「魚はなぜ減った? 見えない真犯人を追うー東大教授が世界に示した衝撃のエビデンス-」

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その35

チンパンジー

「魚はなぜ減った? 見えない真犯人を追う-東大教授が世界に示した衝撃のエビデンス-」2021年11月1日、山室真澄著、株式会社つり人社

皆様、ご無沙汰しておりました。新世紀JA研究会のミニ研究会と全国セミナーが毎月開催されていますよ。チンパンジーもその事務局でヒーヒー言ってました。詳細は、新世紀JA研究会のホームページ見てください。

チンパンジーの趣味は魚釣りですが、ネオニコチネイド系の農薬に関する問題です。環境への配慮が求められている中で、決して無視できない問題です。そのとっかかりとして、読みやすい本ですよ。

著者は、東大の研究者。島根県は宍道湖で実地調査を重ねてきた方です。次に、著者プロフィールを紹介しておきます。

「山室真澄(やまむろ・ますみ)
1960年名古屋生まれ。幼少期から水辺に親しみ、高校2年生で米国の高校に編入。帰国後、東京大学・文科三類に入学。理学部地理学教室に進学し、学生時代の卒業研究から学位論文まで宍道湖の生きものをテー究。その後もー貫して同湖の研究を続け、2019年『Science」誌にて論文「Neonicotinoids disrupt aquatic food webs and decrease fishery yields」を発表する。東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。専門分野は陸水学I沿岸海洋学・生物地球化学。2020年の大阪フィッシングショーで、(公財)日本釣振興会環境支部主催の講演会に登壇するなど、得られた知見の普及にも取り組んでいる。
【経歴】1984年 東京大学理学部地理学教室卒業
1991年 東京大学理学系研究科地理学専門課程博士課程修了(理学博士)
1991年 通商産業省工業技術院地質調査所
2001年 産業技術総合研究所海洋資源環境研究部門主任研究員
2007年 現職

【主な著書・論文】
●平塚純一・山室真澄・石飛裕(2006)『里湖モク採り物語 50年前の水面下の世界』生物研究社
●山室真澄・石飛裕・中田喜三郎・中村由行(2013)『貧酸素水塊一現状と対策』生物研究社他)」

例によって、チンパンジーの印象に残って所を抜粋しておきます。

「私は「原因はこれです」と言っているのであって、「だからあなたが悪いんです」とは言っていないんです。どうやったらこの問題が解決できるのか考えましょうと言いたいのです。なんですけど、世の中には批判されただけで自分の人格が否定されたように思う人がいて、科学の学会発表でも「それ違うんじゃないですか?」っていわれただけで自分の人格が否定されたように怒り出す人がいますが、それって違うんですよね。批判することと人格を否定することは全く違うんです。

人間はディスカッションでお互いを批判することで正しいところに近づいていく。逆に言うと人間はみんな不完全だから、お互いに「これ違うんじゃない?」ってきちんと言い合う中で「これならより正解に近そうだよね」というところに行けるんです。なので、原因を指摘することによって、農家さんも含めてよりよい方向に向かっているんだという意識を持てるようになるといいんじゃないかなと思います。」(インタビュー、P10~11)

「宍道湖では水田でネオニコチノイド系殺虫剤が使用された1993年から、エサとなる動物が激減したためにウナギやワカサギの漁獲量が激減して今日に至っていた。前回までに示した証拠から、ネオニコチノイド以外に原因を求めるのは困難である。

ではなぜ地元の漁業者も含め、著者以外の誰もネオニコチノイドが原因だと気づけなかったのだろう。理由のひとつとして、かつて農薬で魚が大量死したころには、有害成分が直接魚体に影響を及ぼし、死に至らしめていた。そのため「農薬=大量死」のような先入観が邪魔をしたのかもしれない。本連載の第1回で解説したように、昆虫の神経系に作用する殺虫剤として最初に広く使われたDDTなどの有機塩素系殺虫剤は、魚毒性も強かった。次に使われるようになった有機リン系殺虫剤も同様だ。

一方、これら人間の健康にも悪影響を及ぼす農薬と違い、「昆虫以外の動物には影響が少ない」として開発されたのがネオニコチノイドだった。そして、実際のところネオニコチノイドが使われても、これまでの殺虫剤のように魚が死んで浮くことはなかった。魚は“いつのまにかガ消えたのだ。」(第6回釣り人の視点が生態系全体の保全のヒントになる,P87)

「本連載では島根県の宍道湖という平地にある湖を対象に、ワカサギやウナギの激減が起こったのは、その年に水田用ネオニコチノイド系殺虫剤が初めて使われたためと説明してきた。釣り人の中には、水田排水の影響を受けない渓流ではネオニコチノイドも無関係なのでは?と思った方もいるかもしれない。実はネオニコチノイドは農作物だけに使われているのではない。松枯れの原因とされるマツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリを殺すという名目で、松林がある山林では30年以上にもわたって、ネオニコチノイド系殺虫剤の空中散布が延々続けられてきたのだ。著者の趣味のひとつはトレイルランだが、松が多い山では夏でも薮蚊がほとんどいないと実感している。」(第7回 ネオニコチノイドに頼らない農業に向けて、P102~103)

「世界ではネオニコチノイドの規制がすでに始まっている。本連載第1回で世界における化学農薬の使用量を紹介した。多く使われているのはアジア、ヨーロッパ、中南米で、特に夏に高温多湿になって病虫害の被害が多くなり、米の生産量が多く水田で農薬が多用される東アジアで化学農薬の使用量が多いと解説した。

しかしネオニコチノイドについては事情が異なる。欧米では、日本で承認されているネオニコチノイド系殺虫剤を承認していなかったり、承認したものについても登録中止措置にしているものが大部分である。

では熱帯にある国や東アジアではどうだろう?
P105表1には熱帯(ブラジル、オーストラリア、フィジー)や東アジア(台湾・韓国)などでの規制状況が示されている。ネオニコチノイドや同等の浸透性神経毒である殺虫剤すべてを承認しているのは日本だけで、かつ、承認済み殺虫剤の規制を緩和しているのも日本だけである。つまり、ネオニコチノイドは気候や米作の有無に関わらず、日本以外の多くの国で規制が進んでいるのだ(ただし後述のように、この表に掲載されていない、そもそも規制や管理をしていない国もある)。

日本では表1にあるように食品への残留基準が緩和されていることもあり、規制が進んでいる欧米と比べて、私たちが口にする食品に残留するネオニコチノイドの濃度も極めて高い(表2)。このため欧米よりも日本人のほうが食物を通じて摂取するネオニコチノイドが高くなり、健康障害が生じた事例が報告されている(平ほか、2011/表1)。(第7回 ネオニコチノイドに頼らない農業に向けて、P103~104)

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