- 日 時 令和4年2月7日(月)13時30分~16時40分
- 場 所 ズーム(オンライン)・録画方式による
- 参加者 主にJA役職員
- 日 程
時 間 | 内 容 |
13時30分 | (司会) 東京農業大学 名誉教授 白石 正彦 |
13時30分~13時35分 | (開会挨拶) 新世紀JA研究会代表 JA菊池 代表理事組合長 三角 修 |
13時35分~13時40分 | 「解 題」 新世紀JA研究会 常任幹事 福間 莞爾 |
13時40分~14時20分 | 「農業の経営継承について~取り組みの現状と課題」 農水省 経営局 経営政策課 担い手企画班 係長 小泉 亜弓 氏 |
14時20分~14時30分 | 質疑 |
14時30分~15時10分 | 「シン・事業承継の基本~誤解だらけの事業承継の一般常識~」 千葉県事業承継・引継ぎ支援センター エリアコーディネーター 中小企業診断士 事業承継支援マスター ピープル総合経営研究所 代表 大石 泰弘 氏 |
15時10分~15時20分 | 質疑 |
15時20分~15時30分 | 休憩 |
15時30分~16時 | 「次世代総点検運動について」 JA全中 営農・担い手支援部長 元広 雅樹 氏 |
16時~16時30分 | 「経営継承の条件整備とJAの役割」 JA常陸(茨城県) 代表理事組合長 秋山 豊 氏 |
16時30分~16時40分 | 総合質疑 |
16時40分 | 閉会 |
テーマの趣旨 農業の担い手への経営継承は、農業生産基盤の確立にとって極めて重要な課題である。農業だけではなく、わが国の中小企業分野においても世代交代等による経営・事業継承は大きな課題となっている。今回は他企業における事例も踏まえ、農業における、とくに担い手への経営継承のあるべき姿について考えて行く。 |
公開動画(資料は、動画の下にあります)
「農業の経営継承について~取り組みの現状と課題」
農水省経営局経営政策課担い手企画班係長 小泉亜弓
シン・事業承継の基本~間違いだらけの一般常識~
ピープル総合経営研究所代表 大石泰弘
講演要旨
シン・事業承継の基本~間違いだらけの一般常識~ピープル総合経営研究所 代表 大石泰弘
私は、2018年6月から千葉県事業引継ぎ支援センター(現、千葉県事業承継・引継ぎ支援センター)のブロックコーディネーターとして、200社以上と600回を超える面談支援をしてきました。その経験を踏まえ、現場の実態に即した支援の在り方についてご説明します。
Ⅰ.事業承継支援の必要性
政府は20年以上前から、さまざまな事業承継促進政策を実施してきました。しかし、経営者年齢の山は23年で22歳高齢化し、70歳を過ぎると事業承継せず廃業する企業が増加しています。
経営者の平均年齢は全都道府県60歳前後ですから、半分の企業が準備を始めるか終了していなければなりませんが、多くの企業は「なんとかなる」とか、「事業承継とは相続税対策でしょ」といった、誤った一般常識を信じて危機感が弱く、準備が不十分です。
政策が効果を発揮できなかった理由の一つは、相談来場を前提にしていたからでした。そこで、事業者に積極的にアプローチして、早期に事業承継準備を始めるべきだと、気づいてもらう、掘り起し型事業承継支援が2018年から始まっています。しかし、相談件数はゆるやかにしか増加していません。
商工会議所、商工会、信用金庫などでも、積極的に取り組んでいるところは限定的です。
Ⅱ.シン・事業承継(あるべき事業承継)
あるべき事業承継は以下の通りです。しかし、一般常識にはなっていません。
1.今からやっておくこと:選択肢を広げる
・事業資産を会社の所有にしておく
・役員借入金をつくらない、早期解消
・経営者保証解除をめざす
・事業を磨く
2.55歳過ぎたら始めること:後手にならないために
・信頼できる公的機関に準備の仕方を相談する
・仮の交代日と株式移転時期を決める
・後継者を決める
・準備の目的とその優先順位を決める
・4分野を検討する
・1年以内に事業承継計画書を後継者と作成する
この知識を経営者に理解してもらい、行動を起こしてもらう支援が全国的に必要です。
なぜこれがあるべき姿なのかについて、以降で基本的知識をご説明します。
Ⅲ.基本的知識1:事業承継の意義・目的
1.どんなに小さな会社でも社会的存在価値(期待)は非常に大きい。
①お客様は別のお店を探さないといけない
②社員とその家族は路頭に迷う。別の会社の仕事をみつけなければならない
③仕入れ先は別の店を探さないと連鎖倒産する
④お店の明かりがあるので近所の人は安心して歩けるなど
2.一般的な事業承継の準備の3大目的
①企業価値を高める、事業を継続する
②争いの種を減らす
③節税する
★よく注意しなければならないのは、3つともベストにする方法はないので、優先順位を決め、3つのバランスをとることです。①②③はそれぞれ専門家が異なります。別々に相談すると、最後に相談したことが自動的に優先になります。すべてを理解して総合的なバランスについても助言ができる専門家に相談することが重要です。
Ⅳ.基本的知識2:事業承継の準備開始時期
1.事業承継の準備では4つの分野について検討する必要があります。(1)人の承継(2)資産の承継(3)知的資産(強み・持ち味)の承継(4)引退後の生きがいの準備です。
2.準備項目の中には、後継者の教育、役員借入金の解消、経営者保証解除、強みの理解と承継などなど5~10年かかるものがあります。健康年齢で経営者数は激減していますから、遅くとも60歳になったら準備を始め70歳までに承継完了を目指す必要があります。
Ⅴ.基本的知識3:事業承継のパターン
1.事業承継のパターンは3つです。親族内承継、従業員承継、第三者承継です。それぞれにメリット、デメリットがあります。日ごろから3つのどれでも選択できるようなマネジメントをしておくことが望まれます。たとえば、株式を集中しておく、事業資産を会社の所有にしておく、役員借入金をなくしておく、利益率を高くする、資産超過にするなどです。これらは税理士がよく勧める短期的な節税策とは必ずしも一致しません。
Ⅵ.基本的知識4:事業承継計画書
1.事業承継計画書がないと、業務の忙しさにかまけて、準備がずるずる先延ばしになり結果的に後手になるケースをたくさん見ます。先手か後手かで結果は全く異なります。
大まかでも計画を作ると準備が進み始めます。代取交代日と株式移転時期と方法を仮決定することで目安ができるので重要です。いったん計画を作ると見直しは簡単です。
計画書の作成は多面的で、日常業務ではないので、経営者だけでは困難です。作成支援が必要です。
以上から、シン・事業承継があるべき姿になります。
Ⅶ.支援上の注意点
1.一般的な注意点
支援の目的を明確に持つ。
・要望に応えるだけ?
・基本知識を知ってもらった上で相手の目的を考えてもらう?
(2)相手のプライバシーを尊重する(声の漏れない部屋で相談、秘密厳守)
(3)中立な立場を貫く(現経営者だけ、後継者だけに偏らない。共通の目的)
(4)弁護士や税理士の専任業務内容について断定的な回答をしない。
(5)専門家の活用にあたっては、法務・税務・経営を総合的に助言できる人材
を活用する。
(6)支援は、相談会への集客―課題整理―対策を含む事業承継計画書の作成―計画を見直しながら実行支援、という流れになります。支援機関と経営者に厚い信頼関係がない場合、第三者による相談会にし、集客もDMの活用が必要です。「事業承継セミナー」の集客効果は期待薄です。
2.農家・農業法人の注意点
農業関連の支援実績は十数件程度なので、妥当性については読者がご判断ください。
(1) 米が主商品の農家
① 競争意識の薄い農業法人・農家が多い
② 商品での差別化が困難=規模が差別化要因or顧客を品質重視の業界に。
③ 助成金を多くもらうために複数法人や個人事業に分割すると融資を受けにくい。株主分散は融資を受けにくい。
④ 付加価値は良い商品を安く作ること=移動は付加価値を生まない。
⑤ 地縁を維持しながら近隣の土地を買い取る。
⑥ 小規模な場合、将来事業譲渡しやすいマネジメントや業態転換を前提。
(2) 米以外が主商品の農家
① 競争意識が比較的高い。
② ブランドづくりの誤解。強みのある価値観が継続できてブランド化。ネーミングがブランド化ではない。地域ブランドは他力本願?
③ 顧客のニーズを直接知るチャネルを持つ。顧客とコミュニケーションしながら強みの強化と維持。
以上
「次世代総点検運動について」
JA全中 営農・担い手支援部長 元広 雅樹
講演要旨
次世代総点検運動について〜事業承継支援を中心に
1.はじめに
JAグループでは、第29回JA全国大会決議において、10年後を見通して、次期3カ年の新たな取り組みとして、全国のJAの組合員・役職員が危機感を共有して重点的に「次世代総点検運動」を実践していくことを決議しました。
2.「次世代総点検運動」とは
「次世代総点検運動」とは、地区・部会別など組合員が「自ら実践すべき計画」と実感できる単位で、地域の担い手の実態を総点検するなかで、組合員・役職員が危機感を共有し、10年後の地域農業を見通し、確保すべき次世代の組合員数などの目標を設定する。そして、後継者への事業承継や新規就農者をJAグループが計画的に支援することで、次世代組合員を着実に確保していく取り組みです。
厳しさが予想される地域農業の将来像について、JAだけではなく、協同組合活動の主役である組合員自身も真剣に考え実践するということが、大きなポイントになります。
なお、JAでは経営基盤強化のために収支改善に取り組んでいますが多くが効率化(リストラ)戦略の取り組みであり、「次世代組合員の確保」は将来のJA経営基盤の確立にむけた成長戦略の最重点取り組みでもあります。
3.「次世代総点検運動」の進め方
「次世代総点検運動」は、JAの組合長・役員のリーダーシップのもと、営農・経済事業部門を中心に信用・共済事業部門もふくめオールJAで取り組む体制を構築して、2段階で取り組んでいきます。
【第1段階:組合員参画型の地域農業振興計画・中期経営計画の策定】
地区別または部会別など具体的な経営体が見える単位で、組合員の参画と意思反映をはかり、組合員が「自ら実践すべき計画」と実感できる計画を策定します。特に、「人・農地プラン」と連携し、現状の担い手の年齢構造や後継者等の状況等を総点検し、確保すべき次世代の組合員数などの目標を設定します。
【第2段階:ターゲットに応じた個別支援の実践】
次世代の組合員数などの目標を着実に実践していくため、JAの担い手支援施策を体系化するとともに、ターゲットを明確にして、組合員と役職員が一体となり、「事業承継」等の個別支援、幅広い新規就農者の育成・定着を支援することで次世代の組合員を確保していきます。
ただし、【第2段階】は時間がかかる取組みであるため、【第1段階】とあわせて【第2段階】もできるところから実践していくことが肝要です。
4.「事業承継」の支援を通じた次世代担い手の育成
①目標は事業承継計画の策定
現在の地域農業の担い手の事業承継をしっかり支援することは、次世代の担い手との関係性を構築していく一番の機会となります。
JAは、後継者の見通しが立っている場合は、TACなど出向く担当者や営農指導員が中心となって事業承継支援に取り組みます。具体的には、「事業承継計画」の策定を支援していくことを実践目標とします。そして計画策定後は事業承継手続きの支援や後継者の就農支援をしていきます。
後継者確保の見通しが立っていない場合は、新規就農者の確保等による第三者承継等の支援策を検討していきます。
②担当者任せでない取り組みが必要
JAグループでは、親族等の事業承継を支援していく方針を決定して取り組みを進めていますが、なかなか実践できていないのが実態です。
JAが事業承継の支援に取り組む上での課題としては、「担当者を明確にしていない」「職員の専門知識が足りない」「プライベートな問題であり着手が難しい」などがあげられています。
事業承継は、農家組合員から相談に来られることはほぼありません。事業承継の必要性についての気づきを提供して、親子の話し合いのきっかけづくりから始めることが必要です。
また、JAとして事業承継に取り組むためには、JAの事業計画等に明記し担当者を明確にすることが必要です。担当するTACなど出向く担当者や営農指導員は、あくまでコーディネーター役ですので、税務や相続対応などの専門家のバックアップ体制をJAもしくは県域で構築していくことが必要です。
③全国連の支援
事業承継はJAの総合事業力を発揮して部門間連携で取り組む課題です。JA・県域の実践を支援していくため、全国連では、全農は「事業承継ブック(親子版、集落営農版、部会版他)」、全中は「事業承継の手引き(家族経営版、法人経営版)」、農林中金は「アグリウェブ(農業サイト)」、全共連は「生存給付特則付一時払終身共済」等を提供しています。
5.実践スケジュール
「次世代総点検運動」を実践していくためには、JAの地域農業振興計画や中期経営計画、そして単年度事業計画に明確に位置づけ、体制を構築して、計画的に取り組んでいくことが必要です。第29回JA全国大会実践期間は令和4~6年度であり、令和4年度から、組合員参画型の地域農業振興計画や中期経営計画が作成され、次世代組合員数等の目標を設定して実践していくことが理想ですが、組合員参画型の計画づくりは、時間と手間がかかる取り組みのため、網羅的に進めることは難しいことが想定されます。
このため、モデル地区またはモデル生産部会などにおける取り組みから始めるなど、形式的な取り組みとならないことが重要です。
6.最後に
「次世代総点検運動(事業承継や新規就農の支援)」は、成果が出るまで時間がかかる、難易度の高い取り組みです。
しかし、10年後を見通せば、やらなくてはならない避けては通れない課題です。我慢づよく、しぶとく地域にあった取り組みを計画的に継続していくしかありません。
若い人に「JAグループに就農を支援してもらいたい」と思ってもらうためには、農業そしてJAグループのイメージアップと一定の所得を確保できる経営モデル・ライフプランを提示できる産地づくりができていることが前提となります。
このような元気で活力のあるJAグループをめざして、「次世代総点検運動」に取り組んでいくことを提起しています。
以上