宍道太郎(しんじ たろう)著『覚醒シン・JA-農協中央会制度65年の教訓』(2022年1月、全国共同出版、2,750円)

シン・JA

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その41

宍道太郎(しんじ たろう)著『覚醒シン・JA-農協中央会制度65年の教訓』(2022年1月、全国共同出版、2,750円)

難解な本かなあ。断定的主張と全中批判があちこちで展開され、全中に長年働いてきたチンパンジーは、通読するのにつらかった。提案のポイントに絞って書かれたら大方の理解が得られると思いました。老兵は死なず、消え去るのみと言われるが、この人は死にそうにない程、新世紀JA研究会の常任幹事として大活躍されている。著書も多数にのぼるので各位も読まれていることと思います。

本書の最後に「農業振興を通じた豊かな地域社会の建設」という主張がありますが、チンパンジーには産業組合拡充運動が展開された頃、千石興太郎(I874~l950)が立案・指導した理念である「産業組合的経済組織論」を想起させられました。これも、著者の言う「二軸論」なのかなぁ。千石氏は、産業組合が発展して生産者と実需者の間に存在する中間利潤の排除に成功すれば「資本主義でも社会主義でもない理想的な経済社会」が生まれるとするものでした。

「著者紹介」より著者を紹介しておきます。知らない人はいないでしょう。
本名 福間莞爾(ふくま かんじ)。1943年生まれ。旧農協法(2015年に改正)下で、全国農協中央会常務理事(1996年-2002年)、(財)協同組合経営研究所理事長(2002年~2006年)等を歴任。その後、2006年から2021年の15年問にわたり、農協の自主研究活動組織である「新世紀JA研究会」の事務局を務める。農業 農協問題評論家。農業経済学博士。」(P183)

例によって、幾つか抜粋しておきます。

「このような漠然とした地域組合論は、これからも人々の農協組織理解に役立つものとして広く唱えられることは必要であると思う。だが、全中が言う二軸論としての地域組合論は、農協は農業振興と地域振興の二つの目的を持つ組織と考え、そのための農協法第一条の農協の目的規定の改正を前提にしている。その改正は実際には不可能と言っていいものであるとともに、それゆえ、当の全中自身が、そのことに本気で取り組んできていないことを考えれば、二軸論に基づく農協の経営理念は、いわば空想的・幻想的な農協経営理念と言っていい。

農協(全中)が自らを、地域組合と自認するのに何ら問題はないが、それをさらに進めて、農協が農業振興と地域振興という二つのことを目的とする組織であると主張し、実現不可能な農協法の改正を前提とした空想的・幻想的な農協経営理念をもとに運動するのは行き過ぎと考えられるのである。否、農協運動の方向を誤らせることにさえなりかねないのである。

もっとも、それを意識するかしないかは別にして、二軸論を進めることで、将来的に農協が他の組織に移行・分割されていくおそれがあるとしても、それはそれでやむを得ないことであるとも思う。だが、農業振興にとってその活用次第で大きな役割を果たせる可能性があるせっかくの農協組織が衰退していくことは、避けられるべきと考える。

また事実問題として、こうした二軸論に基づく自己改革案(2014年11月)は、その後の政府・自民党との交渉(2015年2月)において農協組織自身がその問題点に気づかされるとともに、その後の農協法改正の中で、国会審議を通じて完全否定されることになる。

だが、こうした二軸論に基づく地域組合路線は、その後の第27回・第28回・第29回のJA全国大会において、農協の「自己改革」のもとに正当化され、継続されていくことになる。こうした事情を、農協関係者はよく理解しておくことが重要である。どのような議論があってもいいが、議論の土台に共通の事実認識がないと組織は危険に晒される。」(序章シン・JA~新総合JAビジョンの確立~、P19~20)

「それは、農協は農業振興を旨とする組織であり、准組合員は農業振興のサポーターとして、農業振興や農業の基本価値(農 食 環境保全)の実現に向けて事業利用を行い、積極的に農協への意思反映を行ってもらうということである。

筆者によれば、こうした当り前のことを准組合員対策として押し進め、准組合の存在を、行政を含めて組織内外に理解を得ること、それがこれからの准組合員対策の基本であると考える。

そのことによって、准組合員の存在は農を基軸として大義名分を持って世問に受け入れられ、今後再び准組合員の事業利用規制などという問題がおきてこないようにしなければならない。

准組合員は農業振興に貢献言者であることを組織の内外に鮮明にすることで、今後、准組合員が増えてもそれが合理性を持って受け入れられるようにしなければならないのである。

また、それが中央会制度の廃止という代償に応える方策でもある。本格的な准組合員対策とはどのようなものか、以下にその内容について述べてみる。

①新しい農協の経営理念の明確化
それは、第一に、組織の内外に農協の存在目的を明らかにすることであり、これまでのように、農協は農業振興とともに地域振興を目指す組織であるという二軸論を排し、シンプルに農業振興を目的とする組織であると主張することである。

また同時に、農業振興の概念の中に、これまでのような農業が農業生産者の利害だけではない、産業としての使命(ミッション)である農業の基本価値の実現を加えることである。

今までのように、農業振興を農業生産力の増強と農業所得の確保という狭い概念に押し込めると、言い換えれば偏狭な職能組合論に立つと、これまでのような出口のない、あるいはすれ違いの議論に巻き込まれることになる。

前にも述へた、農業が持つ基本的価値の実現こそが、農協の准組合員問題を解決するカギとなるものである。農協の経営理念については、これを明確にしたものは必ずしもないが、こうした農業が持つ基本価値の実現を考慮すれば、新たな農協の経営理念とは、たとえば、「農業振興と農業の基本価値の実現を通じた豊かな地域社会の建設」ということになる。

あるいは、「農業の基本価値の実現」は説明書きとして、もっとンンプルに「農業振興を通じた豊かな地域社会の建設」としていいかも知れない。また、「農と食を通じた豊かな地域社会の建設」としてもいいだろう。

「農」と「食」についての順番は、あまり意識されない場合が多いが、農協はあくまで農業生産者の組織なので、「農」を最初に出すべきだろう。「食」と「農」ではないのである。こうした此細なことにこだわることで、関係者の意識の改革と共通認識の醸成を図ることが重要である。」(第四章これからの展開〈どこへ行く農協運動〉、P151~153)

「結論から言えば、准組合員にも何らかの形で共益権が与えられることで、准組合員対策は十全なものになると考えられる。

問題は共益権付与の形であるが、准組合員が農業の基本価値の実現に寄与する存在であるとしても、農業振興の王役である正組合員とは一線を画す措置が必要と思われ、そのための具体策として、①准組合員に対する二分の一議決権の付与、②准組合員への拒否権付き議決権の付与等が考えられる。このうち、准組合員への正組合員の拒否権付き議決権の付与が現実的な対応と思われる。

拒否権付き議決権とは、例えてみれば、国連における拒否権を持つ常任理事国(正組合員)と非常任理事国(准組合員)の関係に置き換えてみるとわかりやすいかもしれない。

農水省も、准組合員存在の目的が農業振興にあるということになれば、非農民勢力排除のために一方的に共益権に制限を加える理由がなくなり、制限付きの共益権付与に前向きになれるのではないか。

この点については、農協のガバナンスの基本にかかわることでもあり、実情に応じてよく研究したうえ、組合員合意の上で実施すれば良い。もちろん、この点についても、できれば全中が統一的な取り組み指針を作成して進めることが必要であろう。」(四章これからの展開〈どこへ行く農協運動〉、P160~161)

「前にも述べたように、2021年6月の政府による「規制改革実施計画」では農協ごとに、准組合員の「意思反映」と「事業利用の方針」を策定し、それを農協のPDCAに繰り入れ、農水省が指導 監督することになっている。

このうち、准組合員の事業利用の方針については、農協は、「准組合員を農業振興に貢献する者と位置つけ、事業利用を進める」と明確にすべきだろう。」(四章これからの展開〈どこへ行く農協運動〉、P161)

「すでに、第二章2で述べたように、かつての中央会制度における経営指導 教育 情報提供(広報)の事業は三位一体の事業であり、この事業を一体的に行うことこそが、中央会が中央会たる所以のものであり、農協運動を保障するものであった。

関連してこれからは中央会の事業は、指導ではなく調整という議論があるが、指導か調整かは議論の本質ではない。これまでもこれからも、経営・教育・情報提供(広報)が一体となって、開発すべき、もしくは現場で開発された協同組合の組織 事業・経営モデルを確認し、それをお互いが学びあい、内外にそれを発信 広報していくこと、そしてそれを農協運動として展開していくことこそが中央会の基本機能でなければならないと思う。

今後の農協の経営問題に関する事項は、全中に代わって農林中金が行うなどともいわれるが、総合事業を営む農協にとって各種事業を統合して協同組合ビジネスモデルを開発・啓発し、これを農協運動として展開していけるのは全中しかない。

今回こうした認識(中央会制度廃止の教訓)は、全中には乏しいものと見受けられ、経営指導は経営相談に置き換えられ、教育事業は柱から外された。中央会制度のもとでの従前機能の発揮は無理としても、経営相談 経営コンサルタント事業で全中は機能を果たしていけるのだろうか。

経営コンサルタント事業を行う企業は世の中に山のように存在する。この点、廃止された中央会制度における経営(指導)・教育・情報提供(広報)の三位一体の事業展開こそが会費徴収の大義名分でなければならず、これで全中は誇り高き協同組合運動の指令塔の役割を果たして行けるのであろうか。大変危惧されるところである。」((四章これからの展開〈どこへ行く農協運動〉、P173~174)

宍道太郎(しんじ たろう)著『覚醒シン・JA-農協中央会制度65年の教訓』(2022年1月、全国共同出版、2,750円)” に対して1件のコメントがあります。

  1. 石丸 正治 より:

    月刊「経営実務」2022.3月号、拝読。
    2014年春、JA改革案公表時に准組合員利用制限は農協法違反と経営実務に投稿、続いて昨年5月号に「私のが考えるJAの理想像」として投稿。
    8年前には廃案には生協と一緒になり国民的な運動起こし決起すべし、
    但し、農業特化論は実に正論、JA全中は農政予算獲得を基本に穀類自給率の司令塔に。しかし力及ばず農協の前途は暗闇に。
    再決起はコロナ発症時、良きチャンスとして起死回生に二毛作・二期作推進すべしと提起。今、プーチン愚行の為、世界的穀類争奪戦。しかし今、偉人、宮脇会長のような指導者は無く実に残念なり候。

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