1.日 時  令和4823日(火) 1230分~1630

2.場 所 ズーム(オンライン)・録画方式による

3.参加者  主にJA役職員

4.日 程  

時 間内 容
1230(司会) 東京農業大学 名誉教授 白石 正彦
1230分~1235(開会挨拶) 新世紀JA研究会代表  JA菊池(熊本県)  代表理事組合長  三角 修
1235分~1245「解 題」 新世紀JA研究会 常任幹事 福間 莞爾
1245分~1315「食農教育を小中学校の教科課程に」 JA鳥取県中央会会長・JA鳥取中央 代表理事組合長 一社)家の光協会会長 栗原隆政 氏
1315分~1325質疑
1325分~1355「喜多方市の農業科の実践について」 喜多方市教育委員会  学校教育課 指導主事 中野(よし)(まさ)(よしまさ)氏
1355分~145質疑
145分~1450「食農教育取り組みの今日的意義について」  関東学院大学教授 佐藤幸也 氏
14時50分~15時 質疑
1510分~1520休憩
1520分~1550「総括コメント」 日本農業新聞 論説委員長 鈴木祐子 氏
155016質疑
16時~1610総合質疑
1610分~1630准組合員対策提言・ブックレットの紹介と説明 新世紀JA研究会 常任幹事 福間 莞爾
1630閉会

ZOOM録画の編集動画

「食農教育を小中学校の教科課程に」 JA鳥取県中央会会長・JA鳥取中央 代表理事組合長 (一社)家の光協会会長 栗原隆政 氏

講演要旨

食農教育を小中学校の教科課程に~今だからこそ食農教育~

                 

  JA鳥取中央代表理事組合長 栗原 隆政

 JA鳥取中央於いては、全国でも比較的早く平成16年にあぐりスクールを開校し、現在第18期を迎えている。近年はコロナ禍により開催を中止したり、規模縮小等創意工夫をしながら開催しており、現在まで1775名の入学生を数え、卒業生の中にはJAに入組された方もいる。特徴的な取組として、第2回全国サミットの開催、会場満席の1500名を集めた若田宇宙飛行士の特別記念講演会、特別カリキュラムとして夏休みの大阪市場見学、キッズ生のJA間交流、卒業旅行等々食農効果と魅力のある運営を展開し、地域貢献活動として周囲からの注目度・評価は高いものがある。

 しかしながら、いつしか自論として、全国で一体何名の小学生がどういう内容で食農教育を受けているのか疑問を持つ様になった。今回を機に当たらずとも遠からずで試算してみた。全国のあぐりスクール登録数、小学生数、小学校数をもとに計算すると、スクール生で0,12%、JAの体験教室で0.5%、総合的な学習の時間を使った体験学習で21.4%、合計22%で極めて割合が低く効率性に問題がある。更に自助努力は当然必要だが、地域農業の魅力を伝える手法として、思い思いではなく系統的により効果的なプロ指導が必要となっている。そして効果性の低下もある。実際問題として、入学生は興味のある児童の一部であり毎年継続入学もある。また、地域グループによる食農体験が増加しており、土日のスクールイベントとクラブとの日程重複もあり、限られた児童で環境的に入学生が減少傾向にある。

 文科省においては学習指導要領の改訂により、現在では5年生を中心に社会科・理科・家庭科・給食を連携させた「総合的な学習の時間」が実施されている。しかし、70時間のうち食農教育にどれだけの時間がさかれ、どれだけの内容となっているのか?実態調査が必要である。総合的な学習の時間は、あくまでも指針であり強制力はなく学校長の判断によるものではないかと疑問に思う。そして実施されている場合は、個々が単発的な思い付きではなく内容・時間の統一性をもって、必須的項目・地域性項目を組合わせた教育としての体系化が必要だと思う。都会は困難ではなく、都会こそ重要・必要である。

 結論として、近年のコロナ禍やウクライナ情勢を鑑みる時、益々食料の海外依存リスク、食料安全保障、自給率向上への関心が高まる中で特に子供時代からの食農教育の重要性が増している。食農教育実施の緊急性と困難性の増大に鑑み、学校教育の一環として系統的かつ効率的に行う観点から、農業科目の導入を実現していただきたい。今こそチャンスである。少なくとも先進事例の福島県喜多方市に学ぶべきである。当然JAとしても生産者や女性会、青壮年部と共に参画し支援・協力して参りたい。

講演資料

「喜多方市の農業科の実践について」 喜多方市教育委員会  学校教育課 指導主事 中野富全(よしまさ)氏

「食農教育取り組みの今日的意義について」  関東学院大学教授 佐藤幸也 氏

「総括コメント」 日本農業新聞 論説委員長 鈴木祐子 氏

講演要旨「食農教育の価値とは~生きる力どう育む~」

 2018年11月13日の日本農業新聞の1面コラム「四季」で、「四本足の鶏を平気で描く消費者の蔓延」を心配する佐藤幸也先生の言葉と、実際に高校1年生に鶏の絵を描かせている生物の教員をしている夫の話を紹介しました。授業で、高校生に鶏の絵を描かせるようになったきっかけは、「鶏を正しく描けない東大生がいる」という論文を読んだこと。20年ほど前からやっています。

 昨春も、生物の時間に高校1年生に鶏の絵を描いてもらいました。立派な四本足の鶏たちの絵が、ここに発表したものです。四本足を描いた子は196人36人。2割近くに上りました。コンビニの唐揚げが大好きでも、その肉を提供する鶏がどんな生き物なのか、どこの国、産地の鶏かまで、想像することなんてないのでしょう。

 今年は、鶏を描かせた生徒たちが2年生になったので、新たにパイナップルにしたそうです。なぜパイナップルの絵かというと「今はスマホで便利に検索できる時代。どうやって栽培されているか関心があれば分かる」と考えたそうです。結果、正しくパイナップルの生えている状態を描けた子49人中2人で、ほとんどがヤシの実状態でした。フルーツパフェやパンケーキなどおいしい店の情報には敏感ですが、食の先まで関心がないのです。「おいしければいいじゃん」というわけです。いかに食と農がかけ離れているか、ということです。

 決して、子どもたちが悪いわけでわけではありません。ファストフードが台頭しているように、教育にも「ファスト」が求められてきた結果ではないでしょうか。

 だからこそ、種をまいてじっくり育つのを待つ農業教育は、せっかちな今の時代には欠かせないと思います。

 特に、柔軟な感性を持っている子ども時代をどう過ごすかが大事です。日本農業新聞は長野県伊那市立伊那小学校の「命の教育」を取り上げました。校内で飼育した豚を出荷し、給食で食べるまでの授業です。写真を見ると、うれしいはずの給食の時間、涙を拭う男の子の姿もありました。「悲しいけれどありがとう」の気持ちでいっぱい、という児童の言葉が大きな見出しになり、食べるとは何かを問う、いい記事になりました。この記事をヤフーで紹介したところ、賛否が分かれました。「あまりにも残酷。トラウマになる」という否定的な意見や、「束ものを粗末にしないという根底にある大事な教育」と賛同する声もありました。私は、命の教育に正解がないことが正解ではないかと思います。

 それでも、「食べるということはどういうことか」、その根源をたどる授業には尊い価値があります。私たちはお米も野菜も果物も肉も魚も、命をいただいて生きています。その当たり前の現実を、子ども時代に「リアル」に肌で感じられる教育が必要です。

 しかし昨今、「食べること」にも格差が出てきました。厚生労働省が10年に1度、調査結果を発表する「乳幼児栄養調査」の社会的経済要因に関する状況に注目してください。

 各家庭の経済事情が、「食べ方」に影響しているのです。ゆとりなしの家庭ほど、野菜や果物を食べる回数は減り、一方で菓子パンとインスタントラーメンを食べる割合が高いことが分かります。

 こうした問題を解決できるのは、JAしかありません。例えば直売所で余った野菜を集めて、貧困世帯に届ける仕組みはできないでしょうか。月に1度でも、JAの空き店舗や食堂で子ども食堂を開けないでしょうか。JAの社会貢献活動の一環としてこうした温かい支援があれば、孤立していた親と子の心と体を支え、地域に新たなJAファンをつくることになります。

 ロシアによるウクライナ侵攻で核の脅威が高まる中、混沌とした時代に誰もが閉塞感を覚え、生きづらさを抱えています。そうした中、ぶれない自分軸を持ち、時代に流されずにたくましく生き抜く子を育てるためは、他者との競争を促し、偏差値の高い子を量産するこれまでの教育方法はもはや通用しないと思っています。

 親は子に「転ばない人生」を歩かせようとします。子どもの苦しんでいる姿を見たくないあまり、失敗させないよう、子どもが生まれたらしつけや文字を教える早期教育に走り、学校に入れば塾に通わせ、勉強ができる優秀な子どもを育てようと力を注ぎます。また、周囲もそれを推奨する教育システムを提供します。

 その結果、「自分は自分でいい」という自己肯定感を持った子どもは、めっきり少なくなったように感じます。小さいころから大人たちが作り上げたゲームで遊ばされ、泥んこになって木の枝、葉、昆虫を見つけ、仲間と遊びを創出する知恵さえ、ほとんどの子が奪われてしまいました。

 スマホという便利な道具のおかげで情報の洪水におぼれ、自分が何をしたいのか、見失っている子もいます。

 土に根差した感性を育む食農教育こそ、これからの時代をたくましく生き抜く力を授けるものだと考えます。

                                  以上

講演資料