大島昌宏著『九頭竜川-鮎釣り漁師・愛子の希望著-』2022年7月1日、つり人社、333頁1,980円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その83

大島昌宏著『九頭竜川-鮎釣り漁師・愛子の希望著-』2022年7月1日、つり人社、333頁1,980円
「昭和20年7月から23年7月にかけてのわずか三年の間に、福井は空襲、地震、水害と三度にわたって痛めつけられたのである。これには、さすがに粘り強さを身上とする福井の人々も音をあげた。立ち直るいとまもない三連続の厄禍に、さしもの信仰心の厚さを誇る真宗王国の人々の問でも、仏の慈悲を疑う声があがった。」という。物語は、この三度の災難を潜り抜けるところから始まる。
読んでいて元気がもらえる物語だったよ。
福井県に興味や関係が深い人に、もちろん鮎釣り人にお勧めしますよ。
著者のプロフィールは、次の通り。
「大島昌宏(おおしま・まさひろ)
本名・疊胥昌宏。附和9(1934)年福井県生まれ。昭和28(1953)年福井県立藤島高校、同32 (1957)年日本大学芸術学部映両学科卒業。広告制作会社に動務し30年間に約1000本のCFを制作。平成4 (1992)年「九頭竜川」で新IU次郎文学賞受賞、平成7年(1995年)「罪なくして斬らる 小栗上野介」で中山義秀文学賞受賞。平成11 (1999)年没。」
「「明日のことなど、明日の朝目覚めてから考えればよいのだ」
と言い切った女将の一言葉が胸に残っていた。地震直後からそうした心境になったのだということだが、愛子はそんな女将に自分の投影を見たような気がした。女将もまた、朝日が必ず巡ってくるとは思わず、今日を力いっぱい生きようとしている人に思える。だが心の強さは、自分とは格段の差だ。愛子は、心強い同志を得たような気持になり、水すましのように機敏に大混みを駆け抜けていった。」(第3章 90頁)