これからのJA強化書-未来志向の組織づくりのヒント

チンパンジー

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その26

伊藤喜代次著、2019年4月、一般社団法人家の光協会、1,760円

流石にJAの現場で長年コンサルを行ってきた人であると思わせる。あちこちに、なるほどと思わせるヒントが散りばめられている。新世紀JA研究会の会員も、伊藤さんからコンサルを受けたことがあるのではないでしょうか。チンパンジーは、伊藤さんとは20年以上にわたるお付き合いがある(近年はお会いする機会がめっきり減ったが)が、本書を読んでもっと早く読んでおけばよかったと反省しきり。JAの自己改革に着手するうえでのヒントが隠されている。

また、准組合員の意思反映方法についても現実的で有効な提案がなされており、検討に値すると思います。

著者は、「1951年長野県牛まれ。経営雑誌編集長やシンクタンク研究員などを経て、1983年株式会社A・ライフ・デザインを設立。JAや地方の企業や組織の事業・経営コンサルティング、職員・社員の教育・能力開発研修などを行う。著書に『異常が正常-生き残りをかけた地域金融機関のたたかい』(共著、BKC)、『サービス・リレーション 組合員・お客さまとの「関係」づくり」(BKC)、『組合員満足のJA経営 フロント・ラインからの強い組織づくり』(家の光協会)ほか。」(奥付より)

例によって、ポイントを抜粋しておきます。

「人や組織のことを考えるとき、“強みと得意なこと”に焦点を合わせ、それをもっと伸ばし、強化することを最優先で考える。すると、すぐに実践できることがみえてくる。弱みや問題を無視することではないが、“強みと得意なこと”を伸ばすことで対応できることが多い。弱みや問題に焦点をあてると、原因探しに時間を要するだけで、すぐに実践すること、アイデアが生まれにくい。前向きに、素早く実践につながる“強みと得意なこと”は、成果を手に入れることも大きく、早い」(第一章 JAの“強み”を伸ばし、活かす、P40~41)

「35年のコンサルティング先のなかで、都市のど真ん中にあるJAにあっても、地域の農業生産やわずかな農地を守り、農家の農作業について一緒に悩み、損益を度外視して、営農・経済事業に取り組むJAの姿がありました。これまでお付き合いのあったJAは、地域の農業や農業経営に対して、組合員農家を交えた検討を重ね、産地振興、収入増、所得率向上、農家の土地・労働対策などに取り組んできており、JA経営は総じて健全度は高いと考えています。農業をないがしろにするJA経営は、どの事業も中途半端で、事業バランスも悪く、成長性も低く、当然、健全性も低いというのはコンサルタントサイドからの見立てです。」(第一章 JAの“強み”を伸ばし、活かす、P55)

「JAの営農・販売担当の役職員が、すべての部会組織の活動診断を行い、現状を分析し、今後の活動目標が明確であるか、目標達成のための活動が計画化されているか、年間の出荷量や品質に対しての目標達成状況はどうかを診断し、 一覧化して部会組織の活性化を図ることが急がれます。場合によっては、巨大化した組織に関しては規模別、地域別、経営者の年齢別に分割することも一法です。JAの部会組織の活動支援策(活動費)も、診断結果にもとづいて行えば、不満や批判は生まれないでしょう。」(第一章 JAの“強み”を伸ばし、活かす、P75)

「直売施設に出荷する農家については、出荷組合を結成しているケースが多いのですが、消費者組織をつくるケースが少ないのです。直売施設は、生産者農家が出荷する農産物と、それを求める消費者がいて成立するのです。消費者といっても、出荷する農家も消費者です。自宅で生産していない野菜は、直売施設から購入して帰ります。お弁当や惣菜、お菓子などは、コンビニエンスストアよりも安全で安心だと、昼ご飯に、三時のおやつに買って帰る農家は少なくないのです。私も、農家が出品するあんころ餅、だんごの類いは目がありません。そんな直売施設を愛してくれる人を組織しないなんて信じられません。」(第一章 JAの“強み”を伸ばし、活かす、P79)

「25年ほど前、『学習する組織-システム思考で未来を創造する』(英治出版)の著者のピーター・M・センゲは、二冊目のベストセラー『最強組織の法則-新時代のチームワークとは何か』(徳間書店)で、「人は、自分の運命を左右するのは自分だとわかってはじめて進んで学習する」とし、「真に責任をもって行動するとき、学習する速さは最大になる」と書いています。」(第三章 互いの能力を高め、人・現場を活かす、P198「」

「私は、JAが運営している直売所の施設の経営について、たとえば「直売所経営委員会」 のような組織を立ち上げ、経営委員として女性の准組合員の代表にメンバーになってもらい経営に当たる方式を考えました。現在、いくつかのJAにおいて、その仕組みを取り入れてみようと検討をしています。この方式は、農産物の直売所だけでなく、福祉関連の事業施設、農産物の加工関係の施設においても「経営委員会」を設置して協力をお願いすることを検討しています。このほか、JAの支店などの金融店舗の運営委員会のような組織においても検討に値する方式であると思います。形式的な委員会から脱皮することです。
先述したJAの施設に関しては、正組合員であるか准組合員であるかの区別はなく、また男性か女性の区別なく知恵を出してもらい、利用者の立場から率直な提案をしてもらうことが大事です。 准組合員を総代として委嘱し、各種の会議で発言していただくという方法も悪くないと思いますが、私は、直接的にJAの施設経営の委員として役割を担ってもらい、経営についての実質的な参画をお願いするという考え方です。女性と准組合員の意志反映が未来のJAづくりの最大のキーワードだと思います。
このように考えて、性別、正組合員と准組合員という分け方に関わらず、JAの施設や支店などの運営に積極的に組合員に関わってもらう仕組みを整備するのも一法であると思います。(第三章 互いの能力を高め、人・現場を括かす、P200~201)

「組合員数や事業規模が大きくなり、職員数が500人を超えるようになると、経営を管理するための手法を進化させる必要があります。ビジネス・ツールやセオリー、フレームワークの活用は避けられません。なぜなら、組合員のための事業や経営施策を考えたり、スピード感のある対応や判断が求められるようになると、本店・本部の過去の経験や組合員・顧客をもたない連合組織の方針などでは、きめ細かい対応ができないからです。常に考え、行動する現場や職員が必要になります。」(おわりに、P204)

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