四書混載 郡山市農業振興アドバイザー 今川直人(元全農・全中)

本を読んでいて傍線を引いたりページを折ったりする人は少なくないと思います。あとで読み直すことはしないまでも、目印をつけると、安心して次に読み進むことができます。私はそのページの上か下を三角に折り返すことが多いです。

最近読んだ本で、折り返しがたくさん付いた本が4冊あります。この4冊の中の農業・農協の課題に関係のありそうな事項を、項目ごとに紹介したいと思います。

Ⅰ.農業・農協に関する情報満載の4冊

本のタイトルと著者等は次のとおりです。

①「GDP4%の日本農業は自動車産業を超える」窪田新之助 2015年講談社

②「戦略思考トレーニング」鈴木貴博 2016年日経文庫

⓷「Death by amazon」城田真琴 2018年日経新聞出版社

④「メガバンク 全面降伏」波多野聖 2021年幻冬舎

 以下、次の略称を用います;

①⇒『日本農業』、②⇒『戦略思考』、⓷⇒『アマゾン』、④⇒『メガバンク』

Ⅱ.教訓

本欄の読者に参考にしていただけるのではないか、と考えた事項を五つ取り上げます。適当な言葉がないので『教訓』とします。

教訓1 技術革新・普及への取り組み(「日本農業」)

(1)農業振興・農協経済事業への課題提起

「日本農業」は、豊富な事例を挙げて日本農業の大きな可能性を説いています。

 「第1章 農業を殺した『戦犯』たち」及び「第2章 世界5位を誇ったコメの実力」の二つの課は以下の3課と異なり農政の問題点を指摘しています。例えば、「なぜ趣味の農業を補助するのか」や「耕作放棄地は農水省の自作自演」(ともに第1課)などです。後者の耕作放棄地『自作自演』は、1974年から19年にわたって実施された栃木県北東部の農地造成についての東京新聞の連載記事を引用しています。さらに土木業界への天下りを取り上げています。

 このように「わさび」を利かしている理由が、「はしがき」に次のように示されています。

「社会保障政策と産業政策がそれぞれブレーキとアクセルとなり、両方を同時に強くふみしめる政策が展開されてきた。…

 ただ、ようやくここにきて農政トライアングルは影を潜める。…彼らの力の源泉となっていた零細な農家の大多数が撤退するからだ。…農政の舵を成長産業化に切らせていくに違いない」

 そのための『マクラ』として第1章、第2章の「ワサビ」を配置したようです。

 「第3章 大進化するコメ農業の可能性」、「第4章 輸出産業となった日本農業」及び「第5章 ロボットと農業参入者のシナジー」は、現場に足を運び実際に見聞しており、具体的で説得力があります。

まず、取り上げることの第1は、農協の営農指導や農機具事業に密接に関係するする技術革新・普及に関わることです。

教訓1 技術革新・普及への取り組み強化  品種;ハイブリッド米『みつひかり』三井化学が開発 反収12俵、牛丼に最適(チエーン店に販売)、種子は通常品種の7~8倍  乾田直播;作業時間と機械速度   育苗は不要(育苗は規模の有利性がないので、直播は労働時間を大きく短縮)   耕耘;プラウ(時速6~8km、畑作兼用 )⇒ロータリー牽引(時速2km)   播種、田植え;ドリルシーダー(時速10~13km)⇒田植え機(時速3~5km)  (均平・鎮圧レーザーレベラー。田植え時の代掻きに相当)  スマート農業;本書第5章の中の「最先端の農業ロボットの実力」は2014年の農研機構の「トラクター」、「田植え機」、「コンバイン」の公開実験や先進農家などの機械利用を取り扱っている。   (評者コメント;最先端の情報は農研機構の「スマート農業」の試験研究内容に詳しい。近年、機械とともに情報の利用・操作の課題が増えている。農協もJA全農等が参画している。成果を活用できる大規模農業経営体の農協への結集が現実的課題。農協が携わる農場とくに直営農場及び連合会の実験農場の、実践・普及両面の役割に期待)

 (2)農協への期待は極めて希薄な「日本農業」

技術革新・普及について、農協の役割への著者の期待は希薄です。第4章ではフランチャイズ型農業やアライアンス型農業など、(大規模)農家を束ねる形態を取り上げています。この章の小項目の中で農協のことが、「JAの存在意義を考えると」、「JAの出荷体系では儲からない」、「農協は選択肢のひとつ」と三つの中見出しで取り扱われています。しかし、この脈絡は、農協は本来この機能を持っていたが、(とくに大規模農家の)期待に応えていない。(大規模農家にとって)単なる一つの選択肢というものです。(農協は)「反面教師」の文字まで見えます。

 そのような著者の農協に対する評価は評価として、農業振興・経済事業について耳を傾けるべき多くの示唆を我々に提示しています。苦さは濃厚な期待の裏返し、良薬とせざるを得ません。

教訓2「カネの使い方」(「戦略思考」)

「戦略思考」は58問の質問に読者が答える形を取っています。第1問の「ペットが子供の数より多くなっている中で、ドックフードは売り上げの減少に悩まされている。なぜか」から、第51問の「信越化学」が、安売りで経営が行き詰まり会社更生法を申請したアメリカの塩化ビニール大手会社を47億円で買収した。どのような戦略的意味か」まで、汎用性の高い事例が取り上げられています。

 ここでは「カネの使い方」と「アフターサービス」(修理など)についての2問を取り上げます。

教訓2「カネの使い方」~広告宣伝・調査費  驚くほどおいしい料理を驚くほど安く提供する飲食チエーン店「俺のフレンチ」のビジネスモデルの中に、原価率100%、200%という原価割れメニューがあります。なぜそんなことができるのでしょうか。(問題8) 答えは「広告宣伝費の代わり」です。広告費で100万円払うならお客さんの胃袋に払おう。1000円で1000人のお客を喜ばすことができ、それが口コミで伝わる、ということです。 第24問はスケールが大きくなります。外国の航空会社がANAやJALに乗った航空券のコピーをファックスで送ると往復1000マイルをプレゼントしてくれる。なぜでしょう、という問題です。答えは、路線計画のための精度の高いマーケテング調査を行うと数千万円もかかる、でした。

 第1問は、犬が小型化している、第51問は、①工場を作るよりずっと安く、②安売りする競争相手を消滅させる、が答えでした。

   

教訓3 修理が一番 (「戦略思考」)

 次は、同じ「戦略思考」の、具体的な事業に関わる戦略です。 

教訓3 修理が一番  スマイルカーブ(注)の右側でなぜ販売よりもアフターサービスの収益性が高くなるのでしょうか。答え 交渉力が販売時は買い手、アフターサービスでは売り手の方が強くなる。 (注)特定の商品や産業部門において,横軸に設計・部品製造・組み立て加工・販売・アフターサービスという工程の流れ,縦軸にそれぞれの工程の収益性をとると,その部門の成熟につれ横軸の両端の収益性が上がり真ん中の収益性が下がってくる現象。カーブが人が笑った時の口のように見える。(両端の設計、アフターサービスの収益性がたかい)

 最初に思い浮かぶのは農機具修理ではないでしょうか。交渉力が弱くなるのは修理しないと使えないからで、これに応えない手はありません。

 農協の農機具事業については、二つのことが思い起こされます。

 一つは、多くの農協がシーズン終了時に修理に出すように勧めたこと。シーズン前では修理が集中し手が回らなくなること。もう一つは共同利用を進めたことです。1970年代の終盤から80年代にかけて「協同活動強化運動」というスローガンがありましたが、当時、長野県は、中央会主導(経済連帯同)で、全農協の部落座談会で、「農機具は個別に買わずに共同利用を」と訴えたそうです。その結果、修理を含む農機具事業が伸長したそうです。現在は大型機械具の共同利用、スマート農業に少し装い変えていますが…全農の大型農機シェアユースに期待です。

教訓4 ドル箱あっての飛躍(「アマゾン」) 

Death by amazonは賑やかな副題がついています。「座して死を待つわけにはいかない、巨大帝国に対抗するライバル企業の動向を描く」と「テクノロジーが変える流通の未来」です。今や日本もアマゾンの主戦場の一つです。

EC(電子商取引)で多くの店舗を閉鎖に追い込んだアマゾンが続々と店舗をオープンしています。ECとリアル店舗双方で革命を起こしています。

ECでは、例えばアマゾン・ファッションはECの泣き所の試着も、顧客の満足度をより高める方法で実現(解決)しています。

実店舗では、筆者が「リアル店舗を再定義」と表現するように顧客満足度を高めつつ経営の効率化を実現しています。顧客満足度では「ショッピング・エクスペリエンス」がキーワードです。運動施設やコーチングスタッフまで備えるスポーツ用品販売店、鏡の前で衣服を試着するとコーデネートまで推奨するシステムなどなどです。店舗の極めつけはレジなし店舗の「アマゾン・ゴー」です。在庫を抱えないようにするための配達の合理化、ソフトウエアの充実による人員の節約も図られています。

現地企業との連携もタブーなしに進めます。

本書は、最初(0章に続く第1章)でアマゾンの経営(収益)を取り扱っています。ごく最近コロナ禍・輸送費の高騰で修正を迫られていますが、価格の低さを抜きにはアマゾンの成功は説明が付きません。1995年オープンのアマゾンの原点であるオンライン書店の成功も便利さだけではなしえなかったと思います。

第1章に次の記述があります。

「アマゾンは最初にどれだけ赤字を出そうとも、将来的に成功が見込まれるのであれば、積極的に投資をしていくことは過去の実績からも…

アマゾン・ゴーの採算を度外視している可能性もある。…店内における顧客の行動データが補足されればそれでよいという考え方である」

このようなことが可能な秘密が次のように述べられています。

教訓 4 ドル箱あっての飛躍  「それはなぜか。実は現在の同社の収益を支えているのは、売り上げでは、10%に満たないクラウド事業「AWS(アマゾン・ウエブ・サービス)」であり、実に43億ドルをたたき出している。…全営業利益の7割以上を稼いでおり、海外の小売り事業で多少赤字になったところで、びくともしないのである」

打ち出の小槌はそうそう転がってはいませんが、連合会にグループの飛躍のための、あるいはチャレンジのための裏付けを確保する戦略を期待したいです。

国内で組合員農家が栽培していない熱帯産品の輸入やその加工販売、組合員の参画を得られる(友好的な国での)農畜産物や種苗の開発輸入、農業資材の自己生産など、規制観念を脱ぎ捨てて取り組むことで、可能性が生まれてくるのではないでしょうか。

農協の農業経営とくに直営型はこの課題に非常に近接していると思います。条件不利地域を預かることが多いなどの不利が強調されますが、取り組みはわずかに増えています。ぶどう・ワイン生産など一部に先駆的農協も見られます。いずれにしても生産資材から販売までのすべてが完結する『完全食』のような事業です。

また、全農が市街地で展開している「外食産業」(居酒屋など)もやりようで全農協が取り組む一大事業に化けることも期待できます。ドル箱になるためには「○○県産にこだわった」などという内向きの固定観念(店では消費者にあまり見せていませんが)は捨ててビジネスに徹することが求められるのではないでしょうか。政教分離です。

 教訓5 階層別顧客対応(「メガバンク」)

(1)農協の経営革新・事業体制再編の方向を示唆する「メガバンク」

 「メガバンク」は傍流銀行出身のスーパー・メガバンク役員の主人公『ヘイジ』と彼の仲間が、世界の金融と政府の支配を目指す闇の集団と戦いを繰り広げる経済小説です。闇の金融資本が日本に本拠を置き、混乱を起こすためコロナをまき散らし、コロナを免罪符に各国がとる野放図な国債発行に乗じて、株式取引とハッキングで世界征服を目指します。ハードボイルド仕立ての人気シリーズの一昨です。

事件発生に先駆けて主人公は頭取から、存続をかけた対策(頭取の言葉では「抜本的な営業構造の転換」)の立案を命じられます。

IT化(AIとしてはスーパー・コンピューターが要所に登場)、DXの推進による業務の革新に関連する内容は刺激的です。

AIについては二つのことが語られています。一つはこの導入が企業の生死を分けるということ、そしてもう一つ描かれているのはAIは単なるツールでなく「知能」ですが、知能が導き出す結論の採否は経営意思ということです。ヘイジの抜擢は頭取がAIに従ったものです。

さて、農協への教訓に戻ります。教訓は組合員農家の階層別対応と組織再編に関連するものです。

教訓5 階層別顧客対応と支店の集約  頭取の岩倉は言った。 「TEFG全体の融資先を大中小の三つに分けて集中的に本店で一括管理を目指す。その先にあるのは……支店の廃止だ」  AIの導入と並行して人間によるサービスを対面ではなく、ネットを通じたものにどんどん移行させるのが狙いだ。  「AIはいまのままの数の支店を維持することの費用対効果は、ゼロに近いと結論している。これは極秘だが……国内にある八百の支店を十年後には百にまで絞る」  ヘイジはその数に驚いた。

 このような構想・戦略がトップの口から語られることは驚異的なことです。スーパー・コンピューターの活用もトップ主導です。

 とくに、農協に照らしたとき、取引先の規模別対応、それも本店対応というのは暗示的です。大規模農家を全農を本部とする経済連対応とすることが導かれますが、その前に大規模農家の結集という作業があります。「多様な組合員」では事業量の減少に歯止めがかかりません。「政経分離」。全農が『大規模農家の結集』に乗り出すことが強く求められています。

(2)このトップに何を学ぶ

 AIに精通している新人の活用に絡んで新人研修の一幕があります。その中に“逃げ切り症候群”という言葉が出てきます。年配の行員が若い行員に向かって「僕らは逃げ切れるけど君たちは大変だな」と冗談めかしてまき散らすウイルスのこと、と作者はヘイジに説明させています。「偉い人たちはそこから逃げられる」とも言わせています。

 筆者は海外を含む金融機関の投資顧問、ファンド・マネージャーとして敏腕を振るい、その後作家に転じました。多くの人気シリーズを持っています。出身は農林中金です。波多野聖はペンネームです。

 なお、教訓1の「日本農業」の著者は新聞連の出身です。

                                   以上


                    

                       

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