新総合JAビジョン確立・経営危機に備える題別セミナー(第46回) 

―食料・農業・農村基本法改正の中間報告について― 新世紀JA研究会

1.日 時  令和5622日(木) 1330分~17

2.場 所 エッサム神田ホール1号館 6階 602会議室(受け付けは13時より)

〒101-0047東京都千代田区内神田3-24-5

 JR神田駅 東口・北口・西口 徒歩2

TEL 03-3254-8787 FAX 03-3254-8808 https://www.essam.co.jp/hall/access/ 

●実参加とズーム(オンライン)・録画方式の併用

3.参加者  主にJA役職員      

4.日 程   

時 間内 容
1330(司会) 東京農業大学 名誉教授 白石 正彦
13時30分~13時35分   (開会挨拶) 新世紀JA研究会代表  JA菊池(熊本県)  代表理事組合長  三角 修
1335分~1340「解 題」 新世紀JA研究会 常任幹事 福間 莞爾
1340分~1425「基本法改正の中間報告について」 農林水産省 大臣官房政策課 企画官 加藤 史彬 氏(実参加)
1425分~1435質疑
1435分~155基本法改正にかかる政策要請~その1 JA全中 農政部次長 加藤 純 氏(実参加)
155分~1515質疑
1515分~1525休憩
1525分~1555「基本法改正にかかる政策要請~その2」 公益社団法人日本農業法人協会  専務理事 紺野 和成 氏(実参加)
1555分~165質疑
165分~1635「基本法改正にかかる論評」 東京大学大学院教授 鈴木 宣弘 氏(実参加)
1635分~1645質疑
1645分~1655総合質疑
17閉会

5.セミナーの運営  

実参加およびズーム(オンライン)・録画方式により行います。

テーマの趣旨
 政府は、「食料・農業・農村基本法」の見直し・改正に向けて、6月中にも中間報告を取りまとめる予定です。焦点は、①食料の安定供給の確保に向けた構造転換、②生産資材の確保・安定供給、③適正な価格形成、④多様な農業人材の育成・確保などで、諸情勢を踏まえた平時からの食料安全保障を重視する内容になることが想定されています。 これまで、「農業基本法」、「食料・農業・農村基本法」によって農業政策が展開されてきていますが、肝心の農業生産の担い手不足は深刻度を増しており、JAグループではとくに農業生産の分野で何ができるかが問われています。中間報告を踏まえ、今後の農業政策のあり方について考えます。

録画

「基本法改正の中間報告について」 農林水産省 大臣官房政策課 企画官 加藤 史彬 氏

講演資料

「基本法改正にかかる政策要請~その1」 JA全中 農政部次長 加藤 純 氏

講演要旨

基本法改正にかかる政策要請-JAグループの取り組み-

全国農業協同組合中央会

農政部次長 加藤 純

 JAグループでは、これまで様々な農政課題に対して、政策提案などの要請書をとりまとめ、政府などに働きかけを行ってきました。

今回の基本法改正にあたり、各県からは、組織討議期間が短く、現場から十分意見が聞けていないなどの声を受け、昨年から今年にかけて2回に分けて、組織討議を行ってきました。各県においても、コロナ禍のなか、Web併用で説明会を実施するなど、創意工夫しながら、意見をいただきました。

全県から意見をいただき、5月に決定したJAグループの政策提案のポイントは、6つあります。

一つ目は、「平時を含む食料安全保障の強化」です。マスクは、新型コロナウイルスが発生した当時、皆さん買うのに大変苦労されたと思いますが、マスクは工業製品であり、半年もすると店頭にマスクは並んでいます。一方で、米は収穫までに1年、肉牛は出荷までに3年超かかります。農畜産物は自然を相手にしているほか、生産に時間がかかり、安定生産が難しいものです。こうした観点から、基本法改正にあたり、「平時を含む食料安全保障の強化」が最重点に、輸入から国産への切り替えなど、国内生産を増やしていくことを提起しています。

二つ目は、フードバンクや子ども食堂への支援など、「新たな食料支援策」を講じることです。食料安全保障の観点を考えると、学校給食や公共調達の国産化や移動購買車への支援なども必要です。

三つ目は、「再生産に配慮した適正な価格形成の仕組みの具体化」です。組織討議で一番意見・要望が多かった内容になります。生産資材価格の高騰は生産現場の経営に大きな影響を与えています。現行基本法の「合理的な価格」については、「農業の再生産に配慮した適正な価格」とすることを提起し、適正な価格形成について、生産から消費までの流通過程のなかで、高騰する生産コストを適正に価格転嫁できないかと考えています。農水省においても、畜産・酪農の適正な価格形成に向けた環境整備推進会議が開かれるなど、具体化に向けた議論がスタートしていますが、生産者・JA、加工事業者(メーカー)、卸売業者、小売業者、消費者が相互に理解しながら、検討していくことが重要です。

四つ目は、「多様な経営体の位置づけ」です。農水省の基本法検証部会では、各委員から様々な意見が出されましたが、JAグループとしては、農地の受け皿となる経営体を育成するとともに、地域計画に位置付けられた「中小・家族経営」などの多様な経営体を基本法に位置づけるべきと考えています。

五つ目は、「環境負荷低減の取り組み推進」です。みどりの食料システム戦略が策定されましたが、国際的にも環境への配慮が必要となっています。温室効果ガスの見える化など、農業者・事業者・消費者それぞれにおいて、環境負荷軽減に向けた取り組みを促進する旨基本法に位置付けることを提起しています。

六つ目は、「JAなどの農業団体の役割」です。JAグループは、わが国の食料・農業・農村振興に大きな役割を果たしています。こうした役割を基本法に位置付け、地方公共団体や関係団体との連携をさらに強化する施策が必要です。

こうしたポイントをもとに、5月12日に全国大会を開催し、政府・与党に働きかけを行った結果、政府・与党のとりまとめには、JAグループの考えは概ね反映された形になっています。

今後、基本法条文や関係施策、次期基本計画の議論などありますが、国民への理解促進が大変重要です。JAグループでは、「国消国産」統一運動として、JAタウンや直売所を通じて、国民理解と行動変容につながる運動を展開していきます。

講演資料

「基本法改正にかかる政策要請~その2」 公益社団法人日本農業法人協会  専務理事 紺野 和成 氏

講演要旨

「食料・農業・農村基本法」の見直しに対する意見について

公益社団法人日本農業法人協会

 専務理事 紺野和成

日本農業法人協会では、この度の基本法見直しに対する意見を、今年3月の農林水産大臣への政策提言と同5月の基本法検証部会に提出した意見書で公表した。

【農林水産大臣への政策提言】

同提言の冒頭の記載である。「会員が目指す農業経営の姿は、不合理な規制を排除し、農業経営の自由度を向上させ、安全・安心な国産農産物の生産と国民への安定的な食料供給の責めを果たし、我が国経済及び地域社会の発展に貢献する。自己責任と創意工夫で自立した経営を確立し、不断の改革により強靭な経営を続け、日本農業の発展に貢献する。」。経営は自己責任であり、知恵と創意工夫で経営に取組む一方、自助努力では解決困難で経営の自由度を規制する事項や自然災害・被害等は、政治や政策に対処を求めるとの認識を会員間で共有している。

【基本法検証部会に提出した意見書】

同意見書の冒頭の記載である。「現行法の柱として、農業の有する食料の安定供給機能と多面的機能の重要性に鑑み、農業の持続的発展に向け、効率的かつ安定的な農業経営を育成し、これらの農業経営が農業生産の相当部分を担う農業構造を確立させ、経営意欲のある農業者が創意工夫を活かした経営ができるようにすること。」。具体的に次の7つを指摘した。

◆一つは、現行法の政策方針を引き続き踏まえるよう求める。また、人・農地プランの法制化による地域計画の策定では、効率的かつ安定的な農業経営が主体的かつ積極的に関与できる協議の場を求める。農産物の価格転嫁が進まず、生産コストが上昇する中で、効率的かつ安定的な農業経営体の経営を維持する対策の強化を求める。

◆二つは、農地バンクの活用による農地利用の集積・集約化及び農地の区画拡大が重要である。効率的かつ安定的な農業経営のニーズを十分に踏まえて、各種制度等のあり方を徹底して見直し、地域ごとの取組みの格差をなくし全国平準化を図ることを求める。スマート農業の普及には、効率的かつ安定的な農業経営への農地の集積・集約化が必要不可欠であり、資本力や資金調達力を備えないとスマート技術の導入も容易ではない。

◆三つは、食料の安定供給確保には消費者の行動も重要である。現行法第12条「消費者の役割」に、将来にわたる食料の安定供給を考慮した消費行動に務める旨の追加を求める。

◆四つは、食料の安定供給確保には国産農産物の輸出拡大も重要である。輸出拡大を現行法第2条「食料の安定供給の確保」に位置付け、農業者団体や食品事業者には輸出拡大の努力義務の追加を求める。食料安全保障を真剣に考えるならば、消費者にも国産物の消費を意識した消費行動を求める。輸出拡大は国内生産の拡大と連動し、国内の食料供給力が減退しないよう生産力強化が必要である。

◆五つは、農業資材対策に関し、資材費の低減に資する施策だけでなく、資材の安定供給確保に資する施策を講じることを現行法に追加するよう求める。

◆六つは、農業経営安定対策に関し、農産物価格の著しい変動が及ぼす影響を緩和する施策だけでなく、資材価格の変動が及ぼす影響を緩和する施策を講じることの現行法への追加と、配合飼料価格安定制度の仕組みを抜本的に見直す措置を講ずるよう求める。将来にわたり食料の安定供給確保に要する資材確保の対策強化を求める。

◆七つは、農産物価格形成に関し、需給事情及び品質評価を適切に反映するだけでなく、生産コストも適切に反映されるよう現行法への追加を求める。農産物流通過程に於ける流通コストの検証や、生産者と実需者や消費者が直接取引するボリュームを増やすことも必要だ。

以上が、協会が公表した意見である。我が国における農業経営と食料供給力の維持・発展のために、基本法が良い方向に見直されることを願う。

以上

講演資料

「基本法改正にかかる論評」 東京大学大学院教授 鈴木 宣弘 氏