出口治明著『一気読み世界史』2022年11月、日経BPマーケティング、1,980円、275頁

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その79

出口治明著『一気読み世界史』2022年11月、日経BPマーケティング、1,980円275頁
歴史ものには全く疎い私がこの本を手にとったのは、「一気読み」とか「人類5000年史を一気通貫」とか「エキサイティングな知の冒険」というキャッチフレーズに惹かれたからでした。ま、面白かったかな。中学・高校で聞いたことのある横文字がたくさん出てきました。消費拡大も良いキャッチができると良いですね。
一気読みして頭に残ったのは、昔から領土拡張に向けて戦争ばかりしているんだなということと、プーチンの戦争もゴルバチョフ以前の領土にしたかったことなのかとか。温暖化は悪いことではないようだとか。
確かに一気読みできましたよ。
著者の紹介は、次の通り、大分自動車から見える立命館アジア太平洋大学(APU)の学長です。
「出口治明
立命館アジア太平洋大学(APU)学長。1948年。三重県美杉村生まれ。1972年。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などをへて2006年退職。同年。ネットライフ企画株式会社を設立し。代表取締役社長に就任。2008年、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。10年社長、会長を努める。 2018年1月より現職。訪問した都市は世界中で1200以上、読んだ本は1万冊を超える。『生命保険入門新版』(岩波書店)『人頚5000年史』シリーズ(ちくま新書)、『0から学ぷ「日本史」講義』シリーズ(文藝春秋)『全世界史上・下』(新潮文庫)『戦争と外交の世界史』(日経ビジネス人文庫)など著書多致。」(奥付より)
いつものように、幾つかエッセンスを抜粋しておきます。
「どの国でも仏教を受け入れる方が圧勝しています。要するに、ゼネコンが喜ぶからです。仏教を受け入れれば、お寺を建てたり、仏像をつくったりするので、工事の仕事がたくさん舞い込みます。守旧派についても、仕事はきません。経済合理性を考えたら勝負の結果はすぐにわかります。
<温暖化は大国を生み、寒冷化は国家の分裂を招く>
中国では、581年に隋が建国されました。長らく南北に分かれていた中国が統一一されます。これは地球が再び温暖化したからです。暖かくなれば穀物がたくさん収穫できて兵糧を確保できて、大車を動かせるようになります。だから、国々が統一され、大国の時代になります。寒くなるとその逆で、分裂の時代になります。
隋のような大帝国の誕生は、周辺諸国にとっては大事件です。朝鮮や日本は、難しい立場に立たされます。それまで分裂していた南北の双方に朝貢したりして、中国の動静に気を配っていた国々です。では、隋には、どう出るか。かわいいポチになるのか、頑張って自立した国家を目指すのか。選択を辿られます。
日本は遅ればせながら600年に遣隋使を出Iして、様子を見にいきました。そこで大帝国のあまりの立派さに仰天して、「えらいこっちゃな。こりゃ、国を固めなあかん」となりました。それで冠位十二階や十七条憲法の原型をつくります。日本では長らく聖徳徳太子がつくったといわれてきましたが、おそらく蘇我馬子でしょう。聖徳太子という人は実在しなかったと考えられます。実在したのは、皇族の厩戸皇子という人でした。
<がっぷり四つに組んだ戦争が、東西の横綱を弱らせる>
東ローマ帝圃は、皇帝ユスティニアヌスが愚かな戦争を仕掛けたので、7世紀にはガタガタになりました。するとカルタゴの総督の息子だったヘラクレイオスがコンスタンティノープルまでいって皇帝を引き継ぎ、立て直しを図ります。
そのころ、サーサーン朝のペルシャではホスロー1世の孫のホスロー2世が即位していました。ホスロー2世は、東ローマ帝国がガタガタになっているのをチャンスと見ました。サーサーン朝は、アカイメネス朝以来の世界帝国の伝統を引き継いでいます。かつての大帝国の領土を回復しようと、614年にシリア、619年にエジプトを占領しました。
しかし、奪われた東ローマ帝国も引き下がりません。ヘラクレイオスは国内を立て直すと、628年にシリア、エジプトを奪回します。
ということで、ホスロー2世とヘラクレイオスはかれこれ20年ほど、大戦争を続けました。両横綱ががっぷり四つに組んでいたようなもので、両方ともくたくたになりました。
そのとき、アラビア半島から彗星のように出てきたのがイスラム教でした。」(第4章6~10世紀 諸部族の争いを制した拓跋部とフランク族、2つの国家の躍進と衰退、66~67頁)
「<モンゴルのグローバリゼーションが、ペスト禍を準備した>
モンゴルの世界帝国は、13世紀後半から、パクス・モンゴリカと呼ばれる繁栄の時代を生み出し、14世紀初めに最盛期を迎えます。
しかし、このころから寒冷化か始まります。寒冷化すると、食料が十分に供給されないので、人問の体力が弱ります。人間の体力が弱って喜ぶのは病原菌です。ペストがはやり始めました。
モンゴルが世界帝国を打ち立てるまで、東アジアとヨーロッパ、そしてインドは分断されていました。だから、病原菌もそれに対する人間の抗体も違いました。ところがモンゴルはがんがんインドまで攻めていって、東アジアとヨーロッパも結ばれました。こうして病原菌が人間を媒介にして、ユーラシア全体を自由に行き来できるようになったわけです。モンゴルのグローバリゼーションは、病原菌のグローバリゼーションでもありました。
1330年代に中央アジアに発生したペストはまず、大元ウルスやインドを襲いました。大元クルスはペストで滅んだといっても過言ではありません。さらにペストが西進すると、ヨーロッパの人口の3分の1ぐらいが死に絶えました。
パクス・モンゴリカが、地球の寒冷化とペストによって途絶え、14世紀の世界は、大混乱に見舞われます。中国では紅巾の乱が起こって、大元ウルスがモンゴルに撤退します。そして、明という政権ができます。一方、中火アジアではモンゴル帝国がペストでがたがたになった後、ティムールという英雄が現れて大帝国をつくります。
覚えておいてほしいのは、ここで生き残った人たちはめちゃくちゃ強いということです。要するに、東アジアの病原菌にも、インドの病原菌にも、ヨーロッパの病原菌にも負けなかったから生き残ったわけで、すべての病原菌に対する抗体を持っている。このめちゃくちゃ強い人たちがのちに、コロン(コロンブス)の船でアメリカ大陸に渡り、くしゃみをして病原菌をまき散らします。
<中国の明は暗黒政権、文字が読めると殺された>
パクス・モンゴリカの終焉のなかで誕生した中国の明は、大変な暗黒政権でした。
明の初代皇帝である朱元璋は貧農の生まれで学がなく、インテリを憎んでいました。そして、とても疑り深い人でした。だから、文字の読める宦官をすべて殺しました。宦官というのは、要するに皇帝の召使いですが、召使いに字が読めると、文書を改ざんするのではないかと疑ったのです。字が読めるだけで首を切られるなんて、めちゃめちゃです。残った宦官には、学問を禁止しました。さらに功臣にいいがかりをつけて粛清しました。その数は10万人ともいわれています。殺したのは農民や兵隊ではありません。明を一緒につくった自分の功臣たちです。今なら、霞が関の役人を10万人殺したようなもので、すさまじいですね。」( 第6章 13~14世紀 クビライのグローバリゼーションの大波が世界を襲った、128~129頁)