細谷功著『具体と抽象-世界が変わって見える知性のしくみ』201412月7日、株式会社dZERO、133頁1,980円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その85

細谷功著『具体と抽象-世界が変わって見える知性のしくみ』201412月7日、株式会社dZERO、133頁1,980円
認知心理学について面白そうな本を探していたら、タイトルに惹かれてこの本を読んでみました。具体と抽象という、一見難解な言葉ですが、難しいことを易しく解説してありました。新規事業を検討中の方にお勧めします。
著者の略歴は、次の通り。
「ビジネスコンサルタント、著述家。1964年、神奈川県に生まれる。東京大学工学部を卒業後、東芝を経てビジネスコンサルティングの世界へ。米仏日系コンザルティング会社を経て、2009年よりクニエのマネージディングディレクターとなる。2012年より同社コンサルティングフェローに。ビジネスコンサルティングのみならず、問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の企業や各種団体、大学などに対して実施している.
著書に、『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『いま.すぐはじめる地頭力』(だいわ文庫)、『「Why型思考」が仕事を変える』(PHPビジネス新書)、『アナロジー思考』(東洋経済新報社).「会社の老朽化は止められない」(亜紀書房)、『なぜ.あの人と話がかみ合わないのか』(PHP文庫)、訳書に『プロフェッショナル・アドバイザー』(デービッド・マイスターほか著.東洋経済新報社)、『ハスラー』(アリ・カプラン著、亜紀書房)などがある」(著者略歴より)
「具体の世界だけで生きていると、一つ一つの事象に振り回されます。「あの人がこう言ったから」とか、「お客様からこんなクレームがあった」とか、個別事象に一つ一つ対応するしかなく、それではきりがありません。「哲学」があれば、それらの事象をすべて抽象度の高い判断基準に合わせて処理するので、(抽象度の高い)「ぶれ」が少なくなります。
別の表現をすると、やること(to do)は具体的で目に見えやすいので考えるのが比較的容易ですが、あるべき姿(to be)は、将来のある時点での状態を表すので、これを考えるには「想像と創造」のための抽象化能力が必要になります。山登りでいえば、to beは「山頂に登ってポーズを耿っている写真」であり、to doは、道具を整えて、どういうスケジュールでだれと一緒にどの道を登っていくか、という具体的なアクションを表します。
大きな目標があってはじめて個別のアクションが有機的につながり、「個別の無機質な行動」が意義とつながりをもっだ生きた行動になっていきます。」(第13章 ベクトル、84頁)
「先進企業や競合他社のアイデアをまねする行為は、具体レベルで見た目のデザインや機能をまねすることであり、これは単なる「パクリ」となります。見た目が似ているものを「盗む」と、だれにでも気づかれ、かつ斬新なアイデアとはなりません。また場合によっては特許侵害となり、法律上も問題になります。
アナロジーとは、「抽象レベルのまね」です。具体レベルのまねは単なるパクリでも、抽象レベルでまねすれば「斬新なアイデア」となります。ここで重要になるのが、第5章で述べた「関係性」や「構造」の共通性に着目することです。
科学や技術的な発見、あるいはビジネスのアイデアなども多くは抽象レベルでのまね(アナロジー)から生まれています。たとえば活版印刷機はブドウ圧搾機から、回転寿司はビールのベルトコンベアから、あるいは生物からヒントを得た工業製品も数多くあります。
特許で守れるのは、抽象度が低い、直接的に類似性のあるもののみです。逆に抽象度が高いもの(関係性や構造)であれば、合法的に「盗み放題」です。大抵の人はそれが「盗み」であることにすら気づきません(前ページ図)。
身の回りの「一見遠い世界のもの」をいかに抽象レベルで結びつけられるかが、創造的な発想力の根本といえます。」(第14章 アナロジー、88~89頁)
「抽象レベルを上げれば、「同じである」ととらえられる範囲が広がります(視野が広がるということです)。経験や情報の量が同じであっても、具体レベルでものを見ている人に比べ、格段に豊富なアイデアを生み出すことができるでしょう。」(第20章 共通と相違、125~126頁)