12月2日(木)13:30~16:30 (ZOOM・録画方式による)

時 間内 容
1330(司会) 東京農業大学 名誉教授 白石 正彦
1330分~1335(開会挨拶) 新世紀JA研究会代表 三角 修 (JA菊池 代表理事組合長)
1335分~1340「解 題」 新世紀JA研究会 常任幹事 福間 莞爾
1340分~1420中期計画の革新~自己改革工程表への対応~ 公認会計士  甲斐野 新一郎 氏
1420分~1430質疑
1430分~1510  「中期計画策定の考え方」 JAはだの 企画部 企画課長 村上 智 氏
1510分~1520質疑
1520分~1530休憩
1530分~1610「中期計画策定の心構え」 有限責任監査法人トーマツ JA支援事業ユニット シニアマネジャー  水谷 成吾 氏
1610分~1620質疑
1620分~1630総合質疑
1630閉会

開会挨拶
新世紀JA研究会代表  三角 修(JA菊池代表理事組合長)

ZOOMの編集録画

編集録画は、2時間41分秒あります。終了後も黒い画面が継続しますが、終了してください。再生速度を速めると短時間でご覧になれます。

中期計画の革新~自己改革工程表への対応~
JA全中・公認会計士 甲斐野新一郎 氏

講演要旨

11月21日にJA等に対する「監督指針」のパブリックコメントが開始されました。この監督指針は自己改革や早期警戒制度に対応したものです。今回、パブリックコメントが行われた監督指針は「農業協同組合、農業協同組合連合会及び農事組合法人向けの総合的な監督指針(総合監督指針)」と「系統金融機関向けの総合的な監督指針(信用監督指針)」の2つです。前者はJA、連合会など全般にかかるもので、後者は信用事業を行う、JA、信連、農林中金を対象にしたものです。

両者の内容ですが、早期警戒制度は金融機関横並びの規制ですので、信用監督指針の方に記載されます。政府の規制改革実施方針で示された農業所得拡大などの自己改革については総合監督指針の方に記載されます。規制改革実施方針ではJAは3つの方針①農業所得向上に向けた自己改革の方針、②中期の収支シミュレーション、③准組合員の意思反映と事業利用方針を示すことが求まられました。また、4つ目の項目として④農業者等向けの投融資の方針も必要とされています

②は早期警戒制度に関するものですので、②と④が信用監督指針記載されています。一方で総合監督指針では①~③の内容が記載されますので、②の部分が重なることになります。早期警戒制度の内容自体は信用事業の規制として信用監督指針に記載されていますが、それについての検討プロセスや総代会等での協議、PDCAサイクルについては①~③をまとめて総合監督指針で記載されることになっています。

早期警戒制度の収益性基準については信用監督指針の「持続可能な収益性と将来にわたる健全性」の項目に記載されています。監督指針は行政の指導・監督を規制するものなので、①意義、②主な着眼点、③監督手法・対応の項目に分かれます。記載されている内容については基本的に金融庁の地域金融機関向けの監督指針と同じ内容です。監督手法の中では3つのステップに分けて記載されています。検証のポイントとしてコア事業純益(銀行の場合はコア業務純益)があげられているのも同じです。異なっているのはJAの場合、総合事業を営んでいるので信用事業の収益性だけでなく共済や経済事業を含めたJA全体の収益性が対象となるところです。

「中長期の収支シミュレーション」については総合監督指針の中で自己改革の一環として整理されています。内容は「農協全体及び信用事業、共済事業、販売事業、購買事業等の事業ごとの①現状を踏まえた将来の収益及び費用の見通し並びに②現状の見通しに収支改善を踏まえた将来の収益及び費用の見通し」となっています。シミュレーションといっても2つのパターンがあります。①の方は現状を踏まえた見通しということになるので、「成行シミュレーション」ということになります。②の方は成行シミュレーションに改善事項を織込んだもので、JAの「中期財務計画」と言えます。

 成行シミュレーションの方法について総合監督指針では細かく触れられていませんが、信用監督指針の方では「貸出金・貯金利息、有価証券利息配当金、役務取引等利益、経費(事業管理費)、共済付加収入、共済推進費等、販売手数料、販売費等、購買手数料、購買供給費等の各事業に係る収益及び費用について足下の傾向が継続すると仮定」することが記載されています。事業区分ごとの収益・費用の傾向を予想することが求まられています。期間は原則5か年となります。

成行シミュレーションとあわせて改善事項を織込んだ「中期財務計画」作成する必要があり、両者の違いが改善事項ということになります。早期警戒制度では中期財務計画が「絵に描いた餅」になっていないか、計画の妥当性の検証が当局により行われることになります。①支店の機能再編と経済拠点の集約を行うので事業管理費が○千円減少する、②直接販売を強化するので販売事業総利益が○千円増加するなど、中期財務計画の根拠を要因と数値で明確にしておくことが求まられます。

また、中長期の収支シミュレーションは決算ごとに見直すことが必要ですので、5年の成行シミュレーションと中期財務計画を毎年することが必要になります。このことは、3年に一度中期財務計画を作成し、それ以外は単年度の事業計画を作成してきた従来の方式に転換を求めるもので、「ローリング型の中期財務計画」の取組みということになります。

早期警戒制度の取組みが、自己改革の方針の一つに取り込まれたことで、作成にあたってのスケジュールの検討が必要になります。自己改革方針については①組合員へのわかりやすい周知・説明、②組合員との徹底した話し合い、③総代会での議決が求まられています。5か年のシミュレーションや中期財務計画自体を総代会議案として明示することまでは求まられていませんが、総代会を意識したスケジュールが必要になります。

中期計画策定の考え方 JAはだの 企画課 村上 智

講演要旨

JAはだのでは、「JAはだのがめざすもの」として、「JA運営の基本理念」「基本目標」、「3つの共生運動」への取り組み、の3つを掲げています。

JA運営の基本理念では「夢のある農業と次世代へつなぐ豊かな社会を地域できずく」などが示されています。JAはだのでは、中期経営計画を策定する際には、この基本理念や基本目標、3つの共生運動への取り組みなどを踏まえ策定してまいりました。

JAはだので「中期経営計画」を設定したのは2006年で、2008年度までの「第一次中期経営計画」が最初になり、今は第五次計画の最終年度になります。

また、第三次と第四次の間に、1年空白があるのですが、政府の「農協改革」の方向性がでていなかったため、2015年度は単年度計画で対応いたしました。

中期経営計画策定までの流れですが、①4月にプロジェクトチームを発足し骨子案を夏ごろまでに作成していきます。骨子案ができましたら、②役員・部室長で構成する策定会議の検証や、③10月の座談会前に組合員代表で構成する策定委員会の決定を経て、④秋の座談会で組合員に骨子案を周知し、意見聴取を行います。

座談会ででた意見を踏まえて、⑤策定会議で行動計画や数値目標を作成し、⑥2月の策定委員会の原案決定や、⑦理事会での総代会附議承認を経て、⑧5月の総代会で計画の承認となります。
以上がJAはだのの中期経営計画策定の流れになります。

プロジェクトチームは係長、次長、主任クラスの若手職員で、10名程度で構成されています。
目的は現状の課題若しくは基本理念へ向けてどういった取り組みが必要かを整理し、JAはだのが目指すべき方向性等の検討を行い、骨子案として計画の方向性をまとめます。
策定会議は、常勤役員・部室長で構成されています。
目的はプロジェクトチームがまとめた骨子案の妥当性や実行性を検証していきます。また、座談会で組合員から出た意見を踏まえ、部署ごとに細かい行動計画や数値目標を作成してまいります。

策定委員会は、常勤理事や組合員代表からなる23名で構成された委員会になります。非常勤理事3名は理事会に設置された3つの専門委員会からそれぞれ1名ずつ選出しており、女性や農業後継者からの意見も反映させるため女性理事や女性部・青年部からも選出しています。
目的は、骨子案や計画原案の決定となっております。

座談会は、正准問わず全組合員を対象に、毎年、春と秋に部落単位で市内83会場にて開催しております。春には決算の報告、秋には仮決算の報告を兼ねており、JA運営に対し組合員から意見聴取をし、経営に反映させております。

中期経営計画策定年度は、座談会資料として計画骨子案を提示し、それに対して意見聴取を行っています。策定にあたっては、組合員の意見を聴き、組合員とともに策定していくという考えです。
しかしながら、2020年度春の座談会以降、コロナの影響で座談会は開催できておらず、資料を配付し、FAXやメールで意見聴取するような状況となっております。コロナの影響で、組合員との対話活動ができていない状況にあります。

今年度は第六次中期経営計画を策定する年になっております。
昨年JAはだのでは、今後の収支が悪化する状況を鑑み、全中 甲斐野先生のご支援により2025年度までの収支改善計画である「事業再構築計画」を作成いたしました。第六次中期経営計画を策定するにあたり、この計画とかけ離れた中計になってもいけない、ということで、第六次中期経営計画の策定も甲斐野先生にご支援いただくこととなりました。
甲斐野先生にご支援いただき策定し、策定会議、委員会を経て実際に座談会に提示した骨子案の体系図になります。

インタビューと情勢認識から導き出したJAの使命を「次代につなぐ秦野農業」、「農業者の所得増大」、「豊かなくらしづくり」の3つとし、それを支える組合員と役職員の共有価値観として「学び、実践する」というバリューを設定しました。

JAの使命を達成するために、基本目標を「持続可能な地域農業の確立」、「地産地消を中心とした販売力強化」、「相談機能の強化と総合事業の積極展開」とし、これら3つの基本目標を効果的に達成するための土台として「持続可能な経営基盤の強化」の4つの基本目標を設定しました。

また、基本目標Ⅱは、農水省が策定した「みどりの食料システム戦略」にも対応する部分となっており、すべての基本目標はSDGs17のゴールとの関連性を明確化していきます。

JAはだのの中期経営計画は、継続的にJAが取り組むべき計画として「総合基本計画」と、その中から特に重要な計画を抽出した「重点実践計画」からなっており、今回設定した基本目標は「重点実践計画」、従来から取り組んでいるものを「総合基本計画」としました。

現在は、甲斐野先生による現業へのヒアリングを通じ、重点実践計画では、成果目標であるKPIを設定した重点施策、また各分野における基本施策の作成を進めております。

中期計画策定の心構え
有限責任監査法人トーマツ水谷 成吾

講演要旨

1.中期計画策定において問われる役員の意志
 これまで農協は、安定した環境のもと、すぐれたビジネスモデル(安定経営の仕組み)が機能してきました。その結果、中期計画においても、これまで通りのことを、これまで以上にがんばると定めるだけで問題はなく、目標数字をやりきることが目的になっていたのではないでしょうか?

 しかし、現在のように変化の速い環境においては、これまで通りで上手くいくことは期待できません。それにも関わらず、役員が自らの意志を示さずに、目標数値などの指標だけに頼って組織運営しているようでは、ジリ貧状態から脱することはできません。そもそも、このような役員は、中期計画を策定しているつもりで、毎年の目標を設定しているにすぎず、そこに「戦略」がありません。

2.戦略策定の肝となる「選択」が行われていない
 戦略とは、中長期的な目標を達成するためのシナリオであり、農協の進むべき方向、自身の強みや経営資源をどのように活かして事業を成長させるのかの道筋です。そして、戦略策定のポイントは、役員が自らの意志で直面する状況(問題)の中から、取り組むべき重要な課題を見極め、そこに、経営資源(ヒト・モノ・カネ)を集中させる方法を考えることです。

 つまり、戦略のない中期計画は、選択と集中を無視した八方美人で、盛りだくさんの指標で埋め尽くされているのに対し、優れた戦略は、組合として「今、何をすべきか」を示し、重要な課題に焦点を合わせた中期計画をつくります。総花的な取り組みに経営資源を分散することは、経営資源に余裕があったからこそできた贅沢であり、今、農協として「何をするか」と同時に「何をしないか」を決めることが求められています。 

3.役員の意志による「選択」(価値判断)行う
 中期計画策定における役員の役割は、たくさんの課題の中から、何が重要で、何が重要ではないかを、はっきりと「選択」し(どれかを選んで、残りを捨て)、重要な課題以外から経営資源を引き上げ、重要な課題に経営資源を回すことです。

 この「選択」の答えを連合会等に求めるべきではなく、また、分析によって正解が導き出されるものでもありません。この「選択」こそが役員の意志(想い)です。あなたが思い描く農協のありたい姿に従って、農協が行うべき選択と集中を示しましょう。そして、「なぜそうするか」(目的)について、職員としっかりと対話しましょう。あなたが示す農協のありたい姿に魅力があるからこそ、職員は迷いなく仕事に没頭することができます。論理的に積み上げられた事業計画の先にある、あなたが「この農協で達成したいこと」によって職員を動機づけてください。あなたの意志に共感した職員は、そこに努力する価値を見出すはずです。

4・本気の中期計画をつくるために役員の「想い」をぶつけ合う機会をつくる
 これまでとは違う中身のある中期計画を作りたいと考えているのであれば、求められているのは、情報を集めて綺麗に整理することではなく、経営者として農協を引っ張っている役員の「想い」をぶつけ合う機会を作ることです。

 それぞれが異なる立場で農協を俯瞰し、組合員のこと、職員のことを考えているはずです。そうやって誰よりも真剣に農協経営に向き合っている役員の頭の中以外に、どこに正解が落ちているというのでしょうか?すぐには上手く言葉にならなくても良いのです。話し合いを重ねることで、お互いの想いに共鳴し合い、少しずつ形になっていきますから。中期計画は、耳に心地よい言葉で、見栄え良くまとめるのではなく、見ればそこから「役員の想い」が読み取れる、そういう本気の中期計画であるべきです。

5.中期計画を支える「価値観」を明確にする
 そのうえで、中期計画では、単にゴールを示すだけではなく、農協のありたい姿を追求する過程で、職員に「どのように行動すればよいか」を示してください。そして、なりふりかまわず結果を出すのではなく、あなたの大切にする「価値観」のなかで結果をだすことを職員に求めてください。

 ひたすら数字にこだわると、まず予算ありきですべての行動がなされ、短期的に目標達成するために「目的」を見失った行動が組織のなかで許容されるようになります。「組合員のため、地域のため」というのは綺麗事ではないはずです。「組合員に必要だと自信をもって言えないなら勧めない」という覚悟をもって、職員が「自分の仕事は地域の役に立っている」と誇りをもって言える、そんな農協にしてください。

6.不確実な時代に農協役員としての信念が問われる
 環境分析資料にもとづいて中期計画を作っても、前提となった環境が簡単に変化する時代です。今の環境を前提に正しい中期計画を作っても、半年後にはそれが正しくないかもしれません。それなら、外部環境の変化に対応するために、「こうしなければならない」と考えて、“正解っぽい”中期計画をつくるよりも、組合員の顔、職員の顔を思い描いたうえで、役員として「こうしたい」という「想い」を優先したほうが気持ちのこもった良い中期計画になるのではないでしょうか?

 私は、中期計画策定には、役員の「想い」が何よりも大切だと考えています。役員自身のゆるぎない決意・やると決めたことはやりきる覚悟に裏打ちされた中期計画が、役員自身・職員・組合員を突き動かすのです。