小林元著『仕事に役立つこれだけは知っておきたいJAと農業のきほん』2022年5月20日、家の光協会、110頁660円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その93
小林元著『仕事に役立つこれだけは知っておきたいJAと農業のきほん』2022年5月20日、家の光協会、110頁660円
規制改革会議が在日米国商工会議を忖度して、准組合員の事業利用規制を主張したことに触れられておらず、その結果平成27年の農協法改正を経て、准組合員の意思反映と事業利用の方針を各JAで総代会決議することになったことに触れられていません。このことについて、神経過敏になっているせいか、チンパンジーは違和感を感じましたよ。
また、令和元年十二月末まで実施の「JAの自己改革に関する組合員調査」を活用して、准組合員が「准組合員の事業利用規制には反対であり、地域農業振興を応援したい」と導いているけれど、このアンケート自体が我田引水的な気がして説得力がないかもしれないと感じました。
なぜ、JAは総合経営なのかについて、産業組合から信用事業と経済事業を、系統農会から営農指導と農政運動を、戦後のGHQ指令により農業会の解散と同時に発足した農協がそっくり継承してきたという歴史認識に触れていないことは、残念に思いましたよ。小林先生の記述で理解するのは間違いではないかと思いました。
SDGsについても、国連が主導する脱炭素の動きやPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)などを見ると、近年の国連の背後にある多国籍企業の世界戦略に踊らされているように感じるのは、チンパンジーだけなのかなぁ。JA綱領と比較しているけれど、JA綱領が参考にしたのはICAの協同組合のアイデンティティに関する声明なのだから、そこと比較すべきではなかったのかなぁ。また、パートナーシップは、株式会社も同じようにパートナーシップから出発しているから、もう少し定義を厳密にすべきかなぁ。
著者の小林さんの略歴は、次の通り。
「1972年静岡県生まれ。広島大学大学院修了、博士(農学)。一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA)主席研究員・基礎研究部長。専門は協同組合論、農産物市場論。主な著書に『次のステージに向かうJA自己改革 短期的・長期的戦略で危機を乗り越える』、『JAのいま、これからの未来』(家の光協会)ほか。」(奥付より)
チンパンジーが気になったところを抜粋しておきます。
「正組合員と准組合員の違いは、准組合員には総(代)会での議決権や、JAの理事など役員を選出する選挙権がないこと(農業協同組合法第十六条)です。ただし、JAの運営への准組合員の関与が閉ざされているわけではありません。JA女性組織などの組合員組織への加入や、支店(所)運営委員会などへの参加、懇談会やモニター制度の活用などにより、准組合員がJAの運営に関与する機会や、准組合員の意見をJA運営に反映する仕組みが広がりつつあります。」(Volume02 15頁)
「正組合員よりも准組合員が多くなったことが問題視され、准組合員の事業利用を規制すべきではないか、という意見も出されました。
これにたいし、全国の組合員の意見をアンケートを通じて取りまとめたところ(令和元年十二月末まで実施の「JAの自己改革に関する組合員調査」最終集計結果)、「これまでと同様、事業の利用は制限しない方がよい」という回答が、全体の八九・五パーセントに達しました。また同調査で、准組合員に「(前略)JAの地域農業の振興や地域づくり活動を応援したいと思いますか?」と問うたところ、「応援したい」「どちらかといえば、応援したい」という准組合員が九六パーセントに及んでいます。」(Volume02 16頁)
「なぜ日本のJAは総合事業をおこなうのでしょうか?
一つの理由は、農家の経営を支えるためには、営農経済事業だけではなく、貯金や融資をおこなう信用事業が重要だからです。農業経営の中で、とくに難しいことの一つが資金繰りです。営農経済事業と信用事業を結びつけることで、農業経営を安定的に支えることができると同時に、農業経営のさらなる発展のための資金需要に応えることができます。
そして、もう一つの理由は、JAは農業を産業としてのみに捉えるのではなく、農家や地域住民の暮らしに関わる「営み」として幅広く捉えているからです。」(Volume06 33~34頁)
「JAは協同組合です。協同組合は、願いや課題を共有する人々が集まって、みんなでそれをかなえる組織です。じつは、SDGSの考え方や基本理念は、協同組合の考え方や基本的な理念と同じです。
ここでJA綱領を手に取ってみましょう。JA綱領の前文には「地球的視野に立って環境変化を見通し」とあります。そして、「地域・全国・世界の協同組合の仲間と連携し、より民主的で公正な社会の実現に努めます」と、JAがめざす道筋が記されています。JAのめざす道筋はSDGSの考え方や基本理念と同じであることととがわかりますね。そして、SDGSの目標17が示すとおり、さまざまな課題を「パートナーシップ」で解決すること、すなわち仲間と共に取り組むことがたいせつにされています。」(Volume10 52頁)