人を救えない国-安倍・政権で失われた経済を取り戻す


「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その25
金子勝著、2021年2月、朝日新聞出版、869円
ここまで悪政の証拠が挙がっているのに逮捕されない政治家、責任を取らない政治家とそのお友達に驚きを隠せない。
コロナ禍を克服するためには、「ウィズアウト・コロナ」を目指して、地域の実情に応じて、無症状者を徹底検査し、隔離、追跡、そして治療の体制を確立すべきとする。
また、この難局を乗り切るために、著者は最後に5つの課題と克服方向を提起している。
金子氏の略歴は、次の通り。
「1952年東京都生まれ。経済学者。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手、法政大学経済学部教授、慶鷹義塾大学経済学部教授などを経て、立教大学経済字研究科特任教授。専門は財政学、地方財政論、制度経済学。著書に『平成経済 哀退の本質』(岩波新書)『日本病-長期衰退のダイナミクス』(共著、岩波新書)『資本主義の克服-「共有論」で社会を変える』(集英社新書)など多数。」(奥付より)
例によって、ポイントを抜粋しておきます。
「安倍政権の政策は、東京オリンピック開催を強行するために、検査を制限して問題を小さく見せる一方、果断な措置をとっているかのように振る舞うものだった。データがないまま、根拠のない政策を正当化するために、自作自演の「非常事態」を演出するパターンを繰り返してきた。安倍晋三首相(当時)がクルーズ船に対してとった「入国拒否」、 一斉休校、そして緊急事態宣言はその典型だった。それは、小池百合子東京都知事とも共通している。2020年3月23日に、小池都知事が、IOC(国際オリンピック委員会)と交渉して、東京オリンピック開催延期がきまったとたんに、東京都の「ロックダウン」を言い出したのに典型的に現れている。
コロナ対策の失敗は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から始まった。安倍首相の“やっている感”の極致がクルーズ船の「入国拒否」であった。アメリカ政府が1月31日に過去14日間、中国人および中国に滞在した外国人の「入国拒否」を決めたとたん、安倍首相も、人国拒否」を表明した。その結果、クルーズ船の乗員・乗客を「監禁」状態にした。PCR検査を早期に実施し、感染者を適切に隔離し、予防や重症化対策などを速やかに講じるべきだったが、断固とした措置を取ったふりで、防疫も検査も管理もできていなかったのである。その結果、食事係の乗員が多数感染していたのに「監禁」を続けたために、汚染実験船と化してしまった。」(第1章 なぜ日本政府は国民の命を救えないのか、p28~29)
「無症状者が感染させる以上、エピセンターを中心にして徹底的なPCR検査を行い、その周辺地域では介護士、保育士、学校教職員などのエッセンシャルワーカーに定期的に社会的検査を行う精密医療(Precision Medicine)が必須になる。無症状者の感染をつかめないまま、こうした暖昧な基準で対策を行った場合、自粛すれば、接触が減る分だけ感染者数はいったん減るように見えるが、無症状なまま街中に感染者がもぐつてしまい、経済活動を再開すると、感染が再拡大してしまう。つまり、自粛と経済活動再開のジレンマが生じてしまうのである。」(第1章 なぜ日本政府は国民の命を救えないのか、P42)
「問題になっている持続化給付金についても、かりに民間委託が必要であったとしても、十分な情報公開と透明性が確保されねぱならないはずである。ところが、委託関係が意図的とも思えるぐらいに幾重にもできていて、会計監査がしにくいようになっていた。今回は、受託団体である「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」が3%(約20億円)を抜いたうえで、委託費の約97%に当たる約749億円で電通に再委託し、電通は、さらにグループ会社5社に外注。電通ライブは竹中平蔵氏がグループの会長を務める人材派遣大手のパソナ、ITサービス業のトランスコスモス、大日本印刷、イベント会社のテー・オー・ダブリューに業務をさらに外注した。「再々々々委託」である。ここまで外注を繰り返してピンハネしたうえで、会計監査をしにくくする意図はなかったとは言えないだろう。それは、受託団体であるサービスデザイン推進協議会の職員21人が、広告大手の電通やパソナ、トランスコスモスなどからの出向者で占められていることから、容易に推測できる。つまり、サービスデザイン推進協議会は実態としてはトンネル団体だということになる。」(第2章 腐敗とたかりの「仲間内資本主義」を正す、P64~65)
「安倍政権の森友・加計・桜を見る会を典型に、政治家の腐敗はあふれ、公文書も統計も改ざんが当たり前になっている。さらに、経済的な行き詰まりがひどくなればなるほど、自公政権は批判を封じようとする。それは言論の自由の抑圧に典型的に現れている。
2014年7月3日放送のNHKクローズアップ現代「集団的自衛権 菅官房長官に問う」でキャスターの国谷裕子さんの厳しい追及を契機に、キャスターを降板させ番組が改編された。それ以降、各局の報道番組のキャスターの降板が起き、政権を批判する論者が消えていった。
さらに、公安警察官僚出身の杉田和博官房副長官が官邸を支配し、14年5月30日に設立された内閣人事局を通じて官僚人事を決めて付度官僚を作り出し、17年8月には杉田氏自らが局長に収まり、今度は日本学術会議会員候補の推薦名簿のうち6名を任命拒否して排除していった。政策的失敗が重なれば、批判を極力抑え込む仕組みを作るのに躍起になり、特高警察がメディアに圧力を加える戦時中そっくりである。もはや日本の政治と経済は未期症状に陥っている。」(第3章 新型コロナ大不況がもたらしたもの、P109~110)
「付度するメディァ状況の中で、アベノミクスとは何だったのか、改めて問うことの意味は重い。なぜ日本経済は問違ってきたのか、間違いの最中に指摘し、批判の声をあげないといけないからだ。アベノミクスの成長戦略とは、「3本の矢」に始まり、「女性活躍」「一億総活躍」「新3本の矢」「働き方改革」「人生100年時代」「人づくり革命」と矢継ぎ早にスローガンを出すだけで、何一つ検証しないまま、「やっている感」だけを演出した7年半であった。結果は「失われた8年」であった。ところが、無責任体制が蔓延している中で、アベノミクスを主張してきたインフレターゲット派の論者たちは、アベノミクスの失敗をすべて消費税増税のせいにして、逃げ切ろうとしている。いまではMMT(現代貨幣理論)に衣を替えて、野党の一部も同じように消費税減税を主張するようになっている。」(第4章 アベノミクスを総括する、P113)
「なぜ 『インダストリー4.0』、『Society5.0』はうまくいかなかったのか、改めて間う必要があるだろう。何より、政府は、いまだに守旧的な重化学工業を中心とする経団連のために、政策的・予算的に重点的な産業政策を実行している。それらは、原発再稼働と原発輸出、リニア新幹線、国土強靭化計画や東京オリンピックと建設事業、大阪万博とカジノを含むIRといった旧来型の公共事業で占められている。とてもイノベーティブと呼ぶに値するものではない。」(第4章 アベノミクスを総話する、P141)
「たしかに、MMTは一定の説得力をもった理論的な枠組みである。しかし、これは、れいわのブレーンとされる人たちが、アベノミクスのインフレターゲット論で失敗し、その失敗の責任を免れるために、MMTを悪用して乗り換えたものに他ならない。実際、アベノミクスではインフレターゲット論という考え方がとられた。中央銀行が「2年で2%」のインフレ目標を約東し、異次元の大規模金融緩和で国債を買い入れれば、やがて物価が上昇し、人々はそれに刺激されて消費を増やして景気が回復するというシナリオだった。」(第5章 ポピュリストの政策的退廃、P169~170)
「世堺では、再生可能ェネルギーは燃料費のいらない「限界費用ゼロ」のエネルギーといれてきたが、最近、ドイツなどでは固定価格買取制度が20年を経過し、減価償却が終わってタダのエネルギーとして大量に出てくるようになってきている。エネルギー自給のための蓄電池のコスト低下と相まって、電気代タダの時代が訪れつつあるのだ。アメリカでもトランプ政権がバイデン政権に交替し、変化の兆しがある。コロナ禍の下でバブルに突っ込みながら原発を再稼働させようとする自公政権は、世界の流れにもっとも逆行する政権になったと言ってよいだろう。」(第6章 日本新しく生まれ変わる、P181~182)
「ドイツと対照的に、第1章と第2章で明らかにしたように、戦争責任を問えなかった戦後日本の社会体質は、1997年の金融危機、2011年の福島第一原発事故に次いで、襲ってきた2020年のコロナ禍というメガ・リスクへ対応できなかった。コロナ敗戦でも、失敗の責任をとらない、反省をしない、失敗の上塗りを繰り返して、結局、長引いてしまった。失敗の重なりがひどくなると、自己正当化を図るべく公然と「歴史修正主義」が幅をきかせ、言論の自由の抑圧が始まった。特定秘密保護法、共謀罪法、度重なるメディア介入、学術会議の6名の任命拒否などである。批判を抑圧すれば、ますますリスクへの危機管理対応、産業と経済の衰退という失敗が重なり、泥沼から抜け出られなくなっていく。」(第6章 日本本は新しく生まれ変わる、P186)
「「未完の近代プロジェクト」における5つの優先課題をあげておこう。まず第1に、抜本的な新型コロナウイルス対策こそが最優先の経済対策になる。このコロナ禍を克服するためには、「ウィズアウト・コロナ」を目指して、地域の実情に応じて、無症状者を徹底検査し、隔離、追跡、そして治療の体制を確立しなければならない。東京の新宿区、渋谷区、港区、中央区、大阪市、などの感染集積地(エピセンター)は無症状者を含めて徹底的に検査する。その周辺地域には、病院、介護などの高齢者施設、学校、保育園、警察などのエッセンシャルワーカーを定期的に検査する世田谷方式を広げることであるりそして感染未集積地には、誰でもいつでも何度でも無症状でも検査できる体制を作るとともに、感染集積地を支援していかなければならない。政府や東京都や大阪府の新型コロナ対策の失敗、そして「自己責任」論による責任転嫁が続くかぎり、いつまでも先述したジレンマと経済衰退から抜け出られない。
第2は、そのうえで、経済政策の中軸に分散革命ニューディールを置いて実行する。新型コロナウイルスなど、今後も人類が遭遇しうる未知のウイルスによる大規模感染症は、今後の日常的リスクになりうる。大都市の「過密」自体が大きなリスクであるとすれば、分散型の社会システムに転換することが必須である。世界のエネルギー革命は、原発や大型火力のような大規模発電所から小規模分散の再生可能ェネルギーへの大転換を求めており、情報通信技術もクラウドのように情報の分散管理に向かっている。まずは本格的な発送電分離改革を実行するエネルギー転換を突破ロに、福祉や農業を含めた地域分散型社会を作り、インフラ、建物、耐久消費財などでイノベーションと雇用を創出するのである。
第3に、コロナ禍のバブルが生み出す究極の格差社会を是正しなければならない。コロナ禍での金融緩和は株価上昇とマンション販売の回復をもたらす一方、非正規雇用は雇い止めリスク、中小零細企業は倒産のリスクにさらされている。そして若い世代には「コロナ氷河期」を生み出そうとしている。格差と貧困は許容範囲をはるかに超えている。所得再分配的な税制と支出政策を再建し、教育と研究への予算と人を増やす必要がある。富裕層と大企業への課税レベルが明らかに低く、調達できるはずの財源を放棄しているに等しい。他方で、教育への公的支出はOECD諸国の中で著しく低く、大学・研究機関の予算削減が研究体制を荒廃させてきた。」(第6章 日本は新しく生まれ変わる、P188~190)
「第4に、産業の衰退を食い止めるためには、仲間内資本主義(クローニーキャピタリズム)によつて壊れた公正なルールを再建しなければならない。不正と腐敗で満ちた政府が適切な産業戦略を立て実行できるはずがない。森友問題、加計問題、桜を見る会を徹底的に解明し、不正な行為を行った犯罪者たち全員の罪(刑事罰が間えないなら少なくとも民事罰)を問うことが必須だ。同時に、安倍政権の下で成立した特定秘密保護法、安全保障関連法、共謀罪法などの悪法を改め、行き過ぎた付度官僚を生み出した内閣人事局体制の改組、官邸における公安警察官僚の排除、NHK人事への介入の是正と放送法改正などによって、民主主義国家を取り戻すのである。国家の私物化を正し、法的処罰を含めて公正なルールを再建することが、日本経済の再生にとって不可欠の条件となる。
第5に、差別のない多様性を尊重する社会を実現しなければならない。新型コロナウイルス等による大規模感染症は、差別・格差構造の底辺を直撃してきた。医療・介護・清掃.保育などを担うエッセンシャルワーカーの多くは、低賃金・不安定雇用のもとにあったが、いまや異常な負荷に苦しんでいる。」(第6章 日本は新しく生まれ変わる、P191)