開催要領 新総合JAビジョン確立・経営危機に備える課題別セミナー(第45回) 

―農泊回復へ700万人目標―

1.日 時  令和5年5月29日(月) 13時30分~16時50分
2.場 所 エッサム神田ホール2号館 6階(2-602)会議室(受け付けは13時より)
〒101-0047東京都千代田区内神田3-24-5  JR神田駅 東口・北口・西口 徒歩2分
TEL 03-3254-8787 FAX 03-3254-8808
         https://www.essam.co.jp/hall/access/

●実参加とズーム(オンライン)・録画方式の併用

3.参加者  主にJA役職員      

4.日 程   

時 間内 容
13時30分       (司会) 東京農業大学 名誉教授 白石 正彦
1330分~1335(開会挨拶) 新世紀JA研究会代表  JA菊池(熊本県) 代表理事組合長 三角修
1335分~1340「解 題」 新世紀JA研究会 常任幹事 福間莞爾
1340分~1425「農泊の施策と可能性」 農林水産省農村振興局都市農村交流課 農泊推進室長 村山直康氏
1425分~1435質疑
1435分~1440「農泊推進に向けた農協観光・Nツアーの決意とお願い」株式会社農協観光 会長 櫻井宏 氏
1440分~1525「農泊を通じた農業振興~ポストコロナに向けた地域活性化」 株式会社農協観光地域共創事業部 部長 香川晋二 氏
1525分~1535質疑
1535分~1545休憩
1545分~1630「のと里山農業塾」を通じた農泊の取り組み JAはくい(石川県) 経済部次長 粟木政明 氏
1630分~1640質疑
1640分~1650総合質疑
1650閉会

セミナーの録画

「農泊の施策と可能性」 農林水産省農村振興局都市農村交流課 農泊推進室長 村山直康 氏

講演要旨

農林水産省 農村振興局 都市農村交流課 農泊推進室長 村山直康

平成29年3月の「観光立国推進計画」に「農泊の実施体制の構築、農林漁業体験プログラム等の開発や古民家の改修等による魅力ある観光コンテンツの磨き上げへの支援を行うとともに、関係省庁と連携し、優良地域の国内外へのプロモーションの強化を図り、農山漁村滞在型旅行である農泊をビジネスとして実施できる体制を持った地域を平成32年までに500地域創出することにより、農泊の推進による農山漁村の所得向上を実現する」ことが目標とされ、農林水産省が農泊の推進を開始してから約6年が経過した。
500地域創出するという当初目標は達成され、農泊は「草創期」から進展し「成長期」に移行すべき段階にある。農泊地域の展開には地域ブロック・都道府県ごとに温度差があり、まだまだ裾野の拡大の余地も大きいと推察され、また農山漁村地域の活性化・所得向上、移住・定住の促進も見据えた関係人口創出の観点からも各地域の取組を進化させる必要がある。このような中で新たな目標として、新たな観光立国推進基本計画における政府全体の方針に沿いつつ、農泊地域の裾野の拡大・地域コンテンツの充実・インバウンド取組などを行い、令和元年度に約589万人泊であった農泊地域の宿泊者数の回復・さらなる積み上げをして令和7年度末までに700万人泊とすることにより農山漁村の活性化と所得向上を目指すこととしている。
 農泊とは農山漁村地域に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」である。かつてのグリーンツーリズムなどの都市と農村の交流ではサービス等の価格設定が低く持続的でない場合が多いことや、運営体制の多くが任意組織であるため責任の所在が不明確であるとともに複数年にわたっての資金を調達することができず、長期的な視点での運営が難しい面もあった。このような課題の結果、事業の後継者が現れず、高齢化とともに取組を終えてしまうところも多くあった。
 農泊はビジネスとして実施できる体制を作り、宿泊・食事・体験など農山漁村ならではの地域資源を活用した様々な観光コンテンツを提供し農山漁村への長時間の滞在と消費を促すことにより、地域が得られる利益を最大化し、農山漁村の所得向上や雇用創出を図るとともに、農山漁村への移住・定住も見据えた関係人口創出の入口とすることを狙いとしており、農林水産省では農泊を推進していくために、地域における実施体制の整備、食や景観を活用した観光コンテンツ磨き上げ、ワーケーション等の利便性向上、国内外へのプロモーション等を支援するとともに、古民家等を活用した滞在施設、体験施設の整備等に取組む地域協議会に対し、ソフト・ハードの両面で支援している。
例えば地域の収穫体験や直売所に立ち寄るのみの通過型観光だと地域における利益は限定的で局所的となってしまい、地域全体に裨益しない。宿泊・食事・体験のコンテンツが充実すると地域の滞在時間が伸び消費も増え、地域全体として利益が得られるようになる。そのため農泊では宿泊・食事・体験の3つを地域として提供できること、地域の様々な組織や団体が参画し、地域の意思統一を図りながら地域一丸となって進めていくことが重要である。
農泊と聞くと農家の家に泊まることをイメージされる方が多いと思うが、それは農泊のほんの一部である。農山漁村に宿泊し滞在してもらうことを企図しているので、地域の旅館やホテル、民宿・ペンション、古民家や空き家の活用、近年流行のグランピング施設も農泊として捉えている。食事については旬の食材や地域の食材を活用した食事はもちろん、伝統料理や郷土料理、さらには近年注目されているジビエなど様々な食事を各地域の特色を出し提供している。体験についても農作業体験にとどまらず、地域の生活文化や伝統芸能、伝統工芸を体験すること、料理体験などを通じた地元の方々との交流、自然体験、棚田などの景観の活用など様々である。農泊が提供している宿泊・食事・体験は、その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることとなり、農山漁村へのリスペクト、国産農産物のファンづくりにも大きく寄与するものと考える。
各JAにおいても農業コンテンツの活用、農畜産物・加工品を含む物販の拡大、直売所を拠点とした交流、地域活性化について助言など様々な観点から地域に関わることが出来ると思うので、地域協議会における活動に積極的に参画いただくことを期待している。
JAが主体となり農泊に取組でいる事例ではJA佐野やJA大井川が挙げられるが、どちらも地域内の様々な組織や団体と連携し、地域資源を観光コンテンツ化して地域外から人を呼び込むことによって、地域活性化と農業振興を図っていくこととしている。
このように、農泊に取組むことは、観光や交流事業の収入により経営の多角化や経営基盤の補強、農業者所得を向上させることの一つの手段となりうるので、JAの新たな事業として是非とも農泊に取組んでいただきたい。

以上

講演資料

「農泊を通じた農業振興~ポストコロナに向けた地域活性化」 株式会社農協観光地域共創事業部 部長 香川晋二 氏

講演要旨

 平素より弊社事業におきましては、多大なるご協力を賜り深く感謝申し上げます。弊社の経営状況については、ご周知の通り、この3年間のコロナ禍の中で、大きな影響を受け存亡の危機という状況まで追い詰められました。そうした中、全国連をはじめJAグループ各所より様々なご支援やご協力を賜り、事業の再開に向け、今まさに再チャレンジをする段階であります。
本セミナーでは、主に以下の2点をお伝えしたいと思います。
 ①農泊は農業振興・地域振興の手段であることを知っていただく
②農泊を通じて弊社の観光以外の役割・価値を知っていただく

まず農泊については、人口減少等の諸課題を抱える農山漁村地域にとって、交流人口を呼び込むことで、農畜産物の消費につなげ、農業振興ならびに地域活性化に貢献できる取組と心得ています。またその一環として、援農ボランティアなどの関係人口の存在は、多様な担い手確保や就農にも繋がる可能性のある取組として期待をしています。
農泊のねらいの重要点は、宿泊・食事・体験を通じた、「農山漁村の活性化」と「所得向上」、「移住定住を見据えた関係人口の創出」にあります。これはJAグループの基本目標である「農業者の所得増大」「農業生産の拡大」「地域の活性化」に繋がるものであり、この点は強く意識して推進しております。
観光振興の面からは、今春に発表された観光庁・観光立国推進基本計画に、観光はコロナ禍を経ても「成長戦略の柱」「地域活性化の切り札」「国際相互理解・国際平和」にとって重要とあります。また令和7年には大阪万博が予定され、「全国津々浦々に観光の恩恵を」というフレーズが謳われています。弊社も農泊の視点を持ちながら、このような情勢に歩調を合わせていきたいと考えます。
また、観光客の持つ食への関心の高さについても触れたいと思います。日本人旅行者のみならず、外国人旅行者も、日本食とりわけ地方の多様な食に関心が高いことは各種データで実証されています。弊社は、JAグループの「国産国消」「地産地消」の理念に添いながら、全国の農泊施設や協定している施設と連携して、最大限に地域の農畜産物を、郷土料理や食事メニューとして提供していきたいです。
関係人口創出の視点からは、農泊を通じた交流人口は、関係人口、定住人口と発展していき、一部かもしれませんが、新規就農にも期待が持てます。農泊は地域課題解決のゲートウェイ と言っても過言ではありません。訪問者と地域の皆さまとの持続的な関係構築や、多様な農業の担い手創出の一手段としても期待できると考えます。
さて、弊社の農泊への関わりとしては、今年度より新たに組織した地域共創事業を通じて、地域の諸課題やニーズに向き合いながら、各種の体制整備支援をしております。ご支援は「地域の将来像」を共有した上で、ヒトの交流を目的とした体験・交流等のコンテンツ支援のみならず、6次化支援を通じたモノの交流、空き家等の利活用を中心とした遊休資産の活用、情報発信、専門家派遣など幅広く行っております。
また弊社は体制整備支援に加え、「人流」として、「交流人口」から「関係人口」そして「新規就農」まで意識しています。加えて「物流」や「商流」の創出まで見据え、最終的には、何よりも「農業振興」や広く「地域活性化」に繋げること使命にしています。
 これまで、農水省の農泊推進事業等の予算を活用させて頂き、各地域へご支援をして参りました。ここ数年は、コロナ禍の影響を受けた地域が多数ありますが、現在も大半の地域が持続的に農泊や都市農村交流を実践されています。弊社は支援期間が終わっても、永続的にこれらの地域との関わり、交流の機会の継続を大切にしています。このマインドがJAグループの旅行会社としての強みであり、使命であると自覚しております。
 アライアンス事業では、多様な企業や事業者と連携して地域の課題解決に取組み、事業全体の推進力や目的達成の可能性を高める取組みとしています。令和4年7月に日本航空と業務提携契約を締結し、JALの世界的なブランド力とネットワーク、弊社の地方での強みを活かし、一産業と地域の活性化に貢献することを目的に、全国のJAグループと連携して農山漁村地域への多様な交流の機会を創出すべく展開しています。その他、労働力応援事業、農福連携事業等、農泊と親和性の高い事業を推進しております。
 自治体との連携も積極的に進めております。令和3年には山形県村山市と連携協定、広島県世羅町と包括業務提携協定を結びました。双方とも、弊社と連携することで、旅行商品の開発や情報発信を強化し、農業振興を含む地域活性化の推進を図ることを目的にしています。また、総務省の地域活性化企業人を活用した支援も昨年度から開始しました。熊本県山都町で弊社の社員が派遣し、農泊の支援活動を行っています。その他、農泊関連の国費事業も数多く手掛けており、全国の農泊地域等の支援を行っております。
農泊は、地域と多様なヒト・モノ・情報そして思いの交流を創出し、地域の活性化・農業振興に貢献する取組だと考えます。JAグループの農協観光だからこそ、地域の皆さまに寄り添い、農泊を通じて、共に未来を創りたいと願っております。

講演資料

「のと里山農業塾」を通じた農泊の取り組み JAはくい(石川県) 経済部次長 粟木政明 氏

講演要旨

石川県にあるJAはくい(はくい農業協同組合)は、2011年に日本で初めて「世界農業遺産」に認定された「能登の里山里海」の地域で活動しており、羽咋市と連携し「はくい式自然栽培」に取り組んでいます。これは農薬や肥料を使わずに、自然の生態系システムを最大限に活用した農業です。JAはくいが自然栽培に取り組むきっかけになったのは、2010年2月に『奇跡のリンゴ』の書籍などで有名な木村秋則さんの北陸で初めての講演会が、羽咋市の主催によりJAはくいの当時の組合長が実行委員長となり開催されたことです。その講演会での講演を引き継ぐ形で自然栽培の農業塾を立ち上げる案が出され、同年12月から3年間、木村秋則さんを招いての自然栽培塾を開設しました。それを引き継ぎ、羽咋市に自然栽培の足跡を残し、発展させるため、JAはくいの事業として「のと里山農業塾」が発足しました。当時、TPP(環太平洋連携協定)交渉に危機感を持ち、安全・安心の農産物生産を打ち出すことや地域に新規就農者を呼び込むこと、さらに生物多様性の保全を図ることなどが、JAはくいが同事業に取り組む動機になりました。自然栽培に対する地域や組合員の反応は、JAはくいが同事業を主導していた当初は、それほど前向きではなかったともいえます。しかし、その後羽咋市が「自然栽培の聖地化」を目指すとの方針のもとにさまざまな自然栽培事業を打ち出してからは、人口減少を止めるための取り組み、農業者の高齢化に対する担い手の確保といった視点が市民に浸透し、自然栽培の取り組みへの理解が進んでいきました。
 羽咋市は、さらに自然栽培事業を推し進めるため、自然栽培の新規就農者に対する助成金の上乗せ、家賃支援、「のと里山農業塾」の運営支援、ふるさと納税における自然栽培米の活用などを行っています。JAはくいは、羽咋市と連携しながら自然栽培を活用した地域ブランドづくりなどに向けて取り組みを進めております。
 JAはくいが運営する自然栽培の研修事業「のと里山農業塾」は、これまで2021年までに研修生延べ568人を送り出し、そのうち約20名が2022年3月までにJAはくい管内で就農しています。研修は1年間で、月1~2回程度の頻度で講義や実習を行います。開塾から3 年間は木村秋則さんが塾長を務めていましたが、4年目からは、JA職員や自然栽培にすでに取り組んでいる農業者が講師を務めています。
JAはくいは、本店近くに羽咋市の所有地を無償で借りて自然栽培の実証圃場を設置しており、ここを利用してのと里山農業塾の実習や、自然栽培の技術開発に取り組んでいます。農業塾の運営費は参加者から徴収する会費と羽咋市からの助成(年間100万円)で賄っていますが、経費的には厳しい状況にあります。そこで自然栽培に関心があり、理解のある企業に、農業塾運営のスポンサーとなってもらうことなども実現しつつあります。
近年の研修生は毎年20~30名程度ですが、これといった宣伝はしなくても全国から研修生が集まります。研修生となるのは、自然栽培に取り組む農業者、就農希望者だけではなく、例えば自然栽培に関心のあるレストランのシェフなども受講に加わったりしています。
2021年度(令和3年度)の研修生30人の内訳は石川県外からが14人、羽咋市以外の県内が13人、羽咋市内は3人となっています。総じて研修生は県外からの若い世代が多いです。2021年度で卒塾した30人のうち管内で自然栽培に取り組むのは、すでに自然栽培を行っている人、小学生も含めて3人で、家庭菜園を一人で手がけられるほどの技術レベルに達しています。就農者数は最近ほぼ横ばいであり、半農半Xのような形で自然栽培を行っている人もいます。
これまで、自然栽培を打ち出したことで新たなご縁が生まれたり、またこの町のことを学び直すことにもつながりました。農家が大切に育て上げた農作物に、様々な価値を創造することで、生産者にもJA職員にも誇りとやりがいが生まれてきました。白分の町の価値を知ることは、地域活性化においてとても大きな意義を持つものと思います。なぜなら、その価値を都市や近隣地域に発信できるからです。
JAはくいでは、道の駅なども含め、県内外からの消費に対しても積極的に行動しています。地元で採れたものを一番おいしい状態で、かつ農家さんとのコミュニケーションも含めて食を楽しんでいただきたいと思っています。地域活性化及び都市農村交流において、こうした関係性の中で新たな価値が芽生えることで、結果として農家所得の向上や生産者の自立、町や地域の発展に貢献できるものと考えています。 今後も「関係人口」や「SDGs」などのキーワードを活かし、物販の組み合わせの導入の検討や自然栽培を地域に定着させるために、技術力の向上やICTの導入等による生産者の自立化、地域ブランドの強化に向けた地域住民への自然栽培の浸透等を図っていきたいと考えております。

講演資料