第7章 JA運動に新たな潮流を
第1回全国特別・第26回課題別セミナー・2019(令和元)年7月18日~19日

第1回全国特別・第26回課題別セミナーについて

 新世紀JA研究会は、平成28年からこれまで「新総合JAビジョン確立のための危機突破・課題別セミナー」を25回重ねてきた。
 今回は、その成果をまとめる形で特別セミナーを開き、経済事業改革、准組合員対策、中央会組織、監査機能など、JAの組織・事業・経営について総括的な討議を行った。その講演や現場報告、討議内容などの要点を掲載する。
 なお、新たな准組合員対策についての荒川博孝(新世紀JA研究会企画部会・小委員会)報告は、第5章と重複するので省略した。

第1節 黒字農協は共通財産 地域金融機関とも交流を 日向 彰 農林水産省 経営局協同組織課長

一、全農の改革を評価

 JA全中は、「農業・農村の危機」「組織・事業・経営の危機」「協同組合の危機」の3つの危機に直面していると言っています。そのためにはどうするか。厳しい状況のもと、このままでは農協は立ち行かなくなる恐れがあります。しかし、いろいろできることはあると思います。そのことをしっかりやっていただきたい。
 農協改革集中推進期間が2019年5月で終わりました。規制改革推進会議は6月の答申で「一定の進捗が見られた」と評価したうえで、農業者所得の向上、一層の資材価格の引き下げ、信用事業の健全な持続性などについて課題が残されており、「引き続き自己改革の取り組みを促す」としています。
 この2年間、農水省として多くのJAと意見交換しましたが、農協は努力しているなと感じています。
 農業機械や肥料価格を下げるなどきちんとやってきたことが評価を得たのだと思います。9月以降、これまで5年間の自己改革の取り組みを数字で積み上げ、評価することになります。
 JAグループが問題にしている二つの懸念は承知しています。信用事業を強制的に分離するのではないか、准組合員の利用規制を入れるのではないかということですが、利用規制は5年間(2016年~2021年)の調査期間があり、まだ先の話です。
 その間、与党が「准組合員規制は組合員の判断による」を公約しており、改正農協法の国会附帯決議でも組合員の判断を尊重する旨を明記しています。

二、事業譲渡は自由判断

 信用事業譲渡も吉川貴盛農水大臣が国会で述べている通り、あくまで任意です。信用事業で必要なだけ儲けてもいいが、それが厳しくなる。そのなかでどうやって農協を守るか。それが自己改革で求められていることだと言っているのです。これは農水省でなく、農協の経営の問題です。
 赤字垂れ流しでは早晩行き詰まることは火を見るより明らかです。事業を続けるにはそこそこの利益をあげ、農業者から評価されるよう頑張っていただきたい。
 農協は言うまでもなく農業者の組織です。農業や地域の発展に極めて重要な役割を果たしています。農業者は農協を利用することでメリットを得るのであって、農協はそのメリットを提供することで必要とされます。それには、組合員のニーズにしっかり応えて利用され続けることが重要です。
 農協は民間団体であって公的団体ではありません。戦後の一時期は食糧政策上の必要から、行政の後押しがありましたが、いまは農協だけ特別扱いはできません。

三、経済事業赤字が8割

 日銀によると、今後10年間で地銀の6割が赤字になるとレポートしています。お願いしたいことは、農協も、もっと地域の他の金融機関と交わりを持ち、地方銀行がいかに苦しんでいるかを知ってほしい。
 農水省の調査によると、全国の8割の農協が経済事業で赤字になっています。それを当然として思考停止してはいけません。逆にみると20%(122農協)が黒字で頑張っているのです。黒字農協の大半は北海道で、都府県の黒字48農協でみると、事業総利益は、各事業とも満遍なく確保していますが、赤字農協は信用共済事業の比重が高くなっています。また黒字農協は販売取扱高が大きく、1JA平均100億円で、赤字農協は60億円です。
 職員一人当たりの販売取扱高も農協によって2~2・5倍の開きがあります。黒字農協は農業に軸を置いており、品目は北海道が生乳と野菜、都府県は野菜、果樹、米の順です。
 経済事業の比率の高い北海道は職員100人未満が多く人件費の負担を抑えていますが、全国で900人以上の農協でも黒字を出しているところもあります。やればできるということだと思います。
 全農は共同利用施設の運営や農産物の海外輸出など、JAと連携して取り組んでほしい。ガソリンスタンドや生活購買店舗など、ライバル企業が多いなかで苦戦していますが、営業で頑張っていただきたい。また赤字の生活事業も諦めるのではなく、本当に地域に必要なインフラなら、農協だけで頑張るのではなく、市町村や住民の皆さんの支援を求める方法もあるのではないでしょうか。
 また、いま農協の合併が進んでいますが、それにはまず合併のメリットを明確にしてほしい。単に時間の先送りになっているように感じます。1県1農協も経済事業は大きな赤字です。旧農協の施設は一体化するなど、効率化する必要があります。これからは黒字農協が赤字農協を吸収するようなことはできなくなります。

四、食料の重要さ不変

 最後に、これからの農水省の役割についてですが、駅伝の伴走者のようなものだと思っています。走者に声をかけ、時には助言します。農協に対してほめるところはほめ、改善すべきは愚直にアドバイスしていくつもりです。農協は、やるべきことをやればこれから30年、50年と生きていけます。なぜなら、時代が変わっても食料は絶対欠かせません。つまりニーズのある仕事をやっているのです。管内の人びとに自分たちが作った食料をどうやって食べてもらうか。そこに力点を置いて考えると必ず道は見えてきます。
 これからは、最後には誰かがなんとか手を差し伸べてくれるようなことはありません。122の黒字農協のうち、5年連続黒字の農協が20あります。この例をJAグループ共通の財産にして頑張っていただきたい。

第2節 JAは「総合事業」選択 農林中金は農業振興を支援 河本 紳 農林中央金庫 常務理事

 はじめに

 JAバンクでは「信用事業運営体制のあり方」検討(以下、「あり方検討」)に取り組み、2019年5月までに全てのJAで今後の信用事業運営体制のあり方について組織決定を行っていただきました。
 初めに「あり方検討」に取り組んだ経緯を少し振り返ります。2014年4月に農林水産業・地域の活力創造プランが改訂され、「単位農協のあり方」として「単位農協は農産物の有利販売と生産資材の有利調達に最重点を置いて事業運営を行う必要」があり、「農林中金・信連・全共連の協力を得て、単位農協の経営における金融事業の負担やリスクを極力軽くし、人的資源等を経済事業にシフトできるようにする」とされ、このために代理店スキームを含む信用事業譲渡の活用を積極的に進めると明記されました。

一、各JAで事業戦略を

 一方で、組合員ニーズは時代とともに変化し、信用事業について言えばマイナス金利の継続などJAを取り巻く環境が大きく変化するなかで、この変化に応じて各JAが農業や地域への貢献に向けて、今後どのように取り組んでいくのかをあらためてわれわれ自らが検討する必要があると考えました。
 このような状況を踏まえて、信用事業を含む各事業の今後のあり方を検討のうえ、事業変革に取り組む必要があるとの課題認識のもと、各JAにおける経営基盤強化に向けた検討の中で、今後の「信用事業運営体制のあり方」の検討を行い、全てのJAで2019年5月までに組織決定を行うこととしたものです。
 各JAにおいては収支シミュレーションを行い将来の事業見通しを確認いただき、農業・地域の成長支援策や事業変革に向けた具体策など、今後の事業見通しを踏まえた事業戦略を検討いだきました。
 そのうえで、合併や信用事業譲渡の活用などの組織再編の要否も併せて検討していただき、2019年5月までに各JAにおいて今後の「信用事業運営体制のあり方」を理事会等にて組織決定いただいたところです。
 各JAの最終的な組織決定の結果は現在最終集計中ですが、約610あるJAのうち大宗のJAが「単独で総合事業を継続」もしくは「合併により総合事業を継続」を組織決定されており、多くのJAが今後も「総合事業を継続する」という選択をしたという結果となる見通しです。
 2019年3月に「あり方検討」の結果の見通しを各JAに確認させていただき、その中で総合事業継続の理由を聞いたところ、多くのJAが「組合員・利用者ニーズへの対応」「営農経済事業における一層の機能発揮」を挙げています。
 また、現在集計中の最終結果のとりまとめでは、「総合事業性の発揮」「経営基盤の強化」に向けて今後各JAで取り組むと聞いていますが、「総合事業性の発揮」については、「事業間で連携した訪問活動の展開」「信用・営農経済事業との情報連携の強化」「管内農業の実情に応じた農業関連資金の提供」に取り組むとの回答を多くのJAからいただいています。
 また、「経営基盤の強化」に向けては、多くのJAで「あり方検討」の結果を中期経営計画に反映し、その各種施策に取り組みつつ「農業・地域の成長支援」や「貸出の強化」に特に注力していくとの回答をいただいております。

二、課題残る信用事業

 「あり方検討」は検討から実践へと移り、今後は各JAにおける取り組みに対して、具体的な成果や評価が問われるステージへと移ります。規制改革推進会議は2019年6月6日に答申を決定し、同21日に規制改革実施計画を閣議決定していますが、その答申には「令和元年5月末までの農協改革集中推進期間における自己改革が進められ、一定の進捗が見られた」とし、各JAの自己改革の進捗に評価する一方、「信用事業の健全な持続性」については「課題が残されている」と明記されています。
 「あり方検討」の結果として多くのJAが総合事業継続を選択したという結果となる見通しですが、今後は信用事業運営継続に伴うリスクや負荷へしっかりと対応すること、そのうえで「農業金融機能の一層の強化」や「営農経済事業など他事業とも連携した取り組みの強化」等の展開を通して、総合事業ならではのサービスを組合員や利用者へ提供することで管内農業や地域の発展に貢献していくことが必要と考えています。
 JAバンク中期戦略では、「農業・地域の成長支援」「貸出の強化」「ライフプランサポートの実践」「組合員・利用者接点の再構築」を4本の柱として取り組んでいくこととしています。各JAでは、「あり方検討」を通して検討した事業変革に向けた具体策等の実践により管内農業や地域の発展への貢献に向けて取り組んでいただくとともに、当金庫としても各JAの取り組みを全力で手伝いをさせていただきたいと考えています。

第3節 4つの産地パワーアップ事業 JA出資法人軸に推進 栗原 隆政 JA鳥取中央 代表理事組合長

 はじめに

 JA鳥取中央は鳥取県の中央部に位置し、県内で一番農業が盛んであり、スイカと梨の2大品目を中心として農産物の販売高は約169億円。平成19年の合併当時の販売高200億円を目標に、「JA鳥取中央・地方創生総合戦略による産地パワーアップ事業」を立ち上げました。
 産地パワーアッププランは4つのプランを掲げており、一つ目は「輝きある梨産地技術革新プラン」として「二十世紀」だけでなく、新品種の「新甘泉」を普及させるため、ジョイント栽培を勧め、生産者を支援しています。
 二つ目は「活力ある園芸施設増設プラン」としてスイカの園芸施設を増設しています。
 JA鳥取中央のスイカは産地により特色が異なり、今年は過去最高の6月出荷率を達成し、平均価格も過去最高の実績を上げ、熊本県に次ぐスイカ産地の指定席を確実にしています。
 三つ目は「和牛基地化による増頭プラン」として、和牛繁殖牛を500頭増頭します。平成29年に開催された宮城全共では鳥取牛が第7区の総合評価で肉牛日本一を獲得し、さらに活気づいています。
 四つ目となる「魅力あるイチゴ団地プラン」は平成28年にJA出資型法人として立ち上げたイチゴ農場の㈱北栄ドリーム農場の経営となります。

一、農地の集約30%

 管内の生産基盤を支えると共に、地域の農業を継続するため、JA鳥取中央では生産者の高齢化に対応して集落営農組織・法人の育成に力を入れています。平成30年度は農事組合法人23経営体、集落営農組織55経営体と78の経営体があり、これらの組織によって集約された水田面積は平成19年度の10・5%から30・1%に増えます。

二、JA出資法人軸に

 JA出資の関連会社は、先ほど紹介した㈱北栄ドリーム農場と㈲グリーンサービスの2社、子会社として㈱グリーンファーム大黒があります。北栄ドリーム農場については、北栄町長から産地活性化の話があり、町とJAで150万円ずつ出資し、平成28年に立ち上げました。ハウスの内外で遠隔操作できる環境制御センサーを設置した最新設備で、ハウス高設栽培を行っています。
 栽培したイチゴは大手洋菓子メーカーと提携しており、ケーキ加工用での出荷をはじめ、圃場が観光地に隣接していることもあり、イチゴ観光農園としても準備も始めています。
 ハウス設置には大きな設備投資が必要です。いかにコストを下げるかが重要で、慎重に拡大していきたいと考えています。
 グリーンサービスは中山間地域を対象に平成5年に三朝町とJA鳥取中央(当時のJA三朝町)の共同出資で設立しました。農作業受委託、農畜産物の生産・加工販売、観光果樹園の運営などが主な事業となっており、約4000万円の売り上げですが、経営的には苦しい状況にありますが、農家の役に立ちたいという強い思いで取り組んでおり、農地・水・環境保全事業交付金の事務も町一本化して行っています。
 また広域の環境保全組織としての機能を果たすものとして期待しており、約20 haの水田受託と作業受託が45 ha、作業受託は集落営農組織に任せながらですが、水田受託は増加しています。
 子会社のグリーンファーム大黒は稲作を中心とした有限会社と畑の遊休農地解消と地域農業の担い手としての育成を目的とする株式会社を合併して平成29年に発足し、水田と畑を融合させた一体化経営の確立を目指しています。
 具体的には、(1)水田を中心としたモデル的法人経営の確立、(2)農地を有効活用した耕作放棄地の解消、(3)ハウス施設の増反による生産販売の安定と労力の分散、(4)新規就農者の育成、(5)土地利用型の品目として畑作大豆の作付け拡大と、産地パワーアッププランの4つの事業を基に研修生の受け入れを行い、新規就農に結びつきました。またJA新規職員やグループの新規採用職員の研修の場としても活躍しています。ほぼ全額JA出資です。

三、経営基盤の強化へ

 今後は分散農地の集約、作業の相互補完などで経営基盤を強化する必要があります。また集落協定による休耕地の草刈りの応援等によって耕作放棄地が発生しないようにしなければなりません。なお三朝町には普通の大豆に比べイソフラボン含有量が約2倍の「三朝神倉大豆」(みささかんのくらだいず)があり、納豆、豆腐、水煮、どら焼きなどに加工・販売されており、かつて1haだった作付けが今では35 ha、さらに増反して地域の特産化に貢献しています。
 中山間地域の農業経営はコストがかかり、後継者は不足し、耕作放棄地は増える一方です。では誰が地域の農地と農業を守るのか。農地・水・環境を守ることは日本の国土を守ることです。一般企業では難しいこの問題をJAが、法人化によって少しでも解決できればと思っています。

第4節 JAはだのと包括協定で地域づくり 渡邊たかし パルシステム神奈川・ゆめコープ 専務理事

 はじめに

 2017年に神奈川県内の農協・漁協・生協・森林組合・ワーカーズコープなどの協同組合83組織で「神奈川県協同組合連絡協議会」が発足しました。組合員は農協35万人、漁協3700人、森林組合7500人、生協260万人、ワーカーズコープが4500人です。
 組合員同士が親しく交流し、協同組合組織のより広い交流や連帯を進め、地域の活性化を通じて、住みよい地域社会づくりを目指して活動しています。協同組合の連携組織としては全国屈指となっています。
 この新たなつながりから、2018年3月に秦野市農業協同組合と生活協同組合パルシステム神奈川ゆめコープで協議を開始し、さまざま協議を経て、秦野市農業協同組合の組合員へ生活関連物資等の供給をパルシステム神奈川ゆめコープが担う事業連携を進めていくことで合意し、2019年4月からスタートしました。神奈川県内では新たな試みであり、農協と生協の連携モデルとして、組合員や地域に貢献していくことを目的としています。

一、産直と環境基本に

 パルシステム神奈川ゆめコープは、「生命(いのち)を愛(いつく)しみ、自立と協同の力で、心豊かな地域社会を創り出します」を理念に、神奈川県内で事業と活動に取り組んでいる生活協同組合です。食と農を支える「産直」と資源循環型社会をめざす「環境」を基本に商品供給、福祉、共済・保険、電力などの事業を展開しています。 
 県内に配送センター11か所、福祉事業所6か所、文化活動拠点1か所、活動拠点2か所を有し、組合員のくらしを守り、地域に根ざした事業活動に取り組んでいます。組合員数は32万7000人、総事業高で477億4000万円(2019年3月末現在)となっています。
 私たちパルシステムの商品は、「食」と「農」をつなぎ、いのちの力があふれる社会を次の世代に手渡したい。その思いを込めて、次の「7つの約束」を大事にした商品づくりを進めています。
(1)作り手と「顔の見える関係」を築き、信頼から生み出された商品をお届けします
(2)食の基盤となる農を守るためにも国産を優先します
(3)環境に配慮し、持続できる食生産のあり方を追求します
(4)化学調味料不使用で、豊かな味覚を育みます
(5)遺伝子組換えに「NO!」と言います
(6)厳選した素材を使い、添加物にはできるだけ頼りません
(7)組合員の声を反映させた商品づくりを大切にします
の7つです。
 また私たちパルシステムが常に立ち返るのが、パルシステムの「商品づくりの基本」です。パルシステムの商品はどれも、産直産地や生産者、組合員とともに歩み、挑戦してきた歴史や物語を持っています。その長い道のりで、常に指針としてきました。
 それは、(1)自然や生き物の「本来の姿」を尊重しているか、(2)地域に根ざした食生産やくらしに貢献しているか、(3)「作り手」との関係に、甘えや惰性、妥協はないか、(4)食べて「おいしい」、あって「よかった」を届けているか、(5)商品の裏側をきちんと伝えようとしているか、です。

二、JAはだのと一致

 JAはだのは、基本理念に「夢のある農業と次世代へつなぐ豊かな社会を地域できずく」をかかげ、「次世代との共生」「地域との共生」「アジアとの共生」の3つの共生運動に取り組んでいます。特に、JAはだのが大切にしてきた「地域との共生」は、「農」が地域に果たすべき多面的な役割を踏まえて、消費者だけでなく「地域」に広げた運動を展開しています。
 こうした協同組合としての考え方、地域への想いが当組合と一致しています。JAはだのとなら、「違い」を尊重できる関係づくりが出来そうだとの思いから、関係づくりを進めてきました。
 協定は生活購買事業の連携にとどまらず、生産者である農協の組合員と、消費者である生協の組合員が共に交流し、様々な活動によって地域の振興、地域の活性化に取り組み、未来の地域づくりを目的とした包括的な協定を結ぶことになりました。協定では、お互いの緊密な連携によって事業を通じた地域振興、地域貢献に取り組むことを定め、その目的達成のための連携事項として次の8項目を定めました。

三、8項目の連携事項

(1)食と農に関する学習活動に関すること
(2)組合員・役職員の交流による協同組合運動の実践および人材育成に関すること
(3)SDGs全17項目の目標達成に向けた取り組みに関すること
(4)組合員への生活関連物資等の供給に係る事業の相互利用促進に関すること
(5)秦野市産の農畜産物および農畜産加工品の流通促進に関すること
(6)相互の施設やインフラを活用した事業展開に関すること
(7)災害時における連携、協力に関すること
(8)その他目的の達成に必要な事項に関すること
となっています。
 この協定で私たちは新たな一歩を踏み出すこととなりました。神奈川県内における農協と生協の新たな連携モデルを進めるにあたり、今後も県内外各地の多くの皆さんからの協力、支援をいただきながら、推進していきます。

第5節 セミナーの合意を要請へ 「貯保」負担削減など実現 ―新世紀JA研究会13年の活動 萬代 宣雄 新世紀JA研究会名誉代表・JAしまね元代表理事組合長

 平成15年に島根県JAいずもの組合長に就任し、1農協の組合長では国やJA中央機関に対して発信の限界があると感じていたところ、東京でのある会合の後、仲間を集めて発足したのが新世紀JA研究会です。JA運営を担う役職員が、情報交換や話題を共有することを目的に、18年10月のJAいずも(当時)での開催から、今日まで26回にわたるセミナーを全国のJAの協力を得て開催してきました。
 セミナーではアピール文を採択し、国会議員、農林水産省、JAグループ全国連に対し、農業・農協が抱えている諸課題の解決に向けて要請活動を実施してきました。
 これまでの主な成果としてあげられるのは、一つは国の補助金返還義務の免除です。
 国庫補助事業等の補助対象財産の財産処分(補助目的外への転用、譲渡、取り壊し等)に対する制限について国に要請し、概ね10年経過した補助対象財産は、補助目的を達成したものとみなすこととなりました。
 二つ目はJAバンク支援基金の積立金の凍結です。
 我々の要請活動で関係者の理解・協力を得ることができ、平成21年度から0・015%であった負担金を凍結し、経費節減を行うことができました。これによってJA全体で約160億円の掛金負担(平成20年度実績)がなくなり、当時のJAいずもで、約6000万円の掛金が半分になりました。
 当時このことに関心を持つJA関係者は多くありませんでしたが、この経費節減効果は大変なものだったと認識しています。
 三つ目は〝協同の翼〟青年農業者のリーダー育成・交流研修をスタートさせました。平成25年に青年農業者およびJAグループ中堅職員を対象に、東南アジア3か国(ベトナム・タイ・シンガポール)を視察しました。
 10年以上前のことですが、農水産業協同組合貯金保険制度関係の稟議に目が留まりました。調べたところ、貯金保険機構とJAバンク独自の制度である「JAバンク支援基金」を合わせ、積立金が十分溜まっていることがわかり、新世紀JA研究会を中心として要請活動を始めることとなりました。
 JAバンク支援基金は、前述の通り凍結することができましたが、貯金保険機構の保険料は、農水省から「預金保険機構とのバランスもあり、貯金保険機構だけ変えるわけにいかない」「金融環境の変化で、これから何があるかわからない。JAグループはまだ不足」等の理由から要請は拒否されてきました。しかし、一方で、預金保険機構は何度も保険料を引き下げています。
 この制度の対象となる組合は、ペイオフが解禁された平成14年度の1713団体から30年度には787団体まで減少。また15年度以降、破綻した組合はなく、責任準備金は着実に積み上がっている状況でした。
 積立金は多いに越したことはないが、目標額の設定がないことが問題です。これでは農協いじめ、つまりは農家いじめです。保険料を払うことは、貯金者保護のために重要ではあるが、保険料を凍結し、「農家所得の増大」「農業生産の拡大」「地域の活性化」のために農業振興に向けた投資をすべきではないかと考えました。
 近年のわが国の農林水産業は経済・社会の国際化、自由貿易の促進のなか、それなりに生産を伸ばしているが、海外からの農産品や加工食品、木材製品等の輸入拡大が進んで自給率が下がり、中山間地の耕作放棄、鳥獣害、荒廃山林等が増大しています。こうした環境に地域の農林水産業を支えてきた農協や森林組合、漁協等の協同組織は苦しんでいます。
 こうした状況のなか、新世紀JA研究会では有志国会議員に働きかけ、この事態に懸念を持つ議員による「地域の農林水産業振興促進議員連盟」が結成されました。これが貯金保険機構の保険料見直しに向けて、大きな後押しとなり、農協改革推進決議(平成30年8月24日)に自民・公明両党の重要要望事項の一つとして貯金保険機構の責任準備金保険料引き下げが盛り込まれました。
 我々の思いが国会議員の先生方に通じた結果でした。議員連盟は平成30年に73人で発足し、現在は107人になっています。こうした動きが農水省の態度を一変させることになったのです。
 平成31年3月、萬木孝雄氏(東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)ほか委員8人で、保険料率に関する検討会が開かれました。その中で、組合の経営リスクの考え方として、信用事業の他、経済事業等のリスクがあるが、そのリスクは過去の発動実態を踏まえた検討をすることで十分であるとされました。
 また、責任準備金の積立目標額をJAバンク貯金約100兆円の0・5%に当たる5000億円(預金保険制度は被保険預金約1000兆円の0・5%にあたる5兆円を責任準備金目標額としている)、目標達成までの期間は、預金保険機構を参考に10年程度とすることが適当であるとされました。
 貯金保険機構責任準備金は4310億円(平成30年度末)であり、それにJAバンク支援基金約1700億円、県相互援助積立金約1600億円を合計すると約7600億円となり、目標の5000億円をクリアしています。
 平成31年3月29日、農水大臣、財務大臣および金融庁長官の許可を得て、保険料について、一般貯金等0・014%から0・008%へ、決済用貯金0・018%から0・013%に引き下げられました。これによるJAグループの保険料圧縮額は70億円となりました。JAしまねでは2018年の納付額1億4500万円から2019年には8200万円となり、6300万円の減となりました。その分、経費節減となったのです。
 長年、問題提起し続けた貯金保険機構掛金見直しが現実になったことについて、国会議員の先生方をはじめ、各関係者の皆さんに感謝します。これからも農業振興の財源を確保すべく保険料完全凍結に向けた働きかけを続ければなりません。
 苦しい経営環境のなかで、保険料を捻出しているにも関わらず、JAグループ役職員の「経費に対する認識の甘さ」を痛感しています。保険料を税金の一つくらいにみて、その存在さえ知らない役員もいます。今回の掛金引き下げを契機に役職員全員が、今後のJAを取り巻く課題・問題に貪欲な気持ちで日々の業務にあたってくれることを期待します。

第6節 農協変える真の改革を 「目指す姿」を明確に示す 水谷 成吾 有限責任監査法人トーマツ シニアマネージャー

一、自己改革できたのか?

 2019年5月末に「農協改革集中推進期間」が終わりました。しかし、目の前に参院選を控えて、これまでの改革への圧力がうそのように〝農協改革ブーム〟は去り、祭りの後の寂しささえ感じます。もちろん、政府の農協改革集中推進期間は一つの通過点であり、今後も不断の取り組みを進めていくという農協グループの姿勢に間違いはなく、政府の動きに右往左往する必要はありません。それでも、全中だけが成果を強調し、この5年の集中推進期間をひとりよがりな自画自賛で終わりにしてよいのでしょうか。

二、批判をどう受け止めたか?

 農協改革において何度も繰り返された「農協が地域金融機関化した」という批判に対して、農協の何がどのように改革されたのでしょうか。改革の必要性は理解しているが、短期的な数字をつくる癖から抜け出せないのが農協職員の実態であり、キャンペーン金利による集金と「お願い推進」での共済契約獲得による収益確保の構図に変化は見られません。

三、危機感のない役職員から改革は生まれない

 数字づくりに邁進していれば大過なく過ごすことができた農協経営に転機が訪れています。2019年3月期決算は上場地銀の7割が減益であり、金融庁は業務改善命令も視野に入れた抜本的な改革を迫るとのことです。決して他人事ではない、上場地銀の収益力の低下を農協役職員はどのように受け取ったのでしょうか?
 変わることに不慣れな農協役職員にとって「限界地銀」などどこ吹く風で、「今のままでも何とかなるだろう」という楽観論で不安を抑え込み、自己正当化と責任転嫁によって改革しなくてもよい理由付けに終始しています。そもそも、自分の任期が終わった後の農協への危機意識が希薄です。農林中金の預金金利が引き下げになるといっても自分の任期中は信連の奨励金が維持されるから問題ないという認識です。信連の奨励金が維持されるのは、「任期中は大丈夫ですから、安心してください」という意味ではなく、「その間に痛みを伴う改革を進めてください」ということだと思いますが、そのような当事者意識は皆無です。

四、「地域の農業を振興し、わが国の食と緑と水を守ろう」は本気か?

 現在の農協を取り巻く環境下において、「今のままでいたい」という農協役職員の願いはかないそうもありません。実際、農水省は金融依存の経営形態は限界に近づいているとし、本業の黒字確保へ指導を強化する方針です。
 今一度、JA綱領に立ち戻ってみてはいかがでしょうか。農協役職員は会議や研修の都度、JA綱領を唱和し、自らの使命を再認識しているはずです。そこに掲げられる「地域の農業を振興し、わが国の食と緑と水を守ろう」は単なるスローガンではないでしょう。「そんなことに取り組んでいたら農協経営ができない」というのが役員の本音であれば、もはや農協であることの意味を自ら放棄したと言わざるを得ません。

五、本気で農協を改革したいと思うか?

 〝自己改革〟というくらいですから、一生懸命に仕事をするのとは次元の違う話だということは言うまでもないでしょう。誰も「農協は何もしていない」と言っているわけではありません。ただ、〝改革〟と呼べるような取り組みはしていないのではないかと思います。ここでもまた「今までやってきたことは間違っていないのだから〝改革〟の必要はない」と開き直るのでしょうか。
 まずは、役員が改革の必要性を理解することが必要です。そのうえで、自ら「やるべき」と覚悟を決めることです。職員は役員から発信されるメッセージの変化から自らに期待されていることの変化に気づき、組合員との向き合い方にも変化が見られるでしょう。

六、あらためて「なぜ改革が必要か」

 毎年計画通りの事業利益を達成し、農業支援にお金を使っているのだから自分の経営に間違いはないと胸を張る役員は、農協の経営が安定する一方で農家が農業の将来性に悲観的になっているという現実をどのように受け止めているのでしょうか。ここでも「それは農協の責任ではない」と自己正当化による責任転嫁でしょうか。
 自分で考えることをせず、政府の改革要求に対抗あるいは対応することが改革の目的になっているから、改革が選挙対策に置き換えられてしまうのです。改めて農協の「目指す姿」を発信し、なすべき改革を明確にすることが必要です。
 「今はまだ追い込まれていないから改革は時期尚早だ」というのは間違いであり、問題ない時に次の展開を考えるのが経営です。その際、「目指す姿」のない農協に、「目指す姿」を実現するための改革を描けるはずがありません。

第7節 人類が共通の未来像を 栗本 昭 法政大学大学院・連帯社会インスティテュート

一、概念の進化

 持続可能な開発の概念はレイチェル・カーソンが1962年の『沈黙の春』で農薬による環境悪化に警鐘を鳴らしたことに始まります。1972年のローマクラブの『成長の限界』や国連人間環境会議を経て、1987年にグロー・ブルントラントは『持続可能な開発に関する私たちの共通の未来』のレポートで「未来の世代の能力を損なうことなく、現在のニーズを満たす開発」と定義しました。1992年の地球サミットは持続可能な開発に関する取り組みを国連のアジェンダとして取り上げました。
 一方、国連は1960年から10年ごとに発展途上国の経済・社会開発の目標(国連開発の10年)を設定して取り組んできましたが、新世紀に入ってそれはミレニアム開発目標(MDGs)に引き継がれ、さらに環境問題を統合して持続可能な開発目標(SDGs)が設定されました。「持続可能な開発」は消費と生産、産業とインフラ、人口と輸送、農村と都市、経済と社会を含む現代の流行語となりました。

二、SDGsとは

 社会課題の拡大・複雑化を背景に、「次世代」という時間軸を加えて統合された目標がSDGsに統合されました。SDGsは持続可能な未来を目指す国連の到達点です。「我々の世界を変革する 持続可能な開発のための2030アジェンダ」は先進国も含めて変革を求めています。政府のみならず、民間セクターも含めて目標を共有し、創造性とイノベーションの発揮が期待されています。誰も単独では達成できない目標だからこそ、パートナーシップ・協働が不可欠。方向感を合わせてアクセルを踏み込むことが大事なのです。
 SDGs自体は政治宣言だが、ビジネスはそこに「機会」「リスク」「基盤確保」の必要性を見出して動き始めています。取り組み方は定まっている訳ではないが、多くの企業が参照しているものとしてSDGコンパスが参考になります。

三、協同組合の特質

 協同組合は、事業を通じて共通のニーズを満たすための人々の自律的な組織です (協同組合アイデンティティに関するICA声明)。協同組合は組織の次元と事業の次元で持続可能な開発に貢献することができます。組織の次元では組合員を教育し、アドボカシー活動(注)を行います。
 事業の次元では持続可能な方法で商品やサービスを提供し、雇用を創出する責任を持ちます。協同組合の価値は、持続可能な開発を達成するためにも重要。また、協同組合の原則は価値を実践に移すための指針として有用です。
 (注)アドボカシー活動とは、政策提言活動を行いSDGsに貢献することなどをいう。

四、ICAの取り組み

 ICA(国際協同組合同盟)は1957年のストックホルム大会で経済・社会の開発問題への取り組みを開始。1980年のモスクワ大会のレイドロー報告では、将来の選択の第3優先分野として「保全者社会」を提起。1992年の東京大会では「協同組合のアジェンダ21」を決議し、地球サミットの「アジェンダ21」に対応した分野別行動計画作成を提起しました。
 ICAはリオサミット (1992年)や「リオ+20」 (2012年)でのプレゼンスを示し、2012年の協同組合の10年に向けたブループリントでは、経済、社会、環境の持続可能性において定評あるリーダーとなるという「2020年ビジョン」を掲げました。SDGsについてはCo-ops for 2030というサイトを設け、各国協同組合のコミットメントを集約しています。

五、日本の協同組合

 日本生協連 は「2020年ビジョン」として「私たちは、人と人とがつながり、笑顔があふれ、信頼が広がる新しい社会の実現を目指します」を掲げました。2007以降、社会・環境に関する取り組みの進捗状況を評価し、課題を特定するために、年次の「社会的取り組み報告書」を発行。これらの取り組みをさらに推進するため、 日本生協連は2018年6月の第68回総会で「コープSDGs行動宣言」を採択し、ホームページで「SDGsと生協」コーナーを設けて推進しています。2017年にパルシステム生協連合会、2018年に日本生協連は、日本SDGsアワードでSDGs推進副本部賞を受賞しました。
 貧困撲滅と子どもの支援(目標1)については、生協のユニセフのための組合員募金、フードバンクの活動支援、多重債務者のための生活相談・貸付事業、子供食堂を運営し、貧困問題に取り組んでいます。
 相互支援・サービス提供による健康・幸福の増進(目標3)については、農協厚生連による農村医療と予防活動、医療生協による保健・医療活動、低額無料医療、高齢者のニーズに対応する自主的な助け合い活動や介護保険による在宅・地域・施設サービスを提供。低価格でクリーンなエネルギー(目標7)については、生協の「温室効果ガス削減計画」に基づく二酸化炭素削減、福島原子力発電所のメルトダウンの後、生協は省エネと再生可能エネルギーへのシフトを推進しています。
 責任ある消費と生産(目標12)については、CO・OPブランドのエシカル商品の推進、有機農業や環境に優しい農業を通じて責任ある生産を奨励。また、多くの生協は、店舗や宅配トラックでリサイクル可能なカタログ、包材を回収しています。気候変動に対応する強靭なコミュニティの構築(目標13)については、被災地の生協は、他の地域との交流を通じて、被災者支援や経済復興を引き続きサポートしています。

七、JAはいかに取り組むか

 JAとしての重要な視点としては、JA自己改革とSDGsを同時に進めること、他の協同組合、企業(生協、イオン、キリン、日本フードエコロジーセンター等)の取り組みに学ぶこと、これまでの各分野の取り組みをSDGsの目標に沿って位置付けること、ソーラーシェアリング、食品ロス削減など新たな取り組みを進めることを提起したい。具体的な進め方としては、SDGコンパスを使って事業プロセスを設計すること、優先課題、目標を設定し、経営に統合すること、PDCAによる推進と持続可能性報告書の作成を行うことが重要です。

     ◇      ◆

 協同組合は持続可能な開発に対する本質的価値を持っています。協同組合は何十年もの間、様々な方法でこれに取り組んできました。これらの成功と失敗の事例から学ぶ必要があります。現在、SDGsが流行語になり、政府、企業、非営利団体を含むすべての組織が、目標へのコミットメントを宣言し、ICAをはじめ世界の協同組合がSDGsに取り組んでいます。日本の協同組合はSDGs達成に貢献することが期待されており、この課題に対する協同組合の能力と真剣さが試されています。

第8節 人類的な視野で挑戦 協同組合に使命と誇りを 白石 正彦 東京農業大学 名誉教授

 日本の生命産業である農業は、官邸主導による農協法の改正、TPP11協定発効、日EUのEPA協定の発効、日米交渉(実質的にはFTA)大枠合意などで大きな影響を受けています。このような市場原理を優先したグローバル化の荒波や政府の家族農業経営支援策の弱さ、アグリビジネスのグローバル化・フードシステムの川中・川下パワー拡大による公正な取り引きの歪み、IoT、AIなど情報・人工知能技術の開発による日本農業と農協運動をめぐる客観的な条件変化を注視すべきです。
 そのうえで、「農協運動の中心軸」である(1)農協の組織基盤としての正組合員・准組合員の営農面・生活面・新循環型再生エネルギーの開発面・地域インフラの保全面などのニーズと願いの実現を目指して男女共同参画による〝協同活動方策の革新〟、(2)農協の変えてはならない理念を堅持して〝戦略面で継続すべき点と転換すべき点の重層的統合〟、(3)単位農協と連合組織等の〝ガバナンス・経営・事業の革新〟、(4)世界の協同組合セクターの一翼を占める〝JAグループの発信力の革新〟の4本柱を束ねて〝主体的条件〟の改善・革新を図る未来志向の協同組合らしさの発揮が求められています。
 この場合に、(1)政府セクター(公共・公益の追求)、(2)営利企業セクター(株式等の投資資本に対して最大限の利潤追求)、(3)協同組合セクター(人びとがその弱さを克服するために出資し、1人1票で運営に参画し、事業利用活動を通じてメリットを追求)の3つのセクターには質的に大きな差異があり、相互に役割分担し、補完しながら取り組むことによって、今日の人類的課題である国連の2030年に向けての持続可能な開発目標(SDGs)に効果的に貢献できる。JAグループはこのような協同組合セクターの一翼を担っているという「使命」と「誇り」を明確にする必要があります。

 世界の協同組合セクターの一翼を占めるJAグループは、1995年に決定された「ICAの協同組合に関するアイデンティティ声明」を共有し、これを土台に1996年に「JA綱領」を決定している。また国連やILOもこの価値・原則を共有し、毎年7月の国際協同組合デーを国内外の12億人の組合員が祝賀している姿を市民だけでなく政府・自治体、財界にも広報し、対話を重ねる必要があります。
 そのような相互理解を拡げつつ「誰れ一人取り残さない」という理念を中核に、経済・社会・環境面を包含した持続可能な開発のためのSDGsの17の目標と169のターゲットを日本の各地域から効果的に実践するためには、3つのセクターがパートナーシップを拡げ、ローカルレベルから人類的課題解決への挑戦が求められています。

 農協の組織基盤である正組合員・准組合員のメンバーシップについて、2015年8月の農協法改正の附則で、「政府は、准組合員の組合の事業の利用に関する規制の在り方について、施行日から五年を経過する日(2021年3月末)までの間、正組合員及び准組合員の組合の事業の利用の状況並びに改革の実施状況について調査を行い、検討を加えて、結論を得るものとする」と規定している。この点を直視しつつ、かつ先月(2019年6月)の参議院選挙の与野党の正准組合員政策、全中の組合員意向調査結果、農林水産省の正・准組合員の調査の動向からも目が離せません。

 1999年制定の食料・農業・農村基本法では、「農業の持続的な発展」が主軸ですが、その基盤を形成している「農村の振興」との2つが双方向で支えあうことにより、目標とする、「食料の安定供給の確保」と「多面的機能の十分な発揮」を可能とし、「国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展」を実現する論理構成と自給率向上を目指す基本計画の策定・実践が目玉です。
 早稲田大学教授(元総務大臣)の片山善博氏は「これまでの地方創生はこのままやってもうまくいかない。地方の人口減少は解決しない」と指摘しています。農山村・地方都市では政府・自治体、営利企業、協同組合の3つのセクターが画一的デザインではなく地域のニーズを掘り起こし連携して取り組むべき危機的状況の克服が大きな課題となっています。
 「誰れ一人取り残さない」という理念を中核とした2030年に向けてのSDGsを地域から効果的に実践するためには、中山間地域、平坦地域、さらに都市化地域でも正・准組合員を組織基盤とする総合農協の存在意義はますます大きくなっています。

 以上のような総合農協の位置付けを土台とすると共に、ICAの協同組合に関するアイデンティティ声明に盛り込まれている21世紀の協同組合原則である定義・価値・7つの原則を重視した協同組合らしさの発揮が問われています。
 これまで准組合員には事業利用という自益権のみ与えられていましたが、今後は4分の1程度の共益権(役員選出や議決権)を定款に明示し、准組合員のアクティブ・メンバーシップ化を促進するべき新段階を迎えています。

     ◇     ◆

 新世紀JA研究会は、第1にJAの准組合員の定義を「食とJA活動を通じて農業振興に貢献する者」と位置付け、一方で「農業振興クラブ」の組織化のモデルづくりを提案していますが、これを高く評価したい。このため、JAにおける准組合員を対象とした教育学習の場づくりを目指し、JA役員・企画・教育担当職員のセミナーの開催が期待されます。
 第2に政府の大規模農業推進政策には限界があり、生命産業である農業は傾斜地を含め生態系保全とコミュニティの持続に支えられた多様な家族農業経営を中核に位置付けた支援策が効果的である。同時にJA出資型農業法人、新規就農者による家族農業経営や有機農業プラス農福連携農業経営、6次産業化志向の農業経営、市民生活と融合する都市農業などの内発的発展を、JAグループのみでなく3つのセクターが連携して取り組む方策づくりのセミナーの開催が期待されます。
 第3に信用・共済・営農経済・生活福祉など各部門の情報システムを複合化した「範囲の経済効果」を発揮するためのセミナーの開催が期待されます。
 第4に、以上のセミナーの成果を踏まえて総合JAの経営基盤の確立・強化を包含した新しいモデルを描きつつ、それを実現するプロセスとしての課題発見、要因分析、課題解決の指針づくり、それに人材づくりのための教育文化活動の実践方策などの提言をタイムリーにまとめることを期待します。

第9節 准組合員のあり方を提起 積極的な議論と情報発信へ 山田剛之 JA全中 JA改革推進課長

 はじめに

 JA自己改革については、これまでJAグループの総力を挙げた農業関連事業の強化に加えて、対話運動や全組合員調査を進めてきたところですが、2019年5月に農協改革集中推進期間が終了し、節目を迎えました。これを踏まえ二つのことをお話します。
 一つは、今春の取り組みとその結果です。とりわけ5か年にわたる農協改革集中推進期間が終了し、「ステージが変わった」ことです。二つは、今秋以降の取り組みです。

一、着実に改革の成果

 今春(2019年)の取り組みでは、農協改革集中推進期間の5月末までの確実な終了、規制改革推進会議における包括的なフォローアップの終了を目標として、進めてきました。JA自己改革の成果として、重点6項目に取り組むJA数・割合は年々増加しています。
 特に「生産資材価格の引き下げと低コスト生産技術の確立・普及」に取り組むJAは、平成30年4月現在で9割を超えました。共通目標とした販売品取扱高も年々増加しており、平成29年度4兆6849億円は、26年度比3600億円の大幅増加となり、取り組みの成果は着実に表れています。
 2019年4月の規制改革推進会議農林ワーキング・グループのヒアリングでは、こうした実績について、全体数値に個別事例を併せて説明し、委員から一定の評価をいただくことができました。
 6月21日の規制改革実施計画では、「農協改革集中推進期間の終了後も、自己改革の実施状況を把握した上で、引き続き自己改革の取り組みを促す」とされました。規制改革推進会議の答申では、生産資材価格の引き下げや信用事業の持続性に関する課題提起はありましたが、今春の取り組み目標は一定程度、達成することができたと考えています。
 吉川貴盛農水大臣(当時)、森山自民党国対委員長からは「農協改革は新たなステージを迎えた」「与党と農水省が連携して自己改革の取り組みを後押しする」旨の発言がありました。これまでは、ややもすると規制改革推進会議がJAグループを直接にフォローアップしているような印象もありましたが、この関係性も今秋以降は変わってくるものと思います。
 全国のJAの組合員・役職員の皆さんに多大な負担・協力をいただいている全組合員調査は、「組合員の判断」としての位置付けが見えてきました。准組合員の利用規制について、与党の参院選公約では「組合員の判断」と明記され、吉川大臣は「与党の決議を踏まえる」旨を明言しました。
 また2019年4月の食料・農業・地域政策確立大会では、自民党の二階幹事長ならびに野村農林部会長が「組合員の判断」としては、全組合員調査も一つの要素として考えているとの発言がありました。今後は、全組合員調査を「組合員の判断」として公に主張できるよう、回収率や、それによる調査の評価を高めることが課題となります。
 少し、視点は異なりますが、地方創生の動きについても報告します。現行の第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、策定時期(26年度)が農協改革の議論と重なった影響もあり、JAは地方創生において何一つ位置付けられませんでした。
 本年は、第2期戦略策定の策定時期にあたることから、本会はJAが総合事業を通じて地域で果たす役割を地方創生に位置付けるよう働きかけてきました。その結果、6月の基本方針では、地方創生の多様な分野にJAが位置付けられました。
 一方、基本方針では地域金融機関の記述が目立ちました。政府は、地域金融機関に地方創生への参画を強く求めており、今後は地方銀行等の総合事業化が進むと見込まれます。JAグループが総合事業を通じて、地域とどのように向き合っていくのか、より強く問われることと思います。

二、全組合員アンケート完遂へ

 今秋(2019年)以降の取り組みについては、今秋の規制改革推進会議等の議論において対応が必要となる短期課題と、腰を落ち着けて検討すべき中期課題に分けて考えています。短期課題は、「不断の自己改革」の継続、生産資材価格の引き下げ、「組合員の判断」の明確化、これらについての情報発信です。
 従って対応する取り組みは、これまでJAグループ全体で取り組んできたJA自己改革の継続・強化となります。そのうえで全組合員アンケートをやり遂げて組合員の判断を明らかにすることが重要です。
 短期課題としてもう一つ、総合事業経営での信用事業の持続性確保も挙げられます。これまで各JAには、信用事業運営体制のあり方検討をお願いしてきましたが、その結果、ほぼ100%のJAが総合事業の継続を組織決定しました。従って、対応する取り組みは、総合事業経営体としての経営基盤強化を通じた持続性の確保となります。具体策は今後に提起する予定です。
 中期的課題は、これまで進めてきたアクティブ・メンバーシップの取り組みをもう一歩進めること、正組合員の多様化への対応、准組合員の位置付けの明確化等と考えています。農業協同組合であるJAとして、中長期的に、正・准組合員とどのような関係を構築すべきか、そのために制度をどう変えていくべきかなど、今秋にも全中からJAに提起する予定です。積極的に議論に参加いただければ幸いです。ピンチはチャンスです。より良いJAづくりに向けて、ともに歩みを進めましょう。

意見交換 新たな事業モデルを 「農業振興クラブ」を核に

 白石(東京農業大学) 今までの報告について相互に議論していきたいが、大きな論点は准組合員対策だと思う。この点について、まず全中から発言をお願いしたい。
 山田(JA全中) ちょっと今の段階では発言しづらいが、中期的に見て大きな方向性は出していきたい。その際、今回の新世紀JA研究会の荒川報告は参考にさせてもらいたい。今の全中の方針は、准組合員を農の応援団、JA運動への参加・参画を求めるものだが、荒川報告では、これをさらに進めて、准組合員を食と農の面で組織化し、意思反映も行うとしている。
 問題はこれをどのように実践できるかだ。提案されている「農業振興クラブ」も現実にどの程度のJAで実践できるのか。
 「旬みっけ」のアプリも提供しているが、地元のJAがどの程度の情報発信をしているかが重要になる。これがないと組合員にまで刺さっていかない。JAの情報発信ができていないなかで、これをどう進めるかがポイントになる。しかし、方向性としては重要なので大いに参考にしたい。
 白石 荒川報告は食料・農業・農村基本法を踏まえた准組合員対策の方向を示している。いくつかの案を提案して議論していくべきではないか。
 福間(新世紀JA研究会) こうした問題に限らず、内容を一番知っているのは全中だ。難しい問題について、皆さんどうしましょうかでは運動にならないし、組合員は戸惑うばかりではないか。
 内容を知っている全中が、理屈に基づいた政策を明確に打ち出してそれに基づいて議論を進めていくべきだ。准組合員は制度として与えられているものであり、この制度を今後どのように運用するかの方針を出していくのは中央会の役割だ。中期的課題というとらえ方では間に合わない。
 下田(JAセレサ川崎) 今回研究会で検討された「准組合員の位置付け」は非常に重要な問題だ。今後、これによって大きな影響が出てくる。
 「位置付け」についてまとめていただいたのは大きな意義があり感謝している。一方で、農業振興クラブなど踏み込んだ対策を進めることは困難なのが実情だ。
 というのは、昨年はじめての200人参加の座談会や1000人対象のアンケートなどやり、情報誌も発行しているが、准組合員の皆さんの関心・理解は高くない。
 准組合員の皆さんはJAに対して自ら何をやればいいのか、どのようにかかわりを持てばいいのか分からない。したがって、JAからもっともっと働き掛けを強化しなければならないのが現状だ。
 寺田(JAあいち豊田) 新世紀JA研究会の小委員会に参加し、JAでも議論をしてきた。これまで、JAは員外利用対策として准組合員加入を進めてきたが、欠如していたのは准組合員のニーズ・メリットはどこにあるかを追求してこなかったことにある。今後このマッチングが必要だ。
 当JAでは信用事業で農業応援チケットを発行し、定期貯金30万円に対して金利のほか、300円の直売所等で利用できる金券を発行している。
 三瓶(JAはだの) 今後は具体的な推進が必要だが、JAによって地帯別・規模別など実態が異なるのでそれに対応した取り組みが必要だ。当JAでは、すでに「農業満喫クラブ」を結成するなど、コアの准組合員と農の関係を深めてきている。
 中原(協同組合懇話会) 研究会で、准組合員問題をこれからのJAのビジネスモデルとして提起されたということで大変意義あることだと思う。方向は示されたので、実践はそれぞれのJAで工夫を凝らしてやっていくことが肝要だ。検討に加わった者として自信を持っている。是非現場で実践してもらいたい。
 水谷(トーマツ) 准組合員の位置付け等の対策を示していくことは重要だが、問題は准組合員の中身だ。こうした内容に賛同する准組合員がどれだけいるのか。それが整理されれば事態は進んでいくのではないか。

【資料編】
●新世紀JA研究会の全国セミナー履歴(第26回まで)

第1回 「協同組合らしい事業運営とは何か」 JAいずも(島根県) 平成18年10月19日~20日
第2回 「総合JAの経営戦略」 JAえひめ南(愛媛県) 平成19年5月10日~11日
第3回 「農業振興とJAの組織基盤作り」 JA東西しらかわ(福島県) 平成19年11月1日~2日
第4回 「農畜産物の販売戦略」 JA菊池(熊本県) 平成20年4月24日~25日
第5回 「消費者とふれあい農業」 JA土浦(茨城県) 平成20年10月16日~17日
第6回 「総合JAの今日的意義を考える」 JA兵庫六甲(兵庫県) 平成21年7月7日~8日
第7回 「大転換期における集落営農の新展開」 JAいわて中央(岩手県) 平成21年11月11日~12日
第8回 「園芸作物の販売戦略」 JAはが野(栃木県) 平成22年4月22日~23日
第9回 「JA運動の底力―女性力と農産物直売所」 JAにじ(福岡県) 平成22年11月4日~5日
第10回 「国際協同組合年に向けて尊徳翁に学ぶ」 JAはだの(神奈川県) 平成23年7月21日~22日
第11回 「東日本大震災と協同の力」 JAあいづ(福島県) 平成24年1月24日~25日
第12回 「地域おこしのマンパワー」 JA鳥取中央(鳥取県) 平成24年6月14日~15日
第13回 「小さなJAの大きな挑戦」 JAあしきた(熊本県) 平成24年10月30日~31日
第14回 「地域の暮らしに貢献」 JA水戸(茨城県) 平成25年6月12日~13日
第15回 「ふくおか八女がめざす自己完結型JA」 JAふくおか八女(福岡県) 平成25年11月28日~29日
第16回 「都市農業を守る都市型農協」 JAいちかわ(千葉県) 平成26年6月18日~19日
第17回 「3本の一級河川の源流域を守るために」 JA愛知東(愛知県) 平成26年10月16日~17日
第18回 「協同の力を結集した光り輝く未来を切り開く事業戦略」 JAしまね(島根県) 平成27年8月5日~6日
第19回 「農産物輸出の可能性を探る」 JAおきなわ(沖縄県) 平成27年10月22日~23日
第20回 「地域創生はJAの力で」 JA秋田しんせい(秋田県) 平成28年7月21日~22日
第21回 「(ありがとう)といわれるJA」 JA東京むさし(東京) 平成28年10月27日~28日
第22回 「協同の力で築く多彩な農業と元気な地域」 JA伊勢(三重県) 平成29年6月15日~16日
第23回 「いのち育み、あしたをつくる」 JAみどりの(宮城県) 平成29年11月9日~10日
第24回 「農産物の生産・販売と公的機能の役割」 JAちばみどり(千葉県) 平成30年5月10日~11日
第25回 「JA改革の実践・農業振興の抜本策と経営対策」 JA東とくしま(徳島県) 平成30年11月21日~22日
第26回 「JA運動に新たな潮流を」 課題別セミナーと同時開催(東京) 令和元年7月18日~19日

●新総合JAビジョン確立のための危機突破・課題別セミナーの開催状況

第1回 「課題の共有と意識改革」 平成28年10月7日(金) JAビル27階・JA全中 大会議室 101名
第2回 「公認会計士監査移行に伴う課題と対策」 11月14日(月) JAビルカンフアレンス(401会議室) 111名
第3回 「JA信用事業の譲渡について」 12月9日(金) JAビル27階・JA全中 大会議室 119名
第4回 「正組合員の問題としての准組合員対応」 平成29年1月17日(火) JAビル27階・JA全中 大会議室 116名
第5回 「事業制約・規制とJA信用事業譲渡問題」 2月17日(金) コープビル6階 第3会議室 92名
第6回 「農業生産資材価格の引き下げについて」 3月22日(水) JAビル27階・JA全中 大会議室 91名
第7回 「マーケットインにもとづく直接販売の拡大」 4月21日(金) JAビル27階・JA全中 大会議室 77名
第8回 「信用事業譲渡・代理店化をどのように考えるか」 5月29日(月) JA東京南新宿ビル3F 会議室 111名
第9回 「一般社団法人JA全中への期待と要望」 6月26日(月) 日本教育会館7F(707会議室)63名
第10回 「JA共済事業の代理店化の是非を問う」 8月29日(月) JAビル27階・JA全中 大会議室 83名
第11回 「JAによる農業経営(JA出資型法人を含む)」 9月25日(月) JA東京南新宿ビル3F 会議室 72名
第12回 「農協信用事業改革とJAの対応(その1)」 10月23日(月) JA東京南新宿ビル3F 会議室 67名
第13回 「農協信用事業改革とJAの対応(その2)」 11月28日(水) JAビル27階・JA全中 大会議室 102名
第14回 「農協改革はどこまで進んだか・中間総括」 12月19日(火) JA東京南新宿ビル3F 会議室 64名
第15回 「種子法の廃止と今後の対応」 平成30年1月19日(金) 日本教育会館8F (第3会議室) 81名
第16回 「JA信用事業のセーフティネットについて」 2月22日(木) JAビル27階・JA全中 大会議室 58名
第17回 「卸売市場法の改正とJAの対応」 3月15日(木) 日本教育会館7F (707会議室) 37名
第18回 「直販等販売事業の強化について」 5月23日(水) JA東京南新宿ビル3F 会議室 47名
第19回 「農業生産資材価格の引き下げについて」 6月19日(火) JAビル27階・JA全中 大会議室 58名
第20回 「監査法人の対応の現状とJA監査契約のあり方」 9月21日(金) JA東京南新宿ビル3F 会議室 87名
第21回 「JA経営の危機と対応(信用・共済事業)」 11月1日(木) JA東京南新宿ビル3F 会議室 87名
第22回 「JA経営の危機と対応(経済事業)」 平成31年1月17日(木) コープビル6階 第3会議室 73名
第23回 「いま組合長・管理担当役員に必要とされるもの」 2月22日(金) JAビル27階・JA全中 大会議室 76名
第24回 「新たな准組合員対策について」 3月15日(金) JA東京南新宿ビル3F 会議室 61名
第25回 「農業への直接参入による農業振興について」 令和元年5月23日(木) 新宿農協会館8F会議室 50名
第26回 「JA運動に新たな潮流を」(第1回全国特別セミナー) 7月18日(木)~7月19日(金) 東京・AP市ヶ谷6F会議室 126名

●新総合JAビジョン確立のための提言―JA運動に新たな潮流を
令和元年7月19日 新世紀JA研究会 第1回全国特別セミナー

 

Ⅰ.情勢認識

1.安倍政権のもと規制緩和・自由化がすすめられた。TPP11やEUとのEPAの発効により、農畜産物の輸入が増加し、農家は一層厳しい状況に置かれている。
 また、主要農作物種子法の廃止や、農薬の過剰使用、遺伝子組み換え食品の表示規制の緩和等により、国民の食に関する安全・安心が脅かされる状況にある。

2.農協改革集中推進期間が終わり、この間、戦後のJA運動を牽引してきた中央会制度の廃止が決められ、残された准組合員の事業利用規制について課題は持ち越されることになった。
 また、生産資材の引き下げ等については、一定の成果をあげることができたものの公認会計士監査への移行に伴い、JA信用事業の代理店化など信用・共済事業分離が行われないよう体制の整備が必要とされ、あわせて、信用・共済事業の収益依存の経営からの脱皮と厳しい経営環境への対応が求められている。
 以上を踏まえ、JAは過度な政治・行政依存から脱却し、自主・自立のJA運動を進める役職員の抜本的な意識改革が求められている(中央会制度の廃止、准組合員対応の経緯)。

Ⅱ.基本方向

 農業振興を農と食・JA活動で支える新総合JAビジョンを確立し、役職員の抜本的な意識改革のもと、以下により取り組みを進める。

  注:新たなJA理念の確立―「農と食を通じた農業振興と豊かな地域社会の建設」

1.農業生産・所得の向上と食料主権の確立
食料の安全保障、需給均衡による食料自給率の向上により、農業生産・所得の向上と食料主権の確立をはかる。このため、当面食料・農業・農村基本計画の見直しの中で、食料自給率45%を確実に実現していく。
 とりわけ、農業生産については、JAが生産に直接関与するとともに、自然エネルギーの開発、地域資源をAI・スマート農業で生かす方策を進めていく。

2.安全・安心な農畜産物の提供
 プレ・ポストハーベストなどによる農薬の過剰使用、遺伝子組み換え農産物・食品表示の規制緩和を是正するとともに、主要農産物についてのタネ・自家採取の確保やGAP・有機農業などを推進し、安全・安心な農畜産物の提供を行う。

3.農業を通じた地域社会への貢献
 農福連携の福祉・高齢者対策、農と住の調和したまちづくりなど、農を通じた地域社会建設に取り組む。また、農村と都市との交流による、互恵的な利益を生みだす諸対策に取り組む。

4.新たな准組合員対策の推進
 准組合員を「食とJA活動を通じて農業振興に貢献する者」と位置づけ、農(正組合員)と食(准組合員)が一体となって農業振興に取り組む。

5.事業・経営体制の確立
 信用・共済事業の収益に依存せず、かつ事業縦割りを排した、組合員主体の自立経営による事業・経営体制の確立をはかる。

6.SDGs(持続可能な開発目標の設定)の推進
 競争一辺倒にならない協同組合や公的機関の役割の発揮のため、国連が決議したSDGs(持続可能な開発目標の設定)の理解を促進し、協同組合としての役割発揮をはかる。

  注:命・環境は公共物。

7.地域住民・消費者と連携した自主・自立のJA運動(国民運動)の展開
 閉ざされた政・官・団体のトライアングルを排し、開かれた国民運動としての自主・自立のJA運動を展開する。

Ⅲ.重点施策

 以上のもとでの重点施策として、以下の対策を進める。

1.抜本的な農業振興方策の策定
(1)JA直営(JA出資法人を含む)1000農場の展開
(2)全国モデル生産法人(JA・連合組織の共同出資・運営)の展開
(3)地権の集約による農地の有効活用
(4)1JA1ブランド戦略の推進
(5)6次化をめざす新組織の組成と、JA出資型生産法人の全国組織の設立など

2.新たな准組合員対策の確立・推進
(1)准組合員の位置づけの明確化(農業振興への貢献)
(2)新たな准組合員の位置づけによる、既存の准組合員対策の見直し
(3)「農業振興クラブ」など准組合員組織の結成と、管内農産物の買い支えなど農業振興対策の推進

3.信用・共済事業分離を許さない内部統制の確立と経営対策
(1)公認会計士監査に対応するため、とくに、経済事業を重点に事務処理の統一、収支改善などを内容とする内部統制の確立をはかる。
(2)信用・共済事業の収益に依存しない、正・准組合員一体となった農業振興・経営改善と事業縦割りを排した組合員主体の事業・経営に取り組む。
(3)予想される厳しい環境に対応する経営対策を考える。

4.中央会の機能・体制整備
(1)協同組合のナショナルセンターとしての機能発揮
(2)全国農政協等政治団体との役割分担の明確化
(3)機能発揮に応じた会費の確保
 以上を推進するため、引き続き、①全国・課題別セミナーの開催、②独自の要請活動等を行う。

                

●課題別セミナーの進め方(令和元年10月) 新世紀JA研究会

1.名称  
 新総合JAビジョン確立・経営危機に備える課題別セミナー
2.目的 
 新総合JAビジョンに関する提言を実現し、経営危機に備えるために実施する。
3.内容
 新総合JAビジョンの重点課題である、①リスクを覚悟のJAの抜本的な農業対策(農福連携、農住対策等を含む)、②新たな准組合員対策の実践事例(食とJA活動を通じた農業振興)、③緊急経営対策(事業類型別・規模別等―事前に課題を整理)を柱にしたカリキュラムとする。
3.開催方法
  (1)年2回程度(令和2年2月、9月~予定)
  (2)原則として13時から17時30分まで
4.実施時期と場所
  (1)実施時期
   2019年度~2021年度(3か年)
  (2)場所
   東京
5.対象・参加規模
  (1)主にJA役職員
  (2)100名程度
   注)会員から、最低1名以上の参加をお願いする。

●第27回JA浜中町大会アピール文(その1)

新世紀JA研究会では全国セミナーを開催するたびにアピール文を採択しているが、ここでは直近の第27回大会のものを掲げる。

1.農業振興を農と食・JA活動で支える新総合JAビジョンの確立と運動展開
 新世紀JA研究会第1回全国特別セミナーでの提言に基づく、①抜本的な農業振興対策、②准組合員対策、③JA信用事業分離阻止対策などを内容とした新総合JAビジョンを確立し、運動展開をはかる。このため、JA全中・県中の機能・体制整備と財政的確立を支援する。

2.農畜産物の安全保障・食料主権確立運動の展開
 食料・農業・農村基本計画の見直しを契機に、新たに食料自給率の向上など農産物の安全保障・食料主権確立運動の展開をはかる。
 また、有機農産物、GAPの定着、主要農産物種子法に代わる対策等安心・安全な国産農畜産物生産体制の確立を進める。

3.農畜産物市場開放への対応
 アメリカとの二国間交渉(TAG)において最終合意された牛肉等農畜産物にかかる内容について、国会審議等を通じて検証を行うとともに、TPPやEPAと合わせ、発効による農畜産物の国内対策について万全の対策を講ずる。

4.飼料用米の生産拡大について
 平成27年3月の「食料・農業・農村基本計画」において明記された飼料用米の生産拡大について、主食用米の需給改善と畜産生産者への国産飼料の安定的な供給、および自主的生産調整定着の観点から飼料用米の法制化を強く求める。

5.信用・共済事業の収益に依存しない事業構造の確立
 JA信用事業譲渡・代理店化についての組織協議結果を踏まえ、引き続き総合JAとして事業展開を行うことを確認するとともに、信用・共済事業の収益に依存しない事業構造の構築をはかる。

6.教育活動、ネットワークづくりの強化
 JA全中が行う海外視察「青年農業者のリーダー育成・交流研修」について引き続き周知・推進を図り、全国域での人的ネットワークづくりを支援する。

7.頻発する自然災害、人為的災害への対応
 地震、台風、異常気象や原発事故等人為的災害からの復旧・復興に向けて全国的な取り組みを進めるとともに、バイオマスや太陽光といった再生可能エネルギーの利活用を進め、脱原発に向けた循環型社会の確立に取り組む。

8.貯金保険制度の掛金凍結
 JAバンク支援基金、貯金保険制度のいずれも既に十分な積み立てがなされており、その資金を農業振興にあてることが必要と考えられる。このたび、JAバンク支援基金の掛け金凍結に続き、貯金保険制度について掛金の引き下げが実現したことを踏まえ、引き続きその凍結をめざして行く。
 また、この運動を契機として結成された「地域の農林水産業振興促進議員連盟」との連携強化をはかる。
 〈参考〉
 (1)JAバンク支援基金 支援準備金残高 1,707億円(H30.10.31現在)
 (2)農水産業協同組合貯金保険制度──責任準備金残高 4,143億円(H30年度末)
 (H29年度末対象貯金残高:104兆円、保険料率:0・015%・加重平均、保険料収入:147億円 29年度)
以上、決議する。

令和元年10月10日                 
新世紀JA研究会 第27回JA浜中町大会

●第27回JA浜中町大会アピール文(その2)

〈貯金保険制度の掛け金引き下げに伴う特別決議〉

1.貯金保険制度の掛け金(保険料率)が平成31年4月1日より引き下げとなった。引き下げにかかるJAの負担減は、全体で70億円(47%減で、貯金残高1000億円に対して約700万円)となる。

2.新世紀JA研究会として、貯金保険制度について、十分な引当金が確保されているとの認識のもと、掛け金の凍結に向けて引き続き要請活動を強化していく。

3.掛け金の引き下げ・凍結による経費減は農業振興に充てるべきとの趣旨に鑑み、各JAにおいて、掛け金引き下げに伴う節減経費を検証し、その金額に見合う農業振興の具体策について検討を行い、実施に移すこととする。

令和元年10月10日          
新世紀JA研究会        
第27回JA浜中町大会

●新世紀JA研究会・執行体制(令和元年度~2年度)

(1)代  表  八木岡 努(JA水戸 代表理事組合長)
(2)副代表   山口政雄(JAはだの 代表理事組合長)
         石川寿樹(JAしまね 代表理事組合長)
(3)幹  事  浅沼清一(JAいわて中央 代表理事組合長) 
         阿部雅良(JA新みやぎ みどりの地区本部長理事)
         薄葉 功(JA東西しらかわ 代表理事組合長)
         完賀浩光(JA水郷つくば 代表理事専務)
         勝田 実(JA千葉東葛 代表理事組合長) 
         志村孝光(JA東京みなみ常務理事)
         鈴木和俊(JAとぴあ浜松 経営管理委員会会長)
         海野文貴(JA愛知東 代表理事組合長)
         木下祝一(JA兵庫六甲 代表理事組合長)
         栗原隆政(JA鳥取中央 代表理事組合長)
         山本長雄(JAえひめ南 代表理事組合長)
         三角 修(JA菊池 代表理事組合長)
         佐々木昌子(一般社団法人 農協協会常任理事)
         濱田達海(一般社団法人 JET経営研究所代表)
 (常任)    福間莞爾(元協同組合経営研究所理事長)
(4)監   事  小林和男(JA東京みなみ 代表理事組合長)
         木村政男(JA全中 教育部長)
(5)顧  問  白石正彦(東京農業大学名誉教授)
         中原純一(協同組合懇話会顧問)
(6)特別相談役 萬代宣雄(名誉代表・JAしまね元代表理事組合長)
        鈴木昭雄(JA東西しらかわ前代表理事組合長)
        足立武敏(JAにじ元代表理事組合長)
        上村幸男(JA菊池前会長理事)
        藤尾東泉(岩手県前5連会長)
 (注)この名簿(肩書きを含む)は、令和2年のJA役員改選前のものです。