責任編集桑原裕・安部忠彦『MOT技術経営の本質と潮流<MOTテキストシリーズ>』平成18年6月30日、丸善株式会社出版事業部、3,960円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その55

責任編集桑原裕・安部忠彦『MOT技術経営の本質と潮流<MOTテキストシリーズ>』平成18年6月30日、丸善株式会社出版事業部、3,960円
スマート農業が急速に普及する中にあって、一般企業においてもテクノロジーと経営の融合が議論されている。手始めに教科書的な本を手に取ったのだが、MOTとはイノベーションなりとは少々驚いた。
企業の事例がいくつか紹介されており、一挙に読めた。
編集責任者2名を紹介しておくと、
「桑原裕(くわはら・ゆたか)GVIN(ジーブン)代表収締役CEO.1939年生れ.東京大学大学院修了.学術博士.日立製作所中央研究所,米国・萸国の日立代表,日立海外研究所(欧米)設立の指揮・実行役を歴任.また.スリーアイ(英国)社外ディレクター,シーエスアール㈱会長,ホエールズウェブ・ドットコム社外取締役兼CMO ,流通科学大学教授,政策研究大学院大学客員教授,新経営研究会取締役も務める.著書に『技術経営とはなにか』丸善.
安部忠彦(あべ・ただひこ)富士通総研経済研究所主席研究員,立教大学大学院教授.1952年生れ.東京大学大学院修了.学術博士.三菱鉱業セメント,長銀総研を経て現職.研究テーマは,産業・構逮変化,MOT.著書に『新リーディング産業が日本を変える』日本プラントメンテナンス協会など.」(責任編集者紹介より)
いつものように、チンパンジーが気になったところを幾つか抜粋しておきます。
「技術経営(マネジメント・オブ・テクノロジー:MOT)が,最近産官学で大きな関心を集めている.もともとは,MOTは米国で生まれた.特に,MIT,スタンフォード大学, UCBなどの大学では,過去MOTに関する幅広い研究と教育が行われていた.米圃企業は,これを積極的に取り入れ,企業経営の高度化・革新を効米的に祁進した.しかし,バブル経済崩壊後の,新しい産業や経済の枠組みの中で,過去のMOTは,必ずしも企業経営にぴったりあてはまらなくなってきた.特に,ベンチャー企業が米国産業の中心的な存在になってきた現在においては,過去のMOTの概念は,相当の修正と変更を強いられる状況になってきた.しかも,急速に進展する社会のネットワーク化,グローバル化,および世界的な規制緩和の波は,MOTの新枠組みを強く要求する結果となっている.」(MOTテキスト・シリーズ刊行にあたって、編集委員長 野中郁次郎より)
「技術経営の真髄は「イノベーション」であると思う.企業が存続し発展するためには,新技術を生み出し,これにもとづく新製品を休む間もなく開発し,これが利潤を生み,この一部をさらに新規の技術へのチャレンジに投資するというプロセスを続けなければならない.一瞬でも休めば,たちまちに競合他社に追い抜かれ,二度とトップの座を取り戻せないどころか企業の存続さえ危ぶまれるようなことになりかねない.
すなわち「イノベーション]こそが企業発展の根底にある.これをしっかりと経営の中枢に据えて,企業のコーポレート・マネジメント,コーポレート・ガバナンスを行うことこそ,技術経営の真の実践である.最近[技術経営]は企業においても,大学においても,また政府機関においても,非常に重要な課題になってきている.英謡では“Management of Technology (MOT)”と書くので,直訳すれば「技術の経営」である.」(第1章 技術経営の本質、P1)
「北陸先端科学技術人学院大学(JAIST)は,知識科学を基盤とする技術経営(MOT)を目指している.これは,まさしく科学技術(サイエンス)のマネジメントへの挑戦である.技術知識の創生とその社会への貢献を目指して、最近問題にされている「死の谷」を克服する新しいイノベーション・マネジメントを,知識科学をベースとして構築しようとする意欲的な収り組みである.」(第2章 なぜ今技術経営なのか-その戦略目標と実践方策-、P33)
「一方民間企業は,政府をそれなりに信用していた.恐らくその理由は,政府の中に今もいる何人かの優秀なスタッフの知力に対して敬意を払うからだろうと思われる.少なくとも過去はそうだった.民間企業では得がたい政府の持っている情報の確かさに対しての信頼性だった.では,今はどうなのかというと,「公務員倫理法」ができて,役人は,民間と3000円以上の食事をしたら届けろということになっている.政府の職員は,これを気にして,民間企業と腹を割って話し合うチャンスをもたず,また企業から健全な現場の刺激を受けることもなくなってしまった.
役人たちは,ビピッて企業の人たちと決して食事をしない.だから,役人には生きた情報が入らない.こんな状態ではお互いに貧困になっていく.こんなひどい状態が続いているのに,政治家と外交官だけが,「公務員倫理法」から除外されている.全くふざけた話である.政治家は頻繁に料亭で会議したりしているが,ほとんどパワーがないし,勉強もしていない.一方,外交官も,いまいちだらしないところがあるし,勉強が足りないように思う.」(第8章 国家と技術経営-生産の本質-、P127)