.47.13.4
定年・労働契約満了に備えて3.00.71.21.511.314.9
時間的・肉体的に負担が大きい19.715.321.722.621.521.5
知識や技能を生かしたい10.712.310.310.18.412.0
余暇を増やしたい3.62.54.14.03.86.3
家事の都合0.60.50.40.60.91.3
その他8.910.59.08.36.65.7
農     業実人数(千人)11.44.12.61.51.81.4
合計100.0100.0100.0100.0100.0100.0
一時的についた仕事だから14.419.111.80.010.126.6
収入が少ない42.241.131.956.766.317.6
事業不振や先行き不安2.96.33.00.00.00.0
定年・労働契約満了に備えて3.86.30.00.00.012.5
時間的・肉体的に負担が大きい13.79.025.511.95.517.7
知識や技能を生かしたい12.47.718.921.10.020.9
余暇を増やしたい4.36.28.90.00.00.0
家事の都合0.00.00.00.00.00.0
その他6.34.30.010.218.04.8

(出典:「農業雇用労働力の実態(農林水産政策研究所/平成22年)」)

2 賞与

➀ 賞与とは

賞与(一時金、ボーナス)は毎月の給料とは別に支給されるもので、恩恵的支給の性質を有し毎月の給料のように必ず支給しなければならないものではない。賞与の支給基準、支給方法、支給対象などは、労働契約、就業規則等で自由に決定することができる。

② 支給日の在籍用件について

就業規則等で、賞与支給対象者を「支給日に在籍している者に対し支給する」と規定している場合は、算定期間(支給対象期間)中に勤務していたとしても、支給日に在籍していないことを理由に支給しなくても差し支えない。

[判例](昭49.8.27日本ルセル事件、東京高判)

賞与の支給計算期間を満足に勤務した者は、たとえ賞与支給期日までに退職しても特段の定めがない限り、賞与請求権を有する    

3 退職金

➀ 退職金とは

退職金は、法律上支給が義務付けられているものではないが、就業規則・労働契約などで「支給すること」や「支給基準」が定められている場合は労基法上の賃金であり、同法の保護を受ける。また、就業規則等に明文がない場合であっても「過去の退職者に一定の退職金を支払っていたという事実があり、かつ使用者・労働者間でこのような基準により退職金が支払われると意識されている」ときには労働慣行となっており退職金の支払義務が生じていると解されている。

② 退職金の支払いと時効

労働者が退職に際して賃金等の支払いを請求した場合、労基法は「争いがある場合には異議のない部分を、争いがない場合は全額を7日以内に支払わなければならない」(23条1項)としているが、退職金については「就業規則等で支払時期を定めている場合は、それによる」(昭26.2.27基収5483号、昭63.3.14基発150号)。なお、退職金の請求に係る時効は5年間である(115条)。

③  退職金共済制度の活用について

退職金は支払が義務付けられていないので退職金制度がない小規模法人もあるが、意欲をもって長く働いてもらうためには、退職金制度を設けることが望まれる。この場合、「中退共制度」を利用すれば、管理が簡単な退職金制度が手軽に作れるという利便性がある。実務的には、法人が中退共と退職金共済契約を締結し毎月の掛金を金融機関に納付し、労働者が退職したときは、中退共から退職金が直接支払われるというものである。

中退共制度は「中小企業者の相互共済と国の援助で退職金制度を確立し、これによって中小企業の従業員の福祉の増進と、中小企業の振興に寄与することを目的」として、昭和34年に中小企業退職金共済法に基づき設けられた制度で、独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)が運営している。

筆者が就業規則作成支援をさせて頂いた農事組合法人はいずれも退職金制度を設け、「中退共」制度を活用することとされた。

□参考資料 

(出典:厚労省HP)

4 最低賃金

➀ 最低賃金法

最低賃金法(最賃法) は「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上および事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与する」ことを目的として(1条)、1959(昭和34)年に制定された。2007(平成19)年の改正で、最低賃金額は「時間」のみによって定めることとされた(3条)

② 最低賃金の適用と罰則

最賃法は「国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」(4条)と規定し、「最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効」とされ、この場合「無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなす」(同条2項)とされる。地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、罰則が科される(最賃法の50万円以下の罰金、特定最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合は労基法の罰則がある(30万円以下の罰金)。

③ 最低賃金の種類

最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類がある。なお、地域別と特定最低賃金の両方が同時に適用される場合には、使用者は高い方の金額以上の賃金を支払わなければならない。

ア)地域別最低賃金:地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、各都道府県に1つずつの最低賃金が定められている。地域別最低賃金は、労働者の生計費、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払能力を総合的に勘案して決定され、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮することとされている。
イ)特定最低賃金:特定最低賃金は、一定の事業もしくは職業に係る最低賃金について、関係労使の申出に基づき、厚生労働大臣または都道府県労働局長は、最低賃金審査会の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めるものについて設定されている。

④ 最低賃金が適用される労働者の範囲

地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される。特定最低賃金は、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者とその使用者に対して適用される。なお、派遣労働者には、派遣先の最低賃金が適用される。

⑤ 周知義務と報告

最低賃金の適用を受ける使用者は、当該最低賃金の概要を常時事業場の見やすい場所に掲示し、またはその他の方法で労働者に周知させるための措置をとらなければならない(8条)。この周知義務に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る)は、30万円以下の罰金に処せられる(41条)。また、厚生労働大臣及び都道府県労働局長は、この目的を達成するため必要な限度において、使用者または労働者に対し賃金に関する事項を報告させることができる(29条)とされており「報告をせず、又は虚偽の報告をした者」に対しても前述の罰則が適用される。

⑥ 監督機関に対する申告

事業場に最低賃金法に違反する事実がある場合「その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる」という申告権が労働者の権利として認められている(34条12項)。この場合、使用者は「申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」(同条2項)とされ、違反者に対しては6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる(39条)。

「農業生産の事業」を行う農業法人にとって、「災害の予防」「安全衛生の取組み」は最重要課題です。

Ⅴ 安全衛生・災害補償等と労災保険の基礎知識

1 安全衛生

➀ 労働安全衛生法の制定と目的

労働災害防止に関する中心法規として

労働安全衛生法(安衛法)がある。もともと労基法の中で規定されていたものであるが、労働者保護の観点から1972(昭和47)年に労基法から分離して単独法として制定された。

安衛法は「労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること」(1条)と、労基法の各種規定と相互関連して「労働災害を未然に防止して労働者の安全と健康を確保すること」を目的としている。安全とは「職場での危険を防止すること」衛生とは「健康障害を防止すること」である。

② 安衛法の責任者と労働者

安衛法は「事業者」について、法人であれば当該法人、個人企業であれば事業主個人を責任者と規定している(2条)が、安衛法で罰せられるのは「現実の行為者」とされるので、労基法同様、両罰規定が適用される(122条)。一方、安衛法の適用を受ける「労働者」は労基法9条の労働者であり、労働災害防止協力義務が課せられている(4条)。

③ 安全衛生管理活動の促進

ア 労働者の危険・健康障害防止措置

安衛法は、労働者の危険・健康障害防止措置事業者について、機械等、爆発性の物等、電気、熱その他のエネルギー、作業行動などから生じる労働者の危険または化学要因や物理要因などに基づく健康障害を防止するために必要な措置について規定している(20条・24条)。

イ 労働者の健康保持増進のための措置

事業者には、労働者の雇入れ、作業内容変更時の安全衛生教育、危険有害業務就労時の特別安全衛生教育(59条)、労働者の雇入れ時の健康診断、定期健康診断、有害業務従事者に対する特殊健康診断を義務付けている(66条)。事業者は、自発的健康診断の結果を記録し(66条の3)、健康診断に異常の所見があれば、医師等から意見を聴取する義務がある(66条の4)。また、健康診断の結果、労働者の健康保持のため必要があれば、事業者は、就業場所の転換、作業の転換、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものに罹患した労働者については、就業を禁止しなければならない(68条)。

ウ 快適な職場環境形成のための措置

事業者には、安衛法の規定を守るだけではなく、さらに安全衛生の水準の向上を図るために、快適な職場環境を形成する努力義務を課している(71条の2)。

エ 安全委員会・衛生委員会

事業者には、安衛法の履行を労働者が監視するための「安全委員会(業種により常時50人以上あるいは100人以上を使用する事業場)」および「衛生委員会(常時50人以上を使用する事業場)」の設置を義務付けている(17条・18条)。両委員会の設置が義務付けられる場合は、統合して安全衛生委員会を設置すれば足りる(19条)。安全衛生委員会は「事業主が講ずべき事業場の安全、衛生対策の推進について事業主が必要な意見を聴取し、その協力を得るために設置運営されるもの」(昭47.9.18発基91号)である。

④ 労働者の権利と監督機関等

ア 労働者の権利

労働者には、事業場に安衛法令に違反する事実があった場合、都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官に申告して「是正のために適切な措置をとるように求める権利」および「申告権行使に対して解雇その他不利益な取扱いを受けないこと」を権利として保障している(97条1項・2項)。

イ 監督機関等

監督機関は、労基法同様労働基準監督署長と労働基準監督官である(90条)。また、厚生労働省、都道府県労働局および労働基準監督署には、産業安全専門官および労働衛生専門官が置かれ、指導、援助を行っている(93条)。安衛法違反がある場合には、都道府県労働局長、労働基準監督署長は、作業の停止、建設物の使用停止などを命ずることができ(98条)、労働基準監督官には、特別司法警察員として捜査し(92条)、検察官に送検する権限が付与されている。

2 災害補償と労災保険

➀ 労基法の災害補償義務と労災保険

労基法は8章(災害補償)において、労働者の「業務上の負傷・疾病・障害・死亡」に係る使用者の災害補償義務を規定している。この災害補償義務の特色は「業務上の災害に対する使用者の無過失責任であること」「療養補償を除き全損害の賠償ではなく平均賃金を基礎にした定率補償であること」「労働基準監督機関による監督および罰則付きで履行が強制されていること」など、民法上の損害賠償とは異なった労働法独自の制度という点にある。

一方、労災保険法は、1947(昭和22)年労基法の施行と同時に、労基法で義務付けられた「使用者の災害補償義務を肩代わりする国の社会保障政策」の一環として創設された公的保険である。労基法84条1項は「この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる」としている。

□災害補償に関する規定(労基法)

① 療養補償(75条) 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者はその費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
② 休業補償(76条) 労働者が第75条の規定による「療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない。
③ 障害補償(77条) 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治った場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に「別表第二」に定める日数(注)を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならない。 (注)第1級(1、340日分)から第14級(50日分)まで規定されている。
④ 遺族補償(79条) 労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は遺族に対して、平均賃金の1、000日分の遺族補償を行わなければならない。
⑤ 葬祭料(80条) 労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は葬祭を行うものに対して、平均賃金の60日分の葬祭料を支払わなければならない。
⑥ 休業補償及び障害補償の例外(78条) 労働者が重大な過失によって業務上負傷し、又は疾病にかかり、且つ使用者がその過失について行政官庁の認定を受けた場合においては、休業補償又は障害補償を行わなくてもよい。
⑦ 他の法律との関係(第84条) この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。

□労基法上の災害補償義務と労災保険(省略)

② 労災保険の適用と補償内容

ア 労使保険の適用と特別加入制度

労災保険は、国の直営事業、官公署の事業と船員保険法の被保険者を除き、原則として全業種の加入が義務付けられている強制保険であるが、事業場における労働実態の把握が困難である等の理由で「常時5人未満の労働者を雇用する一定の農林水産の個人事業者」については暫定任意適用とされ、今日に至っている。また、労災保険は「労働者(労基法9条)」を加入対象とするものであるが、中小企業の役員など中小事業主、大工・左官など一人親方、特定農作業従事者・介護作業従事者など特定作業従事者といった「労働者に準じて保護するにふさわしい人」については、労働者に準じた保護を目的とした「特別(任意)加入制度」を設けている。

イ 労災保険の補償内容

労災保険の補償内容は、労基法で規定する「災害補償責任」をカバーするもので、療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料などがある。1960(昭和35)年以降の相次ぐ改正により「年金制度の導入」「通勤災害制度の創設」「労働者福祉事業による追加的給付の拡充」などが付加された結果、現在の労災保険給付は労基法の災害補償給付を大幅に上回っており、社会保障制度の一環としての性格が強くなっている。

③ 労災補償と損害賠償

ア 労災補償と損害賠償義務

労災事故が発生し労働者が死亡し、また障害等が残った場合は、労災保険から所定の補償を受けることができるが、労災保険給付だけで被災労働者や遺族が被った損害のすべてがカバーされるとは限らない。特に、被災労働者や遺族が被った精神的苦痛に対する慰謝料については労災保険では補償されないので、労災保険から補償給付がされても、それで民事上の賠償問題は終了しない。そこで、労災事故に遭い、被災した労働者や遺族が「業務上の事故等の原因が使用者の落度によるもの」と考えた場合は、企業を相手の損害賠償請求事件が多発している。

イ 使用者が損害賠償義務を負う法的根拠

被災労働者又はその遺族が、使用者たる企業に対して損害賠償するための法的根拠は、労働契約に基づく「安全配慮義務違反(民法第415条)」と「不法行為責任」に大別されている。不法行為責任には「故意または過失により、他人の権利を違法に侵害した場合」に認められるもので「一般不法行為(709条)」「使用者責任(715条)」「工作物責任(717条)」「自賠法の運行供用者責任(自賠法3条)」などがある。

ウ 使用者の安全配慮義務とは

安全配慮義務を初めて認めた最高裁判例は、自衛隊員が駐屯地の車両整備工場において車両を整備中に、大型自動車の後部車輪で頭部を轢かれて死亡した事件(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件)である。この裁判で、最高裁は「国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示の下に遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っているものと解すべきである」「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである」と判示した(昭50.2.25最高裁三小判決)。

  労働契約は「労働者が使用者に対して労働力を提供し、他方、使用者が労働者に対して賃金を支払う」契約であるが、その契約の付随的部分として「使用者は労働者の生命・身体・健康を守らなければならないという安全配慮義務を負う」とするものであり、安全配慮義務を遵守しないで労災事故を発生させた使用者は損害賠償責任を負うことになる。

なお、安全配慮義務違反の具体的内容はそれぞれの事案によって千差満別であるが、訴訟となった場合、原告である労働者や遺族は「具体的にどのような点に安全配慮義務違反があったか」を主張・立証することが必要である。

エ 近年の労災補償と裁判事例の動向と健康障害防止対策

近年「脳・心臓疾患」による事案に加え「精神障害」に起因する労災申請事案が増加しており、安全配慮義務による使用者の責任が裁判で争われるケースが増えている。判例では「労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、健康診断を実施した上、労働者の健康に配慮し、年齢、健康状態等に応じて、労働者の従事する作業内容の軽減、就業場所の変更等適切な処置をとるべき義務」(平8.3.28富士保安警備事件、東京地裁判決)「労働時間及び労働状態を把握し、……過剰な長時間労働によりその健康を害されないよう配慮すべき安全配慮義務」(平10.2.23川崎製鉄〈水島製鉄所〉事件、岡山地裁倉敷支部判決)など「長時間・過重労働を放置することは安全配慮義務に違反する」とするものがある。

また、最高裁判所(平12.3.24電通事件、最高裁二小判決)は「過労自殺]」に関し「これまでの物的な施設・設備・器具の安全管理や人的安全性の確保だけではなく、労働者に対する業務の指示管理に際し、疲労や心理的負荷が過度に蓄積して心身の健康障害を防止する義務(安全配慮義務)を負担すること」と判示している。

オ 使用者に求められる健康障害防止対策等

使用者は、法令で義務付けられた健康診断を実施し(安衛法66条1項)、異常所見のある労働者については医師の意見を聴き(66条の4)、必要があると認めるときは就業場所の変更、作業転換、労働時間の短縮等措置を講じ(66条の5)、厚生労働省が定める「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置等」(平成20.3.7基発0307006号)による健康障害防止対策等を確実に講じなければならない。

Ⅵ 多様な労働者に関する基礎知識

1 障害者

➀ 障害者雇用義務制度

事業主に対し、障害者雇用率に相当する人数の身体障害者・知的障害者の雇用を義務付ける制度で、「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」は、身体障害者または知的障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等の諸措置を講じて障害者の職業の安定を図ること等を目的としている。

② 事業主の責務低雇用率

すべての事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有し、進んで障害者の雇入れに努めなければならないとされている。また、障害者の法定雇用率が、事業主区分(民間企業、国・地方公共団体等、都道府県等の教育委員会)ごとに定められている。障害者がごく普通に地域で暮らし、地域の一員として共に生活できる「共生社会」実現の理念の下、すべての事業主には、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務がある。

 ③ 障害者雇用調整金と助成金の支給

法定雇用率を超えて、身体障害者または知的障害者または精神障害者(障害者)を雇用する事業主に対しては、毎年度一定の割合で、障害者雇用調整金が支給され、また、障害者を雇い入れる事業主等に対して、必要な管理費用、設備費用等につき助成金交付制度がある。

④ 障害者雇用納付金の徴収

障害者を雇用するためには、作業施設や作業設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理等が必要となるために、健常者の雇用に比べて一定の経済的負担を伴うことから、障害者を多く雇用している事業主の経済的負担を軽減し、事業主間の負担の公平を図りつつ、障害者雇用の水準を高めることを目的として「障害者雇用納付金制度」が設けられている。具体的には、法定雇用率を未達成の企業のうち、一定規模の企業から障害者雇用納付金が徴収され、この納付金を元に、法定雇用率を達成している企業に対して、調整金、報奨金が支給されている。

2 高年齢者

➀ 高年齢者雇用安定制度

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年法)は、定年の引き上げ、継続雇用制度等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者等に対する就業機会の確保等の措置を総合的に講じ「高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図り、経済・社会の発展に寄与する」ことを目的としている(1条)。

② 事業主の責務と定年齢

雇用する高年齢者について、職業能力の開発および向上、作業施設の改善その他の諸条件の整備、再就職の援助等を行うことにより、その意欲、能力に応じて雇用の機会の確保に努めなければならない。また、事業主が定年を定める場合は、原則として60歳を下回ってはならない。更に、少子高齢化の進展の中での高齢労働力の活用、年金支給開始年齢の引き上げの中での生活維持のための収入確保、社会保障制度の支え手の確保を背景に65歳未満の定年の定めをしている事業主に対しては、65歳までの安定した雇用を確保するため、当該定年の引上げ、継続雇用制度、当該定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じなければならないとされている。

3 派遣労働者

➀ 派遣労働と派遣労働者

派遣労働とは「労働者と派遣労働契約を結んだ企業(派遣元)」が「労働者派遣契約を締結している企業(派遣先)」に労働者を派遣し、派遣された労働者は派遣先の指揮命令を受けて働くという働き方である。派遣先は、労働者から労務の提供を受けたことに対し、派遣元事業主に派遣料金を支払い、派遣元事業主が派遣労働者に賃金を支払う。

派遣労働者は、労働契約を結んだ派遣元の指示派遣先に赴き、派遣先の指揮命令を受けて働く労働者である。派遣労働は「指揮命令をする会社と労働契約を結ぶ会社が別」となることからいろいろな問題の発生が予想されるので、派遣労働者の保護を図り、派遣労働者の雇用の安定と福祉の増進を図るため、労働者派遣法、同施行令・施行規則、派遣指針等が定められ、派遣元と派遣先がそれぞれ講ずべき措置等が定められている。

□労働者派遣(省略)

Ⅶ 男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の基礎知識

1 男女雇用機会均等法

➀ 目的と基本理念

「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(男女雇用機会均等法)は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的としている(1条)。女性労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることを基本理念としている(2条)。

② 性別を理由とする差別の禁止

事業主は、労働者の募集および採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない(5条)とし、次に掲げる事項について「労働者の性別を理由」とした差別的取扱いを禁じている(6条)。

③ 間接差別の禁止、婚姻、妊娠、出産などを理由とする不利益取扱いの禁止など

間接差別(身長、体重、体力、全国レベルの転勤など省令で定められる)は、業務遂行上の必要などの合理性がない場合には、禁止されている(7条)。女性労働者が、婚姻、妊娠、出産したこと、または、労基法に定める産前産後に休業したこと、産前休業を請求したことを理由として解雇すること、また、解雇以外の不利益な取扱いも禁止されている。なお、妊娠中・出産後1年以内の解雇は、事業主が妊娠・出産などを理由とする解雇でないことを証明しない限り無効となる(9条)。

④ 就業に関する事業主の配慮義務

事業主は、職場で行われる「性的言動に対する対応による労働条件の不利益(対価型)」「性的言動による就業環境の阻害(環境型)」の防止など、セクシュアルハラスメントの発生抑止、雇用管理上必要な配慮、母子保健法による保健指導または健康診査受診のための必要な時間の確保およびその指導事項遵守のための勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない(11条・13条)としている。

⑤ 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に係る雇用管理上の措置

近年、事業主による不利益取扱いのみならず、上司または同僚による妊娠、出産等に関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されること(職場における妊娠、出産等に関するハラスメント)の発生を受け、2016(平成28)年3月に改正男女雇用機会均等法が公布され「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント」を防止するための「いわゆるマタハラ」防止措置義務が新設され、2017(平成29)年1月1日に施行された。

この改正により、従前の不利益取扱禁止事項(9条3項)に加えて防止措置義務が新規に追加され、事業主は「職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を講じなければならないとされた(11条の2)。

2 育児・介護休業法

➀ 育児・介護休業法の創設と拡充

育児をしながら働く人の仕事と家庭生活の両立支援を目的とした「育児休業法」は1991(平成3)年に制定され、1995(平成7)年には、介護労働者の仕事と家庭生活の両立支援を目的とした介護休業規定を盛り込んだ「育児休業、介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」として仕事と家庭の両立支援制度の充実が図られた。

2010(平成22)年には、男性の育児休業取得が依然として少ない状況の下、仕事を続けやすい仕組みづくりと父親も子育てができる働き方の実現をめざした改正育児・介護休業法が施行された。さらに、2017(平成29)年1月1日施行の改正法で「介護休業の分割取得」「子の看護・介護休暇取得の柔軟化」「育児休業等に関するハラスメントの防止措置義務の創設」などの拡充が図られ、育児や介護を行う労働者の仕事と家庭との両立をより一層推進するための制度の拡充がされた。

なお、労働者は、勤務する事業場に育児・介護休業制度がない場合(規程整備が無い)でも、育児・介護休業法を根拠に申出を行うことが可能であり、事業主は企業に育児休業制度がないことや事業の煩雑などを理由として休業の申出を拒むことはできない。また、事業主は、労働者の申出や取得を理由として解雇などの不利益な取扱いをすることが禁じられている。

② 育児休業制度

ア 育児休業の対象労働者(2条)と育児休業の期間(5条)

育児休業ができるのは、原則として1歳に満たない子を養育する男女労働者である。ただし、日々雇い入れられる労働者は除かれる。また、期間を定めて雇用される労働者については、次のいずれにも該当することが必要である。また、労使協定で定められた次の労働者も育児休業することができない。

イ 育児休業の期間(5条)

育児休業期間は、創設当時は「原則として1人の子につき1回、子が出生した日から子が1歳に達する日(誕生日の前日)までの間で労働者が申し出た期間」とされていたが、2005(平成17)年の法改正で、次のいずれにも該当する場合は、子が1歳6カ月に達する日までの期間について、事業主に申し出ることにより育児休業が可能となった。

ア)育児休業に係る子が1歳に達する日において、労働者本人又は配偶者が育児休業をしている場合 イ)1歳を超えても休業が特に必要と認められる場合 ⅰ 保育所等における保育の利用を希望し申込を行っているが、1歳に達する日後の期間について、当面その実施が行われない場合(市町村から保育が行われない旨の通知がなされている場合)。 ⅱ 常態として子の養育を行っている配偶者であって、1歳に達する日後の期間について子の養育を行う予定であった者が死亡、負傷、疾病等、離婚等により子を養育することが困難な状態の場合。

ウ 両親ともに育児休業をする場合(パパ・ママ育休プラス)の特例(9条の2)

両親ともに育児休業をする場合で、次のいずれにも該当する場合は、育児休業の対象となる子の年齢が、1歳に満たない子から1歳2カ月に満たない子に延長される。

ア)育児休業しようとする労働者(以下「本人」)の配偶者が、子の1歳に達する日の以前において育児休業をしていること イ)本人の育児休業開始予定日が、子の1歳の誕生日以前であること ウ)本人の育児休業開始予定日が、配偶者がしている育児休業の初日以降であること

エ 育児休業を行う労働者の所定外労働の制限(16条の8)

事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者が請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させてはならない。ただし、日々雇用される労働者は除かれ、次の労働者は労使協定で対象外とすることができる。

オ 育児休業を行う労働者の時間外労働の制限(17条)

事業主は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、その子を養育するために請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、1カ月については24時間、1年については150時間を超える時間外労働をさせてはならない。

カ 育児休業を行う労働者の深夜業の制限(19条)

事業主は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、その子を養育するために請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き「午後10時から午前5時までの間(深夜)」において労働をさせてはならない。

キ 3歳に満たない子を養育する労働者の所定労働時間の短縮措置(23条)

事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者が、希望すれば利用できる「所定労働時間短縮措置(短時間勤務制度)」を講じなければならない。短時間勤務制度は、1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含むものとしなければならない。

ク 休業期間中の賃金の支払いと社会保険料の免除

「休業期間中の給与の支払いは義務付けられていない」ので各事業所の就業規則等で取扱いを規定する。無給の場合には、休業被保険者に対し、雇用保険から給与の一部が補てんされ、休業期間中の社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料)が免除される。

③ 介護休業制度

ア 介護休業の対象労働者(2条)

介護休業をすることができるのは、要介護状態にある対象家族を介護する男女労働者であり、日々雇い入れられる労働者は除かれる。期間を定めて雇用される労働者については、申出時点において次のいずれにも該当することが必要である。

ア)同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であること イ)取得予定日から起算して93日を経過する日から6カ月を経過する日までの間に、労働契約(更新される場合は、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと

イ 介護休業の対象となる家族(2条)

対象家族の範囲は、要介護状態にある「配偶者(事実婚を含む)、父母及び子、(これらの者に準ずるものとして、祖父母、兄弟姉妹、および、孫を含む)、配偶者の父母」である。要介護状態とは「負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」をいう。

ウ 介護休業の申出(11条)

介護休業は、労働者の事業主に対する申出を要件としている。申出は、対象家族1人につき3回までであり、申し出ることのできる休業は連続した一まとまりの期間の休業である。なお、当該対象家族について、介護休業をした日数の合計が93日に達している場合は、その対象家族について介護休業することはできない。

エ 介護休業の期間(11条)

介護休業をすることができるのは、対象家族1人につき、3回まで、通算して93日を限度とし、原則として労働者が申し出た期間である。適正な手続きに基づき労働者から介護休業の申出がされた場合、介護休業期間は、基本的には申出による介護開始日から休業しようとする日までであるが、事業主による休業を開始する日の指定や労働者による休業終了日の変更申出があった場合は、その指定や変更による日となる。

オ 介護休業を行う労働者の所定外労働の制限(16条の9)

事業主は、要介護状態にある対象家族を介護する労働者が請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させてはならない。

カ 介護業を行う労働者の時間外労働の制限(18条)

事業主は、要介護状態にある対象家族を介護する労働者が、その対象家族を介護するために請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、1カ月については24時間、1年については150時間を超える時間外労働をさせてはならない。

キ 介護休業を行う労働者の深夜業の制限(20条)

事業主は、要介護状態にある対象家族を介護する労働者が、その対象家族を介護するために請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き「午後10時から午前5時までの間(深夜)」において労働をさせてはならない。

ク 対象家族の介護のための所定労働時間の短縮措置(23条)

事業主は、要介護状態にある対象家族を介護する労働者について、就業しつつ対象家族の介護を行うことを容易にする措置として、連続する3年以上の期間における所定労働時間の短縮等の措置を講じなければならない。また、介護のための所定労働時間の短縮等の措置は、2回以上の利用ができる措置としなければならない。

④ 子の看護休暇制度と介護休暇制度

ア 子の看護休暇制度(16条の2、16条の3)

小学校就学前の子を養育する労働者は、事業主に申し出ることにより「1年度において5日(その養育する小学校就学の始期に達するまでの子が2人以上の場合は10日)」を限度として、子の看護休暇を取得することができる。1年度とは、事業主が特に定めをしない場合には、毎年4月1日から翌年3月31日となる。なお、日々雇い入れられる者は除かれ、次の労働者は、子の看護休暇を取得することができないこととする労使協定があるときは、事業主は子の看護休暇の申出を拒むことができる。

ア)その事業主に継続して雇用された期間が6ヵ月月に満たない労働者 イ)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 ウ 半日単位で看護休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者

イ 介護休暇制度(16条の5・16条の6)

要介護状態にある対象家族の介護や世話をする労働者は、事業主に申し出ることにより「1年度において5日(対象家族が2人以上の場合は10日)」を限度として、介護休暇を取得することができる。1年度とは、事業主が特に定めをしない場合には、毎年4月1日から翌年3月31日となる。なお、日々雇い入れられる者は除かれ、次の労働者は、介護休暇を取得することができないこととする労使協定があるときは、事業主は介護休暇の申出を拒むことができる。

ア)その事業主に継続して雇用された期間が6カ月に満たない労働者 イ)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 ウ 半日単位で看護休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者

⑤ 育児休業等に関するハラスメントの防止措置(25条)

事業主は「育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する制度又は措置の利用に関する言動により、労働者の就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」。事業主が講ずべき措置の内容は「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(厚生労働省告示)において「事業主の方針の明確化とその周知・啓発」「相談(苦情)の窓口の設置」「ハラスメントに対する迅速かつ適切な対応」などが具体的に定められている。

対象となる制度または措置は、育児休業、介護休業、子の看護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮等であり、対象労働者、短時間労働者(パートタイム労働者)、契約社員などの有期契約労働者を含む、すべての労働者である。

Ⅷ 労働施策総合推進法の基礎知識

1 改正労働施策総合推進法の改正

(パワーハラスメント対策の法制化)

2019(令和1)年5月の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」の成立に伴い、労働施策総合推進法が改正され、従前から議論されていたパワーハラスメント防止対策が法制化された[2020(令和2)年6月1日施行(中小企業は2022年4月1日施行)]。今回の改正に伴い、パワーハラスメントの定義が「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と法律に明記されたことから、同法は「パワハラ防止法」とも呼ばれている。また、改正法は、企業(事業主)に対して、防止のための相談体制の整備等の措置を講じることなどを義務付けている。

2 事業主が講ずべき措置義務とパワーハラスメントの定義

労働施策総合推進法30条の2は「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」として、事業主の雇用管理上の措置について規定するとともに、前述したように、職場におけるパワーハラスメントについて「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」「就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)」という三つの要素をすべて満たすものと定義した。

3 「職場のパワーハラスメント(6類型)」

厚労省は、法律で定義した「職場のパワーハラスメント」について、裁判例や個別労働関係紛争処理事案に基づき、次の6類型を典型例として整理したが、「これらは職場のパワーハラスメントに当たりうる行為のすべてについて、網羅するものではないことに留意する必要がある」としている。

□参考「職場のパワーハラスメントの類型と種類」

① 身体的な攻撃:暴行・傷害蹴ったり、殴ったり、体に危害を加えるパワハラ(具体的事例)提案書を上司に提出したところ、「出来が悪い」と怒鳴られ、灰皿を投げつけられて、眉間を割る大けがをした ・蹴ったり、叩いたり、社員の体に危害を加える行為は「身体的攻撃」型のパワハラです。どんなに軽い書類でも、それを投げつけるような行為によって部下や同僚を威嚇し、従わせようとすることはパワハラとして決して許されるものではありません。・職務上の地位や知識などの優位的な地位を利用して、身体的な攻撃はパワハラに該当します。
② 精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言精神的な攻撃(具体的事例)職場の同僚の前で、直属の上司から、「ばか」「のろま」などの言葉を毎日のように浴びせられる、教育訓練という名目で懲罰的に規則の書き写しなどを長時間行う、自分だけでなく、周囲の同僚も怯えて職場環境が極めて悪化している ・「やめてしまえ」などの社員としての地位を脅かす言葉、「おまえは小学生並みだな」「無能」などの侮辱、名誉棄損に当たる言葉、「バカ」「アホ」といったひどい暴言は、業務の指示の中で言われたとしても、業務を遂行するのに必要な言葉とは通常考えられません。このため、こうした暴言による精神的な攻撃は、原則として業務の適正な範囲を超えてパワハラに当たると考えられます。
③ 人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視 仲間外れや無視など個人を疎外するパワハラ(具体的事例)仕事のやり方を巡って上司と口論してから、必要な資料が配布されない、話しかけても無視される状態が続いている ・一人だけ別室に席を離される、職場の全員が呼ばれている忘年会や送別会にわざと呼ばれていない、話しかけても無視される、すぐそばにいるのに連絡が他の人を介して行われる。このようなことが、職場の上司や先輩、古くから勤めている社員など、職場内での優位な立場を使って行われるとパワハラに該当します。 ・職場内での優位な地位とは、上司・部下といった指揮命令関係にある場合はもちろんのこと、業務の指導する立場にある先輩社員や業務に関する知識を有していて専門的な業務を行っている社員、古くから勤務している社員など様々な優位性が考えられます。 ・そのような立場の人が必要もないのに、無視や仲間外しなど仕事を円滑に進めるためにならない行為を行えば「人間関係からの切り離し」型のパワハラになります。
④ 過大な要求 :業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害、遂行不可能な業務を押し付けるパワハラ(具体的事例)出向先企業でとても一晩では処理しきれない量の業務を命ぜられた、出向先は、重要な取引先でもあり、とても断ることができずに毎晩徹夜をしている状況である ・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害があった場合、「過大な要求」型のパワハラに当たることがあります。 ・一人一人の業務量は会社やその部署の業務量によっても異なるので、単に仕事の量が多いというだけではパワハラとは言えませんが、例えば、業務上の些細なミスについて見せしめ的・懲罰的に就業規則の書き写しや始末書の提出を求めたり、能力や経験を超える無理な指示で他の社員よりも著しく多い業務量を課したりすることは、「過大な要求」型のパワハラに該当することがあります。
⑤ 過小な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと、本来の仕事を取り上げるパワハラ(具体的事例)バスの運転手が公道で軽い接触事故を起こしたところ、上司が激怒して、翌日から3週間にわたり営業所の草むしりだけをさせられた ・業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないことは「過小な要求」型のパワハラです。 ・例えば、営業職として採用された社員に営業としての仕事を与えずに草むしりばかりさせたり、お前はもう仕事をするなといって仕事を与えずに放置したりすることなどが該当します。 ・こうした事例については、どこからが「業務の適正な範囲」を超えるパワハラなのかについては、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右されます。そのため、職場での認識をそろえて、その範囲を明確にすることが望まれます。
⑥ 個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること、個人のプライバシーを侵害するパワハラ(具体的事例)年次有給休暇を取得して旅行に行こうとしたところ、上司から「誰と、どこへ行くのか、宿泊先はどこか」などと執拗に問われ、年次有給休暇の取得も認められなかった ・労働基準法上、年次有給休暇の取得に当たり、社員が休暇の理由を申出する必要はありません。業務遂行に当たって、私的なことに関わる不適切な発言や私的なことに立ち入る管理などは「個の侵害」型のパワハラになります。例えば、管理職の者が社員の管理の目的ではなく、管理職としての優位性を利用して、私生活や休日の予定を聞いてきたり、携帯電話やロッカーなどの私物を覗き見たりすることなどが該当します。ただし、会社の管理職には業務上必要で休暇の予定を聞いたり、可能であれば休暇時期を変更してもらったりする必要があるかもしれません。 ・「個の侵害」型のパワハラの場合、こうした事例については、どのようなことが「業務の適正な範囲」を超えるパワハラなのかについては、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右されます。そのため、職場での認識をそろえ、その範囲を明確にする取組を行うことが望まれます。

(出典:厚労省HP)

Ⅸ 個別労働紛争解決制度と公益通報者保護法の基礎知識

1 個別労働紛争解決制度

 ① 個別労働紛争解決促進制度

近年、労働者の権利意識の変化、非正規労働に代表される雇用・就業形態の多様化、労働法人の組織率の低下等に伴い、労働者と事業主との個別労働紛争が急増している。個別労働紛争は最終的には裁判で解決されるべきものであるが、裁判には多くの時間と費用がかかる。また、労働者と事業主という継続的な人間関係を前提とした円満な解決のためには、労使慣行等を踏まえた解決を図ることも重要である。そこで、この個別労働紛争を迅速かつ適正に解決することを目的に「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が2001(平成13)年10月1日に施行された。法律の施行に伴い労働問題に関する窓口の一元化が図られ、各都道府県にある労働局に「総合労働相談コーナー」が設置されている。

② 個別労働紛争解決制度の対象となるトラブル

個別労働紛争解決促進制度は、紛争の当事者(双方または一方)が都道府県労働局長にその解決について援助を求めたときは、労働局長が専門家の意見を聴いて必要な助言または指導をすることができるとともに、あっせんの申請を受けたときは、紛争調整委員会にあっせんを行わせるという制度である。

2 公益通報者保護法

➀ 目的

公益通報者保護は、「公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定め、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする」(1条)もので、頻発する企業不祥事の対応の1つとして2006(平成18)年4月1日に施行された。

② 公益通報

公益通報とは「労働者が不正の利益を得たり他人に損害を加える等不正目的でなく、労務提供先の役員、従業員等について通報対象事実が生じている旨を労務提供先や行政機関等に対し通報すること」などをいう(2条)。公益通報者とは、公益通報した労働者をいい、通報対象事実とは、次のいずれかの事実をいう。


ア)個人の生命または身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(命令を含む)に規定する罪の犯罪行為の事実 イ)別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することがアに掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実

③ 通報者・事業者及び行政機関の義務

 通報者・事業者及び行政機関の義務は、次のとおりである。

ア)公益通報者は、他人の正当な利益または公共の利益を害することのないよう努めなければならない(第8条) イ)事業者は、書面による公益通報に対し事業者がとった是正措置等について公益通報者に遅滞なく通知するよう努めなければならない(第9条) ウ)公益通報された行政機関は、必要な調査を行い通報対象事実があるときは、法令に基づく措置等をとらなければならない(第10条) エ)誤って処分権限等のない行政機関に公益通報がなされたときは、処分権限等を有する行政機関を教示しなければならない(第11条)

第3回

第2章 労働者の雇用管理(採用から退職)に関する基礎知識

Ⅰ はじめに

農業法人の耕作面積の拡大、オペレータ担当役員等の高齢化に伴い、また新規事業への進出等に伴い専門知識・技能をもった若い人材が必要となるが、労働者を一人でも雇用すると法人(雇用者)と労働者(被雇用者)との間に雇用関係が生じ、労働契約の締結や労働社会保険手続きが必要となる。

本章では「労働者の採用から退職まで」という切り口で、労働者の労務管理のポイントについて解説する。

Ⅱ 労働者の募集・採用と労働・社会保険手続き

1 求職の申込み

農業法人が必要とする人材とその待遇や常用・有期雇用といった雇用形態を決定し、所轄のハローワーク(公共職業安定所)に「求職申込書」を提出する。求職申込書とは、ハローワークで求職活動をするときに、希望する職種や労働条件などを記載して提出する書類である。ハローワークに求職申込書を提出し受理されると、情報の提供を受けることができる。

2 労働者の採用

このような手続きを経て労働者を採用することになるが、契約という意識がなくても人を雇った際に労働契約が成立することになる。たとえ契約書を作らなくても「雇います」「雇われます」という意思の合致だけで原則として労働契約は成立するが、お互いの合意があれば、どんな内容の労働契約を結んでもよいというわけではない。労働契約の締結にあたっては、労基法をはじめとする法律の制約を受けることになり、労働契約は、「採用時に取り交わす労働契約」に違反しない範囲において有効となる。労基法は、賃金、労働時間などの重要な労働条件の説明を「使用者に義務づけ」ており、賃金の決定、計算、支払いの方法、締切、支払いの時期などは「書面を交付して明示」することに至るまで、細かく規定している。

また、社会保険や労働保険の新規加入手続きも必要となる。加入手続きは、雇用形態(正職員、パートタイム等有期雇用職員)や個々の労働契約の内容によって取扱いが異なる。

□参考資料 「応募したくなる求人へ! ~わかりやすい求人で、より良い人材の確保を目指しましょう!~

求職者の方々は、求人票・求人情報に記載された条件などのうち、どの点を見て応募を決めているのでしょうか。企業がさまざまな採用基準を持っているように、求職者の方々も、賃金や労働時間といった待遇面だけではなく、「仕事の内容」、「企業理念」、「教育訓練」といった点も含めて総合的に判断しています。(中略)貴社の魅力や、採用したいと思っている人材の条件、仕事内容などについて、求職者の方に具体的なイメージを持ってもらえるよう、求人票・求人情報を作成する際のポイントについて解説します。
  POINT1 会社の特長欄を活用しましょう 「会社の特長」欄を活用して貴社をアピールしましょう。貴社の経営方針、教育訓練制度、職場の雰囲気、代表的商品の評判などを記入・入力して、貴社の魅力をお伝えください。
POINT2 仕事の内容を詳細に記入・入力しましょう ハローワークで求職者の方々からよくご質問いただく項目のーつが「仕事の内容」欄です。職種名や仕事内容、必要な資格・経験などが具体的に記入・入力されていることで、求職者の方々の疑問やとまどいを軽減し、応募者が増えることにつながります。また、正確で詳細な記入・入力は入社後の定着率にも影響します。貴社か必要としているのは「どんな仕事ができる人材」なのかを、応募される方の目線に立って詳細にわかりやすく記入・入力してください。
 POINT3 賃金は正確にわかりやすく記入・入力しましょう 賃金については、正確にわかりやすく記入・入力することが重要です。求人票・求人情報の「賃金」欄は、「基本給」、「定額的に支払われる手当」、「固定残業代」、「その他の手当等付記事項」等の各欄があり、それぞれに該当するものを記入・入力します。また、基本給+定額手当以外の各種手当を含む総支給額を伝えることにより、求職者の方々は支給される賃金について把握でき、就職後の生活をイメージしやすくなります。(中略)さらに、「昇給」、「賞与」欄についても、実績ベースで正確に記入・入力することで誤解がなくわかりやすい求人となります。
  POINT4 福利厚生や研修制度等の補足情報を記入・入力しましょう 福利厚生や研修制度等の補足情報もイメージアップにつながります。特に未経験者を募集する場合、研修制度や資格取得の支援制度などは初めての仕事に対する不安を和らげ、応募機会を増やすきっかけとなります。(中略)なお、試用期間がある場合は、その期間中の待遇等をきちんと明示することで、後々のトラブル防止に役立ちますので、「試用期間」は正確に記入・入力しましょう。
  POINT5 企業や求人の魅力をアピールしましょう 求職中の方々は再就職先を真剣に探そうと求人票・求人情報を注意深く見ています。募集をためらっているとしたら、その企業のよさや求人の魅力が伝わっていないためである可能性があります。求職者が「求めている求人」とはどのような求人なのか検討し、求職者が魅力を感じる求人をアピールしましょう。(後略)  

 (出典:労働局HPに基づき作成。)

3 労働3帳簿と労働者に提出を求める書類

労働者の採用に伴い、法人はさまざま書類を作成することになるが、法律上備え付けが義務づけられている書類がある。

代表的なものが「労働3帳簿(雇用3帳簿)」である。労働3帳簿は「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」のことで、法定3帳簿とも呼ばれ、労務管理の基礎となるものである。いずれも厚労省のホームページでダウンロードできるが、必要事項が記載されていれば特に様式の指定はないので、実務的には各企業がパソコン等で作成している。なお、これらを含め重要な労務書類は一定期間の保存が義務づけられている。

□労働者名簿(様式例)

(出典:高知労働基準協会)

□賃金台帳(様式例)

(出典:厚労省HP)

□出勤簿(様式例)

(筆者作成:賃金計算期間21日~20日例)

4 労働者に提出を求める書類

法人が労働者を採用したとき、その人に提出を求める書類は企業によって一部異なるが、一般的に以下のような書類である。就業規則を作成する場合は、具体的に記載する。

□従業員に提出を求める書類(例示)

① 履歴書(自筆、写真を貼付)
② 最終学歴の卒業証明書(新卒者)
③ 誓約書(法人作成のもの)
④ 身元保証書
⑤ 健康診断書(最近3か月以内に受診したもの、法人で実施する場合は不要) (備考)常時使用する労働者を雇入れる際、健康診断を実施しなければなりません (労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第43条)
⑥ 住民票記載事項証明書(住民票は不可)
⑦ 年金手帳(該当者)
⑧ 雇用保険被保険者証(前職のある者)
⑨ 所得税の源泉徴収票(前職のある者)
⑩ 給与所得の扶養控除等(異動)申告書
⑪ 住民税の給与所得者異動届出書(前職のある者で特別徴収残額がある場合) ⑫ 免許や資格を証明するもの(一定の免許や資格が採用条件の場合) ⑱ 通勤手当の申請書 ⑭ 通勤経路と自宅付近の略図  ほか  

5 労働者を採用したときの労働・社会保険の手続き

健康保険・厚生年金などの社会保険や雇用保険への加入は、法律で定められた条件を満たしていれば従業員の国籍や性別、正社員・アルバイトなどの雇用形態にかかわらず所定の要件に該当すれば義務となる。社会保険と雇用保険の加入基準と提出書類は次の通りである。

➀ 社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入基準と提出書類

ア 加入基準

法人事業所は、社会保険(健康保険・介護保険と厚生年金保険)が適用される。社会保険が適用された事業所は「適用事業所」と呼ばれ、適用事業所に常時使用される規定された年齢までの労働者が加入の対象である。

パートタイマーでも、1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が、事業所の一般労働者の4分の3以上である場合は加入対象となる。また、規定労働者数以上の事業所においては、所定労働時間及び所定労働日数が4分の3未満でも「週の所定労働時間が20時間以上あること」「雇用期間が1年以上見込まれること」などの要件を満たす労働者は、加入の対象とされている。労働者を採用した場合は、採用した従業員の雇用形態や年齢、その従業員と法人との間の労働契約の内容により、加入できるかどうか(被保険者となるかどうか)を判断する。

イ  提出書類

加入時に提出する書類は「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」である。また、扶養家族がいる時は「健康保険被扶養者(異動)届」を、被扶養配偶者がいる場合は「国民年金第3号被保険者届」を提出する。

② 雇用保険の加入基準と必要書類

ア 加入基準

雇用保険は、雇用した従業員が下記の要件を満たす場合、加入義務がある。雇用保険の適用拡大により平成29年1⽉1⽇以降、65歳以上の労働者についても「⾼年齢被保険者」として雇⽤保険の適⽤の対象とされた。雇用した従業員に前職がある場合は、前職の「雇用保険被保険者証」の提出を受ける。

ⅰ 31日以上の雇用が見込まれる
ⅱ 所定労働時間が週20時間以上 ⅲ 学生ではないこと(例外あり))

イ 提出書類

雇用保険の加入手続きは、雇用した日の属する月の翌月10日までにハローワーク(公共職業安定所)で行う。必要な書類は「雇用保険被保険者資格取得届」である。

Ⅲ 労働契約の締結

1 労働契約の成立要件と意義

民法上の労働契約は「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がそれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」(623条)とされているので、労働契約は、労働者と使用者の間で「雇ってください」「雇いましょう」という「当事者間の意思表示の合致」に至れば成立することになる。

一方、労働契約法は「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」( 6条)と規定し、労働契約成立の基本原則である「合意の原則」を明確にするとともに、「労働者が使用者に使用されて労務を提供し、使用者が労務の提供の対償として賃金を支払うこと」を要素とする双務的な権利義務関係であると規定している。

2 労働契約の当事者(労働者と使用者)

➀ 労働者とは

労基法は、労働者について「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義している(9条)。ここでいう「使用される」とは使用者の指揮命令下に入ってその監督の下に労働に従事する(使用従属関係にある)こと、「賃金」とは労働の対償として使用者が労働者に支払うものをいうが、現実に就労している必要はなく、休職中の者、労働法人の専従者も労働者に含まれる。なお、「同居の親族」と「家事使用人」は労働者とされないので同法の適用はない。

② 使用者とは

使用者とは、個人事業の場合は事業主個人、農業法人の場合は法人そのものをいう。

労基法は使用者について「事業主又は、事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」(10条)と定義している。

③ 労基法上の使用者

ア 事業主

事業の経営主体をいい、個人事業の場合はその事業主個人、農業協同組合・株式会社など法人の場合はその法人そのものを指す。なお、呼称については、労働契約法では「使用者」、労働安全衛生法では「事業者」と規定している。

イ 事業の経営担当者

事業経営一般について権限と責任を負う者をいい、法人の代表者、取締役、支配人等が該当する。

ウ 事業主のために行為をする者

人事、給与、労務管理等労働に関する事務の権限を与えられている者をいう。職階の上下に関係なくすべて含まれるが、通達は「本法各条の義務についての履行の責任者をいい、その認定は、部長、課長等の形式にとらわれることなく各事業において、本法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられている者」(昭22.9.13発基17号)としている。

3 労働契約の締結

➀ 労使対等の原則

労働契約の締結・変更は当事者の合意が原則であるが、労働者の立場が弱く力関係の不平等があることから、法律は「労働者と使用者が対等の立場において決定すべき(労使対等の原則)」ことを規定している(労基法2条1項、労働契約法3条1項)。

② 労働条件明示の原則

個人事業主や小規模事業経営者の中には、労働時間、休日、賃金等の主だった点を簡単に説明し、応募者が承諾すれば、「○日から出勤してください」「承知しました」ということで済ましている場合もあるようだが、使用者も労働者もその時点で契約内容が確定されたという認識が乏しく、後日トラブルに発展するケースが多発している

労基法は「労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示」に加え、「賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項」については厚生労働省令で定める方法(書面)による明示を義務付けている(15条1項)。なお、労基法15条で規定する明示義務に違反した場合は、「30万円以下の罰金」(120条)の適用があるが、労働契約自体が無効となるわけではない。

民法は、労働契約の要素に錯誤のあったときは無効(95条)、詐欺や強迫による契約は取り消すことができる(96条)としているが、労基法では「明示条件と事実が相違している場合は即時に契約解除が可能」(15条2項)としている。この場合、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者に対し必要な旅費(帰郷旅費)の負担義務を課している(15条3項)。「必要な旅費」には、交通費、食費、荷物の運送費のほか、家族の帰郷旅費も含まれる。

③ 労働条件の明示事項

使用者が労働者に対して明示しなければならない労働条件は次表の通りであり、労基法施行規則5条で「書面の交付による明示事項」と「口頭の明示でもよい事項」が具体的に規定されている。

なお、就業規則に当該労働者に適用される労働条件が具体的に規定されており、労働契約締結時に労働者一人ひとりに対し、その労働者に適用される部分を明らかにした上で就業規則を交付すれば、再度、同じ事項について、書面を交付する必要はない。

□労働条件の明示事項

書面の交付による明示事項
1 労働契約の期間 
2 就業の場所、従事する業務の内容 
3 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項 
4 賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期に関する事項
5 退職に関する事項(解雇の事由を含む) 
口頭の明示でもよい事項
1 昇給に関する事項 ※
2 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期に関する事項 ※
3 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項 ※
4 労働者に負担される食費、作業用品その他に関する事項
5 安全・衛生に関する事項
6 職業訓練に関する事項
7 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
8. 表彰、制裁に関する事項
9 休職に関する事項
(注)「短時間・有期雇用労働者」については、短時間・有期雇用労働法により「※昇給・※退職手当・ ※賞与の有無」について、文書の交付等による労働条件明示が必要とされている

④ 労働契約の期間

ア 期間の定めのない労働契約

定期採用で新卒者を「正職員」として採用する場合は「契約期間の定めをしない労働契約」を締結するのが一般的である。例えば、60歳定年制を就業規則で規定する企業が労働者と労働契約を締結した場合、「契約当事者は、定年に達するまでの間労働契約を解約する自由がある」ので、この契約は「期間の定めのない契約」となる。

イ 期間の定めのある労働契約

1カ月、半年、1年といった「一定期間」働いてもらう場合は、「契約期間」を定めるが、労基法は、労働者が不当に長期にわたって人身拘束されることがないように「一定の事業の完了に必要なものを除き、労働契約期間の上限」を 1年としてきた。その後の法律改正で契約期間が延長され、現在は、「期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては、5年)を超える期間について締結してはならない」とされている(14条)「一定の事業の完了に必要な期間」とは、ダム建設や道路工事等で工事の完了に3年を超えることが明らかな場合は、その期間を雇用期間とすることについて除外適用するというものである。

なお、原則の3年を超え5年以内の契約期間が認められるケースは、「高度の専門的知識等を有する者との労働契約」と「満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約」である(14条1項1号・2号)。

⑤ 労働者の人格と自由の確保

戦前のわが国において労働者の人格と自由が不当に無視される労働慣行が存在したことを考慮して、労基法は近代的な労働契約関係を形成していくための規定をおいている。

ア 強制労働の禁止

「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」としている(5条)。

イ 賠償予定の禁止

「損害賠償額を予定する契約の締結」を禁止している(16条)。この条文が禁止する損害賠償額を予定する契約とは、例えば「○○の場合は金50万円を賠償せよ」という契約であり「現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣意ではない」(昭22.9.13発基17号)ので、現実に損害が生じた場合は、損害額を算定して、合理的、妥当な額であれば、労働者に請求することは可能である。なお、労働者の不法行為等で現実に損害を受けた限度で損害賠償をさせること、またはそのことをあらかじめ就業規則等に規定すること等は本条違反とはならない。

ウ 前借金相殺の禁止

「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」としている(17条)。「労働することを条件とする前貸の債権」とは、前借金のように労働契約が結ばれるとき親権者などが多額の借金をし、労働者が働きながら返していくという、必然的に返済するまでは身分拘束(足どめ)に結び付くような債権をいう。「前貸の債権」であるか否かは、貸付けの原因、返済金額の賃金に対する割合、その他労働者を不当に拘束するかどうかを総合的に判断して決定される。

エ 強制貯金の禁止

「使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない」としている(18条1項)。禁止する強制貯金は「労働契約に附随するもの」であり、労働者の任意の貯蓄については、貯蓄金管理協定の締結と届出等、一定の要件の下に認められる。

⑥ 採用内定

ア 採用内定とは

「採用内定」は、企業が主に卒業予定の優れた人材を確保するために企業側の都合で行われる採用慣行である。企業が新規学卒者の募集・選考をする場合は、通常は卒業よりも相当前の段階で面接試験などを行い、あらかじめ「採用予定者を決定し採用内定通知を送付し、内定者からは誓約書の提出を求める」という手続きが社会的な慣行となっている。

イ 採用内定の取消し

企業は、採用内定の期間中に時間をかけて人物、能力、健康等、内定時点で果たせなかった調査、審査を行い「採用内定を取消す」ことがある。しかし、裁判所は「採用内定」について「労働契約は成立し効力も発生しており、不適格とする合理的事由がある場合にのみ解約する権利が留保されているとする解約権留保付始期付労働契約説」(昭54.7.20大日本印刷事件、最高裁二小判決)をとっているので、採用内定の取消しは「解約留保権の目的・趣旨に照らして、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認されるもの」に限定される。

ウ 採用内定取消事由

採用内定の取消しが「やむを得ないとして認められる事例」としては、学校を卒業できなかった場合、書類・面接に虚偽の事実があった場合、就業できなくなった場合、思想・信条による取消し(昭48.12.12三菱樹脂事件、最高裁大法廷判決)、景気変動による取消し(昭49.11.11五洋建設事件、広島地裁呉支部判決)などがある。

⑦ 試用期間

ア 試用期間の意義

わが国は終身雇用制度が一般的であり、いったん採用すれば、よほどの事由がない限り雇用を保障する慣習となっているので「期間を設けて従業員としての適格性を判定すること」が必要となる。そこで、多くの企業では、採用後一定の期間を設け、それらについて観察、調査し、その結果で本採用可否を決める試用制度を採用している。

なお、試用期間の設定は企業の自由であり、法律上の義務付けや制約はないので、その目的、態様、対象者については、法令、協約、就業規則等に違背しない限り、自由に定めることが可能である。また、試用期間を制限する法令はないが、試用期間中は解約権が留保され契約上の地位が不安定となることから、長期にわたるのは好ましくないとされている。一般的には 2~3か月程度とするものが多い。

イ 適格・不適格判定の基準

企業の人事政策で異なるが、一般的には、次の3つの要素が挙げられている。

第1は「能力、技術、適性または労働能率、総合して職務能力の質と量」とをみる。第2は「勤務態度、性格、勤務に対する熱意、服務規律の遵守態様、協調性その他の性格特性」である。第3は「就労に支障を生ずるか否かを判定する要素、身体的または精神的疾患等の有無およびその態様、程度」などである。

ウ 本採用拒否の事例

最高裁は、試用期間については「採用内定」と同様、「解約権留保付契約説」をとっている(昭48.12.12三菱樹脂事件、最高裁大法廷判決)。試用契約は、最初から「期間の定めのない労働契約」であり本契約そのものであるが、試用期間中は「広い範囲における解雇の自由が認められている」(前掲最高裁判決)。

⑧ 休職

ア 休職の意義と事由

休職とは、労働者について労務に従事させることが不能または不適当な事由が生じた場合に、使用者が労働者に対し「労働契約関係そのものは維持させながら就業を免除し又は禁じる特別な扱い」である。休職の定義、休職期間の制限、復職等については労基法に定めはないので、どのような休職事由を定めるか、また休職期間満了時の取扱い等については各企業で定める。したがって、各企業一様ではないが、一般には、私傷病休職、傷病以外の自己都合休職、出向休職、起訴休職、労働法人専従休職などがある。なお、休職期間は、傷病休職の場合は勤続年数による差異を設け数ヵ月から数年の範囲、出向休職や起訴休職の場合は事由消滅までの間とする例が多い。

イ 労基法上の規制

休職期間が満了してなお復職できない場合の取扱いについては、労基法上の特別の規制はないので、「解雇事由にするか自動退職事由とするか」を含め労働契約の当事者の合意に委ねられているものと考えられている。なお、自動退職事由を定めた休職制度であれば、休職期間が満了してなお復職できない場合には、労働契約は当然に終了することになり、労基法で規定する解雇予告制度の適用もない。

□参考資料「労働条件通知書(一般労働者用;常用、有期雇用型、厚労省作成様式)」       

労働条件通知書

(省略)

※ 以上のほかは、当社就業規則による。

※ 労働条件通知書については、労使間の紛争の未然防止のため、保存しておく。

Ⅳ 労働契約の終了

1 労働契約の終了事由

労働契約の終了は「退職」と「解雇」に大別される。労働者からの解約は「辞職(自己都合退職)」、使用者からの一方的な意思表示による労働契約の解約は「解雇」と呼ばれ、解雇については法令等による規制が設けられている。

退職には、雇用期間満了に伴う退職や定年退職など、労働契約や就業規則で定める退職事由の発生に伴い当然に退職の効力が発生する当然退職と、使用者と労働者との合意に基づく退職、労働者からの一方的な退職意思表示に基づく任意退職がある。

当然退職と任意退職については、あらかじめ労働者自身が契約の終了を認識しているので、労働者保護の視点は必要ない。なお、期間の定めのある労働契約は、原則として契約期間の満了によって終了し(民法626条)、期間の定めのない労働契約は、契約当事者の一方からの解約の意思表示によって終了する(627条1項)。

その他の労働契約の終了事由としては、定年、契約当事者の合意に基づく合意解約、契約当事者の消滅(労働者の死亡、会社の清算完了)、採用内定の取消し、試用期間後の採用拒否、休職期間の満了などがある。ただし、解雇は使用者の一方的な意思表示により労働契約を終了させるものであり、労働者保護の観点が必要であり、法的規制があるほかに、相当な解雇事由が必要とされている

2 退職

退職には、辞職(自己都合退職)、合意退職、定年退職、契約期間満了による退職、労働者の死亡、企業の清算による退職がある。

➀ 辞職(自己都合退職)

辞職とは、労働者からの一方的な意思表示による労働契約の解除(契約を終了させること)である。正職員のように「期間の定めの無い労働契約」は、労働者は「2週間の予告期間を置けば、何時にても契約を解除できる(民法627条1項)。ただし、毎月一回払いの月給制が適用される労働者については「労働契約の解約は翌月以降に行うことができ、その解約の申入れは当月の前半にしなければならない」(同条2項)、また6カ月以上の期間によって報酬を定めた場合は3カ月前に申入れをしなければならない(同条3項)。ただし、「期間の定めのある労働契約(有期労働契約)」の場合は、労働者は契約期間中は労務を提供する義務があり、原則として期間の途中で退職することはできない。

辞職は別企業への転職など労働者の事情による労働契約解除の申込みであり、使用者はその理由を詮索することはできないが、トラブル防止のために、退職申込方法とそれに対する承認に関するルールを就業規則に規定しておくことが望まれる。なお、辞職は「一方的意思表示による契約解消」なので、一度意思表示すると撤回することはできない。

② 合意退職

合意退職は労働者と使用者が「合意によって労働契約を将来に向けて解約する」ものであり、契約期間の定めの有無にかかわらず原則自由である。「合意」には、使用者の退職勧奨を労働者が承諾する場合と労働者の退職願を使用者が承諾する場合がある。なお、労働者が退職届を提出した後でそれを撤回してその効力を争う事件が発生しているが、判例は「合意解約の申込みたる退職願は使用者の意思表示がなされるまでの間は撤回できる」、また「退職の意思表示が本心ではない(心裡留保)、勘違い(錯誤)にあたる場合は無効」であり「脅し(脅迫)にあたる場合は取消せる」としている。

③ 定年退職

定年制とは「労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する制度」をいい、労働者の定年事由として年齢を設け、定年年齢に達した労働者を退職させるものである

④ 契約期間満了による退職

「期間の定めのある労働契約」は、原則として契約期間満了によって終了する。しかし、「有期契約の更新が明示または黙示の意思表示で反復継続され実質的に期間の定めのない契約と異ならない実態にあると認められるような事案」については企業都合による解雇と同様に扱われ、相当な理由が必要とされる場合がある(労契法19条)。

2012(平成24)年8月の改正労契法により、「有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者が無期労働契約の締結の申し込みをしたときは、使用者は、別段の定めがない限り従前と同一の労働条件で、当該申込みを承諾したものとみなす」とする「有期労働契約の無期労働契約への転換」に関する取扱いがはじまった(18条)。ただし、有期労働契約の契約期間が満了した日とその次の有期労働契約の契約期間の初日との間に空白期間が 6月以上あるなどには、空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は通算されないという特例がある。

⑤ 死亡による退職

労働者の死亡、または企業の清算終了により、労働契約は終了する。

□労働契約の終了(まとめ)

ア) 自己都合退職 労働者本人からの意思表示(自己都合)による一方的な通告(口頭又は書面)による労働契約の終了
イ) 合意退職 雇用期間の有無に関係のない使用者と労働者の合意による労働契約の終了
ウ )定年退職 雇用期間の定めのない雇用に係る雇用期間満了による労働契約の終了
エ) 雇用期間満了 雇用期間の定めのある雇用に係る雇用期間満了による労働契約の終了
オ) 死亡また企業の清算終了 労働者の死亡また企業の清算終了による労働契約の終了

3 解雇

➀ 解雇の意義と形態(普通解雇、懲戒解雇、整理解雇)

解雇とは「企業の都合によって労働契約を解消すること」をいう。解雇の形態としては、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3つがある。

ア 普通解雇

普通解雇は、下記の懲戒解雇、整理解雇以外で、傷病による勤務不能、勤務成績不良、協調性の欠如などの理由で労働契約の履行をなしえない場合になされる解雇である。企業の事業縮小や労働者の職務遂行能力不足などを理由として、使用者が労働契約を解消するものである。

イ 懲戒解雇

懲戒解雇とは、労働者の違反行為に対する懲罰として行われる処分の一種であり、企業秩序を著しく乱した労働者に対して行う最も重い懲戒処分である。解雇理由が明らかに労働者側にありその責任が重大な場合、使用者の懲戒権の発動により、一種の制裁措置として行われるものである。

ウ 整理解雇

企業側に経営上の理由から一定人員を整理しなければならない事情が発生した場合に行われる人員削減である。整理解雇を行う場合は、以下の「 4要件」が課せられ、労働契約法上、客観的理由がなく社会通念上相当でない解雇については、解雇権の濫用として無効とされる場合がある。

エ 解雇予告と解雇予告手当

労働者を解雇する場合、使用者は少なくとも30日前までに予告しなければならない。ただし、平均賃金の30日分の解雇予告手当を支払えば、解雇予告に代えることができる。解雇予告手当を15日分支払い、15日分の予告期間を短縮することも可能である(労基法20条)。

オ 解雇予告等の適用除外

ⅰ 解雇予告と予告手当支払の除外

「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」または「労働者の責めに帰すべき事由による場合」は、解雇予告・予告手当の支払いが除外されている(20条1項ただし書・3項、施行規則7条)。この規定を適用する場合は、労働基準監督署長の認定(注)を受けることが必要である。

(注)労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、所轄の労働基準監督署長の認定を受ける必要があるが、認定についての考え方、認定基準等は、行政通達(昭和23.11.11基発第1637号、昭和31.3.1基発第111号)により示されている。  

ⅱ 解雇予告の適用除外

次の労働者については、解雇予告の適用が除外されている(21条)。ただし、一定の要件に該当した場合は、労基法20条で規定する原則が適用される。

解雇予告の適用除外予告制度が適用される場合
ⅰ 日日雇い入れられる者1ヵ月を超えて引き続き使用されるに至った場合
ⅱ 2ヵ月以内の期間を定めて使用される者期間を超えて引き続き使用されるにいたった場合
ⅲ 季節的業務に4ヵ月以内の期間を定めて使用される者期間を超えて引き続き使用されるにいたった場合
ⅳ 試みの使用期間中の者試用期間が14日を超え引き続き使用されるにいたった場合

カ 解雇制限

労基法等で、次のとおり解雇制限が設けられている。

ⅰ 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇の禁止(労基法3条)

使用者は、労働者の国籍、信条、社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない。

ⅱ 業務上傷病にかかる解雇制限(労基法19条)

労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり、療養のために休業する期間およびその後30日間(解雇制限の例外として「使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合」と「天災事変その他で事業の継続が不可能となった場合」がある。

ⅲ 産前産後の休業期間中の解雇制限(労基法65条)

産前産後の女性が休業する期間(産前6週間〈多胎妊娠の場合14週間〉、産後8週間〈労働者の就業請求があれば6週間〉の休業)およびその後30日間。

ⅳ 労働者の正当な権利行使を理由とする解雇の禁止

労基法104条、育児・介護休業法10条、男女雇用機会均等法17条・18条、労組法7条、公益通報者保護法3条。

ⅴ 妊娠中や産後 1年以内の解雇制限(男女雇用機会均等法9条3項)

妊娠中や産後 1年以内に解雇された場合、事業主が妊娠・出産・産前産後休業の取得その他の厚生労働省令で定める理由による解雇でないことを証明しない限り、解雇は無効。

第2回

第1章 農業法人の労務対策に関する基礎知識

Ⅰ 農業法人の経営者に求められるリーダーシップ

経営は「水に浮かぶ氷山」に例えられる。経営を浮かべている氷に当たるのが「経営理念・使命」である。氷山の可視部分の9倍の氷が水面下に沈んでいるといわれるが、氷山の最も下にあって経営に関するすべてのものを支えているのが、農業法人の経営理念と社会的使命である。

企業は環境適用業といわれるが、「経営理念・経営者の思い」がしっかりしていなければ環境変化に翻弄され、経営・事業運営が目的どおりに機能することは困難である。

従業員を雇用する法人経営の段階になると、労働契約にかかわる権利や責任関係が生じるので経営者は関係法令等を遵守し、その責務を適切に果たさねばならない。従業員数や売上高など組織規模の大小にかかわらず、構成員から法人経営を託された役員・経営トップに求められるものがリーダーシップである。経営トップ自らが率先して労働諸法令を理解し、実務能力を発揮することが求められる。

□参考資料「経営戦略・経営計画 何のための集落営農か?経営理念とビジョン大切」 (広島経済大学 山本公平教授)

山本教授が行った広島県内の集落法人への調査によると、自分たちの集落営農組織について「10年以上維持できる」との回答は平成22年には57%だったが、25年には35%に減少した。構成員の高齢化が進み、次世代リーダー候補が確保できていないなどの課題があれば将来見通しは不透明なるだろう。しかし、山本教授の分析では事業規模が8000万円以上の経営発展型の組織では「問題なく10年以上存続できる」と回答した組織は7割を超えた。集落営農組織は水田農業、とくに米の生産・販売が経営の柱となるが、山本教授によると米価が大幅に下落した平成26年度でも販売ルートを確保している4000万円以上の事業規模の組織は利益を確保していることが明らかで「事業規模がまだ小さくてもしっかり米を販売するなどが大切。経営の存続が地域にとってもいっそう重要になっている」と強調する。 そのための経営戦略とは「自分たちの集落営農組織が何のために存在し何のために働くのか=経営理念を明確にすること」だという。そのうえで、その理念を実現するために3年後、5年後に自分たちはどうありたいかの姿=ビジョンを策定することが起点となる 事例として紹介した広島県三原市の農事法人「清流の郷・泉」は設立の目的を「先祖より受け継がれた大地を守り、さらに次世代に引き継ぐ」とし、そのために「活気あふれるにぎわいのある里山にすべく大規模農業形態を確立する」ことを掲げ、経営を安定させて地域の発展に貢献することをめざしている。 (中略) 経営資源としての資本や農地、機械などや、若い担い手がいるかどうかといった内部環境をしっかり分析する必要もある。さらに地域インフラの整備状況や、景気動向など自分たちではどうすることもできない外部環境もある。これらを分析したうえで「誰に、何を、どのように生産・販売していくか」が集落営農組織の戦略であり、1年ごとの収益目標などを明示し、分かりやすい3年程度の計画を立てて、毎年見直す取り組みを進める。 紹介した「清流の郷・泉」が、自らの理念実現のために戦略として打ち出したのは「実需者と連携した加工業務用野菜、水稲米による豊かな地域づくり」だ。野菜はダイコン、赤シソ、ニンジンなどを栽培。ダイコンは生食用で量販店に直接販売するほか、規格外はカット工場へ、さらに規格外は弁当、惣菜業者、学校給食へなど。それでも余ったものは構成員で千切り大根にする。コストダウンのため作業日を集中し、収穫から運搬、洗浄までの作業手順を徹底的に見直し無駄を省いている。また、集落営農法人の連携組織も立ち上げ、米は業務用米のほか特別栽培米の学校給食提供も実現した。 山本教授はこうした事例を解説しながら経営戦略・計画の重要性を強調した。

(出典:農業協同組合新聞(電子版)2019.11.17)

□参考資料 「農業経営者の3つの基本機能」

経営者は、次にあげる3つの基本的機能を担い、経営活動を管理する。

□第1の機能は企業家機能である。
これは、経営理念をもち、環境変化を見据え、長期的な視点のもとに自らの経営にとって望ましい目標を明示し、それに至る必要な変革と戦略を策定し、その実現に向けての組織・事業の再編、イノベーションする機能である。この機能は、現状や危機・障害を打破し、新しい事業・基軸の創出が必要になった場合に重要となる機能である。経営が成熟期に入った段階においては、経営者にとって絶対的に重要となる機能である。

□第2の機能は管理者機能である。
これは、所定の経営枠組み・事業領域の下で経営目的を一定の時間と予算の枠内で効果的かつ効率的に達成していくための指揮・統制機能である。この機能は、目的実現に向け、生産と販売を効率的に行い、日々、経営効率を極大化する場合に必要となる機能である。

□第3の機能は環境マネジメント機能である。
経営は、孤立無縁な状況の中で存在するのではなく、他者との関わりの中で存在する。農業経営とて例外ではない。したがって、他者との関わり、環境のマネジメントのいかんが、経営目的を実現する上で決定的に重要である。経営目的を実現していく上で経営環境に働きかけ、適応・改善・変革しようとする機能を環境マネジメント機能という。この機能は、市場がグローバル化し過剰基調となり、成熟化し、また消費者二一ズを無視できなくなった現代社会にあっては、必要となる機能である。

農業経営者にあっても、経営者である限り、本来、こうした3つの機能を備え、経営を管理して行かねばならない。しかし、現状の農業経営者は、こうした基本機能を自覚し、向上させ、発揮させようとする者は極めて少ない。特に、生・家業的家族経営を営む農業経営においては、この3つの基本機能を自覚しない経営者が多い。しかし、こうした経営から脱皮し、経営成長を図っていこうとすれば、経営者の3つの基本機能が必要となり、経営者の自己変革が必要となる。特に農業経営を企業化し、法人化しようとすればこの3つの機能を向上せねばならない。

(出典:「現代農業経営論」木村 伸男氏著)

Ⅱ 農業労働の特性と労働管理の視点

農業法人における労務管理を適切に行なうためには、農業の特殊性を踏まえた対策が必要となる。農業一般的には次に掲げるような点が挙げられる。

1 労働時間管理が難しい農業労働

➀ 農業労働の特殊性
農業は、他産業にない特殊性をもっており、農業の労務管理にはこの特殊性を抜きに考えることができない。栽培する作目の違いなどで異なるが、農業労働の特殊性はとしては次に掲げるものがある。

ア 労働に季節性がある
農業では作物によって農繁期と農閑期があり、この結果、労働分配に不均衡が生じる。これを農業労働の季節性という。

イ 異なる労働過程が多い
農業では作物の成長過程に応じて作業が異なるが、この異なる作業は所定の作業時間帯で行わなくてはならない。したがって、一つひとつの作業を分業化して同時並行的に進めることは困難である。

ウ 作業に適期がある
作物にはその栽培に適した時期があり、時期に応じた作業を一定の順序で行わなければならないという制約がある。

エ 移動労働が多い
作物栽培などは、一般的に広い耕作地で行われるため、移動労働が多くなる。

オ 屋外労働が多く、労働時間管理が難しい
農業は、一般的に屋外労働が多いため、天候による影響を受けるという特性がある。

このため、労務管理の面では、労働時間管理が難しいという制約がある。

2 農業労働の特殊性を踏まえた労働基準法の規定

農業労働の特性を踏まえ、「農業」には労働時間、休憩、休日に関する労働基準法(以下「労基法」。)の規定は適用が除外されている(労基法41条)。これは、農業は、農閑期に十分休養を取ることができる等の理由から、法定労働時間等の原則を厳格な罰則をもって適用することは適当でなく、法律で保護する必要がないと考えられているからである。生き物を扱う仕事である農業は、労働時間管理そのものが難しいということである。

したがって、労働時間については「1日8時間・1週40時間」という法定労働時間の規制が適用されないので、農繁期や農閑期といった農作業等の実態に応じた就業時間を定めることが可能である。また、休憩時間、休日労働についても労基法の規制は適用されない。

□労働時間等に関する規定の適用除外

◇労基法第41条:労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者 については適用しない 一  別表第一第六号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者 二  事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者 三  監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの ○別表第一第六号 六 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業  

3 農業労務管理の視点

 農業労務管理の視点を提起するに際し、その前段として考慮すべき事項と課題を整理しておきたい。

➀ 考慮すべき基本的事項
これからの農業労務管理を考えるうえで考慮すべき事項として、次の点をあげることができる。

ア 農業の機械化・多角化の進展
農業の機械化・多角化の進展である。また、農産物生産に加え、加工・販売等経営の多角化により販路開拓と付加価値の向上に取り組む法人が増加している。現在の農業には、労基法が制定された1947(昭和22)年当時には想定していなかった状況が生まれている

イ 組織として農業を営む経営体の増加
集落営農組織、農業生産法人など、組織として農業を営む経営体が増加している。法人経営体数は着実に増加し、平成31年には23,400法人に達している(「令和2年5月担い手をめぐる情勢について」(農林水産省経営局))。

ウ 雇用労働者の増加
雇用されて農業に従事する労働者が増加している農林水産省資料「農業労働力の現状」によれば、農家の農業後継者が減少する一方、2005(平成17)年の農業法人等の雇用者数(常雇)は10年前(1995、平成7年)より8千人(17%)増加して5万6千人、家族経営の農家における雇用者数(常雇)も10年前より1万8千人(43%)増加して6万1千人」となり雇用労働者は着実に増加している。また、2006(平成18)年に農業法人等に新規に雇用された者は6,510人で、このうち39歳以下が6割を占め、農業法人等が若い新規就農者にとって重要な就職先となっている(農林水産省HP)。 高齢化や後継者不足から、今後も雇用されて農業に従事する労働者の増加が見込まれる。

エ 労働時間について法的な歯止めがかからない
農業に従事する労働者の長時間労働等の実態である。労基法41条の適用除外ということになれば、1日8時間・週40時間の労働時間規制は及ばないことから、労働時間については法的な歯止めがかからないという問題がある

② 基本事項を踏まえた課題

ア 労基法41条の見直し
前述したように、林業を除く一次産業で働いている雇用労働者は「労基法の休日や時間外労働に関する規定が適用除外」となっているが、農業の六次産業化が政策的に推進され、雇用労働者への対応が課題となっている今日、労基法の適用除外規定を現状のまま維持することが論点になっている。機械化の進展等より自然的条件に左右される度合いが低下している現状にあって、「労働時間、休憩及び休日に関する規定」を一律に適用除外とする根拠は乏しくなっている。

イ 外国人技能実習生の取扱いとの比較
外国人技能実習生の取扱いとの比較である。農林水産省は、外国人技能実習生については労働時間等に関する規定を適用除外とせずに労基法の規定に準拠するとしているが、こうした実態に対して、「外国人技能実習生を優遇している」という指摘がある。看過できない現状である。

ウ 基本的な労働条件の確保
現行法において、適用除外されるのは「労働時間、休憩及び休日に関する規定」に限られており、その他の労基法規定や労働契約法は適用される。労働条件の明示や解雇のルール、労災保険や雇用保険などの基本的な労働条件については、農業分野においても確保しなければならない。

③ 基本事項と課題を踏まえた農業労務管理の視点

少子化・高齢化のなかで、農業の将来を担う人材の確保が大きな課題となっている中、農業法人においても「他産業並の労働環境の整備」が必要であり、労基法等のルールを遵守する体制を整えていくことは避けて通れない課題になっている農繁期にアルバイト等を短期雇用する場合とは異なり、法人が常用労働者を雇用し、農作業、農業機械の操作等専門的な仕事を担任させること、また農業法人も他産業と同じ条件で雇用することを避けて通れない経営環境下にあること等を考えると、他業態に引けを取らない労働条件を提示し有能で意欲ある労働者の定着を図ることが、農業法人の継続的な発展を実現するうえで必要である。労働条件の適正化を図り、意欲ある人材を採用し基幹労働者として長く働いてもらうことは、事業の種類に関わらず経営者に課せられた重要な任務である

なお、他産業並の労働環境を前提とし、季節による繁閑の有無により労働時間の設定を「屋外作業・屋内作業」という視点で整理した一例が下表である。法人が採用する「労働時間制度」は、法人事業等の実態に応じ適宜決定することになる。

ところで、近年、いわゆる「ブラック企業」と呼ばれる会社による違法な働かせ方が社会問題化しているが、これを他山の石とし、優秀な人材を確保し長く働いてもらうためには適切な労務管理を行うことが不可欠である。就業規則の作成を社会保険労務士に丸投げする形で依頼しているケースもみられるが、法人の役員が率先して「ワークルール」を習得することが望まれる。

今回掲載させていただいた手引きは、農業法人支援時の説明用資料として取りまとめたものであるが、現地では、法人役員の皆さん、普及指導員の先生方と時間をかけて一緒に勉強させて頂く機会を得たことを紹介しておきたい。

□参考「屋外作業・屋内作業」という視点で整理した労働時間の設定(例)

季節によって繁閑がある季節によって繁閑はない
① 屋外作業② 屋内作業③ 屋外作業④ 屋内作業
〇作業が天候に左右されるため、突発的な時間外労働が多くなる。 〇水稲栽培など季節による農作業の繁閑がある。〇計画通りに作業を進められるので、突発的な時間外労働は比較的少ない。〇作業が天候に左右されるため、突発的な時間外労働が多くなる。〇計画通りに作業を進められるので、突発的な時間外労働は比較的少ない。
〇採用する労働時間制度は、労働時間が月・季節によって異なるため「1年単位の変形労働時間制」が適している。 ・「1年単位の変形労働時間制」は手続きやルールが複雑であるので、適宜、専門家等のアドバイスも受けて規程整備を行う。〇採用する労働時間制度は、「1日8時間以内、かつ1週40時間以内」の法定労働時間を基本とする。 ・1日8時間労働×週5日労働(週休2日制) ・1日6時間40分労働×週6日労働(週休制) ・1か月単位の変形労働時間制 (隔週休2日制)

(備考)労働時間に関する労基法の規定内容は、第3章を参照。

第1回

農業法人の労務対策と就業規則の作成

1 基本認識

平成17年10月の農業政策の大転換を契機に、農業法人の設立が急ピッチで進み、基幹作業を担う組合員高齢化への対応、また、規模拡大や加工・販売に対応するため、従事分量配当制の農事組合法人においても労働者を雇用する経営が増えている。しかし、「賃金等労働条件が不満」「職場環境が良くない」という理由で、辞めてしまう労働者が多いことも残念ながら事実である。

農業法人経営者にとって、意欲ある労働者を採用し法人経営を支える人材として育成し、職業能力を発揮して長く働いてもらうことが法人の経営発展はもとより地域活性化のためには重要であるが、そのためには他産業に引けを取らない労働条件と適切な労務管理が不可欠である。労務管理は、労働者の採用、研修、賃金や労働時間の管理、昇給、異動、昇格、退職など一連の施策であるが、労働者を1人でも雇用する法人においては雇用契約に伴う権利や責任関係が生じるで、法人経営者は労働・社会保険諸法令の理解に努め関係法令等を遵守し、その職責を適切に果たさねばならない。

農林水産省は、人手不足問題に対応するため、農業経営者や 有識者をメンバーとした農業の「働き方改革」検討会で議論を重ね、2018年3月に『農業の「働き方改革」経営者向けガイド』 を取りまとめている。「経営者向けガイド」は、 ①他産業との人材獲得競争の中で農業が選ばれるためには、経営者の意識改革が必要であること ②働き方改革を具体的に進めるための段階的なアプローチとして、課題の洗い出し、経営理念の共有、年間作業の平準化、業務のマニュアル化等をステップに踏んで進めていくことを提起している。

本寄稿は、昨年「やまぐち農業経営支援センター専門家」に登録頂いたことを機に、以上の基本認識を踏まえ、労働者の雇用を予定されている農業法人役員と行政関係者の理解に資するため、雇用労働者の労務管理に関する統一的なルールを明確にした就業規則の作成実務について取りまとめたものである。

2 「モデル就業規則の作成」あたって

「土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業」について、労働基準法(以下「労基法」。)第41条は、『この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない』と規定しており、「農業」には「労働時間・休憩・休日」に関する労基法の規定は適用しないこととしている。

しかし、農繁期にアルバイト等を短期雇用する場合等とは異なり、農作業、農業機械の操作等基幹作業を担任させる常用労働者を雇用にあたっては、農林水産省「経営者向けガイド」にも提起されているように「他業態に引けを取らない労働条件を提示し有能で意欲ある労働者の定着を図る」ことが、農業法人の継続的な発展を実現するうえで不可欠である。意欲ある人材を採用し基幹労働者として長く働いてもらうことは、経営者に課せられた重要な任務である。

林業は、かつては農業と同じく、労働時間規制の対象外であったが、作業の機械化が進み、労働時間管理の体制が整いつつあるとの理由から、平成5年の法改正により、労働時間規制の適用除外事業から外され、他の事業と同じ労働時間規制に従っている。農業についても、労働時間規制の対象外であることに頼らない労働環境を整えていくことで、法改正にも影響を受けない農業法人とすることができる。そして、それは農業以外の事業との人材獲得競争に負けないためにも必要である。

以上にかんがみ、「モデル就業規則」の作成にあたっては、他業態と同様「労働時間・休憩・休日」に関する労基法の規定の適用を前提として作成している。

ところで、農林水産省は、「農業分野における技能実習生の労働条件の確保につい て」(平成25年3月28日)と題する書面において「関係機関に対し、通知について再度周知徹底し、技能実習制度の適正な運用に向けた指導をお願いする」として、「労働基準法の労働時間、休憩、休日等に関する規定に準拠することを求めているところであり、今後とも、通知を踏まえた適正・ 的確な制度の運用に努めること」としている点については付記しておきたい。

なお、本寄稿資料は、令和2年4月現在の法令にもとづいている。

も く じ(今後の掲載予定、1章ずつ追加していきます)

第1章 農業法人の労務対策に関する基礎知識 
Ⅰ 農業法人の経営者に求められるリーダーシップと実務能力 
Ⅱ 農業労働の特性と労働管理の視点

第2章 労働者の雇用管理に関する基礎知識(採用から退職まで
Ⅰ はじめに 
Ⅱ 農労働者の募集・採用と労働社会保険手続き 
Ⅲ 労働契約の締結 
Ⅳ 労働契約の終了 

第3章 労働法令の基礎知識
Ⅰ 労働法とは 
Ⅱ 労働時間の基礎知識 
Ⅲ 休日・休暇の基礎知識 
Ⅳ 賃金・賞与・退職金の基礎知識 
Ⅴ 安全衛生・災害補償等と労災保険の基礎知識 
Ⅵ 多様な労働者に関する基礎知識
Ⅶ 男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の基礎知識 
Ⅷ 労働施策総合推進法の基礎知識 
Ⅸ 個別労働紛争解決制度と公益通報保護法の基礎知識 

第4章 就業規則の基礎知識と作成(例) 
Ⅰ 就業規則の基礎知識 
Ⅱ 参考資料「就業規則の作成[本則](例)」 

コメントを残す