内山節と語る未来社会のデザイン1 民主主義を問いなおす

チンパンジー

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その27

内山 節(たかし)著『内山節と語る未来社会のデザイン1 民主主義を問いなおす』2021年3月、一般社団法人農山漁村文化協会、1,320円

恥ずかしながら内山さんの著作を読むのは初めて。農業に深い理解を示す哲学者であるが、「哲学」という単語に幻惑されて近寄りがたかった(弁解)。内山さんの略歴は、次の通り。

「哲学者。1950年東京生まれ。東京と群馬県上野村を往復しながら暮らしている。主な著書は『内山節著作集』(全15巻、農文協)に収録。近著に『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』(講談社現代新書)、『いのちの場所』(岩波書店)、『修験道という生き方』(共著、新潮社)、『内山節と読む世界と日本の古典50冊』(農文協)など。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授(2010年4月~2015年3月)などを歴任。NP0法人・森づくりフォーラム代表理事。『かがり火』編集人。「東北農家の二月セミナー」「九州農家の会」など講師。」(奥付より)

哲学者らしい気づきに、なるほどと思う箇所がありましたので、抜粋しておきます。

「東京はある意味では最も経済発展した場所であると言えますけど、地域としてはむちゃくちゃに衰退している。お金が回らなくなるとたちまちみんな破綻するような社会をつくってしまっているのですから。予定どおりいかなくなったときにその危機の深さがみえてきます。たとえば東京で直下型大地震が起きると、危機になり予定どおりにはいかない。そうすると東京のもっている地域社会の危機の深さがたちまち露呈してきます。お金が回っている間はみえにくくなっているのですけど、お金が回らなくなったりあるいは大災害が起きたりすると、ピンチ極まりない社会が東京だと言えます。」(第2講 未来への構想力と伝統回帰、P66~67)

「いまの安倍内閣の支持の問題などもそれがあります。個別政策では、原発再稼働にしろ安保法制にしろ、「よくない」と言っている人がかなりいる。農民でも、TPPに賛成かと聞けば大半は「よくない」と反応する。だけど選挙になると意外とそういう結果でもない。それは結局システム変更を嫌がっているからです。少々難があってもシステムを守ってくれる人のほうがいいということです。実際にはどの政党が政権をとってもシステムの劇的な変更などありそうにもないのだけれど、システムの変更への不安がイヤだということなのです。なんとなく政治家がいて後援会があって、というシステムみたいなものがあって、その後援会の末席にぶら下がったりしていると、そういうシステムが変更されて自分のポジションがなくなっていくのがイヤだ、という人がでてきてしまう。
いま、日本はこの問題がかなり深刻だという感じがしています。 いろいろなところでシステムがしっかりできあがってしまったために、ポジション取りをめざし、システム変更はダメという、そういう保守主義 政治的保守主義ではなくて社会のあり方に対する保守主義 が広がっている。
テレビなどにでている評論家の人たちも信用できないと思うのは、あの人たちもシステムのなかでしっかりポジションを取っているからです。自分のポジションを絶対手放さない、その人たちが「非正規雇用は大変だ」とか、「これじゃ日本の農業は大変なことになる」 とか言っても、やり方と発言している内容が一致していないでしょう、という感じがします。」(第2講 未来への構想力と伝統回帰、P90~91)

「僕は企業型農業がいけないとは思っていません。 でも、いま国や経済界が言っている企業型農業は、全然根を張ろうとしない企業型農業です。だからこんなものはやめてくださいという気持ちです。「企業型で農業に参入するけれども、うちはここに根を張って、こういう農業をやるのです」 というのがないと。もうひとつ、農村とどう付き合っていくか。これも根の張り方のひとつですけれど、こういうことを提示しながらやっていくのなら経営のかたちが個人経営であろうが企業型であろうが構わない。地域社会にも根を張らないで、儲かりそうだから参入する、儲からなければさっさと撤退する、そういう企業型の参入は、農村社会を荒らすばかりなのでやめてほしい。形態の問題ではなく、根の張り方の問題だと思うのです。
これは、一般経済から農業までふくめたすべてで問われはじめている問題だという気がします。」(第4講 どこに根を張るか、P140)

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