『 日本の構造-50の統計データで読む国のかたち』橘木俊詔、2021年3月20日、講談社現代新書、990円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その42

日本の構造-50の統計データで読む国のかたち』橘木俊詔、2021年3月20日、講談社現代新書、990円

期待して呼んだが、新聞等で把握している認識と大きな違いは無かった。それでも、なるほどと頭が整理できたところもあった。

著者の橘木俊詔(たちばなきとしあき)氏の略歴は、次の通り。

「1943年、兵庫県生まれ。小樽商科大学、大阪大学大学院を権て、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph,D.)。京都大学教授、同志社大学教授を歴任。現在、京都女子大学客員教授。仏米英独で研究職・教育職を経験。元日本経済学会会長。専門は経済学、特に労働経済学。主な著書に、『日本の経済格差』(エコノミスト賞受賞)『家計からみる日本経済』(石橋湛山賞受賞)『格差社会』『新しい幸福論』(以上、岩波新書)、『「地元チーム」がある幸福』(集英社斬書)、『夫婦格差社会」(迫田さやか氏との共着)『世論格差社会』(参鍋篤司氏との共薯。以上、中公新書)など多数。講談社現代新書には『離婚の経済学』(迫田さやか氏との共著)、『早稲田と慶応』がある。」(扉より)

例によって、チンパンジーが印象に残ったところを引用しておきます。

「第1に、日本は45・8%で高い比率なので、長期雇用を達成している国であるとみなせる。他の国で日本より高いか同水準の国としてイタリァ50・2%があり、日本だけが長期雇用のユニークな国と思わない方がよい。しかもフランス45・6%、ベルギー43・8%、ドイツ40.3%のように日本の数字に近い国もある。これらの国では解雇規制(安易に解雇してはならないという法規)の強いことも、長期雇用者が多いことを背後から促している。

第2に、逆に長期雇用率の低い国はアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアというアングロ.サクソン系の諸国、それにスウェーデン、デンマークという北欧諸国である。前者は自由主義経済を好む国なので、転職することに抵抗感はないし、企業も割合簡単に労働者を解雇、 一時帰休をおこなう。

北欧諸国は福祉国家なので短い勤続年数に驚くかもしれないが、そこには特有の動機がある。企業、労働者、政府のあいだに経営不振の企業は早めにつぶして、新しい企業を創設して生産性の高さをめざすのがよい、という国民的合意がある。これは高い開業率・廃業率のところで説明した理由と同じなので、これ以上言及しない。

第3に、非常に低いのは韓国の21・5%である。日本と韓国は同じ東アジアの一員として共通の社会特性、例えば低出生率、女性の冷遇、受験戦争などがあるが、長期雇用に関しては好対照である。韓国は景気循環の波が大きいことと、アメリカ的経営への賛美があり、長期雇用が実現していない。

今後の日本がどうなるか、予想しておこう。長期雇用を達成する人の数が減り、転職率は増加するだろう。大企業の経営者(例えば日本経済団体連合会会長の中西宏明、トヨタ自動車の豊田章男社長など)が、不確実性の高まっている時代への対応としてやむをえないとしているし、新しい風を企業に入れる必要性から、終身雇用は守れないと主張しはじめている。労働者側も新しい、より魅力的な職場を求めたり、職場に不満があるなら企業を移ることに抵抗感がなくなっている。

後者の証拠は図3-1で示すことができる。新卒生の就職後3年以内に転職する比率の推移を学歴別に示したものである。中卒で約60%(2018年は48%)、高卒で約40%、大卒で約30%となっている。 一時は7・5・3現象と呼ばれていたが今は6・4・3現象である。学歴によって転職志向がかなり異なってはいるが、若年層は転職に抵抗感のない時代になっている。」(第3章 日本人の労働と賃金、P83~84)

「規模間格差は他の先進国との比較をした図3-2によって明らかである。イギリス、オランダ、デンマーク、フィンーフンドなどは、企業規模間格差がほとんど存在していない。多分、規模間格差は容認されるべきではないという規範が社会にある。そう判断する根拠は、イギリス以外では賃金は経営者、労働組合、政府の三者で全国一律に、中央で決定されるという、特色の存在にある。もうーつは中小企業が高い生産性をめざして頑張っている点があろう。逆に規模間格差のめだつのは、日本、ドイツ、アメリカである。

日本での特徴は、若い年代では規模間格差がほとんど存在しないが、中年になると拡大し、ピークは40代後半から50代の頃である。年功序列の要素が大きいからである。

ここで述べたいくつかの現象に関しては、女性よりも男性にかなり大きいという事実が大切である。この男女差は、女性は役職(課長や部長)に就くことがほとんどなく、男性のみが役職に昇進して、高い役職手当を受けることもーつの要因である。とはいえ、能力・実績主義が管理職に適用されるので、男性の全員が昇進するのではない。」(第3章 日本人の労働と賃金、P87)

「日本は自由主義、資本主義を是とする人が多数派(すなわち自民党政権の継続)なので、後も種々の格差は縮小せず、むしろ拡大する可能性があることを予想できる。その典型なのがアメリカであり、経済効率は高いが格差も大きい。逆の立場は北欧諸国などである。国民は平等主義を好むので社会民主主義の国であり、格差は小さいし福祉国家になっている。一方で経済は好調なので、経済効率性と平等の双方を満たしている稀有な国々である。北欧諸国は小国なので国民の連帯感が強いという特色も無視できない。」(終章 今後の日本の針路、P246)

「本書は各項目の叙述において、他の先進国との比較をおこない、日本の特色を浮き彫りにして、理解しやすいようにした。数多くの話題の中からいくつかを再度ここでの述べて、その特色を強調しておきたい。

まずは企業のあり方、そして労使関係である。これに関しては欧米諸国とはかなり異なる特色がある。簡単に述べれば、(1)終身雇用(長期雇用)を理想とするので転職が少ない。(2)年功序列制があるのである程度の平等志向である。(3)労働組合は産業別・職業別で組織されず企業別である。これらをまとめれば、労働者は企業への忠誠心がかなり強いのであり、欧米のように企業と労働者の満足を優先する契約型雇用とは異なる。しかし日本でもグローバル経済化の影響の下、これらの特色はやや希薄化しつつある。

日本では(4)大企業と中小企業間の格差(賃金、生産性、利潤など)がかなりあるが、欧米企業ではそうめだつ点ではない。(5)低成長時代に入って日本企業はパート、アルバイト、期限付き雇用、派遣労働者といった非正規労働者の数を増やしたが、欧米企業ではそれらは存在するが、日本ほどその数はめだたない。ついでながら、日本における格差社会の象徴の一つは、正規労働者と非正規労働者の問での賃金、昇進、雇用の安定に関する格差の存在である。ヨーロッパの一部の国(オランダ、ドイツ、フランスなど)では同一価値労働・同一賃金の原則が普及していて、働く身分の違いによる両者間の差別は排除されている。」(終章 今後の日本の針路、P249~250)

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