堤未果『株式会社アメリカの日本解体計画―「お金」と」「人事」で世界が見える―』経営科学出版2021年1月

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その5

目から鱗が落ちるとはこのことだろうか。新自由主義の真の姿と振る舞いを見た思いがした。
個人的な感想など、吹き飛ばしてしまう位の迫力だった。
例によって、印象に残った文章を以下に掲載しておきます。
「ゴールドマン・サックスの、(中略)ゼーリック氏から竹中平蔵氏へ送られたある手紙の存在が明るみに出たのは、2005年8月、まさに「郵政民営化」を間うあの解散総選挙の前月に行われた、参議院特別委員会でのことでした。
民主党(当時)の櫻井充参議院議員が、竹中郵政民営化担当大臣に、こんな質間をしたのです。
「竹中大臣、あなたは今まで、アJリカの要人と民営化について話し合ったことはありますか」
この質問に対し、 竹中大臣はきっばりとこう否定しました。
「いいえ、 一度もござ いません」
そうですか、 では・・・と言って、 櫻井議員がその場で読み上げたのが、 ロバート・
ゼーリック氏から竹中大臣に宛てた手紙だったのです(第162回国会参議院郵政民営化に関する特別委員会より:以下要約)。
「竹中さんおめでとうございます。 あなたは金融大臣としてよいお仕事をされ、それが新しい任務につながったのですね。 この任務を小泉首相が貴方に託した事は我々にとって非常に心強く、貴方には以前と同様の決意とリー ダー シップを期待しています。
保険、銀行、速配業務において、競争条件を完全に平等にすることは、私たち(米国) にとって根本的に重要です。郵貯と簡保を、 民間とイコー ルフッティング (同条件)にすること、 つまり、 これらについて今までの税制や保護、政府保証を廃止して、 民間と同じ条件にしてほしいのです。 具体的には以下について、貴方を後押し致します。
①民営化開始の2007年より、郵貯・簡保業務にも民間と同じ保険業法、銀行法 を適用すること。
②競争条件が完全に平等になるまで、郵貯・簡保に新商品や既存商品の見直しは認めないこと。
③新しい郵貯・簡保は相互扶助による利益を得てはならない。
④民営化するプロセスの途中に、郵便局には一切特典を与えてはならない。
⑤民営化のプロセスの途中で、米国の業者を含む関連業者に口を挟む場を与え、 その意見は決定事項として扱うこと。
これらの改革に取りかかる際、 私の助けがいる時は遠慮なくおっしゃって下さい。貴方は立派な仕事をされました・・・新たな責務における達成と幸運を祈念致します。貴方と仕事をするのを楽しみにしております」
手紙で触れられているのはあくまでも郵便貯金と簡保のみ、明らかに日本国民の貯金340兆円を、ピンポイントで狙 いうちにした指示でした。
まさに内政干渉の極みと いったこの事件、 そこにいた議員たちは皆ショックを受け、 室内はざわめきで一杯だったそうです。
この手のことになると日本のマスコミは一斉に「報道しない自由」を行使して沈黙しますから、翌日の朝刊にはこの委員会のことどころか、竹中氏の「竹」の字すら載っていませんでした。
郵政民営化法案は、 心ある愛国議員たちによって参議院では一旦否決されます。
その翌日、ワシントンの広報誌であるウォー ル・ストリートジャーナルはこんな記事を出しています。
「これで我々が待ち望んだ3兆ドルは、 しばらくお預けだ。が、しかし、小泉総理は頑張るに違いな い」
ええ、 頑張りました。とりわけ、 アメリカからの指示を受けた竹中郵政民営化担当大臣はしっかりとその期待に応え、 それまで誰も手をつけなかった郵政民営化は、 小泉政権下であっさりと実施されたのです。
07年には郵便局会社・郵便事業会社・ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険の4社に再編され、15年には東京証券取引所第一部に上場、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険も同様に、日本郵政から株が売り出されました。
それまで安全な日本国債で日本国民のお金を運用していたゆうちょ銀行は、米系企業の株式や債権に投資する比率をどんどん上げ始め、ゴールドマン・サックスの勧めるリスク商品に投資するようになったのです。
竹中氏を後押しして郵政民営化の実現に貢献したゼーリック氏は「大金星」を上げ、世界銀行総裁、 国務長官と順調に出世の階段を登ってゆき、13年には再びゴールドマン・サックスヘと舞い戻り、国際戦略アドバイザー 統括責任者という輝かし い椅子を手にいれたのでした。
ウォール街関係者との間でこの郵政民営化が話題に出ると、
「小泉総理が郵便局の貯金を差し出し、次に彼の息子が農協の貯金をウォール街に捧げてくれる」 などという不吉な言葉が出てきます。
350兆円の郵便貯金の次にウォール街が喉から手が出るほど欲し いのは、130兆円と言われる農協の貯金、そして私たちの老後を支える、600兆円の年金です。小泉進次郎議員が熱心に進める「農協改革(解体)」が完全に民営化路線なのは偶然ではありません。親子二代で貢献しています。」(52~56頁)
「農協と言えば、 昨今マスコミから既得権益の代表として叩かれっぱなしの存在ですが実は、 世界から「世界でも有敬の、 成功した共助モデル」 と称賛されているのをご存知ですか?組合員同士が全貝の幸せのために出資し合い、地域の農業から貯金・保険などの事業を行う。農家でなくても加入できる共済制度は、この国でどれだけ多くの人の救いになって いることでしょう。
一人ひとりは弱い存在ですが、皆で助け合ってゆくことで大きな力になる、 このような協同組合のシステムが、日本にはいくつもあります。
この礎になっているのが日本人のDNAに刻まれ、 先人たちから受け継がれてきた「お互いさま」 の精神なのです。
日本人が時を超えて無意識に育んできた知恵、「お互いさま」の精神性こそ、ウォール街が一番怖がっているものです。
どこまでも自分自身と深く向き合う、 崇高な文化や伝統、命に優劣はなく、人間もまた万物の一部であるとするアニミズムの思想・・・そう いうものが、 彼らの計画を脅かすのは何故でしょう?
それは絶対にお金で買えないからです。
日本にはお金で買えない知恵がある、日本人はお金で買えない精神性を持っている。日本が持つこうした宝の数々は、どれだけ札束を積んでも、決して奪うことはできません。
だからこそ、 狙われるのです。」(152~153頁)
「日本は、 百年先も子孫に残せるような、漁業、農業、中小企業の優れた技術など、世界が絶賛するものがたくさんあり、高い精神性を持つ、世界でもまれに見る豊かな国です。
「お互 いさま」を礎にして設計された皆保険制度、その子を一生導いてゆく種まきとしての公教育、一人はみんなのためにを柱に共同体を支える協同組合などは、どれも百年先の国の未来や民の幸福を考えて設計されたものばかりです。私たちの多くは気づいていませんが、これは、国家百年の計を立てて実践していた心ある政治家が、かつて日本にもたくさんいた証です。」(156~157頁)
「私たちのDNAに刻まれた「精神性」が、今ほど求められている時はありません。世界中の金融資産の半分以上は、実体のない詐欺商品です。
強欲資本主義が推し進める「今だけカネだけ自分だけ」の価値観は持続不可能であり、やがて必ず滅びるでしょう。
そうなった時、価値あるものだけは次世代に残せるよう、私たちが今しつかりと目覚め、 守ってゆくと心に決めることが肝心です。
この国がつないできた文化、伝統、顔が見えるものつくり、数字で測れない価値を持つ教育、保険証一枚あれば、誰でも治療が受けられる国民皆保険、誰も取り残さず、ともに発展してゆく協同組合の思想や、誰もが誰かに助けられて生きていることに気づかせる共同体の存在。私たちが受け継いできた、他者を思いやる想像力と知恵を使って、支え合う豊かなコミュニティを国のすみずみに作ってゆくことが、日本がこの国を守りながら持続可能な発展をしてゆく一番の近道だと、私は信じています。
お金の流れで世界を掴み、歴史を紐解き、直感を磨き、強欲な力に押し流されずに「お互 いさま」の精神というかけがえのない宝を世界中に広げてゆく。そんな大人たちの姿はきっと、子供たちの胸に未来への希望を灯すでしょう。 貴い資産を次世代に残していけるよう、どうか皆さん、一緒に頑張りましょう。」(158~159頁)
知らないことが多いですね。びっくりです。
やれやら新自由主義は、どうもアメリカの金融資本発の様子ですね。日本の優秀な高級官僚には愛国心というものが薄れ、国際人らしい。