1.日 時  令和3年10月7日(木)13時30分~16時30分
2.場 所  ズーム(オンライン)・録画方式による
3.参加者   主にJA役職員
4.日程(進行)   

時 間内 容
13時30分(司会) 東京農業大学 名誉教授 白石 正彦
13時30分~13時35分(開会挨拶) 新世紀JA研究会代表  JA水戸代表理事会長・JA茨城県5連会長  八木岡 努
13時35分~13時40分「解 題」 新世紀JA研究会 常任幹事 福間 莞爾
13時40分~14時20分 (40分)「みどりの食料システム戦略がめざすもの」 農林水産省  農林水産技術会議事務局 研究調整課長 岩間 浩 氏 
14時20分~14時40分質疑
14時40分~15時20分 (40分)「みどりの食料システム戦略をどう受け止め取り組むか」 農的社会デザイン研究所 代表 蔦谷 栄一 氏
15時20分~15時30分休 憩
15時30分~16時10分「みどりの食料システム戦略のJAでの取り組み」 JA東とくしま 代表理事組合長 荒井 義之 氏
16時~16時30分総合質疑
16時30分閉会

ZOOMの編集録画

編集録画は、2時間43分50秒あります。1:46あたりから1:49あたりまで、画面共有ができず画面の3/4が黒く表示されますが、講演は継続しています。

開会挨拶
新世紀JA研究会代表  JA水戸代表理事会長・JA茨城県5連会長  八木岡 努

「みどりの食料システム戦略がめざすもの」
農林水産省 農林水産技術会議事務局 研究調整課長 岩間 浩

報告要旨
「みどりの食料システム戦略」の概要~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~

我が国の食料システムは、高品質・高付加価値な農林水産物・食品を消費者に提供するとともに、日本固有の食文化の魅力の源泉として国内外から高い評価を得ているが、基幹的農業従事者の4割を70歳以上が占めるなど、今後、生産者の一層の減少・高齢化が見込まれており、農業の生産基盤の脆弱化や「暗黙知」である農業技術の継承への影響が懸念されている。他方、日本の年平均気温は世界平均の2倍近い上昇率で温暖化が進行し、大豆・麦の減収や品質低下、病害虫の発生地域の拡大等が顕在化しており、生産基盤と環境の両面での「持続性」の確保が求められている状況となっている。

地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出については、世界の排出量の約4分の1が農業・林業・その他土地利用によるとされる中、日本の排出量の3.9%が施設園芸や農業機械で使われる化石燃料や、水田の土壌、家畜の消化管内発酵(げっぷ)など農林水産分野からの排出とされている。2050年カーボンニュートラルの実現に向け、こうした部門の排出削減対策、森林・農地土壌の吸収源対策を強化していく必要がある。

地球規模では、「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」が許容可能な境界を超え、SDGsの17ゴールでも森林、土壌、水、大気、生物資源などの自然資本が他のゴールを達成するための土台になるとされている。SDGs・環境への関心が国内外で高まる中、EUは、2020年5月に「Farm to Fork戦略」を公表し、2030年を目標年次とした化学農薬や肥料、抗菌剤の使用削減に係る数値目標を設定し、これらのグローバル・スタンダード化を目指している。その一方で、食料システムは、国ごとの経済的・社会的・地理的条件、気象条件の違いや、食文化の多様性に根ざしており、万能な一律の解決策があるものではない。

このような考えの下、農林水産省では、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するための新たな政策方針として、「みどりの食料システム戦略」を令和3年5月に策定した。本戦略の検討においては、各品目の生産者、若手の新規就農者、中小・家族経営、中山間地域等を含む生産者の方々やJA全中、JA全農、農林中金などの関係団体、また、食品事業者・メーカー、消費者団体等の幅広い関係者との計22回(計127名)にわたる意見交換や、有識者等との意見交換、審議会の議論、パブリックコメントを集中的に実施したところである。

本戦略では、2050年までに目指す姿として、現在の取組の延長ではないバックキャストとしての数値目標を掲げた。具体的には、①農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現、②化学農薬の使用量をリスク換算で50%低減、③化学肥料の使用量を30%低減、④耕地面積に占める有機農業の取組面積を25%(100万ha)に拡大などの14の目標を掲げた。これらの目標の実現に向けて、食料・農林水産業の調達から生産、加工・流通、消費までを一つのシステムとしてとらえ、これらサプライチェーンの各段階における意欲的な取組を引き出すとともに、現場の優れた技術の横展開・持続的改良と革新的な技術・生産体系の開発・社会実装を進めることとしている。

このため、将来的なイノベーションの創出と併せて各般の施策の具体化に資するよう、2050年まで、及び、現在から直近5年程度までの個々の技術の研究開発・実用化・社会実装の将来展望を示した「技術工程表」を作成した。また、審議会や意見交換及びパブリックコメント等でいただいた御意見を踏まえ、戦略の策定以降も関係者との意見交換を続けることや、新技術の実用化に際して、双方向のコミュニケーションを不断に行うことを示すため、「国民理解の促進」の項目を設けた。

本戦略の実現により期待される効果として、①経済では、輸入から国内生産の転換、国産品の評価向上による輸出拡大、新技術を活用した多様な働き方や生産者のすそ野の拡大、②社会では、健康的な日本型食生活や地域経済循環、多様な人々が共生する地域社会、③環境では、環境と調和した食料・農林水産業、カーボンニュートラルへの貢献などが挙げられる。

本戦略は、食料システムを構成する関係者それぞれの理解と協働の上で実現していく必要がある。このため、本戦略の内容について、農林水産省だけでなく、都道府県・市町村・各JAと連携しながら幅広く発信することと併せて、本戦略の具体化を進めるため、①関係者が基本理念を共有し、環境負荷軽減に安心して継続的に取り組めるよう、意欲的な生産者や地方自治体のモデル地区の創設を後押しする法的な枠組みの検討、②本戦略の実現に資する研究開発・実証プロジェクト、地域の事業活動支援のための交付金の創設等を含めた令和4年度予算概算要求等の支援措置を検討している。  

今後とも、生産現場をはじめとする関係者の理解を得ることが最も重要であるとの考えに立ち、現場の皆様への丁寧な説明・意見交換を行うとともに、意欲的に取り組む都道府県・市町村・各JAの皆様と連携しつつ関連施策を推進してまいりたい。また、本戦略を欧米とは気象条件や生産構造が異なるアジアモンスーン地域の新しい持続的な食料システムの取組モデルとして、国際ルールメーキングへの参画や各国との連携強化にも取り組んでまいりたい。

「みどりの食料システム戦略」をどう受け止め取り組むか
  ~目標実現を目指しての”展開戦略”~
    農的社会デザイン研究所代表 蔦谷栄一

報告要旨

30年の機会損失

みどりの食料システム戦略(以下「みどり戦略」)に違和感、唐突感を持つ向きは多い。しかしながら世界では農業で環境問題に取り組み始めたのは1990年代で、92年にEUがガットウルグアイラウンドにおける米国との交渉打開のために、CAP(共通農業政策)を打ち出し、価格支持政策を止める代わりに、環境問題への取組みを条件に直接支払いを認めさせたことが転機となっている。わが国でも92年にいわゆる新政策の中に環境保全型農業を位置付けた経過がある。その後、99年に持続農業法を施行、2001年には有機認証制度をスタート、06年には有機農業推進法を施行するなど、形式は整備されたものの、残念ながら本格的な展開には至らずに推移してきた。このようにわが国は30年遅れで今回のみどり戦略によりあらためて本格的な取組を推進しようとしているものと理解される。

やるしかない

みどり戦略の背景にあるのは異常気象の頻発にともなう気候変動対策であり、”地球の危機“である。有機農業比率の現状0.5%に対し、2050年と30年弱先の話とはいえ25%という目標のハードルは高く、このために技術による過度なイノベーション頼りともなっている。みどり戦略が問題を抱えていることは確かであるが、農林水産分野でわが国の排出量の3.9%を占めており、農業も温室効果ガスの排出源の一つであることから免れることはできない。「やれるか」ではなく、「やるしかない」というのが率直な思いだ。

持続性確保による全体の環境負荷軽減

みどり戦略実現のための課題は多い。「生産力の向上と持続性の両立」をねらいとするが、①「持続性」についての概念整理、②有機農業推進法、持続農業法をはじめとする関係法令・制度の体系的見直し、➂持続性の要素の整理と指数化・計数化による見える化、④面的な取組を展開していくための地域営農計画への取り込み、等々があげられる。一方、環境負荷軽減のためには有機農業、減農薬・減化学肥料栽培等多様な栽培方法・農法がある。みどり戦略では有機農業だけが突出した感がある。有機農業を点から線、そして面へと広げていくことも大切であるが、減農薬・減化学肥料の使用低減によるレベルアップも必要である。すなわち⑤地域の実情に合わせて多様な選択肢を提供していくことが重要である。これが取組参加を促し、全体の負荷軽減に大きな効果を発揮していくことが期待される。

必要な展開戦略

このところ有機農業が世界での環境にやさしい農業のスタンダードと化しつつあるが、世界的に見ればアメリカではIPM(総合的病害虫管理)、また南北アメリカでは環境保全型農業(①浅耕、②カバークロップ、➂輪作)、さらに途上国ではアグロエコロジー(生態農業)等、多様な取組みが広く展開されている。環境にやさしい農業とはいっても取組の実態は一様ではない。特にきわめて地域性に富むとともにアジアモンスーン地帯にあるわが国の場合、有機農業一本では限界があり、多様な取組があってしかるべきで、これらを総合的・統合的に推進していくための展開戦略が必要とされる。

JAグループがみどり戦略取組リードを

先に触れたとおり全体での環境負荷軽減をはかっていくためには面的な取組を展開していくことが要件となり、地域営農計画のレベルにまで落とし込んでいくことが必要である。そして実質的にこれを推進していくことができる人的・組織的・物的能力を持つのはJAグループしかない。言い換えればみどり戦略目標実現のカギを握っているのはJAグループということだ。これまで正直なところJAグループ内には有機農業を忌避する風潮が存在していたことは否めない。地球環境も含めて外部条件は大きく変化してきており、環境にやさしい農業であることが日本農業の必要条件と化しつつある。換言すれば日本農業は質的転換を求められているわけで、かつての系統共販によって市場経由により一定品質のものを大量に供給していく時代から、有機農業も含めた環境にやさしい農業による「元気な農産物」を消費者に直接供給していくこともあわせて、多様なルートで質的にも多様な農産物を供給していく時代へと変わりつつある。

JAは自己改革に取り組んできたが、みどり戦略の決定・推進にともない、率先して環境にやさしい農業に取り組んでいくことを第二の自己改革の柱として取り組んではどうか。環境にやさしい農業を展開していくためには、消費者の支持が不可欠であるが、このためにも地産地消とともに協同組合間提携を強化し、消費者との交流を拡大・深化させていくこと必要で、その旗頭としてみどり戦略を掲げていくものだ。これをつうじて政策支援を引き出していくとともに、「地域循環共生圏」の創造につなげていくことを期待したい。

「みどりの食料システム戦略のJAでの取り組み」
JA東とくしま 代表理事組合長 荒井 義之

報告要旨

2015年9月に世界(国連)で2030年までの持続可能な開発目標SDGsが採択されました。

また、国(農水省)からは今年の5月、気候変動やさまざまなリスクに対応する新たな食料生産の柱として、「みどりの食料システム戦略」が策定され、2050年までに①化学農薬の使用量半減②化学肥料の使用量3割減③有機農業を全農地の25%に拡大といった数値目標が提示され、生産体制を大きく転換する方針が打ち出されました。

徳島県では2012年から始まったオーガニック・エコフェスタが2021年に第10回を迎えることになりました。私はJAの組合長として第6回目から実行委員長を務めておりますが、毎年開催される度に農業技術のイノベーションが起こっていることが実感できるまでになりました。次回2022年、第11回では、これまでの取り組みを踏まえ、みどりの食料システム戦略が掲げる中長期的な観点からの調達、生産、加工・流通、消費の各段階の取り組みについて、徳島県の事例をご紹介したいと考えています。

調達 1.資材・エネルギー調達における脱輸入・脱炭素化・環境負荷軽減の推進

徳島県には畜糞や廃菌床などの有機資源が豊富にあり、これまでは産業廃棄物で処理されていたものを有効に活用する技術開発に成功しました。畜糞や廃菌床を有機堆肥に変えることで、美味しく栄養価も高い野菜や米の栽培が可能となりました。

徳島県は菌床しいたけの生産量日本一です。その中でもJA東とくしまの管内である小松島市は最大の生産量を誇ります。そこから出る廃菌床を使ってみみずを養殖する施設があり、50年の歴史と規模は世界一とも言われています。このみみず糞土を使った米の苗作りが広がっています。第5節間が太く短く、稲の倒伏を防ぐことが確認されています。その上に苗作りで行われるネオニコチノイド系の箱処理剤も使用しなくてもよいことが分かってきており、日本の米作りに欠かせない技術として広く伝えたいと考えています。

生産 2.イノベーション等による持続的生産体制の構築

有機農業の最大の問題点は体系的な科学でなかったことが大きいと思います。

(一社)日本有機農業普及協会の小祝政明氏が提唱する生態系調和型農業理論(BLOF理論)は、国連総会SDGsカンファレンス2019にて第一席になった持続可能な有機農業技術であり、体系的な学問として実証されています。科学的かつ論理的に営農していく事で、「高品質」・「高収量」・「高栄養」を実現し、環境に配慮した有機農業の耕地面積を広げる事ができる有機農業技術(BLOF理論)の普及・拡大を目指します。この技術を活用した取り組みの普及啓発は生産者だけでなく、安全で美味しく栄養価の高い農産物を手頃な価格で手にすることができる消費者にとっても十分に魅力のある取り組みです。

加工・流通 3.ムリ、ムダのない持続可能な加工・流通システムの確立

私たちが直面するさまざまな課題に、協同組合が連携を強化して取り組み、協同組合が地域で果たす役割・機能の可能性を広げていく必要があります。特に,生産と消費を直接結ぶ「産直」は,生産者,多様な協同組合,消費者などを結びつける「共創空間」となり,それぞれが発信や連携をすることによって、新たな価値観や相乗効果が生まれつつあります。協同組合間協同の事例としてJA東とくしまとコープ自然派でのネオニコフリー米の取り組みや地場農産物の需給拡大に向けた産直を核としたJA間連携の取り組みをご紹介します。

消費 4.環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の推進

オーガニック・エコフェスタは生産者と消費者を結びつける直売所を交流の場とし、高品質・多収穫の技術力があり、環境に配慮した農業を推進する生産者と野菜本来の力を理解し、新たな食生活の提案を求める消費者とのマッチングイベントです。直売所を地域流通拠点として活用し、実店舗で様々なプロジェクト群を連動させることによってオーガニック・エコ農産物及び生物多様性農業の市場への浸透を図り、普及拡大を進めています。特にオーガニック・エコ農産物が健康面でも優れていることを立証するための取り組みや有機農業への理解を深めるために、食べものと農、食べものと身体、食べものと自然環境の関係を学ぶことができる食農教育・環境教育のプログラムを確立しています。

まとめ. 持続可能な農山漁村の創造・サプライチェーン全体を貫く基盤技術の確立と連携(人材育成、未来技術投資)

我々JAグループの最大の目的である農業者所得の向上と農業生産の増大そして地域の活性化を図るためには私はオーガニック・エコの実践は最適だと思います。

今後は地方自治体やJAも本腰をいれ、担い手経営体とともに小中規模農家に対する有機農業の普及指導体制が重要となります。有機農業の技術指導、有機的ネットワークづくり、有機農産物の流通販売体制の整備、消費者理解の促進等、果敢に挑戦し、有機農業者を積極的に受け入れるとともに新規就農者を育成する体制整備をしていく必要があります。