服部夕紀著『農業協同組合内部監査士検定試験参考テキストJAの内部監査~概論と実務』2023年4月27日改訂第1版、一般社団法人全国農業協同組合中央会、129頁1,700円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その89
服部夕紀著『農業協同組合内部監査士検定試験参考テキストJAの内部監査~概論と実務』2023年4月27日改訂第1版、一般社団法人全国農業協同組合中央会、129頁1,700円
服部先生は、全中の内部統制関係部署に勤務する公認会計士です。監事研修会などの講師として接した方も多いのではないでしょうか。大変丁寧な説明をする会計士です。この度、内部監査士試験の指定テキストになったようでしたので、早速拝読しました。
とてもやさしく解説されています。難しいことを易しく解説するのは大変です。チンパンジーのように、難しいことを難しい言葉で説明する、つまり役所言葉をそのまま垂れ流すのではなく、服部先生の言葉として解説してありますよ。内部監査関係の方は、試験対策のみならず日常業務を見直すためにも一読をお勧めします。3線ラインのことにも触れていますよ。
農協法では、会社法及び金融商品取引法の内部統制関連の規定は準用されていないのに、何故内部統制が必要なのかなど、解説されています。
幾つか抜粋しておきます。
「ガバナンスの定義ですが、JAを健全に経営するために求められる管理体制やJA内の統治のあり方を指します。もっと平たく言い換えると、役員が暴走しないようにコントロールする仕組みであると捉えると、理解しやすくなります。」(第1編内部監査概論 第2章 内部監査とは、8頁)
「リスク・マネジメントには「守りのガバナンス」及び「攻めのガバナンス」の双方が含まれますが、コントロールは、主として「攻めのガバナンス」に対応しています。なぜなら、コントロールは、経営管理者がリスクを取って戦略を実施すると決定した場合に行われる活動だからです。
「守りのガバナンス」とは、社会的責任、法令遵守といった社会的な期待(ルール)を遵守する仕組みであり、JAの価値の意図せぬ下落を防止するという側面があります。一方、「攻めのガバナンス」とは、JAを取り巻く経営環境が急激に変化している状況を踏まえ、JAが持続的な経営を行うために迅速・果敢な意思決定を行っていくことを指しています。。「迅速・果断な意思決定」の前提として、①組合員や職員、取引先、債権者、地域社会などJAの様々な利害関係者に対して、JAの責務に関する説明責任を果たす、②JAの意思決定の透明性、公正性を担保する、の2点が求められています。
「守りのガバナンス」と「攻めのガバナンス」の関係ですが、二項対立ではなく、「守りのガバナンス」がうまく機能して初めて、「攻めのガバナンス」も成立すると理解すると分かりやすくなります。「攻めのガバナンス」が機能していなくても「守りのガバナンス」を機能させることは可能ですが、「守りのガバナンス」が機能していない状況で、「攻めのガバナンスが機能するということは、ありえません。
ガバナンス・プロセスにおいて、代表理事等や理事会等が、JA経営に対してどのような方針を取る傾向にあるのか(ハイリスク・ハイリターンなのか、ローリスク・ローリターンなのか等)は、リスク・マネジメントやコントロールに影響を与えます。一方で、リスク・マネジメントやコントロールが有効でない場合には、理事会等に適切かつ十分な情報が報告されなくなるため、理事会等で適切な意思決定をするのが難しくなります。ガバナンス・プロセス、リスク・マネジメント及びコントロールは、お互いに不可分の関係にあるのです。したがって、実務指針6.0では、ガバナンス・プロセスの評価結果をリスク・マネジメント及びコントロールの内部監査に関連付けること、リスク・マネジメントやゴッドロールの評価結果をガバナンス・プロセスの内部監査に活かすことの双方を行うよう求めています。」(第1編内部監査概論 第2章 内部監査とは、12頁)
「ガバナンスとは、JAが健全な経営を行うために求められる管理体制や組合内部の統治を指します。平たく言えば、役員が暴走しないようにコントロールする仕組みであり、具体的には、理事会等及び監事による理事の職務執行の監視・監督が挙げられます。
一方、内部統制システムとは、職員が暴走しないようにコントロールする仕組みです。職員がミスを起こしたり不正を行ったりすることを防ぐために整備・運用されたリスク管理体制といえます。具体的には、職員によるミスや不祥事を防ぎ、JAとしての業務の適正を確保するための体制を指します。」(第1編内部監査概論 第2章 内部監査とは、13頁)
「日本では、2000(平成12)年9月、旧大和銀行株主代表訴訟事件第一審判決(大阪地裁)において、取締役等はリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)の構築に関し責任がある旨が初めて判示されました。それを受けて2006 (平成18)年に会社法が施行され、会社法上の大会社における「業務の適正を確保するための体制」の整備が法制化されました。
また、金融商品取引法では、上場会社等に対して、財務報告に係る内部統制が有効に機能しているか否かを評価する報告書を作成し、外部の公認会計士・監査法人による監査を受けた後に金融庁に提出することを求めています。
JAグループの根拠法である農協法では、会社法及び金融商品取引法のこれらの規定は準用されていません。しかし、総合JAは金融機関であること、2019 (令和元)年度より、一定規模以上のJA及び連合会に対し、会計監査人監査制度が導入されたことを受けて、2019 (平成31)年3月に定款例が一部改正され、理事会の決議事項に「内部統制システム基本方針」が含まれることとなりました。」(第1編内部監査概論 第6章 内部統制システムと内部監査について、41頁)