2020(令和2)年3月 新世紀JA研究会 経営管理委員会制度検討委員会
目 次
はじめに
Ⅰ JAとぴあ浜松における経営管理委員会制度の現状
1.経営管理委員会制度と理事会制度の関係
2.経営管理委員会制度のメリットとデメリット
3.JAとぴあ浜松検討委員会の結論
4.現在の経営管理委員と理事の構成
Ⅱ JAふくしま未来における経営体制の変遷
1.JA新ふくしまの合併経過
2.経営管理委員会制度に移行して
3.再び理事会制度へ
Ⅲ JAしまねの運営体制にかかる検討経過
1.JAしまねの発足過程での検討経過
2.JAしまねにおける運営体制の検討経過
Ⅳ 理事会制度と経営管理委員会制度について
2.理 事 会
3.経営管理委員会
4.ガバナンスの観点から
Ⅴ 経営管理委員会制度の問題点と今後の対応方向について
1.経営管理委員会制度導入の経緯
2.問題点と今後の対応方向
1.制度間競争に完敗
2.モニタリング・モデルとしては不徹底
3.監事の存置
4.曖昧な制度導入趣旨
5.経営管理委員会による調査のあり方
6.経営管理委員会制度における監事監査の相違点
7.仏造って魂入れず
はじめに
本報告書は、新世紀JA研究会に設置した経営管理委員会制度検討委員会における検討結果をまとめたものです。検討会では、冒頭に新世紀JA研究会の石川副代表(JAしまね代表理事組合長)から挨拶が行われました。
次いで、同研究会の福間常任幹事から開催に至る経過説明が行われ、とくに県域JAの誕生など大型合併が進められるなかで、選択制としてガバナンスの基本である経営管理委員会制度について一定の考え方の整理が必要であるとの認識が示されました。
その後、経営管理委員会制度の現状と課題として、3JAから実践報告が行われました。JAとぴあ浜松の鈴木会長からは、経営管理委員会制度導入JAとして、これまで検討してきた経過、現状と課題が報告されました。
JAふくしま未来の鈴木常務からは、JAの前身となる旧JA新ふくしまにおいて経営管理委員会制度を導入したものの、再度定款を変更し、従来の理事会制度に戻した経過(理由を含む)と現在の新JAにおける役員体制が報告されました。
また、JAしまねの矢田総務部長からは、令和元年6月からはじまった新たな役員体制の発足に至る検討経過と県域JAとして理事会制度を採用しているものの、経営管理委員会制度を採用すべきかどうか継続的に検討が進められていることが報告されました。
次いで、新世紀JA研究会幹事の濱田より、理事会制度と経営管理委員会制度の概要について報告がおこなわれ、小樽商科大学の多木教授より経営管理委員会制度の全体的なコメントが付されました。
以上を踏まえて活発な相互討議が行われ、その結果、次のような内容が確認されました。
① 経営管理委員会制度は、当時の住専問題の国会審議等を経て、1996(平成8)年の農協法改正により、理事会制度との選択制で導入されたものであるが、その後、JA段階ではほとんど導入が進んでいない。それは、この仕組みに制度的な難点があることと無関係ではないこと。
② 組合運営において、監督と業務執行を分離するというのが本来の経営管理委員会制度の考え方であるが、実際の運用は経営管理委員会と理事会が併用されており、このことが監督と業務執行の分離をあいまいにして、実際は屋上屋の運営となり、ともすれば統治の二重構造を生むことになっていること。
③ 組合員の意思を反映することを本旨とする協同組合としてのJA運営の下では、監督と業務執行の分離は、理事会制度の下で業務の専門性を確保する常勤理事体制の強化ですすめるべきであり、そのことは、とくに単位JAの運営において留意されなければならないこと。実際、経営管理委員会制度をとっているJAにおいても、理事(常勤理事)の少数精鋭体制で業務執行の機能強化を行っていること。
④ 単位JAの二次組織たる全農、全共連、農林中央金庫・県信連においては、法律で経営管理委員会制度の採用が義務付けられているが、協同組合たるガバナンスのあり方として引き続きその内容が検討されなければならないこと等が確認されました。
2015(平成27)年の農協法改正は、JAの地域性を否定し、農業関連事業へ経営資源を傾斜することを強制すべく、経営の裁量権や私法人のトップ・マネジメントに政府が関与する改正となりました。具体的には、理事の定数の過半数は、原則として、認定農業者または農畜産物の販売その他の事業もしくは法人の経営に関し実践的な能力を有する者でなければならないとされ、認定農業者等をガバナンスの中核するプリンシパル・エージェンシー・モデルに回帰する改正となっています。農業者の所得増大というプリンシパルと地域への貢献というスとテイクホルダーとの間で、改めてガバナンスの重要性が見直されているといえます。
(注)ガバナンスモデルには、①プリンシパル・エージェンシーモデルと、②ステークホルダーモデルがある。プリンシパル・エージェンシーモデルは、企業は株主のものであって、経営者は株主(主権者・プリンシパル)の代理人(エージェンシー)としてとらえる。ステークホルダーモデルは、企業は株主だけのものではなく、従業員、取引先、債権者、地域社会などの利害関係者(ステークホルダー)のものであり、経営者はこれら利害関係者の調整人となる。
検討会の相互討議はJA運営の基本に関わることゆえに熱を帯びましたが、最終的にはJA段階においては、組合員の意思を直接的に反映できる現行の理事会制度のなかで、業務の専門性を確保する常勤理事体制強化の方向が望ましいということで議論は収束しました。
一方で、上場企業におけるガバナンス改革の動きに注視しながら、とくに連合組織において、JAグループを巡る環境変化に対応できるガバナンスとは何か、引き続き検討を行っていく必要があります。
新世紀JA研究会に設置された検討会は、令和2年1月7日に都内で行われました。以下に当日の10名の出席者を記し、精力的に資料準備を行い新年早々の検討会へ参加頂いた委員各位に感謝を申し上げます。
<検討委員会メンバー(敬称略)>
1.JAとぴあ浜松 経営管理委員会会長 鈴木和俊
2.JAふくしま未来 常務理事 鈴木一三
3.JAしまね 総務部長 矢田篤
4.東京農業大学 名誉教授 白石正彦
5.小樽商科大学 教授 多木誠一郎
6.新世紀JA研究会副代表(JAしまね代表理事組合長)石川寿樹
7.同研究会名誉代表(元JAしまね代表理事組合長) 萬代宣雄
8.同研究会常任幹事(元協同組合経営研究所理事長) 福間莞爾
9.同研究会幹事(JET経営研究所代表) 濱田達海
なお、本報告書のとりまとめは、主に新世紀JA研究会幹事の濱田があたりました。また、小樽商科大学多木誠一郎教授には、(付)として「経営管理委員会制度についての諸報告を踏まえて」と題して総括的なコメントを寄稿いただきました。厚くお礼申し上げます。
本報告書が、JAおよびJAグループのより良きガバナンス構築の参考になれば幸いです。
2020(令和2)年3月 新世紀JA研究会 経営管理委員会制度検討委員会
Ⅰ JAとぴあ浜松における経営管理委員会制度の現状
当組合では、平成17年6月から経営管理委員会制度を導入してきているが、13年を経過した平成30年度に検討委員会を立ち上げて、統治のあり方について、経営管理委員会制を続けるか、理事会制に戻すかを含めて約1年間かけて検討した。以下はその時の検討内容と結果である。
1.経営管理委員会制度と理事会制度の関係
経営管理委員会制度と理事会制度の関係を整理すれば、次図のようになる。
2.経営管理委員会制度のメリットとデメリット
また、経営管理委員会制度のメリット・デメリットについては、次のように整理されている。
(資料1)経営管理委員会制度のメリット・デメリット(農水省・全中の導入JAアンケート調査から)
[メリット]
○ 理事会の開催が機動的に行えるようになった。
○ 理事会で専門的な検討がすすみ、かつ迅速な意思決定ができるようになった。
[デメリット]
○ 経営管理委員と理事の役割分担が明確でないため、実際に運用してみると、会長と理事長の職務分担がしにくい。(⇒権限の二重化)
○ 会長と理事長の意思疎通がうまくいかない。
○ 経営管理委員会の会長は、JAグループ内でJAの代表機能を担っているが、日常の業務執行に関わりをもたないと機能しにくい部分がある。
○ 経営管理委員会の協議事項・報告事項の多くが理事会と重複することから、経営管理委員会の開催頻度を多くせざるを得ない。
○ 経営管理委員会と理事会を毎月開催しているため、資料作成など事務負担が多くなっている。
○ 理事会が形式的なものとなり、監事への説明の場になっている。
○ 経営管理委員会制度に移行したことに対する理解が十分でなく、業務執行の細部まで自分の考えを押しとおそうとする委員がいる。
○ 委員の中には、(学経)理事にJAの経営をとられてしまうといった感情を持っている人がいる。
○ (経営管理委員が監督機能を色濃く持つなら)監事は不要との声が出ている。
(資料2)経営管理委員会制の長所と短所(JAとぴあ浜松の検討委員会から)
[長所]
・理事の監督機能を担う経営管理委員(会)と業務執行機能を担う理事(会)との機能分離を図ることを可能にした点は良い。
・経営管理委員は比較的定数を多くとれるため、1委員当たりの選出エリアを比較的狭く、1委員当たりの組合員数を比較的少数にでき、組合員の意向や要望を細かく吸い上げ、組合運営に反映することができる。また、組合員組織の代表者などを経営管理委員に選出することができる。
[短所]
・農協法の作りとして、理事会制を基本としている中で、理事会の上に経営管理委員会を乗せたため(屋上屋)建て付けの悪い所がある。
・現行制度(農協法上)の問題点としては、業務執行機能と監督機能の分離問題に関連して、①理事に対する監督機能が法定化されていない、②理事の選任権があっても解任権がない(請求権のみ)、③理事に対する調査権がないなどを挙げることができる。
・経営管理委員と理事との情報の非対称性(重要な情報が知らされない)の問題がある。
・実感として、①報告事項が多い、②経営者感覚からは距離がある、③責任意識が乏しい、④組合員からは解りにくい、といった印象が強い。
3.検討委員会の結論
理事の選任権があっても解任権がない、また、監事は理事に対する調査権限があるが、経営管理委員には調査権限がないなどの制度上(法的な)の欠点があるが、現在では、運用上で改善し、それなりに経営管理委員会制が定着しているので、敢えて理事会制に戻す必要はないという結論に至った。
ただし、私見であるが、合併等によりこれからどちらを選ぼうかということなら、単協においては理事会制が良いと思っている。
4.現在の経営管理委員と理事の構成
現在の経営管理委員と理事の構成等は、次の参考資料の通り。
<参考資料>
1.役員の定数について
経営管理委員 44名~49名
理事 5名~ 7名
監事 8名~ 9名
2.現在の経営管理委員・理事の構成について
経営管理委員49名
うち地区選出経営管理委員 46名
うち女性代表経営管理委員 2名
うち青年担い手代表経営管理委員 1名
※経営管理委員のうち認定農業者等(認定農業者+認定農業者に準ずる者)は35名
理事5名(うち学識経験者5名)
3.選出方法
地区選出経営管理委員・監事→ 総代代表者会議にて推薦
女性代表経営管理委員 → 女性選考委員会(注1)にて推薦
青年担い手代表経営管理委員→ 青年担い手選考委員会(注2)に
て推薦
以上を役員推薦会議で推薦決定 構成 別紙1参照)
注1:女性役員選考委員会は女性部役員で構成
注2:青年担い手役員選考委員会は青壮年部役員で構成
4.役員の定年制・任期制
①経営管理委員
地区選出 | 女 性 | 青年担い手 | |
就任時の年齢 | 70歳以下 | 70歳以下 | 49歳以下 |
任 期 | 3期以内 | 3期以内 | 1期 |
②理事・監事
理 事 | 監 事 | ||
就任時の年齢 | 62歳以下 | 地区選出監事 70歳以下 | 員外監事・学識経験監事62歳以下 |
任 期 | ― | 3期以内 | 原則2期以内 |
5.経営管理委員会内の運営委員会
経営管理委員会の運営および理事会の業務執行の円滑化を促進し組合の健全な発展を図ることが目的
- 総務運営委員会 (11名)
- 金融共済事業運営委員会( 9名)
- 営農事業運営委員会 (16名)
- 生活事業運営委員会 (11名)
Ⅱ JAふくしま未来における経営体制の変遷
1994(平成6)年2月1日、福島市内8JAの対等合併によりJA新ふくしまが誕生した。
組合員数(人) | 職員(人) | 貯金 | 貸出金 | 共済 保有髙 | 販売品販売高 | 購買品 供給高 | ||||
正 | 准 | 計 | 正 | 臨時 | 計 | |||||
11,606 | 7,526 | 19,132 | 682 | 150 | 832 | 1,100 | 187 | 8,512 | 100 | 127 |
注)事業取扱高の単位は億円。
合併に伴い、平成6年役員総数48名でスタートしたが、経営刷新計画を踏まえ平成10年から役員定数の削減と共に学経役員を導入し、11年からは参与制度(7名)を導入した。
合併前 | H6年合併時 | H10年削減 | ||||||||||||
旧JA | 理事 | 監事 | 計 | 地区 | 理事 | 監事 | 計 | 地区 | 理事 | 監事 | 計 | |||
福島市 | 20 | 5 | 25 | 福島市 | 5 | 1 | 6 | 福島市 | 4 | 1 | 5 | |||
北福島 | 19 | 7 | 26 | 北福島 | 7 | 1 | 8 | 北福島 | 6 | 1 | 7 | |||
須 南 | 15 | 3 | 18 | 須 南 | 3 | 1 | 4 | 須 南 | 3 | - | 3 | |||
南福島 | 18 | 4 | 22 | 南福島 | 5 | 1 | 6 | 南福島 | 4 | 1 | 5 | |||
飯 坂 | 17 | 4 | 21 | 飯 坂 | 6 | 1 | 7 | 飯 坂 | 5 | 1 | 6 | |||
西 部 | 11 | 3 | 14 | 西 部 | 4 | 1 | 5 | 西 部 | 2 | 1 | 3 | |||
野 田 | 12 | 3 | 15 | 野 田 | 3 | 1 | 4 | 野 田 | 2 | - | 2 | |||
松 川 | 15 | 4 | 19 | 松 川 | 4 | 1 | 5 | 松 川 | 3 | 1 | 4 | |||
学 経 | 2 | 1 | 3 | 学 経 | 2 | 1 | 3 | |||||||
合計 | 127 | 33 | 160 | 合計 | 39 | 9 | 48 | 合計 | 31 | 7 | 38 | |||
さらに、JA川俣飯野との合併にあたり、次の役員体制が検討された。
・平成15年から支店再編統合の取り組みにあたり役員執行体制のあるべき姿を役員体制審議会に諮問したが、理事会制度から経営管理委員会制度への移行については時期尚早として見送られた。
・平成19年のJA川俣飯野との合併にあたり、合併の方法としてJA川俣飯野が解散しJA新ふくしまが存続する形(吸収)となった。
非常勤理事を増員する定款変更は、農水省事務ガイドラインで経営管理委員会制度への誘導との指針もあり、再度平成17年12月総合審議会に執行体制に関して諮問し答申を求めた。
・この結果、日常業務執行の専門性・迅速性を発揮するため経営管理委員会制度導入と女性役員の積極的登用を図りかつ一定程度の地区役員数が確保される答申がなされ、平成19年2月の合併と共に経営管理委員会制度がスタートした。
合併前の役員数 | 合併後 経営管理委員会+理事会 役員合計60名 | |||||||||
JA | 理事 | 監事 | 計 | 区分 | 委員 | 監事 | 数 | 備考 | ||
新ふくしま | 31 | 7 | 38 | 新ふくしま | 35 | 5 内員外 1 | 理事長 | 1 | 代表理事 | |
川俣飯野 | 15 | 3 | 18 | 川俣飯野 | 9 | 常務理事 | 4 | うち1名 代表理事 | ||
女性4 後継者2 | 6 | |||||||||
合 計 | 46 | 10 | 56 | 合 計 | 50 | 5 | 理事計 | 5 |
合併に伴い、理事会制度から経営管理委員会制度へ移行し、役員執行体制、とりわけ役員数については地域毎に一定程度が確保されたものの、実際の運営にあたって色々な課題が浮き彫りとなった。
- JAの代表者は誰か?それは、経営管理委員会会長なのか代表理事理事長なのか?
・組合員又は外部から見た時、JA組織のトップは誰なのか分かり難い。
・組合の総会で、役員選任議案で選出された経営管理委員の代表(会長・代表権無)か?
・経営管理委員会で選任された理事の代表(代表理事理事長)か?
・理事候補者は、経営管理委員会制度においては総会議案(役員選任)において直接的な関係がなく、経営管理委員会の議案として決議されるため、組合員の意志反映とは直結しない。
- 専門性・迅速性を発揮する経営管理委員会における理事会運営のはずが
・決議機関として経営管理委員会から権限移譲を受けた理事会であるが、構成メンバーに監事(非常勤を含む)が同席となり、通常議案の審議においても日常的な協議を経て議案作成し上程しているものに対し、非常勤監事は協議経過を承知していない事から、理解を得るため時間を要する。
・更に、職制規程、職務権限表の決裁権限の作り込みもあるが、議決及び報告について理事会その後の専門委員会、経営管理委員会での審議となり結果として組織協議に費やす時間が多くなる。
結果として、同一案件に関する審議過程が重複し多くの資源を費やす結果となる。
③ 経営管理委員としての経営者感覚
・経営管理委員会制度において。委員は業務執行権が理事会にあり、経営管理委員会は報告事項が多く、経営管理委員として組合運営への意欲や責任感が低下する。また組合員の声・意思が組織に十分反映されなくなるといった経営者としての充実感に問題点が残った。
3.再び理事会制度へ
経営管理委員会制度をスタートして上記のような課題が確認されたことから、制度導入後1年半と短期間ではあったが、総合審議委員会を立ち上げ、再び経営管理委員会制度の運営上の課題について再検討した。
農林水産省の指導もあり、経営管理委員会制度の導入拡大の気運のなか、県農業経済課では県中央会とよく協議してとの指導はあったものの、JA役員からは従前の理事会制度に戻し、組織運営を進める事が望ましいというのが大勢の意見であった。
その結果、制度導入2年後の定款変更により、経営管理委員会制度については、1期3年間をもって終了し、理事会制度に戻すこととなった。
経営管理委員会 + 理事会 理事会制度への戻し | ||||||||||
区分 | 委員 | 監事 | 理事 | 数 | 理事 | 監事 | 計 | |||
新ふくしま | 35 | 5 内員外 1 | 理事長 | 1 | 地区選出 内7名の女性枠 | 35 | 7 | 42 | ||
旧川俣飯野 | 9 | 常務理事 | 4 | |||||||
女性4後継者2 | 6 | 学識経験 | 3 | 1 | 4 | |||||
合 計 | 50 | 5 | 理事計 | 5 | 計 | 38 | 8 | 46 |
旧JA | 組合員 | 貯 金 百万円 | 共済保有億円 | 販売高 百万円 | 購買 百万円 | 理事 | 監事 | ||||
正 | 准 | 計 | 常勤 | 常勤 | |||||||
新ふくしま | 9,893 | 15,254 | 25,147 | 200,034 | 7,501 | 7,737 | 2,956 | 38 | 5 | 8 | 1 |
伊達みらい | 11,167 | 19,285 | 30,452 | 162,890 | 6,476 | 10,299 | 5,638 | 35 | 5 | 8 | 1 |
みちのく安達 | 11,649 | 6,884 | 18,533 | 105,162 | 5,901 | 6,757 | 2,631 | 22 | 4 | 4 | 1 |
そ う ま | 14,652 | 5,971 | 20,623 | 244,708 | 6,182 | 3,868 | 3,438 | 22 | 4 | 8 | 1 |
合 計 | 47,361 | 47,394 | 94,755 | 717,143 | 26,061 | 28,663 | 14,663 | 117 | 18 | 28 | 4 |
なお、現在のJAふくしま未来の執行体制は、次の通りとなっている。
○JAふくしま未来の概要(H28.3.1合併)H31.2.28現在
※ 理事監事数は、合併前の人数
1.役員選任制における地区別配分
役員推薦員 計54名
地区代表 | 女性代表 | 役員代表 | 全域理事代表 | 全域監事代表 | |
福 島 | 10 | 2 | 1 | 1 | 1 |
伊 達 | 10 | 2 | 1 | ||
安 達 | 10 | 2 | 1 | ||
そうま | 10 | 2 | 1 | ||
計 | 40 | 8 | 4 | 1 | 1 |
役員数の内訳
理 事 | 法的要件 | 監 事 | |||||
内女性 | 内常勤 | ① | ② | 内常勤 | |||
福 島 | 12 | 2 | 1 | 6 | 11 | 1 | |
伊 達 | 12 | 2 | 1 | 7 | 12 | 1 | |
安 達 | 12 | 2 | 1 | 4 | 12 | 1 | |
そうま | 12 | 2 | 1 | 4 | 12 | 1 | |
全域学経 | 5 | 5 | 5 | 2 | 2 | ||
全域員外 | 2 | ||||||
計 | 53 | 8 | 9 | 21 | 52 | 8 | 2 |
※合併当初1期3年は常勤の地区担当常務4名を配置したが、2期目の今年から常勤を廃止し非常勤の地区役員代表として配置
※地区選出理事の常勤は組合長1名、専務3名 全域学経理事5名は常務
※農協法要件 ①:認定農業者 ②:実践的能力者
2.役員定年制・任期制
① 地区選出役員定年 ⇒ 選任時70歳未満 (定款附属書役員選任規程に規定)
② 学識経験役員(常務理事・常任監事)の定年 ⇒ 選任時65歳未満かつ、2期6年以内とする。(理事会で定めた内規)
3.専門委員会の構成
① 組織経営委員会・営農経済委員会・金融共済委員会の3委員会とし理事会前の専門事項を審議する。
Ⅲ JAしまねの運営体制にかかる検討経過
JAしまねでは、県域JA発足当初から役員執行体制について、時間をかけて検討してきた経過があり、現在も検討中であるが、どの制度を採用すべきか結論を得ていない段階である。
① 平成15年の第28回JA島根県大会から足掛け10年に渡る協議を経て、平
成27年3月1日にJAしまねが誕生した。
② 発足までの過程で、平成22年2月に本格的な研究・協議を行うために「島根県JAグループ統合研究会」が設置された。
③ 新JAでの運営体制も、この統合研究会の各段階の会議において、時には組
合長会としての協議・意見を加え検討された。
④ 経営管理委員会・理事会のそれぞれ支持する意見があるなか、平成22年10
月の統合研究会において、組合長会としては理事会制度でスタートした方がよ
りスムーズな形での統合になるとの意見も踏まえ、理事会制度でスタートする
ことの方向づけがされた。
2. JAしまねにおける運営体制の検討経過
<経過の概要>
- 平成29年3月6日 理事会
「JAしまねの運営にかかる調査・研究・検討の取り組み」承認
<概要>
〇合併メリット創出や農業振興の充実等のため、本店と地区本部機能
の検討、組合員の意思反映と業務執行体制にかかる調査・研究へ
の着手を承認
テーマ1 「地区本部制のもとでの事業部制的運営のあり方」について
テーマ2 組合員等の意思反映機能の充実と、多種多様な意思決定
に最適かつ機動的な執行体制とするための「理事会・経営管理委員会の役割等」について
- 平成29年4月20日 運営体制検討プロジェクト設置
〇組合長諮問
・統合から2年経過して環境が大きく変わった。 ・組合員の所得増大・生産拡大、地域活性化への取り組みと、J Aの健全経営は車の両輪である。 ・組合員目線の改革、メリットが実感できる組織運営体づくりが必 要 ・ピンチをチャンスに捉え、10月を目途に答申を求める。 |
<検討体制図>
理事会制度や経営管理委員会制度等の運営体制については、上記の「意思
反映WG(正式=「意思反映・業務執行ワーキンググループ」」において協議した。
「意思反映WG」の検討結果、プロジェクトの答申の概要は次のとおり
<協議体のあり方>
1)現段階では「理事会制度」の運用見直しを行う
2)理事会議案の絞り込みと、重要方針や農業方針等の十分な協議体制確保を検討する。
3)専門委員会の重要性・役割の再確認、あり方を検討する。
4)地区本部運営委員会の再構築
<役員に関するあり方>
- 農協法改正や自己改革を念頭に、課題を踏まえて役員構成の検討を行う
必要がある。
2)役員定数が多いという意見もあり、総代等の組合員や外部有識者の意見も取り入れて役員体制の検討を行う。
③ 平成29年11月29日 理事会
JAしまね「意思反映・運営体制改革の実施について」承認
〇10月26日の運営体制検討プロジェクトの答申後の対応として、運営体制
改革の方針や項目、手順等の承認を受けた。
<概要>
1)理事会制度の運用改革
2)役員構成と役員定数の改革
・外部有識者会議、役員によるあり方検討会(のちに、運営体制改革委員
会)の設置
※31年6月の役員改選までに新たな体制となるように取り組むことをあ
わせて確認した。
3)経営管理委員会制度の継続調査、検討
同制度を継続して調査研究する。(時期は他との兼ね合い)
④ 平成29年12月22日 外部有識者会議「運営体制改革審議会」設置
〇外部有識者5名による同審議会を設置し組合長より諮問
・適正な役員体制と組織運営のあり方
・役員の役割と役員構成のあり方
〇都合4回の会議を経て、平成30年2月26日に答申
<主要事項の抜粋>
・役員の役割を踏まえ、役割発揮のための十分な議論の場と時間確保が必要
・各役割を発揮するうえで、理事の人数は相当に多い、少数精鋭の簡素で効
率的なものに改革する必要がある。
・経営管理委員会制度は、役員の役割分担を一層明確化する制度であり、そ
の導入も速やかに検討すべき
・役員の役割を踏まえた構成とすべきであり、少数精鋭への改革にあっては
運営委員会等の補完対策を講ずべき
⑤ 平成30年3月29日 理事会
「意思反映・運営体制改革」の進め方について 承認
〇運営体制検討プロジェクト、有識者会議等での検討経過・答申を踏まえて、
意思反映・運営体制改革にかかる「改革案」の策定に着手する。
⑥ 平成30年6月24日 第4回通常総代会
※第3号議案「運営体制改革の取り組みについて」承認
〇平成31年6月通常総代会での役員改選以降の新体制を目指し、具体的内
容は11月に臨時総代会を開催して決定する。
〇今次総代会では運営体制改革の骨子の承認を求める。
<主要事項抜粋>
・常勤理事は半減を目安に見直す
・非常勤理事は必要最小限に見直す
・地区本部運営委員会の再構築と強化
・監事を必要最小限に見直す
・検討経過を踏まえ経営管理委員会制度を継続協議する。
⑦ 平成30年11月8日 臨時総代会
役員体制の変更にかかる定款と規約の一部変更 承認
〇定款の一部変更、規約の一部変更を附議 承認
〇定款等の変更のもととなる「新たな運営体制および役員定数による運
営について」の資料により具体的に提示
※別冊 臨時総代会資料 参照(省略)
<項目>
●改革のめざすもの(改革に取り組む背景や考え方)
●新たな役員体制について
●新たな体制の運用等について
●様々な課題への対応について
(参考資料 臨時総代会資料第3号議案抜粋)
JAしまねでは、厳しさを増す諸情勢のなかで、事業計画の実践を通じて、組合員の負託に応えられるよう取り組むこととしております。
そのなかで事業改革を最重要課題として取り組むとともに、理事会運営や役員体制をはじめとする運営体制改革に取り組み、スピード感を持った総合的な改革をすすめます。この運営体制改革の具体的内容は、平成31年6月通常総代会での役員改選以降の新体制を目指し、11月に臨時総代会を計画して決定するものとし、今次総代会では下記事項について、運営体制改革の骨子として承認を求めるものです。
記
1.運営体制改革
業務内容が高度化・専門化している事業環境下、JAの基本方針の審議決定
と組合員の意思反映機能を担う非常勤理事と、事業の企画立案と迅速な業務
執行機能を担う常勤理事、それぞれの責務の明確化と一層の役割発揮に向け、
理事会の運営方法を含めた運営体制の改革に取り組みます。
このため、理事会制度の改革に次のとおり取り組みます。
① 常勤理事体制
現行33名の常勤理事体制を、「半減」を目安に見直します。地区本部の
規模や事業改革の状況を考慮し、理事を補佐する体制を検討します。
② 非常勤理事体制
現行32名の非常勤理事体制を、必要最小限に見直します。 尚、理事会
における非常勤理事数は過半数を占めるものとします。 認定農業者、青年・
女性・准組合員・有識者等の参画、人数、選考方法等について整備します。
③ 地区本部運営委員会の再構築と強化
組合員の意思反映のための重要組織として、地区本部運営委員会の役割・位置づけを再検討し、構成員や運営方法などを統一的に再構築します。
④ 監事体制
監事定数を必要最小限に見直します。
⑤ 次期運営体制整備
運営体制については、これまでの検討経過を踏まえ、今回の改革以降も継続的に検証・検討を行い、将来的な経営管理委員会制度の導入に向けて継続して協議を行います
平成34年6月総代会(役員改選期)を次の節目として、「第2段階の改革」を検討・ 策定します。
2.新たな役員体制等について
(1) 新たな理事体制 理事40名(常勤17名 非常勤23名)
●<全体人数(理事)の集計表>
区分 | 新体制(人) | 備 考 | ||
総数 | ||||
常勤 | 非常勤 | |||
本 店 | 9 (11) | 5 (8) | 4 (3) | |
地区本部 | 31 (54) | 12 (25) | 19 (29) | |
計 | 40 (65) | 17 (33) | 23 (32) |
※( )内は現行人数(但し、組合長・副組合長は本店常勤に含めた数)
※新体制の人数も組合長・副組合長を本店常勤に含めた数
●各体制の内訳
<本店(理事)>※( )内は現行人数(但し、組合長・副組合長を本店常勤に含めた数)
役職等 | 新体制(人) | 担当部門・組織 (※2) | ||
総数 | ||||
常勤 | 非常勤 | |||
組合長 副組合長 専務 常務 ※1 | 5 (8) | 5 (8) | 全体統括 内部監査、総務、人事、 経営管理、リスク管理、 改革推進、貸出審査(※2)、 営農、販売、経済、信用、共済 | |
青年枠 女性枠 | 1 (1) 3 (2) | 1 (1) 3 (2) | 青年組織代表 女性組織代表 | |
計 | 9 (11) | 5 (8) | 4 (3) |
※1 本店の体制・役職・担当部門等は、兼務を含めて今後協議し、最終的に理事会で決定します。
※2 貸出審査担当役員は、組合長・信用担当役員と兼ねることはできません。
<地区本部(理事)> 注:( )内は現行人数ですが、この表では新旧人数の比較のため、組合長・副組合長を( )内の非常勤の人数に含めた表。
地区本部名 | 新体制(人) | 理事を補佐する体制 | ||||
総数 | 規模等 | 職員 体制整備 | ||||
常勤 | 非常勤 | |||||
くにびき | 4 (7) | 1 (3) | 3 (4) | 1 | 執行役員 | 統括部長 |
やすぎ | 2 (4) | 1 (2) | 1 (2) | 統括部長 | ||
雲南 | 4 (7) | 1 (3) | 3 (4) | 1 | 執行役員 | 統括部長 |
隠岐 | 1 (2) | 1 (2) | 0 (0) | 統括部長 | ||
隠岐どうぜん | 1 (2) | 1 (2) | 0 (0) | 統括部長 | ||
出雲 | 7 (12) | 2 (3) | 5 (9) | 統括部長 | ||
斐川 | 2 (4) | 1 (2) | 1 (2) | 統括部長 | ||
石見銀山 | 2 (4) | 1 (2) | 1 (2) | 統括部長 | ||
島根おおち | 2 (4) | 1 (2) | 1 (2) | 統括部長 | ||
いわみ中央 | 3 (5) | 1 (2) | 2 (3) | 統括部長 | ||
西いわみ | 3 (5) | 1 (2) | 2 (3) | 統括部長 | ||
計 | 31(56) | 12(25) | 19(31) |
<監事>
合計 | 新体制(人) | ||||
東部 | 中部 | 西部 | 員外監事 | 常勤監事 | |
6 (9) | 1 (2) | 1 (2) | 1 (2) | 1 (1) | 2 (2) |
※( )内は現行人数
(2) 役員選考等に関する事項
Ⅰ 役員選考手順のイメージ
(選考の流れ:① ⇒ ② ⇒ ③ ⇒ ④ ⇒ ⑤ )
Ⅱ 役員推薦会議の設置
1.役員推薦会議
(1)設置の根拠と目的
①根拠規程 定款および定款附属書役員選任規程
②目 的 総代会へ附議する議案作成のための候補者の推薦
(全役員 理事40名、監事6名)
(2)構 成・・・11の地区本部と県全体の合計12の区域毎に一人ずつ、正組合員を代表する者として選ばれた正組合員で構成する。
Ⅲ 選考会議の設置
1.地区本部役員選考会議
(1)構 成・・・総代など正組合員を代表する者で構成する。
詳細は地区本部毎に定める。
(2)対象者・・・地区本部選出の理事候補者
※地区本部運営委員の選考も並行しておこなう。
※執行役員の選考も並行しておこなう。
2.本店役員選考会議
(1)構 成・・・地区本部の理事より代表者1名(計11名)で構成する。
(2)対象者・・・本店常勤役員(組織代表・実務精通)、
実務精通監事、員外監事、非常勤監事、青年・女性理事
※ 非常勤監事は地区別(東部・中部・西部)に選考する。
※ 青年・女性理事は各組織に選考を依頼する。
Ⅳ 役員の就任年齢について
(1)役員就任年齢
理事および監事 就任時 満70歳未満
(※実務精通理事・監事 就任時 満62歳未満)
3.JAしまねの運営にかかる会議体と構成
会議名 | 構成員 | 内容 | 備考 |
理事会 | 全理事、全監事 | 理事会附議事項 | 執行役員 |
専門委員会 ①営農経済専門委員会 ②総務信共専門委員会 (以前は3つの専門委員会を2つに集約) | ・本店担当常務 ・地区本部非常勤理事 (①と②に分かれる) ※組合長は基本不参加 ※本部長不参加 | ・理事会附議議案の審議 (その他検討・研究事項) | ★委員長、副委員長は非常勤理事から選任に改革 ・営農経済はオブザーバー参加あり ・常勤監事各1名 |
企画会議 | 本店常勤理事5名 地区本部長11名 | ・理事会附議事項の審議 ・その他、業務執行事項 | 関係部室長 |
経営会議 (前:拡大経営会議) | 本店常勤理事5名 地区本部長11名 | ・経営管理、経営検討を 主とした会議体 | 全部門の部室長 |
本店常勤会 | 本店常勤理事5名 | ・理事会附議事項の審議 ・その他全般 |
※本店常勤理事5名(組合長、副組合長、専務、常務2名)
Ⅳ 理事会制度と経営管理委員会制度について
1.トップマネジメント
(1) トップマネジメントの機能
組合長をはじめとする常勤理事(トップ層)の果たすべき役割は、組合員代表としての機能(組合員のニーズをくみ上げJA運営に反映させる)と、事業を革新していく機能(JA事業を取り巻く状況を的確に判断し不断に改革していく)および、経営管理者としての機能(具体的な執行と適切な運営管理)である。
合併JAにおいては、経営管理と業務の高度化・複雑化、社会的責任の増大などに伴うトップマネジメント機能の重要性は高い。中でも経営管理者としての機能を十分に発揮することが不可欠である。その一方で、組合長を補佐する常勤役員や企画管理部署を充実・強化する必要がある。さらに、トップマネジメント機能を強化するため、中央会などの教育機能を活用しつつ、以下により、役員に対する教育研修を実施する必要がある。
① 常勤理事に対する基本教育の徹底と業務分担に応じた専門教育研修を実施するとともに、常勤監事に対し、高度化・複雑化した業務内容を適切に監査するための専門教育研修を実施する。
② 非常勤理事に対しては、経営管理者としての教育研修を重点に、組織リーダーとしての教育研修を実施する。
(2) トップマネジメントの構成
① 常勤理事体制
トップマネジメントの構成は、組合長.専務理事(副組合長).常務理事の3層を基本とする常勤理事体制とする。なお、2001(平成13)年の農協法改正で、信用事業を行うJAの常勤理事は3人以上(うち1人以上は信用事業専任)とされた。
② 経営専念体制の確立
1996(平成 8)年の農協法改正で、信用事業を行うJAの代表理事ならびに常務に従事する役員(常勤役員など)については、行政庁の認可を受けた場合を除き、他のJA・連合会その他の法人の常務に従事し、または事業を営んではならないこととされた。JAのトップマネジメントの社会的重要性に鑑み、代表理事および常勤理事の経営専念体制を確立するということである。
さらに、2001(平成13年)の農協法改正で兼職・兼業に係る行政の例外認可が廃止され、他の組合の経営管理委員、中央会役員、連合会や子会社の非常勤役員(注1)などを兼職する場合を除いて、すべての兼職・兼業が禁止されることになった。
また、常勤役員などについて兼職・兼業の禁止措置が講じられたことに対応して、兼職・兼業が可能な経営管理委員会制度の活用について検討することが求められこととなった。
(注1)非常勤の要件は①勤務時間が短いこと、②報酬が年額100万円以下であることなど。
③ 専務理事(副組合長)の役割
専務理事(副組合長)の役割については、以下の考え方に基づき整理する。
ア 組織代表機能を主とする考え方
組合長の補佐ないし、事故・不在中の代理として位置付ける。
イ 経営管理機能を主とする考え方
組合長は主として組織代表機能を発揮し、専務理事が経営管理機能を発揮するように機能分担を行い、専務理事は専門的経営管理者として、複数の常務理事などを統括し実質的な業務執行機能を果たす。
ウ 将来の組合長養成機能と位置付ける考え方
④ 常務理事の役割と学経理事の登用
常務理事の役割は、組合長の指揮下で経営管理機能を主たる機能として担い、かつ組合長・専務理事(副組合長)を補佐するものである。業務の高度化・複雑化に対応した専門的業務執行を確保するため、学識経験者を理事に登用する。
⑤ 複数常務理事制の導入
合併JAにおいて、業務量の増大や業務の高度化・複雑化に対応した専門的業務執行を確保するため、事業のくくりや経営管理組織の実態に応じ、複数常務理事による業務分担制(信用、共済、経済、管理担当常務など)を敷く。
この場合、事業ごとに業務分担を明らかにするとともに、大幅な権限委譲を行い、日常業務の多くを担当常務理事に任せる。組合長および専務理事は、重要な事項についての意思決定を行い、JA全体の視点から常務理事を指揮監督する。
なお、複数常務理事制を採用する場合は、重層構造や機能重複を生ずることとなるので、参事制は採用しないことが望ましい。
(3) 常勤理事会
複数常務理事制の導入に併せて、常勤理事間の連携強化と日常業務の迅速な意思決定を図るため、常勤理事会を設置し、定期的な情報の交換と調整を行い、JA全体として一貫性ある円滑な業務執行を図る必要がある。
(4) 使用人兼務理事
使用人兼務理事を登用する場合、当初目的を明らかにし、指揮命令系統を混乱させないよう、適格者を適切な秩序をもって選出することが重要である。
このため、使用人兼務理事の選出基準を設定し、実際の選出に当たっては、学経常勤理事の選出に準じて、理事会などで推薦し、総会での選任後さらに理事会で使用人兼務の承認を得ることが必要となる。
使用人兼務理事を活用しようとする場合にあっては、理事の選出方法については選任制を採用する必要がある。併せて、これらの手続によらずに職員が在職中に理事として選出された場合に、使用人兼務理事とならないよう、就業規則の退職事由の整備などを行っておく必要がある。また、使用人兼務理事に対する報酬、とくに退職金についても整理しておく必要がある。
JAに限らず、有限責任でかつ多数の組合員からなる法人にあっては、その構成員である組合員が構成員たる資格において、自らその法人事業の経営にあたることは不可能・不適当であり、総会などにおいて選挙または選任する理事によって構成する機関に任せざるを得ない。JAにおけるこの機関が理事会、すなわち理事の全員をもって構成する会議体の業務執行機関である。
1992(平成4)年の農協法改正前までは、原則として各理事がJAの業務を執行し、JAを代表する権限を有し、理事各自がJAの機関を構成するものとされていたが、現行法では、各理事は業務執行権限および組合の代表権を有さず、業務執行機関としての理事会の構成員となる。日常的な業務執行の機関としては、理事の中から選任した代表理事を置く。いわゆる意思決定と執行の分化である。
理事は、組合員の代理人として、その知識と経験とを生かし、組合員全体の利益のために理事会における業務執行に関する意思決定に参画し、同時に代表理事などが理事会の決定にしたがって適切に業務執行を行っているかどうかを監督しなければならない。
(1) 理事会の機能と理事の責任
① 理事会の機能
理事会は、組合員の意思(総会・総代会)に基づいて重要な業務執行方針などを決定すると同時に、理事の職務執行につき監督する機能を果たす。また、日常の業務活動についても、理事会によるチェック機能の発揮が求められる。
さらに、理事会が実質的に機能できるようにするため、理事会運営規則などの整備を行う必要がある。
② 理事の責任
理事は、JAに対する忠実義務と業務を執行する理事の監督・指示という重要な職務を負っており、その機能と責任を十分認識し、職務を遂行する必要がある。
また、理事がその機能および責任を十分に自覚し、職務を完全に遂行できるようにするため、理事の職務・行為基準などを定め、理事の理事会出席義務と十分な審議に基づく決定、守秘義務などを徹底する。さらに、研修会などを通じ、理事者としての自覚の啓発と職務遂行能力の向上を図ることが求められる。
とくに合併JAにおいては、JAの社会的影響力の増大に伴い、理事の責任も増大しており、高度化・複雑化した業務について、出身地域の情実などにとらわれない大局的視点での判断と責任ある行動が要請される。
(2) 理事の選出制度
① 定 数
理事定数は、正組合員数、審議可能範囲、少数精鋭を基本に決定することが必要である。JA全中の指導基準では、概ね正組合員500人に 1人程度、多くとも30人程度とされている。最近の例では、支所統廃合に併せて理事定数の削減と選出地区の再編成が課題となることが多い。
② 構 成
理事は、組合員代表、青年部・女性部などの組合員組織代表、学識経験者などで構成するなど、各層から幅広くJA運営に参加する仕組みを確立する。
地域代表理事だけでなく、組合員組織代表や学識経験者などを選出することを考慮すると、理事の選出方法は、原則として選任制度とすることが望ましい。また、役員推薦会議の中に、地区推薦会議、組織推薦会議、理事会推薦会議、全体推薦会議などを設置し、各選出基準を分離・明確化するなどの工夫が必要となる。
また、業務執行の硬直化を防ぎ、理事会を活性化させる観点から、役員定年制・任期制を導入する。
(3) 理事による部門別・課題別専門委員会の設置
運営の迅速化と、専門的審議の場として、また理事会の補助機関として、理事の分担により、部門別・課題別専門委員会を設ける。
ただし、部門別・課題別専門委員会を採用した場合は、自分の担当以外について情報が不足し無関心・無責任になり、常勤理事に対する監視機能の低下につながりかねないという問題がある。また、部門別・課題別専門委員会の意思決定と担当外理事の責任があいまいになりがちなので、その点に留意した運営が必要である。
部門別・課題別専門委員会には、次のようなものがある。
・総務・企画専門委員会
・金融専門委員会
・共済専門委員会
・営農専門委員会
・生活専門委員会
広域合併の進展による組織・事業規模の拡大や規制緩和に伴う競争の激化、とりわけ信用事業における専門性・リスクの増大などの中で、事業・経営を健全かつ安定的に営むためには、専門的能力を有する実務家が業務執行に当たることが求められる。
そして、一定数以上は正組合員でなければならないという理事の資格制限をなくして、経営管理委員会の判断で適任者を理事に広く登用できるようにするとともに、経営管理委員については、組合員の代表として、その 4分の3以上が正組合員でなければならないとされた。
さらに、2001(平成13)年の農協法改正で、①経営管理委員会に理事の選任・解任請求権に加え代表理事の選任権および解任権を付与、② 4分の1以内で正組合員以外の選任を可能、③信連、全農、全共連における経営管理委員会制度の導入が義務化された。
このように、経営管理委員会制度は、JAの業務の複雑化・高度化が進む中で、「JAは組合員のものである」という協同組織の性格を堅持しつつ、日常のマネジメントの的確な遂行を確保することを目的に導入されたものである。
監督と執行を分離して、組合員・会員の代表を中心とする経営管理委員会が、組合の業務執行に関する主要事項を決定し、その管理・監視のもと、日常の業務執行は職務専念できる専門家を理事に充て担当させるものである。
このため、従来の理事会制度のもとでの業務執行体制の強化に引き続き取り組んでいくことを基本に、併せて、JAの実情に応じた新たな仕組みとして、経営管理委員会制度の活用を検討していく必要がある。
(1) 検討の視点
導入に当たっては、農家組合員の協同組織としての基本を堅持しつつ、次の観点から必要に応じて選択的に取り組む。
① 少数精鋭による機動性ある業務執行の確保
理事会を、日常の業務執行に携わる実務家の常勤体制を中心とした少数メンバーによるものとする。
② 組合員の的確な意思反映に基づく業務運営の強化
組合員各層の代表者を幅広く経営管理委員とする。
③ 経営に精通した実務家の常勤理事への登用
経営管理委員会で選任する。
④ 代表理事などの経営専念体制の確保
兼職・兼業が可能な経営管理委員の制度を活用する。
(2) 経営管理委員会を設置した場合の業務執行体制の在り方
① 理事会と経営管理委員会との連携
経営管理委員会が、理事会から独立した機関として、適切な意思決定および監視機能を発揮するには、経営管理委員に適時・適切な経営情報が提供されるとともに、理事会と経営管理委員会が有機的な連携をもって運営されることが重要である。このため、経営管理委員会を月に 1回程度開催し、理事に出席を求め、業務執行状況を説明させるほか、次の点に留意して取り組む。
ア 組織運営との密接な連携を図る観点から、経営管理委員会会長を必要に応じて常勤とした上で理事会への出席(経営管理委員は議決権を有さない)を義務付けるなど、理事会運営面で工夫する。
イ 経営管理委員会への定期的な業務執行状況の報告のほか、経営管理委員会会長などに対して日常の重要な業務執行について速やかに報告する。
ウ 理事長を含め理事の多数は、職員出身者などになると考えられるが、常勤理事 3人以上の義務化(うち1人は信用事業専任)に対応して、部門担当制の導入を図るとともに、必要に応じて、使用人兼務理事の活用を図る。
② 理事の員数
理事の員数は 3人以上と法定されているが、理事長-専務理事-常務理事の3層体制を基本に、使用人兼務理事若干名を加えた体制とし、全体で5~10人程度とする。
○ 理事会と経営管理委員会の比較
理事会 | 経営管理委員会制度を導入した場合 | ||
経営管理委員会 | 理事会 | ||
選出方法 | 選挙または選任 | 選挙または選任 | 経営管理委員会による選任 |
資格 | 3分の2以上は正組合員 | 4分の3以上は正組合員等 | 制限なし |
定数 | 5人以上 | 5人以上 | 3人以上 |
兼職・兼業 | 代表、常勤理事の制限 | 制限なし | 他の法人の職務原則禁止(注) |
権限 | 業務執行についての意思決定、理事の監督 | 業務執行に関する基本方針および定款で定める重要事項の決定、理事の選出、代表理事の選任・解任、系統内の代表機能 | 業務執行についての意思決定、理事の監督、組合の対外的代表機能 |
(注)組合業務の健全かつ適切な運営を妨げる恐れがない場合(省令で明記)は例外的に兼業が認められる。
③ 経営管理委員の員数など
JA運営に組合員の意思を十分に反映させるため、地域代表、生産者組織代表、青年・女性層など各層の正組合員を幅広く充てるとともに、基本委員会(基本方針を検討する)、役員推薦委員会(理事候補を推薦する)、報酬委員会(理事の報酬を協議する)など、機能別の各種委員会を設置する。
(3) 経営管理委員会の標準的構成メンバー
認定農業者を過半数、年齢と性別の偏り配慮、正組合員3/4以上の要件を充たす必要がある。JA運営に組合員の意思を十分に反映させるため、地域代表、生産者組織代表、青年・女性層など各層の正組合員を幅広く充てる例が見られる。
一方、理事は事業・経営の専門家要件のみなので比較的自由に選任可能となる。理事の員数は 3人以上と法定されているが、理事長-専務理事-常務理事の3層体制を基本に、使用人兼務理事若干名を加えた体制とし、全体で5~10人程度とする例が見られる。
(4) 経営管理委員会制度となることで、独自性等が失われるのではないか
経営管理委員会制度は、JAの業務の複雑化・高度化が進む中で、JAは組合員のものであるという協同組織の性格を堅持しつつ、マネジメントの的確な遂行を確保することを目的に導入されたものである。いわゆる監督と執行を分離して、組合員の代表を中心とする経営管理委員会が組合の業務執行の基本方針を決定し、日常の業務執行は専門家たる理事に担当させるものである。基本方針の決定において、組合員代表の意見を十分反映させることが必要である。
理事会制度を採る場合は、代表と常勤理事に兼職・兼業規制が厳しくかかるので、代表・常勤理事が兼職・兼業規制をクリアする場合に、経営管理委員会制度を採用する例も考えられる。
(5) 経営管理委員会制度のデメリット
理事会議案と経営管理委員会議案の重複が多く、屋上屋を重ねる。
監事が理事会と経営管理委員会の両方に出席するので、監事の負担が大きくなる。(平成27年の農協改正で、経営管理委員をおく組合の監事は,経営管理委員会と理事会双方への出席義務が課されており、その負担が加重ではないかとの指摘があったところであるが、経営管理委員をおく組合の監事は、その互選により監事の中から特に理事会に出席する監事を定めることができるものとし(35条の5第 5項等)、監事の負担を緩和することとされた。会社法では監査等委員会設置会社では、監査役の設置を不要としていることから、監事を不要とする制度設計にする ことを検討すべきであろう。)
(6) 留意事項
導入に係る定款変更は、現任理事の任期満了1年前の通常総会などで行う。
非常勤の経営管理委員の報酬は、現在の非常勤理事の報酬を参考に経営管理委員会の開催頻度などを勘案して設定する。
経営管理委員を置いた組合においては、理事の兼職・兼業が原則として禁止されるため、経営管理委員会を代表する者が連合会の役員を兼務する。組合長会議などの諸会議の出席者は、経営管理委員と理事の職務権限に基づき、協議内容に応じてJAの判断により決定することとなるが、2001(平成13)年の農協法改正で、経営管理委員会の会長が、JAグループにおいて組合員・会員の意思を代表する立場にあること(連合会などにおける議決権の行使者であること)が明確にされた。
(1) コーポレート・ガバナンス-企業は誰のものか、JAは誰のものか-
企業は誰のものか。また、誰が企業行動の決定に影響を及ぼしているのか。これがいわゆるコーポレート・ガバナンス(企業統治)の問題である(注)。
(注)コーポレート・ガバナンスは、企業のコントロールに係る権利と責任の構造をいう。新古典派経済学では、企業の究極の支配権は株式市場で取引されると考える。日本では、企業のコントロール権は株主と従業員で分有されると考えられる(青木昌彦、奥野正寛編著『経済システムの比較制度分析』東京大学出版会、1996年4月)。
上場企業に適用が始まったコーポレート・ガバナンス・コードにおいては、コーポレート・ガバナンスとは「会社が株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」であり「持続可能な成長と中長期的な企業価値向上のための自律的な対応を図る仕組み」と定義しており、ステークホルダーモデルに立っていることが分かる。このように、CSR(企業の社会的責任)の議論とともに、ステークホルダーモデルが標準になりつつあると考えられる。
(2) 一般企業におけるコーポレート・ガバナンス
わが国のコーポレート・ガバナンスは、①メインバンク制(大きな融資シェアを持つ銀行が長期・総合的な取引関係を維持し、株式保有、役員派遣などの人的関係を構築すること)(注)、②株式持ち合い(株式から得られる配当収入より取引関係の維持・強化を主目的に、法人が安定株主として株式を長期保有すること)、③サイレントパートナー(物言わぬ株主)、④内部昇進者優位の取締役会に代表される伝統的な日本型ガバナンスによりゆがめられてきたとされる。
(注)メインバンクには、次の 5つの機能があるとされる(青木ほか前掲書)。①貸出、②決済口座、③株式保有、④社債発行、⑤経営参加
このような批判を受けて、株主や投資家に対する広報の充実(インベスターズ・リレーションシップ、IRと略称される)やディスクロージャーが充実してきた。
コーポレート・ガバナンスは、企業不祥事の頻発に対応し、社外取締役・社外監査役の導入をはじめとして、コンプライアンス体制の一環として議論されるようになってきた。コンプライアンスは、狭義には法令遵守と解釈されているが、近年では企業倫理を含む広義なものとして解釈されている。企業は、法令遵守のみならず、経営の健全性・適正性を確保し社会からの信頼を得るような活動が求められていると言えよう。
企業のメインバンクは、平常時には企業行動に影響力を行使することはないが、企業が経営困難に陥ったときには、株主兼債権者として利害関係者間の協調的行動の取りまとめを行い、再建のイニシチブをとる。このように財務悪化の場合に、コーポレート・ガバナンスの主体が、内部昇進の経営者から外部選抜された銀行出身の経営者へと移るケースは、状態依存型ガバナンス(コンティンジェント・ガバナンス)と呼ばれている。
近年は、取締役を10人程度に絞り込み、日常業務に専念する法定外の役員制度である執行役員制度の導入、監査役制度強化を巡る動き、持株会社化・分社化など組織再編の動きが顕著になってきているが、これら一連の動向は、株式会社におけるコーポレート・ガバナンスを改革する動きととらえることができる(注)。
(注)1990年代から2000年代前半の企業行動を観察した結果、業績が好調な時よりも、むしろ業績が一定の水準に満たない場合で組織に問題がある場合に、コーポレート・ガバナンスの真価が発揮されているという。すなわち、資本市場からの圧力という外部ガバナンスと、取締役会のスリム化や社外取締役の採用といったトップマネジメントの構造改革により内部ガバナンスを強化することによって、改革を後押しするようなガバナンスの影響を確認できるという。(青木英孝『日本企業の戦略とガバナンス―「選択と集中」による多角化の実証分析―』2017,中央経済社)
(3) 上場企業におけるコーポレート・ガバナンス改革の動き
金融庁の有識者検討会によって、2014(平成26)年2月に「『責任ある機関投資家』の諸原則(日本版スチュワードシップ・コード)」としてスチュワードシップ・コード(以下SSコードと略す)が策定された。このコードの受入を表明した機関投資家は、SSコードの各原則に基づく一定の公表項目について毎年公表し、金融庁に通知することとされた。SSコードは、機関投資家に対し、企業との対話や株主総会での議決権行使等を通じた責任ある行動を促す。機関投資家が議決権行使などで投資先企業の行動に影響を与えるような対話は、「エンゲージメント」(目的を持った対話)と呼ばれている。
コーポレート・ガバナンス・コード(以下CGコードと略す)は、2015(平成27)年3月に金融庁の「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」により原案が作成され、東京証券取引所において、関連する上場制度の整備が行われ、同年6月1日から適用された。具体的には、コーポレート・ガバナンスに関する報告書に、CGコードの実施に関する情報開示を義務付け、CGコードに記載された原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を明記するものとされた(注)。また、CGコードに沿った取締役会運営をすることで、判例でいう経営判断の原則(注)の適用を受けやすくなると期待されており、「意思決定過程の合理性を担保」することを通じて「上場会社の透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促す効果を持つ」(CGコード4章取締役会等の責務)。CGコードは、経営者に対し、会社の持続的な成長のために企業家精神を発揮することを促す。
(注)原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明することを「Comply or Explain」(コンプライ・オア・エクスプレイン)と呼んでいる。
(注) 取締役の行った経営上の判断が合理的で適正なものである場合は、結果的に会社が損害を被ったとしても、裁判所は取締役の経営判断については干渉せず、当該取締役も責任を負わないという原則。要件は、①具体的な法令・定款違反がないこと、②経営判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがないこと、③経営判断の過程・内容が著しく不合理でないこととされている。
CGコードの概要 | ||
基本原則 | 主な内容 | |
株主の権利・平等性の確保 | 株主総会における権利行使に係る適切な環境整備 | |
株主の政策保有に関する方針を開示、取締役会で検証 | ||
ステークホルダーとの適切な協働 | ステークホルダーに配慮した経営理念の策定 | |
女性の活用を含む多様性の確保 | ||
適切な情報開示と透明性の確保 | 役員の指名や報酬に関する情報の開示 | |
取締役会の責務 | 独立社外取締役を2名以上選任 | |
各役員にトレーニングの機会を提供 | ||
株主との対話 | 株主の面談申込に合理的な範囲で前向きに対応 | |
(資料)新日本有限責任監査法人『信用金庫・信用組合の監事監査実務』経済法令研究会、2017年1月15日 | ||
監査役の基準等についてのガバナンスは、守りのガバナンスと呼ばれている。一方、短期利益指向の投資行動(ショートターミズム)から長期的価値を生む投資を厚くする中長期目線の投資行動を奨励するようなガバナンス改革の動きは、攻めのガバナンスと呼ばれている(注)。
(注)武井一浩「コーポレートガバナンス・コードへの対応」『日経研月報』2015年10月号、一般社団法人日本経済研究所
SSコードとCGコードのダブルコードが車の両輪となり、コーポレート・ガバナンスの強化を目的の1つとする2014(平成26)年改正会社法とともに、企業価値の向上という目標に向けて、上場企業を中心にコーポレート・ガバナンス改革の動きが加速している(注)。
(注)神作裕之「ダブルコード適用下のコーポレートガバナンスにかかわる制度面の動向」『商事法務』No.2101、2016年5月25日
(4) JAにおけるコーポレート・ガバナンス
これまでJAの場合、コーポレート・ガバナンスが議論されることは少なかった。これは、問題意識が薄いということではなく、解答が理念的にも現実的にも明確なためであろう。
すなわち、JAは組合員のものであり、組合員代表(いわゆる組織代表)が運営の決定権を持つという現行の在り方(組織者=運営者=利用者という三位一体の側面)に、疑問が投げかけられることがなかったからである。
このことは、協同組合におけるガバナンスモデルについて、組合員が主権者であるからプリンシパル・エージェンシーモデルの立場に立つJA研究者が多いこととも符合する。
1998(平成10)年と2001(平成13)年の農協法改正において、員外監事(農協法第30条第14項、貯金残高50億円以上の場合)、常勤監事(同法同条第15項、200億円以上)、経営管理委員会制度(同法第30条の2ほか)、兼職・兼業の禁止(同法第30条の5)、決算監査手続の整備(同法第36条)、中央会監査(同法第37条の 2)、総会における説明義務(同法第46条の2)が措置された。員外監事と常勤監事の制度は、会社法に準じた改正であり、JAの社会的影響力の増大を反映し、法制度上も大企業に準じる措置をとったものと考えられる。
農協法改正で導入された経営管理委員会制度は、ドイツ株式会社の監査役会制度にならったものと言われている。ドイツの株式会社制度は、監査役と取締役を完全に分離し、監視機能を監査役会、執行機能を取締役会に委ねて、執行と監視を完全に分離する 2層型のモニタリング・モデル(注)である。
アメリカの株式会社制度では、CEO(Chief Executive Officer 最高経営責任者)などのトップ層2~3人が取締役を兼ね、残りの取締役はすべて社外取締役という単層型のモニタリング・モデルである。
(注)業務執行の監督機能を重視するモデルをモニタリング・モデルといい、業務執行の意思決定機能を重視するモデルをマネジメントボード・モデルという。
JAの経営管理委員会は、日常業務の執行を実務家の理事に委ねており、理事の監督、重要な経営方針の決定、利益相反取引のチェックに専念する。このため、理事の選任、総会への解任請求権、代表理事の選任・解任権、組合と理事との契約の承認権、決算書の承認権が経営管理委員会に留保されたと考えられる。
ただし、理事をよりよく監督するためには、JA経営を評価するための制度や会計情報の入手など、具体的な仕組みを構築していく必要がある。
また、JAが経営難に陥った場合は、JA自体が金融機関であるという性格上、通常は中央会が再建のイニシアティブをとることが多い(注)。
(注)JAバンク法の施行に伴いJAにおける信用事業の指導機能がJAバンクへ付与されるとともに、コンティンジェント・ガバナンスの主体が中央会から農林中央金庫(JAバンク中央本部)へ移行しつつある。その意味では、コンティンジェント・ガバナンスを皮切りに、協同組合固有のガバナンスから一般企業のガバナンスに近づきつつあるとみることができる。
通常時の経営の主体は、トップマネジメントの 3層構造(代表権を持つ組織代表2層と代表権を持たない学経常務による構造)を主体に、理事専門委員会、支所運営委員会などが担っていると考えることもできる。
このような運営の在り方は、協同組合的企業統治(コーポラティブ・コーポレート・ガバナンス)(注)と呼ぶことができる。今後は、JAの大規模化や統合連合組織の形成、子会社化の動向などを踏まえ、JAグループ全体を通じたコーポレート・ガバナンス(グループ・ガバナンス)の在り方が問われてこよう。
(注)中央大学の遠山信一郎は「コンプライアンスと経済合理性という二つの原則に従った株式会社経営を統治するのがコーポレート・ガバナンスであり、コンンプライアンス・経済合理性・相互扶助の三つの原則に従って協同組合経営を統治するのが協同組合の組合員の意思に基づくメンバーシップ・ガバナンスである」(遠山信一郎「株式会社と協同組合との法制的交錯-農業協同組合を一例として-」)とする。
(5) 政府によるガバナンスへの関与
2015(平成27)年の農協法改正は、JAの地域性を否定し、農業関連事業へ経営資源を傾斜することを強制すべく、経営の裁量権や私法人のトップ・マネジメントに政府が関与する改正となった。
具体的には、理事の定数の過半数は、原則として、認定農業者または農畜産物の販売その他の事業もしくは法人の経営に関し実践的な能力を有する者でなければならないとされた(農協法第30条第12項)。また、経営管理委員を置く単位農協にあっては、経営管理委員の過半数は原則として認定農業者でなければならないものとするとともに、理事は農畜産物の販売その他の事業または法人の経営に関し実践的な能力を有する者でなければならないこととされた(同法第30条の2第4項、第7項)。現実的には、地域において具体的な選出過程の中で議論が進むことになるが、地域への貢献も含めた総合的な観点からの議論が望まれるところである。
なお、行政の監督指針においては、次のように表現されている。
組合員への最大奉仕という目的に合致し、農業所得の増大に最大限配慮をした事業運営を実現するとともに、その前提となる経営管理を有効に機能させるためには、経営管理委員会会長(経営管理委員会会長に準ずる職を含む。以下同じ。)・経営管理委員・経営管理委員会(経営管理委員会及び各役職を設置している組合に限る。以下同じ。)、代表理事・理事・理事会・監事・監事会(監事会を設置している組合に限る。以下同じ。)及びすべての職階における職員が自らの役割を理解しそのプロセスに十分関与することが必要となるが、その中でも、経営管理委員会会長・経営管理委員・経営管理委員会、代表理事・理事・理事会及び監事・監事会が果たす責務が重大である。 また、平成27年改正法では、農協の理事について、その定数の過半数を原則として「認定農業者」又は「農畜産物の販売その他の当該農協が行う事業又は法人の経営に関し実践的な能力を有する者」(以下「実践的能力者」という。)とすること(法第30条第12項、第30条の2第4項及び第7項)、年齢や性別に著しい偏りが生じないように配慮すること(第30条第13項、第30条の2第4項)が規定されたところであり、これらの規定に適合した役員体制とすることはもとより、農協が、農業所得の増大に向けた経済活動を積極的に行っていく観点から、役員体制をどうするかなどについて、組合員と農協の役職員との間で徹底した議論が行われることが重要である。 |
(資料)「系統金融機関向けの総合的な監督指針」Ⅱ組合の監督上の評価項目1-2-3役員体制(平成28年4月金融庁監督局・農林水産省経営局平成28年3月31日付金監第781号・金監第961号・27経営第3423号金融庁監督局長・農林水産省経営局長通知)
政府レベルによるガバナンスへの関与は、JAグループに限られるわけではない。戦後のGHQによる大企業の経営者の追放をはじめ、近年では監査等委員会設置会社(会社法第399条の2)という新しい機関設計、社外取締役の設置(同法第327条の2)など、ガバナンスに関する一定の義務付けが行われ、政府が関与してきた(注)。
上場企業に適用が始まったコーポレートガバナンス(CG)コードや機関投資家を対象としたスチュワードシップ(SS)コードの導入は、先の会社法の内部統制システム強化の改正と併せて、ステークホルダー・モデルを指向するガバナンス改革の動きを加速するものである。
一方、先の農協法改正は、これら上場企業のガバナンス改革の動きと対照的に、事業目的・理事構成等を改正し、認定農業者等をガバナンスの中核とするプリンシパル・エージェンシー・モデルに回帰する改正となった。
農業者の所得増大というプリンシパルと地域への貢献というステークホルダーとの間で、改めてガバナンスの重要性が見直されている。上場企業におけるガバナンス改革の動きに注視しながら、JAグループを巡る環境変化に対応できるガバナンスとは何か、検討する必要がある。
(注)大杉謙一「変化するコーポレート・ガバナンス」『商事法務』No.2109、2016年8月25
日)なお、プリンシパル・エージェンシーモデルは企業は株主のものであって、経営者は株
主(主権者・プリンシパル)の代理人(エージェンシー)としてとらえる。ステークホルダ
ー・モデルは企業は株主だけのものではなく、従業員、取引先、債権者、地域社会などの利
害関係者(ステークホルダー)のものであり、経営者はこれら利害関係者の調整人ととらえ
る。
(資料) JA全中「農業協同組合法等説明資料 参考資料」(平成27年12月)を一部修正。
Ⅴ 経営管理委員会制度の問題点と今後の対応方向について
1.経営管理委員会制度導入の経緯
農協法の改正により経営管理委員会制度が理事会制度との選択制で導入されたのは、1996(平成8)年のことである。経営管理委員会制度が導入された直接的な背景には、当時全国的な問題として世間を揺るがした住専問題があった。
住専問題とは、JAはもとより全国の金融機関が当時のバブル経済の波に乗り、金融緩和でだぶついた資金を不動産関連投資に傾注し、その結果、バブル経済の崩壊によって多くの金融機関(JAグループの場合、出資する住宅専門会社)が資金回収困難の状況になり、多額の損失を抱えることになったことをいう。
住専問題は、1990年代の初頭に発生したバブル経済崩壊後の日本経済の根本問題であったにもかかわらず、他の金融機関に先駆けて住宅専門会社に6,850億円におよぶ公的資金が投入されたこともあって、「住専問題は農協問題」などとして激しい農協批判が行われた。
当時、マスコミは連日この問題を報じ、テレビには担当の高野全中常務(当時・全農出身)が呼び出され、JAに対する集中攻撃が行われた。当時のJA関係者は、今ではほとんどがOBとなっており、当時の状況を知る人は少ないが、そのすさまじさは想像を絶するものがあった。
住専問題は、当時の日銀の三重野総裁がバブル経済を転換すべく、不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑える総量規制など、急激な緊縮政策への転換を行ったことに伴う副作用であり、この政策は、その後の日本経済の失われた20年、30年に続く金融政策の失敗とされている。
この結果、JAに続いてメガバンクをはじめとする金融機関に何10兆円もの公的資金が投入されることになったのは周知の事実であり、住専問題は農協問題であるなどという農協叩きが、いかに恣意的なものであったかを証明することにもなった。
ともあれ、JA関係については、当時の堤経営局長はじめ農水省幹部が連日のように国会に呼び出され、追及を受けることになった。
追及の矛先は、企業統治(ガバナンス)のあり方に向けられた。とくにJAについては、遅れた経営というイメージが強く、経営における監督と業務執行の線引きが不徹底なことによりこうした事態を招いているのではないかとの疑念が持たれた。
この点につて、JAは協同組合組織であったこともあり、JAはようやく、1992(平成4)年の農協法改正において、理事全員が組織を代表する民法適用の社団法人のガバナンスから、商法(のちの会社法)の全面準用による代表理事制によるガバナンスへと大転換をはかったばかりであった(注)。
(注)余談だが、こうした戦後最大のJA経営の大転換を実務面で指揮したのは、当時農水省協同組織課の法令班長を務めた大村秀章氏(のち自民党国会議員・現愛知県知事)だが、同氏は今回の中央会制度の廃止には極めて懐疑的な姿勢を示している。
ともあれ、そこでその対応策として考えられたのが、ドイツで行われていた経営管理委員会制度の仕組みであった。ドイツで行われている経営管理委員会の仕組みは、経営を監督する監事会と業務執行を行う理事会との役割分担を明確にすることを狙いとするものであったが、日本においてもこのような仕組みをJAに導入しようとしたのが経営管理委員会制度の仕組みであった。
こうした経緯を見れば、経営管理委員会制度の導入は、つまるところ国会審議、言い換えれば国民のJA批判に対する対応の苦肉の策(落とし前)として登場してきたという色彩が強いものであったと言うことができよう。
この点について、当時の農水省も経営管理委員会制度の導入に対し全幅の自信を持っていたわけではなく、全中に対して導入の是非・功罪について意見を求めたが、当時のJAグループは、このことについて、明確な判断を持ち合わせていなかったのが実情である。当時のJAグループ内の状況は、経営管理委員会制度の内容よりは、いかに国会審議でJA批判の矛先をかわすかということに関心が向けられた。
経営管理委員会制度の導入が理事会との選択制になったことは、こうした事情によるものと考えられる。
経営の高度化により、監督と業務執行の分離は必然のように思えるが、その方法は組織によって一様ではない。JAの場合、経営管理委員会導入当時の判断として、とるべき方向は大略二つの方法があった。
一つは、監督と業務執行の分離を行うため、経営管理委員会制度を導入する方法と、もう一つは、もともとJAの理事会は、組合員による経営の監督機能を強く持っている経営管理委員会的な仕組みであり、業務執行の専門性を持つ常勤理事体制を強化すればいいという方法である。
以上のような経緯を見れば、前述のような住専国会への対応として経営管理委員会制度を選択制として導入するという措置はやむを得ないことであったとしても、これからのJAの対応としては、後者の方法、つまるところ、現在の理事会制度の下で業務の専門性を確保する常勤理事体制の強化をはかることが基本になるべきと考えられるのではないか。
以上のような経緯を踏まえ、経営管理委員会制度の問題点と今後の対応について考えて見たい。
まず問題点であるが、それは何といっても協同組合たるJAにおいて、経営の監督と業務執行を判然と区別していいかどうかという問題である。
経営の高度化により、経営の監督と業務執行を分離してその責任の所在を明らかにして利用者の安心と付託に応えるということは、それなりの説得力を持つ。
日本の場合においては、バブル経済の破綻とその反動により、企業経営において多くの不祥事が発生した。農業関連でいえば一連の食品偽造事件の多発であり、2000(平成12)年に発生した乳製品製造業大手の雪印の集団食中毒事件は記憶に新しい。
こうした事情もあって、企業統治のあり方として経営の監督と業務執行を判然と区別する、商法による委員会等設置会社の仕組みが考えられ、現在、上場会社を対象としてこの仕組みを採用する会社が増えてきているという。
委員会等設置会社においては、取締役会によって三つの委員会が設置され、経営の監督と業務執行は完全に分離される。三つの委員会とは、①指名委員会、②報酬委員会、③監査委員会であり、①の指名委員会で執取締役候補者を決め、取締役会が決めた会社の基本方針に従って執行役が業務執行の決定を行い、会社の業務を執行する。②の報酬員会では、取締役・執行役の報酬が決められ、③監査委員会の設置により、監査役は置かれず、監査委員会がその役割を果たすことになる。
取締役会は会社の経営の基本方針の決定を行うとともに、執行役等の職務の執行を監督する。その方針に従って執行役が業務執行の決定を行い、会社の業務を執行する。監督と執行を分離しようという趣旨である。
JAの場合も、一般企業と同じ運営が適当と考えれば、経営管理委員会制度を採り入れた後、行く行くはこうした委員会等設置会社の仕組みを取り入れ、監督と業務執行を完全に分離すればいいということになりかねない。
この点について、もともと協同組合はゲマインシャフト(共同体)とゲゼルシャフト(機能体)の性格を合わせ持つ、ゲノッセンシャフト(協同体)としての組織特性を持つ組織であり、JAもその例外ではない。
協同組合たるJAは、組合員ニーズの充足とその社会的責任を果たすために、自らの組織特性を発揮できる組織運営を行ってこそ、その役割を果たすことができる。
経営管理委員会制度は、JAの業務の複雑化・高度化が進む中で、「JAは組合員のものである」という協同組織の性格を堅持しつつ、日常のマネジメントの的確な遂行を確保することを目的に導入されたものである。監督と執行を分離して、組合員・会員の代表を中心とする経営管理委員会が、組合の業務執行に関する主要事項を決定し、その管理・監視のもと、日常の業務執行は職務専念できる専門家を理事に充て担当させるものである。
JAの実情に応じた新たな仕組みとして、経営管理委員会制度の活用を検討していく必要があるものの、協同組合たるJAのガバナンスのあり方としては、従来の理事会制度のもとでの業務執行体制の強化に引き続き取り組んでいくことが基本となるのではないか。
JA運営においては、会員たる組合員の監督・方針決定のもと、業務執行は専門性を有する者に任せるとしても、両者が微妙にバランスをとっていくことが肝要と思われ、とくに、JAにおいては、組合員の意志反映が行われることに重きを置いた経営を心掛けるべきである。
なお、両者のバランスをとることは、監督と業務執行の完全分離をめざし、営利至上を旨とする上場企業においても留意すべきことであろう。
次に、現に経営管理委員会制度を取り入れているJAにおいて、その問題点について考えて見る。
この点について、分析する視点や内容について多くのことが検討されなければならないが、とりあえず、前述のJAとぴあ浜松でまとめた、経営管理委員会制度のメリット・デメリット(農水省・全中の導入JAアンケート調査)をよりどころにして考えて見る。
繰り返しになるが、この調査結果としてメリットは、①理事会の開催が機動的に行えるようになった。②理事会で専門的な検討がすすみ、かつ迅速な意思決定ができるようになったとある。
また、デメリットとして、①経営管理委員と理事の役割分担が明確でないため、実際に運用してみると、会長と理事長の職務分担がしにくい。(⇒権限の二重化)、②会長と理事長の意思疎通がうまくいかない、③経営管理委員会の会長は、JAグループ内でJAの代表機能を担っているが、日常の業務執行に関わりをもたないと機能しにくい部分がある、④経営管理委員会の協議事項・報告事項の多くが理事会と重複することから、経営管理委員会の開催頻度を多くせざるを得ない、⑤経営管理委員会と理事会を毎月開催しているため、資料作成など事務負担が多くなっている、⑥理事会が形式的なものとなり、監事への説明の場になっている、⑦経営管理委員会制度に移行したことに対する理解が十分でなく、業務執行の細部まで自分の考えを押しとおそうとする委員がいる、⑧委員の中には、(学経)理事にJAの経営をとられてしまうといった感情を持っている人がいる、⑨経営管理委員が監督機能を色濃く持つなら、監事は不要との声が出ている。
このアンケート調査の結果を見れば、経営管理委員会制度を導入するかどうかの判断は歴然である。結論から言えば、あえて経営管理委員会制度を入れる必要はなく、監督と業務執行の分離は、理事会制度の下で常勤理事体制の強化をはかることでその目的を達成することができる。
本来の制度設計の考え方からすれば、経営管理委員会の下での理事会は不要なものである。経営管理委員会のもとに理事会を置き、経営管理委員会と理事会を併用する経営管理委員会制度は、デメリットで指摘されているように必然的に屋上屋の組織となり、統治の二重構造を生み出すことになる。
経営管理委員会制度と理事会制度の選択制が導入されてからすでに24年が経過しているが、JAで経営管理委員会制度を採用しているのは1割にも満たず、多くのJAが導入にためらいを見せているのは、協同組合たるJAにおいてこの制度が必ずしも適切とは考えられていない証左であろう。
とくに、経営管理委員会制度のメリットである、①理事会の開催が機動的に行えるようになった、②理事会で専門的な検討がすすみ、かつ迅速な意思決定ができるようになったということについては、経営管理委員会制度を採用しなくても、理事会制度の下で常勤理事体制を強化することで簡単にクリアすることができる。
また、経営管理委員会制度の導入によって役員数(とくに理事数が)の節減がはかれるという指摘もあるが、これは本質的なことではない。
経営管理委員会制度の下での経営管理委員と理事の関係は、理事会制度の下での理事と常勤理事の関係に置き換えることができ、役員のうち、監督する者と業務執行にあたる者およびその総数は同じ概念で考えその適正数を決めればよいだろう。
さらに、代表権を持つ理事の他組織との兼職禁止の問題は、代表権が重複しない別途の措置を講ずることで解決が可能である。むしろ、経営管理委員(長)が代表権を持たないことによって連合組織等のトップを無制限に兼務し、そのことによる組織運営の形骸化を心配すべきであろう。
このように見てくると、組合員の意志を尊重する単位JAにおいては、JA規模の大小にかかわらず、否、県域JAなど、むしろ規模が大きくなればなるほど組合員主体の組織運営の本旨に立ち返ることが重要で、現行理事会制度の下での常勤理事体制の強化の方向を追求していくことが求められる。
なお、単位JAの二次組織たる連合組織においては、法律によって経営管理委員会制度の導入が義務付けられている。連合組織は一般の上場会社等と互角以上に渡り合わなければならいとして、監督と業務執行の分離がことさらに必要としても、組織の顔として代表権を持つ者が誰かをイメージできるのは極めて重要である。
今後の連合組織のガバナンスのあり方として、今後とも検討が必要な所以である。
(付)経営管理委員会制度についての諸報告を踏まえて
多木誠一郎 (taki@res.otaru-uc.ac.jp)
1.制度間競争に完敗
経営管理委員会制度が導入されたのは1996年(平成8年)法改正による。導入から20年以上経過しているにもかかわらず、同制度を採用している総合農協数は43組合であり、調査対象組合657組合の僅か6.54%に止まっている(農林水産省経営局協同組織課編「平成29事業年度総合農協統計表(電子版)」(2019年6月25日公表)から算出。政府統計の総合窓口(https://www.e-stat.go.jp)から検索(2020年1月12日最終閲覧))。伝統的理事会制度との制度間競争に完敗しているといえる。経営管理委員会制度は使い勝手が悪いものであると推測しうる。
2.モニタリング・モデルとしては不徹底
経営管理委員会制度は(農協34条)、監督と業務執行を分離しようとするものである(本報告書29・31・35頁。本報告書の頁は2020年2月2日現在)。いわゆるモニタリング・モデルの考え方によって設計された制度である点で、会社法上の指名委員会等設置会社における制度と共通する(会社2条12号)。
モニタリング・モデルにおける取締役会・経営管理委員会の理想型は、純粋な監督機関である。業務執行の決定を取締役会・経営管理委員会はする。しかし経営の基本方針をはじめとする戦略的事項の決定に限られ、一般的な業務執行(個々の業務執行)に関する決定及び業務執行は経営者である執行役・理事(会)に大幅に委ねるのである(会社416条1項・2項・4項、農協34条3項)。
このような理想型に照らすと、経営管理委員会制度には不徹底なところもある。例えば重要な財産の処分・譲受けという一般的な業務執行の決定を、会社法上の指名委員会等設置会社では取締役会は執行役に委任できる(会社362条4項1号・416条4項)。これに対して経営管理委員設置組合では経営管理委員会が必ず決定しなければならない(農協34条3項)。モニタリング・モデルの予定する監督と業務執行の分離が徹底していない。
とはいうものの指名委員会等設置会社においても、一般的に指摘されているように別の意味で分離が徹底していないところもある。例えば執行役と取締役の兼任が明文で許容されている(会社402条6項)。この点では経営管理委員と理事の兼任が禁止されている経営管理委員会制度の方がモニタリング・モデルの理想型に近い(農協30条の5第2項)。
明定されていないが経営管理委員会は理事の職務執行を監督する権限を有すると解する(多木誠一郎『農業協同組合法』(全国農業協同組合中央会、2013年)216頁)。究極的には人事権行使によって理事を監督する(農協30条の2第6項・34条7項・35条の3第1項)。理事の職務執行を監督することを職務とする監事は(農協35条の5第1項)、経営管理委員設置組合でも必要機関である(農協30条1項)。経営管理委員会と監事がする理事に対する監督のあり方は異なるであろうが、両者の職務の重複は否めない。それゆえ両者の権限調整という新たな問題点も生じうる。会社法上の指名委員会等設置会社で監査役を置くことができないとされているのと対照的である(会社327条4項)。
監事を存置したまま経営管理委員会を置くことについて屋上屋を架す、あるいはより直截に監事は不要であるという意見(本報告書6・7頁)が出るのも無理からぬことである。
4.曖昧な制度導入趣旨
屋上屋を架すとも評される制度はどのようにして生まれたのか。経営管理委員会制度はドイツ株式会社の監査役制度(ドイツ協同組合の監事会制度と言ってもよいであろう。)に倣ったものと報告されているが(本報告書34頁)、そのような理解は適切か。
経営管理委員会制度を導入した1996年(平成8年)法改正まで、協同組合のガバナンスとして経営管理委員会制度(及びそれに類似する制度)について本邦で議論されたことは私見ではない。初めて登場したのが、同法改正の内容を決定付けた農政審議会報告「信用事業を中心とする農協系統の事業・組織の改革の方法(1996年8月1日付け)」における次の記述である。「ドイツやフランスの農協系統金融機関では、組合員代表から成る監督委員会又は管理委員会【Aufsichtsrat】を設け、この委員会が実務家を理事【Vorstandsmitglied】に任命し、日常的業務執行を任せるという制度で対処しているところであり、我が国においても、こうした制度を参考にして検討する必要がある」(同報告Ⅲ4(4)⑤。【】内原語は筆者が挿入)。組織代表(正組合員の代表)が業務執行者をコントロールするための機関として経営管理委員会の新設を提言したのである(農林水産省経済局農業協同組合課編「農協改革・改正事項の解説」農業協同組合経営実務52巻10号15・16頁(1997年)15・16頁参照)。
少なくともドイツ(フランスについて筆者は知見を持ち合わせていない。)では、確かにAufsichtsratがVorstand(理事会)の構成員である理事を任命して、業務執行を任せるガバナンス制度が一般的である。しかし①このような制度のもとでは、わが国の監事に比肩する機関は設けられていない。加えて②同制度はドイツ協同組合法が用意したデフォルト・ルールではなく、定款自治で一般に普及しているに過ぎない。デフォルト・ルールはわが国の伝統的理事会制度に類似する。Aufsichtsrat・Vorstandの構成員である監事・理事を総会が選出して(ドイツ協同組合法24条・36条1項)、業務執行をするVorstandをAufsichtsratが監査するのである(訳語の問題について、多木誠一郎『協同組合における外部監査の研究』(全国協同出版、2005年)48頁・63頁注(31))。
農政審議会報告では「参考」と記されているように、ドイツの制度をいわば平行移動するという非科学的な手法が提唱されたわけではない。そうではなくドイツの制度を参考にしてわが国の実態に合うように修正するというオーソドックスな比較法的アプローチを提唱したのであろう。しかしなぜデフォルト・ルールではない定款自治で採用されている体制を、更には監事を存置したまま経営管理委員会を農業協同組合法に導入したのか、その理由は明らかではない。
経営管理委員会制度は、ドイツやフランスの制度を参考にして設計したとされているが、少なくとも単層式(米国)でも、二層式(ドイツ)でもないわが国特有の制度というべきではなかろうか。理事を監督する機関として、経営管理委員会とともに監事を設置することにどのような意味があるのか。それどころか経営管理委員会と監事がどのように理事の監督を分担するのかが不明確になるという問題点が新たに生じるのではなかろうか。これとは別に業務執行の決定について、経営管理委員会と理事会がどのように分担するのかも不明確なようである(本報告書6頁参照)。経営管理委員会の権限については不明確な点が少なくなく、このことも同委員会の採用が進まない原因の一つになっていると推測しうる。
経営管理委員会会長を必要に応じて常勤としたうえで理事会への出席を義務付けるというという提案がなされている(本報告書29頁)。経営管理委員会に理事に対する調査権がないことが短所として挙げられている(本報告書8頁)。これら二つの意見が前提としているのは、経営管理委員会も監事と同じようにリアルタイムで直接、監査対象である理事を自ら調査することが望ましいという考え方であろう。
しかし経営管理委員会が理事に対する監督権限を有すると解する以上、理事に対する調査権が経営管理委員会に全くないという解釈は導き出せないであろう。もっとも経営管理委員会による調査のあり方は――経営管理委員会と監事にかかる次の二つの相違点を考慮に入れると――監事のそれとは自ずと異なるものになるであろう。一つは監事と異なり(農協30条15項)、経営管理委員には法律上常勤者は予定されていない。他の一つは監事の調査・報告・是正権限に比肩する具体的・詳細な権限は経営管理委員会に付与されていない。すなわち監事と同じようにリアルタイムで直接自ら調査するという上記考え方は本来的に予定されていないといえそうである。むしろ内部統制システムを活用して得られた情報をもとに、経営管理委員会(会議)の場で理事を調査することになるであろう(農協34条4項)。経営管理委員会制度がモニタリング・モデルを理想型としている点に照らすと、このような調査を通じた監督のあり方にも一定の合理性を認めうる。
6.経営管理委員会制度における監事監査の相違点
伝統的理事会制度おける監事と経営管理委員会制度における監事は、同じく理事の職務執行を監査することを職務とするが(農協35条の5第1項)、例えば次のような二つの相違点がある。第一に、理事の選出に対する監査である。伝統的理事会制度では理事の選出は監事監査の対象ではない。理事は総会内外で正組合員が選出するが(農協30条4項・10項)、組合員の行為には監事監査は一般には及ばないからである。これに対して経営管理委員設置組合では理事の選出は、経営管理委員会の権限に属する(農協30条の2第6項)。経営管理委員会において、各経営管理委員が善管注意義務を尽くして理事候補者を審査したうえで理事を選出しているのかを、経営管理委員会の職務の執行も監査する監事は監査しなければならない(農協35条の5第1項)。
第二に、理事会への出席義務の免除についてである(本報告書30頁)。経営管理委員設置組合では、監事の互選によって、監事の中から特に理事会に出席する監事を定めることができる(農協35条の5第5項→会社383条1項但書)。主として員外・非常勤監事の職務軽減をするために一部の監事に理事会出席義務を免除する趣旨であると考える。
出席義務免除は会社法の規定を準用する形で定められている。会社法では「特別取締役による取締役会(いわばミニ取締役会)」についてのみ、一部の監査役に出席義務を免除することが許される(会社383条1項但書)。通常の取締役会への出席義務の免除は許されない。ミニ取締役会で決議できる事項は、通常の取締役会で決議すべき事項のごく一部に限られる(会社373条1項)。ミニ取締役会は、重要な財産の処分・譲受け、多額の借財といった日常業務的色彩の濃い事項の決定を一部の取締役に委ね、取締役会はより基本的な事項の審議に専念することを可能にするためのものなのである(江頭憲治郎『株式会社法』(有斐閣、第7版、2017年)422頁)。
これに対して経営管理委員設置組合において一部の監事に出席義務免除が許される理事会で決議される事項は、ミニ取締役会で決議される事項とは質・量とも異なる。理事会への出席義務免除が許される場合であっても当該理事会で決議される事項は、理事会が本来的に有している決定事項すべて、言い替えると業務執行・理事の職務執行の監督に関する決定事項すべてである(農協32条3項。もっとも農協34条3項による制約あり)。日常業務的色彩が濃くない事項も広範に含まれうるのである(とりわけ業務執行の決定を大幅に理事会に委ねるというモニタリング・モデルの理想型に忠実な場合)。してみれば各監事が理事会(会議)に出席して、会議の場においてリアルタイムで直接監査する必要性は高いのではなかろうか。
7.仏造って魂入れず
誤解を恐れずにいうと、経営管理委員会制度は「仏造って魂入れず」の状況にあるのではなかろうか。制度はできたものの設計の細部は必ずしも明確ではない。運用上の問題点があることも本検討委員会における諸報告から垣間見られる。まず制度設計上・運用上の問題点をより精緻に把握することから始める。その上で使い勝手がよくなるように法改正すべきではなかろうか。経営管理委員会制度はいずれ消滅する制度であると評する向きが実際界にあることを本検討委員会で知った。しかし株式会社と異なりガバナンスのあり方に選択肢がない組合について、使い勝手がよくなるように改善された経営管理委員会制度を選択肢として用意しておくことは大きな意義が認められるであろう。それにもかかわらず、大改正となった2015年法改正に際して(同改正と残された争点について、多木誠一郎「平成27年農業協同組合法改正とその先」共済理論研究平成27・28年度35頁(2017年))、あるいはその後現在に至るまで、経営管理委員会制度の活性化に向けた議論がどこからも提起されていない。このような状況の中で、本検討委員会で経営管理委員会制度がテーマに設定されたことは活性化に向けた大きな一歩であろう。