農業消滅-農政の失敗がまねく国家存亡の危機-

「チンパンジーの笑顔」雑読雑感 その32

チンパンジー

鈴木宣弘著『農業消滅-農政の失敗がまねく国家存亡の危機-』2021年7月、平凡社新書979、 968円

鈴木先生は、新世紀JA研究会のホームページにも「キリンのささやき」で多くの投稿を頂戴している。協同組合JAに寄せる期待も高い。次のようなメッセージに触れると、元気が出てきませんか。

「協同組合は、生産者にも消費者にも貢献し、流通・小売には適正なマージンを確保し、社会全体がバランスの取れた形で持続できるようにする役割を果たしている。そして、命、資源、環境、安全性、コミュニティなどを守るもっとも有効なシステムとして社会に不可欠であることを、国民にしっかり理解してもらうために、実際にその役割を全うすべく、遭進すべき~(中略)~市場原理主義による、小農・家族農家を基礎にした地域社会と資源・環境の破壊を食い止めなければならない。地域の食と暮らしを守る「最後の砦」は共助組織、市民組織、協同組合なのである。」(終章 日本の未来は守れるか、P200~201)

なお、巻末に掲載してある(付録)建前→本音の政治・行政用語の変換表は、ブラックユーモアとしても現在の状況の本質を言い当てているようで苦笑いが出る。

発鈴木宣弘(すずきのぶひろ)先生の略歴は、次の通り。
「1958年三重県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科教授。専門は農業経済学。82年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て2006年より現職。FTA産官学共同研究会委員、食料・農業・農村政策審議会委員、財務省関税・外国為替等審議会委員、経済産業省産業構造審議会委員,コーネル大学客員教授などを歴任。おもな著書に『食の戦争』(文春新書)、『悪夢の食卓』(KADOKAWA)、『農業経済学第5版』(共著、岩波書店)などがある。」(奥付より)

いつものように、チンパンジーが付箋を貼った箇所を次に抜粋しておきます。

「現状では、80%の国産率の野菜も、実は90%という種の海外依存度を考慮すると、自給率は現状でも8%で、2035年には4%と、信じがたい低水準に陥る可能性があるのだ。
「種は命の源」のはずが、政府によって「種は企業の儲けの源」として捉えられ、種の海外依存度の上昇につながる一連の制度変更(種子法廃止→農業競争力強化支援法→種苗法改定→農産物検査法改定)がおこなわれてきたので、野菜で生じた種の海外依存度の高まりが、 コメや果樹にも波及してしまう可能性がある。」(序章 飢餓は他人事ではない、P14)

「諸外国においても、アメリカでは特許法で特許が取られている品種を除き、アメリカ版の種苗法では、自家増殖は禁止されていない。EUでは、飼料作物、穀類、馬鈴薯(じゃがいも)、油糧作物(油脂原料の大豆、菜種など)及び綿花などの繊維作物は、自家増殖禁止の例外に指定されている。さらに小規模農家は種を使用するときの許諾料が免除される。
オーストラリアは「知的所有権と公的利益のバランス」を掲げていて、原則は自家増殖をすることが可能で、育成者が契約で自家増殖を制限できるという(印鑰(インヤク)智哉氏、久保田裕子氏)。」(第2章 種を制するものは世界を制す、P47)

「グリホサートは細胞壁、細胞膜をくぐり抜ける力を持たないので、純粋なグリホサートをかけても植物は枯れない。細胞のなかに入れないからである(そのため、ラットに与えてもさほどの健康被害は生まれない)。それでは農薬として使えないから、実際に売られている「ラウンドアップ」(除草剤の商品名)などには、細胞のなかに入っていけるように界面活性剤などの添加剤が加えられている。添加剤入りのグリホサートは、植物の細胞に入り、植物がアミノ酸をつくれなくなって枯れてしまう。「ラウンドアップ」を農薬の安全性審査と同様に薄めて、ラットに与えると、ラットは90日が過ぎたあたりから、腫瘍ができ始めて、寿命を全うできなくなってしまう。
つまり、売られている状態で検査すれば間違いなく有害であるのに、農薬の承認プロセスではグリホサート単体で調べるので安全とされてしまうのである(印鑰智哉氏)」(第2章 種を制するものは世界を制す、P52~53)

「「国家戦略特区」という名目は、実質的には「国家私物化特区」で、H県Y市の農地を買収したのも、民有林・国有林を盗伐(植林義務なし)してバイオマス発電をしたり、山を崩して風力発電するのも、漁業法改悪で洋上風力発電に参入するのも、S県H市の水道事業を「食い逃げ」(業務委託され、設備を酷使して儲けだけ得て設備は返す)するのも、すべて時の権力者のオトモダチ企業である。
ここに関わる数人の有能な経営者が、農・林・水(水道も含む)すべてを「制覇」しつつあると言っても過言ではない。
「攻めの農業」、企業参入が活路というが、既存事業者=「非効率」としてオトモダチ企業に明け渡す手口は、農、林、漁ともにパターン化している。
極めて少数の「有能」で巨万の富も得ている人たちが、さらに露骨に私腹を肥やすために、政府の会議を利用して、地域を苦しめているのが現状と言えるだろう。」(第3章 自由化と買い叩きにあう日本の農業、P82~83)

「アメリカの穀物農家は、日本に送る小麦には、発がん性に加え、腸内細菌を殺してしまうことで、さまざまな疾患を誘発する懸念が指摘されているグリホサートを、雑草ではなく麦に直接散布している。収穫時に雨に降られると小麦が発芽してしまうので、先に除草剤で枯らせて収穫するのだ。枯らして収穫し、輸送するときには、日本では収穫後の散布が禁止されている農薬イマザリルなどの防カビ剤を噴霧する。「これはジャップが食べる分だからいいのだ」とアメリカの穀物農家が言っていた、との証言が、ァメリカへ研修に行った日本の農家の複数の方から得られている。」(第4章 危ない食料は日木向け、P102)

「日本の農家の所得のうち、補助金の占める割合は30%程度なのに対して、英仏では農業所得に占める補助金の割合は90%以上、スイスではほぼ100%と、日本は先進国でもっとも低いのだ。では、「所得のほとんどが税金でまかなわれているのが、産業といえるか」と思われるかもしれないが、命を守り、環境を守り、国土・国境を守っている産業を国民みんなで支えるのは、欧米では当たり前なのである。それが当たり前でないのが日本である。」(第5章 安全保障の要としての国家戦略の欠如、P151)

「繰り返すが、日本の農業は、世界でもっとも過保護であると日本国民に長らく広く刷り込まれてきた。だが、実態はまったくの逆であった。世界でもっともセーフティネットが欠如しているのが日本であることを述べてきた。欧州の主要国では、農業所得の90%以上が政府からの補助金で、アメリカでは農業生産額に占める農業予算の割合が75パーセントを超える。日本は両指標とも30%台で、先進国で最低水準にある。しかも、欧米諸国は所得の岩盤政策を強化しているのに、我が国はそれをいっそう手薄にしようとしている。
少なくとも、①収入保険の基準収入を固定する、②戸別所得補償制度の復活、③家族労働費を含む生産費をカバーできる、米価水準と市場価格との差額の全額を補填するようなアメリカ型の不足払いの仕組み(石破元農水大臣が提案)を導入し、農家が安心して、見通しをもって経営計画が立てられるようにすることが不可欠になっている。
欧米では、命と環境と地域と国境を守る産業を、国民全体で支えるのが当たり前なのである。農業政策は農家保護政策ではない。国民の安全保障政策なのだという認識をいまこそ確立し、「戸別所得補償」型の政策を、例えば「食料安保確立助成」のように、国民にわかりやすい名称で再構築すべきだろう。」(第5章 安全保障の要としての国家戦略の欠如、P158~159)

「つまり重要なのは、農地や山や海はコモソズ(共用資源)であり、「コモンズの悲劇」(個々が目先の自己利益の最大化を目指して行動すると、資源が枯渇して共倒れする)が示すとおり、コモンズは自発的な共同管理で「悲劇」を回避してきたということだ。だから、農林水産業において協同組合による共同管理を否定するのは根本的な間違いなのである。
「私」の暴走にとって障害となる「共」を弱体化しようとする動きに負けず、共助組織の役割をもっと強化しなくてはならない。

協同組合は、生産者にも消費者にも貢献し、流通・小売には適正なマージンを確保し、社会全体がバランスの取れた形で持続できるようにする役割を果たしている。そして、命、資源、環境、安全性、コミュニティなどを守るもっとも有効なシステムとして社会に不可欠であることを、国民にしっかり理解してもらうために、実際にその役割を全うすべく、遭進すべきである。
市場原理主義による、小農・家族農家を基礎にした地域社会と資源・環境の破壊を食い止めなければならない。地域の食と暮らしを守る「最後の砦」は共助組織、市民組織、協同組合なのである。」(終章 日本の未来は守れるか、P200~201)

「政治は、「人事とカネ」 を駆使して反対の声を抑え込み、オトモダチ企業の利益と自己の保身に奔走する。しかし、「人事とカネ」で人を抑え込めても、人の心を掴むことはできない。その限界は政権の長期化とともに白日の下に晒された。国民にも、論理的な思考力あるリーダーへの渇望が湧き上がっているのではないか。
種を握ったグローバル種子・農薬企業が、種と農薬をセットで買わせ、できた農産物を全量買い取り、販売ルートは確保するという形で、農家を囲い込もうとしている。(終章 日本の未来は守れるか、P213)

「●農業協同組合の独占禁止法「適用除外」は不当
共同販売・共同購入を崩せば、農産物をもっと安く買い、資材を高く販売できる。「適用除外」がすぐに解除できないなら、独禁法の厳格適用で脅して実質的になし崩しにする(山形、福井、高知知などで実施)。

●農協は信用・共済事業をやめて本来業務の農業振興の「職能組合」に純化すべき
農協から信用・共済ビジネスを奪うための理屈づけ。こうすれば、農協は倒産するから、農産物も買い叩けるし、資材も高く売れる。農家が廃業したら、儲けられる好条件地に参入できる。

●准組合員規制
農協解体を遂行するための脅しの切り札。これをちらつかせて、すべてを呑ませていく。

●農業所得倍増
貿易自由化と規制改革で既存の農家が大量に廃業したら、全国の1%でも平場の条件の良い農地だけ、大手流通企業などが参入して儲けられる条件を整備する。一部企業の利益が倍増すればよい。儲からなければ転用すればよい。」(付録)建前→本音の政治・行政用語の変換表、P236)

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