窪田新之助・山口亮子著『誰が農業を殺すのか』2022年12月2日、新潮社、946円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その74

窪田新之助・山口亮子著『誰が農業を殺すのか』2022年12月2日、新潮社、946円
不愉快な本でした。読んでいるうちにあちこちで、そうじゃないだろうと、強い違和感を覚えました。日本農業をダメにした安部農政を評価しているところからすると、規制改革会議側の人達なのでしょう。驚きですが、日本の種子を守る会の八木岡会長や東大の鈴木教授を名指しで批判しています。
著者の一人の窪田新之助氏は、ここでも取り上げた『農協の闇(くらやみ)』講談社現代新書 2673、2022年8月20日、333頁、1,210円の著者です。
著者の略歴は、次の通りです。
「窪田新之助
農業ジャーナリスト。日本農業新聞記者を経て2012年よりフリー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『データ農業が日本を救う』『農協の闇』など。
山口亮子
ジャーナリスト。京都大学文学部卒,中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。雑誌や広告などの企画編集やコンサルティングを手掛ける株式会社ウロ代衣取締役。」(奥付より)
いつものように、幾つか抜粋しておきます。
「山田元農相に回調して改正に反対を表明した組織『日本の種子を守る会』には、組合長をはじめとするJΛグループの複数の関係者がかかわっている。同会は2020年4月9日、当時の会長である八木岡努氏(JA水戸糾合長)の名前で発表した「種苗法改定案に対する見解」で、次のように指摘した。
「農家の現場は、イチゴや芋類、サトウキビなど多種類が種苗を毎年新規に雌人しそのまま使う割合は1割以下であり、ほとんどが自家増殖で増やして使用しています。その自家増殖を許諾制及び使川料が必要となれば、農家経営を圧迫し破綻に追いやることです」
この主張は現実と異なる。イチゴやイモ類は自家増殖を続けると病害が蔓延しかねず、育成者である都道府県は基本的に毎年種苗を更新、つまり買いなおすことを奨励している。JA水戸の主要作物はまさにそのイチゴとサツマイモで、地元の農政関係者は当時、「なぜ八木岡組合長が反対しているのか、その懸念しているところがよく分からない」といぶかしげに話していた。」(第1章 中国に略奪されっぱなしの知的財産、45頁)
次の個所だけは、納得できましたがね。
「試みに、確実に国産農産物と結びつく愉出品の合計額を計算してみる。国産農産物に、国産米を使っているはずの日本酒を足すと、2021年の段附で2000億円強にしかならず、1兆円には遠く及ばない。
2020年の農業総産出額は8兆9370億円なので、2000億円という金額はその約2%に過ぎない。こんなわずかな比率では、農業所得の倍増につながるわけがない。そもそもの目標設定がずれているのである。
農水省が頭に「農林水産物」を冠して・発表するために、あらぬ誤解を生んでいる。いや、むしろ誤解が生じることを狙って目標を設定し、発表していると言ってもいい。」(第2章 「農産物輸出5兆円亅の幻想、69頁」
「いまでも種子法の廃山を巡る議論が終わらないでいるのは、有識者が以上の誤解を正さぬまま、廃止を疑問視したり復活を主張したりしているからである。
その一人は、東京大学大学院農学生命科学研究科の教授である鈴木宣弘氏だ。鈴木氏は、その著書『農業消滅 農政の失敗がまねく国家存亡の危機』平凡杜新書)のなかで、本章で取り上げている問題を「亡国の種子法廃止」と批判。その理由として、コメの種子の供給を民間に任せた場合、農家が購入する種子代が高額になると説明している。」(第6章 弄ばれる種子、187頁)