阿部四郎著『改訂版 新任役員のための農協法』平成28年4月第2刷、日本農業新聞、660円97頁

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その64

阿部四郎著『改訂版 新任役員のための農協法』平成28年4月第2刷、日本農業新聞、660円97頁

難しい農協法をここまで平易に解説していることに驚いた。本題の通り、新任役員のための入門書として良い本だと思います。この手の易しい解説書が少ないから貴重です。

著者の略歴を引用しておきます。

「1943年大阪市生まれ。農林中央金庫から全国農業協同組合中央会に出向後、移籍。(社)農林放送事業団常務理事、(社)JA総合研究所客員研究貝等を経て、現在、特定社会保険労務士、会社顧問。当社発行「総代会の基礎知識」の著者。」

例によって、チンパンジーがなるほどと思ったところを引用しておきます。農協法は、分かっているつもりでしたが。

「法人は、農業を事業として行っている法人で、仮に農業法人と呼ぶこととします。法人の種類として特に限定はありませんが、農業を経営している、と言えるためには、実質的には農協法に規定されている農事組合法人か、会社(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社)に隕られるでしょう。 NPO法人(特定非営利活動法人)や、一般社団法人というのも考えられなくもないでしょうが。なお、旧有限会社法に基づく有限会社は、平成17年に会社法が成立したことにより、有限会社の新設はできませんが、特例有限会社として、いつでも名称を変更して株式会社になることができるものとされました。

 宗教法人や学校法人で、熱心に農業に取組んでいるところもあるようですが、それらの法人の主たる事業が農業経営である、農業法人であるというのは無理があるようです。

 協同組合は、本来、小規模、零細な生産者あるいは消費者が団結して経済社会における地位・利益を護って行こう、というものですから、余り大規模な法人は組合員として相応しくない、ということになります。そこで、従業員が300人超、かつ資本金・出資金3億円超のものは除かれます(法2①)。」(第1章 組合員、P11)

「組合の場合は、一般の会社とは違って、特別な法律によってその社会的な存在意義を認められているので、権利能力の解釈に関しても裁判例は、より厳しい眼でみるようです。蛇足ですが、このことを組合に対する制約であると考える必要はありません。一般企業とは違う社会的存在意義を認められている故、言い換えると、社会的に期待されているからであると受け止めるべきでしょう。」(第2章 組合の事業、P24)

「事業に関してもう一つ考えておかなければならないのは、「非営利」ということの意味です。平成27年改正前の農協法8条は、「組合は、その行う事業によってその組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行ってばならない」としていました(会員とは、連合会の場合の構成員である単協です)。この規定が組合の事業の非営利を表している、と理解されていました。ところが、平成28年4月1日施行の改正農協法7条1項では、「営利を目的としてその事業を行ってばならない」の部分がなくなり、単に「組合は、その行う事業によってその組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とする」になりました。

 では、組合の事業は非営利ではなくなったのでしょうか。そうではありません。ここで、「営利」という言葉の意味を整理しておく必要があります。営利は、一般的には「利益を挙げること」と理解されています。しかし、営利にはもう一つ、挙った利益を構成員(組合員、株主など)に分配する、という意味があります。株式会社が「営利」であると言われるのは、むしろこの意味です。組合においてもF非営利」はこの意味に理解されるべきです。つまり、組合の事業は、組合員が利用する事が目的であって、その事業によって挙った利益を組合員に分配する事が目的ではありません、というのが組合の事業の「非営利」の意味です。

 協同組合である組合の事業も、現代では、外見上、一般の企業と変わりありません(ことを市価主義等と言っています)。そうすると、一般企業が利益を計上しているならば、組合においても利益が計上されるはずです。もし利益が挙っていないなら、組合の経営のどこかに問題がある、ということかもしれません。しかし、組合はその挙った利益を組合員に分配すること(営利)を目的とはしていないので、株式会社とは違って、出資に対する配当(出資配当)には上限を設けています(法52②)。協同組合である組合といえども、いわゆる資本主義経済の社会に生きている以上、出資に対しては、少なくとも利息程度の配当はしなければならないからです。しかし、それ以上、利益が出たからといっていくらでも配当するというのでは、組合の非営利性に疑問を持たれ、株式会社とどこが違うのか、ということになってしまいます。

 因みに、「営利ヲ目的トスル社団」(商法旧52②)と定義されていた会社(合名会社、合資会社、株式会社、他に有限会社法による有限会社)は、平成17年に成立した会社法の規定では、「営利」という直接の文言はありませんが、勿論、営利性を否定されているわけではありません。

 この関係で利用(分量、高)配当に触れておく必要があります。組合の決算上、利用(分量、高)配当も、出資配当と同じく剰余金の処分として行われるのですが、その性格は、組合員に対する原価の修正である、平たく言えば、貰い過ぎたのでお返しします、というものである、と理解されています。そして、この考え方を法人税においても認め、利用(分量、高)配当した剰余金部分は、法人税法上、損金(経費)として認められています(法5)。

 また、改正農協法では、このことをむしろ奨励するかのような規定を置いています。「組合は、・・・、事業において、‥・高い収益性を実現し、事業から生じた収益をもって、‥・叉は利用分量配当に充てるよう努めなければならない。」(法7③)。(第2章 組合の事業、P24~27)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA