安中繁著『新標準の人事評価-人が育って定着する〈二軸〉評価制度の考え方・つくり方』2022年8月1日、日本実業出版社、2,420円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その69

安中繁著『新標準の人事評価-人が育って定着する〈二軸〉評価制度の考え方・つくり方』2022年8月1日、日本実業出版社、2,420円
最近、JAや関係会社の現場で人事制度の相談を受ける機会が増えました。どこのJAや企業を見ても、能力主義人事制度が導入されて久しいのですが、最近の評価制度はどうなっているのだろうと思い、この本を手にしました。
現場の積み上げで標語を作るということを大切にしている事例では、標語が実に分かりやすいと思いましたよ。
また、絶対考課のための考課者訓練ではなく、絶対考課のための点数による評価から、人物比較による効果が中小企業には適するという主張は、なるほどと思った次第です。
著者の安中さんは、女性の方で社会保険労務士として活躍されている方です。
「安中繁(あんなかしげる)ドリ-ムサポート社会保険労務士法人代表社員。特定社会保険労務士。
立教大学社会学部卒。税理士事務所に入社、企業経営者の支援に携わり、2007年安中社会保険労務士事務所開設。2010年特定社会保険労士付記。2015年法人化し代表社員に就任。豹300社の顧問先企案のために労使紛争の未然防止、紛争鎮静後の労務管理整備、社内活性化のための人事制度構築支援、裁判外紛争解決手続代理業穆にあたる。
新しいワークスタイルの選訳肢である「週4正社貝制度」の導人コンサルティングを得意とする。主な著書に「迦4正社貝のススメ」(経営書院)などがある。」(奥付より)
「9段階でグレード付けしたStage
ベテラン
Stage 9 業界の革新となるような価値創造ができる
Stage 8 他社からも指名がくる程度の付加価値提供ができる
Stage 7 高付加価値を生み出せる
中堅
Stage 6 課題を見出し、自ら提案し提供できる
Stage 5 工夫改善しながら業務提供ができる
Stage 4 十分な業務提供ができる
一般
Stage 3 1人でできる
Stage 2 さしあたって1人でできる
Stage 1 教わりながらできる」(第1章プロジェクトを立ち上げる、P47)
「例3 高度技術系企業のStageマップ
営業
Stage 9 先進的なサービスの開拓や市場化をリードした経験と実績を有しており、世界で通用するプレーヤーとして認められる。
Stage 8 業界を活性化させるビジネス構築の実績を上げ、社外ビジネスを巻き込むビジネスプレーヤーとして認められる。
Stage 7 会社のビジネスプランの方向性に対し、リーダーシップを持って戦略の構築に取り組み、その実施をやりきることができる。
Stage 6 組織が目指すビジネスの活性化のため積極的な活動を行い、ビジネス拡大の実績が認められる。
Stage 5 組織におけるビジネス計画を立案し、計画を達成するため必要な課題を抽出して対策に取り組むことができる。
Stage 4 組織目標を実現するための個人目標の定義と実施及び、必要な顧客対応を行うことができ、営業活動全般の業務を単独で担うことができる。
Stage 3 上位者の指示を得ながら、販売、開発業務活動または、担当する業務を進めることができ、同時に下位者の指導ができる
Stage 2 基本的なビジネスワークフローを1人で進めることができ、上位者とともに、顧客の対応を行う。
Stage l ビジネスワークフローを学びながら上位者の指導に従って業務を行う。
技術
Stage8 社内だけでなく国内業界においても、プロフェッショナルとして経験と実績を有しており、国内トップクラスのプレーヤーとして認められる。
Stage7 社内においてテクノロジーの方向性の決定にリーダーシップを持ち、自身の技術力に基づき新しいビジネス戦略を構築する能力を有する。
Stage6 会社のビジネス戦略に寄与した経験と実績を有しており、テクノロジーをリードする存在として社内のハイエンドプレーヤーとして認められる。
Stage5 社内においてプロフェッショナルとして求められる経験と知識を後進育成のために活かしており、個別プロジェクトの収支に対して責任を有する。
Stage4 プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、自らのスキルを活用することによって、独力で業務上の課題の発見と解決をリードすることができる。
Stage3 独自で要求された作業を担当することができる。プロフェッショナルとなるために必要な基本的知識・技能を有する。
Stage2 上位者の指導の下に、要求された作業を担当することができる。
Stage1 |基本的な作業について、期限内に正確な処理を行うことができる。
管理
Stage5 業務に精通し、円滑な組織運営を遂行できる。
Stage4 業務全般を行え、組織目標実現に取り組むことができる。
Stage3 担当業務を的確に行い、自主的に問題解決ができる。
Stage2 担当の定常業務を1人で行い、必要な能力を習得する。
Stage1 コンプライアンス意識を持ち、指示に基づき日常業務を行う。」(第1章プロジェクトを立ち上げる、P52~53)
「昇格は、卒業方式か入学方式かを表示させることになるものです。卒業方式は、下位のグレードの要件をすべてクリアすると次のグレードに昇格できる考え方です。下位グレードの要件をクリアし、かつ、上位グレードの要件の一部をすでに担えていることを条件にする設計方法もあります。入学方式は、下位グレードの要件をすべてクリアした社員のなかから、選抜された者が上位に昇格できる考え方です。
期待滞留年数は、「何年くらいで次のステップに進んでくれたら理想的だな」と思える年数を記載します。御社の上位20%の理想人財をイメージして設定してみてください。
要件滞留年数を入れるやり方もあります。その場合、[このランクで〇年滞留しなければ次にはいけない]という縛りが設けられることになります。社貝に対して「そう簡単には上にはいけないよ」という現実を伝えることができますが、年功序列感が強まります。
モデル年齢も期待滞留年数と同じく、「〇歳の頃にはこのステップにいてくれると嬉しいな」という理想を描きます。私の感覚では、30代前後の社貝が最も活躍できている会社は活気があり、社貝が成長していくムードに満ちていると感じます。ただ、現実をみると、社貝の平均年齢は高まっている会社が多いです。
以前、「22年問、新卒採川なし」という地方の老舗有名企業から相談を受けたことがあります。地元では知らない人がいない商品を製造しており、多くの人々に愛されている企業ですが、社内では深刻な高齢化が進んでいました。「一企業の問題というより、地域社会の課題でもあるな」と感じたものです。その後、同社では新卒採川を再開し、腰を据えて長期プランで社貝育成をしていくことになりました。
もちろん、そのために人事・制度が機能することになります。モデル年齢を設定して未来を描いてみると、後述する賃金設計においても具体的イメージが深まります。」(第1章プロジェクトを立ち上げる、P54~55)
「勤務態度
(1)規律性 ルール・諸規則を守り、職場秩序の維持向上に自ら取り組む態度
(2)責任性 組織の一員としての職責を認識し、熱意を持って職務を果たす態度
(3)協調性 役割をわきまえ、関係者と協力し、良好なる人間関係を形成する態度
(4)積極性 担当業務の新しい仕事・困難な問題に率先して取り組む態度
これはStageの上位下位に関係なく、全社貝対象の評価頂日です。勤務態度は組織文化の指針であり厂社風づくりに欠かせません。どんなに業績を上げていても、協両性がない社貝は悪影響をもたらします。その協調性は、組織によって大切にする観点が異なるものなので、共通認識の事項にしておくことが大事です。
集団生活を営むうえで守らなければならないことを明確にし、お互いの人格を認め合うために大切な事柄を定め、自社の文化を効果的につくっていけるようにします。」(第1章プロジェクトを立ち上げる、P57~58)
「精密機械工業U社の勤務態度評価
規律性 気持ちよく働ける職場
勤務時間を守る、進んで挨拶をする、服装・身だしなみに気をつかう、周りの人を不快にさせる言動をしない、物の置き方は直角・平行、一度決めたルールを守る、みんなで掃除する
責任性 安心して任せられる会社
ミスしたとき・わからないときはすぐに上司に報告・相談する、任された仕事はやり遂げる、納期を守る(最重要)、会社全体で取り組むべきことを他人ごとと考えない、人任せにしない、チェックと確認を確実に行う、自分の役割を認識して行動する
協調性 みんなの力を感じる会社
自分の仕事をこなした上で周囲の仕事も協力する、相手を気遣い譲り合う気持ちを持つ、誰の話でも聞く、コミュニケーションの取れる職場をつくる、対話を重視する、情報共有する、社内行事には進んで参加する、笑顔を心がける
積極性 切磋琢磨して働き甲斐のある職場
やったことのない仕事も進んでする、段取りよく早めに仕事を進める、自らの目標達成に向け努力する、自分の考えを発言・発信する、新しい仕事に進んで取り組む、面倒な仕事も嫌がらずにする、気づいたら、即行動」(第1章プロジェクトを立ち上げる、P59)
「マトリクス人財育成制度では、評語は「B」を中心として5段階に設定する考え方を採用しています。
特別枠 S 特筆すべき功績をあげたとき
通常利用枠
A 期待を上回った
B+ 期待をやや上回る
B 期待どおり
B- 期待にやや及ばず
C 期待に届かず
特別枠 D 特に問題となるとき
評語の決定は、基本は期待どおりのBとし、これに及ばなかったか・上回ったかにより設定していくことになります。評価決定会議において一次評価者が集い、評価結果の妥当性を審議して決定することとしましょう。一次評価者が担当する社員の評価結果を持ち寄り、人物を見比べて、違和感のない結果をつくりあげるというものです。
人事考課にはいくつかの手法がありますが、このやり方を人物比較法といいます。 100名までの規模の会社なら、人物比較法による評語決定が育成という観点から最もふさわしいものと考えます。「評価の公平性を高めるために評語決定を明確に点数化できるようにしたい」というニーズも現場ではよく問かれます。しかし、厳格な点数化の弊害を多数見てきた私は、わざわざ点数化に持ち込むことをよしとしません。
代表的日本人・上杉島山の教え 私のふるさと山形県の名藩主・上杉鷹山公。思想家・内村鑑三の名著『代表的日本人』で、日本を代表する5人として、西郷隆盛、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮とともに、その名を記された人物。困窮した藩財政を再建した大名としても知られています。
上杉鷹山は、「藩主は藩民との間に紙を挟むな」と教え示したといいます。紙とは規則・ルールの意。つまり「藩主と藩民の閧に絆をつくり深めていくにあたり、紙は弊害になる。藩主は紙をみて統治するようになり、藩民をみなくなり、藩民は藩主を思わず、紙を見て権利を主張するようになる」と。
これは評価も同じです。評語の点数化をルールにすると、評価結果の肌感覚との乖離が生じ、また、総額昇給予算等の兼ね合いなどの事情もあり、最終評語を恣意的に調整してしまう、あるいはせざるを得ないケースが出てきます。評価される当事者(社員)が置き去りになってしまうのです。
当然、フィードバック面談における評価結果の示達は、気迫が感じられない生ぬるいものになります。心しましょう。」(第5韋評価システム・給与改定システムをつくる、P142~143)
「こんなヶ-スが失敗に終わる
課題となる事項を上司が持っていない→事前準備ができていない、自己評価に関する話を最後まで聞かない、他者との比較をする、責任を上司が担わない→部下は孤独
評価者が陥りやすいエラーの例
①中心化傾向→評定が中心に集まってしまう
②論理的誤差→[責任感のある人は規律も守るはず]など、一方がAなら他方もAと考えてしまう
③寛大化傾向 →SからAのよいほうに評定が集まってしまう(評価が甘い)
評価者に自信がないとエラーを起こしがち、「オレはAにしたんだけどな」は禁句、部下と同じ視座では見えないことがある、部下との信頼関係の構築が優先」(第7章年問スケジュールをつくる、P177)