『JAの会計実務と監査~自己査定・償却・引当編~』2022年2月25日、みのり監査法人編著、㈱経済法令研究会、305頁3,850円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その56

『JAの会計実務と監査~自己査定・償却・引当編~』2022年2月25日、みのり監査法人編著、㈱経済法令研究会、305頁3,850円

JAの健全性確保のために適正な償却・引当は必須であり、そのために全JAで資産査定(自己査定)に取り組んでいることと思います。改めて基本動作を確認することも良いですね。この本は、財務諸表の適正証明を付与する立場の監査人の目線で書かれていますが、JAの実務に従事する方にとっても分かりやすいと思います。

もう7年が過ぎましたが、平成27年の農協法改正において中央会制度が廃止され、業務監査は改正法附則の中で県中連合会の事業として残されたが、中央会監査制度そのものが廃止され、会計監査人の監査を受けるよう制度変更された。このため、JA全中監査機構監査は、JA全中の一般社団法人化に併せて立ち上げられた「みのり監査法人」へ機能移管され、会計監査は会計監査人が行い、業務監査は基本的には監事が行うという一般事業会社と同じ制度へ移行したわけです。

このような経過で設立されたみのり監査法人を改めて、紹介する必要もないと思いますが、一応紹介しておきます。

「全国各地に所在する農業協同組合および農業協協同組合連合会に対する監査業務を中心に、地域金融機関に対する監査業務や各種アドバイザリー業務を提供することで、我が国の地域社会が持続的かつ安定して発展することを目指した監査法人。農協等の監査業務においては、会計監査の専門家である公認会計士と農協等の業務に精通した農協監査士が連携することで効果的かつ効率的に、また、これまでの長年の監査経験を基盤とした全国各地の地域に密着した業務を実施している。」(編著者紹介より)

いつものように、チンパンジーが勉強になった点を幾つか紹介しておきます。

「多くのJAでは信用事業として貸出を行うことから、JAの償却・引当に係る計上根拠、ないし指針等は、銀行や信用組合、信用金庫等と同様となり、同図表①~③の基準等に加え同図表④~③の指針等も、一定の配慮をする必要がある。これらは、会計基準等ではないが、会計監査人が監査上の留意点として、これらの指針等を参考に各金融機関の監査を行うことから、会計基準に準ずるものとして取り扱われ、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を構成することになる。実際、ほとんどの銀行や信用金庫、信用組合等はこちらの指針等をもとに決算・経理処理を行っている。

このように、JAにおいては、一般事業会社に適用される会計基準等に加えて、金融機関特有の指針等も踏まえて償却・引当を実施することになるが、同一の債務者等に対して信用事業のみならず、経済事業に係る債権がある場合には、注意が必要となる。具体的には、異なる事業から発生した債権であっても、同一の債務者に対する債権であれば、予想される損失が同様に発生すると考え、経済事業から発生した債権についても、上記の金融機関特有の指針等に則って償却・引当を実施することになる。

 同一の債務者等に対して信用事業や経済事業に係る債権があり、予想される損失が同様に発生すると考え自己査定を行うことを、債務者名寄せ、あるいは実質同一人名寄せといい、償却・引肖も同様に行う。」(第1編償却・引当制度と自己査定、22頁)

「図表1-1-5 JAの貸出金等に対する償却・引当に係る計上根拠規定、指針等

① 企業会計原則(第三・五・C)
債権の貸借対照表額は、債券金額または取得価額から正常な貸倒見積高を控除した金額とする。

② 金融商品に関する会計基準27項、28項
債権の貸倒見積高は、債務者の財政状態および経営成績等から債権を「一般債権」「貸倒懸念債権]「破産更生債権等」に区分したうえで見積られる。

③ 金融商品会計に関する実務指針122項
債権の貸倒見積高を算出する方法には、個々の債権ごとに見槓る方法と債権をまとめて過去の貸倒実績率により見積る方法とがあるが、貸倒引当金の繰入れおよび取崩しの処理は、引当の対象となった債権の区分ごとに行われなければならない。

④ 「銀行等金融機関の資産の自己査定並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」
自己査定に関する内部統制の有効性の評価(自己査定体制の整備状況の妥当性および自己査定基準への準拠性等)、貸倒償却および貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱いを明確にしたもの。

⑤ 「銀行等金融機関の正常先債権及び要注意先債権の貸倒実績率又は倒産確率に基づく貸倒引当金の計上における一定期間に関する検討」
銀行等金融機関の正常先債権および要注意先債権に対する貸倒引当金の計上について、予想損失額を見込む「一定期間」に関する監査上の考えを示したもの。

⑥ 「銀行等金融機関において貸倒引当金の計上方法としてキャッシュ・フロー見積法(DCF法)が採用されている場合の監査上の留意事項」
貸倒引当金の計上方法としてDCF法が採用されている場合に、貸倒引当金の妥当性を判断するうえでの留意事項を取りまとめたもの。

⑦ 「資本性適格貸出金に対する貸倒見積高の算定及び銀行等金融機関が保有する貸出債権を資本性適格貸出金に転換した場合の会計処理に関する監査上の取扱い」
債務者の経営改善の一環として貸出金を資本的劣後ローンに転換した際に、当該債務者に対する貸倒引当金計上に係る会計処理の監査上の取扱いを取りまとめたもの。

⑧ 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」
「2.銀行等金融機関の自己査定及び償却・引当について」において、監査人が償却・引当に関する監査手続を実施するにあたって、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮する際の留意事項が示されている。」(第1編償却・引当制度と自己査定、23頁)

「コロナ禍における引当の対応 リーマンショック以降、貸倒実績率が低水準にあり、「金融検査マニュアル」の廃止および「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」の公表以降も、地域金融機関における引当方法の見直しが継続的に検討されている。

見直しの例としては、算定期間の変更(算定期間数の拡大や1算定期問の延長など、総算定期間を長期化し、より多くの過去の毀損の実績を収り込むことにより、算定期間中の貸倒実績率の低下を抑制する方法、フォワードルッキング手法(過去の実績のみにとらわれず、定量情報として複数の経済指標の中から損失率と相関関係の強い指標を選択したうえで、経済指標の予測値を予想損失率に反映する方法)、およびクループ引当(リスク特性に応じて債務者をグループ化したうえで、当該クループに固有の引当率を設定する方法)が挙げられる。

コロナ禍における引当の対応の1つとして、例えばグループ引当が考えられる。コロナ禍の影響を強く受けている業種の債務者を特定したうえで当該債務者をグループ化し、同じ債務者区分の他のグループよりも高い、当該グループに特有の引当率を適用することが考えられる。

ただし、これまでの引当方法との一貫性や引当の適切性、合理性の説明が求められるため、慎重な対応が必要となる(参考:日本銀行金融機構局「地域金融機関における貸倒引当金算定方法の検討事例」(2020年11月5日))。(第1編償却・引当制度と自己査定、38頁)

「資本性借入金とは、貸出条件が資本に準じた十分な資本的性質が認められる借入金のことであり、債務者区分の判断等において資本とみなして取り扱うことができる借入金のことをいう。資本性借入金は、このような性質を有するため、当該資本性惜入金を利用することにより、債務超過を解消する効果が得られることも考えられる。」(第3章償却・引当の実務 270頁)

「系統金融機関に対する検査においては、中小・零細企業等に加えて、農林漁業者も含めた債務者区分の運用例を示すことが重要との視点から、2002年8月に系統金融機関の債務者の経営実態の把握の向上に資するため、「系統金融検査マニュアル」の農林漁業者、中小・零細企業等の債務者区分の判断に係る検証ポイントおよび検証ポイントに係る運用例(以下、「検証ポイント等」という)からなる「系統金融検査マニュアル別冊」を作成し、公表されている。」(第4編「系統金融検査マニュアル別冊」の「検証ポイントに関する運用例」292頁)

「「系統金融検査マニュアル別冊」において、検証ポイントの記載に合わせて「検証ポイントに関する運用例」が示されている。この運用例は全35の事例が示されているが、事例1から27までは「金融検査マニュアル別冊」の事例と同様であり、事例32~35は漁業者の事例であるため、ここでは、農業者の事例である事例28~31について解説を付す。」(第4編「系統金融検査マニュアル別冊」の「検証ポイントに関する運用例」293~294頁)

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