筒井直人著『農業協同組合内部監査士検定試験参考テキスト IT・システム統制』2023年4月17日、一般社団法人全国農業協同組合中央会、100頁2,000円

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その87

筒井直人著『農業協同組合内部監査士検定試験参考テキスト IT・システム統制』2023年4月17日、一般社団法人全国農業協同組合中央会、100頁2,000円
全中が実施している農業協同組合内部監査士検定試験の試験科目のうち、前年度までチンパンジーが執筆していた『JAの経営管理』がなくなり、新たに『IT・システム統制』に変更になりました。ITと経営全般に関する総合的知識を身につけるなら、既に国家資格となっている「ITパスポート」があるなかでの変更です。
どんな内容かと思い、早速一読してみました。読みやすく2時間程度で読み終わることができましたが、内容的には少し物足りなさを感じました。それだけに、これから受験する方はこの科目の満点を目指すことも可能かなと思いました。
以下に、少し抜粋しておきます。
「コンビニエンスストアの店舗などにおける決済の仕組みとして普及したPOS(Point of Sales)システムは、商品購入代金の決済業務を効率化しましたが、同時に、いつ、どの商品が、いくつ、いくらで購入されたかをその場で電子データとして記録し、蓄積する仕組みにもなりました。これらの仕組みの構築やその普及にはコストがかかりますが、一度この仕組みが定着してしまえばデータは収集・蓄積され続けることになるのです。
このようなビッグデータに共通する3つの特徴がVから始まる英単語で表されることから、以下のように「3V(3つのV)」と呼ばれています。
1.多量性(Volume)… データ量が膨大になる
2.リアルタイム性(Velocity)・‥時々刻々、リアルタイムにデータが蓄積される
3.多種(Variety)…構造化データの他、非構造化データも対象になる
構造化データとは表形式のデータのことですが、そのような定まった形式ではないデータ、すなわち画像、音声、動画等の非構造化データもビッグデータとして収集・蓄積されるのです。」(第4章 データ利活用の要諦、46頁)
「 BA(Business Intelligence)の活用事例として、NTTドコモとサイゼリヤが実施した「飲食店向けリアルタイム売上予測の実証実験」を紹介します。
サイゼリヤでは、過去の実績や店長の判断による来店客数予測を基に従業員のシフトを決めていました。実態は店長の経験に頼ったものになっていたため、各店舗の来店予測には精度のバラつきがあり来店予測の標準化と精度向上が課題となっていました。
NTTドコモは東京都内では500m区切り、10分ごとに性別・年代別の人口を推定できる携帯電話のネットワークを利用した人口統計データ(近未来人数予測)の活用方法を検討していました。サイゼリヤは、NTTからこのデータの提供を受け、自社で保有する店舗ごとの売上実績データ、公開されている気象データ、地域情報であるイベントデータ等を組み合わせ活用することで、数時間後、翌日および数週間後の店舗ごとの売上金額を、1時間ごとに予測することが可能になったのです。このことにより突然の来店者数増加に伴う従業員の負担が軽減され、サービス品質の向上が可能になりました。」(第4章 データ利活用の要諦、55頁)
「 ヶ日町農業協同組合(JAみっかび)は、農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト・中山間地におけるみかん経営の収益向上及び省力スマート生産技術体系の実証」の一環として、AI選果を導入しました。
みかんの場合、収穫したみかんに対して出荷前に生産者自らが行う選果(家庭選果)と、出荷後に共同選果場で行われる選果があります。家庭選果においては、廃棄対象となる生キズあるいは腐敗のある果実、加工原料となる外観格外の果実および二等品を取り除いて一等品を選別する1回目の選果と、その後二等品のみを再度選果する2回目の選果を行っていたため、生産者にとって大きな労働負担となっていました。
AI選果は、共同選果場での選果作業を3種類のセンサーで測定したデータを元にAIを活用して高速に実施する仕組みです。 AI選果の導入にあたり、生キズ、浮き皮、病害虫のチャノキイロアザミウマ、黒点病などのみかんのサンプルを3年間かけて数万件収集し、 「教師あり学習」という機械学習の手法を用いてAIに学習させました。 AIによる選果精度は高く、目視での最終チェックを行うだけで良いレベルになったため、AI選果導入前には前述の通り2回の家庭選果が必要であったのに対して、AI選果導入後には一等品と二等品とを区分けせずに加工原料等を選別する選果作業の1回で済むようになりました。
AI選果は2021年(令和3年)産果実の選果から稼働を始め、1条あたり1秒間に最大8個(28条で1秒あたり200個以上)を処理することが可能になりました。青島温州みかんの家庭選果において、AI選果導入前の選果時間は、一等品の選果時間および二等品の選果時間がそれぞれ107分、28分の合計135分程度であったのに対し、AI選果導入後の選果時間は69分程度であり、AI選果導入前に比べて約49%削減できました。このようにAI選果の導入により作業が省力化される他、下記のような効果を生んでいます。
・家庭選果の回数が2回から1回に減少したことで、実際に選果に従事している時間 だけでなく、その前後の作業時間も併せて削減された
・家庭選果の選果基準が3つから2つに減少したことで、加工原料となる規格外品を取り除くだけとなったため、選果作業が単純化した
・家庭選果で一等品と二等品とを分けないため、在庫管理が楽になった
・一等品と二等品の同時集荷となったため、選果場へ持ち込む回数も減少した。また、痛みやすい二等品を長く貯蔵庫に置いておく必要がなくなり、腐敗による廃棄ロスの低減が期待できる
・家庭選果や出荷に割いていた時間を、次年度に向けた管理作業等に使うことができるようになった」(第4章 データ利活用の要諦、58頁)