1.日 時  令和4年3月9日(水)13時30分~16時50分
2.場 所 ズーム(オンライン)・録画方式による
3.参加者   主にJA役職員
4.日 程  

時 間内 容
1330(司会) 東京農業大学 名誉教授 白石 正彦
1330分~1335(開会挨拶) 新世紀JA研究会代表  JA菊池(熊本県)  代表理事組合長  三角 修
1335分~1340「解 題」 新世紀JA研究会 常任幹事 福間 莞爾
1340分~1420会計士監査の結果と今後の留意事項について~その1 みのり監査法人 理事長 大森 一幸 氏
1420分~1430質疑
1430分~1510  会計士監査の結果と今後の留意事項について~その2 有限責任監査法人 トーマツ JA支援事業ユニット パートナー  高山 大輔 氏
1510分~1520質疑
1520分~1530休 憩
1530分~16会計士監査を受けて~気づきと対策その1 JA水郷つくば 代表理事組合長  池田 正 氏 常勤監事  根食 勝雄 氏
16時~1630「会計士監査を受けて~気づきと対策その2  JA東京中央  総務部 経営企画課長 荒川 博孝 氏
1630分~1640質疑
1640分~1650総合質疑
1650閉会

ZOOM 編集動画

「会計士監査の結果と今後の留意事項について~その1」 みのり監査法人理事長 大森一幸

JA等系統監査の振返りと今後の展望

2019(令和元)年度決算より会計士監査が義務付けられることになり、令和3年度で3回目を迎えております。この間、未曽有の新型コロナ禍も乗り越え、公認会計士等監査「移行期」が終了し、今後はこれまでの経験を活かした「第2フェーズ」に入っていくものと考えています。

今回、

1.これまでの監査はどのような状況で推移し、何が課題だったのか

2.みのり監査法人は、3年の経験も踏まえ、また、独自の特徴を生かし、全体観として、今後どのような方向性を目指すのか、個別監査先にはどのような工夫ができるのかを整理しておきたいと思います。

1.これまでの振返り

移行当初は「円滑な制度移行」と「監査を要請される組織に必ず監査業務をお届けする(いわゆる監査難民を出さない)」が必達目標でした。このため、監査機構時代の県監査部の監査に従事していた方を中心に監査チームを組成し、かつ、それまでの業務経験や人的関係を活かし、段差のないスムーズな移行を効率的に進めることができました。遠隔地の監査先であっても、必ず監査を受けていただけるように創意工夫を行い、全ての系統組織に監査業務をお届けすることができました。また、監査報酬の負担も、種々の工夫をすることにより、ご理解いただける範囲で初年度のスタートを切ることができました。2年目に入り、新型コロナ禍という未経験の状況に遭遇しましたが、監査先のご理解ご協力を得て、テレワークや、監査手続きの実施時期や内容の見直しで乗り切ることができました。 ここで学んだ、業務効率化、出張移動の削減のノウハウは今後とも活かしていき、監査工数、監査コストの削減につなげたいと考えております。

また、県域間での人員態勢や内部統制の状況等に多くの差異があり、個別に対応が必要だったことも多く経験しました。さらに、不祥事が少なからず発生し、その個別対応に相当の時間を取られたことなどが、今後の課題として認識しています。

2.今後の取組方針

(1)デジタル時代に備える

新しいデジタル時代の到来に備え、デジタルを用いた監査業務の効率化、均質化を図ってまいります。監査先のデジタル化の進展による内部統制の変化にも対応できる監査を提供してまいります。効率化だけではなく、新しい環境下、デジタル時代にどのような不祥事の可能性をケースとして想定し、今後3年間でそれに監査対応できる人材を育成し、デジタル化人材比率を上げてまいります。その経験者は将来的には、系統組織に帰任された場合、デジタルを活用した管理・監査の経験ある担当者として、系統組織で内部統制や情報管理の担い手になることも期待できると考えています。

(2)不祥事対応の強化

系統組織の不祥事の経験を蓄積し、監査での絞り込みや、不正発見のための手続き、あるいは防止の観点からの手続きを実施してまいります。このために、不祥事対応室を創設し、全国の不祥事の一元的な管理、特徴の抽出、防止のためには何が必要かをご提供してまいりたいと考えております。

(3)監査業務の標準化と国際的な監査基準への対応

多くのJAを監査先としていることから、さらに標準化を推進し、監査効率を上げていくことを目指しています。来年以降、新しい国際的な監査の枠組みが始まりますが、海外メンバーファームに属していないみのり監査法人は、監査時間の増加を抑え、独自の「身の丈」に合う監査を提供していくことを目指しております。いわば、「海外高級車」ではなく、「国産普及車」のような監査業務をご提供し、基本性能は高いがコストはリーゾナブルなところを目指してまいります。

(4)監査現場でのアドバイス機能を発揮する

監査の過程で把握できた、「改善提案事項」を監査先のお伝えしていくための経験の蓄積と、関係者の英知を活かしていきたいと考えております。監査法人が監査先に提供できる業務は法令上の禁止業務が数多く規定されておりますが、そのなかで、みのり監査法人は、法令を遵守した上で、監査経験を業務改善につなげていただけるような伝達力を上げてまいります。

国内監査に特化した監査法人ではありますが、それを強みに変えて、監査業務を提供してまいります。

以上

「会計士監査の結果と今後の留意事項について~その2」 有限責任監査法人トーマツ JA支援事業ユニット パートナー高山大輔

公認会計士監査をどのように経営に役立てるのか

この10年間を振り返ると、系統外の監査法人に所属している私から見て、農協に求められた規制対応は大きく3つあったと思います。1つは三者要請検査です。主に資産査定管理態勢と事務リスク管理態勢(不祥事防止)が取り上げられました。2つ目は公認会計士監査の導入です。経済事業の内部統制の高度化など管理面での改善がなされたと思います。そして3つ目、今まさに検討されているのはJA版早期警戒制度への対応ではないでしょうか。

こういった規制対応は個々バラバラに対応するのではなく、根底には対応にあたっての共通項があるように思います。それは農協自身の自立と自我の確立です。つまり、自身で状況を判断し、打ち手を考え実行し、そして結果を振り返り改善する、いわゆるPDCAサイクルがより強力に求められています。このような意味において、従来のような、検査・監査の指摘を受け身で対応することは非常にもったいなく、非効率な状態と考えます。特に公認会計士監査は検査ではなく監査ですので、「いかに経営に役立つような受監をするか」、が大事です。経営に役立つ公認会計士監査の実現は公認会計士側の努力はもちろんのこと、農協側のご協力も必要です。ここでは、そのポイントをいくつかご紹介していきたいと思います。

令和4年3月期決算監査は農協への公認会計士監査導入から3回目の期末監査となり、だいぶ月日が経ちました。いまいちど公認会計士監査の概要を知るには、農水省が平成31年2月に公表している「公認会計士監査の着眼点とそれへの対応について」がよくまとまっています。以下ではその記載内容からテーマを抜粋し、解説していきます。(囲みは「公認会計士監査の着眼点とそれへの対応について」からの引用です)

(1)役員ディスカッション

会計監査人は、適切かつ効率的な監査の実施に向け、一般的に、組合の役員とのディスカッションにより、組合の経営方針や取り巻く環境・リスクなどの把握に努めるため、役員は、こうしたディスカッションに応じることが必要になります。

よくあるご質問:公認会計士は役員に対して何を問うてくるのか。何を準備すればいいのか。

会計監査人とのディスカッションのために、経営上の課題やリスクをわざわざ整理することは効率的ではありません。普段感じ、対応されている課題とリスクについてありのままをお話できることが重要です。日常的なリスク評価と対応は、経営高度化にも役立つものと考えられます。これは各規制対応における役員面談の練習にもなるでしょう。会計監査人とのディスカッションを通じて、リスク評価と対応の高度化を図ることが有用です。

(2)内部統制の統一・集約

同一の業務であれば同一の一部署に担当を集約することにより、監査対象となる取引件数や監査対象拠点の数を縮減でき、監査時間が減少する可能性があります。

よくあるご質問:内部統制の統一・集約はなぜ監査工数の削減になるのか。統一・集約はどのように進めるべきものか。

公認会計士監査の監査工数削減の典型論点として、公認会計士監査導入当時から有名なテーマです。ただこれは、「公認会計士監査のため」と掲げても、忙しい現場は業務改善になかなか協力してくれないのが実情です。「異動時に引継ぎが楽」「本店からの事務指導効果向上」「内部監査の効果向上」「事務集約による業務改善」といった前向きな大義を掲げるのがポイントです。また、最近では現場レベルでのデジタルツール導入が進んでおり、事務の削減はより重要度を増しています。(ツールを入れたのに事務を削減しなければ意味がない)この取り組みは本店職員に丸投げではなかなか前に進むものではありません。役員からの継続的な号令が重要になります。

(3)資産査定

債務者概況表について、債務者区分の判定の根拠などに関する記載が明確なものとなっていない場合、判定の根拠などについて会計監査人が追加の検討を要し、監査時間が増加する可能性があります。組合も債務者概況表の修正に時間がかかります。

よくあるご質問:資産査定に関して役員の関与はどのように考えればいいのか。

会計監査人は主として貸倒引当金の過不足の確認を監査する傾向があると考えます。換言すると公認会計士監査をクリアすれば資産査定管理態勢が満点というわけではありません。貸倒事案に関する原因追求と次回の与信にいかに活かすかといったPDCAサイクルの構築を指示するなど、経営に役立つ管理態勢を意識することが重要です。これは結果として、三者要請検査対応や常例検査対応にもつながります。

(4)システム関連

システム導入によるコスト削減効果(業務の合理化+監査時間の短縮)について、当該システムを先行して導入した組合への取材や会計監査人への相談等を通じて、より実践的な数字を見積もることが重要です。その見積りと現在の手作業による場合のコストを慎重に比較し、費用対効果を検討します。 また、他の組合との連携により、同一システムの導入やその運用管理の一本化ができれば、費用対効果を向上させることが可能となります。

よくあるご質問:システム導入にあたっての監査対応上の留意点はなにか。

導入したシステムが決算書の作成に重要な役割を果たす場合、IT監査の対象となる場合があります。導入効果の検討にあたっては会計監査人と事前協議し、IT監査が必要となる場合には、IT統制の不足がないかの検討もあわせて必要になります。

また、昨今ではシステム導入の他、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)の導入事例も増えてきています。・システムの導入は購入費用の他、保守運用費用、上記のようなIT監査対応なども含めてコストがかかります。初年度だけでなく次年度以降の運用コストの低減も視野に入れたシステム導入を行うことも重要となります。

今回ご紹介したテーマは全体のごく一部ではありますが、いずれも公認会計士監査の過程で出てくるものです。そのため、各場面では会計監査人とも連携し、是非、公認会計士監査を経営に役立ていただきたいです。また、公認会計士監査の過程で理解が進まないことがある場合には会計監査人に理解できるまで説明をしてもらうとともに、監査とは別の角度、経営の目線ではどうかという相談をしてみることも有用です。

最後に、経営の基礎となる3階層のPDCAサイクルイメージ図を掲載します。本事例は「リスク管理」を題材としていますが、「不祥事防止」「収支改善」「DX推進」といったあらゆるテーマに応用が可能です。公認会計士監査において改善しようと決めた事項が、永続的に組合内で維持され続けるにはこのPDCAサイクルが必要です。また、各規制対応の根底にある共通事項でもあります。是非、公認会計士監査の経営への活用と合わせて参考にしていただけると幸いです。

公認会計士監査の着眼点とそれへの対応について平成31年2月農林水産省経営局協同組織課

「会計士監査を受けて~気づきと対策その1」 JA水郷つくば代表理事組合長 池田正、常勤監事 根食勝雄

JA水郷つくば管内紹介ビデオ

監査機構監査と会計監査人監査の相違点 監査部長 高橋 英夫

〇あまり変更が無いような点

・期中監査Ⅰ…準備資料、支店事業所への往査、事務手続きに沿った事務処理の検証(WT、担当者・管理者等へのヒアリング)。

・期中監査Ⅱ…準備資料、内部統制を中心にした監査、各支店事業所を含めた会計処理の検証(数字の算出根拠、担当者・役席者の内部牽制の検証)。

・期中監査Ⅲ…準備資料、資産自己査定監査、本店を含めた各支店事業所の資産自己査定の内容検証。

・期末監査…準備資料、決算内容・業務報告書の内容検証。
※ ただし、事務手続きや内部統制の運用状況の監査等については、会計監査移行後から年々とより詳細な部分まで検証されるようになって来ていると感じられます。

〇監査機構監査と会計監査人監査の相違点

・会計監査のため、業務監査・指導監査に該当する内容が無い。先ず一番の相違点は、会計監査のため、以前の監査機構監査のように業務監査や指導監査に該当するような内容が無いことだと思います。

監査機構監査(中央会)の時は、農協側の事務担当者が会計処理や計算作業の結果として算出した数字に齟齬や相違が生じている場合は、その事について計算過程等の説明を含めた指導的な対応がありましたが(監査担当者によって違いが有るかもしれませんが)、会計監査では算出した数字が正しいか否かの作業だけに特化していると感じられます。その結果、監査時にはより正確な数字の提出(提示)が求められるようになったと理解しています。

そのため、より正確な数字の提示のためには、
  ・各業務担当者の知識や事務処理精度の向上
  ・各事務手続きに基づいた正確な事務処理の積み上げ
  ・正確な財務諸表作成のための専門知識の取得と実践
  ・適正な人員配置と人材育成
などが必要な取組事項になると考えられます。

特に、総務部門ではより正確な財務諸表作成のための専門知識が必要とされるので、前述の項目は全てにおいて重要な取組事項だと思います。ですが、県常例検査等では、人事ローテーションについて金融4年、その他5年と示されていますので、(個人的な考えになってしまいますが)総務部門に関してはより専門的な知識の醸成のために、5年の縛りは除外しても良いのではないかと感じています。又、5年の異動の実態は、より正確な数字の提出(提示)に逆行しかねない、例えば慣れない担当者の計算ミスの発生に繋がる状況のように思われます。

このことについては、今後は組合長をはじめとした経営者側で、是非とも検討して頂きたい内容だと思います。   

・期中監査での指摘事項が無い
監査機構監査におきましては、各事業の農協全体の事務処理や会計処理全般に対して何らかの不備が見受けられた場合に監査指摘事項が示されて、それについて該当部署から回答書の提出等で指摘事項についての改善検証や今後の改善に繋がっていましたが、会計監査では監査気付き事項の説明はありますが、今のところ指摘事項が示された事は有りません。

指摘事項が示されるのはまずい事ですが、各監査項目での気付き事項については、次回監査時に改善状況の検証が実施されるか、又は監査室で改善状況の報告書を提出しています。

これについて私達の内部の話しになってしまいますが、現状では気付き事項を受けた該当部署の改善状況検証に監査室がワンクッション入る状況のため、以前の監査機構監査指摘のように、指摘を受けた該当部署が監査室経由で直接に改善回答書を提出した方が、自分達の指摘事項に対して真摯に改善に取り組む状況だったように感じられます。

このことについて、各業務の不備事項の指摘やその改善状況の検証については内部監査の業務範囲であり、会計監査人監査に移行する前から、業務監査の範疇は内部監査と監事監査がカバーすると説明を受けていましたので、今更ですが、監査室と各業務担当部署の意識改革が必要だと感じています。

又、前述した業務監査、指導監査に該当する内容がないことへの対処にも繋がりますが、会計監査人監査時の正確な数字の提示のためには、内部監査業務として各業務の日頃の内部統制の遵守状況の検証が重要な作業だと痛感しています。

そのためには、内部監査担当部署としても

・各業務の知識や事務手続きの理解度の向上
・各事務手続きに基づいた正確な事務処理の積み上げの検証
・正確な財務諸表作成のための専門知識の取得と実践
・適正な人員配置と人材育成
 などが必要な取組事項になると考えられます。

特に、内部統制関連の検証については、年度の会計監査人の期中監査が実施される前には、監査室で各業務についての検証作業を実施しなくてはならないと考えていますが、そこまでには至っていないのが現状です。

・監査概要報告書について

期中監査終了後の監査概要報告書については、監事会及び理事会で「財務諸表に影響を及ぼすような変更や重大な指摘事項はない」として協議事項としていますが(もちろん、重大な指摘事項があってはならないが)、監事会で協議した際に、「何の項目をどの様に監査した結果なのかが非常に分かりづらい」との意見がありました。

これについては、前述のとおり監査指摘が無いので、監査概要報告書も「期中監査を実施しました」との報告書となっており、それがかえって簡単すぎる報告書だとの印象になっているのかもしれません。

又、令和3年度の各期中監査においては、監査会場に非常勤監事の立会いをお願いしなかった事も拍車をかけていると思われます(監査機構監査の際は、監査日程のとおり立会いを依頼していました)。もっと会計監査人と対話が出来る機会を設けて欲しいとの意見があります。

このことについては、前段の「期中監査で指摘事項が無い」ことへの今後の対処と同じように、これからは受け手側として監事会の意識改革も必要なのではないかと思われます。

前述したとおり、会計監査人監査は数字の監査なので、これまで以上に監事監査で業務監査をカバーすることによって各業務の遂行状況を検証することが求められていると思います。

・監査報酬額について(※令和3年度日程)
  監査計画時間
   期中監査Ⅰ(7/13~7/21) XXX時間
   期中監査Ⅱ(11/15~11/19)XXX時間
   期中監査Ⅲ(1/11~1/14) XXX時間
   期末監査Ⅰ(1/31)    XXX時間
   期末監査Ⅱ(3/14~3/19) XXX時間
   監査法人事務所      XXX時間   合計XXXX時間

 監査報酬額
  監査計画時間(①) XXXX時間
  計画時間単価(②) YY,YYYY円
  監査報酬額(③=①×②) ZZ,ZZZ,ZZZ円

以上

会計監査人監査への移行における営農経済部門(現場)からの実感と考察 営農部副部長 酒井洋幸

1.明確に変わったと感じる点

① 事務手続書への準拠ばかりを検証する

まず、何よりも感じるのが「事務手続書」に従って事務処理を行っているかどうか、「内部統制機能」が正常に働いているかどうか、という点を最重要目線として検証される所です。

当然ですが、合併以前の監査機構監査の時代は、現在、策定されているような事業ごとの「事務手続書」や「内部統制フロー」は整備されておらず、合併後、相当の時間を要しながら策定してきた経過があります。

営農経済事業関係は、地区本部制をとってきた経過もあり、「事務手続書」が煩雑化しているのも事実で、統一が容易ではなく、監査時の時間を要する原因にもなっておりますが、指摘や指導をされ、未だ修正を加えながら改善を図っている事業(例えば直売所関係)もあり、微細な業務(指導事業、利用事業、その他事業等)までの全てを整備できてはおりません。

② 狭い範囲を集中的に検証する

会計監査人監査へ移行後、上述のような「事務手続書」をもとに、重ねて実査を受けてきましたが、期中~期末の実査日だけでなく、事前にも会計取引データを抽出され、これに関連する処理伝票や証拠書類を資料として提出を求められますが、移行以前と比べて対応量が膨大化しているのが事実です。

これは、会計監査という目線から監査されるためだと推察しますが、例えば、米の買取事業において、ある会計取引を抽出し、これに関するエビデンスを示せと言われた場合、総合情報上でも会計システム側と米穀システム側では取引データの在り方(性質)が違い、1件の会計取引データに対し、100件1,000件の米穀実務データ(例えば、農産物検査や入出庫等)があったりします。更に、その実務データに対する伝票類は、本店1か所にあるわけではなく、各事業所の現場に保管されている場合が多いのですが、このようなケースでも、全てを用意し細部まで検証されるように感じます。

ひとことで「抽出」による検証と言っても、検証の仕方(目線)が、会計監査でるため、このような手法となるのだと感じます。

③ 主要な事業の全体まで網羅されない

「抽出」という点は、実際に監査対象とされる事業(業務)にも同様な点を感じます。それは、会計上あるいは経営管理上、リスクの高い(多い)事業(業務)を集中的に検証し、逆にリスクの低い事業(業務)は全く見られない(見られていたとしても、現場では全く実感がない)という点です。

実際、リスクが高いとされる買取を行っている事業(特に、米穀、購買、直売所等)の買入処理、売渡処理、在庫棚卸、回転期間等を重点的に検証されている一方で、取扱高で見れば最大の市場出荷(系統委託販売)などは、現場で往査対応する機会は非常に少なくなりました。

2.現場として監査に期待するところ

ご存じのように、営農経済部門は非常に事業種目が多岐にわたっており、取扱高に大小に限らず、JAとして地域・組合員に果たすべき役割として行っている事業や性質も多々あり、もっと言えば、地域性や営農面の歴史の上に担っているような業務まであります。

それゆえに、無機質で画一的な「事務手続書」を、JAが「内部統制」目線からだけで地域・組合員に押し付けるような在り方は、本来、JAが地域から期待されるコンプライアンスではないかも知れません。

 会計監査人監査へ移行後、このような業務上の手法等で判断に迷う場面に対して、大局的で多面広角からの目線で、営農経済部門の各種事業の在り方や改善方策等を、いわゆる「業務指導的監査」として外部から指導してもらえる機会が無くなった点は非常に残念に感じます。

3.これからのJAに求められる姿について

これからのJAの営農経済部門においては、監査対応というよりも、各事業の適確な運営管理(ガバナンス面)、更に、場所別部門別の事業採算性の進捗管理(月次仮決算の精度)を相当向上させる必要があると感じています。

そのためには、何よりも簿記会計(事務)の知識・技能を上席管理者からパート担当者まで全員がスキルアップしなければなりません。しかし、単に事務処理を正確に行えれば良いという訳でなく、どのように業務を組み立てれば、その事務処理が適確に運用できるかを、立案・指導できる人材が必要不可欠なのです。

営農経済事業は、モノ(商材)を動かす取扱高の数だけ事務処理の件数があり、これをいかに高い精度で効率的に運営できるかは、おおげさに言えば、JA組織の社会的評価そのものと言えるでしょう。

よって、この面に関して総務部門や監査部門と一層の連携体制を構築する必要があると感じますし、営農経済部門においても、経理面を専門とする管理者の位置づけが必要ではないかと思慮します。

以上

          

JA茨城県中央会と会員JAとの覚書き(資料提供) JA中央会改革支援部長 石井 昭

○JA茨城県中央会

第1条(目的) この会は、地域農業の振興、農業協同組合運動の発展及び会員の健全な発達に貢献し、もってその組合員の経済状態の改善及び社会的地位の向上に寄与することを目的とする。

第7条(事業) この会は、その目的を達成するため、次の事業を行う。
 (1) 会員の組織、事業及び経営に関する相談に応ずること
 (2) 会員の求めに応じて監査を行うこと
 (3) 会員の意見を代表すること
 (4) 会員相互間の総合調整を行うこと
 (5) 前各号の事業に附帯する事業

○JAにおける経営の健全性、透明性および持続可能性の確保にかかる取り組み(以下、「JAの経営の健全性等の確保にかかる取り組み」という)

県中央会からの日常的な支援については、県内の会員17JAが承認する県中央会の事業計画において明記しており、実務的には会員JAから県中央会に相談や支援依頼をいただいて、県中央会が支援をしています。

例えば、今回のセミナーテーマである会計士監査移行後の業務監査の範疇は内部監査や監事監査がカバーするものですが、内部監査や監事監査をどのように行っていくかは県中央会からツールや情報の提供や助言、意見交換をさせていただいています。

会計士監査で重要視される内部統制に関しても、JA全体の内部統制や業務の内部統制の構築・運用・評価・改善支援をさせていただいています。

また、営農部からのお話にある、大局的で多角広角からの目線での営農指導部門の各種事業の在り方や改善方策等の支援や、営農経済部門の成長・効率化についても、なかなかご要望に添えていないところもあるかもしれませんが、会員の事業及び経営に関する相談機能として、連合会と連携しながら支援をさせていただいています。

そのような形で業務監査や会計士監査への対応に関して直接的または間接的に補完をしています。

○茨城県の17JAはJA茨城県中央会と不祥事も含めた対策・支援を目的として、覚書を締結しています。

日常的な支援や経営悪化の場合の経営改善の支援は、時間的な余裕がある中でJAからの相談や支援依頼の連絡がありますのでわかりやすいです。

しかし、緊急時の支援、特に不祥事発生時の緊急時は適切かつ迅速な支援をしていかなければならず、この対応を担保するため、県中央会と県内の各JAとの間で覚書を締結しています。

この覚書では、

・JAはJA全中が運用する「JAの経営の健全性等の確保にかかる取り組み」について会員の行動規範等の関連規程を実践する。

・その実践にあたって、JAは必要に応じ、県中央会に対し「JAの経営の健全性等の確保にかかる取り組み」に関する支援を要請する。なお、JAの不祥事件が発生した場合または発生する懸念がある場合は、県中央会はJAの役職員等からの情報提供をもって支援要請があったものとみなして支援する。

ということを約束しています。

『JAの経営健全性等の確保の取り組み』は一般社団法人 JA全中の『定款』『会員の行動規範』等の関係規程に基づき運用されていますが、これらの関係規程は主にJA全中と会員JAに関することが定められています。

このため、覚書では、日常的な支援や経営悪化の場合の経営改善の支援はJAからの要請に応じて県中央会が支援することを明記するとともに、不祥事発生時の緊急時に適切かつ迅速な支援をすることができるようにしています。

この覚書はJA茨城県中央会独自の取組みです。

以 上

「会計士監査を受けて~気づきと対策その2」 JA東京中央総務部経営企画課長 荒川博孝

会計監査人監査を受けての気付き事項や今後取り組むべきことについて決算担当者目線でご報告いたします。

1.当組合の紹介

当組合の財務諸表は信用事業が中心であり、事業総利益の71%を占めています。さらに共済事業が16%、宅地等供給事業が12%であり、それらで99%を占めます。このことからおのずと当組合の監査領域が見えてきます。なお当組合の会計監査人は有限責任監査法人トーマツを選任しております。

信用事業の運営では農林中金からの奨励金利回り低下のアナウンスを受け、預金から有価証券へ可能な限りシフトしています。貯貸率と貯証率の合計を50%以上とする目線にて運用を行い、その資金を総合事業運営の源泉としております。

2.決算担当部署の心構え

決算担当部署に必要な心構えは、財務諸表に関する二重責任の原則や独立監査人の監査報告書に記載されている「計算書類等に対する経営者及び監事の責任」から読み取ることができます。

そこには財務諸表の作成責任は経営者にあることが明記されております。実務では、組織内の業務分掌により決算担当部署が規定されています。そのことから決算担当者は経営者が負う責任の一端を担っているとの認識が不可欠であり、経営者と同様に内部統制システムに対する高い意識を保持する必要があります。

3.会計監査人移行前と移行後の意識転換

会計監査人監査以前は中央会に依存した業務運営でした。例えば、会計上の不明な点や参考資料や情報が必要な場合は、中央会に電話して入手していました。会計監査人監査以後は、不明な点は組織内で答えを出し、参考資料や情報は公認会計士協会ホームページや監査法人主催のセミナーで入手するように変化しました。意識の転換のきっかけは、会計監査人監査への移行準備で行った内部統制の文書化でした。

内部統制の文書化は全中の進めるプログラムに準じて進めてまいりましたが、目的が掴み切れず形骸化してしまいました。そのため、改めての作業となるところでしたが、信用事業や共済事業については、上部団体より内部統制支援ルールを提供いただき短時間での対応が可能となりました。しかしながら見積会計については中央会のアドバイスを受けながらも自力での整備となりました。

4.内部統制文書化の効用

まずは、決算業務に関する資料を棚卸しました。全中が発行している計算書類等作成の手引きや中央会作成のマニュアル及び当組合独自のマニュアルが集められました。これらを会計基準や適用指針と精査すると、以下のことが判明しました。

① 全中や中央会の資料はポイントを絞りわかりやすく、かつ網羅的に作成されています。しかしながら答えを出すことは可能であっても、会計基準等自体を理解していないと応用が利かないことが判明しました。

② 独自のマニュアルは、内情に合わせて作成されており、こちらも答えを出すことは可能であっても応用の利かないものでした。また、会計基準等と精査すると根拠のない慣習やテクニック頼りの部分もあり、とても理路整然と監査人に説明できる内容が記載されているものではありませんでした。

そこで、徹底して会計基準等と照らし合わせ原理原則と中心としつつも、実際のイメージが把握できるような文書にまとめました。この作業が私たちの部署が自立できるきっかけでした。

5.内部統制文書の効用

① 俗人的判断が排除できる(させる)②引継ぎに活用できる③監査論点の事前整理ができる(監査人との目線合わせ)④会計基準と実務の関係性が理解できる

①、②については、見積会計は答えがひとつではないため、組織として非常に重要です。③、④は監査人とのコミュニケーションやOJTに有効です。

そのため内部統制文書は中長期的に効果が発揮できるものです。

6.今後求められる決算担当部署の役割

今般の経営では、短期間での意思決定が多くなっております。その中で決算担当部署には守りと攻めの役割があります。守りの役割としては、「正確で迅速な決算業務」・「決算結果の明瞭な説明」であり、攻めの役割としては、「投資判断」・「業績管理(月次決算の早期化)」が求められております。特に攻めの役割については、重要性が増していると考えております。

7.決算担当部署の人材育成

安定した体制を整備するために長期的視野での人材育成が肝要です。先ほどの守りと攻めに当てはめると《図表1》となります。

《図表1》

特に「2.説明能力の向上」は、守りと攻めの双方で重要であり、その相手方(監査人、経営層、幹部職員、一般職員、組合員、検査員)の目線を知ることがポイントです。そのため、相手方が必要な情報(何を知りたいか)を見極める力を身につけなければなりません。

8.当組合の決算担当部署

当組合では総務部に経営企画課を設置し、課内で企画業務と決算業務を行っております。いわば経営の入口と出口を内包しており、出口まで整理した新規企画を少ない労力で行うことが可能であり、意思決定の短期化に役立つものと考えております。しかしながら、実務上はまだまだ未熟な部分があるとともに、俗人的な企画業務になってしまう危険性もあります。そのため、前半で述べた内部統制システムに対する高い意識が必要となります。

最後になりますが、会計を武器として経営層を支える人材の育成が今後のJAの発展、すなわち農業振興に寄与するとともに、結果として地域社会に貢献できるものと考えております。

以上