マーケツトイン型産地づくりとJA-農協共販の新段階への接近

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その30

チンパンジー

板橋 衛編著、2021年1月、筑波書房、3,300円

「系統農協組織再編なかんずく農協合併を経ながらも、流通・生産構造の変化に対応し、産地(JA)の側から主体的に農協共販体制を再構築する取り組みを、われわれはマーケツトイン型産地づくりとして評価」(終章 農協共販とJAの機能、P289)している。どの章も戦後以降の農業生産の歴史を丁寧に追うことから始められている。1960年代の営農団地構想にも触れられている。

久しく事例分析から演繹される理論編の本を読んでいなかったが、面白かった。農業振興と部会の再編成に興味のある読者におすすめする。事例として、JA長野八ヶ岳、JAいぶすき、JAとぴあ浜松、JA富里市、JA紀州が報告され、分析されている。

編著者は、板橋 衛(まもる)教授。氏は、「1966年栃木県生まれ、愛媛大学大学院農学研究科教授 博士(農学)、『果樹産地の再編と農協』筑波書房、2020年、事例から学ぶ組合員と進めるJA自己改革』(編著)、家の光協会、2018年、『協同組合としての農協』(共著)筑波書房、2009年、『地域づくりと農協改革』(共著)農山漁村文化協会、2000年」(奥付より)

執筆者は、尾高恵美(めぐみ)株式会社農林中金総合研究所主席研究員 博士(農業経済学)、西井賢悟(けんご) 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA)主任研究員 博士(農学)、岩崎真之介 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA)副主任研究員 博士(農学)、坂 知樹(さかともき) 一般社団法人長野県農協地域開発機構 主任研究員 博士(学術)、岸上光克(きしがみみつよし) 和歌山大学食農総合研究教育センター教授 博士(農学)

いつものように、チンパンジーが選んだエッセンスを抜粋しておきます。

「黒澤(2005)は、パッケージ機能を通じて「それぞれの実需者にあったPB商品や産地ブランド商品を開発し、それをエンドユーザーまでそのままの形で流通させることにより、産地の主導権のもとに農産物を供給することができる」としている。パッケージ機能の展開は、産地側が取引の有利性を高める重要な条件になっているといえるだろう。」(第4章 マーケツトイン型産地づくりによる環境変化への対応、P98)

「JA長野八ケ岳川上支所やJAいぶすきでは実需者対応を県域組織が担っているが、県域組織に委ねる基本的な意義は、規模の経済の追求にあるといえるだろう。また、遠隔産地ほど実需者との接触に要するコストなどが相対的に大きくなることは容易に想定される。実需者対応を県域組織が担う意義は、遠隔産地ほど大きいものとなるだろう。」(第4章 マーケツトイン型産地づくりによる環境変化への対応、P99)

「増田(2002)は、販路開拓は「具体的な買い手との接触なしに不可能」であり、「今単協が持っている商品を手がかりに、できるだけ消費者に近い買い手との接触を強めることが必要」とした上で、「そうした販売面での攻めの姿勢を欠いた農協に、農業者組合員がついてくるはずがない」としている。」(第4章 マーケツトイン型産地づくりによる環境変化への対応、P100)

「事例を見る限り、能力開発の中心は現場での仕事を通じた知識や技能の習得、いわゆるOJTにあると考えられる。例えば、JA富里市では商談はベテラン職員が行い、経験の浅い職員はまずは出荷先ごとに荷物を振り分けて伝票を挟む仕事に従事し、こうした中で実需者対応の仕組みを少しずつ学んでいる。同JAからは、「直接販売の担当者として一人前になるまでには最低でも5年」との声が聞かれている。」(第4章 マーケツトイン型産地づくりによる環境変化への対応、P101)

「部会の細分化再編を論じた鏑矢は石田(1995)である。同氏は農業経営の異質化が進む中での部会のあり方について、「既存の地域を単位として作られた部会組織(これをとりあえず地縁組織と呼ぶ)はそのままとし、生産物(出荷体系)、生産方法(装備水準別)、栽培方法、販売方法などの共通性に着目しながら、地縁組織の中から複数の組合員をピックアップし、真に利害関係を共有できる部会組織(これをとりあえず機能組織と呼ぶ)を育成することが重要である」 としている。」(第5章 農協共販における組織の新展開と組織力の再構築、P120)

「事例とする川上支所管内は夏秋レタスの全国トップシェア産地である。その詳細は第7章で述べるが、同産地では生産部会に相当する組織は出荷組合と呼ばれており、その傘下に小グループが設立されている。2018年度においてレタスの小グループは25におよんでおり、それぞれが共計単位でいずれも契約に基づく取引を行っている。欠品を回避するために小グループを通じた出荷は各生産者の出荷量の5割を上限としており、残りは支所全体で共計の一本化が図られているレギュラー品として出荷することがルール化されている。」(第5章 農協共販における組織の新展開と組織力の再構築、P124)

「そこで、その契約的直接販売の推進を補完する役割として、くみあい食品による全県的な対応が注目される。大消費地との距離がある遠隔野菜産地として、消費地対応という点での役割のみではなく、産地指導という点でもくみあい食品は重要な役割を果たしているとみられる。契約の単位を全県的な対応とするケースもあり、くみあい食品による実質的な連合会機能とみることができる。」(第8章 遠隔野菜産地におけるマーケットトイン型産地づくりのための営農指導・販売事業の展開、P207)

「系統農協組織再編なかんずく農協合併を経ながらも、流通・生産構造の変化に対応し、産地(JA)の側から主体的に農協共販体制を再構築する取り組みを、われわれはマーケツトイン型産地づくりとして評価してきた。」(終章 農協共販とJAの機能、P289)

「JAの経営環境が厳しくなる中では、単協(JA)単独による営農経済事業展開の限界も考えられ、あらためて連合会機能のあり方が問われることになる。そこでは、集出荷選別施設などの投資やリスクをともなう実需者との直接的取引における契約面などでの連合会機能が重要になると考えられる。」(終章 農協共販とJAの機能、P291)

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