1.日 時  令和469日(木) 1330分~1645

2.場 所 ズーム(オンライン)・録画方式による

3.参加者   主にJA役職員

4.日 程  

時 間内 容
1330(司会) 東京農業大学 名誉教授 白石 正彦
1330分~1335(開会挨拶) 新世紀JA研究会代表  JA菊池(熊本県)  代表理事組合長  三角 修
1335分~1340「解 題」 新世紀JA研究会 常任幹事 福間 莞爾
1340分~1425「農業生産法人の取り組みと課題・JAへの要望等について①」   公益社団法人 日本農業法人協会 常務理事 鈴木 一寛 氏
1425分~1435質疑
1435分~1520  「農業生産法人の取り組みと課題・JAへの要望等について②」 株式会社アイファーム ~人口知能(AI)などを採用した次世代農業で育つブロッコリー 代表取締役  池谷 伸二 氏
1520分~1530質疑
1530分~1540休 憩
1540分~1625JA出資型農業法人の今日的到達点とJAの課題」    JA出資型農業法人の動向 東京大学名誉教授 谷口 信和 氏
16時25分~16時35分     質疑
1635分~1645総合質疑
1645閉会

ZOOM録画の編集動画

「農業生産法人の取り組みと課題・JAへの要望等について①」   公益社団法人 日本農業法人協会 常務理事 鈴木 一寛 氏

報告要旨 日本農業法人協会の活動概要と会員の経営課題などについて

 公益社団法人日本農業法人協会は、「日本で唯一の全国的な農業法人のネットワーク組織」として、平成11年6月28日に設立しました。設立目的は、「わが国農業経営の先駆者たる農業生産法人その他農業を営む法人の経営確立・発展のための調査研究、提案・提言、情報提供などの活動を進めることにより、わが国農業・農村の発展と国民生活の向上に寄与する」ことで、この内容は当協会の定款第3条に明記されています。

 まず、当協会が発足した背景です。平成4年6月、農林水産省が公表した「新しい食料・農業・農村政策の基本方向」(新政策)で、「経営形態の選択肢の拡大の一環として、農業経営の法人化を推進する」ことが盛り込まれ、わが国農業政策で初めて法人化の推進が打ち出されました。これを契機に、日本各地で法人化の機運が高まり、平成10年12月に農水省が取りまとめた「農政改革大綱」で「農業経営の法人化の推進と法人経営の活性化」が農業政策の柱に位置付けられ、翌平成11年7月に成立した「食料・農業・農村基本法」の中に「農業経営の法人化の推進」(第22条)が明記されました。

 この潮流はさらに強まり、令和4年6月1日現在で2,081社の正会員と7組織の賛助会員、161のアグリサポート倶楽部会員で構成する当協会の現在につながっています。

 2020農業法人白書(当協会作成)から抜粋した正会員の概況を見ると、83.8%が株式会社の形態で、74.4%が加工・販売等何らかの多角化経営を実施しています。また、売り上げ規模は1億円以上が51.1%と過半を占め、17.7%は3億円以上を売り上げています。業種は、稲作が30.8%で最も多く、以下、野菜24.2%、果樹7.4%等です。一方、畜産は全体の17.8%で、内訳は養豚5.9%、酪農4.9%、採卵鶏3.2%等となっています。次に、会員の経営規模を見ると、全国平均に比べ稲作は36.2倍の65.2ha、露地野菜は34.3倍の35ha、果樹は20.3倍の14.2ha、施設園芸は9.5倍の22,419.7㎡です。畜産は、肉用牛が全国平均に比べ22.9倍の1,331.4頭、酪農が12.4倍の722.7頭、養豚が2.5倍の607.9頭、採卵鶏が6.5倍の558.5千羽となっています。この結果からも、土地利用型、畜産ともに当協会会員は大規模層が多いことがわかります。

 次に、当協会の主な活動を紹介します。ひとつ目は「調査・政策提言活動」です。会員は、農業経営のリーダーとして、自己責任と創意工夫で自立した経営の確立を目指し不断の改革・改善に努めています。しかしながら、個々の努力では対応しきれない情勢変化等については、しっかり声を上げていきます。このため、農業法人実態調査等を行い、会員の経営実態や経営課題等を把握し、毎年、農業法人白書を作成しています。併せて、これら調査などで収集した会員の意見をまとめ、「日本農業の将来に向けたプロ農業経営者からの提言」として、政府・国会等へ当協会の考えを伝えています。

二つ目の取り組みは「次世代農業サミット」の開催です。これは、研修・教育活動の一環で若手農業者を対象とした研修会です。次世代農業を担う経営者の育成とネットワークづくりを目的に年間2回開催しています。

 三つ目の取り組みは「会員サービス」です。メニューのひとつは、傷害補償制度や食品あんしん制度など、会員限定の各種保険サービスを用意しています。二つ目は情報提供サービスで、柱となるのは毎週木曜日に発行する「Fortis(フォルティス)」です。法人経営に不可欠な法務、税務、労務、販売戦略などの情報を、専門家が週替わりで連載しています。また、当協会からのお知らせ欄では、会議やセミナー等の最新情報をまとめてお届けしています。

 その他のサービスでは、就業体験から円滑な雇用につながるメリットがある農水省の「農業インターンシップ事業」の実施。外国人技能実習生の受入れ支援や、農業分野で必要な知識習得を支援する研修会の開催などを実施しています。また、「Farm Love with ファーマーズ&キッズフェスタ」は、会員がブースを出展し消費者に農業と食の重要性と魅力をPRする物販と交流イベントです。コロナ過で開催が中断していましたが、令和3年度に復活。令和4年度も協賛企業を募って11月の開催を目指しています。

 次は、会員が考える法人経営の課題についてです。2020農業法人白書によると、経営リスクと認識しているのは「生産物価格下落」が最も高く、次いで「天候不順」、「生産コスト上昇」と続きます。一方、リスクへの対策では「対策を立て従業員にも周知」が51.8%で最も高く、「対策を立てているが従業員へは未周知」(18.8%)と合わせると70.6%が何らかの対策を立てていることがわかります。

 会員が抱える経営課題は、「労働力」が最も多くて64.0%。次いで、「資材コスト」46.3%、「生産物価格」35.3%という結果で、人手不足と所得に関する内容が上位を占めました。

一方、稲作は「基盤整備」、野菜は「流通コスト」、果樹は「セーフティーネット」、畜産は「税制」を課題とする割合が高く、業種間での違いも明らかになりました。

 しかし、2020農業法人白書をまとめた時点と現在とでは農業経営をめぐる環境は、コロナ禍に加え、ロシアのウクライナ侵攻などによって大きく変わっています。そこで、当協会は令和4年5月、会員を対象に「コスト高騰緊急アンケート」を実施・公表しました。その結果を見ると、燃油・肥料・飼料価格は前年(1-5月)と比べ、「高騰」又は「値上がり」と回答した割合がいずれも約98%を占め、このうち飼料は「甚大な高騰(+50%以上)」と回答した割合が21.5%と際立つ形になりました。また、対応策では「使用量」や「購入量」を抑えて乗り切る動きがある一方、生産量を維持するため資材を購入せざるを得ず「特に対応していない」(できない)が最多を占めました。販売価格については、コスト高を価格に転嫁できていないと回答した割合が71.3%、価格転嫁できても「一部」に限られる割合(24.8%)も合わせると、実に96.1%の経営体で価格転嫁ができずに苦しい経営を強いられている実態が明らかになりました。価格転嫁ができない理由は「農業者サイドの価格交渉力が弱い」とする声が最も多く寄せられました。

 次に、会員のJA事業の利用状況です。信用事業は、決済のほとんどをJAで行っている反面、資金の借り入れは少ない状況。購買事業は条件が合えば利用するため、TACや全農の働きかけが契機になっています。販売事業は、自ら価格を決めたい法人経営者にとって利用は消極的です。施設関連事業は、利用ニーズがあるものの、一部でJAの販売事業を利用条件としている場合があるとの指摘がありました。

 最後に、JAに対する要望です。①差別化販売商品の開発や販売経費内容の開示、②生産資材の競争力のある価格設定、③施設利用において、柔軟性のある利用料金の設定やCEにおける区分出荷、④地域農業ビジョンへの関与の強化、⑤法人等担い手が増加する中で、農業者が苦手とする労務管理(人材育成:社員教育)や経営コンサルティング等の支援、という意見が寄せられました。

 結びに、JAと農業法人の関係性は地域それぞれです。しかし、いずれも日本の農業・農村の発展には欠かせない存在であるのも事実です。今後もより一層、共存共栄の路を目指していくことが重要だと考えています。

以上

報告資料

「農業生産法人の取り組みと課題・JAへの要望等について②」 株式会社アイファーム ~人口知能(AI)などを採用した次世代農業で育つブロッコリー 代表取締役  池谷 伸二 氏

報告要旨 露地農業での取り組みと今後の目標

報告資料

「JA出資型農業法人の今日的到達点とJAの課題」   ~ JA出資型農業法人の動向 東京大学名誉教授 谷口 信和 氏

報告要旨

JA出資型農業法人の今日的到達点とJAの課題―JA出資型農業法人の動向―

                     

1.自然発生的ではないJA出資型農業法人

 今日のような「JA出資型農業法人」が農地法上の農業生産法人として法認されたのは1993年であった。そして、2009年には一般法人がリース方式で農業参入できるようになったのに合わせて農業協同組合が直接に農業経営できる「JA直営型経営」が法認され、「JAによる農業経営」の二類型がそろうことになった。

JA出資型農業法人(以下では出資型法人と略記)は、①会社型法人であって、a.農協の出資比率が50%以上の主導型法人、b.出資比率が50%未満の参画型会社、②ほとんどが農事組合法人であって出資比率が50%未満の集落営農型法人によって構成され(以上が735法人で大宗を占める)、これに58のJA直営型経営を合わせると2019年末現在で合計793経営が確認されており、2020年センサスで把握された30,707法人の2.58%を占めている。また、判明しているJA出資型農業法人の経営耕地面積は29.3万haに及び、京都府の耕地面積29.9万haに匹敵する水準となっており、JAによる農業経営が日本農業において確かな地位を確保しつつあるといえる。

JAによる農業経営は、一方で経済事業として農業に参入している点では一般の法人農業経営と変わるところがないが、他方ではJAが出資(関与)していることからその活動には「地域性」「協同性」「公共性」といった性格が付与されるところに独自性があるといえる。

そのため、日本農業が直面する「過剰」と「不足」の三つの基本問題―①食用米の恒常的過剰と飼料穀物の恒常的不足、②耕作放棄地の大量存在(農地の過剰)と土地利用型農業における農地の不足、③農産物の過剰(膨大な食品ロスの存在)と国産農産物の不足(食料自給率の異常な低位性)に正面から向き合い、これを打開する取り組みを期待される立場におかれている。
 1993年に第1号の出資型法人が誕生した頃のスローガンは集落の農地の耕作放棄地化を防ぎ、地域農業を守る最後の担い手たらんというものであった。こうしたミッションは後に触れるように日本農業の危機の深化に対応して変化し、それが出資型法人の組織形態上の発展につながるとともに、活動内容の多様化・豊富化・総合化に結実している。

出資型法人の設立は1990年代には現場からの切羽詰まった取り組みに止まっていたが、90年代末からは県中・全中レベルでの振興が本格化するとともに、2005年の基本計画における農業構造の展望で「効率的かつ安定的な経営体」のうちの法人経営の一角に位置づけられることによって農政上の確かな位置を獲得するに至った。

2.JA出資型農業法人の今日的到達点

 2019年12月末現在での、主として出資型法人についての最新の状況を統計的に確認しておこう。

 JAによる農業経営の総数は793だが、実際に出資型法人を設立している総合JA数は266、直営型経営を行っているのは58で重複を除くと266JAであり、総合JA数の45.5%にあたる。これをどうみるかは難しいが、過半のJAがまだ取り組んではいないことを指摘しておきたい。また、主導型法人を設立している186JAのうち160は1法人のみだが、26JAは複数設立している。JA合併によって複数となった場合もあるが、意識的に複数の出資型法人を設立し、多様な地域農業の課題に向き合うようにしている点が注目される。

 出資額は300万円(集落営農型と特例有限会社の影響)、1000万円(旧会社法による株式会社の影響)前後が双峰となるような分布を示すが、5000万円以上に達するものが近年増加している。またJAの出資割合からみると、集落営農型は30%未満に、直営型は90%以上に集中する二極構造となっている。

 事業分野は、集落営農のほぼ全部が水田作(転作を含む)に集中しているが、会社型では水田作(転作を含む)の経営と作業受託が6割以上を占めるが、近年に至るほど作業受託から経営に重点が移るとともに、野菜作(露地・施設)、普通畑作、果樹作、茶園、畜産(肉用牛・酪農・養豚)へと、担い手問題の深刻化に対応して部門が広がっている。とくに、2015年以降は新規就農研修事業に取り組む法人が増えており、会社型の85法人(24.8%)、集落営農型でも14法人(3.6%)が実施しており、有力な事業部門に昇格している。

 作付面積が100haを超えるような大規模経営を実現している法人が水稲14、麦9を始め、露地野菜5、茶3など少なからずあり、日本農業の法人経営と大規模経営において有力な地位を占めつつある。他方で、耕作放棄地の復旧に130法人が取り組み、513.5haの実績を有することや、地域農業の他の経営のリタイアに対応して一挙に大面積の農地引き受けを行った法人は205に及び、その面積は2367.6haに達している(平均11.5ha)など、単なる営利企業の枠を超えた役割を担っている。

 なお、JA本体の経営環境が悪化する中で、出資型法人へのJAからのサポートが制約されるようになっており、出資型法人の経常利益赤字問題がしばしば議論になる。しかし、そこには三つの要因が存在している。第1は、出資型法人は新規設立法人のため、設立当初のファームサイズにビジネスサイズが追いつかないうちは赤字を余儀なくされ、その期間は水田作などでは4~5年、果樹などでは7~8年のように作目や畜種により異なっている。第2に、水田作等においては大面積の農地引き受けに応じて、大規模な機械・設備投資を要する場合が突然に生じ、短期的な赤字が発生することである。第3に、地域農業の課題の拡大に対応して法人の事業範囲が不断に拡大する傾向の中で、しばしば「不採算部門」(耕作放棄地の復旧が典型)を抱え込まざるをえない状態が生まれることである。こうした事態への対応のためには、一方で安定的な黒字が見込まれる主要事業部門を確立・安定化させることが必要であり、他方で経常利益赤字解消の期間を適切に設定しながら、長期的な視点での経営発展の道筋を構築することが有益である。

 実際、出資型法人が抱えている問題としては職員の高齢化・不足といった一般法人と同様の問題が指摘されているが、とくに借入耕地の圃場分散や条件不利性を始め、耕作放棄地対応の困難など、出資型法人が有する「公共性」といった性格に基づくものが少なくない点に注意を払う必要がある。

3.JA出資型法人の今日的到達点

 これまでの出資型法人の発展過程は以下のように整理される。第1局面=水稲作における農作業受託から農業経営への移行=「地域農業の最後の担い手」の位置づけ。第2局面=水田農業経営から農業内のあらゆる部門への進出。第3局面=本来の農業経営から耕作放棄地復旧・再生、新規就農研修等の地域農業資源(土地と人)の再生・創出と いう新たな課題への挑戦=「地域農業の最後の守り手」の位置づけ。第4局面=小規模家族経営の経営代替・継承から大規模家族経営の経営代替・継承への対応へ=「地域農業の最後の攻め手」の位置づけ。第5局面=自治体から地域に存在する多様な農業関連企業や農家へ出資者の枠を広げた法人への移行。第6局面=地域農業が直面する課題への総合的な対応へ=「地域農業発展の総合的拠点」としてのJAによる農業経営、がそれである。こうした課題に応えながらJAによる農業経営が発展することが望まれる。

報告資料